⊂⊃

このエントリーをはてなブックマークに追加
69ブラドック
【漫遊記伝説】

 浪速王国で歓待を受けた真希一行は、
翌日には吉備王国へと入って行った。
吉備王国は極度のインフレに見舞われており、
犯罪が多発している危険地域である。
首府の倉敷では、ストリートチルドレンが溢れ、
男の子は泥棒、女の子は売春婦となる運命であった。

「この先は危険やで。用心しいや」

裕子は全く使ったことのない懐剣を握った。
充代も緊張していたが、全く呑気なのが真希である。
彼女が武器として扱う長太刀というものは、
後に野太刀と言われる大型の太刀であり、
刃渡りだけで百二十センチはあった。
腰に差していたのでは、咄嗟の場合に抜けないため、
佐々木小次郎のように、背中に背負っていたのである。
実戦用の太刀であるため、その刃は厚くて重い。
江戸時代に武士が腰に差していた刀では、
首を刎ねることなど、まずできなかった。

「二人は安全なところにいればいいから」

真希は怯える裕子と充代に指示を出す。
多少の人数であれば真希一人で充分だったし、
大人数と出くわしても、殿軍が得意なひとみがいた。
追撃された場合、殿軍は重要な意味を持ってくる。
追撃を阻止して主力を逃がし、頃合を見計らって退却するのだ。
危険で慣れが必要だったが、ひとみには天性の素質がある。
馬術に長けているため、機動力があるのも一因だろう。

「ひとみちゃん、早速出たみたい」

真希の声に、全員が前方を見る。
すると、棍棒や竹槍で武装した集団が現れた。
十名程度の集団なので、真希一人でも充分だ。
しかし、真希は一応、説得をしてみる。

「どいてくれる?邪魔すると死んじゃうかもしれないよ」

裕子と充代は怯えて抱き合っている。
だが、真希とひとみは余裕の表情で、
二人は笑みさえ浮かべていた。
この態度に山賊の頭がキレた。

「何だと?謙虚なら馬だけで勘弁してやったものを。やっちまえ!」
70ブラドック:02/05/22 21:08 ID:VQFHP1Vj
山賊が拡翼に広がった。
この山賊の頭は只者ではない。
基礎的な兵法を知っているからだ。
倍以上の兵力差がある場合、
拡翼の陣は有利な隊形である。
一気に包囲して殲滅できるからだ。

「真希ちゃん、ちょっと気になるんだけど」
「うん、殺さないようにしよう」

真希は鞘ごと長太刀を構えると、先頭の男を殴った。
男は三メートルほど飛ばされて、白目を剥いて昏倒する。
ひとみは馬に積んであった六尺棒で、近づく連中を小突き回した。
瞬く間に山賊たちは倒されて行き、頭だけになってしまう。

「げげー!何でそんなに強いワケ?」

頭はびびりまくっている。
真希とひとみは頭に詰め寄った。
よく見ると、頭は男ではない。
狛犬のような顔をした女だった。

「ねえ、何で兵法なんか知ってるの?」

真希はびびりまくる女に聞いてみた。
女の話によると、彼女は圭といい、
元吉備王国治安部隊長官の娘らしい。
治安の悪化の責任をとらされた彼女の父は、
政治犯として投獄されてしまった。
圭は家族の連帯責任を逃れるために、
首府を逃げて山賊になったのである。
71ブラドック:02/05/22 21:09 ID:VQFHP1Vj
「そんなの、お父さんのせじゃないじゃん」

圭の話を聞いた真希は、理不尽な仕打ちに怒りを覚えた。
吉備の国王は真希の遠縁だったが、元々病弱であり、
各部族の首脳会議が最高決定機関となっている。
互いに自分の部族の利権だけを優先させるため、
国家としての機能を果たしていないのが実情だった。

「でもさ、山賊はダメだよ。何とかならないの?」

ひとみは圭を見捨てておけない。
彼女は本当に優しい娘だったが、
その後、この優しさが命取りになるのだった。

「兵法を使える山賊なんて、聞いたことがないで」

黙っていた裕子が話しに参入してきた。
裕子は年の功で、色々なことを良くしっている。
真希は裕子の知識の出番であると直感した。
裕子は圭から様々な情報を聞き出して行く。

「なあ、義勇軍を組織したらどうや?」
「義勇軍?」

圭は首を傾げた。真希とひとみも驚いている。
義勇軍とは正規軍とは別に組織した非正規部隊であり、
ベトナム戦争での民族解放戦線=通称・べトコンがそうである。
彼らは北ベトナムだけでなく、中国からも直接に支援を受け、
捨て身のテロやゲリラ戦でアメリカ軍を圧迫した。

「このあたりには、千人もの山賊がおるんやろ?」

千人もの武装した山賊を組織化できれば、
吉備東部に臨時の自治区を創ることが可能だ。
そこで大和や浪速からの支援を受けて力をつけ、
堕落した首脳会議の連中と戦うこともできる。
大和大王のつんく♂も、吉備の治安の悪さに閉口していた。
このままでは、大和勢力圏のお荷物になるのは、
火を見るよりあきらかだったのである。
そのため、圭が義勇軍を組織すれば、
つんく♂は喜んで支援を約束するだろう。

「あなたはいったい・・・・・・」

圭は真希をみつめた。
『黄門漫遊記』の発祥であった。
そんなワケないか!