くノ一娘。物語

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836たぢから
『手術中』

赤いランプが怪しく光る手術室前。
なつみを搬送した圭織、真希から連絡を受けた裕子、
そしてその裕子から連絡を受けたモーニングタイムズ社の面々、
そしてひとみは、沈痛な面持ちで立ち尽くしていた。

「みんな!」
現場検証を済ませた真里、そして真希が到着した。
すぐさま真里は圭織を引き連れて、市警本部へと向かった。
署長の彩とともに、緊急対策会議を開くことになったからだ。
837たぢから:02/08/29 23:05 ID:dx1gJdwK
「なっちは…?」
真希の問いに対し、首を横に振る裕子。
「…まだや。所々火傷してるから、手術が長引いているらしいんや。」
「そんな… 市井ちゃんがそこまでするなんて…」
膝を落とし、項垂れる真希。
誰もかける言葉を持ってはいない。

(市井さん… 一体アンタは何を考えているんだ…?)
廊下の壁にもたれかかり、腕を組むひとみ。
彼女の頭の中には、まだ疑問が渦巻いていた。
838たぢから:02/08/29 23:06 ID:dx1gJdwK
バンッ!

『手術中』表示灯が消えた。
皆、慌てて手術室の分厚い扉の前に並ぶ。

ガラガラガラ…

扉が開き、中からなつみが運び出される。
そして、手術を担当した明日香が姿を現す。

「明日香っ! なっちの容態はどない…」
「大丈夫! この福田明日香の腕を信じなさいって。ただ…」
「ただ…?」
「体よりも精神のダメージが大きいらしく、昏睡状態はしばらく続きそうね。
やるべき処置は全て施したから、あとはなっち次第… ってことになるわね。」
839たぢから:02/08/29 23:07 ID:dx1gJdwK
窓が無く、ただ蛍光灯の明かりだけがコンクリートの壁を照らす無機質な部屋。
そんな病室の大きなベッドに、なつみは置かれていた。
意識が回復しない為、数々の機器が取り付けられ、二十四時間彼女の容態をチェックする。
また、腕には点滴が数本差し込まれている。
痛々しい…

放心状態のひとみと真希は、なつみを看病する…
というよりは、ただなつみを眺めているだけだった。

だが、やがて高ぶった感情が凍った体を内側から溶かし、涙の栓を緩めた。
「どうして… どうしてだよ…」
840たぢから:02/08/29 23:09 ID:dx1gJdwK
ベッドの壁にうずめ、泣きじゃくる真希。
無理もない。姉のように慕っていた人によって、仲間が傷つけられたのだから。

市井と後藤の関係について詳しいことを知らないひとみは、ただうつむくだけ。
後藤にもなつみにも、かける言葉が無かった。


ブルルルル…

そんな中、ひとみの携帯電話が振動した。
(ヤバッ! ここ病院なのに電源を切るの忘れてた!!)
だが、携帯の液晶画面を見た途端、ひとみの表情が変わった。