643 :
たぢから:
ACT12.DEATH AND FUSION
先に侵入口を見つけたのはアスカだった。
多方向から兵士が絶え間なくやってくるので、下手に見極めることは止め、
全ての兵士を滅ぼした後、半分手探りで入口を見つけ出したのだ。
「ナツミ…悪いけど一人で行かせてもらうよ。優しすぎる貴方は戦いには向かないからね。」
ナツミが向かったであろう方向を眺め、アスカは呟いた。
そしてナツミに連絡をとることなく、中へ踏み込んだ。
案の定、迎撃システムが作動し、奥からライドアーマーにのった兵士が多数現れた。
「中のほうがやっぱり強固…か。遠慮なくやらせてもらうよ!!」
644 :
たぢから:02/07/19 23:10 ID:FlADWJ4A
アスカはたった一人であることを感じさせぬ凄まじい勢いで兵士達を圧倒していた。
ナツミと合わせ、たった二人と言う人数が却って敵の油断を誘ったこともあるが、
彼女は敵地でありながら一対一で確実に戦える場所を巧みに選んで戦い、戦力で勝る敵を一切寄せ付けない。
「いくらライドアーマーで攻めてこようと、騎乗者のレベルが低すぎるよ!」
強力なAバスターが激しい閃光と共に、一騎のライドアーマーを粉砕する。
一対一の戦いならばCクラスの兵士相手に遅れなど取らない。
だがそれは余りに非効率な戦い方だった。
A−ツイン・ブラスターで一掃と言う手もあるが、Dr.TKが現れていない以上、
凄まじいエネルギーと、チャージする為の長い時間を必要とするあの必殺技を使ってしまうのは得策ではない。
645 :
たぢから:02/07/19 23:12 ID:FlADWJ4A
アスカは持ち前の機動力を生かしながら巧みに相手と舞台を選びつつ、
徐々にしかし着実に基地の中枢部へと歩を進めていた。
そんな彼女を影から見据えながら冷淡に笑みを浮かべる一体のレプリロイド…
「フフフ…一目見たときから何か似たような物を感じていたけど、お前は間違いなく修羅だよ。」
戦場を疾駆しながらレプリロイド兵士達を破壊していくアスカ。
そんな彼女を見据え、そのレプリロイドは一人誰にともなく呟いていた。
「それだけに全く私には理解しかねるわ。“ハンターガールズ”なんていう偽善集団にこだわることがね。
所詮イレギュラーとハンターは紙一重。レプリロイドを破壊するという共通項を持っているのにね。」
全ての兵士が破壊されるのを見届けると、彼女は姿を現した。
646 :
たぢから:02/07/19 23:14 ID:FlADWJ4A
「そこまでよ、ハンターガールズのアスカ!」
「…お前は…!?」
アスカには勿論見覚えがあった。
それに今立っている場所はDr.TKの基地の真っ只中…
TK軍団特攻隊長のあの女がいるのはごく自然なことだ。
「アミーゴ…早くもTKの秘蔵っ子がお出ましか。」
「秘蔵っ子…ね。私は別にあの人の従順な子どもじゃないわよ。ただ強いヤツと戦いたいだけ。
相手の格が上であればあるほど、こらえようの無い興奮が…歓喜が私の中を駆け巡っていく。
それはアンタだって同じはずよ。さっきの戦いで見たアンタの顔…十分“鬼”だったわ。」
「つまり私たちは似た者同士だって言いたいの? 外道と一緒にしないで。」
「強がらなくていいわよ。所詮この世は弱肉強食。ハンターガールズの正義だって虚構にしかならないわ。
それでもその仮の“正義”とやらにこだわり、イレギュラーを処分するの?」
647 :
たぢから:02/07/19 23:15 ID:FlADWJ4A
アミーゴの指摘に、アスカはしばし沈黙した。
正直なところ、彼女は戦いの中でしか自分を見出せない。
戦いがあるからこそ、生きていけると言っても過言ではなかった。
だが、彼女の脳裏に浮かぶ一人の蒼きレプリロイドが、もう一つの生き甲斐であった。
自分には恐らく無いであろう“悩み”を持つ彼女が、何かに悩めることが羨ましく思うときもあった。
「…例え虚構の正義であったとしても、イレギュラーと紙一重でも、私はハンターとして生きるわ。
掛け替えの無い友もいるから…ね。」
アスカの眼には一点の曇りも、少しの迷いも無い。
対するアミーゴの表情は、若干曇った。
「結局アンタもあのナツミと一緒の甘々チャンってわけか。全くもって期待はずれだったわ。
コンビでも組めたら面白かっただろうに。」
648 :
