くノ一娘。物語

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841たぢから
「それでは、只今よりMr.ムーンシャドウ(市井紗耶香)対策会議を開始する。」

ゼティマ市警の地下会議室では、今回の事件に関する会議が行われようとしていた。
議長を真里が担当し、彩、圭織、裕子、圭、明日香、そして真希が参加している。
尚、ひとみは一人でなつみの看病を担当し、
梨華、亜依、希美の三人は会社での編集作業に追われていた。

「まずは、ムーンシャドウが現れてからの“被害”報告を。圭織。」
「分かった。」
圭織がゆっくり立ち上がり、資料を読み上げる。
だが、誰も気が気でないのか、半分も聞いていない。
暴走族が壊滅したことよりも、紗耶香がなつみを倒した事のほうが気になっていた。
842たぢから:02/08/30 23:02 ID:itpCM9DX
「たっ… 大変ですぅ!!」
突然、甲高い声を響かせながら、梨華が飛び込んできた。
「石川、どないしたんや!?」
その様子が尋常じゃないと判断した裕子は、即座に訊ねる。
「よっすぃーが… よっすぃーがいなくなったんですっ!!」

「何ぃ!?」
と誰かが言うや否や、真希は立ち上がり、なつみの病室に一目散に向かった。
「ウチらも行くで。会議は中止や!!」
少し遅れて、裕子達も真希を追った。
843たぢから:02/08/30 23:06 ID:itpCM9DX
なつみの病室には、亜依と希美が待機していた。
「あっ! 後藤さんっ!」
「辻っ! 加護っ! 何があったの!?」
病室だというのに、激しく叫ぶ真希。

真希の剣幕に怯える希美に代わって、亜依が説明をする
「編集作業が一段落したから、安倍さんのお見舞いに来たんです。
でも丁度入れ違いに吉澤さんが出て行って…」
すると亜依はひとみの携帯を取り出した。
「これだけが… 残ってたんです…」
844たぢから:02/08/30 23:09 ID:itpCM9DX
『題名:勝負』

最初に目についたのは、誰かからひとみ宛に届いたメールの件名。
真希はおそるおそるスクロールボタンを押し、本文を読み始めた。

『吉澤ひとみへ。
 なっちは倒した。
 次はお前の番だ。
 この前と同じ場所で待つ!』

「『…市井紗耶香』!! まさか、よっすぃーは…!?」

真希の脳裏に嫌な予感がよぎる。
会議の前、ここに残ると言い出したのは他でもないひとみだった。
もしかしたら、その時既にこのメールを受け取り、抜け出す機会を伺っていたのでは…!

あわてて着信時間をチェックする真希。そして予感は確信に変わった。
「やっぱり…」
845たぢから:02/08/30 23:11 ID:itpCM9DX
「後藤っ!」
遅れて裕子達が病室に入ってきた。
だが、突然真希は入れ違いに病室を飛び出した。
「裕ちゃん、なっちを頼む!」
そう言い残して。

後藤は階段を一気に駆け上がり、市警庁舎の屋上に出た。
そして懐から半円状の変身アイテム・ハーフムーンコンパクトを取り出すと、素早く変身。
専用移動アイテム・ハーフムーンウィンガーに乗って、夜の闇に飛び出した。
846たぢから:02/08/30 23:11 ID:itpCM9DX
丁度その頃、街外れの崖の上――紗耶香となつみが戦ったところ――で対峙する二つの影があった。
市井紗耶香と吉澤ひとみだ。

「…どうして、私の携帯アドレスを知ってるんですか?」
「モーニングタイムズ社のコンピュータにアクセスして、個人情報を頂いただけさ。
有名な新聞社のクセに、あそこのセキュリティは甘すぎるね。」
ひとみも会社も見下したように言葉を発する紗耶香。
だがひとみは冷静に返す。
「余計なお世話です。それに、今重要な事は…」
「分かってる。何で私がお前を呼び出だしたか… だろ?」
「ええ。」
847たぢから:02/08/30 23:17 ID:itpCM9DX
「単純な話さ。お前みたいな甘チャンが、正義を名乗るのが馬鹿馬鹿しいと思ったからさ。」
「何だって?」
「お前もなっちも真希も、悪人退治はしても、悪人処分はしていない。
それがいかに愚かなことか、分かってるのか?」
「…」
紗耶香の気迫に押され、何も返せないひとみ。
「いくら刑務所に入れられても、どんなに刑期が長くても、いつか罪人どもは“罪を償って”出所する。
だが、そいつらはまた罪を犯す! 全く罪も無い人が被害を受ける! そんな馬鹿げた話があるか!?」
市井の剣幕はさらに酷くなる。
848たぢから:02/08/30 23:18 ID:itpCM9DX
「だからと言って、殺しては身も蓋も無いじゃないですか!」
ようやくひとみは紗耶香に向かって言い返した。
「そうかね?」
「ええ。仮に殺人犯を処分したところで、殺された人が蘇るわけではないじゃないですか!」
「“過ぎたるは及ばざるがごとし”か… 確かに、済んだことを蒸し返しても意味が無いね。
でも、その殺人犯を葬らねば、また誰かが犠牲になるに決まっている! それを見過ごせるか?」
「えっ!?」
「所詮警察も、お前たちも… 私だって同じだ。事件が起こらなければ動けない、後手後手の商売さ。
だから、可能な限り犯罪の拡大を防ぐことに努力する。そして私は、犯罪者どもを始末するんだ!!」
紗耶香の主張には、絶対的な自信が感じられる。
だが、ひとみとて引き下がれない理由がある。
849たぢから:02/08/30 23:18 ID:itpCM9DX
「じゃあ、安倍さんを傷つけたアンタも犯罪者ですね。私たちは同じ立場なんでしょ?」
ひとみは紗耶香の矛盾点を突いた。…はずだった。

「いや、違うね。」
「何だと?」
紗耶香の毅然とした態度に驚くひとみ。
「なっちは“正義”である私の邪魔をしようとした。なら当然立場は“悪”だ。だから倒した。
そしてお前も… 倒す!」

紗耶香はゆっくりとひとみに向かって足を進めた。
だが紗耶香は、ひとみの異変に気付いた。先程と場の雰囲気が全く違うのである。
「許さない…」
変わったのは雰囲気だけではない。その声色も…
850たぢから:02/08/30 23:21 ID:itpCM9DX
「そんな理不尽な理由で安倍さんまで… しかも“悪”だと…?」
ひとみはゆっくりと顔を上げた。
「アンタだけは許さない… 許す事は出来ない… 例え神が許そうと、この私は絶対に許さない…!」
ひとみの形相は、今までに見た事も無い程の険しいものだった。
して彼女の身体の奥から漲る闘気も、凄まじい程激しく、そして大きくなっていた。

「怒りがどこまで力になるかしら? さあ、どちらが本当の月光の紳士に相応しいか、勝負よ、吉澤!!」
「言われるまでもない!」
ひとみはムーンコンパクトを取り出し、天高く掲げた。
同時に紗耶香もシャドウコンパクトを両手で前に突き出した。

「変身! ムーンライト!!」
「変身! ムーンシャドウ!!」