くノ一娘。物語

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1たぢから
以前あったくノ一小説を見て、書きたくなりました。
超能力忍法に頼らない話にしようと思います。
2たぢから:02/04/09 00:08 ID:5DIPbvY/
人里離れた森の中を奥へ奥へと向かう一つの影。
その速さは常人の目では捉えられるものではなく、
一陣の風のごとく、駆け抜けてゆく。
そしてそれを追う別の影。
3たぢから:02/04/09 00:09 ID:5DIPbvY/
「くらえ!」
「なんの!」
2つの影は互いにあらゆる武器、技を繰り出しながら、森の中を走り続ける。
やがて開けた土地に出ると、その2つの影は向き合い、木刀を取り出す。
「明日香いくよ〜〜〜!」
「いつでもどーぞ!」
4たぢから:02/04/09 00:09 ID:5DIPbvY/
一見呑気な言葉の掛け合いだが、次の瞬間には、二人は互いに木刀をぶつけ合っていた。
木刀の衝突により発生する振動が、互いの手元に伝わり、痺れる。
「なかなかやるね、なっち。」
「同期とはいえ、年下には負けられないべさ。」
自らの信念を懸けた決闘・・・木刀だけど真剣勝負だ。
5たぢから:02/04/09 00:10 ID:5DIPbvY/
それから1時間が過ぎただろうか…二人共かなりのダメージを負っていた。
互いに互角の実力が為に、どちらも一歩も引かなかった。
だが、二人とも相当のダメージを負っているが為に、もはや無駄な動きはできなかった。
「次で決めるべさ!」
「それはこっちのセリフ!」
二人は、攻撃のチャンスを見計らっていた
6たぢから:02/04/09 00:10 ID:5DIPbvY/
風が止んだ瞬間、二人は一気に互いに向かって駆け出し、木刀を相手の首に向かって振りかざした。
だが次の瞬間、2人の間に割ってはいるものがあった。
「あっ!」
「この苦無は・・・裕ちゃん!」
「そこの二人!いつまでやっとんねん!お頭から呼び出されとるやろ!」
年のわりに・・・
「ああん?」
失礼。若くて威勢のいい声の主は、今戦っていた二人の姉貴分、中澤裕子である。
7たぢから:02/04/09 00:11 ID:5DIPbvY/
「ゴメンゴメン。修行のつもりが長引いたべさ。」
「ちょっと!お頭の所に向かっていた私に不意打ちしたのはなっちでしょ?」
「お互い様だべさ。この間は明日香が・・・」
「ああもう!喧嘩両成敗!!はやく来ないと・・・今夜キスするぞ。」
苦無を拾いつつ、二人を脅す中澤。目はマジだ。
「い、行こっか明日香・・・」
「裕ちゃん、お先ぃ〜〜〜・・・」
「コラ、二人とも待たんか〜〜〜〜〜!!」
8たぢから:02/04/09 00:13 ID:5DIPbvY/
「お前ら、1時間の遅刻や。」
「つんくさ〜ん、スイマセン。」
「なっち・・・いい加減“お頭”って呼ばなきゃマズイって。」
それより遅刻のほうが問題である。
9たぢから:02/04/09 00:14 ID:5DIPbvY/
ここは忍び集団“捨乱救”の総本山。
二人が呼ばれた部屋の中には、頭の忍者“つんく”こと寺田光男、
二人の仲間である石黒彩、飯田圭織がいた。
「ゼエゼエ・・・やっと追いついた。この子ら、逃げ足だけはホンマ早いわ・・・」
おくれて中澤が到着。
言い忘れていたが、さっきの二人のうち、
年上で訛りが目立つのが安倍なつみ、年下でツッコミ役なのが福田明日香である。
10たぢから:02/04/09 05:56 ID:t76n8SXD
全員が揃ったところで、石黒が口を開いた。
「お頭、今回私達“朝組”が呼ばれたは何の用があってのことでしょうか?」
「それはな、平家から説明がある。平家、入れ。」
「はい。」
部屋の奥から姿を現すくノ一平家みちよ。そして彼女に続いて三人の少女が部屋に入る。
11たぢから:02/04/09 05:57 ID:t76n8SXD
「みっちゃ〜ん。この子らは?」
「裕ちゃん、新入りだよ。」
「え?だってカオリ達忍びになってからまだ半年・・・」
「そうだべ。まだまだ半人前だべさ。」
「お頭いいんですか?」
予想外のことに、文句(?)を口にする朝組のくノ一。
「コラコラ落ち着かんかい!だから半人前なんや。」
リーダーの裕子が注意する。
忍びたるもの、常に冷静沈着でなければならない。
12たぢから:02/04/09 05:58 ID:t76n8SXD
「要は、朝組の追加人員ってことだよね?」
年齢では中澤の次の石黒がみちよに訊ねる。
「そういうこと。本当は私も手伝ってあげたいんだけど、太陽組との任務があるから。」
キャリアでは朝組の五人を一歩リードする平家は、基本的に単独で任務をこなす。
太陽組はさらに経験豊かな四人組のくノ一集団である。
13たぢから:02/04/09 05:58 ID:t76n8SXD
「三ヶ月以内にこの子達を今のアンタ達のレベルに育てること。これがノルマよ。」
「三ヶ月!?マジでか?」
さすがの中澤も動揺を隠せない。教育係の自身はない。
「大丈夫やて。お前ら成長株やから。このつんくの目に狂いはない。」
太陽組との打ち合わせがあると言って、寺田と平家は出て行った。
何だかよく分からないまま、五人のくノ一と三人のくノ一のタマゴは取り残された。
14たぢから:02/04/09 06:03 ID:t76n8SXD
「とりあえず、自己紹介するべ?」

