格闘小説〜餓娘伝

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53格闘娘。
第3章〜継承

1.

平家との死闘から二ヶ月が過ぎていた。
吉澤 ひとみは、三重にいた。
中澤を介し、平家が自分に合いたがっていることを知った。
(なぜ?)という気持ちがないわけではなかった。
しかし、あれほどの人物ともう一度会えるということだけでも
行く価値はあると思った。気がつくとひとみは三重にいた。
ひとみは駅を出ると荷物を置くためにまずは、ホテルを探した。
駅から一番近いビジネスホテルを選びすぐにチェックインを済ますと、手ぶらのまま
中澤に教えられた住所に向かい歩き出していた。
気がつくと町から大分遠ざかっていた。あたりは田んぼと山という
日本的な景観が広がっていた。
そんな中に平家の屋敷があり広大な敷地の中に純和風の建物、それ以外にも武道場まであり
庭はちょっとした日本庭園を思わせるつくりであった。
ひとみはその屋敷の門の前に立った。門は開けっ放しであった。
ひとみは躊躇なく敷地内に入っていった
54格闘娘。 :02/05/23 23:11 ID:KsZSLoI0

2.

ひとみが敷地内に入ると奥の方から人影が動いた。平家みちよであった。
「もうそろそろくるころだと思っていたよ。」
平家が言った。
「お久しぶりです。でもなんですか?あたしに会いたいって?」
「まあ立ち話もなんや、中へ入ろうや。」
平家は、そういうとくるりと振り返り道場の方へ向かっていった。
ひとみは、その背中を見て違和感を感じた。たかが二ヶ月前の平家とは明らかに違う。
前にみた平家は、もっと大きく見えた。ひとみがそんなことを考えてるうちに二人は
道場の中に入っていった。
武道場は板張りであった。平家流は、組み技、関節技が中心の武術であるが
何故か道場は畳でなく板張りである。
広さは、3〜40人くらいが同時に稽古できそうな感じの広さであった。
その板の上に二人は、相対して座った。
55格闘娘。 :02/05/23 23:14 ID:KsZSLoI0

3.

平家は、じっとひとみの方を見て言った。
「君と立ち合った時・・・・勝てないと思ったよ。」
意外な言葉であった。
「しかし・・・負けても悔しさはないよ・・・・君が全力で私を仕留めに
きてくれたからね。」
 続けて平家が言った。
「そして、私も全力で戦った・・・・それこそ全力でね・・・
 敗れたとはいえ、この技術が錆びる前に使うことができたんだよ。
 君に・・・・・・・感謝したい。」
束の間の静寂が訪れたがその静寂を破り平家が言葉を発した。 
「そして・・・・君に平家流の技を受け継いで欲しい・・・」
 「私がですか?しかし、平家流は、一子相伝では・・・」
「私には、娘もいなければ、内弟子もいない。今は、近所の子供に教えているだけさ、
 それも護身術のレベルでね。真の平家流は殺人術!その技を受け継げるものはそうはいない、
 心水館の連中も何人か私の元で学んだが、奥義を伝えられるほどではない。
 だからこそ君に頼みたい。私の代でこの技術を絶やすのは無念だ・・・」
 永年受け継がれてきた技術が自分の代で途絶えると言う無念は察して余りあるものだとひとみは解っている。
しかしそんな難しい理屈より平家流を学べるとい言うことに興味があった。
「解りました。学ばせていただきます。」
「ありがとう・・・・・。」
平家は、涙を浮かべていた。
56格闘娘。 :02/05/23 23:14 ID:KsZSLoI0
4.

夕闇があたりを包んでいた・・・
平家は、ひとみに自分の所に泊ってゆけと言ったが、生憎と
荷物をホテルに置いてきてしまっていた。
その為、明日また伺うということにして平家の屋敷を後にした。
ひとみは、それからしばらく歩いていた。気がつくと街についていた。
「ん?」
ひとみは、通りに人だかりが出来てるのを確認した。
(喧嘩か!)長年の経験でこういう事は、良く解る。
人が遠巻きにしている中心に二人、人がいた。
一人は、小柄でどこか無愛想な感じであった。
もう一人は、前歯がねずみのようにでている。格好からして堅気の人間では、ないようだ。

「なあ、姉ちゃん?どうするんやこれ?おろしたてが台無しやわ。」
ねずみの様な歯の人間が言った。名は、稲葉 貴子という。
やくざ者であり、この辺りでは、少しは、名が知れているらしい。
見るとスーツの裾に泥がはねた後があったようであった。
「あたしがやったっ
57格闘娘。 :02/05/23 23:15 ID:KsZSLoI0
て言うなら謝るけど・・・」
娘はそう言った。
「そやない・・・そう言うことやないんや姉ちゃん!」。
「5万置いて帰ェんな」
(フッ)
「おかしいか?姉ちゃん?」
そう言うやいなや稲葉は殴りかかった。
拳は、顔面を捉えた・・・が殴った稲葉の方がダメージがある。
「話はついたな・・・帰らしてもらうよ」
「まてえや!!」
稲葉はそう言った。右手にはナイフが握られていた。
「せっかくこの稲葉さんともめてるんや、もうちょい遊んでいったら
どうや?」
「つまんないよ・・・泥はねたくらいで怪我するのは・・・」
娘はそう言った。
あたりに緊張が漂う。
ひとみは、先ほどから目でその娘の姿を追っていた。娘からただならぬ雰囲気を感じ、それを見てみたい衝動に
かられていた。
「手加減できないよ」