くノ一娘。物語

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851たぢから
その熱い戦いは十分近くに及んだ。
「でやああああああああああああ!!」
ひとみが振るうムーンライトソードは、何時にも増して速く、何時にも増して鋭かった。
どこにそんな力が隠されていたのかと言う程の凄まじさである。

「それがお前の全力か…」
だがムーンシャドウ紗耶香の方は眉一つ動かぬ冷静な表情で、ひとみの攻撃を全て受け止めていた。
そして、彼女には今尚もって余裕があった。
「…ならばこのMr.ムーンシャドウも全力を持って、お前を闇に葬り去ってやる。」
紗耶香の顔に邪悪な笑みが浮かび上がった。その表情にひとみは一瞬怖じ気付いた。
そして次の瞬間…
852たぢから:02/08/31 23:03 ID:8gPU0YVj
グサァッ!!

「あうっ…!」
紗耶香の繰り出したシャドウサーベルの一撃は、見事にひとみの腹部を貫いた。
ムーンライトのコスチュームである白いタキシードが紅く染まってゆく。
「はああああああああああああ!!」
紗耶香は強烈な攻撃を連続で繰り出してきた。
シャドウサーベルの刃がひとみの身体に刻み込まれていった。
腕が、肩が、脚が… 次々に傷つけられてゆく。
それに対しひとみは何をする事も出来なかった。
先程の一突きが相当応えた事もあるが、それ以前に両者の間には完全なるポテンシャルの差があった。
853たぢから:02/08/31 23:05 ID:8gPU0YVj
如何に強化スーツを纏っているとはいえ、ひとみは多少スポーツをやっていただけであり、
当初月光紳士に選ばれ、なんでも出来る紗耶香に比べて、肉体的ポテンシャルが圧倒的に低いのだ。
その差を根性で埋めるのは容易ではなく、限界を超えた能力で戦うことは身体の崩壊は進めるだけであった。

余りにも大きな力の差… それは時としてこの上なく無慈悲なものだ。
力ある者が何をしても許されるとは紗耶香でさえ思ってはいない。
だが信念や理想を語るにはそれ相応の力が求められるのも紛れも無い事実であった。
そして今、ひとみにはそれだけの力が無かった。

(信じられないよ… 一矢も報えないなんて…)
854たぢから:02/08/31 23:06 ID:8gPU0YVj
「うるあああああっ!!」
紗耶香の強烈な蹴りにより、ひとみは地面に強く叩き付けられた。
彼女の身体はもはや限界どころではなかった。
タキシードは殆ど紅で染まり、所々切り裂かれている。
仮面に至っては完全に粉砕されてしまった。

「他愛も無い。よくこんなのがムーンライトに選ばれたものね。」
「…うるさい…」
吐き捨てるように呟き、何とか自分を奮い立たせるひとみ。
まだ目だけは死んでいない。
855たぢから:02/08/31 23:09 ID:8gPU0YVj
「…うっとうしいね。そこまで死にたいんなら、とっとと葬ってやるよ。来い! シャドウブレイカー!!」

ブォォォォォォォン!!

「とうっ!」
紗耶香は相棒・シャドウブレイカーを呼び寄せると、飛び乗った。
「ブレイクモード・アクティブ!!」

黒い炎を纏い、全身凶器と化すシャドウブレイカー。
立つのがやっとのひとみに、一気に迫る!
そして…

ドォォォォォォン!!
856たぢから:02/08/31 23:12 ID:8gPU0YVj
「今の音は!?」
現場に向かって飛び続けていた真希の耳に入ったのは、大きな衝撃音だった。
「まさかよっすぃーが…!?」

あまりにも前回と似すぎたシチュエーションに、真希は胸騒ぎを抑えることが出来なかった。
フラッシュバックするボロボロのなつみの姿…
そして想像してしまうひとみの…

(ダメだ! 悪いことを考えてはいけない!!)
首を横に振り、ただ現場に早く着くことに専念する。
857たぢから:02/08/31 23:14 ID:8gPU0YVj
だが、ひとみと紗耶香が戦っていた地点には、誰もいなかった。
シャドウブレイカーのタイヤ痕以外、手がかりになる物は無かった。
いや、そのタイヤ痕こそが、勝負の結果とひとみの居場所を知る手がかりとなった。

崖の先まで一直線に伸びているタイヤ痕…
(あそこのタイヤ痕… まさか!)
真希は何かに気付いたのか、すぐさま崖の先に向かった。

だが、崖の高さは百メートルはあり、下は波が強く打ち付けていてよく分からない。
(とにかく下りるしかない。)
真希は一旦引き返すと、ハーフムーンウィンガーに乗って、崖を飛び立った。
858たぢから:02/08/31 23:15 ID:8gPU0YVj
一方その頃、崖下では…
「よっすぃー! よっすぃーっ! しっかりしろっ!」
誰かがひとみの身体を揺り動かす。
「…?」
そんな誰かの声に反応するかのように、ひとみは薄っすらとその目を開いた。
やがて焦点が合い、声の主の像が浮かび上がってくる。

「へ… 平家さん…?」
「そうや。しっかりするんや!」

それと同時に、ひとみは重大なことに気付いた。
格好がMr.ムーンライトのままだったのだ。
859たぢから:02/08/31 23:20 ID:8gPU0YVj
「へへ… バレちゃいましたね…」
「ごめんな。ちょっとつけさせてもろうたら、アンタがあの黒いヤツにやられるところやったんよ。
ほんで崖の下へ降りて、アンタを見つけたんや。ムーンライトが女やったなんて、ホンマ驚いたで。」

何故平家みちよがいたか。理由はこうだ。
ゼティマシティに来てから、彼女の月光紳士関連の情報収集はうまくいっていなかった。
それもそのはずで、市警とモーニングタイムズ社が裏で手を回していたからなのだが。
で、僅かでも情報を得ようと市警庁舎に入ろうとしたところ、裏から飛び出してくるひとみに気付いたのだ。

「一記者のアンタが、警察署の裏から出てくるなんておかしいと思うたんよ。だから…」

リポーターとしての勘が、彼女を動かし、ここまで導いたのだった。
860たぢから:02/08/31 23:23 ID:8gPU0YVj
「それより、早よ病院に連れて行かな。」
とみちよが携帯を取り出そうとしたそのとき、

「お〜い!!」
Mr.ハーフムーン真希が、飛び降りてきた。

「あれ? 何で平家さんが… って正体バレたの?」
「ハーフムーンはごっちんか… それより早よこの娘を病院に運ばんと!」

みちよにせかされて、真希は裕子達に連絡をとった。