144 :
レイク:02/05/16 23:14 ID:g7YVqBXp
>>134 レスありがとうございます。
開始当初から1ヶ月で終わらそうと考えていました。
会場は多くの人でにぎわっていた。
舞踏会場に見られる、ワルツを踊る人々、演奏者達…。
そして皇太子、王、王妃に多くの人間が挨拶をしてきた。
まぁ、面倒な時間であるが…。
これだけ多くの人が集まっている。
その中で一人の人をひとみ王子は目で探していた。
(黒雪姫…来てないな…来てくれないのかな…。)
開始してから3時間が経過していた。
3時間…。
今夜は朝方近くまで舞踏会は開かれている、
だからまだ諦めるのは早いかもしれないが、
一国の皇太子が嫁選びに舞踏会を開くのだから
隣国で、さらには同盟国であるチャーミー王国の
黒雪姫が会場に現れるのは必然的なはずである…。
(振られたのかな…。俺…。)
何か誘い方が不味かったか、などと頭をめぐらしている
ひとみ王子の姿がそこにはあった。
どこか遠くを見ていて、やってくる人々の挨拶など
上の空だった。
そんなとき、会場内にどよめきが走った。
(もしかして!?)
そんな想いがひとみ王子を皇太子席から立ち上がらせる。
大衆が道を作るようにある女性の前を退いた。
ひとみ王子とその女性はちょうど直線的になり目と目が合う。
一段と煌びやかなドレス、彩る宝飾はさることながら
小さい身体に美貌を兼ね備えた女性が現れたのだ。
そう、彼女はヤグデレラだった。
午後11時。
ヤグデレラに与えられた時間は僅か1時間。
ひとみ王子は自然とヤグデレラの前に歩み寄った。
(ヤベェ…かわいい…。)
すっかり黒雪姫のことなど忘れさせられる。
それだけ、ヤグデレラは輝きとオーラを持ち合わせていたのだ。
ヤグデレラは丁寧な挨拶をひとみ王子にして
「本日はお招きありがとうございます。」
と言った。
「あ、いえ…よろしかったらワルツを踊ってくれませんか…?」
はじめてひとみ王子が今日ワルツを誘った。
ヤグデレラは少し顔を赤らめてコクッと頷く。
ひとみ王子が手を取り、音楽にあわせて踊り始めた。
「本日はどちらから…?」
リズムにあわせながら見つめあい、ひとみ王子はそう問い掛ける。
「はい、城下から参りました。」
「どちらの貴族のお嬢さんですか…?」
「…………。」
「どうしたのですか?いえないのですか…?」
「すいません…。」
「では、今宵私に幸せな時を与えてください。」
「はい…。」
ぎこちないヤグデレラのダンスをひとみ王子がカバーしていく。
時折ガラスの靴で足を踏まれるなどのもあった。
それでも、見つめあい、その目を離さぬように曲が終わるまで踊り続けた。
ワルツが終わると、ひとみ王子はワインとグラス二つを持ってヤグデレラを誘って舞踏会場を出た。
月が良く見える中庭に誘ったのだ。
「せめてお名前を聞かせてもらえませんか?」
「すいません、それも………。」
「そうですか。それは残念ですね…。あ、ワインいかがですか…?」
「はい…いただきます。」
中庭の噴水の周りにベンチがある。
それに座って、ポンッとワインの栓を抜きグラスに注いでゆく。
なみなみともられた赤い液体に、映し出される月がなんとも
二人の雰囲気作りに花を添えてくれる。
心地よい、グラスの響き。
頬を赤らめ、見つめあいながらグラスを口につける。
「おいしい…。」
「ですね。」
「どうして、何も教えてくれないんですか?」
「ごめんなさい…本当に言えないんです、約束なんですよ。」
「誰と…?」
「…………。」
「野暮な事を聞くのはもうやめます。こうして貴女に出会えた事を幸せと思わなくては…。」
その言葉にヤグデレラもすぐにコクッと頷いた。
しかし、時というのは残酷なもの、城にある大きな時計台は
まもなく、0時を迎えようとしていた。
ふとヤグデレラの視界にその時計台の時計が目に映る。
後5分もない…。
ヤグデレラは表情を曇らせた。
ひとみ王子がそれに気付き、どうしたのかと思い尋ねた。
「どうしたんですか…?具合でも…。」
「いえ…私、もう時間がないんです。今日は楽しかったです、さようなら!!」
すっと立ち上がると、逃げるかのようにひとみ王子の下を走り去る。
「ちょっと待って!!」
ひとみ王子も立ち上がり、ヤグデレラの後を追いかける。
すると、カラス達がひとみ王子とヤグデレラの間をさえぎった。
