ゴマキ新曲ジャケットに履いてるのはルーズ?

このエントリーをはてなブックマークに追加
278鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk

【T・E・N】 第35話 高橋と保田

 武道館の事件から2年の月日が流れたある日のことだった。
 生放送の歌番組の収録から帰ってきた高橋は、自室のパソコンにまず電源を
入れる。
 起動させているあいだの虚無の時空に漂っている―――時間にしてみれば2
分から3分程だが―――そのとき、高橋は娘。が解散後の自分の軌跡をたどっ
てみたりする。
「転落」
 たった二文字で表現できてしまう。
 日に日に芸能界で自分の居場所が失われていくのが分かる。
 事務所はバラエティやグラビアの仕事を増やしたいらしいが、あくまでも活
動の中心を歌に据えた高橋。しかし、新曲の売り上げはその情熱に反し発売毎
に下降線の一途をたどるのだった。

(やっぱり私には華がないのかな・・・)

 メールチェックのボタンを押して次々現れてくる名前の中で、意外な人物の
名前を見つけて高橋はマンションの一室でひとり声を張りあげた。

「Kei Yasuda」

 恐る恐るその名前をクリックした。

279鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/25 07:46 ID:ywaiG0sg

 あいちゃんへ

  ひさしぶり!
  テレビで、川 ’ー’川の歌っているところ見みたよ!
  ずいぶん声もでるようになったな〜って思うヨ
  ヒットまちがいナシって感じ?
  でも、こないだの「うたばん」みてビックリしたよ
  だってまだ訛り抜けてないんだもん(^_^;)

  ああ、そうそう私のことに関しては心配かけてごめんね
  一部雑誌でのったように、私はあの日全身に大ヤケドを負いました
  一生、顔の傷が消えないと言われたときは、
  本当に死ぬことも何度も考えました
  その後、アメリカの美容整形のお医者さんを紹介してもらって
  1年間半、渡米して治療に専念しています
  おかげでかなり直ったものの、まだ少し目立つ部分もあります
  (髪型である程度ごまかせるようになったけど)

  ほとぼりが冷めたらメンバーのみんなにも逢いたいな、と思っています
  でも今のところは絶対ナイショだよ
  文字通り「会わす顔が無いから」
  じゃあ歌のほう、ガンバってね!
  私は川 ’ー’川の歌っているところが大好きです

                 やすだ( `.∀´)けい with LOVE

280鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/25 07:48 ID:ywaiG0sg

 高橋のマウスを握りしめたこぶしの上に、大粒の涙がいくつも落ちてくる。

(最後に保田さんにかけてもらった言葉がなかったら、私は今でも歌手活動を
 続けていなかったんだよ・・・)

 保田と高橋が親密になった頃には、すでにモーニング娘。の解散が決定して
いた。


 その頃、メンバー全員に芸能界に残るかそれともそのまま引退するのかの二
者択一が迫られていた。
 高橋は悩んでいた。
 鳴り物入りでモーニング娘。5期メンバーとして加入した高橋だったが、歌
に対する自信は喪失する一方だった。
 同期では歌唱力ナンバー1の評価を受けてたし、高橋にもその自負はあった。
 しかし、同期との差は縮まる一方、そして先輩との差は広がる一方。
 自分がセンター・メインパートを務めた曲は、練習のしすぎで喉をつぶして
しまい、その結果、歌番組では満足に歌えず、発売されたシングルCDはモー
ニング娘。史上最低の売り上げとなった。それがますます高橋のプライドを傷
つける結果となる。

  なんのために私はモーニング娘。に加入したのだろう。

 その自信喪失に追い打ちをかけるように、グループの解散が決定。胸が張り
裂けそうになった。

281鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/25 07:49 ID:ywaiG0sg

 メンバーには通達されたが、世間にはまだ解散が公表されていない段階で、
テレビのバラエティ音楽番組の収録があった。
 話の流れで、お笑い芸人が高橋にちょっと冗談混じりに強めのツッコミをす
る。

「お前おる意味ないやんか!」

 どっと巻き起こる笑い。だが、次の瞬間、スタッフも観衆もその笑いが凍り
付いた。
 高橋は笑顔を保ったまま、頬に滝のような涙を流していたからだ。


 収録後、控え室でマネージャーにこってりしぼられた。
 マネージャー自身も叱り疲れたのか、ジュースを買ってくる、と言い残して
席を外した。
 部屋に高橋一人取り残される。
 静寂が自分をますます情けなく感じさせ、がっくりと肩をうなだれる。この
ときの私は、常にネガティブな思考が頭を支配していたのだな、と後になって
高橋は思う。

 トントン。
 そこに突然鳴り響くノック音。
282鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/25 07:51 ID:u0okOJ6B

 高橋が部屋に一人になるスキをうかがっていたかのように、ドアのすき間か
らひょっこりと何かが飛び出した。
 とある歌番組でお馴染みの、子泣き爺人形だった。

「アイチャン、アイチャン、これからヒマかい?」

「保田さん、何やっているんですか」

「何だよーもう分かっちゃったのかよー」

 その人形を片手に保田が登場する。

「ねえ、これから焼き肉でも食べにいかない?」

「いえ・・・まだマネージャーと話があるんで」

「いいじゃん、どうせ説教でしょ? バックレようぜい」

 保田は鼻息も荒げて、高橋を威嚇しているようにも見える。

「・・・保田さんあたし」

 高橋が言い終わるより早く、保田は強引に彼女の腕を引っ張っていた。
 訛り丸だしの抵抗の言葉を高橋はいくつも並べたが、保田は一向に意に介し
ない。
 そしてそのまま二人は夜の街へと消えていった。


【35-高橋と保田】END
                          NEXT 【36-保田】