ゴマキ新曲ジャケットに履いてるのはルーズ?

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212鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk

【T・E・N】 第27話 吉澤と加護

「私はね、あの・・・事件のことが話題に出るのを覚悟の上でこの同窓会に参
 加しようと思ったの」

 吉澤はこの屋敷に来てから2本目のマルボロに火をつけた。

「あれ?
 なんだか調子狂うなぁ、いつもは自分のことオレって言っているのに」

「いいんじゃない? 女の子よっすぃーで」

 クスクス、と口に手を当てながら石川は笑う。
 アイドルを卒業して5年経った今でもブリブリの女の子・石川に言われると、
吉澤は意地でも男キャラを通したい気分になってきた。

「俺思ったんだけどさぁ、今日はいい機会だと思う」

 吉澤の固い決意のようなものがその口調から伝わってきたので、リラックス
していままで話をしていたほかの二人も、きゅっと顔を引き締めた。
213鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/15 07:48 ID:SLMrd1V9

「誰しもが、あの事件で傷ついた。程度の差はあるけれど・・・だけど、どこ
 かでフッ切れないといけないと思うのよね。
 俺も正直、恐かったんだよ、今日来るの。っていうか、今でも恐い。あの時
 のことが蘇ってくるような気がして」

 改めて言われてみればそうかもしれない、と石川は思った。
 例えば、事件後のこの5年間も友達として交流のある石川はあまり違和感を
感じないが、思えば今日集まるメンバーのほとんどは加護が車椅子に乗ってい
る姿を初めて見るはずだ。
 目にみえる形で、爆破事件の後遺症を引きずっている加護の姿を。
 ほかのメンバーはミニモニ。で激しいダンスを踊っていたころの加護の姿の
ほうが、やはり強く印象に残っているはず。
 吉澤も表情にこそ出さなかったが、最初にこの屋敷での加護を見たとき、過
去の惨劇という事実が重く肩にのしかかってきたのではないか。
 現役の頃と、現在の彼女とのギャップ―――それは石川は意識はしていない
つもりだが、もしかしたら自分で知らず知らずのうちに抑制して意識しないよ
うにしていただけなのかもしれない。

「でもイイ思い出も悪い思い出も・・・あの時のメンバー同士が話し合うこと
 によってなんか毒が抜けそうな気がするんだよ。
 自分で言っていてよく分からないけど」

「分かるよ」

 石川も、この同窓会に―――単なる懐古主義だけで終わるのではなく―――
唯一未来につながる希望を見いだせるとしたら、そこだと思った。
 吉澤の説明は相変わらず言葉足らずだが、気持ちは十分伝わってきた。
214鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/15 07:49 ID:SLMrd1V9

 傷の舐め合い? 確かにそうかもしれない。
 でも、周囲の人間がいくら励ましてくれたって、それは「同情」以外の何者
でもない。あの事件に遭遇した、そして何年も同じ苦労を分かち合った仲間で
ないと「同情」の向こうにある「何か」を理解できないのではないか。それが、
今日集まるメンバーたちにとって立ち直るきっかけになってくれれば―――

 でも加護は・・・。

 うつむいたままだ。
 まだ迷いがあるのだろうか。
 でも本人も分かっているはずだ。あの事件の時のメンバーが集まれば決して
その話からは逃れることはできない。
 辻の思い出だって。
 後藤との思い出だって。

「ピンポ〜ン♪」

 そこで玄関のチャイムが鳴った。
 一同、顔を見合わせた。

「キタ―――――――――!!」

 加護の表情が急に明るくなって、叫んだ。
 車椅子のハンドリムを元気一杯に回して玄関に向かう。

 それを見ながらあんがい杞憂に終わるのかもしれない、と石川は安堵の溜息
を漏らした。


【27-吉澤と加護】END
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