「カ、カラスッ!?」
ひとみ王子はジャマをするカラスを振り払おうとした。
そして、振り払う事が出来た時、ヤグデレラは空を飛んでいた。
「!?…か、カッケェ〜〜〜!!」
ただ、空をカラスに運ばれて飛んでゆくヤグデレラを
カッケーと思い見つめ続けることしかできなかった。
ふと、下を見ればヤグデレラが履いていたガラスの靴が落ちているではないか。
ひとみ王子はガラスの靴を拾い上げると呟いた。
「きっと見つけますよ、この城下から貴女を…。」
そのとき、0時の鐘が城内に響き渡った。
0時の鐘が鳴り響いた時、ヤグデレラは上空にいた。
ヤグデレラは泣いていた。
「ふぐっ…んぐっ…ごめんね、王子様…、ひぐっ…。」
しかし、そんな悠長な事を考えている事態でないのを
すっかり忘れていたのだ。
時計の鐘が鳴り止むと、ヤグデレラは急激な落下感に襲われた。
「!!!!!!!!」
そう、魔法が解けたのだ。
一目散に落下していくヤグデレラの身体。
「し、しまったぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!わすれてたぁぁぁぁ〜〜〜!!!」
ドボ〜〜ン。
運がいい。
彼女は非常に運がいい。
ヤグデレラの落ちた場所とは、大きな池だったのだ。
必死にもがいてなんとか水面に顔を出すと口から魚を吐き出した。
「おえっ。踊り食いしちゃうところだった…。」
池から抜け出すと、びしょびしょの身体を引きずりながら家へと向かうヤグデレラ。
泥にまみれた片方のガラスの靴を脱いで抱えて歩く。
みすぼらしい姿にさらに輪をかけたような姿だった。
裸足で歩く帰り道。
石畳が足にひんやりとマイナス熱を伝える。
(嬉しかったな…たった1時間しかなかったけれど、ひとみ王子はヤグチの相手をしてくれた…。)
嬉し涙…?
悲し涙…?
なんとも言えない涙が流れそうになるのを
夜空の星を見上げてぐっとこらえた。
「今日は、良かったってことにしよう…ヤグチの幸せ、少しだったけれど楽しかった。」
人間とはよく張りである。
不幸続きの彼女が得た、ほんの僅かな幸せ。
ただ、もう少しだけ…という気持ちが彼女の心にあった。
その形が、残されたガラスの靴に有る事を彼女は知らなかった。
ほんの僅かな幸せが、この先再び起こるとは…。
家に戻ると、継母達はまだ帰宅していなかった。
丁度良かった。
ヤグデレラは久しぶりに入浴をする事にした。
風呂に入らなければ、なかなか泥臭い匂いは取れないからだった。
風呂が沸くと、身体を洗う。
そして、浴槽に身体を沈め、凍えた身体を温めた。
「温かい…温かいなぁ…。」
ふと水面から自分の指を出してみる。
アカギレた手…でもがんばっている自分の手…。
その手を見つめ、自分の手であるが精一杯に褒めた。
(もうそろそろ、この子達を休ませてあげなくちゃ…。)
入浴を済ませると、彼女はいつもと同じように台所の一角で眠りに就いた。
ヤグデレラが眠りに就いたのを確認する人物が居た。
「あんまりチャンスつかむ事出来なかったんだべな〜。この様子見ると」
魔法使い………の見習いなっちだった。
「ごめん、なっちが未熟だからうまくいかないんだよねぇ。」
ヤグデレラの寝顔を見て、すっと立ち上がる。
「一念発起だべっ!?」
魔法使い見習のなっちは一路ヨッスィー城へ向かった。
なっちが魔法のホウキでヨッスィー城に辿り着いたのは日が上がる少し前だった。
既に舞踏会は終了し、ほとんどの人間が眠りについている頃だった。
屋根に降り立つとなっちはひとみ王子の部屋を探す。
「あっはっは〜〜。部屋わかんないべさ。」
つかえねぇ〜…。
一先ず、屋根を伝って入れる部屋を探した。
いくつかあるが手前の部屋の窓を覗いてみる。
どうやらその部屋の持ち主は眠りについているようだ。
「あれっ、用心してるベー、鍵しまってる。」
なっちはサイリウムを取り出し、例の如く声援呪文。
深夜と有ってか、少し静か目ヴァージョン。
カチャッと鳴り響くと窓が開いた。
「なっちはこういうの得意だべさ〜。窃盗団向きだべぇ〜。」
まぁ寝顔を拝見。
「チッ、ひとみ王子じゃないべさ。」
「!!!…誰だ貴様!?」
「やばっ!!起きちゃったべさっ!!出でよ眠りハンマー!!」
眠りハンマーとは叩くと眠ってしまうハンマーの事である。
なっちはハンマーを振り上げ、頭に振り落とす。
ドカッ!!
