くノ一娘。物語

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861たぢから
市警地下の病院に辿り着くと、ひとみはすぐさま治療を施された。

明日香が診たところ、全身の至る所を打撲していたが、スーツのお陰でここまで軽減されたと言う。
本来ならば、シャドウブレイカーに突き飛ばされた時点で、ほぼ即死であったはずだ。

「ま、この天才・明日香様の技術の賜物だね。それより…」
「それより…?」
「後藤、アンタこれからどうするつもり?」

明日香は真希に対し釘を刺した。
真希の性格を考えれば、今にでも紗耶香の元へ向かうことが容易に想像できた。
だが、月光紳士の二人が既に返り討ちにあっているのだ。
これ以上の痛手は避けたい。月光紳士の役割は紗耶香を倒すことだけではないのだから。
862たぢから:02/09/01 23:06 ID:tiFDoTGZ
「とりあえず今は仕事に戻ります。Mr.ハーフムーンである前に、記者・後藤真希ですから。」
「そうね。あの二人のことは私に任せておきなさい。すぐに蘇らせてあげるから。」
「お願いします、福田さん。」
笑顔でお辞儀をすると、真希は速やかにその場をあとにした。

明日香は病室に戻った。
目の前にはベッドが二つ。なつみとひとみだ。
共に、昏睡状態が続いている。

「早く目覚めてよ。アンタ達三人揃ってなんぼなんだからね…」
863たぢから:02/09/01 23:06 ID:tiFDoTGZ
「ふぅ〜…」
真希は市警庁舎屋上のフェンスにもたれかかっていた。
涼風に身をゆだね、高ぶる気持ちを落ち着かせる。

だが、彼女に感傷に浸る時間は与えられなかった。

『ごっつぁん、大変だ! センター街で暴動発生! 銃器をぶっ放して危険な状態だ!!』
真里からの通信が入った。

「やれやれ。一人しかいないのにね… やってやろうじゃないっ!!」

真剣な目つきに変わると、真希はMr.ハーフムーンに変身。
夜の街に飛び込んでいった。
864たぢから:02/09/01 23:09 ID:tiFDoTGZ
ハーフムーンウィンガーで一気にセンター街に近づく真希。
目の前には、銃器をぶっ放し、火炎瓶を投げ、殴り合っている群衆がいる。

「本当だ。人数も結構いるね。」
『アイツが来る前に全員確保したい。一気にカタをつけてちょうだい。』
「勿論、そのつもりだよ。」

真里との通信を切ると、真希は群衆の上空で旋回した。

「スライムボール発射!」

ベチャッ! ベチャッ! ベチャッ! ベチャッ!…

頭上というポジションは例えどんな達人だろうと絶対の死角である。
真上から間断なく降り注ぐ粘着物質によって、辺りは混乱した。

「今だ! 全員確保しろっ!!」
865たぢから:02/09/01 23:11 ID:tiFDoTGZ
その光景を影で眺める者がいた。
重厚な黒いバイクに跨り、黒いタキシードに身を包んでいる。
Mr.ムーンシャドウ・市井紗耶香だ。

「相変わらず生ぬるいな。やはりここは私の出番…」

ボンッ!!

だが、彼女がそう言い終わらないうちに、彼女の周りが煙に包まれた。
「くっ… これは…!! まさか真希っ!?」

空を見上げると、ハーフムーンウィンガーが旋回していた。
「市井ちゃん… これ以上アンタの好きにはさせないよ!!」

「ここはひとまず引くしかないようだね。だが次こそは…!」
真希が紗耶香を牽制しているうちに、機動隊は速やかに確保し終えた。
紗耶香は諦めざるを得なかった。
866たぢから:02/09/01 23:13 ID:tiFDoTGZ
一仕事を終え、モーニングタイムズ社に戻った真希にはもう一仕事残されていた。

「なあ、ごっちんさぁ、どうやって変身するの? 見せて見せて!!」

月光三紳士の正体を知ってしまった、好奇心旺盛女・平家みちよをどうするか、だ。
別に彼女の口が軽いとは思っていない。
ただ、外部の人間が自分達の正体を知っているとなると、いつか敵の標的にされる恐れがある。
部外者を巻き込みたくは無いのだ。

だが、目の前のみちよは、真希の心配など露知らず浮かれている。

「何かアイテム使ったりすんの? ベルトとか、メガネとか…」
867たぢから:02/09/01 23:15 ID:tiFDoTGZ
「ああもう、うるさぁい!!」
モーニングタイムズ社では比較的冷静な圭が怒鳴り声を上げた。
鶴の一声と言うか、何と言うか… 水を打ったように静かになった。

「あのさぁ、みっちゃんの好奇心はわかるよ。同業者としてね。
だけど、同業者ならば仕事を妨害していることにも気付いてよ!
只でさえ人手が足りないからって、カメラマンの私が校正やってんのよ!!
その上、締め切りまであと一時間ないんだからねっ!! 邪魔しないでっっ!!!」
半分正論、半分グチをぶつける圭。これには真希さえも閉口してしまった。

その時、終始静観を決め込んでいた(いちいち相手している暇が無かった)、編集長の裕子が口を開いた。
「よし、こうしよう。みっちゃんにはテレビ局のリポーター辞めてもろて、ウチに入ってもらう。どうや?」
「あ、それいいですね。人手は多いほうがいいですよね。」
編集長裕子の意見に、原稿を沢山抱えた梨華がすぐさま賛同の意を示す。
868たぢから:02/09/01 23:17 ID:tiFDoTGZ
当のみちよは…
「それは嬉しいけど… ハローテレビが許してくれるかな…?」

そのとき、平家みちよの携帯の着信メロディ(♪ムラサキシキブ)が鳴り響いた。

「もしもし平家です。あ、部長! え? クビぃ!? …はい、分かりました。」
どうやら月光三紳士を追う余り、本業を疎かにしてしまったツケが回ってきたらしい。
だが、それはそれで都合が良かった。

「ほな、これで決まりやな。」
かくして、平家みちよのモーニングタイムズ社入りがあっさりと決定した。
869たぢから:02/09/01 23:19 ID:tiFDoTGZ
「じゃあ、みっちゃん。早速やけど明日の記事の編集をやって欲しいんやけど。一時間以内にな。」
「OK。元リポーターやから文章をまとめるのは得意やで! 任せといてや!!」
晴れてモーニングタイムズの一員となったみちよは、
さっそく渡された原稿を物凄い勢いでまとめてゆく。
これには正社員である石川も、バイトの亜依&希美も拍手を贈った。

だが、彼女に任された“仕事”とは、これの他にもあったのだ。

「どうも… ガクトどぇす!」
「コーケコッコー!!」
(あ゛〜、うっさいわ!!)
870たぢから:02/09/01 23:21 ID:tiFDoTGZ
“仕事”のウェイトは、原稿の編集よりも、ものまね大好きコンビ・亜依&希美のお守りの方が高かった。

「平家さん、初日からこんなんですみません。」
「梨華ちゃん、気にせんでええよ。ウチ、うるさいのは慣れとるから。」
「いいえ。大して似てないものまねを見せてしまって、すみません…」
「は…?」

しばし目が点になるみちよ。
彼女はこの後、梨華の猪木のものまねを聞かされる羽目になる。
「なんだコノヤロー!」
(うっさいわ、このアゴン!!)