ゴマキ新曲ジャケットに履いてるのはルーズ?

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204鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk

【T・E・N】 第26話 高橋と紺野

(で、どーすんのよコレ・・・?)

 助手席で眉間にしわを寄せた飯田が、目で紺野に語りかける。
 地面にタイヤがめり込んでいるように見えるが、当然これはパンクして凹ん
でいるのである。
 紺野は何をするでもなく、それを茫然と眺めている。
 人里から隔離された山道で、ぽつんと取り残された少女たち。鳥の歌声、風
のささやき、木々のゆらめき・・・車のエンジンを止めて飯田とふたり取り残
されたこの世界では、より一層自然の息吹を意識できるし、紺野はそれが心地
よいとも感じ始めていた。
 飯田は、タイヤ交換は、と紺野に問いかけたが瞬間に

「したことないです」

 と首を振る。
 即答である。
 そもそもなぜ紺野が、こんな走り屋御用達のクルマを借りてきたのかさえ、
謎だった。
 車に関しては門外漢の飯田だが―――昔は「青いスポーツカーの男」なんて
曲も歌っていた飯田だったが―――派手なウイングや太いマフラー、黄金に輝
くアルミホィール。バンパーに無計画に貼られた、原色のケバケバしいステッ
カーの数々など、紺野の趣味ではないことだけはあきらかだ。
 初めてこの車で紺野に迎えにきてもらったときの違和感を、飯田は忘れない。
例えるならば、ステルス戦闘機のパイロットがテディベアの縫いぐるみでした、
のようなものだろうか。とにかく笑えた。
205鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/14 07:41 ID:Ro5SMwQJ

 いずれにしろ先ほどの紺野の運転の腕前を見る限り、彼女がペーパードライ
バーなことだけは確かだ。
 飯田は紺野に、普段は助手席センモンでしょ?と尋ねた。

 ヘヘヘ、とはにかんだ表情を見せる紺野。

(そうだよなぁ、紺野も別に男がいたっておかしくない年頃だよなぁ)

 飯田は考える。
 今、元モーニング娘。で恋愛をしている人は何人いるだろう、と。
 石川はあの事件の混乱に紛れて観客に輪姦され、その影響で男性恐怖症になっ
たと聞いている。
 男に性転換した吉澤の恋愛対象は、やはり女性なのだろうか。
 加護もあんな身体にならなければ、同い歳の紺野のように・・・。
 飯田自身にも、現時点でひとつ屋根の下で暮らしている男がいるが、決して
上手くいっているとはいえない。かろうじて結婚生活が順調なメンバーといえ
ば、初代リーダーぐらいだ。

 大学のボンボン同級生が彼氏だという紺野に驚いたが、考えてみれば普通に
恋愛しているメンバーに驚く自分こそが、この5年間奇妙で歪んだ世界に身を
沈めていたことを逆説的に飯田は痛感する。
206鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/14 07:43 ID:Ro5SMwQJ

 モーニング娘。は、あの爆破事件によって被害者となった。
 だが、被害者として保護されるはずの私たちが、有名人だったということだ
けで未だにその苦痛を様々な形で受けている。それは身体的なものもそうだし、
人間関係が劇的に変化したことによる精神的苦痛も計り知れない。
 しかも常に世間から監視され、時には疑惑の目を向けられ、それに耐えなけ
ればならない。
 モーニング娘。として輝いた5年間のあまりにも大きい代償として、元モー
ニング娘。たちは事件後の5年を過ごしてきたのだった。

「飯田さん! あれ!」

 紺野が、シートで夢想に耽っている飯田の肩を叩いた。
 山道の自分たちが今まで走ってきた道を指さす。

 そこには曲がりくねった山道を慎重にすすむ1台のスポーツカー。もしかし
たら、タイヤ交換を手伝ってもらえるかもしれない。
 紺野は飛び跳ねながら手を振った。

 減速をはじめたその車の運転手はサングラスをかけた女性。
 作り笑顔で手を振る紺野を見て、その女性は叫びにも似た声を張り上げる。

「紺野じゃない!」

「その声は・・・タカハシアイちゃん?」
207鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/06/14 07:44 ID:Ro5SMwQJ

 サングラスをとると例の「ビックリ」した高橋愛のなつかしい笑顔がそこに
あった。

「〜〜〜〜!!!」

 言葉にならない喜びをあらわすために、高橋は器用に運転席の窓から身を乗
り出して、紺野を抱きしめる。
 助手席の飯田も、やがて目頭が熱くなるのを抑えることができなくなってい
た。

 結局、紺野と飯田はパンクした車をそのまま乗り捨てて、高橋の車に乗って
屋敷まで向かうことにした。

「遅れ気味だったし、石川さん心配しているよぉ、きっと」

 そう紺野が口にした矢先―――最初の曲がり道を越えた向こうに、大きな洋
館が視界に飛び込んできたので一同は力なく笑うしかなかった。


【26-高橋と紺野】END
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