くノ一娘。物語

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313たぢから
その日の後藤の任務は、密書の配達であった。
それ自体は大したことではなかったのだが、その帰りに事件はおこった。
里近くの峠にさしかかったところ、突然後方から飛んできた鎖が、後藤を拘束した。
「動かないで貰えるかな?」
声の主は、四ヶ月前に安倍を倒した小室忍軍の鈴木あみだった。
314たぢから:02/05/20 23:05 ID:AZKI5Kdv
突然の出来事に、多少驚いた様子ではあったが、自慢の怪力で鎖を破ると、
後藤はあみと向き合った。
「噂どおりの馬鹿力ね。」
「それは、どうも。」
「安倍なつみ亡き今、“捨乱救”朝組一の使い手、後藤真希!この場で殺すわ。」
(いや、なっちは死んではいないんだけど・・・)
そう思いつつも、後藤は戦わずして逃げることは不可能と判断した。
双方刀を構え、戦闘体勢に入った。
315たぢから:02/05/20 23:06 ID:AZKI5Kdv
二人は同時に猛突進して、互いに己の刀を相手の首に翳した。
怪力同士の刀の衝突は、激しい振動を生じさせた。
「ぐっ・・・!!」
後藤の想像以上の力により、あみの腕に振動が走った。
「すごいわね。安倍以上よ。」
「それは、どうも。」

普段は何か頼りなさそうな後藤ではあるが、戦いにおいてはクールである。
しかし、あみはそのまま連続で後藤に斬りかかって来た。
あみの剣裁きは相当の速さで、安倍もこれに相当翻弄された。
だが後藤は、それすらも自然体で総て受け止めていた。
まさに互角の勝負である。
316たぢから:02/05/20 23:07 ID:AZKI5Kdv
だが、十分もしないうちに後藤は異変に気づいた。
(何だ・・・ この鈴木あみというくノ一・・・ 戦うにつれてどんどん強くなっている様な・・・)
だが、それは確信に変わりつつあった。
熾烈な戦闘が更に続くと、後藤が押されているのが深刻になっていく。
(間違いない。パワー、技のキレ、スピードが増している!)
317たぢから:02/05/20 23:08 ID:AZKI5Kdv
後に知られるようになるのだが、これが小室忍軍の忍びが得意とする、
“修忍の法”と呼ばれる術の正体である。
簡単に言えば、敵の技術をコピーし、自分の力に付加する術だ。
技真似くらいなら誰でも出来るが、小室忍軍の忍びは特別であった。
秘伝のトレーニングで、この能力向上に耐え得る強靭な肉体を造っている。
それ故、能力の上限がないのだ。さらに、あみはこの術を昇華させている。
相手の技を瞬時に見抜きそれを封じる最良の技を編み出せるのだ。
安倍の墜円斬が初見で封じられたのも、この能力によるものなのだ。
318たぢから:02/05/20 23:09 ID:AZKI5Kdv
「どうしたの?あんたの実力はそんなもの?大したことないわね。」
あみは防御で精一杯になりつつある後藤を嘲笑った。
そんなあみの言葉に後藤は壮絶なる怒りを覚えた。
(このアマァ!ちょっと押してるからって頭に乗るんじゃねえ!!)
後藤はムキになってあみに斬りかかったが、あみは総て受け止めつつ確実に攻撃を当てていった。
319たぢから:02/05/20 23:11 ID:AZKI5Kdv
(ヤバイ!このままじゃ、いつかは殺られる。でも策がない・・・!)
もはや後藤には余裕が無かった。
そしてあみがその隙を逃すはずは無かった。
「もらったぁ!」
「くっ・・・!」
強烈な突きが後藤の喉元を襲う。
辛うじて攻撃は防いだものの、後藤の刀は飛ばされ、森の中へ消えていった。