くノ一娘。物語

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809たぢから
翌日、モーニングタイムズの一面はMr.ムーンシャドウ一色だった。
勿論、“謎の黒紳士出現!”との見出しで、ムーンシャドウの名は出していない。

「『集まっていた暴走族のうち、半分死亡。彼の目的は一体何なのか!?』か…
さすがにあの人数を一度に“処分”することは出来なかったみたいだね。」
自分の古巣から情報を得る市井紗耶香。
あれ程のパフォーマンスを見せながら、まだ物足りないようである。

ピピーッ! ピピーッ!

「えっ!? これは通信を知らせる音… 一体誰が!?」
紗耶香恐る恐るアイテムを取り出し、通信回線をオンにする。

『紗耶香、私よ。』
「…!?」
810たぢから:02/08/25 05:01 ID:SJGm/lzZ
ゼティマシティのはずれにある崖。
そこに佇む一つの影があった。
黒いTシャツに、短パンという軽装の女性…
Mr.ムーンシャドウ・市井紗耶香だ。

そこにある人物が訪れていた。
「この姿で会うのは久しぶりね、紗耶香…」
「なっち… 何で私のとこに通信が出来たの?」
「明日香にちょっと手伝ってもらったわ。」
「なるほど… ちょっとアノ事を恨まれてるみたいね。」
紗耶香は自嘲気味に呟いた。
811たぢから:02/08/25 05:02 ID:SJGm/lzZ
なつみはしばしの沈黙の後静かに口を開いた。
「元モーニングタイムズの記者にして、Mr.ムーンライトの候補者… そして今はMr.ムーンシャドウ…
どうしてアンタはそう、私たちと袂を分つのかしら…」
「以前言ったはずよ。私の求める“正義”は月光紳士ではないってね。
私は私の意志で、私の“正義”を貫くことにしただけよ。」
「自分の妹分であるごっちんを敵に回してまで…?」

しばらく沈黙する紗耶香。さすがにそれには返す言葉が無いようだ。
だが…
「でもなっちさぁ、平和なゼティマシティ… それこそが私達の共通の目標だったよね。
いつまでも生ぬるいことしかできないアンタ達に代わって、私が現実のものにしてあげるよ。」
「鬼畜の行為を犯しながら理想を掲げるつもり? アンタのした事は、単なる殺戮でしかないわ!」
812たぢから:02/08/25 05:04 ID:SJGm/lzZ
激しくなつみの非難にあう紗耶香。だが、少しも動じてはいない。
「相変わらず甘いよ、なっち。私は先の平和の為を思って動いているのよ。
重要なのは行いではなくて、それによってもたらされる結果なんだよ。分かる?」
「未来の為に今汚名を被ると言うわけなの? 思い止まる事は出来なかったの?」
「今更何を… 退く事はないわ。所詮、アンタ達は臆病な平和主義者でしか無かった様ね。」
「臆病…?」
「そう。自分の手を汚さずに、少しの犠牲も生み出さずに、平和を作り出そうとなんて、臆病者の妄想さ。」
「紗耶香…!」
「平和と言う共通の理想を掲げる者同士、袂を分つ必要も無いけど無理に歩を共にする必要も無いわ。
それでも私を止めたければ、今すぐにでも挑んできな! 尤も、その為に一人で来たんでしょ?」
「ええ…」
「ならこれ以上は問答無用よ! なっち、勝負よ!!」
「…!」
813たぢから:02/08/25 05:06 ID:SJGm/lzZ
紗耶香は懐から円状の物体を取り出した。
掌サイズで、真っ黒に染まっている。
ひとみの変身アイテム・ムーンライトコンパクトに似て非なるもの…
漆黒の月をイメージした、“シャドウコンパクト”だ。
紗耶香はそれを両手で前に突き出した。

「変身! ムーンシャドウ!!」

シャドウコンパクトから闇のエネルギーが黒いオーラとなって、紗耶香を覆う。
次の瞬間にそれは物質化。漆黒のタキシード・シャドウスーツとなる。

「終末の闇… Mr.ムーンシャドウ! 全てを闇に葬る為、月の影より見参!」
814たぢから:02/08/25 05:12 ID:SJGm/lzZ
「紗耶香… 絶対止めてみせる!!」

なつみも懐から三日月形の変身アイテム“クレセントコンパクト”を取り出す。
そして三日月の弧を描くように、コンパクトを持った右手を左方向に曲げてすかさず前に突き出す。

「変身! クレセント!!」

眩い光に包まれて、白いタキシードに身を包んだ三日月の紳士が姿を現す。

「友情の光… Mr.クレセント参上っ!!」
815たぢから:02/08/25 05:13 ID:SJGm/lzZ
変身が完了すると、Mr.クレセントは素早く“クレセントロッド”を取り出した。
「チェンジ! スピアモード!」
と叫び、槍型のクレセントスピアに変形させる。

一方、Mr.ムーンシャドウも自分の“シャドウロッド”を取り出し、
「サーベルモード・アクティブ!」
こちらはレイピア型のシャドウサーベルに変形させた。

「この姿になった以上容赦はしないよ、なっち… いやMr.クレセント!!」
しなやかな剣先をなつみに向ける紗耶香。
「分かってる。私も私の事をするだけよ。」
なつみも槍を握り締め、その先を紗耶香に向けた。