たぢから:02/07/19 23:17 ID:FlADWJ4A
「冗談はよして。私は昔も今も独りよ。ハンターガールズでも一匹狼やってるし。コンビなんて疲れるわ。」
半分本気、半分嘘だった。
だがアスカの本意はともかく、その言葉はアミーゴに火をつけた。
「フン、まあいいわ。少しお喋りが過ぎたみたいね。さっさと決着つけましょ。」
アミーゴは後ろに隠してあった自前のライドアーマーに乗り込んだ。
「言っとくけど、この前のようにはいかないわよ。ラードアーマーはパワーアップしてるからね。」
「別に構わないよ。そんなモンに頼ってる以上、私には勝てないわ。」
「戯言を…死ねっ!」
ライドアーマーの轟拳が炸裂し、壁にクレーターを作り上げる。
だが、アスカの姿は無い。
「…一応スピードには自身があるの。」
アスカは後ろに回りこみ、両手を前に翳した。
649 :
たぢから:02/07/19 23:19 ID:FlADWJ4A
「…フッ。この前のあの技ね。撃てるものなら撃ってみな!!」
ライドアーマーごと背中を晒したままのアミーゴは、余裕の笑みを浮かべていた。
その態度にアスカは少し苛立ちを覚えた。
「後悔させてやる…くらえっ!!」
アスカ必殺の、A−ツイン・ブラスターが放たれた。
瞬時に、アミーゴはライドアーマーごとその閃光に飲まれた。
だが…
「“痛くも痒くもない”とか、“蚊に刺された程も感じない”ってのはこんなことを言うのかしら?」
「何っ!?」
突如白煙の向こうからライドアーマーの腕が現れ、隙だらけのアスカを掴んだ。
「コイツはね、アンタのバスターの威力を基に強化したの。だから無傷なわけ。」
「くっ…」
悔しさに奥歯をきつく噛みしめるアスカ。
そして、アミーゴの狂気に満ちた瞳はさらに怪しい光を放ち始めた。
650 :
たぢから:02/07/19 23:20 ID:FlADWJ4A
「この侵入口…アスカのバスターで開けたに違いない!」
アスカに遅れること数分、ナツミは入口を見つけることが出来ず、
結局アスカの後を追う形で侵入することになった。
「何で…何で知らせなかったの? 敵の数が尋常じゃないわ。」
アスカが破壊した敵の残骸を見て、ナツミは呟いた。
それと同時に、言い知れぬ不安が彼女の心を支配した。
いやな予感がする…
とにかく奥へと駆けてゆく。
その時…
ギュイーン! ガガッ! ズシャアッ!!
(百メートル奥! まさか…!!)
651 :
たぢから:02/07/19 23:21 ID:FlADWJ4A
「アスカ!!」
ナツミが辿り着いたときには、既に決着がついていた。
掠り傷一つ無いアミーゴとそのライドアーマーの足元に倒れ伏したアスカは、満身創痍だった。
紅い鎧は既に原型を留めておらず、メットも砕け髪も乱れている。
さらに、内部機構もむき出しで、火花が飛び散っている。
「フッ…口ほどにも無かったわ。」
バスターが封じられ、攻撃手段を失ったアスカは、アミーゴに玩具のごとく弄ばれた。
単純に言うと、シンジュクでのナツミと同じような扱いを受けたのだ。
ライドアーマーの腕に捕まれたまま、床や壁、兵士の残骸などにアスカは何度も何度も叩きつけられた。
勿論抵抗したが、強化されたライドアーマーの力には全く手も足も出なかったのだ。
652 :
たぢから:02/07/19 23:23 ID:FlADWJ4A
「フフフ…コイツを助けたい? 助けたいのなら、私の命令に従いな!
そうすれば、命だけは助けてやってもいいわよ。」
「…ナツミ…私に構わないで。コイツを…倒すのよ!」
アスカは今まで見たこと無いほど、必死の形相だ。それほどダメージが酷いのだろう。
「アスカ…」
「死に損ないが…随分と威勢のいい事ね、アスカ。お前がその気なら、それでもいいわ。
ナツミ、少しは強くなったつもりだろうけど、私のライドアーマーは大幅にパワーアップしてるわ。
この私に刃向かうとは…身の程知らずね。いくわよっ!!」
アミーゴのライドアーマーは瞬時に間合いを詰めた。
「くっ!」
すかさずNチャージブラスターを放つナツミ。
パワーアップしたバスターの威力は、ライドアーマーを数メートル後退させた。
653 :
たぢから:02/07/19 23:25 ID:FlADWJ4A
「ほぅ…なかなか強くなった方じゃない。」
しかし、ライドアーマーにはやはり傷一つついていない。
(ここは特殊武器をうまく使わないと!!)
