くノ一娘。物語

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825たぢから
(なっち… 一体どこにいるの…)

Mr.ハーフムーン・後藤真希は、ゼティマシティ中を飛び回っていた。
なつみがいなくなったことにいち早く気付き、捜索していたのだ。
だが、なつみらしき影は少しも見当たらなかった。

(あとは海のほうだけか… ん!?)

方向転換をしたところで、ハーフムーンウィンガーのフロントパネルに微弱な反応が表示された。
これは月光三紳士の誰かの所在を示すものだ。
だが、この弱々しさは… まさか…!
826たぢから:02/08/28 23:02 ID:rwBLR8V8
真希はその反応の方へ向かって飛んだ。
彼女であるはずが無い…
彼女であるはずが無い…!
真希はそうそう自分に言い聞かせた。だが…

「あれは…!?」

真希がその時目にしたのは、何と無残にも全身に無数の傷を負い、
仮面も破壊されボロボロになっているMr.クレセント・安倍なつみの姿であった。
彼女はクレセントのまま、ボロ雑巾の様に放置されていたのだった。
827たぢから:02/08/28 23:03 ID:rwBLR8V8
「なっちぃ!!!」

高度数十メートルから一気に飛び降りる真希。
着地時の衝撃などものともせず、彼女は一目散になつみのもとに駆け寄る。

「なっち! しっかりして!!」

胸に耳を当て、心臓の鼓動を確認すると、真希は全身を揺さぶり、なつみに呼びかけた。
だが、彼女からは何の反応も無い。

(そうだ… とにかく病院に運ばないと!)
真希はハーフムーンコンパクトに内蔵されている専用無線機で、裕子に連絡をとった。
「裕ちゃん、早く来て! なっちが… なっちがっ…!!!」
828たぢから:02/08/28 23:05 ID:rwBLR8V8
「ごっつぁーん!!」
数分後、裕子の連絡を受けた真里と圭織が現場に到着した。

どうして真希が直接救急車を呼ばなかったかというと、
月光紳士はゼティマ市警とモーニングタイムズ社の極秘プロジェクト故、
公的機関の病院であっても、一般の手にゆだねるわけにはいかないのだ。
事実、なつみの怪我のことに関しては不審な点が多いのは言うまでも無く、
関係者以外の目に触れさすわけにはいかないのだ。

そしてなつみは真里と圭織が用意した特殊救急車によって搬送された。
行き先は、ゼティマ市警管轄の秘密の地下病院である。
829たぢから:02/08/28 23:07 ID:rwBLR8V8
なつみの搬送は圭織だけが担当し、真里は真希と共に現場に残った。

なつみのことで動揺している真希をよそに、真里は一警察官として、冷静に現場検証を行っている。
すると、なつみが倒れていた所から数十メートル離れたところに、タイヤ痕が残されていた。

「これはまさか…!」

何かに感づいた真里は懐から一枚の写真を取り出した。
それには、あるタイヤ痕が写されている。
そして… 二つのタイヤ痕はものの見事に一致した。

「…これは紗耶香のバイクに間違いない!」
830たぢから:02/08/28 23:09 ID:rwBLR8V8
ここで話は少しさかのぼる。

「勝負… あったね…」
「…ああ。」

暫く固まるなつみと紗耶香。
沈黙を破ったのは、紗耶香だった。

「どうしたの? はやく殺りなよ。」
「…出来ないよ。」
「何で?」
「私は“友情の光”Mr.クレセントだよ。友をこれ以上傷つけること、まして殺すことなんて…」
「…そういう甘い考えは捨てた方がいい!」
必死に説得するなつみに対して、紗耶香は冷酷な表情でなつみを睨み付けた。
831たぢから:02/08/28 23:11 ID:rwBLR8V8
「私は正義を守るためひたすら戦う! そして戦う事… 悪を葬る事… それが私の存在理由であり、総てだ!
もしアンタが私を傷つけたくない、殺したくないと言うのなら、それで結構よ。
だが、私の定義からすればアンタも悪の片棒を担いでいるに過ぎない。
それなら一瞬にしてアンタを葬りさるまでだ!」
「さ… 紗耶香…!!」
紗耶香の余りに明確な、そして余りに残酷な返答に、なつみは怖じ気付かずにはいられなかった。
そして市井紗耶香という女の絶大なまでの凶悪さに、震えずにはいられなかった。

「…でも、その状態のアンタに何が出来るの?」
それでもなつみは今自分が優勢であることを思い出し、紗耶香の喉元に槍先を近づける。
だが、当の紗耶香は依然として不敵な笑みを浮かべている。
832たぢから:02/08/28 23:12 ID:rwBLR8V8
「確かにシャドウサーベルが離れた今、私の手元には武器は無いわね… 手元には…ね。」
そこで紗耶香は一旦言葉を区切った。そして数秒置いて…

「シャドウランチャー・アクティブ!!」
「えっ… まさか…!?」

その時なつみは思い出した。
紗耶香には片腕と呼ぶには強力すぎる“相棒”がいたということに。
そして慌てて、その“相棒”の方を振り向いたが…
遅すぎた。

ドォォォォォォォォン!!!
833たぢから:02/08/28 23:14 ID:rwBLR8V8
「ああああああああああっ!!!」

Mr.ムーンシャドウの相棒、ムーンチェイサー改め“シャドウブレイカー”から発射された誘導ミサイル、
“シャドウランチャー”の爆撃にあい、なつみは全身を焼かれるような衝撃を受けた。

「ウィップモード・アクティブ!」
被弾直前になつみから離れた紗耶香は、地面に突き刺さっていたシャドウサーベルを抜き、
鞭型のシャドウウィップに変形させた。
そして、全身にダメージを受け、痛みでのた打ち回っているなつみを拘束した。
「これで形勢逆転だな。」
「うぅ…」
834たぢから:02/08/28 23:16 ID:rwBLR8V8
「なっち、最後に一つ訊くわ。」
「な… 何…?」
「こんなに酷い仕打ちにあっても、それでも私の事を友だと言える?」
酷な問いだった。もはや紗耶香はなつみのことを単なる邪魔者以下扱いしているに過ぎないのに。
だが、それでもなつみは微笑んで…
「言うよ。紗耶香は紗耶香だから…」

「…!?」
ほんの一瞬ではあったが、なつみの言葉が紗耶香の心を貫いた。
そしてわずかではあったが、紗耶香の顔に動揺が見られた。

だが、紗耶香は首を横に振り、迷いを振り払った。
835たぢから:02/08/28 23:19 ID:rwBLR8V8
「悪いけど、雑談はこれまでよ。じゃあね、なっち! シャドウサンダー!!」
「うあああああああぁぁぁぁぁぁぁ…!!」

なつみの全身に、強烈な電撃が走る。
なつみは口を大きく開け、天を仰ぎ…
力尽きた。

「甘い… 甘過ぎるんだよっ…!」
紗耶香はそう吐き捨てると、シャドウブレイカーに跨り、何処かへ去ってしまった。

真希が到着する、ほんの数分前の出来事だった。