沈黙を破ったのは安倍だった。
田舎育ちによる、未だ消えないウソ臭い訛りが、場のムードを和らげる。
まずは朝組の五人が名乗り、その次は新人の番だ。
猫目の保田圭、小柄な矢口真里、おとなしい市井紗耶香。
朝組の五人だってそうだが、見た目も年齢もバラバラの三人である。
リーダー中澤の一声で、受け持ちが決まった。
年齢を考慮して、中澤・石黒−保田、飯田・安倍・福田−矢口・市井という組み合わせである。
顔合わせが終わったところで、この日はお開き。
外へ出て、新人を宿舎まで案内した。
15たぢから:02/04/09 06:04 ID:t76n8SXD
次の日は早朝から訓練だった。
師範くノ一夏まゆみの指導の下、基礎体力作りに精を出す。
中澤たち五人はなれているが、新人の三人は大変である。
なにせ、三ヶ月以内に追いつかないといけないのだ。
したがって、先輩五人よりハードな訓練となる。
16たぢから:02/04/09 06:05 ID:t76n8SXD
ちなみに、忍びの世界にもランク付けがある。
上忍・・・太陽組がこれにあたり、基本的に単独で任務を遂行する。
中忍・・・平家が該当する中堅クラス。上忍について任務をこなすことが多い。
下忍・・・半人前で下っ端。実戦に携わる事はない。朝組はこれ。
寺田や夏はもちろん上忍であるが、上の上といった部類に入る。
下のランクの忍びの訓練指導に関わることが多い。
17たぢから:02/04/09 06:06 ID:t76n8SXD
この日の特別メニューは「早がけ」、単純にいうと、かけっこの訓練だ。
身長の数倍の長さの帯を額にくくりつけ、帯が地面につかないよう走るのだ。
しかも、その状態を維持した上で、長距離走となる。
夏曰く、基本的に忍者は戦闘員ではないので、逃げることに重点を置く。
任務遂行の為には、速さと持久力を兼ね備えなければ意味がないとのこと。
中澤達は30km、新人達は10kmだ。なお、中澤達の初回は2kmであった。
18たぢから:02/04/09 06:08 ID:t76n8SXD
新人三人にとってはあまりに過酷である。スタミナ切れで皆倒れてしまう。
しかし夏は妥協を許さない。竹刀を振り、ありったけの罵声を浴びせる。
「矢口!背の分帯短いんだから、もっと走れ!!
保田!スタミナには自身があるって言ってたろうが!!
市井!泣いても何にもならないぞ!立てぇ!!」
鬼だ・・・さすがの中澤達も恐怖を覚えた。
19たぢから:02/04/09 06:09 ID:t76n8SXD
その日のノルマが達成できなければ、達成できるまで訓練。
これが完璧主義の夏の訓練スタイルである。
要は夜中でも補習訓練をする、ということである。
新人三人は連日補習を受け、体で覚えていった。
だが、やはり人間である。いつしか限界にぶちあたるものだ。
それは十日目の三千メートル走の訓練の最中だった。
三千メートルといっても、海抜三千メートルだ。
里の近くの霊峰を全速力で駆け上がるという、地獄の訓練だ。
蓄積された疲労と酸欠のせいで、開始一時間も経たないうちに、
三人ともダウンしてしまったのだ。
これ以上は無理と判断され、三人には数日間の休養が与えられた。
20名無し募集中。。。:02/04/09 23:00 ID:o2s7YqS/
age
21名無し募集中。。。 :02/04/09 23:01 ID:o2s7YqS/
上ゲ
22 ◆KOSINeo. :02/04/10 00:10 ID:kja6NYXj
小説総合スレッドで更新情報掲載しても良いですか?
http://tv.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1013040825/
23たぢから:02/04/10 07:25 ID:B8TP7IEb
>22
はい。お願いします。
24たぢから:02/04/10 23:01 ID:5qz7M5iI
「う・・・う〜ん・・・」
「紗耶香、気がついた?」
「あ・・・安倍さん・・・」
その夜、安倍は市井に付き添っていた。
「あれ・・・訓練は?」
「しばらくは休んでいいって。紗耶香達は過酷だもんね。遠慮することないべ。」
安倍の言葉が市井の心に触れ、その目から涙が流れだした。
「私・・・辞めたい・・・」
「・・・」
「矢口みたいに速いわけじゃないし、圭ちゃんみたいにスタミナがあるわけでもない・・・」
市井は安倍に背を向けた。
「ドジで泣き虫で・・・ホント、何でこんなことしてるんだろ・・・」
25たぢから:02/04/10 23:02 ID:5qz7M5iI
「そうだね。何でくノ一になったんだろうね。」
「え・・・?」
安倍の疑問に、市井は驚いた。
「私も何度も思ったよ。辛い訓練から逃げたくて逃げたくて・・・」
「安倍さん・・・」
「ねえ紗耶香、どうして紗耶香はくノ一になろうと決めたの?」
市井は答えることが出来なかった。
戦火で親を失い、生きる希望も無く彷徨っていたところ、
偶然忍びの里を見つけ、なりゆきで入団したのだから。
「話したくなければ、別にいいけどね。」
市井の様子から、安倍は無理な詮索をしなかった。
「なっちはね、強くなりたかったから。」
26たぢから:02/04/10 23:03 ID:5qz7M5iI
それは一年前にさかのぼる。
里から歩いて五日はかかる、人里離れた山奥の森のそのまた奥、
その森を抜けたところには、のどかな農村があった。
名も無い村ではあったが、ほぼ一年中蘭の花が咲き乱れることが特徴だった。
ところがある日、その村は某戦国大名の軍勢に襲われた。
田畑は荒らされ、略奪に強姦・・・平和な村は一瞬にして地獄と化した。
たまたま森の中で果物を集めていた安倍が戻ってきたときには、
村跡に変わっていた。安倍はしばし放心状態となった。
そこに追い討ちをかけたのが、二十人くらいの野盗だった。
彼らは、戦で荒れた村々から軍の取りこぼしを、根こそぎ喰らっていた。
当然、安倍の家も隅々まで喰い尽くされていた。
27たぢから:02/04/10 23:04 ID:5qz7M5iI
次の瞬間、安倍は野盗達の中へ突っ込んでいった。
怒りに我を忘れ、大声でわめき、涙をこぼし・・・半狂乱になっていた。
しかし少女一人の力ではどうにもならず、あっけなく捕らわれてしまった。
野盗達が、安倍について相談(売るか犯すか)している最中に、それは起こった。
野盗達の目の前に突如現れた黒ずくめの男。
彼は一瞬のうちに全ての野盗を倒した。胴体を横に切断するという残忍なやり方で。
それでも安倍は恐怖感を覚えなかった。むしろ、何かに興奮していた。
男が去り行く間際、安倍はその男を引き止めた。
そして、自分を連れて行って欲しいと懇願した。
男は静かに頷くと、安倍をつれて村をあとにした。
その男こそ、頭の寺田光男だったのだ。
28名無し募集中。。。:02/04/11 16:02 ID:1T2lkcd1
>>27
かっこいいつんくって珍しいかも(w
29たぢから:02/04/11 23:06 ID:TIEPwRkA
>27さん
どうも作者です。
つんくはあんまり出番がありませんが、関西弁以外は別人かもしれませんね。
この小説が軌道に乗ってきたら、外伝的な話を書いてみたいと思っています。
まあ、主役はなっちなんですが。
30たぢから:02/04/11 23:07 ID:TIEPwRkA
「なっちはね、強くなりたい。力だけでなく、心もね。そして、夢をかなえるんだ。」
「・・・夢?」
「この手で村を甦らせること。なっちが村長になって、みんなを守るんだ。」
安倍の目には一点の曇りも見られなかった。
その瞳に、市井は心の隙を貫かれた気がした。
「・・・安倍さんには、言っておこうと思います。」
「?」
市井は心の内を全てさらけ出した。そして、自分の弱さにまた泣いた。
そんな市井を安倍は起こし、優しく抱きしめる。
「確かに紗耶香は弱いかもしれない。でも、なっちはそれでもいいと思う。
なっちだって、まだまだ弱いべさ。でも、弱いからこそ強くなろうとも思える。
紗耶香だって頑張れば強くなれるはずだよ。絶対にね。
だから、私は紗耶香に辞めて欲しいとは思わないべさ。」
31たぢから:02/04/11 23:07 ID:TIEPwRkA
一週間ほどしか顔を見ていないが、弱みや涙とは無縁の人だと思っていた。
だがそんな彼女にも、悪夢にうなされて眠れぬ夜があったのかもしれない。
人知れず泣き続けた夜だってあったのかもしれない。
そう思うと、市井はなんだか妙に自分が傲慢なような気がした。
しばらく沈黙した後、
「ありがとう・・・安倍さん。私は辞めません。」
「よかった。でもさ、その“安倍さん”は辞めて欲しいべさ。なんか他人行儀過ぎてさ。」
「じゃあ、なっちさんで。」
「さん付けもいらないべ。別に先輩後輩で分けなくてもいいべさ。」
「ありがとう、なっち。」
市井からは自然と笑みがこぼれていた。この里に来て初めての笑顔だった。
「そうそう。泣きたい時に泣けばいいし、笑いたい時に笑えばいいんだべさ。」
32たぢから:02/04/11 23:10 ID:TIEPwRkA
次の日、安倍は寝坊した。
もともと時間にルーズなのだが、昨晩市井と話しこんでいたのが災いした。
着替えも中途半端なまま、集合場所へと向かう。
「遅れてごめ〜・・・あれ?」
違和感を感じたものの、その正体がつかめない。
「なっち!時間は守んなきゃダメだよ。」
33たぢから:02/04/11 23:10 ID:TIEPwRkA
「え?もしかして・・・紗耶香ぁ!? か、髪どしたの???」
市井はおかっぱだった髪を、半分位切っていた。
少年の様な風貌に、安倍は気づくのが遅れたのだ。
「髪はともかく、まだ二日休めるんだから・・・」
「いいの。もう昨日までの私じゃないから。」
「へ?」
「私もなっちみたいに強くなりたいって思ったから。もう寝てなんていられないよ。」
市井からは、見た目以上に別人と思わせる「何か」を感じられた。
34たぢから:02/04/11 23:13 ID:TIEPwRkA
「さ、早く行こう。他のみんなはもう走ってるよ!」
「よぉし、じゃあどちらが先に追いつくか競争だべさ!」
「じゃ、お先に〜!」
間髪いれず駆け出す市井。
「フライングはズルイべさぁ〜!紗耶香待てぇ〜!!」
35たぢから:02/04/11 23:14 ID:TIEPwRkA
髪を切り、弱い自分と決別した市井は、先輩五人に劣らない根性と努力で、
見る見るうちに成長していった。
一方、この市井の変わり様を見た保田と矢口も、負けてられないと奮起するのだった。
これには中澤達五人にもいい刺激を与え、彼女達もまた上達していった。
そして二ヵ月後、訓練の甲斐あって、八人のくノ一は見事中忍に昇格した。
仲間でありライバルである朝組八人の物語は、
今ようやくスタートラインにさしかかろうとしている。
36たぢから:02/04/12 23:48 ID:LpXvbfta
朝組のくノ一は、中忍に昇格してからは情報収集が主な任務で、
実戦に出ることは一度もなかった。
それでも、彼女達は日々の精進を怠ることはなかった・・・はずだった。
「明日香、ミカン五十個早食い勝負だべさ!」
「望むところよ!」
「コラコラ!アンタらえーかげんにせんかい!」
安倍と福田・・・この二人は仲がよく、お互い良きライバルなのだが、
どちらも食いしん坊なのが祟り(?)、大食いまでライバルなのだ。
ハードな運動をしていなければ、とっくに相撲取りなのは間違いない。
37たぢから:02/04/12 23:48 ID:LpXvbfta
ある日の自主トレメニューは、里の裏山でのかくれんぼだった。
これは各種隠法・遁法(逃げる術)を駆使した、立派な訓練である。
鬼は投票により中澤と石黒に決定。この結果に二人とも殺気立っているのは言うまでもない。
なお、ルールは普通のかくれんぼと勿論異なり、鬼が交代することはない。
その代わり、見つけられた者は、鬼と戦闘したり、逃げたりしても構わない。
逆に、鬼は見つけた者を捕らえれば、その場で何をしても構わないことになっている。
38たぢから:02/04/12 23:49 ID:LpXvbfta
日の出と共にかくれんぼは始まった。
安倍達六人は、一目散に駆け出す。そして目を塞いで数える中澤&石黒。
「・・・9997、9998、9999、10000!よっしゃ行くで、彩っぺ!!」
「数え終わってから言うのはなんだけど・・・普通かくれんぼは10数えるもんだよね?」
「ま、ええやん。これくらいのハンデがあってこそ、キスに集中できるってもんやで!」
【復習】鬼は見つけた者を捕らえれば、その場で何をしても構わない。
「相変わらずのキス魔だね。狙いは誰なの?」
「矢口ぃ!あの娘は今が旬やで!!」
「旬?・・・わかったわ。私はカオリとかを狙うことにするよ。」
こうして二人の鬼は動き出した。
39たぢから:02/04/13 23:22 ID:kjAUjnSF
CASE1:矢口真里
矢口は朝組一小柄で、隠れるのは得意中の得意である。
中澤から妙な視線を感じていた矢口は、まず自分が狙われるものだと直感していた。
その為、見つかりにくく、逆に見張りやすい所を探し回っていた。
当然、葉の多く生い茂る大木が好ましい。
なお、木の上に身を潜める隠法を、「狸隠れの術」という。
矢口は狸というよりコアラっぽいが、当時の日本にはいない。
40たぢから:02/04/13 23:23 ID:kjAUjnSF
「♪この〜木何の木気になる木〜・・・あ!あの大いいかも。」
矢口の見つけた木は、幹の直径が十メートル、高さも三十メートルはある大木だった。
葉も多く、外からは内部の様子が分かりにくい。
「よし。これに決定!」
矢口は手甲鉤を使って、楽々とてっぺんまで登りきった。
「ここなら裕ちゃんでも見つけられないだろう。」
41たぢから:02/04/13 23:24 ID:kjAUjnSF
CASE2:飯田圭織
矢口と対照的に飯田は背が高く、忍び装束でも目立ってしまう。
そこで、一旦茂みに隠れると、迷彩柄の服に着替えた。
しかし、飯田は服を二着持っていたわけではない。
実は飯田の忍び装束を裏返すと、迷彩服になっているのだ。
いわゆるリバーシブルで、異なる着物の柄を目的と用途に合わせて使い分けるのだ。
これを「変わり衣の術」という。
それでも歩いてれば目立つので、飯田はどこかの茂みに身を潜めることにした。
42たぢから:02/04/13 23:25 ID:kjAUjnSF
地上で隠れる時も、敵に見つかりにくく、こちらから見張りやすい場所を選ぶのが基本だ。
そして、いざ見つかっても、敵がすぐには近寄れず、自分が逃げやすいことも考慮したほうが良い。
避けるべき場所としては、湿地帯が挙げられる。
足場が悪いし、水にぬれると体力を消耗する。そして悪い虫もわくからだ。
というわけで飯田が選んだのは、崖の上の茂みだった。
「ここならすぐには上って来れない。カオリ冴えてるぅ!」
妙に自画自賛なのが弱点であるが、他の仲間は気にしていない。というか慣れていた。
腰を下ろすと、飯田はどこかと交信をし始めた。一応、警戒態勢だろう。
ただボーっとしてる風にしか見えないが、これが「電波」と呼ばれる特異体質であることが後で分かる。
43たぢから:02/04/14 23:32 ID:9eQshrrI
CASE3:保田圭
保田は、隠れるというよりは、ゲリラ戦を仕掛けようとしていた。
【復習】見つけられた者は、鬼と戦闘したり、逃げたりしても構わない。
ルールを何か履き違えているようだが、実戦を想定してのことだろう。
妙なところで生真面目(?)なのが、保田の弱点である。
保田は、夏師範から学んだ知識を総動員して、あらゆる罠を仕掛けていた。
落とし穴なんてのは当たり前、あるところには連続的に穴を掘ってある。
これを「狼穽(ろうせい)」といって、穴の中に鋭いスパイクを埋めておくこともある。
44たぢから:02/04/14 23:32 ID:9eQshrrI
他には、細い糸による仕掛けを用意していた。
気づかずに足を引っ掛け、糸を切ろうものなら、矢や槍が飛んでくる。
仲間を殺すつもりなのだろうか!?
「ん?大丈夫だって。矢とか槍といってもかき集めた木の枝や竹だし。」
そういう保田は、竹を斜めに切って、切断面を丁寧に磨いでいた。
45たぢから:02/04/14 23:33 ID:9eQshrrI
CASE4:市井紗耶香
わさわさわさ・・・
森の中を動く巨大ミノムシ・・・ではなくて、「木の葉隠れの術」を使っている市井がいた。
これは「隠れ蓑の術」の一つで、木の葉を沢山つけた布で全身を覆い、自然と一体化するものだ。
しかし、今は初夏だった。そんなに葉っぱは落ちてはいない。
「・・・これじゃ逆に目立つなぁ。」
というわけで、市井は葉っぱ蓑をその場に捨てた。
「地道に隠れるのは性に合わないや。適当に逃げ回ってよう。」
46たぢから:02/04/14 23:34 ID:9eQshrrI
CASE5:安倍なつみ
安倍は何故か森の奥で刀を振るっていた。
【復習】見つけられた者は、鬼と戦闘したり、逃げたりしても構わない。
戦う気100%なのは間違いない。
夏師範を通して学んだ、寺田の刀技を必死に練習している。
周りの木という木を切り倒し、外から丸見えである。
「ありゃ、やり過ぎたべ。別のところに移動するべ。」
一応隠れる気もあるようだ。
47たぢから:02/04/14 23:35 ID:9eQshrrI
CASE6:福田明日香
福田は朝組最年少ながら、知的センスは一番である。
そんな福田の隠法・遁法とは・・・
「秘密です。これはあとのお楽しみ。」
果たして鬼二人は福田を見つけることが出来るのか?
48名無し募集中。。。:02/04/15 00:03 ID:9f5BA6gH
保全AGEしちゃる。
49名無し募集中。。。:02/04/15 04:34 ID:Wf+wsG3X
>たぢから
オモロイよ。がんがれ。
50たぢから:02/04/15 23:01 ID:NFDt0iOy
>49さん
サンクスです。これからもよろしく。
51たぢから:02/04/15 23:01 ID:NFDt0iOy
中澤は、特別兵器を用意していた。
「行くで、ファーストラブ。」
「ワン!!」
ファーストラブと名づけられたこのメス犬は、忍者の手助けをする忍犬である。
犬の嗅覚は人間の数万倍で、ほんのかすかな臭いでも嗅ぎ分けることが出来る。
中澤は、矢口のクマのぬいぐるみ(盗品)をファーストラブに嗅がせ、出発した。
52たぢから:02/04/15 23:02 ID:NFDt0iOy
「こっちも行くよ、タンポポ。」
「ウォン!!」
石黒も、忍犬タンポポを用意していた。
この犬は石黒、飯田、矢口になついているメス犬だ。
「タンポポ、まずはカオリを探すよ。」
「ワンワン!!」
こちらも元気に出発した。
53たぢから:02/04/15 23:03 ID:NFDt0iOy
中澤の忍犬ファーストラブは、順調に矢口の足取りを追っていた。
「なかなかええ調子やで。これなら矢口をすぐにゲットや。」
一方の矢口は、最初から中澤を監視していたため、このことには気づいていた。
「ファーストラブか・・・こりゃ厄介だな。動くとしますか。」
双眼鏡を懐にしまい、矢口は次々に他の木へと飛び移った。
猿飛矢口と言ったところか。
54たぢから:02/04/15 23:04 ID:NFDt0iOy
数分後、中澤は矢口のいた大木まで辿り着いていた。
木に上ったが、既に矢口はいない。
「ちっ、遅かったか。読まれていたかな?」
いくら嗅覚を誇る犬でも、猿のように木に上ってまで追いかけることは不可能だ。
事実上、矢口の足どりはこれ以上つかむことは出来なくなったわけである。
55たぢから:02/04/15 23:05 ID:NFDt0iOy
「仕方ない。次はなっちにでもするか。」
中澤は安倍が隠し持っていた菓子(盗品その2)を取り出した。
「なっちのことや。どっかで菓子食うとるに決まってる。この臭いを探すんやで。」
その安倍は休憩ということで、菓子(寺田から貰ったカステラ。一部を中澤が盗んでいる)を
食べていた。まさに至福のときである。(●´ー`●)
56たぢから:02/04/15 23:06 ID:NFDt0iOy
「なっち、また食ってるの?」
その声は逃げ回っている市井であった。
「おっ、紗耶香!紗耶香はどうしたべさ?まさか、もう見つかった!?」
「いや。なんかじっと隠れてるのは退屈でさ。ずっと動き回ってるの。」
「なぁんだ。じゃあ、なっちと組み手しない。どうせ暇だし。」
「そうだね。」
この二人、鬼ごっこにやる気はあるのだろうか?
その間にも、中澤はもの凄い勢いで近づいていたのだった。
57たぢから:02/04/16 23:10 ID:psPgQGT2
(・・・北北西に彩っぺとタンポポを発見!時速十キロでこちらに向かっている!)
何かと交信していた飯田は、直に見えない石黒とタンポポを察知した。
これが「電波」の能力だ。尤も、単なる勘にしか思えないが。
とにかく、飯田は速やかにその場をあとにした。
そして、近くの小川で全身をぬらした後、さらに山の奥へと向かった。
これは体の臭いを消し、犬の嗅覚から逃れる方法である。
場合によっては、池などに身を隠すこともある。これを「狐隠れの術」という。
58たぢから:02/04/16 23:11 ID:psPgQGT2
「あらら・・・小川を通ってるわ。これじゃ追いかけられないわね。」
タンポポを抱えて崖を上った後、石黒は例の小川まで辿り着いていた。
トップ飯田との時間差は僅か1分足らずであった。
だが、これ以上の追跡は不可能と判断し、他を探すことにした。
(しかし・・・手がかりがないんだよね〜・・・あれ?あの不自然な葉っぱは何だろう?)
辺りを捜索していた石黒がみつけたのは、先程市井が捨てた葉っぱ蓑だった。
「誰のかな?でも朝組の誰かのものね。タンポポ、今度はこれお願いね。」
「ワン!」
59名無し募集中。。。:02/04/16 23:19 ID:ADvXKTik
保全アゲアゲ
60たぢから:02/04/17 23:13 ID:Dbfw+o6z
「なっちと紗耶香があそこで・・・圭ちゃんがあそこ・・・ふむふむ。」
中澤から逃げ切った矢口は、自分が今狙われていないことをいいことに、
山のてっぺんから、まさに高みの見物と洒落こんでいた。
「おっ!中澤鬼と石黒鬼発見!おやおや、二人ともなっち&紗耶香のとこに向かってるよ。
こりゃ見ものだねぇ。」
61たぢから:02/04/17 23:15 ID:Dbfw+o6z
「おりゃあ!」
「たあっ!」
静かな森の中に、気合の入った声と刀のぶつかる音が響く。
安倍と市井が組み手をしているのだ。
結構目立ってしまうはずなのだが、二人とも気にしていない。
そして、そんな二人を、中澤は発見していた。
「なっちと紗耶香発見!よし、ファーストラブはなっちを狙うんやで。」
中澤は、一挙両得を狙った。
62たぢから:02/04/17 23:16 ID:Dbfw+o6z
「よっしゃ行くで!」
「ウォン!」
中澤とファーストラブは、一斉に攻撃を仕掛けた。
「なっち、来たよ。」
「よっしゃ!やったるべさ!」
この二人は戦闘体制である。
63たぢから:02/04/17 23:16 ID:Dbfw+o6z
まずファーストラブが安倍に飛び掛った。
「うわぁっ!・・・きゃあははははは!いや〜ん、くすぐったい!」
菓子のにおいが染み付いた顔を嘗め回す。既にバトルではない。
一方の市井と中澤は、互いに殺気丸出しだった。
「容赦はしないよ、裕ちゃん。(負けたら何されるか・・・)」
「それはこっちのセリフやで。覚悟しいや!(とっとと倒してキスしちゃる〜!)」
64たぢから:02/04/18 23:10 ID:tPPD0aGM
犬とじゃれあう安倍。本気で刀を交える市井と中澤。
それを影で見ている者がいた。そう、石黒である。
「なんかよく分からない光景だけど・・・チャンスね。」
石黒の考えはこうだ。
1.安倍はファーストラブとじゃれあっているのでいつでも捕獲可能
2.市井は中澤と本気で戦っているので、共倒れしたところを捕獲
まさに“漁夫の利”狙いである。
65たぢから:02/04/18 23:10 ID:tPPD0aGM
「こらぁ、紗耶香!とっととキスされんかぁ〜い!!」
「キスぅ!?絶対イヤ!!」
この会話だけ拾うと、中澤が市井を襲ってるようにしか感じないが、
二人は刀と刀をぶつけ合っている。
中澤と市井の力はほぼ互角。差がつくとすれば・・・
66たぢから:02/04/18 23:11 ID:tPPD0aGM
十分後・・・
「ゼエゼエ・・・」
中澤は肩で息をしていた。年の差が影響している。
「裕ちゃん、休んだほうがいいんじゃない?」
「ウルサ〜イ!!」
見るからに中澤は疲れきっていた。
市井の刀技には、無駄が少ない。それが年の差以上に、中澤を疲れさせたのだ。
67たぢから:02/04/20 00:33 ID:sCUWq4We
「じゃあね、裕ちゃん。なっちなら捕まえられると思うよ。」
市井が去ろうとしたその時だった。
どこからか網が飛んできて、市井を捕らえた。
「しまった!」
もがけばもがくほど網は絡みつく。万事休す。
「フフフ・・・紗耶香ゲェ〜ット!」
石黒だった。
68たぢから:02/04/20 23:01 ID:WijfDzjH

