くノ一娘。物語

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674たぢから
空間には静寂の時が流れ始めた。
ナツミは只一人そこに立ち尽くしていた。
そして彼女はDr.TKを撃ったバスターを解除し、その腕を下ろした。
「倒した…Dr.TKを…」
ナツミは、まるで力が抜けたかの様にその場に腰を下ろした。
「戦いは終わった… “正義”が勝ち… “平和”が来るのに…」
その時、ナツミの眼からは再び涙が流れていた。
その涙が流れ落ちる眼も、先程までの殺気に満ちた眼から、少女型レプリロイド・ナツミの瞳に変わっていた。
「アスカ…」
自分の体に付着したアスカの紅いパーツを眺めながら、ナツミは呟いた。
実は今ナツミの頭には、アスカとの記憶が駆け巡っていたのである。
自分独りでDr.TKを倒したわけじゃない。彼女の力が無ければ成し遂げられるはずはなかった。
…でもアスカはもうこの世には…
「何で… 何で… アスカ…」
675たぢから:02/07/21 23:09 ID:eAMMgNIz
「フハハハハハハ…!!」

突如静寂を打ち破る笑い声…
ナツミはその声に聞き覚えがあった。いや、あって当然だった。
ついさっき倒した筈の… あの男の声なのだから…
「Dr.TK…!?」
ナツミの目の前には、Dr.TKの頭部のみが不気味に微笑みながら浮遊している。
「君が倒したのはあくまで戦闘用のボディだ。私自身ではない。」
「そんな…」
「これは君に対する褒美だ。Dr.TKの最終兵器をとくと味わうがいい。」
すると、Dr.TKの頭部は後方の闇に消え去った。
だが、すぐさま周囲が明るくなり、“最終兵器”が姿を現した。
676たぢから:02/07/21 23:11 ID:eAMMgNIz
後ろの壁と一体化したような、巨大な狼の面を模したボディ…
両側には残忍さの象徴とも言える鋭い爪を備えた手…
先ほどとは比べ物にならない程の強さが、ひと目見ただけで感じられる。

Dr.TKの頭部は、狼の脳天に収まり、一体化した。
それと同時に、強烈な殺気が漲りはじめた。
「うっ…」
“蛇に睨まれた蛙”とはこのようなことを言うのだろうか、
“狼に睨まれた少女”ナツミは、完全に萎縮してしまった。
残念ながら、先ほどの戦いで、かなりのエネルギーを消耗している為、伝説の波動拳を放つ余裕はない。
無理に放てば、過負荷(オーヴァーロード)による自己崩壊を招くことぐらい、ナツミは承知していた。
だが、果たしてその他の武器で太刀打ちできるのか…?
677たぢから:02/07/21 23:13 ID:eAMMgNIz
突如狼の手が襲ってきた。紙一重の所でナツミはそれをダッシュで躱した。が…
「! しまっ…」
狼の口から複数のエネルギー弾が高速で放たれたのだ。
「うあっ!」
その一つを物の見事に喰らった彼女は、その場に倒れた。
たった一撃であったが、装甲はおろか、内部機構も一部破壊されてしまった。
「もう終わったか… 呆気なかったな…」
Dr.TKは地面に倒れたナツミに手を近づけようとした。だが…

パシッ!

