くノ一娘。物語

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369たぢから
市井と後藤が見たものは、高々と飛ばされているあみの姿だった。
「なっ・・・今のは一体・・・」
訳も分からず、あみは地面に落下した。
刀は真ん中あたりで砕け、鋼鉄の鞘も折れて曲がっている。
一方の安倍は、堂々と立ち、刀を鞘にしまっていた。
「なっち!」
駆け寄る市井と後藤。
「ついに疾風雷光閃が成功したんだね、なっち!」

市井のいう通り、安倍にとっては幻の奥義“疾風雷光閃”が成功した。
安倍の生きたい・勝ちたいと強く願う気持ちが、成功の鍵・・・
安倍が越えられなかった壁であった。
370たぢから:02/05/29 23:04 ID:XkrfLpOD
最初、前回の戦い同様、あみは双刀閃を仕掛けてきた。
だが、最初の刀が安倍の首筋を捕らえた刹那、
安倍は本能的に左足で踏み込んで抜刀、急速回転に入った。
そして遠心力で刀を折った後、勢いで鞘を弾き、
一回転してあみの右腕を斬りつけて、あみを上空へ弾き飛ばしたのだ。
その名のごとく、あみには緑色の閃光が横切ったように見えた。
まさに、一瞬の出来事だった。
371たぢから:02/05/29 23:05 ID:XkrfLpOD
「あみ・・・」
未だ意識がはっきりせずに倒れたままのあみに、安倍は近づいた。
「何故だ・・・何故・・・」
敗れたショックなのか、うわ言のように「何故」を繰り返している。
それでもあみは立ち上がった。安倍に対する執念だけで立ち上がった。
「・・・お前の奥義は私の体に染み込んだ。次は通用しない!」
あみはまだ戦う気である。脇差を抜き、右手に持ち替えようとした。
だが、脇差は握られること無く、地面に落ちた。
「無駄だべ。お前の右手はもう使い物にならない。」
372たぢから:02/05/29 23:06 ID:XkrfLpOD
先ほどの一撃で斬られた右腕は、完全な切断まで至らなかったものの、
全ての運動神経を断っていた。
もともと疾風雷光閃は、人間の胴体を真っ二つにするほどの大技である。
安倍の力不足が、このような形に表れた訳だが、
安倍にとってはそれだけで充分だった。
“修忍の法”でパワーアップしようとも、神経が切断されては意味が無い。
「なっちはむやみに命は奪わない。その代わり、確かにお前の右腕は貰ったべ。」
安倍の勝利宣言だった。
373たぢから:02/05/29 23:06 ID:XkrfLpOD
その後、半狂乱気味になりながら、あみは退散した。
一度は圧倒的な力の差で倒した安倍にやられたことがショックだったのだろう。
涙こそ出さなかったものの、悲壮感漂う表情だった。
安倍は、四ヶ月前の無念をようやく晴らすことが出来たのである。
満足げな表情で、安倍は市井と後藤のところに寄ってきた。
「後藤の傷は?」
「一応止血したけど、化膿の恐れもあるから、早く里に戻らないとね。」
「そんなことより、市井ちゃんとなっちの方が重症だと思うけど・・・」
結局、一番軽傷(それでも十分重傷)だった後藤が里に戻り、仲間を呼んで安倍と市井を搬送したのだった。