⊂⊃

このエントリーをはてなブックマークに追加
282ブラドック
《真希の正体》

「まず、あんたに聞くで。真希は覚醒して、どうなった?」

貴子は、いきなり私に質問して来た。
彼女はどうしても神官であるため、
こういった会話が多いのだろう。
私は真希が一番最初に覚醒した、
熊襲での時のことを思い出した。
あの時、真希は非常に残酷となり、
破壊と殺戮を繰り返したのである。
真希は熊襲という国家どころか、
国民を一人残さず抹殺したのだ。

「そうや。真希は覚醒すると、残忍で破壊的になる」

真希の『意識』は、最初の覚醒で『同化』し、二度目で『独立』している。
今は暴走していないので安心だが、真希の中には日本武尊が同居していた。
まさか、三度目の覚醒は、今の真希が日本武尊になってしまうことなのか。

「そうなんや。三度目の覚醒で、確実に真希はいなくなる」
「そんな!真希はいったい・・・・・・」

日本武尊は死ぬまで殺戮と破壊を続けるだろう。
そうなったら、もう、敵も味方もないはずだ。
なぜなら、それが日本武尊だからである。
真希と同居している内は天才武将で通用するが、
完全に日本武尊になってしまったとしたら、
破壊と殺戮を繰り返す狂人になってしまうだろう。
そうなる前に、私は真希を殺さなくてはならない。
283ブラドック:02/07/26 20:13 ID:pF0EMx3F
「そうや。そうなったら、この世は終わりなんや。
何せ、真希の正体は須佐男命の化身なんやからな」
「す・・・・・・須佐男命だと!」

私は貴子の話に、自分の耳を疑った。
だが、貴子がウソを言うワケがない。
なぜなら、こんなところでウソをついても、
何のメリットもなかったからである。
真希を助けたいために草薙の剣を持ってきたはずだ。
だから、大王とは別の考えを持っているのだろう。

「須佐男命は知っとるな?」

須佐男命は戦の神であるが、同時に破壊と虐殺の神であった。
天照大神の弟であるが、高天原で暴れ回り、地上に追放された神である。
ヤマタノオロチを退治した話は有名だが、多くの大学者が研究したところ、
それは、大王家による異民族の虐殺であるという結論に達していた。

「真希と同じことをしている」

私は全てを悟った。大王が恐れているのは保身からだけではない。
本当に大王が恐れていたのは、全てを破壊されることだったのだ。
真希という須佐男命の化身が誕生したということは、今の時代が、
異民族とその文化に対し、破壊と殺戮を要求したからである。
要するに、大和による全国統一が必要になった時期であり、
そのためには、敵対する異民族を抹殺する必要があったのだ。
稲作による東国侵略の歴史的意図は、この列島が統一され、
外敵から自衛できるだけの軍事力を持つということである。
真希が必要とされるのは、大和の侵略が終了するまでであった。
それ以降は須佐男命のように、国内の破壊を始めるだろう。
284ブラドック:02/07/26 20:13 ID:pF0EMx3F
「ならば、圭と安倍を殺した時、真希の役目は終わるのか」
「まあ、そうやろな。それであんたが真希についとんのや」

さすがに貴子は私の使命を知っていた。
私が生まれたのは、真希を殺すためである。
今の状況からすると、圭を殺すのが先決だ。
圭を殺してから安倍を殺せば列島は統一される。
その時こそ真希は時代から抹殺されるのだ。
私という人間の手によって。

「納得したらしいな。分かったら、圭を討つんや」

圭を討つ?これも運命なのだろうか。
姉のように慕っていた真希が圭を殺すのだ。
その悲しみは測り知れないだろう。
恐らく、真希は完全に覚醒するに違いない。
真希の意識は消滅し、日本武尊だけが残るのだ。

「まってくれ。あたしには疑問が残ってる」
「もう答えは出たんや。後は自分で考えるんやな」

そう言うと貴子は広間から出て行った。
私は一人、床に手をついて考えてみる。
大王が真希を抹殺しようとしたのは、
姉の彩を追い出したからであった。
そうか!大王は彩と真希のどちらかが、
須佐男命の化身だと知っていたんだ。
大王は小心者だったが、大和の首長である。
真希を暗殺することはマイナスだった。
だからこそ熊襲を嵌めたに違いない。
しかし、真希には私たちがついてしまった。
真希を抹殺するには、味方になる者を、
徐々に殺して行くしかないのである。
列島の統一が終了直前である現在、
大王の不安は真希と圭に他ならない。
この両者が結託して軍事行動を起こせば、
いくら大和といえど、勝つことは不可能だ。
だが、互いに潰しあってくれるとなると、
それは大王の理想的な結果となる。
285ブラドック:02/07/26 20:14 ID:pF0EMx3F
「真里は子供を失って死を選んだ。大王は我が子を殺すのか?」

私には理解できなかった。親が子供を殺すなんて信じられない。
子供は自分の分身ではないのか?子供は可愛くないのか?
大王にしても『領民のため』などといった浮ついたことは思っていないだろう。
なるほど、これは列島の統一戦なのだ。真希はこうなる運命だったのである。
この運命は誰が欲したものでもない。今の時代が要求したのである。
その中では大王や真希などは、ただの部品にしかすぎないのだ。
時代が要求しなくなれば、価値のなくなった人間は、存在自体が害になる。
これまで自然と一緒に生きてきた真里たちは、それを知っていたのだろう。
真希にしても、列島を統一した段階で、存在の意義を失ってしまうのだ。
私はその真希を殺した時に、存在の意義をなくしてしまうに違いない。
大王にも真希の死を確認するといった重要な使命があった。

「そう考えれば、貴子の使命も終わりのようだな」

貴子は真希のことを私や大王に伝えるという使命があった。
他に使命がない場合、彼女の存在が無意味となる。
時代は使命が終わった者に、どういった対応をするのだろうか。
存在自体が害となる真希には「死」が訪れるだろうが、
それ以外の者に対しては、何があるのだろう。
私はそんなことを考えながら、大王の館を出て行った。