お前らミキティー飲めや!

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71ななし娘。

第四話

『毎晩二人、溜息ばかり。』
72ななし娘。:02/05/15 02:19 ID:D00Xa+PD

「あいぼん」
「ん?」
「やせないねぇ」
「やせない。」

「あいぼんこないだまたおこられてなかった?」
「マネージャーな。やせられないのは〜しょうがないけど〜」
「あぁののもおんなじこといわれた」
「せやろあいつおんなしことばっかゆうねん」
「ふとってくのはなんとかしてとめないと、って」

「そんなことゆわれたってなぁ」
「ねぇ」
「うちらのせいじゃないもんなぁ」
「そう…だよね!あいぼん!」
「ん?」
「おかしがあるからわるいんだぁ!」
「はぁ…ののはこどもだなぁ」
73ななし娘。:02/05/15 02:20 ID:D00Xa+PD

「あんまゆってるとなぁ」
「やぐちさんとかにきかれるとねぇ」
「そういやふたりだけってひさしぶりかも」
「いそがしいよねさいきん」
「うえもしたもおるとつかれるわぁ」
「おばちゃんみたいだよ」
「それはゆうな」

「それにしてもいつまでまたせんだろ」
「しゅうろくはじまんのもうちょっとかかるってさっきいってたし」
「こんなじかんがもったいないなぁ」
「あ、ノック。だれかきたみたいだよ」
「いがいとはやかったねぇ」
「どぉぞ〜」
74ななし娘。:02/05/15 02:22 ID:D00Xa+PD

「毎度ぉ〜Uえもんやでぇ〜。二十二世紀から助けに来たでぇ〜。」
「あ、なかざわさん、おはようございます。」
「やぐちさんとかならきょうはべつですよ。」
「いや、早いわ自分。まぁ自分等に説明しきろうとも思っとらんからええけど。」
「どしたんですかそのかっこう?」
「だめだよあいぼん、ひとのふぁっしょんをそんな。」
「…まぁ自分等に説明しきろうとも思っとらんからええけど。」

「ただし!…えぇか、ウチは『中澤さん』ちゃうねん。『Uえもん』が正解です。さぁゆうてみ?」
「みそじぃ。」
「おばちゃん。」
「しかし、自分等やっぱかわいいな…。しかも笑いってもんをわかっとる。」
「てへへ」
「ありぁとーございますっ!」
「まぁ、とりあえずしばくけどな。」
75ななし娘。:02/05/15 02:24 ID:D00Xa+PD

「いたーい」
「いたいよぅ」
「まぁええ、自分等の為にな、今日はええもん持ってきた。裕ちゃん頑張ったでぇ。」
「ほんとに!?」
「あぁさっきたべんじゃなかった」
「食い物ちゃうわ!お前等そればっかやないか!」

『体重計レボリューション22!!』

「なんだコレ?」
「たいじゅうけいだよ、きっと。」
「正解や…って今思いっきり言うたやん。」
「ていうか、かごもってますよ」
「ののも」
「いやいや、普通の体重計に見えるやろ?実はちょっとちゃうねん。」
76ななし娘。:02/05/15 02:25 ID:D00Xa+PD

「これはな、どうしても痩せたい人の為に開発されたもんでな。
 本人のデータをここに入力してやね、乗るとここが揺れ出すわけや。
 余分な体脂肪とか付き過ぎた筋肉なんかを落としてくれる、ちゅー代物やで。」
「ふーん」
「タイシボウ?」
「…説明はええか。ちょっと乗ってみ?…いや、どっちからでもええて。二つあるがな。」

「あれあれ?」
「うおぉぉ」
「そうそう、これをこなす事によってな、測りながら痩せられるわけや!
 な。普通の体重計?全然ちゃうやろ!これがハイテクちゅーやっちゃ。」
「あぁあぁあぁあぁ」
「こぇがふるぇるぅ」
「どや!すごいやろ?自分等にぴったりや、まさに体重計の針に痩せる思いやでぇ!」
77ななし娘。:02/05/15 02:27 ID:D00Xa+PD

「大体十分くらいで測り終わるからな…ちょっとの辛抱やで…て降りてもうとるやないか!」
「つかれた」
「よっちゃった」
「そんな事でええ思とんのか?」
「なんかあれみたい、つうはんの」
「なんだっけアブなんとか」
「その先はゆうたらあかん!裕ちゃん怒るで!」

