「電車の中で」続き
「後もう少しですねえ」
電光掲示板の表示を見て、梨華ちゃんがつぶやく。
約二時間半かけて、私達は目的地に辿り着こうとしていた。
「ねえ、ちょっとトイレ付き合ってほしいんだけど・・・」
「矢口さん、そのくらい一人で言ってくださいよ〜」
「だあってさ、一人だったらばれた時怖いじゃんかぁ」
「まったく・・・圭ちゃん、付いてってあげよ」
あたしと矢口さんは、嫌がる圭ちゃんを連れて、トイレへ向かった。
まったく、ぞろぞろ多人数で行くより一人の方が怪しまれないのに・・・
これは、矢口さんがトイレに入っている間、近くの食堂車での話。
「京都のほうは晴れてると思ったのに、全然真っ暗だなぁ・・・」
「別にずっといるわけじゃないんだし・・・傘ぐらい向こうで売ってるっしょ」
「そうじゃなくて・・・」
あたしは、暗い空が嫌いだった。子供の頃見た、あの空・・・
それは、あたしが6つのときの話。家族で行った遊園地で起こったことだった。
にごった雲がだんだん黒さを増して、時折火花が飛ぶように稲妻が雲間を走る。
そしてぱらつき出す大粒の雨。あたしは震える唇を噛み締め、
抱えていたぬいぐるみを傘代わりに両親を探して走り回る。どこにいるかなんて知らないのに・・・
暗い遊園地はとても恐ろしくて、いつもは喜んで駆け寄る人形でさえお化けに思えた。
どうして、お父さんやお母さんはあたしを置いてっちゃったの?どうしてあたしがこんな目に・・・
辛くて、立ち止まりそうになりながらも、涙で前が見えなくても、あたしは走った。
走って、走って、走り続けた。その後は・・・よく覚えてない。
「ああ、嫌な事思い出しちゃった」
「何がよ」
「だって、あんなことがあってさあ・・・今でもはっきり覚えてて・・・」
「暗い空が苦手ってワケだ」
「うん・・・」
そのことを話している間、圭ちゃんは真剣に聞いてくれていた。
ちょっと厳しい人だけど、時々お姉ちゃんみたいに優しいんだよね・・・
「あ〜、こんなとこにいたぁ〜!」
聞きなれたハスキーな声。振り向くとそこには、恨めしそうな顔をした矢口さんがいた。
「も〜、あたしのことほっといて二人でこんなとこにぃ〜」
「大声出さないでよっ、ばれちゃうでしょ〜」
あたし達は急いでその場から退散した。まったく、最後まで人騒がせなんだから・・・
To Be Continued...