「悔しい〜!裕ちゃんに気を取られていて気づかなかったなんて〜!」
「悔しい〜!彩っぺに紗耶香を取られたなんて〜!」
「何で同じリアクションなの・・・」
石黒は二人に呆れつつも、もう一つの目標の方を向いた。
「さてなっちも覚悟・・・あっ!!」
ドサクサに紛れて、安倍は既に逃げていた。しかもそれだけではない。
「あっ!ファーストラブ!!」
忍犬ファーストラブが倒れていた。慌てて駆け寄る中澤。
「寝てるわ・・・ってことはこのカステラは・・・!」
69たぢから:02/04/20 23:02 ID:WijfDzjH
そう。安倍の顔に過剰に付着していたカステラには、眠り薬が入っていたのだ。
安倍の顔を嘗め回していたファーストラブは、即効性の眠り薬によって、呆気なく眠りについたのだった。
そして・・・
「あれ?タンポポ!!」
石黒の忍犬タンポポは、安倍の用意した毒団子(毒=眠り薬)を食べて眠り込んでいた。
「おのれなっち・・・許さない!!」
「覚悟しいや!!」
ひょんなことで、安倍は中澤と石黒の闘志を高めてしまった。
70たぢから:02/04/20 23:03 ID:WijfDzjH
「ふふ〜ん。なっちのスペシャル菓子を食べるなんて、ファーストラブもタンポポもまだまだだね。」
してやったりと上機嫌な安倍。でもまだ菓子を食べている。
自分用と対忍犬用の区別はついているのだろうか?
「においで分かるべさ。」
嗅覚・・・安倍>犬なのだろうか?
とにかく、安倍はひたすら逃げていた。
71たぢから:02/04/20 23:04 ID:WijfDzjH
「何が何でもなっち捕まえたる!」
「うおおおおお!!」
「・・・あの・・・」
網まみれの市井を放置したまま、中澤と石黒は安倍の後を追いかけた。

しばし沈黙・・・

「一応鬼には捕まったし、ゲーム終了だよね。里に帰ろっか。」
自力で網を破ると、市井は下山した。
72たぢから:02/04/20 23:05 ID:WijfDzjH
「オラァ!なっち、待たんかぁい!!」
「覚悟ぉー!!」
本当の鬼になりつつある中澤と石黒は、信じられない勢いで安倍を追っていた。
勿論安倍も気づいていたのだが、菓子の食いすぎであまりスピードが出ない。
「このままでは追いつかれるべ・・・なんとか撒かないと・・・」
打飼袋(うちかいぶくろ;長い筒状の底なし袋。様々な物をいれて腰などに巻き、両方の口を結んで使う)
の中には菓子しか入っていない・・・だが・・・
「これなら裕ちゃんを撃退できるべさ。」
73たぢから:02/04/20 23:07 ID:WijfDzjH
「なっち見つけたで!覚悟しいやっ!!」
「なっちは私の獲物だよ!」
韋駄天のごとく安倍に迫る中澤と石黒。
鬼気迫る・・・というより鬼そのものになりつつある。
300m・・・ 200m・・・ 100m・・・ 鬼二人と安倍の速度差は歴然であった。
それこそあっという間に距離は詰められてしまった。
鬼の視界には森の奥に向かって走り行く安倍の後姿が現れたかと思うと、急速に大きくなっていく。
中澤と石黒は網を構え、投網で安倍を捕らえようとした。ところが…
「くらえ裕ちゃん!!」
それよりも速く安倍が後ろを振り向き、突進してくる何かを中澤に投げた。
74たぢから:02/04/20 23:08 ID:WijfDzjH
黄色くて、細長くて、少し曲がった・・・果物・・・
「バ・・・バナナ!!いやぁ〜〜〜〜〜〜!!」
中澤はその場に昏倒・・・するかと思ったが、反射的に刀を抜き、バナナを斬った。
「うそぉ・・・」
虫などを投げつけ、相手が怯んだ隙に逃げる“虫獣遁の術”の応用だったのだが、あえなく破られた。
「じゃあ、まきびしだべっ!」
ひしまき退き・・・まきびしを撒いて敵に踏ませ、足止めをする遁法
だが、持っていたまきびしの数が少なく、意味が無かった。
75たぢから:02/04/20 23:09 ID:WijfDzjH
僅かなまきびしを飛び越えると、まず石黒が安倍に飛び掛った。
体格の差には逆らえず、安倍は石黒に取り押さえられた。
そして、中澤に縄でぐるぐる巻きにされてしまった。
「なっち・・・よくもファーストラブを・・・」
「タンポポの仇・・・とらせてもらうよ。」
「に、二匹とも死んでないからいい・・・べさ?」
「「よくない!!」」
鬼の眼光に、安倍は萎縮した。“蛇に睨まれた蛙”とはこんな状態をいうのだろう。

【復習】鬼は見つけた者を捕らえれば、その場で何をしても構わない。
76たぢから:02/04/20 23:10 ID:WijfDzjH
「裕ちゃん、なっちにキスするの?」
石黒の問いに、中澤は首を横に振った。
「毒菓子まみれの顔には、さすがにキスしたくないわ。でもその代わり・・・」
と言って、中澤が懐から取り出したのは黒の油性マジック。
「じ、時代間違ってるべ・・・」
「時代設定なんかどーでもええねん。彩っぺ、なっちに特別メイクしたろ。」
「それはいいね。フフフ・・・」
鬼から悪戯好きな子供の顔に変わる中澤と石黒。
泣きそうな安倍。しかし抵抗は出来なかった。
77たぢから:02/04/20 23:11 ID:WijfDzjH
数分後、ビューティーコンビによるメイクアップは終了した。
「アハハハ!よう出来とるわ!」
「私達“変装の術”の才能あるね!」
顔落書きの定番、瞼に目玉、泥棒髭、つながり眉毛の他、
余ったスペースには、“いもなっち”“豚饅頭”“(●´ー`●)”などが描かれた。
「お、お嫁に行けないべ・・・」
物凄く暗く沈んだまま、安倍は下山した。
このあと、市井に涙が出るまで笑われたのは言うまでもない。
次回の鬼ごっこでは、率先して鬼になろうと、安倍は固く誓ったのであった。
78名無し募集中。。。:02/04/21 00:28 ID:CDED5tu4
>77
定番中の定番が抜けてるぞ。
「額に肉」
といってみるテスト
79たぢから:02/04/21 00:33 ID:gyKaD8gD
>78さん
あぁ・・・「額に肉」忘れてました。
何か足りないとは思ってたんですけど。
特にキ○肉マンのファンでもなかったので、出ませんでした。
まだまだ修行不足ですね。
8078:02/04/21 02:06 ID:CDED5tu4
>79
ドンマイ
これからも頑張って♪
81たぢから:02/04/21 23:00 ID:mZMGJ2kS
「残るは矢口、カオリ、圭坊、明日香やね。矢口はどこかで監視してるみたいやから難しいわ。」
「カオリもあの“電波”があるからね。明日香も頭良いし。じゃあ、圭ちゃんかな。」
消去法で、次のターゲットは保田に決まった。
教育係をやっていたこともあり、二人とも保田の動きは熟知しているつもりだ。
「圭坊は堅実派だからね。そこまで派手なことはしないし、自ら動くタイプでもない。」
「自分の隠れているところには罠を仕掛けているかもよ。ゲリラっぽくね。」
保田の動向をほぼ当てた二人。だが犬がいない今、どうやって探るか?
82たぢから:02/04/21 23:00 ID:mZMGJ2kS
その時、中澤はふと何かを思いついた。
「彩っぺ、耳貸して。」
「何?・・・ふむふむ・・・ほうほう・・・なるほど。」
「ほな行こうか。」
「OK。」
密談が終わると、二人は更に森の奥へと進んだ。