「ぐはぁっ!!」
凄みをいれて、襟をつかんで脅す。
「ひとみ王子の部屋は何処だべさ!?」
「き、貴様く、くせものかっ!?」
ドカッ!!
「早く言うべさ!!」
「出て左…突き当たった部屋…。」
「ありがとうべさ。」
ドカッ!!ドカッ!!ドカッ!!ドカッ!!ドカッ!!ドカッ!!ドカッ!!ドカッ!!
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。これで眠ったっしょ。」
紅く染まったハンマーを懐に入れて部屋をそおっと出るなっち…。
それって…ころし…
「眠らせただけっしょ。ただ永久的かもしれないべさ。」
やはり突き当たりの部屋というのはあながち嘘ではなかったようだ。
突き当たった部屋の扉というのはこの城に来て一番立派なものだった。
ドアノブに手を伸ばし、まわしてみるが…閉まっていた。
再びここでサイリウムの出番である。
静かに声援をする…まったくミュージカル時のようである。
すると、鍵が開いた。
もう窃盗でご飯食べたらいかがっすか?
やはりそこに眠っていたのはひとみ王子。
顔に似合わないイビキをかくこと…。
なっちは、一先ずひとみ王子がどんな人物か確かめた。
「はぁ〜〜〜…かっこいいべ。」
ちょっと頬を赤らめてしまう…世の女性を虜にする理由がわからなくもなかった。
ふと見回すと、なっちはある物を手に取った。
「………。なるほどべさ〜。」
なっちは何もせずに、ヨッスィー城を去っていった。
154 :
レイク:02/05/17 23:11 ID:tfkR8hPW
明日の深夜最終更新予定です。
155 :
:02/05/18 01:44 ID:x9pJpQGO
いよいよ最後ですか…
正直、名残惜しいです。
黒雪姫がどうからんでくるか非常に楽しみ!
「ありがとうべさ」
言わねえなあ…
>>156 「ありがたいべ」「ありがとだべさ」なら言うと思う。
まだ名前が出て来ないコがいるんだけど、
何か重要な役かな?
それとも放置?
159 :
hyunkell:02/05/18 17:01 ID:K7D+OJeX
ぷ
160 :
レイク:02/05/18 23:04 ID:WvDTn3pw
「城下でこの靴を履ける女性を探せ!!」
朝から、ひとみ王子は昨日の女性を探すことをはじめた。
城下をひとみ王子が各々見回ると有って、城下は大賑わいである。
ここでもし、ガラス靴が履けたなら見初められると胸に抱く女性は多々いたが、
なかなかガラスの靴を履ける人物があらわれなかった。
子供サイズであるこのガラスの靴。
そうそういい大人の女性が履けるサイズではないのだ。
また一軒、また一軒としらみつぶしのように、家を回るひとみ王子。
(確かに…城下に住んでるって言ってたんだよな…。)
手がかりになるものは、城下在住とガラスの靴、
そして子供でもないのに小さい背丈の3つだけだった。
それだけをヒントに、昨日の女性を見つけ出すのは困難を極める。
少し諦めムードが漂う中、それでもひとみ王子は諦めずに
昨日の女性を探すべく、白馬の蹄を鳴らせて歩いた。
「じい、次は何処の家だ?」
「はい、次はつんく家でございます。」
じいの言葉通り、ひとみ王子はじいと家来数人でつんく邸を訪れた。
ドアの前に立つと、ノックをしようと軽い握りこぶしを作り…
ガチャッ!!