「私に触るな… イレギュラーが…!」
678たぢから:02/07/21 23:14 ID:eAMMgNIz
自分を触ろうとした狼の手を引っ叩き、何とナツミは起き上がった。
幾ら彼女の心が強靭でも、その大損傷を負った身体を動かせるというのはもはや奇跡に近かった。
彼女の鋭い眼が、Dr.TKを睨み付けた。
「フッ… イレギュラーとハンターは紙一重だというのに…」
そう言いながら今度は狼の口から滝のような炎を発した。
「あああああああああっ!!」
ファイヤーウェーブとは比べ物にならない猛攻に、ナツミの身体は更に傷付いていった。
ローリングシールドを展開し、それらを総て弾き消そうとした…が、精々半分がやっとだった。
「私との実力差は歴然… しかも君はもう動けない身体なのだよ… もう諦めて安らかに眠ったらどうかね?」
ナツミの視界はどんどん暗くなっていった。もはや限界である。だがナツミは諦めなかった。
「…カメレオンスティング…!」
679たぢから:02/07/21 23:17 ID:eAMMgNIz
ナツミは姿を消し去ると、バスターの照準をを狼の額…Dr.TKに合わせた。
(あそこを潰せば… 勝てる!!)
ナツミを見失ってDr.TKが攻撃できずにいる隙に、彼女は緑の刃を放った。

キィィィン!

何とカメレオンスティングの刃が見事に弾かれていたのである。
Dr.TKの頭部は貫通力No.1の刃をも通さなかったのだ。
「そ… そんな…」
ナツミは自分の目を疑った。どうやって彼を倒せというのか…

そしてカメレオンスティングの効果が切れ、ナツミの姿が晒された。

「そこか… もう同じ手はくわないぞ。さらばだ… イレギュラーハンター・ナツミ!」
狼の口から、エネルギー弾が次々と発射された。もはやナツミには避ける気力も残されてはいなかった。
光に飲まれ、その中でナツミは気を失ってゆく。
(私は… Dr.TKを倒せなかった。私の力なんて、所詮こんなものだったの…か…な…)
ナツミの視界は段々暗くなっていった。
680たぢから:02/07/21 23:18 ID:eAMMgNIz
真っ暗だった。辺り一面、光すら射さない暗闇だった。
「ここは…?」
無限に続く暗闇の中で、ナツミは独り立ち尽くしていた。
「私は…誰…?」
自分の名前すら忘れてしまった。自分は何者なのか…
その時、前の方から光が射してきた。余りの眩しさに、ナツミは思わず目を凝らした。
「なっち…」
前方から、人の声がしてきた。何となく聞き覚えのある女性の声であった。
目が慣れてきたナツミは声のした方を向いた。
するとそこには、同じような衣装に身を包んだ人物…恐らく皆女性だろう…が十数人。
「誰…誰なの?」
逆光の為、ナツミはその人達の顔まで確認する事は出来なかったが、何処かで見た事がある容姿だった。
遠い昔に…
681たぢから:02/07/21 23:21 ID:eAMMgNIz
「さあ、行こう。」
その人達は、ナツミの数メートル前で足を止め、手を伸ばし、ナツミを招いている。
「行く…って何処へ?」
その人達はそれ以上は何も言わず、姿を消した。
「ま…待って! うわっ!」
ナツミが追いかけようとすると、突然前方の光が明るさを増してきた。
余りもの眩しさに、ナツミは再び目を凝らした。そして数々の絵が、再びナツミの頭を過ぎった。

廃墟と化した大都市…
傷つき、動かなくなった見覚えのある少女達の体…
NEW TYPE ROBOT “NATSUMI”と書き記された自分の設計図…
自分を製作しているあの男…
レプリロイドらしき残骸…
残骸…
残骸…

何度も見た夢…
何度も途中で途切れた夢…
何を意味するのか分からない夢…
682たぢから:02/07/21 23:22 ID:eAMMgNIz
「私は… 誰なの? たった一人で…」
ナツミは暗闇の中で、独り悩んでいた。苦しんでいた。
こんなことは初めてではなかったが。今回はいつもと何か違っていた。
そんな彼女に、足音を響かせながら近付いてくる者がいた。
「誰…?」
見覚えのある、透き通るような紅い鎧…
その顔は、自分の目の前に来てやっと見えてきた。
「アス…カ…!」
友の顔を見て、ナツミは何か重要な事を思い出した様である。
「そうよ… 私は一人じゃない。アスカと一緒なんだ! 負けてはいられない!」
683たぢから:02/07/21 23:24 ID:eAMMgNIz
「ムッ…!?」
Dr.TKは、ナツミの奇妙な変化に気付いた。
何と傷だらけだった彼の蒼と紅の鎧は、見る見る内に完全に治癒し、新品同様の鈍い輝きを発し始めたのだ。

