くノ一娘。物語

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769たぢから
二年前…
ゼティマシティ郊外のある料亭で、三人の男性が殺された。

ゼティマ市警署長・和田薫
モーニングタイムズ社長・寺田光男
UFA銀行頭取・山崎直樹

三人とも、ゼティマシティでは知らぬ者はいないほどの有名人である。
表向きは、仲良し三人組の忘年会での惨事ということにされたが、
この三人は普通の友人関係とは異なる、もう一つの結びつきがあったのだ。
770たぢから:02/08/18 00:15 ID:SN6bCSQ7
“月光紳士計画”

犯罪都市ゼティマシティの汚名を返上すべく、ゼティマ市警が極秘に開発をすすめていたプロジェクトだ。
市警はUFA銀行の資金バックアップの元、戦闘用特殊スーツの開発を進め、
ゼティマシティ一のメディアであるモーニングタイムズは、スーツ装着員の供出と、
メディアでの立場を活かした擬似的な報道抑制の役割を担うことになった。

そう、計画は極秘のうちに進められていたはずだった…

その日、料亭に三人が集まったのは、計画の成功を祈願しての祝会だった。
スーツは既に完成。装着員も決まっていた。あとは実行するだけ…

だが、和田・寺田・山崎の三名は、月光紳士の活躍を目にすることなく、この世を去った。
771たぢから:02/08/18 00:16 ID:SN6bCSQ7
月光紳士計画の情報が何者かに漏れている。

新署長・石黒彩の出した結論だ。
物取りの形跡がない以上、犯人は三人に共通する敵を考える以外ない。
すると自ずと導かれる結論がこれだ。
計画発動寸前という、牽制という意味であれば絶好のタイミングである。
だが、それ以上鮮明な犯人像が浮かび上がってこなかった。

そこで彩と裕子は相談の上、計画の続行を決意した。
目的は二つ。
当初の予定どおり、犯罪撲滅の為。
そして、闇に潜む犯人をおびき出す為だ。

こうして、“月光紳士計画”は発動。
Mr.ムーンライト、Mr.ハーフムーン、Mr.クレセントが姿を現すこととなったのだ。
772たぢから:02/08/18 00:17 ID:SN6bCSQ7
「ゴメン… 何かいらんことを思い出させてしもうて…」
頭を何回も下げるみちよ。
何にでも首を突っ込む迷惑極まりないリポーターではあるが、彼女に良心がないわけではない。

「ええんや。ウチらがジャーナリズムを突き通すこと…」
「私たちが正義を守り抜くことが、彼らの意思だから。彼らの死を乗り越えて、今の私たちがあるのよ。」
まっすぐな瞳の裕子と彩。
(この人たちは強いな…)
というのがみちよの率直な感想だった。

「ま、辛気臭い話はやめや。せっかく彩っぺ達を呼んだんやから、パーッと騒ごうや!」
「え?」
「平家みちよ歓迎会の二次会や。みんなで晩飯→居酒屋→カラオケとハシゴするで!
石川とよっさんと辻加護は編集よろしく!」
「わかりました!」
773たぢから:02/08/18 00:19 ID:SN6bCSQ7
というわけで、みちよは近くのレストランに連れられた。
「おーっす! ミカちゃん&アヤカ!」
「ナカザワさん、ひさぶりデーッス!」
「イラッシャイマセー!」
「今日は特別ゲストやから、スペシャル頼むで!」

日系アメリカ人、ミカとアヤカが経営する南国レストラン“ココナッツ”は、
小規模ながらゼティマシティ一の味を誇る有名料理店だ。
夜ともなれば、数々のカップルや会社帰りのサラリーマン・OL達で店は満杯になる。

「ウチらのオゴリやから、存分に召し上がってや。」
「どうも、ご馳走になります。」
みちよもその数々の料理に舌鼓を打ったのであった。
774たぢから:02/08/18 00:20 ID:SN6bCSQ7
「それでは、平家のみっちゃんのモーニングタイムズ訪問を記念して、乾杯っ!」
「カンパァ〜イ!!」

一行の歓迎会は三次会、居酒屋“そにん”へと移行していた。
既に日付が変わろうとしていた。
ちなみにこの店を一人で切り盛りする女将(といっても矢口と同い年)ソニンは、
故・前署長和田薫と知り合いで、情報屋としての裏の顔を持っている。
裕子がこの店の常連であるのは、酒好きであること以上に、様々な情報を仕入れるという目的があるからだ。
775たぢから:02/08/18 00:21 ID:SN6bCSQ7
「はぁ〜い、生ビール大ジョッキですよ。」
「ソニンちゃん、さんきゅー! みっちゃん、勝負や!」
「ウチを舐めたらアカンで、裕ちゃん!」
すっかり打ち解けて、愛称で呼び合う裕子とみちよ。
なみなみとビールが注がれたジョッキを手に持ち、向かい合う。

「それじゃ、よーい… スタ〜トっ!!」
真里の合図でビール一気飲み勝負が始まった。

「一気っ! 一気っ!」
学生のコンパではご法度とされる掛け声だが、ここにいるのは皆成人である。
二人の飲みっぷりに、ギャラリーは盛り上がる。
776たぢから:02/08/18 00:23 ID:SN6bCSQ7
そんな中、彩の携帯が振動を始めた。そっと席を外し、店の外に出る。
「もしもし。こちら石黒… なんだって!?」

彩はすぐさま店の中に戻り、圭織と真里、そしてなつみと真希と圭に目で合図する。
(事件だよ。すぐに来て!)

