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81ブラドック
【漁村】

 吉備から長門に入った真希たちは、一気に最西端まで進んだ。
妨害もなく進めたのは、真里が土蜘蛛系の根回しで山賊を押え、
紗耶香が同族の力で漁師を押えていたからである。
海岸を進む真希は、対岸に見える熊襲の大地に胸を躍らせた。
海を見ると、本州と九州の間に小さな島が見える。
後に宮本武蔵と佐々木小次郎が決闘をした巌流島だ。

「真希ちゃん、今日はどこかに泊まろうよ」

ひとみは真希に提案した。
もうじき陽が沈んでしまうため、
熊襲に渡るのは明日以降になる。
そして、舟の手配も必要だった。

「あそこの村で交渉しようや」

裕子の提案で、一行は二十戸ほどの漁村へ向かう。
すでに夕餉の時間ではあったが、真希たちが現れると、
小さな村は大騒ぎとなってしまった。
こんな僻地に大和の姫君が来たのだから、
それはとても名誉なことである。

「悪いんだけど、泊めてくれないかな」
「へへー!喜んで!」

ここでも真希たちは大歓迎された。
彼ら漁民は吉備と熊襲の保護があって、
生活が成り立っていたのである。
吉備の宗主国である大和の姫様は、
彼らにとって神に近い存在だった。

 真希とひとみは宴会の前に、
近くの小川へ行水に出かけた。
日中は妙に蒸し暑かったので、
少なからず汗をかいていたのである。
充代が見張りをしているので、
誰かに覗かれる心配はなかった。
82ブラドック:02/05/26 17:11 ID:67RmOABh
「ひゃー!冷たいな」

真希は震えながらも、元気に川へ入って行く。
ひとみも全裸になって真希に続いた。
二人で水をかけ合ったりしてしたが、
やがて、真希はひとみを抱きしめる。

「真希ちゃんは胸が大きくていいな」

ひとみは口惜しそうに呟いた。
確かにひとみの胸は小さい。
それもあって、よけいに彼女は
ボーイッシュに見えてしまっていた。
女性である以上、胸が小さくて得することは、
肩が凝らないことと、弓を射るときに
邪魔にならないことだけである。

「あたし、知ってるんだ。ひとみちゃん、本当はすごい力なんだよね」

真希はひとみの体を触りながら言った。
事実、ひとみは真希よりも力があった。
しかし、大好きな真希には絶対に手を上げない。
そのため、真希には知られていないと思っていた。
ひとみは長太刀こそ使わないものの、
凄まじく長い槍を平気で使いこなしている。
今回の旅には持ってきてはいないが。

「バレちゃったかな?」

ひとみは恥ずかしそうに舌を出した。
引き締まった顔をしていると男前のひとみも、
微笑んだ顔は本当に美しい少女であり、
それが真希を惹き寄せていたのである。

「ひとみちゃん・・・・・・」

真希はひとみにキスすると、
柔らかな草の上に押し倒した。
あたりには夕闇が押し寄せていたが、
夜目の利く紗耶香は二人の様子を、
少し離れた木の上から眺めていた。

(愛し合ってるか・・・・・・)

紗耶香は深く溜息をついた。
彼女に言い寄る男は多いが、
満足する相手ではなかった。
どの男も真希に比べれば、
雲泥の差だったのである。
それほどまでに真希は、
彼女にとって愛しい存在だった。

(明日は熊襲か。巌流島で様子をみよう)

紗耶香は隣の漁村へ向かい、
夜更けになってから舟を出した。