「おや?鬼が見えなくなったぞ。う〜ん・・・」
山頂付近で高みの見物をしていた矢口は、双眼鏡片手に呻いた。が、
「・・・ま、いいや。圭ちゃんでも探しにいったんだろうね。」
と勝手に納得して、木の上で昼寝をしてしまった。

−十分後

「ブチュ〜〜〜〜〜〜!!」
「*@#$%&¥!?」
目が覚めると、そこには中澤の顔が密着していた。
「ぎゃあああああああああああ!!!」
83たぢから:02/04/21 23:01 ID:mZMGJ2kS
という悲鳴は、中澤の口によって封じられてしまった。
「やりぃ!矢口いっただき!!」
「・・・ブハッ!裕ちゃん・・・なんで・・・ここが・・・分かったの?」
濃厚な(?)キスのせいで、呼吸困難気味の矢口。
「背の低い矢口が高みの見物してると思ったから、山頂あたりやと分かったんや。
ほんで、山頂付近から死角になるような所を通って、ここまで来たんや。」
「くそぉ〜・・・油断してたぁ。」
「それだけやないで。ここを制圧すれば、もうウチらの勝ちや。」
と、中澤の指す方向を見ると・・・
84たぢから:02/04/21 23:02 ID:mZMGJ2kS
「ありゃ!圭ちゃんとカオリが彩っぺに捕まってる!!」
縄でぐるぐる巻きにされた保田と石黒の姿が、遠目に映った。
「ここからウチが圭坊の位置を確認。それを彩っぺに知らせたんや。」
「あれ?じゃあ、カオリは何で???」
「実はな・・・カオリが圭ちゃんの落とし穴に落ちてたんや・・・マヌケやろ?」
苦笑する中澤。
「アハハ・・・カオリらしいけど・・・」
矢口は半分呆れている。
85たぢから:02/04/21 23:04 ID:mZMGJ2kS
「さてと・・・あとは明日香だけやな。覚悟しいや!」
気合の入る中澤。だが、そこで矢口が一言・・・
「あのさ・・・ずっと上から見てたんだけど・・・明日香はね・・・」
「・・・!?な、なんやてぇ〜〜〜〜〜!!」
・・・なんやてぇ〜〜〜〜〜!!
・・・・・・なんやてぇ〜〜〜〜〜!!
・・・・・・・・・なんやてぇ〜〜〜〜〜!!
中澤の甲高い声が、山々にこだました。
86たぢから:02/04/21 23:05 ID:mZMGJ2kS
実は、福田は最初から下山し、里に帰っていたのだ。
何食わぬ顔で、中澤達を出迎える。
「おい明日香!なんで帰ってんねん!!」
「・・・いや、隠れたんだって。」
「はぁ!?」
「だから、裏山オンリーとは限定して無いでしょ?私はここに隠れたの。
常に裏をかくのが、忍びじゃない?」
一本取られた・・・
中澤は思わず天を仰いだが、次の瞬間、福田にキスをした。
「フンガフガ・・・(ひ、卑怯だよ!裕ちゃん!!)」
「フンフフン・・・(誰も鬼ごっこ終了なんて言うてないで!!)」
福田の一人勝ちかと思われたが、中澤の逆転ホームランが炸裂した・・・かな?
87たぢから:02/04/21 23:11 ID:mZMGJ2kS
-interlude1-
(肉´ー`肉)<いやぁ、酷い目にあったべさ。

(〜^◇^;)<なっち・・・「肉」・・・

( `.∀´)<しかしカオリもマヌケだよね。私の落とし穴におちるなんて。

川‘〜‘)‖<だってぇ〜、受信できなかったの。

ヽ^∀^;ノ<受信・・・?そんなもんなの?

从#´∀`#从<知らん。

( ` ・ゝ´)<さぁ〜て、次回の「くノ一娘。物語」は?

(0°−°0)<スーパーくノ一明日香大活躍!!

(豚´ー`豚)<だべさ?


>80さん
肉使ってみました。どうでしょう?
8880:02/04/22 02:07 ID:3p0dOZCY
>87
通常の3倍太ったように思うのは気のせいか?(w
でも、よりリアルでイイ!(何がだよ
89名無し募集中。。。:02/04/22 03:14 ID:toSJeO1V
忍者ののたんの登場がたのしみです・・・
90たぢから:02/04/22 23:05 ID:udDhah4h
>88さん
(豚´ー`肉)<次回以降、なっちは急に痩せるべさ。
( ゜皿 ゜)<ソンナコトナイヨ

>89さん
( ´D`)<てへへ。まだのののでばんはないのれす。
91たぢから:02/04/22 23:06 ID:udDhah4h
ある日、朝組に招集がかかった。
五分前に全員集合し、皆緊張の面持ちで待機する。
部屋には、朝組のほかに太陽組と先日上忍に昇格した平家もいた。
捨乱救のくノ一が全員一堂に会することなど、初めてのことだ。
やがて、奥から寺田と夏が姿を現した。部屋に、一気に緊迫した空気が流れた。

「お頭、全員集まってるようです。」
「よし。皆よく聞け。今から特別任務を伝える。」
今回の任務は、圧政で知られる日の出城の出城(でじろ;出張所のこと)が舞台だ。
上忍の太陽組と平家には、兵器の殲滅と中枢機能の壊滅、
中忍の朝組には、混乱に乗じて人質の救出、という任務が与えられた。
「今夜出発するから、各自準備をしといてくれ。」
92たぢから:02/04/22 23:08 ID:udDhah4h
夏の指示で、持ち物の確認が行われた。
武器は刀と脇差、周り全てが刃になっている四方手裏剣三枚だ。
また、両手首に巻かれた布には棒手裏剣が六本ずつ仕込まれている。
これは最後の武器になる他、敵の攻撃を防ぐことが出来る。
手裏剣は数少ない飛び道具ではあるが、かさばるので多くは所持できないのが欠点だ。
火器や弓矢などは、使い慣れている物を各自で選んでいる。

