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83ブラドック
【熊襲の村】

 翌朝、真希一行は村人に礼を述べながら、
用意してもらった舟で熊襲に向かった。
生まれて初めて舟に乗った裕子と充代は、
恐怖から顔面蒼白になって震えている。
そんな二人を真希とひとみは、
笑いながらからかっていた。

「あんまり怖がると、舟が沈むよ」
「ほんまかァァァァァァァァァー!」

裕子は眼を剥いて怯えた。
実をいうと、裕子はカナヅチである。
こんなところで放り出されでもしたら、
瞬く間に海の藻屑となってしまう。

「ね・・・・・・姐さん、舟は木でできとるで、簡単には沈まんよ」

充代に言われて裕子は納得した。
同時に、そんな常識すら忘れていた自分は、
かなり動揺しているのだと実感したのである。
その様子を見て、真希とひとみは声を上げて笑った。

「いよいよ梨華ちゃんの国だね」

真希は眼を輝かせた。ひとみは大きく頷く。
上陸用舟艇のように砂浜まで乗り上げると、
真希とひとみは後続の舟から馬を下ろした。
送ってくれた船頭に礼を言いながら、
一行は馬で近くの村を目指したのである。

 熊襲の人々の家は変わっていた。
木と竹を使って建てられていたが、
外壁というものが存在しないのである。
夏は涼しいだろうが、冬は寒いに違いない。
真希たちが馬を進めて行くと、村人が悲鳴を上げる。

「うわー!外人だー!」

村人たちは、滅多に見ない大和人に驚き、
初めて見る馬に仰天して逃げて行った。
真希は梨華から教わったカタコトの言葉で、
村人に安心するように告げてみる。
すると、怯えていた村人たちも、
興味があるからか、次第に集まってきた。
84ブラドック:02/05/27 21:05 ID:a8WnfR0o
「あたしたちは、梨華ちゃんに会いたいの」

ひとみもカタコトの言葉で喋ってみた。
すると、村人たちはとても親切に、
梨華の城までの道を教えてくれる。
このあたりの人々は本当に人が良い。
真希は持ってきた握飯を子供にやった。
美味しそうに握飯を食べる子供を見て、
村人たちは安心して歓迎の意を示す。

「真希、見てみいや。アケビに似とるで」

バナナを剥いた裕子は美味しそうに噛りついた。
村人たちは、パパイヤとバナナを持ってくる。
幼い頃、梨華が話していた熊襲の果物だった。
美味しい果物を食べて笑顔の真希とひとみの横で、
裕子と充代はパパイヤ酒やバナナ酒を味わっている。

「こらええな。つまみは木の実がええ感じやね」

一行は村に昼過ぎまで逗留した。
なぜなら、村人が気を利かせて、
城まで知らせに行ったのである。
もうじき、梨華の部下が迎えに来るだろう。
そんなことを思いながら、四人はゆっくりしていた。
85ブラドック:02/05/27 21:05 ID:a8WnfR0o
 紗耶香は巌流島から、真希たちが入った村を見ていた。
特殊能力を持つ彼女は、数キロ先まで見通すことができる。
紗耶香は低木の間から村を見ていたが、異変に気づいた。
かなりの大人数が、真希たちのいる村に接近していたのである。

「くっ!やけに早いな」

紗耶香が手を挙げると、褌だけの二人の男が現れ、
互いにガッチリと肩を組んで海に飛び込んだ。
紗耶香が男の背中に立つと、二人は猛烈な勢いで泳ぎだす。
男たちは海人と呼ばれる種族で、紗耶香たちの配下だった。

「急げ。真希だけは助けるんだ」

紗耶香が命令すると、スピードが上がった。
海人たちは三分に一回だけ呼吸をする。
それで数キロ泳いでも平気だった。
独自の酸素摂取法ができあがっていたのである。

(奴らは何をする気だ?)

紗耶香には村に押し寄せる軍勢の意図が分からない。
村を戦場にすれば、自国民にまで被害が及んでしまう。
紗耶香は集中して、部隊指揮官の『気』を探した。

(これは・・・・・・そういうことか)

紗耶香の表情が変わった。