「「「いらっしゃいませぇ〜、お待ちしておりましたぁ〜。」」」
ドアの前に待ち伏せをして覗き穴で覗いていたのか、
あつこ、みちよ、圭織が舞踏会さながらの派手な格好で
出迎えたのだ。
少し面を食らった表情をするひとみ王子。
ケバイ化粧に、プンプンの香水。
「ハハハ…どうやら間違えたようだ…。」
引いた…。
ひとみ王子が戸を閉めようとするが、押さえるあつこ。
「まぁまぁ、上がってくださいませ。どうぞどうぞ。」
必死な作り笑顔が不気味に怖い。
なにか魔物に食われるような恐怖を感じた。
ひとみ王子は引き攣った笑顔をして
「じゃあ、少しだけ…用が済み次第帰るので…。」
といって、家来共々つんく邸に飲み込まれる形で入っていった。
相当屋敷を綺麗に掃除したのか、
普段以上に屋敷内が綺麗になっている。
おそらくはヤグデレラを酷使して掃除をさせたと思うのだが…。
そんな屋敷内を見たひとみ王子は
「いい召使を雇っているようですね。とっても掃除が行き届いています。」
と、屋敷の感想を言う。
「で、ございましょう。おほほほ。でもこれは娘が掃除しております、召使は雇っていませんの。」
明らかにインスタントな上流階級言葉である。
「娘さんが…なかなかの才色兼備ですね。」
「「そうでもございませんわ…常日頃掃除はやっておりますの…オホホホホ。」」
圭織とみちよも高らかに笑う。
本当はヤグデレラが掃除をしたのに…。
応接間に通されるひとみ王子達。
ソファーに腰掛けるように言われ、言われるがまま座る。
「では、本題に入ります。この靴を娘さんに履いてみてもらいたいと…。」
ひとみ王子がそう切り出すと、家来が丁寧に包んであるガラスの靴を取り出した。
「これを履いていた女性にもう一度会いたいんです。」
「ほな、ちょぉ圭織、みちよ履いてみぃ。」
「「はい、お母様。」」
圭織がまず、ガラスの靴に足を入れた…。
「チィッ!!」
「!?」
「ああ、いえ、なんでもありませんわ、圭織には合わないみたい。」
非常に残念そうに、みちよにバトンタッチ。
そんな圭織をほくそえみ、みちよが足をいれて見る。
「チッ!!!」
「!?」
「いえ、私でもございませんわ。」
「ふぅ…どうやら娘さんではないようですね。では、次の家がありますので…。」
ひとみ王子は立ち上がり、家来達に合図する。
すると、一人の家来が窓を見ていて、ひとみ王子を呼び止める。
「王子、あそこに洗濯をしている娘がいますが?」
ひとみ王子はその言葉に窓を覗いてみると
ひときわ小さい背丈の女性が井戸の近くで洗濯をしていた。
うしろ姿…何気ないインスピレーションがあった。
「あの子は…?」
「ああ、あの娘は召使でございますわ。」
「…先ほど召使は雇っていないとおっしゃられていたようですが…?」
ボロが出た。
「チッ!!」
「!?」
「いえ、なんでもございませんわ。おほほほほ。」
「では、あの女性を連れて来てください。」
「かしこまりましたわ、圭織、ヤグデレラを連れてきなさい。」
「はい、お母様。」
「ふぅ…。」
汗を拭い、一休みするヤグデレラ。
しゃがんでの洗濯は非常に腰に負担をかける。
立ち上がり、首を曲げてはゴキゴキ、
腰をひねってはゴキゴキ鳴る、非常にお疲れの身体だ。
「今日は大変だなぁ、朝から掃除させられて…。誰かお客様来てるみたいだし…。」
すこし、井戸に腰をかける。
いい天気の日差しが心地よかった。
そんなとき、勝手口から圭織が顔を出して、自分を呼んでいるではないか。
「ちょっと!ヤグデレラ!!いらっしゃいっ!!」
「あ、はい。おねぇさま。」
(なんか、やったかなヤグチ…。)
何故か怒っている様な表情をしている圭織に
ヤグデレラはまた失敗をしてしまったかなどと
頭の中をめぐらせていた。
「応接間いきなさいっ!!」
「はぁ…。」
裾で手を拭って、ヤグデレラは応接間に向かった。
コンコンとノックして、応接間に入ると
そこにはひとみ王子と数人の家来が居た。
「お呼びですか…?」
「ヤグデレラ、この靴をはいてみなさい。どうせ無駄だろうけどね。」
「はい…。」
あつこに言われるままに靴を見ると
「!!!!!」
(ヤグチの靴だ…。)
ふとひとみ王子を見上げる。