その夜、朝組の八人と付き添いの夏は里を後にした。
上忍の五人は、一足先に日の出城の出城に向かったようである。

夜明け前、九人のくノ一は出城に到着した。
夏が朝組に指示を出す。
「今夜、太陽組と平家が行動を起こすから、それまで各自待機!」
「了解。」
93たぢから:02/04/22 23:09 ID:udDhah4h
その夜は、新月だった。
忍者は常に影となって行動しなければならない。
その為、夜に行動し、月の光を避けなければならない。
これを“光足を避ける”といい、忍者の基礎である。
「皆、城の見取り図は全部頭に入れたな?」
リーダー中澤が確認する。
この出城は、元々このあたりの領主の城で、内部構造が複雑になっている。
少しでも道を間違えれば、任務遂行はおろか、生きて帰って来れなくなる。
幸い、人質たちが閉じ込められている地下牢までの道は単純であったが。
94たぢから:02/04/22 23:10 ID:udDhah4h
「夏師範、只今より太陽組信田・稲葉・ルル・小湊及び、平家の五名は突入します。」
「了解。気をつけてね。」
太陽組リーダーの信田美帆がかぎ縄を城壁に向かって放つ。
一発で瓦屋根に引っかかると、速やかに足元に打ち付けた苦無に縄を結ぶ。
外堀上空十メートルのところにピンと張られたロープを使って、
信田・稲葉・ルル・小湊・平家の順で城に侵入してゆく。
「朝組の皆も、“離行の術”を実践してもらうよ。」
と、夏は言い出した。
離行の術・・・多数の忍者が確実に忍び込む方法のことで、侵入時は上手な者から行う。
朝組では、福田・安倍・矢口・市井・飯田・保田・石黒・中澤の順である。
95たぢから:02/04/23 22:59 ID:DxRFpm33
十分後、出城の奥で爆発音が起こった。これが合図だ。
「よし、皆行くで!」
先ほどの五人ほどではないが、朝組の八人は速やかに侵入した。
混乱に乗じて、地下牢の入り口がある土倉まで一気に突き進む。
何の障害も無く、土倉まで辿り着いた。
「よし、これからは二人一組で行動するよ。人質を牢から出して、私らに渡すんやで。」
中澤の指示で、安倍&福田、市井&矢口が地下牢へと向かう。
残った四名はその場に待機、リレーで人質達を場外へ逃がす役目、
そして、見張りの役目を負う。
96たぢから:02/04/23 22:59 ID:DxRFpm33
「貴様ら何者だ!?」
地下に侵入した安倍達の前に、数人の見張りが立ち塞がった。
「いくよ明日香!」
「OKなっち!」
怯むことなく、二人は一気に突っ込む。
「くらえっ!」
見張りの槍が突き出される。しかし二人はそれを飛んでかわす。
「いまだべ!」
見張りの集中がそれたところで、矢口と市井が睡眠薬を塗った矢を放つ。
即効性らしく、あっという間に見張りは倒れ、眠ってしまった。
邪魔者がいなくなったところで、人質の開放に向かう。
97たぢから:02/04/23 23:01 ID:DxRFpm33
一方上忍の五人組は、火薬庫を派手に爆発(先ほどの合図)させた後、
散らばって複数ある武器庫の処分&武器の押収に向かっていた。
(よし、これでノルマ達成。あとは日の出城の内部資料を・・・ん?)
五つの武器庫を処分した平家は、この騒ぎの中、ある影に気づいた。
城兵がウロウロする中、まっすぐに何処かへ向かう二つの影・・・
(あの方向は確か地下牢が・・・まさか!)
事態の変化に気づいた平家は、近くの上忍を探し始めた。
98たぢから:02/04/23 23:02 ID:DxRFpm33
「稲葉さん!」
平家は太陽組の稲葉貴子を見つけ、呼び止めた。
「平家、どないした?」
「どうもこうも・・・大変です!高速暗殺部隊のうち二人を見かけました。」
「なんやて!?ここにおるって聞いてないで!」
“高速暗殺部隊”と聞いて、稲葉の顔色が変わった。
「私は朝組のところに行きます。あそこが狙われているようですから。」
「分かった。ウチは信田さんや夏師範に知らせておくわ!」
手短に連絡すると、平家は一目散に地下牢入り口へ向かった。
99たぢから:02/04/23 23:03 ID:DxRFpm33
「明日香、あと何人だべさ?」
「ええと、この人で最後だよ。」
安倍達四人は、一番奥の牢に来ていた。
しかしこの牢は頑丈で、力ずくで破壊することが出来なかった。
「仕方が無い。地道に鍵を開けますか。」
矢口が髪留めの一本を抜き、鍵穴に差し込んだ。
100たぢから:02/04/23 23:03 ID:DxRFpm33
ピッキングは矢口の十八番で、数分もしないうちに鍵は開けられた。
「お爺さん、もう大丈夫ですよ。」
囚われていたのは、白髪の目立つ老人男性だった。
栄養不足のためか、歩行に不自由しているようなので、福田が支える。
「よし、上に戻るべ。」
その時だった。
101たぢから:02/04/24 23:06 ID:nNzskldP
ドドドドドドド・・・
突如地下牢が揺れだした。
「何!?地震だべか?」
「わからないけど、ここは危険ね。みんな早く脱出するよ!」
福田の指示で、全員が出口に向かって駆け出そうとしたその時だった。
天井が崩れて来た。
「危ない!みんな伏せろ!!」
その直後、轟音に混じって、鈍い音が辺りに響いた。
102たぢから:02/04/24 23:07 ID:nNzskldP
一方外では・・・
「なんや、今の爆発音は!?」
「あっ!土倉ごと地下牢への入り口が崩れた・・・!!」
突如起こった異変に、中澤たちは何も出来ずにいた。
その直後、
「裕ちゃん!みんなっ!!」
平家が駆けつけてきた。
「あっ!遅かったか・・・」
「遅かったかって何の・・・」
石黒が訊ねようとしたそのとき、
五人の足元に無数の手裏剣が投げ込まれた。
103たぢから:02/04/24 23:09 ID:nNzskldP
「くせ者ども、日の出城高速暗殺部隊に見つかったからには、タダでは帰さないよ!」
「くっ・・・」
下唇を噛み、正面を睨む平家。
その先には色白で背の高いくノ一と、色黒で少し小柄なくノ一の二人がいた。
「みっちゃん、高速暗殺部隊って・・・?」
事情を知らない中澤が平家に訊ねた。
「裕ちゃん達は知らないだろうけど、日の出城お抱えのエリートくノ一四人衆のことや。
ウチらの情報では、この出城におらんはずやったんやけどな・・・」
額に汗を滲ませる平家を見て、よほどの強敵だと中澤は直感した。
恐らく五対二でも勝ち目があるかどうか、微妙なところだろう。
中澤達五人に緊張が走る。
104たぢから:02/04/24 23:10 ID:nNzskldP
「ヒトエ、ここは私に任せてもらえる?」
色白が一歩前に出てきた。
「別に構わないよ、ヒロ。」
「(ヒロ?・・・まさかあの白いのが島袋寛子!?)皆、耳を塞いで!!」
しかし平家の呼びかけより数瞬早く、ヒロ・・・島袋寛子は歌い始めた。
「なっ・・・なんやこの歌は!?」
「体が重い・・・」
五人は耳を塞ぎながら、膝を落としてしまった。
これが島袋寛子の得意とする、超音波の歌声である。
人並みはずれた高音を辺りに響かせ、相手の鼓膜を刺激し、
三半規管の機能を低下させてしまう、恐ろしい技である。
色黒のヒトエことリーダーの新垣仁絵は特殊な耳栓をしているので、
すぐ隣にいても、ダメージは受けない。
105たぢから:02/04/24 23:11 ID:nNzskldP
「オラオラッ!もっと苦しめよ。」
島袋の歌で苦しむ五人を、新垣は容赦なく蹴りつけていた。
両耳を塞いでいるので、防御もままならない。
いっその事、鼓膜を破れば悪魔の歌声から逃れられるかもしれない。
しかし、五感のうち一つでも欠けてしまえば、忍びにとって致命的な障害となる。
このジレンマに、平家達は苦しんでいた。
「いいザマね。今頃地下牢の連中も、タカとエリに遊ばれている頃ね。」
(馬鹿な・・・他の二人も来てたんか・・・)
106たぢから:02/04/24 23:12 ID:nNzskldP
その地下牢では、高速暗殺部隊の残りの二人、
タカこと上原多香子とエリこと今井絵理子が、安倍達と対峙していた。
先ほどの揺れは、この二人の仕業だったのだ。
その際、福田が人質の老人を庇って瓦礫の直撃を受け、両腕に重症を負った。
戦えるのは、安倍・市井・矢口の三名である。
「タカ、この三匹は私に任せてもらえる?」
「別にいいよ。タカはのんびり見てるから。」
「退屈はさせないよ。」
そう言うと、今井は一瞬のうち安倍の懐に入り、強烈なブロウを放った。
吹っ飛んだ安倍が市井と矢口に当たり、三人は崩れた。
「なっち!真里っぺ!紗耶香!」
107たぢから:02/04/24 23:13 ID:nNzskldP
「はい終わり。タカ、後は自由にしていいよ。」
「OK。じゃあ、あのふっくらした子を殺すわ。」
ふっくらした子=福田のことである。
(くそ・・・両手が使えないのに・・・)
それでも安倍達が倒れた今、自分が戦わなければ生き残る道は無い。
老人を庇うようにして立ち上がる。
「見栄を張っても無駄よ!」
そう言ったときには、上原の拳は福田の目の前にあった。
次の瞬間、一人のくノ一が吹っ飛んだ。
108たぢから:02/04/24 23:13 ID:nNzskldP
「明日香には指一本触れさせないべ!」
吹っ飛んだのは上原で、殴ったのは安倍だった。
市井も矢口も立ち上がり、福田を庇うようにして構える。
今井も上原も、予想外のことに驚いている。
「馬鹿な・・・さっきの一撃は効いてなかったの?」
「確かに当たったべ。でもね、タフさなら負けないべさ!」
夏による地獄の特訓の成果が実戦で現れた。
「くらえ!」
今井と上原の心に隙が見られたので、市井は手裏剣を投げた。
しかし、今井はそれを素手で受け止め、投げ返してきた。
それを何とか安倍が刀で弾く。この間僅か一秒であった。
109たぢから:02/04/24 23:14 ID:nNzskldP
車返しの術・・・相手が投げてきた手裏剣を受け止め、投げ返す技である。
所持できる手裏剣が限られているので、対忍者戦では当たり前に使われる。
「周りが全部刃になってたのに・・・」
市井は同様を隠せない。
「アンタ達みたいなジャリ忍者には真似出来ないわね。」
「さっきは油断したけど、今度は容赦しないよ!」
今井と上原が刀を抜いた。
「ジャリ忍者にも五分の魂だべ!矢口、紗耶香、行くよ!」
「「おう!!」」
安倍達も刀を構え、駆け出した。
110たぢから:02/04/25 22:59 ID:gJYamHH9
(くそぉ・・・あの怪音波女め・・・)
平家達は、まだ島袋の歌声に苦しんでいた。
(あの甲高い歌声さえ何とかなれば・・・よし、イチかバチか・・・)
すると、平家は悶えながらも、決まった間隔で地面を蹴った。
(みっちゃん、何してんねん・・・あ!そういうことか。)
中澤はその音の真意を理解すると、石黒、飯田、保田と目で合図した。
(いくでみんな!)
(((せぇーのっ!!)))
すると平家以外の四人は立ち上がり、歌い始めた。それも女声四部のハモリである。
四人のハモリは、島袋の音波を半分くらいかき消すことができた。
「今やっ!!」
枷のはずれた平家は、歌っているだけの島袋に急接近し、鳩尾に一撃を喰らわせた。
111たぢから:02/04/25 23:00 ID:gJYamHH9
「ヒロッ!?しまった、歌が途切れた。」
突然のことに新垣は焦った。気がついた時には、中澤達に囲まれていた。
「これで形勢逆転やな。」
中澤は拳を鳴らしている。姐さん怖い・・・
「さっきの歌は一体・・・」
「ああ、あれな。忘年会のカラオケで歌おうと思ってたんや。」
「カオリ達ね、ハモリなら自信があるの。」
(こんな連中に・・・くそっ・・・)
新垣は悔しくてたまらなかった。だが、一対五では勝ち目が無い。
「仕方ない。今回は引くとするわ。でも、次こそは!」
そう言うと、新垣は煙玉を爆発させた。
次の瞬間、新垣は島袋ごと消えていた。
112たぢから:02/04/25 23:01 ID:gJYamHH9
「逃げられたか・・・でも、みんな無事でよかったわ。あ、力が抜ける〜・・・」
緊張が解け、平家はその場に座り込んでしまった。
「みっちゃんの機転のおかげやで。ホラ立ってや。」
中澤が肩を貸し、抱き起こす。
「ま、モールス信号(時代背景無視・・・)が通じるかは、イチかバチかやったんけどね。」
「みっちゃん・・・ウチらが中忍だからって馬鹿にしてない?」
「い、いや・・・そういう訳では・・・(うわぁ!ヤブヘビやったぁ!!)」
「じゃあ、どういう意味かなぁ?」
蛇(中澤)に睨まれた蛙(平家)・・・口は災いの元である。
「あのさぁ・・・カオリ達、何か忘れていない?」
「え?」
「う〜ん・・・」
「そんなん、アから思いつく単語を言ってみればええねん。あ・・・安倍なつみ・・・」
「「「「「あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」」」」」
113たぢから:02/04/26 23:09 ID:MfQ+cWSz
キィィィィィィン!
刀と刀のぶつかり合う音が響く。
「よくも殴ってくれたわね!」
「くノ一が別に顔を売りにしてるわけじゃないべさ?」
「うっさいわ!この田舎モンがぁ!!」
意外にも、安倍は上原とほぼ互角の戦いを展開していた。
わざと相手を怒らせ、冷静さを失わせる“怒車(どしゃ)の術”がよく効いているようだ。
一方の今井は、矢口と市井を同時に相手にしている。
矢口と市井のコンビネーションプレイは、決して悪いものではないのだが、
今井にはまだ余裕が見られる。
114たぢから:02/04/26 23:10 ID:MfQ+cWSz
「なっち、旋風!」
「OK!くらえ旋風刃(せんぷうじん)!!」
福田の指示で、安倍は夏直伝の剣技を上原に放つ。
横回転による遠心力を利用した強烈な一撃だ。
「高速殺人剣・旋風(つむじ)!!」
上原は同様の技で、威力を相殺させる。
戦えない福田は、声によるサポートをしていた。
朝組一のスピードを持つ故に、上原と今井の動きを辛うじて分析できるからだ。
115たぢから:02/04/26 23:11 ID:MfQ+cWSz
「紗耶香、風突!真里っぺ、墜円!」
「風突牙(ふうとつが)!」
市井が突きを繰り出し、今井が後退する。
「くらえ墜円斬(ついえんざん)!」
そこを、市井の後ろから飛び出した矢口が縦の回転斬りで攻める。
「高速殺人剣・迅雷(いかずち)!!」
「「うわあっ!」」
今井は縦に一閃して、矢口と市井を弾き飛ばした。
「紗耶香!矢口!」
「なっち、よそ見しないで!」
「高速殺人剣・疾風(はやて)!!」
目を逸らした安倍に、上原は横に一閃する。
何とか刀で防御する安倍だったが、上原は力で吹っ飛ばした。
安倍達三人は福田の目の前に落ち、動かなくなってしまった。
116たぢから:02/04/26 23:11 ID:MfQ+cWSz
「なかなかの腕前だったわ。この子達もあなたもね。でも茶番劇は終わりよ!」
上原が刀を福田に向けたその時、
「じゃ・・・アンコールだべさ。」
「なにっ!?」
また安倍が立ち上がってきた。
いや、安倍だけではない。矢口も市井も、刀を杖にしながらも立ち上がった。
「なっち・・・矢口・・・紗耶香・・・」
「明日香、なっちは勝つべ。何としてでも。」
そう言うと、安倍は鞘に刀を収めた。
「なっち!?・・・まさか!」
「分かってるべさ。この傷ついた体には負担が大きいことも、成功率が低いことも。
でもね、なっちは明日香を、皆を死なせたくないべさ。」
117たぢから:02/04/26 23:12 ID:MfQ+cWSz
安倍の体から溢れ出る闘気が、福田を刺激する。
「分かったわ。紗耶香、真里っぺ、出来るだけあの二人を近づけて。
そしてなっちが合図したら、両側に散って。」
安倍の考えは分からなかったが、福田の作戦には間違いない。
矢口と市井は静かに頷き、刀を構えた。
「紗耶香は上原を狙って。私は今井を攻める。」
「OK。いくよ!」
打ち合わせどおり、矢口は今井に、市井は上原に斬りかかった。
ありったけの力を振り絞り、果敢に攻めてゆく。
(この女・・・なっちとかいうヤツより力がある!)
(このチビッ・・・さっきより押している!?)
118たぢから:02/04/26 23:13 ID:MfQ+cWSz
先ほどよりも力強い攻撃を仕掛けてくる二人に、今井と上原は困惑した。
しぶとい上に、段々強くなってゆく敵など、見たことが無い。
その迷いが隙を生じさせ、安倍が用意したシナリオへと導いてゆく。
「なっち、今だよ。」
福田の合図で、安倍が飛び出した。一気に加速し、刀に手をかける。
「紗耶香!矢口!どいてぇ!!」
安倍の合図を受け、矢口と市井は反射的に離れた。
丁度、今井と上原が重なり合っている。
「くらえっ!疾風閃!!」
疾風閃(しっぷうせん)・・・十分加速した上で放つ抜刀術。
ダッシュの慣性により、普通の居合い抜きに比べ広範囲に威力が及ぶ。
「「うわーっ!」」
あわてて刀で防御したものの、今井・上原共々吹っ飛ばされてしまった。
119たぢから:02/04/26 23:14 ID:MfQ+cWSz
「や、やったべさ・・・」
そう呟くと、安倍はそのまま床にへたりこんだ。
よほどの集中力と、力を必要とするようである。
「なっち、やったね!」
「すごいよ、なっち!」
矢口と市井が駆け寄ってきた。そして福田も。