ライドアーマーに満遍なくダメージを与えられる武器をナツミは選択した。
彼女の鎧が赤く染まる。
「くらえ! ファイヤーウェーブ!!」
ナツミが右拳を床に叩きつけると、そこから炎の柱が立ち上り、波となってライドアーマーに襲い掛かった。
すかさずナツミは武器チェンジ。青と黄色が入り混じった鎧に変化した。
「ショットガンアイス!!」
そう、並みの攻撃が通じないのなら、極端に温度差のある武器を間断なく放ち、
強固なライドアーマーに多大なダメージを与えることにしたのだ。
654 :
たぢから:02/07/19 23:26 ID:FlADWJ4A
「フッ…そこのおバカさんとは違い、頭をちゃんと使ってるわね。でも、肝心の武器の威力がねぇ。」
何と、温度差数百度はある合体攻撃でも、ライドアーマーには罅一つ入らなかったのだ。
これにはナツミも驚きを隠せない。
「なら…ストームトルネード!!」
「フン! 無駄よ!」
ガガガッ!
竜巻はライドアーマーの腕の中で消失した。
「エレクトリックスパーク!!」
キィィィンッ!!
電撃は呆気なく弾かれた。
ブーメランカッターは刃が欠け、ホーミングトーピードは無駄に散った。
ローリングシールドも水風船のごとく弾け、第一級の貫通力をもつカメレオンスティングも通じなかった。
ナツミの武器も、全て封じられた…
655 :
たぢから:02/07/19 23:26 ID:FlADWJ4A
「そ…そんな…」
ついに勝機は無くなった。万事休す…
「無駄な足掻きだったわね。」
そう言うと、アミーゴは右肩のランチャーからエネルギー弾を放った。
「うっ…!」
光の弾が呆然としているナツミに命中、ナツミは動けなくなった。
「圧縮プラズマ弾“パラライズ・ショット”の味はいかが?」
この打撃を食らった敵は電気ショックにより神経回路が麻痺し、動く事が出来なくなる。
「いいザマね。さぁて、どう料理しようかしら?」
「くぅぅ…」
一歩一歩近づいてくるライドアーマー。
全ての武器、機能を封じられたナツミに、死が近づく。
だが、突如ライドアーマーの動きが止まった。
「…お前の相手は、ナツミではなくこの私よ!!」
656 :
たぢから:02/07/19 23:28 ID:FlADWJ4A
なんと満身創痍なはずのアスカが、ライドアーマーの後部にしがみついていたのだ。
「アスカ…!!」
「フン。そんな体で何する気?」
「知れたこと…うおおおおおおおおおお!!!」
するとアスカは残り僅かなエネルギーを集束させはじめた。
アスカの全身が炎のように赤く…紅く輝いた。そして…
ドォォォォォォォォォォォォォン!!!
「あ…アスカぁ!!!」
その時、今まで何も出来なかったナツミが突如その隠れた力を一気に解放した。
自分を拘束していたエネルギー弾を内からぶち破り、アスカの方へ駆け出した。
657 :
たぢから:02/07/19 23:29 ID:FlADWJ4A
アスカ…
アスカ…
「アスカ! しっかりしてアスカ!!」
必死に呼びかけるナツミの声で、彼女は目を覚ました。気が付くとナツミの膝の上で抱えられていた。
「ナツミ…何だ…自力で拘束を断ち切ってるじゃないの…私の自爆の意味無いじゃん…」
フッっと微笑むアスカ。だが、もはや彼女は虫の息だった。
もはやスクラップ場の我楽多と何ら差は無い位徹底的にダメージを受けていた。
装甲は大半が剥がれ、残りの部分も溶解と損傷が見苦しい位激しかった。
ヘルメットと両の肩パッドはほとんど消失していた。
剥き出しの内部機構もケーブル系統の切断、骨格の罅割れ、その他諸々…
身体からは大量の血(オイル)と煙、そして電撃(スパーク)が… 見るに無残な姿だった。
「ごめんアスカ…私が弱いばかりに…」
「違うよ。実力も弁えずに独りで全てを片付けようとした私に…天から罰が下っただけさ…
謝るのはこの私の方なんだよ。ナツミ…貴方は強いんだから…だから…涙なんか見せないで…」
そこでアスカは瞳を閉じた。
ナツミは、アスカの身体から生気が無くなっていくのを感じ取っていた。
658 :
たぢから:02/07/19 23:31 ID:FlADWJ4A
「なっち…ごめんね…もう…行かなきゃ…」
そう言うと、アスカは力尽きた。
「アスカ!? アスカ!!」
ナツミは急いで彼女の胸に耳を当てた。しかし動力炉は完全に停止していた。
その余りに安らかな死に顔は、彼女の死をまるで覆い隠すかの如くであった。
だが彼女は死んだ。もう二度と目を開けて、微笑む事は無かった…
「アスカ… そんな… そんな事って…!!」
