ゴマキ新曲ジャケットに履いてるのはルーズ?

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463鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk

【T・E・N】 第49話 加護と吉澤

 吉澤が居間への扉を開けると、まずその大きな瞳に映ったのは暗く沈み込ん
だまま立ち尽くす紺野の姿だった。唇を内側にめり込ませ厳しい表情を浮かべ
ている。
 その紺野に、声をかけるかかけまいか迷っている様子の加護。
 飯田はソファに座って、ギョロっとした目でずっと2階の東棟の廊下の奧を
見つめている。
 夕食の準備にとりかかっているはずの石川と高橋も、なぜかそこにいた。階
段の手すりによしかかってうつむいているメイド服の少女。柱のに背中を寄せ
てしゃがみ込んでいるTシャツ・ジーンズにエプロンをした少女。
 その場にいる皆が神妙な顔つきのまま、一斉に吉澤に視線を集中させる。

「ど・・・どーしたのミンナ?」

「あ・・・え・・・あの・・・」

「安倍さんと、矢口さんが来たんです」

 どもっている高橋の言葉をさえぎり、石川がさきほどまでの状況を説明した。
 特に感激するまでもなく、挨拶もほどほどに自分たちの部屋へ引っ込んでいっ
てしまった二人のことを。
464鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/27 07:12 ID:QpwxwuSW

 何かが、イビツに歪んだ。
 現役アイドルだった頃、あれほど明るかったふたり。ここにいるメンバーと
は違い、幸いにもあの事件で大きな怪我を負うこともなく芸能人を続けた。当
然5年前のあの頃のような、太陽の輝きを今も保ち続けているはず、と皆が思
いこんでいた。
 その二人がこのつんく邸に足を踏み入れた瞬間、メンバー全員で美しいハー
モニーを奏でていたはずのオーケストラの音色が微妙に狂いだしたかのような、
そんな気がした。
 加護がその時の様子を、感じたままに表現する。

「なんかね、ヘンだったの」

「ヘンって、矢口さんが? 安倍さん?」

「どっちも・・・」

「らしくなかったよね」

 石川も相槌を打つ。なんで呼んでくれなかったんだよ、と釈然としない様子
の吉澤に、地下室のスタジオは防音設備のためインターホンの音が聞こえない
んだよ、ということもつけ加えた。

「それに・・・あまりにもアッサリ部屋にいっちゃったから・・・」

「ふー・・・ん〜、でもアイサツはしなくちゃ」

 その現場を見ていない吉澤は、まだ皆の解説や感想を聞いても、暗くよそよ
そしい安倍と矢口が想像できないでいた。スタスタと2階への階段に向けて歩
き始める。
465鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/27 07:13 ID:QpwxwuSW

「あ、それから」

 吉澤が小脇に抱えていた、辞書のような分厚くて赤い冊子を加護に差し出す。

「これは?」

「スタジオにあったの、読んでみなよ」

「???」

 渡されたその冊子を手に取ると、ずっしりとした重量感が伝わってくる。洋
館という場所にどちらかというとミスマッチな音楽スタジオ。そこにあったと
いう、洋館にはお似合いの赤い革張りの豪華な装丁の本。
 なおも眉を「ハ」の字にしている加護に、階段を小走りに駆け上がっていた
吉澤が一瞬足を止めて、居間にいるメンバーを見おろして言う。

「ごっちんの、赤い日記帳・・・?ってヤツかな」

 そして再び歩き始めた。
466鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/07/27 07:14 ID:QpwxwuSW

 矢口と安倍の部屋は2階東棟にある。
 廊下の奧に向かって右側が矢口の部屋203号室「Alive」。左の部屋
が202号室「Endless Summer Night」。安倍がいるは
ずだ。ちなみに、そのまま奧に進むと飯田の部屋である201号室「Hold
on me」になる。
 安倍と矢口、どちらを先に挨拶しようか一瞬迷ったが―――吉澤は右に身体
を向けて「Alive」の部屋のドアをノックした。

 その瞬間、扉の向こうから「うぎゃあ」という懐かしいあの叫び声が聞こえ
てきた。

 これがもし、かつてのバラエティ番組の収録中だったら―――吉澤は思わず
心の中で「ナイスリアクション、矢口さん」と拍手を贈っていたかもしれない。


【49-加護と吉澤】END
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