くノ一娘。物語

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292たぢから
広い草原で、安倍と寺田は向かい合っていた。
真夏であったが、夕方ということもあって涼しい。
「安倍、どっからでもかかって来い。」
だが、安倍は動くことが出来なかった。
朝組のくノ一は、夏から寺田の刀技を学んでいる。
したがって、寺田と組み手をしたことは一度も無い。
すなわち、本家寺田の手の内・技の威力が読めないのである。
むやみに近づくことは出来ないと、安倍は判断したのだ。
293たぢから:02/05/18 01:46 ID:SwxFWjGj
「瞬時に相手の力量を判断し、出方を待つとは・・・悪くはない考えやな。
だが、オレはお前の想像以上に強いで!」
次の瞬間、安倍の体を一度に九つの斬撃が襲った。
「うっ・・・!」
安倍は動けなかった。いや、下手に回避すればそれこそ刀の餌食にあったであろう。
寺田は手を抜き、忍び装束を斬るにとどまったが、まさに回避不能の技だ。
「唐竹・袈裟斬り・左薙・左切上・逆風・右切上・右薙・逆袈裟・刺突・・・
九つの斬撃を同時に繰り出す、これが乱撃“風乱刃”の極みの型“風乱刃・九極殺”だ。
だが、お前に教える技はこれでは・・・ない。」
「えっ・・・!?」
大技に驚愕していた安倍は、さらに驚いた。一体何を伝授してくれるというのか?
294たぢから:02/05/18 01:48 ID:SwxFWjGj
「“風乱刃・九極殺”は、お前なら一度見ただけで出来るやろ。
せやけど、お前が九極殺を放ったところで、オレには少しも敵わない。
物理の話になるけど、突進術である九極殺は技を繰り出す者の体重や速さが鍵となる。
立派な体格とは縁遠いお前では、風乱刃に毛が生えた程度にしかならん。
・・・が、今のお前でもこの技を破ることができる奥義中の奥義があるんや。」
「奥義中の・・・奥義・・・!?」
「そや。いまお前が体験したように、九極殺は回避不能の高速剣術や。
ここで問題や。このような回避不能の技を破るには、どうすればええか?」
安倍は考えた。一撃一撃の威力があり、突進による速さも兼ね備えた九極殺は、
防御も回避も出来ない・・・ならそれより速く斬り込むしか、勝ち目はない。
“攻撃は最大の防御”と聞いたこともある。
安倍は、居合いの構えを取った。
295たぢから:02/05/18 01:49 ID:SwxFWjGj
(・・・九極殺より速く斬り込むには、疾風閃しかない!)
(疾風閃か・・・あいつの十八番やったな。ほな、見せてもらおうか。)
寺田は中段の構えをした。勿論九極殺を放つつもりだ。
「・・・来い。」
「はあああああああっ!!」
安倍は一気に加速し、木刀に手をかけた。
「疾風閃!!!」

次の瞬間・・・安倍のからだが宙を舞った。
296たぢから:02/05/18 01:50 ID:SwxFWjGj
「うあっ!!」
安倍は受身を取ることもままならず、地面に叩きつけられた。
「・・・そんな・・・疾風閃が・・・」
「残念やけどな、疾風閃では九つの斬撃の威力を弱めることすら出来へん。まだまだ速さが足りないんや。」
寺田の言葉に、安倍は衝撃を受けた。
自分の持てる速さ全開で挑んだのに、それでも遅いと言うのだ。
(じゃあ・・・どうすれば・・・)
「そこで登場するのが、奥義“疾風雷光閃”や。」
「疾風・・・雷光閃!?」
その技の名前は安倍は初耳だったが、それと思しき技には心当たりがあった。
それは二年前、安倍と寺田の出会いまで遡る。
297応援してまっせ!:02/05/18 02:24 ID:pEAJkzsY

いやあ…。
この場面は『るろ剣』のあのシーンですね。
思わず懐かしいって唸ってしまいました。
298名無し募集中。。。:02/05/18 02:34 ID:5EAGp8LQ
ついに天翔○閃クル━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!??
299たぢから:02/05/18 23:32 ID:h4A/TpTi
PJで市井inCCを見ました。
市井ちゃんには頑張って欲しいですな。
この小説では思う存分活躍させます。準主役なので。

