くノ一娘。物語

このエントリーをはてなブックマークに追加
730たぢから
「はぁ… なんて大きな街なんや。」
マイク片手に街の中を歩く女性。そして…
「ちょと待って下さいよぉ、平家さん。」
その後をテレビカメラを担いで、付いて回る女性。
「松浦、私について来れないようじゃ、一人前のカメラマンとは言えないよ。」
平家と呼ばれた女性は、松浦というカメラマンに振り向くことなく、どんどん街中へと踏み込んでゆく。

(この猪突猛進リポーターめ… あとで担当替えてもらいたいわ。)
リポーター平家の専属カメラマンになったばかりの松浦は、既に諦めていた。
731たぢから:02/08/10 05:18 ID:mQ3SVhB8
「よし、あの人達にインタビューしてみようか。」
と、平家が指差す先には、髪を染めたり立てたりして、体の至る所にタトゥーのある男達がいる。
「平家さん… あれどう見ても荒くれ者って感じじゃ…」
だが、松浦がその言葉を発し終わらないうちに、平家は彼らにマイクを向けていた。
「あのぅ、ハローテレビなんですけど、インタビューよろしいですか?」
(おいおい… 人の話聞いてよぉ…!!)
そう思いながらも、仕事なので仕方なくカメラを回す松浦であった。

「テレビのリポーターか? オレらに何の用や?」
一人の男が前に出て、みちよと向かい合う。
「一つお尋ねしたいことがあるんです。“月光三紳士”ってご存知ですか?」
732たぢから:02/08/10 05:22 ID:mQ3SVhB8
「月光… 三紳士…」
その言葉を反復した瞬間、男達の目つきが変わったのを平家は見逃さなかった。
「ご存知のようですね。」
すると、正面の男が何かを企んでいる目つきで、
「ああ、知ってるぜ。アンタ、アイツらに会いに来たのか?」
「ええ。一リポーターとしてね。どうやったら会えるかしら?」
「へぇ〜。いいぜ、教えてやるよ。」

すると、男達が平家と松浦の周りを囲み始めた。
「ちょ、ちょっと平家さん…」
男達の不審な動きに、カメラマン松浦は怯える。
平家も事態に気付いたのか、表情を緊張させている。
733たぢから:02/08/10 05:24 ID:mQ3SVhB8
「アイツらを呼ぶには…こうすればいいんだよっ!!」
すると男達は平家と松浦に襲い掛かってきた。

「なっ… なにすんねん、お前らっ!」
インタビューどころではなくなり、つい地が出る平家。
「きゃーっ! 嫁入り前の桃色娘になんてことをするのぉ!!」
錯乱状態からか、まだ何もされていないのに、無茶苦茶な悲鳴をあげる松浦。

だが、二人の身には何も起きなかった。

「あれ?」
「おや?」

気がつくと、二人の目に前にはさっきの男達が全員倒れていた。
そして、その向こう側には、ショルダーバッグを背負った一人の女性が立っていた。
734たぢから:02/08/10 05:25 ID:mQ3SVhB8
「この街じゃ、無用心に人に声をかけちゃいけないよ。“ハローテレビ”の平家みちよさん。」
少し大きめなショルダーバッグを抱え直しながら、その女性は平家に声を掛けた。
「あ、あんたは?」
「私は“モーニングタイムズ”専属カメラマン・保田圭よ。」
「あのモーニングタイムズの!?」
目を大きく見開きながら、何故かマイクをむける平家みちよ。
圭はちょっと迷惑そうに、マイクを払いのける。
「“あの”とか言われても、あなたの方が有名じゃない。知る人ぞ知るハローテレビのリポーター・平家みちよ。
銃弾さえも恐れずに突き進む猪突猛進リポーター! という肩書きがついてるくらいだしね。」
「それ… 褒めてんの?」
「まあね。」
軽く受け流す圭。彼女にとってみちよ本人に興味があるわけではない。
「それより、あなたがこの“ゼティマシティ”に来た目的は何?」
735たぢから:02/08/10 05:26 ID:mQ3SVhB8
「これよ。」
すると、みちよは懐から一枚の新聞記事のコピーを取り出した。
そこには、『“月光三紳士”また大活躍!!』との大きな見出しがあり、
中央には空中を飛ぶ三人の紳士の姿が写った写真が掲載されている。
それを見て、圭はやはりと言った感じで軽く頷いた。
「これ、ウチの記事だね。やっぱり、あの三人組を求めてきたわけか。」
「そう。ねえ、いつも彼らを追っているアンタなら、彼らに会う方法分からないかしら?」
またもマイクを向けるみちよ。全然懲りていない。
「会う方法なんてのは特に無いわ。だけど、もうすぐ会えるわよ。」
「どういうこと…?」
「あっち見て。」
圭が指差す方向には、制服姿の女子が6人歩いていた。
736たぢから:02/08/10 05:27 ID:mQ3SVhB8
「あの六人組が何なの?」
「先頭のあの子ね、小川麻琴って言うんだけど、紳士の大ファンなの。」
「え? ファンだと彼らに会えるの?」
「いやいや、そういうわけじゃないんだ。」
常に無駄に先読みするみちよに苦笑する圭。
「あの子達が歩く先には、何故か事件が起きるのよ。そうしたら、彼らが現れるさ。」
「歩けば事件に当たる子達なの?」
「そんな感じかしらね。後を追えば分かるよ。」
すると、圭はさっさと言ってしまった。