「あの、この靴は…?」
ひとみ王子が優しい微笑を浮かべて丁寧に答える。
「昨日、舞踏会で出会った女性が城に置いていったものなんですよ…
もう一度あの女性に会いたくて…。背格好、顔立ちがあなたによく似てる…。
これを履いてみてください。」
(うそ…。)
「はい…。」
そっと、ガラスの靴を履いてみる。
サイズにぴったり合った。
無論自分の靴なのだから合うのは当然であるが…。
すると、家来から歓声が上がる。
「貴女が…あの時の…?」
ヤグデレラはひとみ王子と見つめあったままポケットから
布に包まれた物を取り出した。
広げてみると、そこにはもう一つのガラスの靴が姿をあらわしたのだ…。
「はい…私です…。」
「やはり…貴女でしたか…、この部屋にあなたが入ってきたときもしやと思っていました…。」
ひとみ王子は一歩ヤグデレラの前に歩み寄ると
ヤグデレラの手をもった…
「よろしければ…私の…」
そう言いかけた時、つんく邸に一人の訪問者がやってきた。
168 :
黒雪姫6:02/05/18 23:11 ID:WvDTn3pw
舞踏会明けの朝方のことだった。
小人の家では、小人、辻希美が朝から忙しく動き回っていた。
白衣を着た辻希美はなにやら試験管やらアルコールランプやらを
弄っていた。
「ふぅ…。なるほどれすね。」
「なにかわかったん?のの。」
小人、加護亜依は白衣を着た辻希美に尋ねた。
「いやあ、このリンゴの成分結果が出たれすよ。」
ふちの太い眼鏡をくいっとあげと、
自信あり気に、足を大また開きで腰に手を当ててそう言い放つ。
「どんな結果だコノヤロっ!言えコノヤロッ!!」
「これは毒りんごの失敗作れすね。作っている過程で材料一つ入れ忘れているれすよ。」
「どういうことよっ!!結論いいなさいよっ!!」
「このリンゴは多量の睡眠薬入りのリンゴ状態になっているれす。不眠症のおねぇちゃんも
夜型のお兄ちゃんも一発で生活バランスを取り戻せる品物れすね。黒雪姫しゃんはこれを
一口食べて一時的に仮死状態になったれすが、今は睡眠状態に有るれすよ。」
「どうやったら起きんねん?」
「わかんないれす。てへへへ。とにかくお医者さんを呼んだほうがいいれすよ。」
誰でもわかるよ、そんなこと。
しかし、小人相手に話を聞いてくれる人間がいるかどうか…。
169 :
黒雪姫6 :02/05/18 23:12 ID:WvDTn3pw
「あ…」
「どうしたんれすか…?亜依しゃん。」
「ひとみ王子や、ひとみ王子やったら話し聞いてくれるかもしれへんよ?」
「そうよっ!!それっきゃないわよっ!!誰か伝えにいきなさいよっ!!」
「そうだコノヤロッ!!誰か伝えにいけコノヤロッ!!」
「金勘定が終わってませーん。」
「発音の勉強が…。」
「ののはダメれす。研究疲れれす。」
「ああ、ウチ…今日生理や…。」
視線が小人のリーダ保田圭に集中する。
「あ、あたしぃ!?」
「がんばるれすよ、リーダー。」
「あんたしかおらへんよ、リーダー。」
「さすがリーダー。」
「コネナシリーダー。」
「リーダーしかいないぞコノヤロ。」
「しょうがないわねぇ。わかったわよっ!!ヨッスィー王国行ってくるわよっ!!」
170 :
黒雪姫6 :02/05/18 23:12 ID:WvDTn3pw
「「「「「リーダーがんばって〜♪」」」」」
「何かしゃくに触るわねぇ、めんどくさいときはいつもリーダーリーダーって!!」
そして、保田圭は小人の家の隣りにある馬小屋から
ロバを引き出した。
小人に馬は乗れない、せいぜいロバ程度なのだ。
「じゃあいってくるわよっ!!」
「「「「「いってらっしゃ〜い。」」」」」
「クソッ!!ペッ、ペッ、ペッペッ。」
のんきに手を振る小人たちに唾を引っ掛けた。
そしてパッカパッカ数時間。
飛ばしているようにも見えるが、どう見ても鈍足。
ロバはバテバテ。
「ちょっとっ!!しっかりしなさいよっ!!しょうがないわねっ!!」
保田はベタベタなネタだとおもいつつ。
棒にヒモを付け、その先に人参を取り付けロバの前にぶら下げた。
「こんなんで…飛ばすわけが…。おおおおおおっ!!!!」
予想外の展開?
予想通りの展開?
