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263ブラドック
《毛野占領と安倍退治の挙兵》

 真希の覚醒した『意識』は不安定であり、
精神的な刺激があると暴走するようになった。
私以上に真里の死を嘆き悲しんだ真希は、
自分でも制御できずに『意識』を暴走させてしまう。
そのまま兵を引き連れて陸奥南部に攻め込み、
たった三日間で、実に五万人を虐殺したのである。
これまでに、これだけの殺戮を行った人間が存在しただろうか。
私は真希を殺さなくてはいけない時期に来たと思っていたが、
真里の死があまりにも重すぎて、行動を起せなかったのだ。

(大和の軍勢は遠江まで来ておるで。そろそろ潮時ちゃうんか?)

私の頭の中に話し掛けて来たのは、やはり貴子だった。
しかし、私は真里を救出して、この地で暮らすつもりだった。
そのショックは大きすぎ、私を腑抜けにしていたのである。
どうしたらいいんだろう。私は何も手につかなかった。

(選択肢は二通りしかないで。大和軍と対峙するか引き揚げるか)

大和と対峙する?
それも面白いかもしれない。
こんな状況を演出したのは大王である。
いまさら大王に媚をうったところで仕方ない。
いっそのこと、東国全てを支配し、折を見て大和と戦うか?
人脈を駆使すれば、浪速や吉備が中立を守ってくれるだろう。
こちらに圭が加われば、大和など簡単に全滅させられる。
真希は大王の娘であるから、帝位を継ぐ資格があった。
264ブラドック:02/07/23 19:31 ID:NUQXSQEH
(アホなこと考えんと。ええか?真希に必要なんは癒しやろ?真希だけでも尾張に帰すんや)

そうか、それがいい。
私は毛野に残って安倍を探す。
大和が何と言おうと、私は大王の家来ではない。
真希に関しては、最愛の亜依に癒されれば、
不安定な彼女の『意識』も落ち着くだろう。
私は真希が帰って来ると、東山道を使って引き揚げさせた。
そして翌日、大和軍五千人がやって来たのである。

「お前が市井と申す者か?」

大和軍司令官は、馬上から私に声をかけた。
私は無言で馬の尻に懐剣を突き刺す。
馬はすごい悲鳴を上げて暴れだし、
司令官を振り落として疾走して行った。
怒った司令官は私に掴みかかって来たので、
ボコボコに殴って丸坊主にしてやった。

「いいか?私は大王の家来ではない。言葉に気をつけろ!」

最初が肝心だったので、私は司令官に脅しをかける。
どうせ未開人相手にしか戦ったことのないヤツだ。
想像以上に文明が発達している毛野に驚いている。
ここは泣き所を突いてやらなけらばならない。
265ブラドック:02/07/23 19:31 ID:NUQXSQEH
「いいか?私の部下は千人足らずだが、住民を抱きこんで一揆を起すのは簡単だ。
貴様らに鎮圧ができるか?鎮圧に成功したとしても、あの大王が黙ってると思うか?」

大和軍が駐屯した傘下領内で一揆でも勃発すれば、
責任者せる司令官が無事であるワケがなかった。
派遣されたこの地で数年の任期を無事に終えれば、
帰国した時にはワンランク上のポストが待っている。
だから何かあっては困るのだった。

「私の言うことに従っていれば、無事に戻してやれるのだが」
「はははは・・・・・・はい!そうします」

バカな司令官で助かった。これで数年は楽に仕事ができるだろう。
私はこの男に、上手な報告の仕方と経営のノウハウを教えてやった。

 毛野は日本武尊の猛攻で田畑が荒れ果て、予想収穫高の七割しかなかった。
住民も予想以上に死亡しており、予定の税収を得ることは困難である。
とりあえず、予想収穫高の七割に従来の税収率を適用したものを送る。

「いいか?これで四万人分の食糧が確保できただろう?
まず、この内の半分は領民に返してやれ。それで民衆を掌握できる。
その時も、貧しい者を優先するんだぞ。不公平のないようにな。
残りは兵の食糧と、お前の取り分だ。これを使って出世すればいい」

要するに年貢をチョロまかすのだが、私は率先して裏帳簿の作り方を伝授した。
なぜなら、全て大和に年貢を渡しても、武器に化けるだけだったからである。
それならば、この地の住民も豊かになる方法を採った方がいい。
私はこの男を財布代わりに使い、当面の生活資金を得たのである。
266ブラドック:02/07/23 19:32 ID:NUQXSQEH
 翌々年、安倍の関係で重要な情報が入った。
ヤツは北出羽に勢力を広げており、
猛烈な勢いで周辺部族を呑み込んでいる。
私は毛野の稲の刈入れが終わると、
北出羽の安倍を潰すべく兵を集めた。

「これから北出羽の安倍を討ちに行く。兵を貸せ」

私は刈入れの時期を待って三千人を集めていた。
これで司令官が五千人の兵を供出すれば、
安倍を確実に抹殺することができたのである。
ところが、司令官は供出を断って来たのだった。
理由は大和からの命令だそうだ。

「だったら一揆しかないな」

私は伝家の宝刀を抜いた。これには司令官もびびりまくる。
一揆など起こされた日には、司令官の更迭は必至であり、
場合によっては、身分に関係無く生口にされてしまう。
司令官という最高位に近い身分から奴隷にされては、
何よりもプライドが許さなかった。

「分かりましたよ。その代わり、三千人だけですよ」

少々兵力に不安があったものの、今を逃すと安倍抹殺は不可能になってしまう。
私は部下千人と義勇兵二千人、大和兵三千人を率いて出陣した。
安倍の首を真里の墓前に飾ることが、私の人生を懸けた仕事だったのである。