ゴマキ新曲ジャケットに履いてるのはルーズ?

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494鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk

【T・E・N】 第51話 加護

 そこにいるメンバー全員が居間のテーブルをグルっと取り囲んで、加護が読
みやすいようにと真ん中に置かれた「赤い日記帳」に注目する。
 パッと見、ちょっと小さめの百科事典という印象。

「これ、よくスタジオに置いてあったコミュニケーションノートかなぁ?」

 高橋が加護に向かって問いかける。

「たぶん・・・ウチらの知っているのより、チョット豪華だけどね」

 コミュニケーションノートといえば、そこに書かれてある文は唯一この屋敷
で本格的なレコーディングをおこなった、後藤のものである確率が高い。高橋
や紺野もこの屋敷に来た際に、わずかな間ではあるが後藤のレコーディングに
は立ち会った。が、このノートの存在は知らなかったと言う。
 その後藤がこの屋敷に初めて来て、どんな体験をしたのか。
 どんな想いで解散後の芸能活動に期待と不安を織り交ぜながらも、立ち向かっ
ていったのか・・・?

 いまとなって知るすべはない。
 ただ思いがけず飛び込んできた、この屋敷での後藤の存在感に―――果たし
て「飛び込んできた存在感」という言葉の遣い方がふさわしいかどうかは別と
して―――それぞれが後藤への想いを蘇らせる。
 高橋・紺野にとっては憧れの先輩。
 加護にとっては先輩というより、師匠。なんでも相談できる学校の先生のよ
うな存在。
 石川は優等生に憧れる同級生、といった感覚。
 飯田は・・・立場上、複雑だ。
495鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/02 21:31 ID:hyIXGMg3

 加護が車椅子からやや身を乗り出して、ハードカバーの表紙をめくると手書
きのアルファベットが、ぶっきらぼうに書かれてある。

「MT STUDIO COMUNICATION NOTE」

 それを見て、紺野が一言。

「コミュニケーションのスペルが違いますね」

「コミニュケーション?」

「コ・ミュ、です。
 あと“COMMUNICATION”は名詞なので、正しくはコミュ・・・」

「いや・・・そうじゃなくて・・・てか、それはいいから・・・」

 高橋が早くノートの中身を、と加護を促すその時だった。

 2階東棟からなにか「ぅぎゃあ」と金切声が聞こえてきたのだ。
 静寂の中での耳鳴りのようにも似たその甲高い声に、そこにいるメンバー全
員がぴたっと硬直する。

「・・・? 今誰か叫ばなかった?」

「矢口さん?・・・」

 石川と紺野がお互いの顔を見つめ、そして2階の廊下の奧へと視線を移動さ
せる。
 早くコミュニケーションノートの中身を知りたいという好奇心と、一体何が
起こったんだろう?という疑問が複雑に絡み合う。
 普段から仏頂面の飯田の眉間にシワが寄って、さらにオコゼのような顔にな
り不機嫌なオーラを放っている。
496鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/02 21:32 ID:hyIXGMg3

「あのおー!」

 ソファに座りノートを読むのを心待ちにしていた高橋が、突然立ちあがって
上の階に向かって大声をはりあげる。

「なにかあったんですかあー!」

 やや間があって、何かバタバタした足音が聞こえてきたあとに淡いクリーム
色のワンピースに身を包んだ(相変わらずどこか素朴なファッション)安倍が
あらわれた。
 東棟の奧から飛び出してきて、2階の渡り廊下の手すりに身を預け乗り出す。
 語気を荒げて、それでいて冷静な表情で右手と頭をぶるぶる振って、否定の
ジェスチャーと共に言う。

「ううん、な、何でもないからっ」

「ゴキブリでもいたんですか〜?」

 石川が首を傾げながら、キョトンとした表情で安倍に返す。

「うん、矢口がゴキブリにビビって叫んだんだよ。驚かせてゴメンね」

 鈍感なメンバー・敏感なメンバーとも誰もが、安倍のセリフは後付けの理由
ということを察した。だがそれが嘘だったとしても、他に矢口が叫び声を上げ
るような理由がほかにあるだろうか? 命にかかわるような? 安倍が大丈夫
だと言っている。だったら、この場はそれでもいいような気が加護はした。
 苦笑いのまま安倍は廊下の奧へと向かいかけて、また足を止める。