「ま、待て・・・」
瓦礫の向こうから姿を現す今井と上原。
しかし、全身に傷を負い、刀も折れている。
「・・・それでも戦うべ?」
「悔しいけど、ここはひとまず引くとするわ。」
「でも、次あうときは負けないわよ。」
そう言うと、上原は煙玉を爆発させ、二人はいなくなった。
その直後、出口の方で爆音がした。
120たぢから:02/04/26 23:15 ID:MfQ+cWSz
「なっち!明日香!矢口!紗耶香!無事ぃー!?」
地下になだれ込む中澤達。
やかましい連中がきたな、と苦笑する安倍達。
互いの無事を確認し、その場から脱出しようとしたその時、
「ちょっと、待ってください。」
声の主は、最後の囚人となっていたあの老人だった。
「担架を用意してくれませんか。この方は両腕をケガしとるからの。」
この方とは、福田のことである。
福田自身は、単なる骨折程度だと軽視していたが、担架が要るということは、
どうやらそれどころじゃないらしい。
「貴方は?」
「一応、医者じゃよ。」
121たぢから:02/04/27 23:09 ID:JqoNa2LA
里に戻ると、その医者と医学知識を持つ信田によって福田の診療が開始された。
結果は、予想よりも酷かった。
複雑骨折に加え、両腕とも運動神経が破損しているという。
今無理な運動をすれば、数時間しないうちに両腕は使い物にならなくなるという。
かと言って、治療できるかどうか微妙なところでもあるという。
福田のくノ一としての将来は、絶望視された。
担架で運ばれてもケガを軽視していた福田は、ひどく落ち込んでしまった。
その為「面会謝絶」となり、例の医者以外は立ち入ることが出来なくなった。
122たぢから:02/04/27 23:09 ID:JqoNa2LA
「オレも入れてくれへんのか・・・困ったな。」
寺田は苦虫をかみつぶしたような顔をして、福田の部屋の前にいた。
「そういやあの爺さん、一体何モンなんや?」
「それが、結構な腕前の医者のようなんですが、それ以上は・・・」
隣で腕組みするのは中澤だ。
なお他のくノ一達は、任務の疲れでほとんどが寝ている。
特に、安倍・矢口・市井の三名は激戦の疲れが祟り、見た目死んでいる。
123たぢから:02/04/27 23:10 ID:JqoNa2LA
安倍が目覚めたのは三日後のことだった。
「あ〜しんどいべ。あ、そういや明日香は・・・」
福田のことを思い出し、そそくさと着替える。
丁度その時だった。
「なっち、起きてるか?」
「あ、裕ちゃん。おはよう。」
「挨拶はいいから、今すぐ来て!」
「どこへ?」
「お頭のとこや!」
124たぢから:02/04/27 23:11 ID:JqoNa2LA
途中、市井と矢口を起こしつつ、安倍は中澤に連れられた。
寺田の部屋には、既に他の朝組メンバーがいた。
「どうしたの?依頼だべか?」
安倍は飯田に訊ねた。
「違うよ。明日香に関することらしいんだけど・・・」
「え?」
その時、奥から寺田と謎の医者、そして両腕をギプスで固定した福田が現れた。
「福田、おまえの口から言うんやで。」
「はい。私、福田明日香は朝組を脱退することになりました。」
125たぢから:02/04/27 23:11 ID:JqoNa2LA
「え・・・?」
「は?」
「何それ?」
「どういう・・・こと?」
急なことに、皆、目を点にしている。
「明日香・・・じょ、冗談だべ?」
「いや、それが冗談ではないのですがな。」
医者が口を挟む。
「それって・・・貴方は一体・・・?」
126たぢから:02/04/27 23:12 ID:JqoNa2LA
「まだ名乗ってはおりませんでしたな。ワシは藤村俊二と申す医者じゃ。」
「藤村先生の話では、リハビリ次第では普通の生活は可能なんだけど、
忍者のような人並みはずれた運動は出来ないって・・・」
そこで明日香は床に視線を落とした。
「そ、そんな・・・」
朝組は皆、落胆してしまった。
それを察してか、福田は顔を上げ、話を続ける。
「でもね、私は違う道を歩もうと思うの。」
127たぢから:02/04/27 23:13 ID:JqoNa2LA
福田は藤村医師のもとで、医学の勉強をすることに決めたという。
数日前、診断の結果を聞いた福田は、自暴自棄になっていた。
動かない手で刀を握り、自殺を図ろうとしたこともあったという。
それだけ、一流のくノ一に対する憧れが強かったのだろう。
ほぼ不可抗力ではあったが、自分の判断の遅れで腕を失ったことを悔いていたのだ。
だが、それを止めたのが、藤村医師の一言だった。
「くノ一じゃろうがなんじゃろうが、本当の意味で生きる意思を持っていれば何処でだって生きていける。
自分のミスを責めるのは簡単じゃ。だが、それはある意味じゃ驕りでもある。
別にわし達は死神でも疫病神でもない・・・一人の人間に過ぎないからの。」
128たぢから:02/04/27 23:15 ID:JqoNa2LA
そして療養中、彼と話すうちに医学への興味が湧いたらしい。
藤村医師もまた、賛同してくれているという。
新たな夢が見つかった福田の瞳は、とても輝いていた。
急なことではあったが、誰も福田を止めることは出来なかった。
いや、誰も止めようとは思わなかった。

三日後、藤村医師と共に福田は忍びの里を去った。
「さよならなんて言わないよ。今生の別れってやつじゃないんだからね。」
「そんなこと、分かってるべさ。」
お互い笑顔での別れとなった。
129たぢから:02/04/27 23:16 ID:JqoNa2LA
-interlude2-
(0°−°0)<しばしの(?)お別れです。

I'll Never Forget You
忘れないわ あなたの事
ずっとそばにいたいけど
ねえ 仕方ないのね

You'll Never Forget Me
忘れないで あたしの事
もっとそばにいたいけど
もう旅立つ時間
ああ 泣き出しそう
130たぢから:02/04/29 23:00 ID:XRQBw/28
福田が去ってから三ヶ月が経った。
日の出城の出城での功績により、朝組の七人は上忍に昇格した。
なかなかのスピード出世だ。それだけ朝組のくノ一は成長株である。
上忍ともなると多忙を極め、お互い顔を合わすことも少なくなったが、
休暇が取れれば、一緒に食事をするなり、合同で訓練するなりしていた。

ある日、休暇の取れた安倍、矢口、市井の三名は剣術の練習をしていた。
安倍は疾風閃をマスターすること、市井は技の精度を高めること、
矢口は多彩な技を身につけること、を当面の目標としていた。
日の出城で高速暗殺部隊を撃退してから、この三人は更なる技術向上を目指している。
夕方はトレーニングの締めとして、一対一での実戦訓練をしている。
131たぢから:02/04/29 23:00 ID:XRQBw/28
その日の締めは、安倍対市井だった。
力のある安倍と、正確な攻撃の市井。両者はこの日も引き分けだった。
「二人とも凄いな〜。ヤグチは体が小さいから、どうしても力負けしちゃうよ。」
「でも、矢口のスピードと連続技は真似出来ないべ。」
「ま、みんな長所をうまく伸ばせてるってことだよね。」
「でもさ・・・なっちの目標は明日香だべさ。総合力で優れていたからね。」
おそらく朝組一の実力者は安倍だろう。才も経験もある。
だが、そんな安倍も向上心は忘れてはいない。
132たぢから:02/04/29 23:01 ID:XRQBw/28
三人が里に戻ると、任務に出ていた他のメンバーが戻っていた。
安倍は一番近い中澤に声をかける。
「裕ちゃんおかえり!」
「なっち!矢口!紗耶香!お頭から召集かかってるで!」
「え?何だべ?」
というわけで総本山の一室に、朝組七名は集まった。
「特別任務かな?」
「さあ?」
など皆口々にしつつ、寺田の登場を待つ。
133たぢから:02/04/29 23:02 ID:XRQBw/28
「皆揃ってるな。」
いつもの調子で入ってくる寺田。だが、今回はもう一人いた。
夏でも太陽組のメンバーや平家でもない。
誰も見たことの無い少女が入ってきたのだ。
髪は茶というより金に染まり、なんとなく魚顔。
見た目は、幼さと微妙に大人びた部分を兼ね備えている。
その只ならぬ存在感に、朝組の七人は目を奪われた。
134たぢから:02/04/29 23:03 ID:XRQBw/28
少女の名は後藤真希。意外にも福田の一つ下だという。
福田の代わりに、寺田が探してきた逸材らしい。
どういう生活をしていたかは不明だが、すでに中忍レベルの実力もあるとか。
恐らく安倍同様、才あるタイプの人間なのだろう。
後藤に興味を示した市井が、教育係に立候補した。
135たぢから:02/04/29 23:06 ID:XRQBw/28

後藤はしばらくは市井のところで寝泊りすることになった。
「何かあったら、気軽に呼んで。遠慮することは無いよ。」
「は〜い。じゃあ、“市井ちゃん”って呼んでいい?」
「へ?」
あまりの馴れ馴れしさに、市井は度肝を抜かれた。
(何だこの子は・・・いきなり“ちゃん”付けでタメ口かよ・・・)
それでも、妹が出来たような気がするので、そう呼ばれるのも悪くない。
一応、OKを出した。
136たぢから:02/04/29 23:09 ID:XRQBw/28
次の日、後藤の実力チェックをすることになった。
いきなり、市井と組み手するのだ。
(マジかよ・・・)
こう思ったのは市井だけではない。朝組全員思ったことだ。
が、頭である寺田の提案なので、ひとまず受け入れる。
早朝から、里の演習場(単なる野原)に後藤を連れ出す。
・・・はずなのだが、この後藤はかなり寝起きが悪い。
(なっちといい勝負だな・・・)
137たぢから:02/04/29 23:09 ID:XRQBw/28
ほとんど布団ごと引っ張り出すような感じで、市井は後藤を連れ出した。
演習場には寺田、夏の他、仕事の無い安倍、矢口、中澤がいた。
安倍達三人は只の野次馬であるが、他のメンバーも仕事さえなければ駆けつけている。
それだけ、後藤真希の存在は気になるのである。
「なっちといい勝負やな。寝坊具合が。」
「うん。」
「そこに目をつけてどうするべ!」
138たぢから:02/04/29 23:11 ID:XRQBw/28
「すいませ〜ん。後藤が寝坊して。」
「どうもぉ〜・・・( ´ Д `)」
後藤は、目が開いてるのかよく分からない顔である。
本当に力あるのか?と顔で訴えるギャラリーを他所に、寺田は木刀を与えた。
「無制限一本勝負や。市井も容赦せんで構へんぞ。」
「わかりました。」
「あ〜い・・・( ´ Д `)」
しかし、いざ木刀を構えると、表情が一変した。
( ´ Д `)→( ` Д ´)・・・そうじゃなくて・・・
闘気が発するのを誰もが感じた。やはり只者ではない。
が、剣術は素人だった。市井とは勝負にならない。
むやみやたらに刀を振り回し、単に危険なだけだ。
139たぢから:02/04/29 23:12 ID:XRQBw/28
「お頭・・・アレのどこが逸材なんですか?」
野次馬中澤は思わず寺田に訊ねた。
「逸材や。多分大物になるで。」
(多分!?本当にこの人、忍者の頭領なんやろうか?)
寺田の根拠の無い人選に、中澤は少し不安になった。
「中澤、なんやその疑いの眼差しは!」
「別に・・・」
「じゃあ、後藤の本当の力見せてやるわ!市井!安倍と交代や!!」
「は、はい。」
刀では話にならないので、体術を見てみることにした。
140たぢから:02/04/29 23:13 ID:XRQBw/28
今度は状況が一変した。
刀は素人だった後藤は、安倍を相手に空手や柔道の技を仕掛けてきたのだ。
(マジだべか!?この子強いって!!)
一応、技はすべてかわしているものの、安倍は防戦一方だ。
これにはギャラリーも言葉を失った。
結局、安倍の背負い投げ一本で勝負はついたが、後藤の評価は急激に高まった。
141たぢから:02/04/29 23:14 ID:XRQBw/28
その夜、もう一つの伝説が生まれた。
「おかわりだべっ!」
「おかわりぃ!!」
「・・・もうご飯無いんだけど。」
空っぽの釜と、まだ喰い足りなさそうな安倍&後藤を交互に見て唖然とする市井。
月に一度のメシ会で、後藤は安倍と同等の大食いを披露したのだった。
「大物になるかも知れへんなぁ・・・」
中澤の呟きに、全員が同調した。
142たぢから:02/04/29 23:15 ID:XRQBw/28
-interlude3-
( ´ Д `)<おかわり!!

ヽ^∀^;ノ<後藤、あんまり食べ過ぎると、誰かさんみたいになるぞ。

(肉´ー`肉)<誰のことだべ?

(〜^◇^;).。oO(アンタや!!顔に「肉」って書いてるやろ!!)

(大´ Д `物)<んぁ〜・・・でも食べるの好きなんだよ〜。

从#´∀`#从<さぁ〜て、次回の「くノ一娘。物語」は?

(予´ー`告)<なっちのダイエット忍法!!

(〜^◇^;)<そんなのあるの?

(肉´ー`肉)<見てて。ん〜〜〜〜〜〜はああああっ!!

煙煙煙・・・・・・

(痩´ー`痩)<これぞ、忍法“ガリ痩せの術”!

(〜^◇^;)<文字でごまかすなよっ!!

