くノ一娘。物語

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113たぢから
キィィィィィィン!
刀と刀のぶつかり合う音が響く。
「よくも殴ってくれたわね!」
「くノ一が別に顔を売りにしてるわけじゃないべさ?」
「うっさいわ!この田舎モンがぁ!!」
意外にも、安倍は上原とほぼ互角の戦いを展開していた。
わざと相手を怒らせ、冷静さを失わせる“怒車(どしゃ)の術”がよく効いているようだ。
一方の今井は、矢口と市井を同時に相手にしている。
矢口と市井のコンビネーションプレイは、決して悪いものではないのだが、
今井にはまだ余裕が見られる。
114たぢから:02/04/26 23:10 ID:MfQ+cWSz
「なっち、旋風!」
「OK!くらえ旋風刃(せんぷうじん)!!」
福田の指示で、安倍は夏直伝の剣技を上原に放つ。
横回転による遠心力を利用した強烈な一撃だ。
「高速殺人剣・旋風(つむじ)!!」
上原は同様の技で、威力を相殺させる。
戦えない福田は、声によるサポートをしていた。
朝組一のスピードを持つ故に、上原と今井の動きを辛うじて分析できるからだ。
115たぢから:02/04/26 23:11 ID:MfQ+cWSz
「紗耶香、風突!真里っぺ、墜円!」
「風突牙(ふうとつが)!」
市井が突きを繰り出し、今井が後退する。
「くらえ墜円斬(ついえんざん)!」
そこを、市井の後ろから飛び出した矢口が縦の回転斬りで攻める。
「高速殺人剣・迅雷(いかずち)!!」
「「うわあっ!」」
今井は縦に一閃して、矢口と市井を弾き飛ばした。
「紗耶香!矢口!」
「なっち、よそ見しないで!」
「高速殺人剣・疾風(はやて)!!」
目を逸らした安倍に、上原は横に一閃する。
何とか刀で防御する安倍だったが、上原は力で吹っ飛ばした。
安倍達三人は福田の目の前に落ち、動かなくなってしまった。
116たぢから:02/04/26 23:11 ID:MfQ+cWSz
「なかなかの腕前だったわ。この子達もあなたもね。でも茶番劇は終わりよ!」
上原が刀を福田に向けたその時、
「じゃ・・・アンコールだべさ。」
「なにっ!?」
また安倍が立ち上がってきた。
いや、安倍だけではない。矢口も市井も、刀を杖にしながらも立ち上がった。
「なっち・・・矢口・・・紗耶香・・・」
「明日香、なっちは勝つべ。何としてでも。」
そう言うと、安倍は鞘に刀を収めた。
「なっち!?・・・まさか!」
「分かってるべさ。この傷ついた体には負担が大きいことも、成功率が低いことも。
でもね、なっちは明日香を、皆を死なせたくないべさ。」
117たぢから:02/04/26 23:12 ID:MfQ+cWSz
安倍の体から溢れ出る闘気が、福田を刺激する。
「分かったわ。紗耶香、真里っぺ、出来るだけあの二人を近づけて。
そしてなっちが合図したら、両側に散って。」
安倍の考えは分からなかったが、福田の作戦には間違いない。
矢口と市井は静かに頷き、刀を構えた。
「紗耶香は上原を狙って。私は今井を攻める。」
「OK。いくよ!」
打ち合わせどおり、矢口は今井に、市井は上原に斬りかかった。
ありったけの力を振り絞り、果敢に攻めてゆく。
(この女・・・なっちとかいうヤツより力がある!)
(このチビッ・・・さっきより押している!?)
118たぢから:02/04/26 23:13 ID:MfQ+cWSz
先ほどよりも力強い攻撃を仕掛けてくる二人に、今井と上原は困惑した。
しぶとい上に、段々強くなってゆく敵など、見たことが無い。
その迷いが隙を生じさせ、安倍が用意したシナリオへと導いてゆく。
「なっち、今だよ。」
福田の合図で、安倍が飛び出した。一気に加速し、刀に手をかける。
「紗耶香!矢口!どいてぇ!!」
安倍の合図を受け、矢口と市井は反射的に離れた。
丁度、今井と上原が重なり合っている。
「くらえっ!疾風閃!!」
疾風閃(しっぷうせん)・・・十分加速した上で放つ抜刀術。
ダッシュの慣性により、普通の居合い抜きに比べ広範囲に威力が及ぶ。
「「うわーっ!」」
あわてて刀で防御したものの、今井・上原共々吹っ飛ばされてしまった。
119たぢから:02/04/26 23:14 ID:MfQ+cWSz
「や、やったべさ・・・」
そう呟くと、安倍はそのまま床にへたりこんだ。
よほどの集中力と、力を必要とするようである。
「なっち、やったね!」
「すごいよ、なっち!」
矢口と市井が駆け寄ってきた。そして福田も。

「ま、待て・・・」
瓦礫の向こうから姿を現す今井と上原。
しかし、全身に傷を負い、刀も折れている。
「・・・それでも戦うべ?」
「悔しいけど、ここはひとまず引くとするわ。」
「でも、次あうときは負けないわよ。」
そう言うと、上原は煙玉を爆発させ、二人はいなくなった。
その直後、出口の方で爆音がした。
120たぢから:02/04/26 23:15 ID:MfQ+cWSz
「なっち!明日香!矢口!紗耶香!無事ぃー!?」
地下になだれ込む中澤達。
やかましい連中がきたな、と苦笑する安倍達。
互いの無事を確認し、その場から脱出しようとしたその時、
「ちょっと、待ってください。」
声の主は、最後の囚人となっていたあの老人だった。
「担架を用意してくれませんか。この方は両腕をケガしとるからの。」
この方とは、福田のことである。
福田自身は、単なる骨折程度だと軽視していたが、担架が要るということは、
どうやらそれどころじゃないらしい。
「貴方は?」
「一応、医者じゃよ。」