くノ一娘。物語

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631たぢから
ACT10.FORESEEING DREAM
全ての任務を終えたナツミは、何とか基地に帰還した。
ユウコへの報告も簡潔に済まし、足早にメディカルルームへと向かう。
空いているカプセルに入ると、ナツミはすぐさま眠りに就いた。

真っ暗だった。辺り一面、光すら射さない暗闇だった。
「ここは…?」
無限に続く暗闇の中で、ナツミは独り立ち尽くしていた。
「私は…誰…?」
自分の名前すら忘れてしまった。自分は何者なのか…
その時、前の方から光が射してきた。余りの眩しさに、ナツミは思わず目を凝らした。
「なっち…」
前方から、人の声がしてきた。何となく聞き覚えのある女性の声であった。
自分と同じくらいの背丈の少女。見覚えがあるのに思い出せない。
632たぢから:02/07/18 23:01 ID:z4nZs+Wu
「ごめんね。もう…行かなきゃ…」
その少女は、ナツミの数メートル前で足を止め、踵を返す。
「行く…って何処へ…?」
その少女はそれ以上は何も言わず、姿を消した。
「ま…待って! うわっ!」
ナツミが追いかけようとすると、突然前方の光が明るさを増してきた。
そしてナツミはその光に飲み込まれた。
633たぢから:02/07/18 23:04 ID:z4nZs+Wu
「…またあの夢か…でも今までとは何か違ったな…」
カプセルの中で一時間ほど眠り、充分回復したナツミは、
自分の部屋で先程の夢の分析をしていた。
しかし、夢の中身を探れば探るほど、何かが引っ掛かる。
まるで迷路のように…
夢にはいろいろな種類があるという。
願望などをシミュレーションする夢。未来を予知する夢。
そして遠い昔の出来事を思い出させてくれる夢…

「くっ…!」
ナツミは右手を伸ばし、拳をグッと握った。
捕えられない夢の正体を掴もうとするかのごとく。
634たぢから:02/07/18 23:06 ID:z4nZs+Wu
「ナツミ…何やってんの?」
その声はアスカだった。
彼女もまた任務を終え、ナツミの隣のカプセルで休養をとっていたのだ。
「えっと…あれ…何でだろ?」
アスカの顔を見た途端、先程の記憶が吹っ飛んでしまった。
右拳を掲げたまま固まるナツミ…
「…まだ休んでたほうがいいんじゃない?」
「…うん。もう一眠りするよ。」
ナツミは再び眠りに就いた。
だが、その夢の続きを見ることはなかった。
ナツミは気づかなかった。その夢がそう遠くない未来を暗示していたことを。
635たぢから:02/07/18 23:07 ID:z4nZs+Wu
ACT11.INVADE TK-FORTRESS
数時間後、ハンターガールズ全員に招集がかけられた。
「アスカの調べで、TK軍団のアジトを割り出すことが出来た。
トーキョーシティ沖に、未確認の人工島がある。おそらくそこや。
何故か濃霧に包まれていて、要塞の規模は把握でけへんけど、
既に幾つかの部隊がそこで壊滅したという報告もある。
心して任務に当たってや。」
「了解。アスカ出撃します!」
「ナツミ、出撃します!」
「ケイ、出撃します!」
「カオリ、出撃します!」
「マリ、出撃します!」
「サヤカ、出撃します!」
「マキ、出撃します!」
ユウコからの説明を受けたハンター七名は、すぐさま出撃した。
636たぢから:02/07/18 23:08 ID:z4nZs+Wu
七台のライドチェイサーは、ハイウェイを一気に通り抜け、
湾岸の人工島“ダイバ・アイランド”に辿り着いた。
「ユウコの情報によると、例の地点は3km先よ。私についてきて。」
ディオのモニターを見ながら、仲間に指示を与えるナツミ。
彼女を先頭に、七台のエバイクは一列縦隊で進む。