「大体子供が深夜番組なんか見たらあかん!」
「だってねぇ」
「なぁ」
「なんや、自分等子供ちゃうゆうんか?」
「えむのもくしろくとか」
「はろーらんどもはじまるし」
78ななし娘。:02/05/15 02:28 ID:D00Xa+PD

「……だいじょぶですか?」
「うわぁおばちゃんくしゃくしゃだぁ」
「誰が…くしゃおばちゃんやねん…」
「いってないれすよ」
「ハンカチ」
「ありがとなぁ…。」

「まだゆれてる…スイッチどこですかぁ?」
「うわぁとまんないよ」
「そんなガンガン叩いたらあかんて…。」

「あぁあぁあぁあぁ」
「あごだけのっけるのもいいよね」
「いや、おもちゃちゃうねんから…。」

「あいぼんこれ、こうすればいいんだよ」
「そやな、はねとったらよわないなぁ」
「そんなドンドン跳ねたら壊れるて…。」
79ななし娘。:02/05/15 02:30 ID:D00Xa+PD

「わぁ、みてみてあいぼん!65キロ!」
「うわ!やらしてやらして!ウチもめっちゃ出したい!」
「いや、ちゃんと測れてへんやん…。」
「ふぉお!」
「ふぁあ!」
「何やろな…この倦怠感は…。まぁええか。頑張るんやで!」

「いっちゃった。」
「おもしろいねぇ〜」
「なぁ、のの…。」
「ん?」
「やせたい?」
「じぇんじぇん」
「まぁええか。」
「うん!」

80ななし娘。:02/05/15 02:36 ID:D00Xa+PD

第五話

『ぬくもりひとつTWILIGHT』
81ななし娘。:02/05/15 02:38 ID:D00Xa+PD

「保田はほんとオマエあれだな」
「ちょっと待って下さいよ!アイドルなんですよ一応」
「アイドルだぁ!?」
「ほらぁまたそうやっていっつもけーちゃんばっかりぃ」
「おっ、きたな〜吉澤」
「はははは」
「あたしにもCG使ってくださいよぅ」
「子泣き」
「写真集出したんだべ?」
「Keiだぁ!?」
「そうですよ」
「そうなの圭ちゃんねぇ…面白いんですよ」
「ちょおっと待ってください!きっくえんど…」
「ははは」
「吉澤はわけわかんねーなぁ」
「まぁ、そこがよっすぃのいいとこなんでしょうね」

迷子になりたい。
そんな思いを、仕事中のあたしはあっさり無表情で閉じ込める。
そうして、いつのまにかあたしはあたしを無くした気がする。
82ななし娘。:02/05/15 02:39 ID:D00Xa+PD

「お疲れ!」
「お疲れ…あとちょっとしたらリハだってさ…」
「マジで?」
「休む暇もないねぇ」
「まぁ忙しいのはいいことだからさ」
「…お疲れ。」
「あ、吉澤…」
「なに。」
「…いや、なんでもない」
「あ、よしこさぁ、今日めちゃくちゃ元気だったよねぇ…」
「ごめん。ちょっと、トイレ。」
「あ…うん。」

なにしろ会話が煩わしい。
最近のあたしはいつもぼーっとしている。
春のせいかどうかは、知らない。
83ななし娘。:02/05/15 02:42 ID:D00Xa+PD

──はい、もしもし…

──母さん?あたしだけどさ

──あぁひとみ?元気でやってるの?

──元気だよ、忙しいけどさぁ

──大丈夫?ちゃんと寝てるの?

──大丈夫だってぇ。そんな心配しなくてももう大人なんだし

──ならいいんだけどねぇ…。

──あ、ところでさ、次休みとれたら帰るから。

──あら、じゃあみんなに言っとくから。そう言えばあんたこないだテレビで…

──ごめん、結構急ぐんだ。また。

──そう…風邪ひかないようにしなさいね。傘は持ってる?