「はやいわよっ!!ちょっとっ!!!うわぁっ!!」
落馬。
そして、一目散にロバは遥か彼方に走っていった。
171 :
黒雪姫6 :02/05/18 23:13 ID:WvDTn3pw
「ちょっとっ!!あんたっ!!戻ってきなさいよっ!!ここに人参あるのに何で
走ってるのよっ!!」
つまり、人参云々は関係がなかったようだ。
しかし運がいいことに、目前にはヨッスィー城、城下町が広がっていた。
「帰りどうしようかしら…。まぁいいわ。」
そして、保田は城下町へ入る。
人が激しく横行する。
ひときわ小さい彼女はそれを避けるのが必死。
やっとの思いで青果店の前へと辿り着いた。
ヨッスィー城へ向かう道を教えてもらう為だ。
しかし、人間が小人相手にまともに話を聞いてくれるかどうかという
一抹の不安があった。
「すいませ〜ん。ちょっと伺いたいのですが。」
「なんだいっ、小人じゃないか。」
人の悪そうなおばさんである。
完全に見下しているように見えた。
いや、背丈から考えれば見下しているのは当たり前なのだが。
「あの、ヨッスィー城へ行きたいんですけど、道を…」
「教えないよ。」
172 :
黒雪姫6 :02/05/18 23:14 ID:WvDTn3pw
(くっ……。)
教えないよと言いつつ、手のひらを保田の前に差し出す。
(そう言うことか…。)
保田はしぶしぶ、新垣のコネ袋から取ってきた銀貨を一枚渡す。
コネ袋とは新垣がいつか使うだろうと溜めておいたへそくりの事である。
パシッと勢い良く奪うと、手のひらの中身を確かめる青果店のおばさん。
「ここの道行ってってまっすぐよ。あんた城になんか用なの?」
「はい、ひとみ王子に会いに行くんです。」
「あらそう、ひとみ王子だったら今城下にいるわよ。」
「ど、どこに!?」
再び差し出される手。
(チィ…ケチね…マッタクッ!)
再び、保田は銀貨を一枚渡した。
「今頃はつんく邸に行ってるわよ。」
「それは何処に?」
再び手が…保田は舐められているとおもいつつ銀貨を払う。
「そこの角曲がって奥の家よ、さっき家来連れて向かってったわ。」
「ありがとう!!ケチババァ!!」
捨てセリフを吐き捨てて保田はつんく邸へ向かった。
そして、今つんく邸玄関に立っている。
つんく邸応接間では、ひとみ王子とヤグデレラが見つめ合っていた。
そんな空気に、嫉妬を覚えた継母達が
「「「失礼しますわ♪」」」
と、明らかな作り笑顔を浮かべて応接間を去っていった。
「おかあさまっ!?どういうこと!?」
「しらへんよそんなん!!こちがききたいわっ!!」
「あ…あれやな、ヤグデレラもウチの家の人間やし、一気に王族の仲間入りちゃうん?」
「お、いいとこに目をつけたなぁ、みちよぉ〜、せやな、これを機に便乗してまおっ。」
廊下でこそこそと団結しあう3人。
そんな時に、戸がドンドンを激しく叩かれているのに気がつく。
「なんやぁ〜?ちょお圭織でてきぃ〜。」
「え〜なんで圭織なのぉ〜ヤグデレラに行かせればいいでしょぉ〜。」
「アホッ、便乗したくないんか自分。」
「そりゃあ、したいけど。…わかったわよ、いけばいいんでしょ、いけば。」
ブツブツ文句をいいながら玄関のドアをあける。
「どなたー?」
いない…。
開けてみて、左右を見渡すが誰もいないのだ。
「どこみてんのよっ!!下よ!!下っ」
「ん?…キャアアアッ!!!お化けっ!!」
驚いた、1mも満たない生き物が話し掛けてくるのだ。
しかし、お化けといわれ不機嫌そうなこの生き物。
「お化けじゃないわよっ!!これでも小人よっ!!」
「な…なんなのよっ!!圭織がかわいいからってとって食おうってきなのっ!?」
「何で、あんたみたいなのを食べなきゃいけないのよっ!!ひとみ王子出しなさいっ!!