ヽ^∀^;ノ<え〜次回の「くノ一娘。物語」は、市井が大活躍っす!マジで。
143名無しさん:02/04/30 16:59 ID:tzi3xoV9
たぢからさん
いつも楽しく読ませて頂いております
ところで、やたら忍術に詳しいとお見受けしましたが、
何らかの資料を参考にしていられるのでしょうか?
「忍たま乱太郎」とか・・・
144名無し募集中。。。:02/04/30 21:03 ID:5yki4nya
>>143
オレモオモタ
145名無し募集中。。。:02/04/30 21:51 ID:buNB+7zb
忍びの末裔なのよ、きっと。
146たぢから:02/04/30 23:07 ID:zes4mMX2
>143-145の皆様
どうも作者です。先祖は・・・医者とか教員とか兼業農家(w
忍術に関しては、「忍たま乱太郎」の原作「落第忍者乱太郎」に載っているものを使っています。
数年前までコミックス集めていました。朝組は乱太郎達ほどドジでマヌケじゃないんですけどね。
これからも多くの忍術を紹介していきたいと思ってはいますが、
ストーリーの関係上、「るろうに剣心」が目立ってきます。
既に登場した“旋風刃”は、まんま“飛天御剣流・龍巻閃”だったり・・・
147たぢから:02/04/30 23:08 ID:zes4mMX2
-appendix1-
(●´ー`●)<朝忍!シノビチェンジ!!

ヽ^∀^ノ(〜^◇^)<シノビチェンジ!!

(●´ー`●)ヽ^∀^ノ(〜^◇^)<ハァッ!!!

左手首の“モーニンジャイロ”を回すことにより、安倍、市井、矢口の三名は
朝流忍術秘伝の“シノビスーツ”を装着するのだ。
そして変身が終わると同時に、何故か桜吹雪が・・・

(●´ー`●)<風が啼き、空が怒る・・・空忍!モーニンレッド!!

ヽ^∀^ノ<水が舞い、波が踊る・・・水忍!モーニンブルー!!

(〜^◇^)<大地が震え、花が歌う・・・陸忍!モーニンイエロー!!

(●´ー`●)<人も知らず・・・

ヽ^∀^ノ<世も知らず・・・

(〜^◇^)<影となりて悪を討つ!

(●´ー`●)ヽ^∀^ノ(〜^◇^)<朝忍戦隊、モーニンジャー!!

(●´ー`●)<あ、参上ぉ〜〜〜〜!!

朝流忍術伝説の後継者“モーニンジャー”が200年の封印を破り、今甦った!
地球侵略を企む宇宙忍軍“ジャティマ”からこの星を守るのだ!!
巻之一“朝と忍者”乞うご期待!!

(●´ー`●)<シュシュっと参上!21世紀のスーパーくノ一だべさ。
148名無し募集中。。。:02/04/30 23:14 ID:52GQlIaG


         ____
       /     \
     /  / ̄⌒ ̄\
     /   / ⌒  ⌒ |   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | /  (・)  (・) |   |
  /⌒  (6     つ  |   | こんな糞スレageるなんて、かあさん許しませんよ!
 (  |  / ___  |  < 
  − \   \_/  /    \__________________
 //  ,,r'´⌒ヽ___/     ,ィ
   /    ヽ       ri/ 彡
  /   i    ト、   __,,,丿)/        ζ           
 |    !     )`Y'''" ヽ,,/      / ̄ ̄ ̄ ̄\        
  ! l   |   く,,   ,,,ィ'"      /.         \ 
  ヽヽ  ゝ    ! ̄!~〜、       /           |    
  ヽ  / ̄""'''⌒ ̄"^'''''ー--、 :::|||||||||||||||||||||||||||||||||   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   Y'´          /    """''''〜--、|||||||||||||||||) < スマン!許してよ、母さん。
   (      丿  ,,;;''  ....::::::::::: ::::r''''"" ̄""ヽ   |    \___________________
    ゝ   ー--、,,,,,___      ::: ::,,,,,ー`''''''⌒''ーイ  ./      
    ヽ      \  ̄""'''"" ̄   \____/-、
     ヽ       ヽ  :::::::::::::::::::: /          `ヽ
      ヽ  丿   )       /    ノ   ゝ ヽ ,〉
       ゝ      !      /            ∀
        !     |      /   人     ヽ   ヽ
        |     ,;;}      !ー-、/  ヽ _,,,-ー'''''--ヘ
          |ノ    |      |  /    Y        ヽ
         {     |      |   j      )  作者    ヽ 
         〈     j      ト-.|    /          )

149たぢから:02/04/30 23:16 ID:zes4mMX2
しまった・・・
147のmail欄に余計な事書かなきゃよかったよ。
150名無し募集中。。。:02/04/30 23:38 ID:5yki4nya
ワラタ
151たぢから:02/05/01 23:01 ID:PJbwC6GZ
「紗耶香が捕まったって本当ですか?」
安倍・矢口・後藤は寺田の部屋に召集をかけられていた。
「どうやらそうらしい。厄介なことになったわ。」
市井は一週間前から、堀城の三の城(出城の一つ)へ潜入し、
新兵器に関する機密情報の調査をしていた。
しかし、先ごろ市井からの手紙を持った燕が、寺田のもとに来たという。
「・・・で、それがその手紙や。」

お頭へ。
機密情報は手に入れたのですが、ヘマして、囚われてしまいました。
どうか援軍をよこして下さい。
p.s.後藤元気?ここのメシはまずくて死にそうだよ。
ヽT∀Tノ
152たぢから:02/05/01 23:03 ID:PJbwC6GZ
「・・・ずいぶんと元気ですね。顔文字つきで。」
矢口は半分呆れている。
「あそこのメシはまずいのか・・・なっちがこの任務じゃなくて良かったべさ。」
最近太ってきた安倍。食いしん坊、犯罪。
「市井ちゃんを助けに行かなきゃ!」
市井のこととなるとやる気が出る後藤。
「とにかく、早く助けに行ってやれや。市井も情報も大事なんやから。」
「「「は〜い。」」」
153たぢから:02/05/01 23:03 ID:PJbwC6GZ
というわけで、三人は堀城三の城までやってきたのだった。
「舞台変わるの早くないですか?」
「後藤、細かいことを気にしちゃいけないべさ。」
「そんなことより、二人とも見取り図みてよ。」
矢口は寺田から預かった見取り図を広げる。
「出城のわりには、大きくないですかぁ?」
「後藤、堀城ってのはとんでもない勢力持ってるんだべさ。覚えておきな。」
「いや、それより紗耶香がどこに囚われているか分からないんだけど・・・」
「「え???」」
矢口の言葉に固まる安倍と後藤。
154たぢから:02/05/01 23:04 ID:PJbwC6GZ
「そういや、手紙には何も書いてなかったべさ。」
「地下牢みたいなところはないんですかぁ?」
探してみると、ざっと十箇所。
「結構分散してるべ。骨折れるなぁ、こりゃ。」
(ダイエットになるかもよ、なっち。)
声には出さない矢口。最近の安倍にはNGワードである。
「この少人数では陽動作戦も、分散もあまり有効じゃないべな。」
「仕方ないね。三人で固まって手当たり次第に探そう。」
「は〜い。」
155たぢから:02/05/01 23:05 ID:PJbwC6GZ
三の城の警備は意外と手薄であり、三人はスムーズに行動できた。
そして、手当たり次第に牢屋を調べた結果、
「ここにも紗耶香いないべ。」
「ここもダメ・・・っと。残るはあと一つだね。」
矢口は見取り図に印をつけている。
「よぉし、さっさと行きましょう!」
「後藤、もの凄いやる気あるね。」
「だって市井ちゃん大好きなんだもん!」
「「・・・・・・」」
どう解釈していいのか、理解に苦しむ安倍と矢口であった。
156たぢから:02/05/01 23:06 ID:PJbwC6GZ
「最後の牢屋は、城の奥深くにあるみたい。そこまでは一本道だよ。」
「いかにも重要な囚人がいそうだべな。最初からそこ行けば・・・」
「なっち、みなまで言わないで。」
などと、アホなことを言っている場合ではなかった。
「そこまでよ。曲者ども!」
お約束の敵忍者登場である。
「仕方ないべ。矢口、後藤・・・あれ?後藤がいない。」
「あのバカ、一人で奥に行っちゃったみたいだね。」
「いいべさ。こんな連中、なっちと矢口で十分だべさ!」
157たぢから:02/05/01 23:06 ID:PJbwC6GZ
「たった二人で私達を相手にする気?」
「身の程知らずね。」
相手は十人のくノ一集団だ。突如桜吹雪が・・・!?
「堀城三の城忍び衆精鋭部隊“HIP”只今参上!和田アキ子に代わってお仕置きよ!!」
いろんなポーズを決める十人のくの一。何のパクリかは、お分かりであろう。
「矢口ぃ、“ヒップ”だってさ。尻だよ尻!」
「ダッサァ〜!」
ゲラゲラ笑う安倍と矢口。
「ちょっとぉ!そういうアンタ達は何者よっ!!」
158たぢから:02/05/01 23:08 ID:PJbwC6GZ
「一応名乗るべ?」
「前練習したアレでやってみる?」
「そうするべ。」
すると室内にも関らず何故か轟く雷。
「深紅の稲妻・・・角忍!安倍なつみ!!」
「蒼天の霹靂・・・牙忍!矢口真里!!」
「影に向かいて影を斬り・・・」
「光に向かいて光を斬る!!」
「「電光石火!朝組コンビ!!見参!!」」
物凄くカッコイイポーズ(安倍・矢口談)が決まる。
某特撮のパクリ以外の何物でもないのだが・・・
159たぢから:02/05/01 23:09 ID:PJbwC6GZ
「豚忍(安倍)とチビ忍(矢口)?」
HIPの一人が思わずNGワードを言ってしまった。
尤も、他のメンバーも口に出さないだけで、そう思っていたことには違いない。
「豚・・・」
「チビ・・・」
その言葉が二人の闘志に火をつけた。というより爆発させた。
「豚言うなぁー!!」
「チビじゃねぇー!!」
次の瞬間、HIPのくノ一は皆倒されていた。ただ一人を除いて。
160たぢから:02/05/01 23:10 ID:PJbwC6GZ
-appendix2-
宇宙忍群(忍軍じゃなかった・・・)“ジャティマ”の蛙怪人、ガマダニエルの強さハンパじゃない!
窮地に立たされるモーニンジャーの三人。だが、そこに二つの稲妻が姿を現した!

@ノハ@
( ‘д‘)<姉者・・・

 ノノノヽ
( ´ Д `)<うむ・・・迅雷(ジンライ)!

@ノハ@
( ‘д‘)<シノビチェンジ!フン!!

突如現れた謎の二人組は、左手首の“モーライチェンジャー”を作動させることにより、
モーニンジャーと同じような“シノビスーツ”を装着した。
そして変身が終わると同時に、何故か雷鳴が・・・

 ノノノヽ
( ´ Д `)<深紅の稲妻・・・角忍!カブトライジャー!!

@ノハ@
( ‘д‘)<蒼天の霹靂・・・牙忍!クワガライジャー!!

 ノノノヽ
( ´ Д `)<影に向かいて影を斬り・・・

@ノハ@
( ‘д‘)<光に向かいて光を斬る!!

 ノノノヽ  @ノハ@
( ´ Д `)( ‘д‘)<電光石火!モーライジャー!!見参!!

古代朝流の一派“迅雷(いかづち)流”伝説の覇者“モーライジャー”が500年の封印を破り、今甦った!
かつて朝流本家に敗れ、歴史の表舞台から消されたはずの彼女達の目的とは!?

巻之ニ“迅雷(いかづち)と忍者”乞うご期待!!

(●´ー`;●)<もうなっち達は用済みだべか?
161たぢから:02/05/01 23:16 ID:PJbwC6GZ
あ゛〜・・・加護のヅラがずれてる。
162名無しさん募集中。。。:02/05/02 00:16 ID:i8U1N8+p
更新がスムーズでうれしいです。
健康を損なわない程度のペースで
頑張って下さい。では…
163名無し募集中。。。:02/05/02 06:52 ID:+1fRMaqz
恋の忍術はでてくるのか???
ス○ト○メト○ス
164たぢから:02/05/02 23:19 ID:aiLgL0kh
>162さん
ある程度書き溜めしているので、当分大丈夫です。
四連休中に、四期メン編を・・・書けるかな?

