ヨッスィー王国のヨッスィー城では朝から慌てふためく白髪の老いた家来が
王子を探して城内を捜し歩いていた。
「ひとみ王子様!!ひとみ王子様!!何処にいらっしゃるのですかっ!!」
その呼ぶ声はひとみ王子に聞こえていた。
しかしあえて聞かない振りをして、自室の窓をからでた所に有る屋根の上で
白い雲を眺めていた。
一点の汚れもない白い雲は自分の上を通り過ぎてゆく。
それが自分には乙に感じて、空を眺めるのが好きだった。
「王子様っ!!」
窓から外を覗いてやっと王子を探し当てる家来。
「なんだい?じぃ?」
「おやめくださいませっ!!じぃの心臓に悪いですっ!!じぃを殺す気ですかっ!!」
「べつにぃ〜。なんか雲がカッケーから見てた。」
「そんなもの窓からでも見えるでございましょう!!お戻りください!!もし王子様に
もしものことがあったらじいは王様に合わせる顔などございませぬ!!」
「ったくうるさいな。じいは。」
しょうがない…といった表情で、屋根を伝って窓へ入る。
「屋根の上はきもちいぞ、じい。」
この若者は、ヨッスィー王国の跡取、ひとみ王子。
齢17歳、ちょうどこの国では結婚を許される年である。
父親である国王は高齢のため、ひとみ王子に早く嫁を…と考えていた。
「王子様、王様より言伝があります。」
「なんだい?」
ベットに座って、聞く気もないように本棚から本を取り出す始末。
よく言えば自由奔放、悪く言えば適当。
「ひとみ王子様のお嫁をもらう為の舞踏会を開くとのことでございます。
舞踏会を開いて、王子様のお眼鏡のかなう女性を当日来た女性から選ぶようにと…。」
「はぁ?まだ結婚しねーよ。やりてー事いっぱいあるし。」
「ですが、王様はもうお年でございます、一刻も早く王子様にはお嫁をということなのです。」
「べつに今すぐじゃなくても良くないか?」
「王様は、ひとみ王子様のお子を早く見たいのであります、抱きたいのでありますよ。
王様の意思をくんでくださいませ。」
「そっかー…。」
ひとみ王子は本を閉じると遠くを見て顎に本の角をコツコツ当てている。
「それと…王様が最も皇太子妃としてふさわしい、お隣りの国、チャーミー王国
の黒雪姫様のところへじきじきに王子様が招待状を持っていくようにという言伝でございます。」
すると懐から、じいは一つの手紙を取り出し、ひとみ王子に手渡す。
「何これ…。」
裏を返すと
『チャーミー王国 王女黒雪姫様 舞踏会へのお誘い ヨッスィー王国 ひとみ皇太子』
と書いてあった。
「それを王子様じきじきに手渡してくだされ。」
「めんどくさいよ。」
そう言って、団扇代わりにするようにパタパタ自分の顔を仰ぐ。
まだまだ女性に興味を抱く年でないのか…
「でも…数年会ってないな、あそこ王妃迎えてから会ってないんだよな。
どんな美人になっているかな。わかった、行ってみるよ。」
そうでもなくないようだ。
ひとみ王子はさっそく、馬舎に向かい、
自分の白い馬にまたがると招待状をもって城を出たのだった。