ナツミは、アスカの死に顔を見詰めながら何度も否定した。
彼女の死を… 何度も… だが彼女はもう動かなかった。
そしてナツミの頭は、彼女を助けることが出来なかった事に対する無力感で満たされた。
659 :
たぢから:02/07/19 23:33 ID:FlADWJ4A
「フフフ…犬死なんて可哀相に…」
泣き崩れるナツミの後ろには、あれだけの爆発をまともにくらったはずなのに無傷のアミーゴが立っていた。
勿論、これまた無傷のライドアーマーに騎乗したままで…
「馬鹿ね! そんな事でこの私が倒せるとでも思ったの!? さあナツミ、次はお前の番よ! 覚悟はいい!?」
「…」
言いようの無い、やり場の無い気持ちで一杯になったナツミは、
アミーゴの方を向き、アスカの屍を抱え静かにゆっくりと立ち上がった。
涙が止め処なく溢れ、その表情は悲しみや怒り…あらゆる負の感情が混在している。
「…うああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
ナツミは顔を上げ、腹の底から叫び上げた。
660 :
たぢから:02/07/19 23:34 ID:FlADWJ4A
その時、奇蹟が起きた。
ナツミの体から蒼い光が立ち上ったかと思うと、アスカの屍からも紅い光が放たれ始めた。
「…なっ…!?」
予想外の出来事に、アミーゴは言葉を失った。
天高く昇る二つの光はやがて一つに重なり、さらに輝きを増した。
そしてある程度の高さまで昇りつめると、今度はナツミ目掛けて急降下してきた。
まるで天からの使者が降臨してきた、とでもいうのだろうか、見たことも無い位、神々しい光景である。
そして、ナツミとアスカは光に溶け込んだ。
恐れからなのか、体が勝手に動いた。
次の瞬間、アミーゴは肩のランチャーからブラスターをぶち込んだ。
謎の光は、一瞬にして紺色に輝くブラスターに飲まれてしまった。
661 :
たぢから:02/07/19 23:35 ID:FlADWJ4A
アミーゴは、その一撃のみで攻撃を終えた。
だが、その鬼の眼は白い煙に向けられていた。先程ナツミが佇んでいた所に…
暫くすると、その白い煙の中から、人影らしき物と同時に、言い様の無い位の絶大な殺気が溢れ出してきた。
しかも、ただの…アミーゴの様な猟奇的な殺気ではない。例えようの無い位悲しさが漂う殺気…
煙の人影がはっきりと姿を現すに従い、アミーゴの鬼の形相も険しくなっていった。
そう、目の前に殺気の正体現れたからである。
その人影は、紛れも無くナツミだった。だが、アスカを抱えてはいない。
先ほどのアミーゴの攻撃で、総て消滅したのだろうか…?
いや、その代わりナツミの体が、先ほどと異なっていた。
全身が蒼で統一されていた鎧に、所々紅が混じっていた。
662 :
たぢから:02/07/19 23:36 ID:FlADWJ4A
「まさか…ボディの融合(フュージョン)!?」
「そう…アスカは無駄死になんかしない。私に総てを託してくれたわ。」
ナツミの表情は以前悲しさに満たされたままだったが、瞳の蒼い炎は燃え盛っていた。
「アスカの為にも…アミーゴ、お前を倒す!!」
そう言うと、ナツミは両拳を前に突き出した。
拳の周りは、先ほどと同じような光に包まれ、眩しく輝いている。
ナツミは拳を重ね、光を集束させると、両足を肩幅位に広げ、腰を落とし、両手を腰の右側に据えた。
一連の動作は、ナツミが頭で考えたことではなく、体が勝手に動いたに等しかった。
だが、それは伝説の技そのものだった。
663 :
たぢから:02/07/19 23:38 ID:FlADWJ4A
「…こんなバカなことが…」
今更言うまでもないが、アミーゴはライドアーマー操縦の第一人者である。
だがそんな彼女だからこそ判っていたのだ。
真の強者を目の前にした瞬間、ライドアーマーなど単なるガラクタ以下に成り下がってしまう事を…
「波動拳っ!!!」
アミーゴの予感は見事的中してしまった。
ナツミとアスカ…凝縮された二人分の膨大なエネルギーが、ナツミの掌から放たれた。
と同時に、激しい閃光と振動、そして爆発が周囲に走って行った。
アミーゴはライドアーマーに乗ったまま、動かなかった。
崩壊してゆく自分の周りを遠い目で見詰めながら… そして彼女も爆発に飲み込まれて行った。
その様はある意味、奇妙な爽快感を消え逝くアミーゴの胸中に与えていた。それでも…
「くそおおおおおお!!!」
アミーゴは悔しさに、力一杯叫んだ。だがその声は、激しい爆音によって掻き消された。