──雨?ちょっと前にやんだみたいだけど。

──こっちはまだ降ってるのよ…。
84ななし娘。:02/05/15 02:43 ID:D00Xa+PD
電話を切ってそのままバッグにしまった。
誰かがドアをノックした。
あたしはそれにノックで答えた。
早くもどらなきゃいけなかったんだけど
トイレに腰掛けたまま、あたしはしばらくぼーっとしてた。
頭の中でベランダを雨が濡らした。もう傘なんていらないのに。
再びノックが聞こえた。
あたしは大量にトイレットペーパーを引き出した。ガラガラ鳴った。
全部突っ込んで流した。
トイレの中じゃ浸れない。
溜息をひとつついてドアを開けた。
そこには青いシーツみたいのを被った中澤さんがいた。

…青いシーツみたいのを被った中澤さんがなんでここにいるんだろう?
そのシーツみたいのには穴がうまいこと開いていて手がにょきっと二本出ていて
それでその手がいきなりあたしの口を塞いだ。
85ななし娘。:02/05/15 02:45 ID:D00Xa+PD
「おっとぉ怪しいもんちゃうでぇ」
「む!」
「まぁええから、騙された思ってちょお来い。悪いようにはせんから。」

反射的に逃げようとしたあたしは抱きしめられるようにして個室に連れ戻された。
中澤さんが足でドアを閉めたみたいだ。そして鍵がかかった。

「もがもが」
「ん?あぁ、大声ださんって約束したら離したるからな。」
「もぐ」
「ええ子や…。素直なんが一番やでぇ。」

その台詞にあたしは昔見たドラマを思い出した。
確か相当つまんなかった。
すっと手が離れた。向き合ってあたしは口を開いた。
86ななし娘。:02/05/15 02:47 ID:D00Xa+PD
「どしたんすか?」

色々な意味をこめたつもりだった。
中澤さんは真剣な顔で答えてくれた。

「助けに来た。」

そっけない声と答えに、あたしはちょっと拍子抜けした。
よく見るとシーツの裾がドアに挟まっていた。

「二十二世紀からな。」

中澤さんは真剣な表情のまま続けた。
おそらく矢口さんあたりなら的確につっこむところだろう。
中澤さんと二人きり。
慣れないシチュエーションに、あたしはひたすら気まずかった。
87ななし娘。:02/05/15 02:49 ID:D00Xa+PD
「自分をやで。助けに来てやったんやで。」
「助けにきてくれたんですか」
「二十二世紀からやで。」
「二十二世紀からですか」

何度も確かめるように、あたしの顔を覗きこむようにして続けた。
あたしはそれを声でなぞりながら、でも視線は壁にあった落書きをなぞっていた。

「まぁええ…。ところで、誰と電話してた?」
「誰と…?」
「今しゃべっとったやろ?こんなトイレまで来るくらいやから見当はつくけどなぁ」

勘違いを訂正する暇もなく、あたしのバッグに手が突っ込まれた。
割とぼーっとしてた頭が一気にクリアになった。あたしはその手を掴んで言った。
88ななし娘。:02/05/15 02:51 ID:D00Xa+PD
「ちょ…っとまってくださいよ。いくら中澤さんでもヒトのプライベートを…」
「中澤さんちゃうわ、ウチUえもんやねん。」
「詮索……Uえもんってなんすか?」

ちぐはぐなやりとりの中、気付いたらあたしの携帯は中澤さんの手にあった。
あたしはいつのまにか後ろから抱きしめられた格好で動きを封じられていた。
誰かに見られたらどう思われるだろう、あたしは何故かちょっとわくわくした。

「…なんや、自宅て実家かい…。」

リダイヤルの、ディスプレイの文字を見て中澤さんはホントに残念そうに呟いた。
あたしはその手をふりほどくと携帯をもぎ取った。と言ってもむかついてはいなかった、不思議と。
89ななし娘。:02/05/15 02:53 ID:D00Xa+PD
「そもそもいきなり何するんすか?こんな狭いトコで」
「ここやったら聞かれたない話もできるやろ?」
「別に聞かれたくない話なんてしたくないっすよ」
「ほう…。したらこそこそ電話してたんは誰や?」
「だ…」

言葉につまったあたしを見て中澤さんはにやにや笑った。

「安心せい、助けに来たって言うたやろ?ちょっと待ってな…」

青いシーツの下に手を突っ込むと、何やらごそごそ探している様子だ。
一体あの中はどうなっているんだろう?不思議なことは他にもあるけど。
どうやら目当ての物を探し当てたらしい。にやっと笑って取り出したそれはウォークマンだった。
90ななし娘。:02/05/15 02:57 ID:D00Xa+PD
イヤホンを右耳に押し込まれた。スイッチを押すような音。
そして聞こえてきたのは音楽じゃなくて声だった。

「……最近…あんまり……」
「よしざ……ぼーっとしてる…心配…」
「悩み……寂しそう…」

圭ちゃん…あとごっちんの声だ。
間違いない。盗聴だ。
盗聴!?