「平家さん、どうします?」
カメラマンの松浦亜弥が訊ねる。だが、それは愚問だった。
「よっしゃ行くでぇ!!」
737たぢから:02/08/10 05:29 ID:mQ3SVhB8
六人組は、【UFA銀行】と書かれた銀行の支店に入っていった。
「遊ぶ金でも下ろすつもりなんかなぁ…」
「銀行の中に彼らに会う為の窓口でもあるんでしょうかね?」
「でも保田圭さんは“事件”が起こる言うてたからな。」
向かいのビルの陰に隠れて様子を見守るみちよと亜弥。

だが、十分くらい経っても六人組は出てこない。

「そんなに銀行って混んでます?」
「いや。融資の相談でもしとるんちゃう?」
「あの子達の歳を考えてくださいよ…」
738たぢから:02/08/10 05:31 ID:mQ3SVhB8
「なあ、ウチら騙されたんとちゃう?」
「…かも、しれないですね。」
と二人が諦めて別の場所に移動しようとしたその時、

「もうそろそろだね。彼らに会えるよ。」
その声は圭だった。
いつの間にかみちよと亜弥の後ろに立っていて、黒光りする一眼レフを構えている。

「ちょっと、どういうことや?」
何が何だかさっぱりわからないみちよ。

だがその時…
739たぢから:02/08/10 05:34 ID:mQ3SVhB8
ダダダダダダダダッ!!

「この音って、マシンガン!?」

突如銀行の中から響く銃声。
窓ガラスが次々と粉々になってゆく。

「お、はじまったみたいね。」
何事か分からない二人に対し、圭だけは呑気にカメラを構え続けている。

「平家さん、とりあえず警察呼びましょうよ。銀行強盗みたいですし。」
「そ、そやな。」
携帯電話を取り出し、警察に連絡するみちよ。
一分も経たないうちに警察が駆けつけ、銀行を包囲した。
740たぢから:02/08/10 05:35 ID:mQ3SVhB8
『警察だ! 武器を捨てて大人しくしろっ!!』
とメガホンで叫ぶのは、なんとも小柄な婦人警官である。

「あんな小さい人でで大丈夫なんでしょうか?」
「ホンマ… こっちが心配してまうわ。」

「大丈夫。」
とシャッターを切りながら言う圭。
「アレはね、ゼティマ市警機動隊副長の矢口真里だよ。ああ見えて、ミサイルの雨にでも果敢に突っ込むヤツよ。」
「アンタ、知り合いなん?」
「まあね。こういう商売ですから。」
741たぢから:02/08/10 05:37 ID:mQ3SVhB8
一方、警官隊の前には銀行強盗と思しき覆面の男が三人。
そして、先ほどの六人組が現れた。

「あ、さっきの子達ですよ!」
「どう見ても、人質やなぁ。」

「おい、お前らぁ! このガキどもと逃走用の車を交換だ! 早くしろぉ!!」
覆面男の一人が大声で叫ぶ。
「キャー! 怖い〜!!」
怯える六人組。だが、何かおかしい。

「平家さん、あの子達マジに怖がっているようには見えないんですけど。」
「確かに…」
742たぢから:02/08/10 05:38 ID:mQ3SVhB8
『その子達を放せ! 代わりに私が人質になるっ!!』
と、今度は大柄な婦人警官が前に出た。

「なんかカッコイイですね。」
「保田さん、あの人も知ってんの?」
「勿論。アレは機動隊長の飯田圭織。ああやって犯人に近づき、一網打尽にするんだよ。」

だが…
「うっせぇ、ババァ!! てめぇみたいなんは人質になんねぇんだよっ!!」

それを聞いて、圭織の表情が一変した。
『んだとゴルァ!! ゼティマ市警一の美人警官であるオレをババァ呼ばわりだとぉ!?
てめぇら、血ぃ見たいんかぁ!!!!』
743たぢから:02/08/10 05:41 ID:mQ3SVhB8
「ちょっとカオリ、落ち着いて!!」
メガホンを振り回し犯人グループに殴りこもうとする圭織は、真里達によって押さえつけられた。

「交渉ごと下手糞ですね…」
「あれじゃマズイで。」

確かに状況は悪くなった。
覆面男達はマシンガンをぶっ放し始め、街路樹や向かいのビルなどを破壊し始めた。
このままでは機動隊はおろか、野次馬や通りすがりの一般人にも被害が及ぶ可能性がある。

…と、その時!
744たぢから:02/08/10 05:42 ID:mQ3SVhB8
「そこまでだ! 悪党どもっ!!」
と、誰かの声が響くと同時に、無軌道な動きをする黄色い光が、マシンガンを切り裂いた。
そしてその光が戻った先には… 三つの影が!

「平家さん、お待ちかねの三人組だよ。」
「あ… あれが…!!」

すると、その影が何故かライトアップされ、三人組の姿が晒される。
真っ白なタキシードに仮面舞踏会で用いるアイマスク型の仮面。
各々、満月、半月、三日月のエンブレムが付いたステッキを手にしている。

皆、その気高き姿にしばし目を奪われる。
745たぢから:02/08/10 05:44 ID:mQ3SVhB8
「キャー! ムーンライト様ぁ!!」
六人組の一人、小川麻琴が叫ぶ。
すると、Mr.ムーンライトなる紳士の口元が少し緩む。
「待っててよベイベー。すぐに終わらせるからね。」
「はぁ〜い!」

「平家さん、私このアホくさい展開についていけないんですけど…」
彼らのやりとりに唖然とする亜弥。だがみちよは…
「松浦ぁ! 早よカメラ構えんかいっ!! スクープいただきやで!!」
すでに“戦闘モード”に入っていた。

カシャッ! カシャッ!
圭だけは淡々とシャッターを切っていた。