格闘小説〜餓娘伝

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71格闘娘。
第5章〜紅鶴

1.
神奈川県横浜市にある東京湾に面した工場地帯は昼の喧騒とは
裏腹に夜は静まりかえっている。その工場地帯の中に、野球場やテニスコート
を備えた公園があった。昼には人で賑わうその公園も夜には静寂が支配している。
その公園に人の走る音がした。ザザッという足音を立て必死の形相で誰かから
逃げているようだ。その娘は時折後ろを振り返りつつ必死で走る。
やがてその娘は追っ手をまいたとの確信を得て、ふうと一息ついた。
(はあ・・・)
「久しぶりだね。藤本!」
藤本 美貴は反射的に後ろを振り返りその声の主を確認した。その姿を確認した瞬間の藤本は全身
が凍るかのような恐怖に襲われた。
「矢口・・・」
藤本が名を言った娘の名前は、矢口 真里といった。かつて、飯田、石黒、と共に同じ流派の
拳法を学んでいた。
72格闘娘。 :02/05/26 00:52 ID:TcipISHx
「もう追いかけっこは、終わりだよ。あんたに聞きたいことがある。」
「あんたなんかに話すことなどない!」
「そうは、いかないね。飯田の腰巾着だったあんたなら、あいつが今どこにいるか知っているだろ?」
「なぜ飯田さんを?もう伝承者は飯田さんに決まっている。それは、いまさら覆らないよ。」
「そんなこと、どうでもいいことさ!あんたは、あいつの居場所をあたしに教えればいい!」
「なら、実力で聞き出してみな!」
藤本は、そういうとスッと構えに入った。藤本も伝承者になれなかったとはいえ、かつて
圭織や石黒と同じ流派で修行を積んだ。その技の切れは、五本の指に入るとまでいわれていた。
「あんた正気かい?本気であたしとやると言うのか?くくっ、久々に血を見たくなってきたよ。」
頭上の雲の流れが心なしか速く動いている気がした。そして雲は月を完全に隠してしまい
二人の間にある光は、街灯の弱い光だけであった。その光が死地を照らしていた。
73格闘娘。 :02/05/26 00:53 ID:TcipISHx

2.

「はっ」
気合と共に藤本の拳が放たれた。シュッと言う風を切る音が聞こえるかの様な
切れの拳であった。
(なに?)
一体いつ動いたのであろうか、矢口の人差し指が、藤本の
額にある。その動きを藤本は捉えられなかった。
そして次の瞬間に矢口はその指をすっと、下に移動させた。
「一体なんのおまじな・・・・ガハッ」
矢口が下ろした指の軌道に合わせるかのように藤本の額から目じりにかけて
大きな傷が現れた。おびただしい血が、藤本の顔を染める。それにより
藤本は、矢口を見失った。
(何処だ?)
そう思った次の瞬間に喉に熱い痛みを感じる。矢口の指が藤本の喉をえぐっていた。
その攻撃は、藤本を思考停止寸前においやる。
さらに矢口は、藤本の顔に流れる血を残るほうの手で拭うとそれを己の唇に塗った。
74格闘娘。 :02/05/26 00:54 ID:TcipISHx
「どうだ藤本?あたしは美しいだろ?」
「うっ・・・・くっ・・・」
「言え!飯田は何処だ?」
「し・・・知りません・・・」
「知らないのか?まあ、いいさ、だがお前にはメッセンジャーになってもらう。」

グキッ

首の骨が折れた音であった。矢口は指を突き刺したまま、残る指で藤本の
首をつかむと一気にへし折った。乾いた音が夜空に響き渡ったがそれは
一瞬だけで、また元の静寂が戻っていた。

「飯田・・・あたしは、あんたの血で化粧がしたいよ。」