>297さん、298さん
バレバレですね。・・・てか剣術は「るろ剣」をモロにパクってますからね。
バレないほうがどうかしてますね。

ではこの小説初期でもチラっと紹介したカッコイイつんくをどうぞ!
300たぢから:02/05/18 23:33 ID:h4A/TpTi
平和だった安倍の村が戦によって滅ぼされ、たまたま生き残った安倍も、
村を漁っていた野盗達に囚われてしまった。
「ヘヘヘ・・・なかなかの上物じゃねぇか。」
「人買いに売れば、いい金になるぜ。」
「バカ言え!こんな美味しそうな女をみすみす手放す気か?」
「それもそうだな。じゃオレが一番な!」
「何言ってんだよ!オレが先だ!」
そんな野盗の下劣な会話は、安倍の耳には入っていなかった。
村の惨状をみた彼女には、生きる気力など微塵も残されていなかったのだ。
もう、どうなってもいい。そんな悲観的な考えだけが、頭の中を占めていた。

やがて、野盗達の間で意見がまとまり、リーダー格の男が安倍に手をかけようとした。その時・・・
301たぢから:02/05/18 23:35 ID:h4A/TpTi
ザシャッ!!

わざとらしく瓦礫を踏む音が、辺りに響いた。
不審に思った野盗達が振り向くと、そこには黒ずくめの男が立っていた。
「何だ貴様?」
「オレ達のお楽しみの邪魔に来たのか?」
しかし男は何も答えない。
「ケッ!目障りな野郎だ。お前ら、やってしまえ!!」
リーダー格の男の指示で、野盗達は一斉に飛び掛った。
彼らは格闘術に長けており、瞬時で男の懐を取り、拳を背繰り出そうとした。だが次の瞬間・・・!
302たぢから:02/05/18 23:38 ID:h4A/TpTi
「外道が・・・失せろや!」

野盗達の拳が男の顔を捉えると同時に、いやそれより数瞬早く、男は右腕を横に一振りした。
その瞬間、野盗達の身体を緑色の閃光が横切った。
なんと、この閃光により、野盗達の胴は真っ二つに切断されたのである。
「なっ・・・!?」
「何が起きたんだ!?」
「ヤツは一体・・・何を・・・!?」
突然の攻撃に野盗達は驚き、ある者は横振りされた男の右腕を見た。
だが、男の腕はいつも通りの、普通の状態であった。一体彼は、何をしたのであろうか・・・?
真っ二つにされた野盗達の身体は、先程のダッシュの慣性で、そのまま飛ばされた。
そして上半身と下半身のそれぞれが、地面に勢い良く着地した。
もはや生きてはいまい。
303たぢから:02/05/18 23:39 ID:h4A/TpTi
「なんて残忍な・・・」
これには残された野盗のリーダーも驚いた。
だが、次の言葉を発する前に、彼もまた緑の閃光によって首を刎ねられた。
まさしく一瞬の出来事だった。
目の前で、人が簡単に殺されたのを見た安倍は、震えていた。
だが彼女は恐怖を感じてはいなかった。何かへの興奮から来る震えだったのだ。
「待って・・・待って下さい!」
そのまま男は立ち去ろうとしたが、安倍は引き止めた。
「お願いです!私を連れて行って下さい! 力が・・・力が欲しい!!」
男は少し戸惑ったようだが、安倍としばらく目を合わせた後、静かに頷いた。
304たぢから:02/05/18 23:44 ID:h4A/TpTi
安倍は家族や村の人の墓を作ると、男について村を去った。
森の中で、男はようやく口を開いた。
「お前・・・名前は何と言うんや?」
「なつみ・・・安倍なつみです。貴方は・・・?」
「つんく・・・という忍び名はとうに捨てたな。今は寺田光男や。」
「これから、何処へ行くんですか?」
「オレの作った忍びの里や。そこでこの戦国の世を生き抜くための力と知恵を与えてやるわ。ついてこれるな?」
「はいっ!頑張ります!!」
305たぢから:02/05/18 23:44 ID:h4A/TpTi
「・・・あの時のあの技が、疾風雷光閃ですか?」
「そうや。あれこそがオレの奥義や。技の正体は大体分かるやろ?」
「はい・・・でも・・・」
そこで安倍は視線を落とした。
技の原理は理解している。一口で言えば神速の抜刀術。さらに寺田は納刀までもやっていた。
疾風閃の極み・・・まさに究極の“居合い抜き”である。
しかし今の安倍には、疾風閃から先が無かった。
どうすれば神速の域まで高めることが出来るのか、見当がつかなかった。
「ふむ・・・あと一歩の壁が越えられないんか・・・じゃあ、奥義は会得出来んな。」
そう言うと、寺田は踵を返した。
「残念やけど、これ以上は自分の力で見つけ出せ。オレの稽古はこれで終わりや。」