ここにいるんでしょっ!!さっき聞いたわよっ!!」
「な、なによっ!!ひとみ王子に何の用よっ!!」
「黒雪姫のことでって言えばわかるわよっ!!行かないと食うわよっ!!」
「ひぃぃぃぃ。」
大きく口開いた保田はおぞましく、本当に人を食うくらいの
勢いがあり、慌てた圭織は階段を急いで駆け上がって
何事かと呼び止めようとした母と姉を振り切って応接間へ飛び込んだ。
何事かと言う顔で全員が圭織を凝視する。
圭織は唾を飲み込んで言葉にならない言葉で必死に使えようとした。
「げ、玄関、こ、こ、こびとと、お、おば、おば、おばけ、く、黒、黒黒雪姫。」
そのわけのわからない言葉の中に
ひとみ王子は引っかかるキーワードを聞き取った。
ひとみ王子は少し神妙な面持ちをして跪いて興奮状態にある
圭織に尋ねる。
「玄関に誰かいるのかい?」
そう尋ねるとびくびく震えながらコクコクと何度も首を縦に振って答える。
「わかった。」
ひとみ王子が応接間を出て、玄関に向かうとそこには小人が
イライラした感じで立っていた。
「小人か…、珍しいな。」
そして、保田もひとみ王子に気がついた。
「ねぇ、あんたがひとみ王子?」
「そうだけど?」
「黒雪姫が大変なのよっ!!」
「黒雪姫が!?どういうことだ!?」
「実はね…」
保田は自分が知っている限りの出来事を話した。
城を追い出されて舞踏会へいけなかったこと。
小人の家に住んでいる事。
睡眠薬が多量に入ったリンゴを食べて起きない事。
そのすべてを簡潔に話した。
「そうだったのか…で、今何処に!?」
「小人の家にいるわよっ。」
「ありがとう、小人の家だね!!」
ひとみ王子は血相を変えてつんく邸玄関を飛び出すと馬にまたがった。
そこに駆け下りて息を切らしたヤグデレラの姿が。
「ひとみ王子様っ!!」
「ごめんヤグデレラ、また会いにくるよっ!!」
そういって、早馬で去っていった…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして…数時間が経過した。
保田は、荷馬車に乗せてもらい何とか小人の家に帰ってきたのだ。
「ただいまぁ〜。」
晴れやかな笑顔で戸を開く。
しかし、部屋の中にはどんよりした空気が漂っていた。
「あれ…?ひとみ王子は?」
新垣が立ち上がると、そんな疑問符を浮かべる保田に突っかかる。
「おばちゃんっ!!銀貨5枚取ったでしょう!!私の銀貨!!返してよっ!!!」
「ちょっと苦しいよ、新垣。あんたのコネ袋の中の銀貨はもうない、使っちゃった。」
「ひどいー!!!せっかくコネを作るために溜めてたのにい!!!」
新垣は泣きだすが、そんな新垣を尻目に加護が保田に話し掛ける。
「来てへんよ。」
「はぁっ!?あたし伝えたよっ!!血相を変えてここに向かったはずだよっ!?」
「来てへんよ。あの通り、黒雪姫も寝たままや…。」
「ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
そう、ひとみ王子は小人の家に現れなかった。
そして、これ以降もひとみ王子が小人の家に現れる事もなかったのだった。
その真相は、保田帰宅の3時間前にさかのぼった…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ひとみ王子は小人の森で思いっきり叫ぶ。
「小人の家わっかんねぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
相当のアホウである。
小人の森は知っているが、小人の家はわからなかったのだ。
しかも、保田を置いてきてしまった事でわかる術がなかった。
そんな時、目の前に二人の人影が見えた。
どうやら男女のようだ。
ひとみ王子は馬を走らせ、その二人の前まで行くと、馬を下りて声を掛けた。
「とまってくれっ。」
顔が似ている、目は離れていて若干肴顔。
姉妹のようだ。
「んぁ〜僕、ユウキデル。」
「んぁ〜私、マキーテル。」
自己紹介をしろと言うのでもないのに勝手に名を名乗る二人。
「「いえ追い出されて、魔女の住むお菓子の家さがしてんの。」」
「そんな事より…ちょっと…道を尋ねた…………う、美しい。」
「ほぇ・・・?」
赤い実はじけた。
ひとみ王子は、マキーテルという同い年くらいの女の子に
心を瞬間的に奪われた。
それと同様に、マキーテルもひとみ王子に一目惚れをしたのだ。
そして、ひとみ王子からマキーテルに自然とくさい言葉が吐き出されるのと
同時に、ひとみ王子はマキーテルの肩を抱いた。
ポッと頬を赤らませるマキーテル。
「OH!心が痛むというのかい?
う〜ん、BABYそれは恋...恋煩いさ。
きっと、僕とであったから…君は恋をしたんだね。
さぁ、もう大丈夫、僕はここにいるよ、
おいで、踊ろう!」
だから あわてず行こう 青年〜♪
そして、ユウキデルを置いたまま、ひとみ王子はマキーテルを馬に乗せて
城へ連れ帰り、その日に結婚式を挙げたとさ。
めでたしめでたし……………か?
