くノ一娘。物語

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240たぢから
里に戻ってきた中澤は、太陽組の信田を呼び、安倍を介抱したのだった。
命には別状は無かったものの、極度の打撲と複雑骨折で重体だった。
中澤の判断で、安倍は体力回復までは絶対安静とされ、
安倍の任務は、しばらく保田が代わりに受け持つことになった。
・・・と、一連の報告を飯田から聞いた安倍は、表情一つ変えず、
「カオリ・・・しばらく一人にして・・・」
241たぢから:02/05/09 23:02 ID:WVaPuZHy
安倍の表情に見え隠れする「何か」に、半ば追い出されるように
飯田が部屋から出た後、安倍は思い切り唇を噛んだ。
口の中に、血の味が充満する。
それでも涙は出なかった。いや出したくは無かった。
誰にも弱いところは見せたくなかった。一人になったとしても。

筋肉の痛み、骨の軋む音、血の臭いなど、微塵も感じなかった。だが・・・
『アハハハ!あんた踊りのセンスがあるわ!それだけ雑魚でクズってことだけど!』
その言葉がいつまでもグルグルと頭の中を回り続けた。
心に受けたダメージが体の痛みを凌駕し、安倍を蝕んでいった。
242たぢから:02/05/09 23:04 ID:WVaPuZHy
以下、本日アップ分です。

あの事件から二ヶ月位経ったある日、それは突然起こった。
「きゃああああ!」
飯田の悲鳴を聞き、かけつける朝組のくノ一達。
「カオリ、どうした・・・ええっ!?」
一番乗りの矢口の目の前には、肩を怪我し倒れている飯田と・・・
「な・・・なっち!?」
血のついた刀をもった安倍がいた。
だがそこにいるのは、いつもの安倍ではなかった。
獣のように唸り、何かに飢えた様な狂気の目をしている。
あまりの恐怖に矢口は硬直した。
それは後から駆けつけた市井、後藤も同様であった。
これは、只事ではない・・・!
243たぢから:02/05/09 23:04 ID:WVaPuZHy
「矢口・・・早くなっちを止めて・・・」
「カオリ・・・分かったよ。」
飯田の声を受け、矢口は刀を抜いて安倍と対峙する。
刀を鞘に収めた安倍からは異常なほどの殺気が感じられる。そして・・・
「あみ・・・コロス・・・」
小声ではあったが、矢口たちの耳にははっきり届いた。
244たぢから:02/05/09 23:05 ID:WVaPuZHy
「なっちぃ!」
矢口は一気に安倍に飛び掛った。
抜刀術では安倍の右に出る者はいない。
だが、肉体的な素早さなら、矢口に分がある。
安倍の後ろを取り、峰打ちにするつもりだ。
これですぐに安倍は倒れる…筈であった。
だが寸前で、矢口は安倍の異変に気が付いた。

一瞬、時が凍り付いた。

「う・・・くっ・・・」
矢口と安倍は互いに接近して止まっていた。
矢口は左手に握った脇差で安倍の刀を封じ、右手に持った刀で安倍の鞘を封じた。
・・・いや、封じるのがやっとだった。
何と安倍は双刀閃を繰り出していたのである。
245たぢから:02/05/09 23:06 ID:WVaPuZHy
安倍が矢口に攻撃を掛けるその寸前で、異常なまでに膨れ上がる殺気を感取った矢口は、
瞬時にして腰の脇差を抜き、神業の如く安倍の奇襲を防いだのである。
もし安倍の双刀閃が完璧な物だったら、確実に矢口の右腕は破壊されていただろう。
だが、今の矢口はこれが精一杯であった。これ以上の攻撃を仕掛けられない。
「おのれ・・・あみぃ・・・」
安倍の目には矢口ではなく鈴木あみが映っているようだ。
仕返しの双刀閃を防がれ、さらなる怒りの闘志が湧き上がっている。