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96ブラドック
【出兵】

 吉備で兵を集め出した真希のもとには、
次々と武将が兵を連れてやって来た。
これには吉備国王が前面支援している。
大和の姫様が報復で兵を挙げようというのだ。
これに協賛しなければ、義を外したということで、
大和から何を言われるかわからない。
そのためか、紗耶香に千人の兵を委託していた。

「紗耶香さん、二千人も集まったよ」

真希は自分の意思に賛同した兵が集まったことを、
素直に喜び、そして心強く思っていた。
紗耶香は海賊を二百名、義勇兵を三百名集めている。
圭や真里にも使者を送っており、兵力は確実に増えていた。

「宮様!」

圭が千人の兵を連れて駆けつけた。
山賊の荒くれを統一した圭たちは、
吉備正規軍も一目置くほどの勢力となっている。
真希は圭に三人の最期を涙ながらに話した。
全て聞いた圭は怒りに燃え、真希に臣従を誓った。

「圭さんは『保田狛犬圭比売(やすだのこまいぬけいのひめ)』って名乗ってね」
「狛犬?マジっすか!」

圭は二等辺三角形のことであり、
当時は槍を意味していたらしい。
実際、圭は槍隊を組織化しており、
圧倒的な攻撃力を武器にしていた。
真希は真里たちと一緒にするつもりだ。
真里たちの弓部隊に支援させ、
圭たちの槍部隊で突撃させる。
僅かに千五百人であるが、熊襲相手なら、
充分に力を発揮するに違いない。

「真希、真里が来たら出発しよう」

紗耶香は真希について行く。
真希の『意識』が覚醒した時、
彼女を止められるとしたら、
それは紗耶香だけであるからだ。
命の恩人ということもあり、
真希は紗耶香に名前を贈っている。
『市井猿楽紗耶香比売(いちいのさがくさやかのひめ)』
圭と真里と紗耶香の三人は、真希の参謀となった。
97ブラドック:02/05/31 19:07 ID:yJ/+EYY5
 真里が駆けつけると、参謀会議を開いた。
真里は兵法にこそ疎かったものの、
弓を使った支援戦法は熟知している。
更に、真里は細かいところに気がつくので、
後方部隊の管理を任せることにした。

「よし、一気に長門まで進出しよう」

真希の一声で出発が決まった。
参謀全員が頷き、熊襲征伐軍が動き出す。
真希たちが長門まで移動して行くうちに、
更に続々と将兵たちが参入して来た。
最終的には全軍で五千人にまで膨張し、
街道は威風堂々と進軍する真希たちを見ようと、
付近の住民で溢れかえっている。

 長門の熊襲が見える海岸にまで来ると、
土蜘蛛を介して多くの情報が飛び込んで来た。
こういった情報の収集は真里の役目である。
彼女は情報を整理しながら参謀会議で発表した。

「慰霊碑?祈祷所?」

土蜘蛛の情報では、梨華はふたつの建立指示を出していた。
それが何を意味するのか、真希には分からなかった。
しかし、紗耶香は話を吟味したうえで、ある結論に達する。

(梨華は何も知らないらしいな)

紗耶香はあえて何も言わなかった。
ここで何か言ったら、真希は挙兵を断念するだろう。
そうなれば、真希の中の『意識』が目覚めることもない。
どうしても紗耶香は真希の持つ『意識』を見たかった。
彼女は本人に『意識』を自覚させたうえで、
その命を絶とうと考えていたのである。

「明日、完成式典があるよね。あたしが潜入する」

真希の発言に全員が動揺した。
総指揮官が潜入するなど、前代未聞の大珍事である。
だが、真希にとって梨華は特別な存在であり、
どうしても自分の手で殺したかったのだ。

「いいだろう。圭、真里、後は頼んだよ」

紗耶香は自分も同行することを条件に、
真希の潜入を認めることにした。
梨華を殺したら城に火を放つ。
それを合図に、圭と真里が率いる主力が、
一気に攻め込むといった寸法だ。
98ブラドック:02/05/31 19:07 ID:yJ/+EYY5
「言いにくいんですが、宮様が死んだ場合には?」

真里が当然の質問をする。
圭は真剣に真希の回答を待った。
しかし、真希には自分が死ぬという考えがない。
これには仕方なく、紗耶香が答えた。

「みんな立派な指揮官ではないか。独自に判断しよう」

紗耶香には分かっていた。
真希が梨華を殺したとき、
恐らく『意識』が覚醒する。
それは果たして圭や真里に、
どう映るのだろうか。