「ほ、本当に何でもないからっ」

 振り返って、安倍はもう一度念を押す。
 そしてそのまま小走りに、矢口の部屋の方へと去っていった。
497鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/02 21:33 ID:hyIXGMg3

「ふ・・・ン・・・」

 居間にいるメンバーが何か釈然としない、それでも目の前のノートが気にな
るため精一杯納得しようとしているような様子だった。

「ここゴキブリいるんですか・・・?」

 紺野がポケっとした表情で石川に尋ねる。

「うん、厨房・・・台所にね、何回が見たことある」

 高橋が、そんなことはいいからっ、と相変わらずこの雰囲気の流れにイマイ
チ乗り切れてない紺野をキッと睨み付ける。
 加護も今は紺野を無視する方向で、ページをめくる。
 水を差された形になったが、ゴクリ、とメンバー全員が輪になって頭を合わ
せて唾を飲み込む。そして改めてノートに集中する。

「7月8日」

 最初の1ページ目の日付。「あの事件の1ヶ月前だ・・・」と誰かが言った。


(本文)

「7月8日」

  後藤真希ですっ!
  ノート一番乗り〜☆
  わははははは
  ピ〜ス♪

  明日から新曲のレコ始まりま〜す。
  ここに来る途中の車の中でずっとMDで新曲聞いていました!!
  今回の『思い出になってしまった』は、なんかスゲーいいっす!
  もしかして私の今までの曲でイチバンかも!?
  やっぱり、つんくさんは天才だなぁ〜

  あとこの屋しきスゴすぎ! もう、お城って感じ!
  なんか今日はコーフンして眠れそうにないかも。。。
498鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/02 21:34 ID:hyIXGMg3

「7月9日」

  きのうに引き続き、ごとうです。
  うい〜。ヘバりました。
  ムズいっす、この曲。
  モーニングの解散ツアーの疲れもたまっているしね〜
  今はお昼ゴハンを、ひ・た・す・ら・待ってます。

  あと午後からなんと、新メンバー【という文字が塗りつぶして消してある】
  高橋、紺野、小川、新垣が写真集の●サツエイで来るそうです!
  やった!
  おすまし顔でポーズとっていたら、笑わしたろっかな(私ってワルモノ?)
  なんだかウレシイ。泊まっていくのかなぁ。

  とにかく今は『思い出になってしまった』です。
  がんばろう。



「7月10日」

  レコーディングがもうちょっとで終わりそうです。
  きのうは特別ゲストのたかはしとかにコーラスを入れてもらったけど
  使われるかどうか分からないって(つんくさん談)

  辻ちゃん(突然きのう泊まりにキタっ)や小川ちゃんにも
  今日、声入れてもらったけどあんまり元気なさげでした。
  実はワタシもちょっと、きのうの夜あんなことがあったのでブルーです。

  でも最後だし、がんばるぞ、と。
  うん。忘れなきゃ。
  今は歌! うた! ウタ!

  そうだ。もう解散まで1ヶ月切ったんだねー。
  いろいろあったけど、モーニング楽しかったよ。
  このあと、あいぼんやなっちもこのスタジオでソロやるんだって!

  がんばれ〜!!!!!(えらそう?)
  ミンナ愛しているゾ〜〜〜!!!
                    ごとうまき 7・10

  おなかがすきました
      by つじのぞみ


(本文おわり)
499鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/08/02 21:35 ID:hyIXGMg3

 最後の一文をみて加護が口元を弛ませたが、またすぐにシリアスな顔に戻る
のを紺野は見逃さなかった。
 そこで書き込まれたページは終わり、あとは真っ白なページをパラパラマン
ガの要領で加護はめくった。当然の如くそこには白い平面が続くだけだったが。

  とりあえず、どこから話そうか。

 誰が最初に口火を切るのか、お互いがチラチラ上目遣いで他のメンバーを牽
制する。
 特に高橋・紺野、そして石川(たぶん吉澤もそうだろう)にとって気になる
のは3ページ目に書いてある、きのう(2日目)の夜に起こった「あんなこと」
である。
 

【51-加護】END
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