くノ一娘。物語

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797たぢから
「二人とも教えて! あのムーンシャドウって誰なの? 一体何なの!?」
会社に帰ってくるなり、ひとみはなつみと真希を問いただした
肩を激しく揺さぶられるなつみと真希。
だが二人とも固く口を閉じ、ひとみと視線を合わそうとしない。

「…仕方ないな。」
「言うしか、ないみたいね。」
編集長の裕子、カメラマンの圭が重い腰を上げる。
彼女達もまた、表情が暗い。

「この中でアイツのことを知らんのは、よっさんと石川と、辻加護か…」
その声につられて、梨華と希美と亜依も集まる。
798たぢから:02/08/24 07:15 ID:LQUj5JSP
「実はな、この“月光紳士計画”はよっさんがココに入る前に発動する予定やったんや。」
「え?」
「つまり、ムーンライトは吉澤じゃなかったの…」
「…!」

驚きのあまり声のでないひとみ。
すると黙秘を続けていた真希が、口を開いた。
「ここから先は… 私が話したほうが良さそうだね…」
「ごっちん…!」
「いいんだよ、なっち。いつかこの時が来る気がしてたんだ。」
なつみに力無く微笑むと、真希はひとみの方を向いた。
799たぢから:02/08/24 07:17 ID:LQUj5JSP
「ムーンシャドウと名乗ったのは市井紗耶香。かつて“モーニングタイムズ”の記者だった人…」
真希はデスクの引き出しから一枚の写真を取り出すと、それをひとみに見せた。
そこに写っているのは、真希と頬をくっつけた笑顔の女性。
髪が短くて、ひとみとは違った意味で男性的な印象を受ける。
「市井… 紗耶香…」

「市井ちゃんは… って私はそう呼んでたんだけど… 正義感が強くて、しっかりした人だったんだ。
駆け出しの頃はよく世話になったし、姉のように慕っていたわ… だけど…」
そこで真希は言葉を詰まらせた。
やはり黙秘を続けていた大きな理由がそこにあるのだろう。

そこでなつみが口を開く。
「続きは私が話すね。紗耶香は正義感が本当に強くて、その記事はどんな武器より強かった。
“ペンは剣より強し”ってヤツね。…でもいつからか、人が変わってしまったの。」
800たぢから:02/08/24 07:18 ID:LQUj5JSP
犯罪者は絶対悪!
一人も生かしてはおけない!
即抹殺すべし!

これはその頃の紗耶香の記事に使用されていた見出しの一部だ。
勿論こんな見出しで“モーニングタイムズ”を発行できるはずも無く、
記事ごと編集長裕子に削除・校正されている。

「そしてある日、紗耶香は忽然と姿を消し… 今Mr.ムーンシャドウとして、再び姿を現した。」
801たぢから:02/08/24 07:22 ID:LQUj5JSP
「チョット待って! じゃあ、あの市井って人は何で私たちと同じスーツを纏ってるの!?」
「紗耶香が持ち出したんだよ。プロトタイプの“月影モデル”を…」
「プロトタイプ!?」

「そこからは私が話すわ。」
現れたのは、白衣に身を包んだゼティマ市警の科学研究班長・福田明日香だ。
彼女はIQ180以上を誇る天才で、月光紳士スーツの開発の中心となった人物である。
また、医者の免許をはじめ、ありとあらゆる資格を持っている。

「月光紳士スーツの量産型が出来上がったあと、月影は私が後の研究の為に保管していたんだけど…」
802たぢから:02/08/24 07:23 ID:LQUj5JSP
月影は明日香特製のカプセルに封印されていた。
外部は特殊合金で覆われ、どんな刃物でも切れなければ、どんなバーナーでも溶かすことも出来ないものだった。
だが…

「紗耶香のヤツは私の目を盗んで、カプセルを開けてしまったの。」
「どうやって… ですか?」
「電子ロックをハッキングして解除したの。アイツにとっては簡単なことだったみたいよ。」

電子ロックのパスワードは複雑で、明日香はそのセキュリティに自信があったのだが、
紗耶香のハッキングはそれを見事に打ち崩してしまった。
803たぢから:02/08/24 07:25 ID:LQUj5JSP
「じゃあ、あのバイクも…?」
「そう。“ムーンチェイサー(仮)”って言ってね、本当は月光紳士用移動アイテムのはずだったんだけど、
紗耶香が月影と一緒に持ち出し、戦闘用に改造したのよ。」
その為、ひとみ達月光三紳士の移動アイテムはグライダーになっている。

だがひとみの疑問はまだあった。
「どうして今になって現れたの…?」

「さあ… それは本人に訊いてみないと分からないけど、どこにいるのか分からないからね。」
なつみの言うことは至極当然のことであった。
804たぢから:02/08/24 07:27 ID:LQUj5JSP
結局、それ以上Mr.ムーンシャドウ・市井紗耶香の事に関して話されることは無かった。
なぜなら、翌日のモーニングタイムズの編集作業が残っていたからだ。
Mr.ムーンシャドウの登場で、紙面の大幅な手直しが要求されたのは言うまでもない。
正直ひとみは気が進まなかったが、あくまでモーニングタイムズの一員である。
とりあえず原稿を書くことに専念した。

一方そのころ、なつみは明日香と話をしていた。
「明日香、私は紗耶香を止めようと思う。」
「止めるって… アイツが動きを見せなければ、こっちも何も出来ないわ。」
「一つだけ方法があるわ。それには明日香の力が必要なの。お願い。」
「…分かったわ。でも本当に一人でやるの?」
「勿論。よっすぃーには関係ないし、ごっちんには重荷だからね。」
805たぢから:02/08/24 07:28 ID:LQUj5JSP
翌日、モーニングタイムズの一面はMr.ムーンシャドウ一色だった。
勿論、“謎の黒紳士出現!”との見出しで、ムーンシャドウの名は出していない。

「『集まっていた暴走族のうち、半分死亡。彼女の目的は一体何なのか!?』か…
さすがにあの人数を一度に“処分”することは出来なかったみたいだね。」
自分の古巣から情報を得る市井紗耶香。
あれ程のパフォーマンスを見せながら、まだ物足りないようである。

ピピーッ! ピピーッ!

「えっ!? これは通信を知らせる音… 一体誰が!?」
紗耶香恐る恐るアイテムを取り出し、通信回線をオンにする。

『紗耶香、私よ。』
「…!?」