2km… 1.5km… 1km… 500m…
目的地に近づくにつれて、霧が濃くなってきた。
「こんな所をライドチェイサーで突っ込むのは危険ね。ここからは歩いて近づこう。」
アスカの判断で、皆エアバイクから降りた。
637たぢから:02/07/18 23:10 ID:z4nZs+Wu
その時だった。
「みんな動かないで!敵に囲まれた!!」
「えっ!?」
感覚が敏感なカオリの声に、皆固まる。
すると彼女の言うとおり、霧の向こうに複数の影が確認できた。
そしてそこからミサイルやらビームやらがランダムに飛んできた。
「みんな固まって!」
ナツミの指示で六人のハンターは一箇所に集まる。
そしてナツミ一人がが前に出た。
「くらえ!ファイヤーウェーブ!!」
鎧が赤くなったナツミのバスターから、炎の柱が立ち上り、周囲の敵を一気に焼き滅ぼした。
638たぢから:02/07/18 23:12 ID:z4nZs+Wu
「ナツミすごい!…って感心している場合じゃないわ。まだまだ向こうから来るよ。」
カオリの指すほうには、同じような影がどんどん現れている。
「これじゃキリがないわね…攻めるしかないかもね。」
マリはバスターロッドを構えた。
「そうね。攻撃は最大の防御って言うし。」
サヤカも二本のビームサーベルを抜いた。
「アスカ!ナツミ!私たちが突破口を作るから、アンタ達は先に行きな!」
ケイは大型のキャノン砲を構えた。
「確かに。こんなとこで足踏みしてる訳にはいかないわね。いくよナツミ!」
「分かったわ。みんな頼むよ!!」
639たぢから:02/07/18 23:13 ID:z4nZs+Wu
「じゃあいくよ!!」

ドォォォォォォォン!!!

ケイの砲撃を合図に、ナツミとアスカは駆け出した。
少し霧の晴れた道を、まっすぐ突き進む。
「私達もあの二人に遅れないよう、さっさと片付けよう!!」
「OK!!」
マキの言葉に、他の四人の士気が上がる。
次々と現れる敵に対し、彼女達は果敢に立ち向かっていった。
640たぢから:02/07/18 23:15 ID:z4nZs+Wu
タッタッタッタ…

ナツミとアスカは言葉を交わすことなく、ただ走り続けていた。
このような大規模かつ危険な任務は、過去に無かった訳ではない。
しかし、今までのどの任務とも違う“何か”が二人の頭をよぎるのだ。
その“何か”が不安となって二人の心を支配し、緊張させているのだ。

突如、霧が晴れ視界が広くなった。
二人の目の前には要塞のある人工島と、そこにつながる橋が現れた。
「あれがTK軍団のアジト…」
「何があるか分からないけど、突っ込む以外ないね。いくよナツミ!」
「うん。」
641たぢから:02/07/18 23:16 ID:z4nZs+Wu
ドドドドドドドドド…

二人が橋の中間あたりにさしかかったとき、突如橋が揺れはじめた。
そして、後方から橋が崩れているのが確認できた。
「…私達を海に沈める気ね…」
「アスカ、これに乗って!」
ナツミの足元には、厚い氷の板があった。
ショットガンアイスのエネルギーを溜めて作り出した物だ。
摩擦抵抗が限りなく0に近づき、高速で移動できるソリになる。
アスカとナツミはその氷の板に乗って、橋の崩壊に巻き込まれずに済んだ。
642たぢから:02/07/18 23:18 ID:z4nZs+Wu
…だが、安心する間もなく、二人は敵に囲まれる。
既に厳戒態勢が敷かれており、次々と兵士達が現れる。
「そう簡単には行かせてくれないわね、ここも。」
「うん。で、アスカどうする?」
「二手に分かれて要塞の入口を探そう。ここで固まっていても意味が無いと思うわ。
行く手を塞ぐ者がいるなら、全て破壊すればいいだけのことよ。」
「分かったわ。気をつけてね。入口を見つけたら連絡よ。」
アスカは高出力のバスターを、ナツミはストームトルネードを放ち、突破口を開いた。
そして、それぞれ別の方向に駆け出した。

これが運命の分かれ道だとは、その時の二人には気付く由も無かった。
そして、そのベクトルは再び一つに重なる。残酷な形で…

「フフフ…やはり、あいつらが来たわね。」
モニターに映し出されるナツミとアスカを見詰めながら、誰にともなく呟く影…
彼…いや彼女の後方には鈍い光を放つメカが待機している。
「じゃあ、あの紅い…確かアスカだっけ? アイツを始末しよう。」

黒い鎧、短い髪も顔も十分収まるメット、そして肩には象徴とも言えるランチャー…
女は、そのメカに乗り込むと、速やかにその場を後にした。