くノ一娘。物語

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67たぢから
「じゃあね、裕ちゃん。なっちなら捕まえられると思うよ。」
市井が去ろうとしたその時だった。
どこからか網が飛んできて、市井を捕らえた。
「しまった!」
もがけばもがくほど網は絡みつく。万事休す。
「フフフ・・・紗耶香ゲェ〜ット!」
石黒だった。
68たぢから:02/04/20 23:01 ID:WijfDzjH

「悔しい〜!裕ちゃんに気を取られていて気づかなかったなんて〜!」
「悔しい〜!彩っぺに紗耶香を取られたなんて〜!」
「何で同じリアクションなの・・・」
石黒は二人に呆れつつも、もう一つの目標の方を向いた。
「さてなっちも覚悟・・・あっ!!」
ドサクサに紛れて、安倍は既に逃げていた。しかもそれだけではない。
「あっ!ファーストラブ!!」
忍犬ファーストラブが倒れていた。慌てて駆け寄る中澤。
「寝てるわ・・・ってことはこのカステラは・・・!」
69たぢから:02/04/20 23:02 ID:WijfDzjH
そう。安倍の顔に過剰に付着していたカステラには、眠り薬が入っていたのだ。
安倍の顔を嘗め回していたファーストラブは、即効性の眠り薬によって、呆気なく眠りについたのだった。
そして・・・
「あれ?タンポポ!!」
石黒の忍犬タンポポは、安倍の用意した毒団子(毒=眠り薬)を食べて眠り込んでいた。
「おのれなっち・・・許さない!!」
「覚悟しいや!!」
ひょんなことで、安倍は中澤と石黒の闘志を高めてしまった。
70たぢから:02/04/20 23:03 ID:WijfDzjH
「ふふ〜ん。なっちのスペシャル菓子を食べるなんて、ファーストラブもタンポポもまだまだだね。」
してやったりと上機嫌な安倍。でもまだ菓子を食べている。
自分用と対忍犬用の区別はついているのだろうか?
「においで分かるべさ。」
嗅覚・・・安倍>犬なのだろうか?
とにかく、安倍はひたすら逃げていた。
71たぢから:02/04/20 23:04 ID:WijfDzjH
「何が何でもなっち捕まえたる!」
「うおおおおお!!」
「・・・あの・・・」
網まみれの市井を放置したまま、中澤と石黒は安倍の後を追いかけた。

しばし沈黙・・・

「一応鬼には捕まったし、ゲーム終了だよね。里に帰ろっか。」
自力で網を破ると、市井は下山した。
72たぢから:02/04/20 23:05 ID:WijfDzjH
「オラァ!なっち、待たんかぁい!!」
「覚悟ぉー!!」
本当の鬼になりつつある中澤と石黒は、信じられない勢いで安倍を追っていた。
勿論安倍も気づいていたのだが、菓子の食いすぎであまりスピードが出ない。
「このままでは追いつかれるべ・・・なんとか撒かないと・・・」
打飼袋(うちかいぶくろ;長い筒状の底なし袋。様々な物をいれて腰などに巻き、両方の口を結んで使う)
の中には菓子しか入っていない・・・だが・・・
「これなら裕ちゃんを撃退できるべさ。」
73たぢから:02/04/20 23:07 ID:WijfDzjH
「なっち見つけたで!覚悟しいやっ!!」
「なっちは私の獲物だよ!」
韋駄天のごとく安倍に迫る中澤と石黒。
鬼気迫る・・・というより鬼そのものになりつつある。
300m・・・ 200m・・・ 100m・・・ 鬼二人と安倍の速度差は歴然であった。
それこそあっという間に距離は詰められてしまった。
鬼の視界には森の奥に向かって走り行く安倍の後姿が現れたかと思うと、急速に大きくなっていく。
中澤と石黒は網を構え、投網で安倍を捕らえようとした。ところが…
「くらえ裕ちゃん!!」
それよりも速く安倍が後ろを振り向き、突進してくる何かを中澤に投げた。
74たぢから:02/04/20 23:08 ID:WijfDzjH
黄色くて、細長くて、少し曲がった・・・果物・・・
「バ・・・バナナ!!いやぁ〜〜〜〜〜〜!!」
中澤はその場に昏倒・・・するかと思ったが、反射的に刀を抜き、バナナを斬った。
「うそぉ・・・」
虫などを投げつけ、相手が怯んだ隙に逃げる“虫獣遁の術”の応用だったのだが、あえなく破られた。
「じゃあ、まきびしだべっ!」
ひしまき退き・・・まきびしを撒いて敵に踏ませ、足止めをする遁法
だが、持っていたまきびしの数が少なく、意味が無かった。
75たぢから:02/04/20 23:09 ID:WijfDzjH
僅かなまきびしを飛び越えると、まず石黒が安倍に飛び掛った。
体格の差には逆らえず、安倍は石黒に取り押さえられた。
そして、中澤に縄でぐるぐる巻きにされてしまった。
「なっち・・・よくもファーストラブを・・・」
「タンポポの仇・・・とらせてもらうよ。」
「に、二匹とも死んでないからいい・・・べさ?」
「「よくない!!」」
鬼の眼光に、安倍は萎縮した。“蛇に睨まれた蛙”とはこんな状態をいうのだろう。

【復習】鬼は見つけた者を捕らえれば、その場で何をしても構わない。
76たぢから:02/04/20 23:10 ID:WijfDzjH
「裕ちゃん、なっちにキスするの?」
石黒の問いに、中澤は首を横に振った。
「毒菓子まみれの顔には、さすがにキスしたくないわ。でもその代わり・・・」
と言って、中澤が懐から取り出したのは黒の油性マジック。
「じ、時代間違ってるべ・・・」
「時代設定なんかどーでもええねん。彩っぺ、なっちに特別メイクしたろ。」
「それはいいね。フフフ・・・」
鬼から悪戯好きな子供の顔に変わる中澤と石黒。
泣きそうな安倍。しかし抵抗は出来なかった。
77たぢから:02/04/20 23:11 ID:WijfDzjH
数分後、ビューティーコンビによるメイクアップは終了した。
「アハハハ!よう出来とるわ!」
「私達“変装の術”の才能あるね!」
顔落書きの定番、瞼に目玉、泥棒髭、つながり眉毛の他、
余ったスペースには、“いもなっち”“豚饅頭”“(●´ー`●)”などが描かれた。
「お、お嫁に行けないべ・・・」
物凄く暗く沈んだまま、安倍は下山した。
このあと、市井に涙が出るまで笑われたのは言うまでもない。
次回の鬼ごっこでは、率先して鬼になろうと、安倍は固く誓ったのであった。