くノ一娘。物語

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816たぢから
夕日を浴びながら二人の紳士は対峙し、互いに相手の出方を窺う。
殺気が走る。
紗耶香の髪が苛立ったように風になびき、なつみの額には汗がにじみ出ている。
どちらも迂闊に仕掛けられない状態にあった。

かつては会社の同僚であり、“月光紳士計画”のメンバーとして、互いに腕を磨きあった仲−ライバルである。
だが全く正反対の姿に変身した今の二人の間には、かつて親しい仲間であったことなど微塵も感じさせない程、
緊迫した空気が流れていた。
まるで、二人の周辺だけが殺気に包まれた異空間と化してしまったかのようだ。
ほんの僅かでも隙を見せれば、またたく間に相手の攻撃が炸裂する。
攻撃の間合いに一歩でも踏み込むのは自殺行為だ。下手に動けば即撃たれる。
互いがそれを熟知していた。
817たぢから:02/08/26 23:07 ID:rZaTzGrk
(ムーンシャドウ… 紗耶香は確実に心臓をぶち抜いてくる。)
なつみは息をつめて紗耶香の動きを凝視する。

(なっちは何をしてくるか読めない…)
紗耶香も相手に対する畏怖の念は同じだ。
だが…

(動いても死、動かなくても死… ならば動いたほうがいい。)
紗耶香は間合いを計り、ジリッと詰め寄った。
刹那、なつみが動いた!
818たぢから:02/08/26 23:12 ID:rZaTzGrk
ズバッ!

なつみの槍が鋭く紗耶香に襲い掛かる。
紗耶香は咄嗟にジャンプして避けた。

標的に向かってなつみは素早く移動し、何度と無く槍を放つ。
紗耶香はなつみが繰り出す攻撃を必死にかわす。

ビュッ! ビュッ! ビュッ! ビュッ!

クレセントスピアの連続技が、唸りを上げて襲い掛かってくる。
それ故、紗耶香は迂闊になつみの懐に飛び込むことは出来ない。
なつみの腕を熟知しているからこそ、防戦一方なのだ。
819たぢから:02/08/26 23:14 ID:rZaTzGrk
だが、槍をかわしている間に、わずかではあるがチャンスが訪れた。
一瞬、なつみがバランスを崩したのだ。
紗耶香はシャドウサーベルを突き出した。

ガッ!!

槍の切っ先と剣の切っ先がぶつかり、激しいスパークが起きた。

なつみと紗耶香は幾度と無く攻防戦を繰り広げた。
だが、互いに相手を倒すだけの決定的なダメージを与えられない。
820たぢから:02/08/26 23:17 ID:rZaTzGrk
「さすが紗耶香ね。相変わらず腕は確かだわ。」
「そっちこそ。」
吐く息が荒い。

「でも… 私は今のアンタに負けるわけにはいかないの。正義を守る月光の紳士、Mr.クレセントとして…
いや、一人の人間安倍なつみとしてね!」
するとなつみはクレセントスピアを上に翳し、三つに折り曲げた。
「チェンジ! トリプルロッドモード!!」
三連つなぎのヌンチャク、“クレセントトリプルロッド”に変形させのだ。

そして変形が完了すると、なつみの目つきが変わった。
「…!?」
821たぢから:02/08/26 23:21 ID:rZaTzGrk
「はああっ!」
次の瞬間、なつみは紗耶香目掛けて、トリプルロッドを突き出した。
先程よりも数段速い。
クレセントトリプルロッドは予想以上に伸びて、紗耶香の胸元を襲ってきた。

「うあっ!」
不意をくらった紗耶香は、攻撃を避けきれずに吹っ飛ばされ、そして地面に叩きつけられた。
だが、衝撃は少ない。宙で回転しながら受身を取ったからだ。

「さすがね。でもこれで終わりじゃないっ!!」
そう言うと、なつみはトリプルロッドを振り回し始めた。
822たぢから:02/08/26 23:22 ID:rZaTzGrk
(これでは軌道が読めない…!)
「くらえっ!」

一撃、二撃、三撃…
多方向からランダムに襲い掛かってくるトリプルロッドを、紗耶香は辛うじてかわす。
だが時間が経つにつれ、なつみの攻撃が徐々に掠るようになってきた。
シャドウサーベルである程度は防御できるが、それも時間の問題だった。

そして…
「はあああああっ!!」

バキッ!!
823たぢから:02/08/26 23:23 ID:rZaTzGrk
なつみの渾身の一撃は、紗耶香の頭部を捉えていた。
紗耶香は反射的にシャドウサーベルで阻もうとしたが、
力敵わず、サーベルは弾き飛ばされてしまったのだ。
さらに、それでもなつみの攻撃の威力を相殺することは出来ず、
紗耶香はそのまま仰向けに倒れてしまった。

「勝負… あったね…」
なつみはクレセントスピアを紗耶香の喉元に突きつけた。
さすがのMr.ムーンシャドウも、これでは動きが取れない。
「くっ…」
悔しさから奥歯をきつくかみ締める紗耶香。

雌雄を決する時が、近づきつつあった。