くノ一娘。物語

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24たぢから
「う・・・う〜ん・・・」
「紗耶香、気がついた?」
「あ・・・安倍さん・・・」
その夜、安倍は市井に付き添っていた。
「あれ・・・訓練は?」
「しばらくは休んでいいって。紗耶香達は過酷だもんね。遠慮することないべ。」
安倍の言葉が市井の心に触れ、その目から涙が流れだした。
「私・・・辞めたい・・・」
「・・・」
「矢口みたいに速いわけじゃないし、圭ちゃんみたいにスタミナがあるわけでもない・・・」
市井は安倍に背を向けた。
「ドジで泣き虫で・・・ホント、何でこんなことしてるんだろ・・・」
25たぢから:02/04/10 23:02 ID:5qz7M5iI
「そうだね。何でくノ一になったんだろうね。」
「え・・・?」
安倍の疑問に、市井は驚いた。
「私も何度も思ったよ。辛い訓練から逃げたくて逃げたくて・・・」
「安倍さん・・・」
「ねえ紗耶香、どうして紗耶香はくノ一になろうと決めたの?」
市井は答えることが出来なかった。
戦火で親を失い、生きる希望も無く彷徨っていたところ、
偶然忍びの里を見つけ、なりゆきで入団したのだから。
「話したくなければ、別にいいけどね。」
市井の様子から、安倍は無理な詮索をしなかった。
「なっちはね、強くなりたかったから。」
26たぢから:02/04/10 23:03 ID:5qz7M5iI
それは一年前にさかのぼる。
里から歩いて五日はかかる、人里離れた山奥の森のそのまた奥、
その森を抜けたところには、のどかな農村があった。
名も無い村ではあったが、ほぼ一年中蘭の花が咲き乱れることが特徴だった。
ところがある日、その村は某戦国大名の軍勢に襲われた。
田畑は荒らされ、略奪に強姦・・・平和な村は一瞬にして地獄と化した。
たまたま森の中で果物を集めていた安倍が戻ってきたときには、
村跡に変わっていた。安倍はしばし放心状態となった。
そこに追い討ちをかけたのが、二十人くらいの野盗だった。
彼らは、戦で荒れた村々から軍の取りこぼしを、根こそぎ喰らっていた。
当然、安倍の家も隅々まで喰い尽くされていた。
27たぢから:02/04/10 23:04 ID:5qz7M5iI
次の瞬間、安倍は野盗達の中へ突っ込んでいった。
怒りに我を忘れ、大声でわめき、涙をこぼし・・・半狂乱になっていた。
しかし少女一人の力ではどうにもならず、あっけなく捕らわれてしまった。
野盗達が、安倍について相談(売るか犯すか)している最中に、それは起こった。
野盗達の目の前に突如現れた黒ずくめの男。
彼は一瞬のうちに全ての野盗を倒した。胴体を横に切断するという残忍なやり方で。
それでも安倍は恐怖感を覚えなかった。むしろ、何かに興奮していた。
男が去り行く間際、安倍はその男を引き止めた。
そして、自分を連れて行って欲しいと懇願した。
男は静かに頷くと、安倍をつれて村をあとにした。
その男こそ、頭の寺田光男だったのだ。