「ど…どういうことなの…だ?」
Dr.TKは死んだ筈のナツミの変化に戸惑い始めた。彼女に一体何が…?
そして次の瞬間、ナツミは何と奇跡的に動き始めたのだ!
「嘘…だろ…!?」
余りもの衝撃でDr.TKもショックの色を隠せなかった。
ナツミはゆっくりと立ち上がった。
「お前はゾンビか!? く…くらえ!!」
狼の口からエネルギー弾が発射された。しかも、今までに無い位の数で。
だが…

シュウウウウウウウウウ……

ナツミは右手をかざし、何と総ての光の弾をかき消したのである!
先程はかわすことも困難だった筈なのに…
明らかにナツミのポテンシャルは上昇している。
しかも今までに無い位の強さを発揮しているのである!
684たぢから:02/07/21 23:25 ID:eAMMgNIz
ナツミは両手を前に翳した。
右腕は蒼、左腕は紅…
「Dr.TK…今こそ私たち二人の力を受けてみろ!」
「こ…これは…!?」
Dr.TKは自分の目を疑った。
ナツミの横に、亡霊のように佇む紅いレプリロイドの存在が確認できたからだ。
『いくよ、ナツミ!!』
「くらえ! N&A−ツイン・ブラスター!!」

蒼と紅…二つの光が交わり、一つの閃光…彗星となって、Dr.TKの頭部を貫いた。
まさに電光石火…一瞬の出来事だった。

「ば、馬鹿な… お前如きに、この私がやられるとは…
何故だ… 何故お前は私に刃向かった・・
我等レプリロイドの時代が…始まろうと…いう…の…に……」

Dr.TKがその言葉を言い終わると、激しい閃光と振動、そして爆発が周囲に走って行った。
ナツミは…動かなかった。
崩壊してゆく要塞内部をを遠い目で見詰めながら…
そして彼女も爆発に飲み込まれて行った。
685たぢから:02/07/21 23:28 ID:eAMMgNIz
戦いは終わった。
明日になれば再び平和な朝が訪れることだろう。
しかし、傷つき倒れ、夜の闇へと消えていった者たちが、
その朝を迎えることは決してない…

一人立ち尽くすナツミの姿は、
爆発の光に照らされて今にも消えてしまいそうに見えた。

なぜ、戦わなくてはならないのか。
誰もナツミに、その事を教えてはくれない。
休む間もなくどこかでイレギュラー達が発生し、
再び彼女は戦いの渦へと巻き込まれていくのだろう…

優しさを捨てきれぬ、イレギュラーハンターナツミ。
彼女の戦いは、どこまで続くのであろうか。
彼女の苦しみは、いつまで続くのであろうか。
彼女の腕に冷たく光る、Nバスターの輝きとともに…
686たぢから:02/07/21 23:29 ID:eAMMgNIz
-CHARACTER FILE-

19.番犬トモガーダー
その名の通り、Dr.TKが飼っている番犬型レプリロイド。ちなみにメスである。
番犬というよりも猟犬に近く、特A級のハンターとも互角以上に戦えるのだが、
著しい成長を遂げたナツミの足元にも及ばなかった。

(キャラ元)華○朋美

20.Dr.TK
権威ある博士レプリロイドだったが、イレギュラー化し世界に反旗を翻した。
博士型でありながら、独自の技術により戦闘用ボディ、そして狼型の究極ボディを開発。
圧倒的な力でナツミを追い詰めたが、ナツミとアスカの友情の力の前に散っていった。

(キャラ元)小○哲哉




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