翌日、朝
ヤグデレラは寝ずの夜をすごした。
当人はひとみ王子が迎えに来るとばっかりに、夜が眠れなかったのだ。
継母達はヤグデレラに対する態度を急変させ、
ヤグデレラに部屋と普通の服を与えてくれたのだった。
何もしなくていい生活に酔いしれた夜だった。
「う〜ん、眠い。ふぁあ〜。」
大きな欠伸をかくと、ついいつもの習慣で新聞を取りに行ってしまう。
そして、ポストを開けて新聞を朝一番に広げた。
「ハァッ!?」
目を大きく見開いた。
信じられない記事が一面に躍っていた。
『ひとみ王子・マキーテル電撃入籍。』
「うそ…。」
「うそじゃないべさー。」
ヤグデレラが後ろを振り返るとそこには魔法使い見習のなっちが立っていた。
「なっち!?なっち、どうゆうことよこれっ!?」
「簡単な話、ひとみ王子は惚れ癖があるべさ。すぐ人に惚れちゃう。」
「知ってたのっ!?」
「まぁ、舞踏会の日の深夜にひとみ王子の寝室に入り込んだときに日記見たべさ。
見てみたら今月だけで5人に惚れてるべさ。軽い男だべー。」
「そうなんだ…。」
落胆の表情を見せるヤグデレラにニタニタしながらなっちが
肩をポンポンと叩く。
「そんなヤグチに見合い相手を用意したべさ。」
そういうと、手からは瞬間的にぶ厚い見合い写真の束が。
「好きなの選べばいいっしょ。本当はそれぞれ見合い相手の女性が決まってたんだけど、
寝てもらって諦めてもらったべさ。どれも、上流貴族やら王族ばかりだべ。」
その証拠に、見合い写真を持つなっちの手が血塗られていた。
ヤグデレラは、見合い写真を広げた。
「うぉぉっ!!カッケーーーー!!」
「だべっ!?」
こうして、ヤグデレラは幸せになったそうな…。
暗い雰囲気が、翌日の朝になっても未だに小人の部屋を包んでいた。
そして、ひとみ王子が別の女性と結婚したことも、小鳥達から
小人たちに伝えられ、より一層暗い雰囲気に包まれていたのだった…。
「黒雪姫…かわいそうやで…ひとみ王子も失って…このまま眠ったままやなんてっ!!」
「そうれすよっ…かわいそうれすよー!!うわ〜〜〜ん!!!!」
「そうよね…まったく許せないわ、あの男!!」
「かわいそうだコノヤロッ!!」
「訛りが直らない…。」
「銀貨5枚ぃ〜〜うわ〜〜ん!!!」
それぞれが黒雪姫の周りで悲しみに暮れていた…。
その時、この部屋に芳しい香りが広がった…てか
「「「「「「ク、クサッ!!!!」」」」」」
「だれれすかっ!!!!こんな時にオナラしたのはっ!!」
「目、目が痛いっ!!ウ…ウチちゃうでっ!!」
「あたしでもないわよっ!!第一こんな臭いのしないわよっ!!!」
「は、鼻がい、逝くっ…わ、私でもありませんよぉ〜。」
「い、息が出来ないぞ!!コノヤロッ!!!コノヤロッ!!」
「私はオナラはしない!!コネはするっ!!」
「「「「「「ま、まさか…。」」」」」」
6人の小人の視線が寝ている黒雪姫に集中する。
「………ぃょ。」
「「「「「「ハァ?」」」」」」
幻聴かと思った…しかし、次の瞬間。
「しねーって言ってんだろおおおお〜〜〜♪」
黒雪姫が起き上がった。
「「「「「「お、おきたぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」」
「し、しないよ♪」
〜完〜
184 :
レイク:02/05/18 23:26 ID:WvDTn3pw
以上で『ヤグデレラと黒雪姫』完結です。
しばらく休養をとった後、新作については考えたいと思います。
一ヶ月間駄文を読んでくださり、ありがとうございました。
>>184 お疲れさまでした。
童謡と2ちゃんネタのコラボレート(意味わからないけど)
が絶妙でした。
次回作、期待しています。
面白かったです。
187 :
:02/05/19 02:19 ID:4av6RzVu
お疲れさまでした。おもしろかったです。
たっぷり休養してください。
そしてやぐたんシチュエーションシリーズを是非また書いて下さい。
レイクたん、お疲れ様でした。
次回作も期待してるからね〜♪
毎回、笑かしてもろうてます。
お疲れ様でした。
190 :
名無しむ:02/05/20 00:15 ID:0S7GTCs1
最後はこのオチでしたか・・・・笑わされたなぁ、今回も
レイクさんお疲れ様でした。
すごく面白かったです!
今回もとても面白かったです!!
レイクさんお疲れさまでした。
紺野ちゃんとごっちんの使い方が絶妙ですね!
ゆっくり休養してください。
新作期待してますです。
193 :
レイク:
>>185 今回の趣向が2ch+童話でした。
それが伝わっていたなら嬉しく思います。
>>186 ありがとうございます。
>>187 今日うpしました。
ありがとうございます。
>>188 次回作は一転変わってシリアス物でもやってみようかなと
考えています。
>>189 ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
>>190 はい、少々強引だったかと思います。
>>191 ありがとうございます。
>>192 じっくり次回作について考えていきたいと思っています。