都合のいいことに、みちよはたった一回の一気飲み勝負で酔いつぶれていた。
堂々と退席の上、現場に駆けつけることが出来る。
ちなみに、裕子とみちよ以外は酒を一滴も飲んでいない。
ソニンが用意した模擬飲料(日本酒に見せかけた水etc)で誤魔化している。
後処理を裕子に任せ、彩達六人は眠らない街に飛び出した。
777たぢから:02/08/18 00:24 ID:SN6bCSQ7
「二人とも酒臭いよ…」
先に現場近くに到着していたひとみは、なつみと真希のアルコール臭に耐えられず、鼻をつまんで手を扇ぐ。
「裕ちゃんとみっちゃんが飲んでたビールとかの移り香だよ。それよりいくよ。」
「OK!」

三人は懐からそれぞれの変身アイテムを取り出した。
ひとみは満月型の“ムーンライトコンパクト”
真希は半月型の“ハーフムーンコンパクト”
なつみは三日月形の“クレセントコンパクト”だ。
音声認識による変身機能は勿論のこと、通信機にもなっている。

「「「変身っ!!!」」」
778たぢから:02/08/18 00:26 ID:SN6bCSQ7
事件とは繁華街の暴動であった。
ちょっとした喧嘩が飛び火し、大暴動となっている。
原因は些細なことなのだろうが、ひどく酔っているためか、自制できていない。

「酒が絡むとどうして人間はこんなにも変わるのかねぇ…」
呆れながら酔っ払い共を検挙する真里。
深夜なので機動隊の召集が遅れ、なかなか暴動は沈静化出来そうに無い。
「早く止めてやってよ… 三人組!」

「矢口達苦戦してるね。」
「とりあえず水でもぶっ掛けて目覚まさせたほうが早そうですね。」
「この辺りにある消火栓と消火槽の位置調べよう。サーチモード!!」
月光紳士の仮面は特殊スコープになっていて、様々な物をサーチできるのだ。
「あそことあそことあそこか… じゃあ、早速作戦にとりかかるよ。」
779たぢから:02/08/18 00:27 ID:SN6bCSQ7
「う゛〜〜〜〜…」
翌朝、みちよは居酒屋“そにん”近くの公園で目が覚めた。
「みっちゃん、案外酒に弱いんやな。」
傍には裕子が座っている。
「ウチ、記憶がないんやけど…」
「一気飲み勝負で酔いつぶれて、ず〜っとおねんね。あの店は早朝五時に閉店だから、追い出されたってわけ。」
「アチャ〜… 随分迷惑かけたね。…で、他の連中は?」
二日酔い状態でも、周りの状況を瞬時に判断できるのは、さすがである。

「ああ、そのことなんやけどな…」
と裕子が話し始めたその時、

ブルルルルルルルルルル…
780たぢから:02/08/18 00:28 ID:SN6bCSQ7
「はい、もしもし。平家です…」
『ちょっと平家さん! 夜中どこほっつき歩いてたんですかっ!?』
電話の声は、みちよの相方・カメラマンの松浦亜弥だ。

「な、何かあったんか!?」
『昨日深夜、繁華街で暴動があってMr.ムーンライト達が現れたんですよっ!』
「何やて!?」
『せっかくのスクープを逃したって事で、部長が怒ってますよ。早く戻ってきてください!』
「わ、わかった! 裕ちゃん、昨日はありがとなっ!」

電話を切ると、みちよは一目散にハローテレビに戻った。
781たぢから:02/08/18 00:29 ID:SN6bCSQ7
『水でもかぶって反省しなさい! 繁華街の暴動を、月光三紳士が鎮める!!』

これは今朝配られた“モーニングタイムズ”の号外だ。
「こんなことがあったんや… だから皆いなくなってたんか… しもうたぁ…」
溜息しか出ないみちよ。二日酔いも手伝って、デスクに倒れ伏す。

「一体どうなっとるんや… 月光紳士もモーニングタイムズも…」

月光紳士とモーニングタイムズとの接点が見出せないまま、みちよは一時退く事にした。
これ以上モーニングタイムズに関ると、体力気力がもたず、仕事に支障があるのは言うまでも無い。
不本意ではあるが、しばらくは本業に専念することにした。
782たぢから:02/08/18 00:30 ID:SN6bCSQ7
一方その頃、ある街のある廃工場で同じ記事を読む一つの影があった。
黒いTシャツに、短パンという軽装の短髪の… 女性だ。

「相変わらず生ぬるい連中だね。そんなことじゃ、ゼティマシティの平和なんか訪れやしない…」

ビリビリッ!

号外を破り捨てると、その女性は姿を変える。
黒いタキシードに黒いアイマスク…
Mr.ムーンライトと瓜二つの、黒い紳士に。

何かが動き出そうとしていた。