「こんな会話聞かされた日にゃあ、助けたくもなるわ。」

聞かされた…と言うか?
ところでこんなもん聞かされてあたしは一体どんな顔したらいいんだろう?
呆然としてるあたしに気付いたのか、中澤さんは煙草を一本、取り出すとゆっくりと口を開いた。

「自分あれやろ?最近みんなとよう喋ってへんねやろ。何かあったんか?」
91ななし娘。:02/05/15 02:58 ID:D00Xa+PD
何もかもが…嫌だ。
心配されるのだって大きなお世話だ。
ところで、何であたしはわざわざトイレまできて家に電話なんてしたんだろう?

「言いたくない…みたいやな。その表情を見る限りは。それとも。」

『吉澤はわけわかんねーなぁ』
『まぁ、そこがよっすぃのいいとこなんでしょうね』

「自分でも、ようわかってないんと違うか?」

迷子になりたい。
傘はもういらない。

「…まぁ、そんくらいの歳やったら色々あって当たり前なんやけどな。
 でもまぁ、心配しとる奴がおるっちゅうことは知っといて損はないわな。」

中澤さんはそこで言葉を切ると、煙草に火を点けた。
狭い個室に二人で。黙ったまま立ち尽した。
92ななし娘。:02/05/15 03:01 ID:D00Xa+PD
俯いてた、あたしは顔を上げた。とっても優しい横顔が見えた。
まばたき一つ。その右手の、細い指先が、ゆらゆらと煙を描いた。寂しくなった。
赤い──サイレンみたいな──光がトイレを廻るように照らした。
ってかサイレンだった。

「あかん!火災なんたらが発動してもうた!」
「えっ、えっ!?どうなるんすか?」
「アイドルが便所で喫煙…エライことんなってまうわ!」
「いや、あたし吸ってないっすよ!?」
「わかっとる!ウチに任せんかい!」

そう言って中澤さんはドアを威勢良く蹴り開けた。
幸いにもウチ等以外の利用者はいなくてトイレ内は無人だったけど
なんだかパタパタ足音が聞こえてきた。やばい!?

「失礼します!どうしました!?」
「裕ちゃんレボ…ちゃうわ、まぁ何でもええ!食らえやゴルァ!」
93ななし娘。:02/05/15 03:03 ID:D00Xa+PD
まるで時が止まっているみたいに感じた。
交錯する二つの青い影。
あたしはちょっとの間、その完璧なラリアットに見惚れていた…。
うん、見惚れてる場合じゃないね。

「どや?」

回転する光の中、無言のままトイレの床に崩れ落ちる警備員さんと
こっちをみて得意気ににやにやする中澤さんの脇を素通りすると
極力無表情であたしは呟いた。

「盗聴はよくないっすよ。」

それだけ言うと、あたしは楽屋へと向かった。
無表情はいつもより大変だった。

「おぉいちょお待てって!ん?ええんか。早よ逃げぇ!」
「うぅ…不審者めぇ!」
「あぁん?ウチのラリアット食らって立ちあがるとはなかなかな警備員やなぁ!」
「三階女性用トイレにて不審者!」
「って何応援呼んどんねん!そらウチかて逃げるっちゅーねん!」

94ななし娘。:02/05/15 03:04 ID:D00Xa+PD


「よしこぉどこ行ってたの?」
「ごめんごめんトイレ行ってた」
…迷子になんかなりたくない。
「吉澤来た?」
「もうリハーサルはじまるみたいだよ」
あたしは、どうやら自然に笑った。
「圭ちゃんごめん」
あたしの頭、髪の毛が掻き回された。
「あんたはほんと最近ぼーっとし過ぎよ!」
「あぁ、」

何だか初めて怒られた時を思い出した。
まぁ、心配されるってのも気分はいーもんだ。

「もうちょっと…ぼーっとしてみようかなって。」
「はぁ!?ていうかアンタ目があか」
みんな何となくだけどいつもより優しかった。
「お願いしまーす!」
「ADさん来たよ!さ、行かないと!いつもの!」
「……それじゃ」
「頑張っていきまー」
「しょい!」

あたしもいつもより大声だった。