>163さん
ス○ト○メト○スが分からなかったので、“恋の忍術”で検索かけました。
余計分からなくなりました・・・(w
恋愛成就の忍術などはありませんが、くノ一は色香をよく使いますし、
オスの忍犬にメス犬を差し向ける“合犬(愛犬?)の法”というのはありますね。

(●´ー`●)<というわけで、今日の更新だべさ。シノビチェンジ!!
165たぢから:02/05/02 23:20 ID:aiLgL0kh
「恐ろしい二人ね。」
一人残ったくノ一は、意外なことに無傷であった。
「アンタ、よくかわせたわね。」
「一応、ガードは固いのよ。」
そのくノ一の後ろからは、白い大型犬が現れた。
「このジョンが助けてくれたのよ。」
HIPといいジョンといい、時代背景を無視した名前だが、気にしないでほしい。
「私はHIPのリーダー優香!他の九人とは一味違うわよ。」
「そりゃ、個人名あるしな。」
「ま、犬に助けられたか助けられなかったの違いだべ?」
166たぢから:02/05/02 23:21 ID:aiLgL0kh
「ウルサイなぁ!ジョン、お前はあのチビをやって、私はあの豚を斬る!」
「ウォン!!」
「豚、豚、やかましべ!!」
「犬なら任せて。」
安倍vs優香の刀対決、矢口vsジョンの・・・何対決だろう?
とにかく戦いが始まった。
まずは矢口。飛び上がって突進してきたジョンの後ろをとると、首に腕を回した。
「よし、よぉ〜し・・・この子はね、こうやって首を撫でてあげるとね、喜ぶんですよぉ。」
何故かムツ○ロウさんの真似をする矢口。似てない・・・
ガブッ!
167たぢから:02/05/02 23:22 ID:aiLgL0kh
「くらえ豚忍!和田アキ子直伝・神姐斬(ゴッドねーちゃんスラッシュ)!!」
「和田アキ子?誰だべ?技の威力は大したことないべな。」
安倍は優香の攻撃を軽々とかわすと、一歩下がって刀を鞘に収めた。
「何をするつもり?」
「一気に勝負をつけるべさ。」
そう言うと、安倍は優香に向かってダッシュした。
「くらえ!疾風閃!!」
「くっ・・・うわあっ!!」
瞬時に刀で防御したものの、優香は後ろに吹き飛ばされ、壁に激突した。
「勝負は常に顔で決まるべさ。」
勝利の決めゼリフもパクリだった。
168たぢから:02/05/02 23:23 ID:aiLgL0kh
「矢口!矢口!」
「なっち待ってて。もうすぐしつけが終わるから。」
矢口はジョンと噛み合っていた。
人間が犬を飼うときには、主従関係をはっきりさせなければならない。
獰猛な犬に対しては、このように噛み付いたりする方法もある。
「・・・でもさ、それ優香の忍犬だし、そう簡単に言うことを聞かないと思うけど。」
「仕方ないなぁ。麻酔針で眠らせよう。」
矢口は懐から一本の針を取り出すと、ジョンの首にさした。
ジョンはあっさり崩れた。
169たぢから:02/05/02 23:23 ID:aiLgL0kh
「あ〜あ・・・大きな犬飼いたかったのになぁ。」
「タンポポがいるからいいじゃない。それより紗耶香を助けにいくよ。」
二人が奥へ進もうとしたその時、
「ちょ〜っと待ちな!」
二人の後ろから現れる一つの影。
「自称精鋭部隊じゃ、話にならなかったようね。でも私は違うわよ。」
「何者だべ?」
「堀城三の城忍び衆のリーダー・・・新山千春よ!」
170名無し募集中。。。:02/05/02 23:52 ID:vsSCLmag
○の中は全部「キ」ですね
171たぢから:02/05/03 00:13 ID:ThXWYpgs
“恋の呪文はスキトキメキトキス”
テレビ「さすがの猿飛」 オープニング(1982)

・・・知らないっす。これってアニメですか?
1982年なんて、私赤ん坊ですがな。
172名無し募集中。。。:02/05/03 00:32 ID:L0EP99IA
忍者のコメディアニメ。漫画もあるかな?俺はみてなかった。
ただその曲は素晴らしい。
173たぢから:02/05/03 23:09 ID:3YiZRnt6
二人の先輩を踏み台(?)にし、後藤は最も奥の牢に来ていた。
早速市井を発見し、駆け寄る。
「市井ちゃん!」
「後藤!?アンタ一人で来たの?」
「ううん。なっちとやぐっつぁんが手伝ってくれて。」
微妙な言い回しではある。
「大丈夫?」
「まあ一応はね。」
「で、どんなヘマしたの?」
「脱出時にコケて、後から追ってきた忍者に捕まった。てへへ・・・」
「コケたの・・・で、どんな忍者?強いの?」
「今、アンタの後ろにいる人。」
174たぢから:02/05/03 23:10 ID:3YiZRnt6
突如、後藤は後頭部に衝撃を受け、そのまま倒れてしまった。
「後藤・・・大丈夫?」
「全然大丈夫じゃないよ!・・・痛いなぁ、もう。」
後藤は頭を抑えつつ立ち上がり、敵の方を向く。
そこには、一見華奢だが男並みの肩幅をもつ少女が立っていた。
「アンタが市井ちゃんを?」
「そうよ。私は堀城三の城忍び衆の深田恭子。君も牢屋に入れてあげるわ。」
そう言い終わらないうちに、深田は強烈な蹴りを仕掛けてきた。
175たぢから:02/05/03 23:11 ID:3YiZRnt6
「くっ!」
後藤は紙一重で躱したが、蹴りにより発生する風圧で頬を切った。
「ただの蹴りじゃないよ。恭子の足は大きいからね。」
深田の特徴は肩幅だけではなかった。足の大きさも男性サイズだ。
その分、当たり判定も若干広い。
(強い。うかつに間合いを詰めることは出来ない。)
後藤は一歩下がり、構える。
「来ないの?じゃ、恭子からいくよ!必殺・旋風脚五連!!」
「うっ!」
竜巻のような回転蹴りが、後藤を襲う!
「魔!魅!夢!雌!喪!」
「ぐあっ!」
後藤は鉄格子に叩きつけられた。
176たぢから:02/05/03 23:13 ID:3YiZRnt6
「後藤っ!」
市井が駆け寄る。
「後藤、とにかく耐えて。いくら深田の蹴りが速くても、技の終わりは隙が出来るから。」
「分かった。」
市井のアドバイスを受け、後藤は再び立ち上がる。
「なかなかタフね。でも次喰らえば動けなくなるよ!旋風脚五十連!!」
深田の蹴りの強さに、防御する後藤の腕は痺れた。
それを見逃さない深田は、更に連続で蹴りを繰り出した。
177たぢから:02/05/03 23:13 ID:3YiZRnt6
「魔!魅!夢!雌!喪!魔!魅!夢!雌!喪!・・・」
後藤は深田の高速攻撃を防御するのがやっとだった。
なんとか蹴りは受け止めているものの、その腕が見る見るうちに鞭打たれていった。
だがそれでも後藤は反撃の機を待っていた。
(市井ちゃんの言うとおり、我慢するんだ!必ず隙が出来るから!)
「・・・魔!魅!夢!雌!喪!」
「今だ!」
五十回目の蹴りを下方に避けた後藤は、その体勢のまま深田の足元を思い切り払った。
見事に足元を払われた深田は、正に無防備であった。
すぐさま体勢を立て直す為に手を地面に突き、バック転をしようとしたが、
それよりも早く後藤が立ち上がって深田に大蹴りを喰らわした。
見事に勢い良く吹き飛ばされた深田は、激しい轟音と共に壁に減りんだ。
178たぢから:02/05/03 23:14 ID:3YiZRnt6
「やったかな・・・」
「まだだね。後藤、気ぃ抜いちゃいけないよ。」
叱咤する市井。後藤の実力は認めるが、正直深田に敵うとは思っていない。
やがて、深田は壁から這い出してきた。
「流石ね。あれだけの攻撃を喰らいながら、一気に形成を逆転なんて。」
「でも、これならどう?」
そう言った次の瞬間、深田は後藤の後ろをとっていた。
そして両腕両足を絡め動きを封じた。
慌てて後藤は背中の深田を振り解こうとしたが、
思いの他深田の力が強く、思う様にすら動けなかった。
そんな後藤の背中を、深田はもの凄い力で後ろに曲げはじめた。
179たぢから:02/05/03 23:15 ID:3YiZRnt6
>178
誤字ハケーン・・・
形成→形勢
180たぢから:02/05/03 23:16 ID:3YiZRnt6
「あああああああっ!!!」
全身の骨が粉々になるような痛みに、後藤は思わず悲鳴をあげた。
「後藤っ!・・・仕方ないか。」
実は市井が捕まったのはわざとだった。
後藤に救出に向かわせ、それを上忍昇格の試験にするという寺田の案だった。
一応市井は反対したのだが、後藤の実戦も見てみたいというささやかな欲もあった。
後悔した。後藤に何かあれば自分の責任だ。
(助けなきゃ・・・でもな・・・)
181たぢから:02/05/03 23:16 ID:3YiZRnt6
助けてあげたいが、武器を奪われているので牢をぶち破ることが出来ない。
しかしこのままでは後藤の命が危ない。
冷静に考えるんだ、冷静に・・・
(前は鋼鉄製の格子、残り三方は石の壁か・・・隙間一つありゃしない。
いや待てよ。前後左右が全てではない。天井は石壁で下は・・・いけるかもしれない。)
市井はその時、起死回生の一手を思いついた。

市井は鉄格子のそばに寄る。狙いは、足元の床板!
「うりゃあ!!」
市井は拳法にはさほど自信が無い。でも市井はこの手にかけた。
今市井のいるところは地下牢。床板の下は只の土のはず。
ならば力ずくで穴を掘り、鉄格子の下をくぐることは可能なはずだ。
182たぢから:02/05/03 23:17 ID:3YiZRnt6
市井の読みは当たった。床板の下は、地下にしみこんだ水で柔らかくなった土だった。
市井は一気に土を掘り起こし、一人分の穴をあけた。
そして、すぐさま鉄格子の下を掘りぬき、外側の床板をぶち破った。
牢からの脱出に成功した。
「何っ!?牢から抜け出たの?・・・うわっ!」
深田が事態の変化に気づいたときには、市井の蹴りが顔面を直撃していた。
深田は再び吹っ飛び、後藤は解放された。
「後藤、大丈夫?」
「あ、ありがとう市井ちゃん。」
183たぢから:02/05/03 23:20 ID:3YiZRnt6
だが深田もタフなくノ一だった。
何事も無かったかのように立ち上がり、三人と対峙する。
「後藤、脇差ある?」
「あ、あるけど・・・刀じゃなくていいの?」
「いいの。鞘ごと貸して。」
よく分からないが、策があるのだろう。
そう直感した後藤は、言われたとおりに脇差を手渡した。
「サンキュー。じゃ後藤はちょっと休んでて、アイツは私が倒すよ。」
「え?本当に脇差だけで大丈夫なの?」
「まあ、見てて。」
念を押す後藤を、市井は軽く受け流す。
184たぢから:02/05/03 23:20 ID:3YiZRnt6
「今度はそっちの人?そんな脇差一本じゃ、キョウコには勝てないよ。」
深田は余裕の笑みを見せた。一方の市井は、真剣な表情で構えている。
「わかったわ。一応やる気はあるのね。じゃ、いくよっ!」
深田は旋風脚を仕掛けてきた。市井はそれを紙一重で躱す。
「何っ?蹴りが当たらない!?」
「アンタの蹴りは充分見させてもらったよ。私にはあたらない!」
すまし顔で答える市井。ずいぶんと余裕があるようだ。
「おのれっ!ならキョウコ最大の蹴りを味あわせてあげるわ!」
それは市井にとって予測のうちだった。
深田左足を大きく後ろに下げ、攻撃の体勢に入った瞬間、市井は身を沈めた。
そして次の瞬間、鈍い音が響き、深田はそのまま後ろに倒れた。
185たぢから:02/05/03 23:21 ID:3YiZRnt6
「今のは・・・うあっ!」
立ち上がろうとした深田に、強烈な痛みが襲った。
痛みの原因は、右膝の骨折だった。
「これでアンタは戦闘不能よ。」
そう言う市井の右手には、鞘が砕け刃がかけた脇差が握られていた。
市井は身を沈めた後、深田の軸足となっていた右足に狙いを定め、
後藤から借りた脇差を、渾身の力で叩きつけたのだった。
深田の肉体が強靭だったため、脇差も使い物にならなくなったが、
ともかく作戦は成功した。
186たぢから:02/05/03 23:22 ID:3YiZRnt6
「市井ちゃん!」
後藤が駆け寄ってきた。
「後藤ごめんね。あとで弁償するわ。」
市井は苦笑いしながら、ボロボロになった脇差を返した。
「それとね・・・実はこれ上忍昇格試験だったんだよ。」
「え!?そうだったの・・・?」
ちょっとガッカリする後藤。出世欲はあるようだ。
「あ、そういやなっちと矢口は?」
「あっちで他のくノ一と戦っているよ。」
「よし、手助けに行くよ。敵が残っていたら戦って、試験の代わりにしよう。」
「はーい!」
コロコロ変わる子だな・・・と思いつつ、市井は駆け出した。
187たぢから:02/05/03 23:25 ID:3YiZRnt6
>172
なるほど。
私の中で忍者番組といえば・・・
忍たま乱太郎、忍者ハットリくん、忍者戦隊カクレンジャー、忍風戦隊ハリケンジャー
くらいですわ。今はハリケンジャーに出てくるゴウライジャーがブームっす。

 ノノノヽ
( ´ Д `)<迅雷!シノビチェンジ!フン!!


188162:02/05/03 23:25 ID:2FPP2siG
やった、更新されてる!!
お疲れ様です。これからもよろしく
でも、ムリはしないで下さいな
189名無し募集中。。。:02/05/04 20:50 ID:3iEL0sSM
>>185
技名なんだっけ。「るろ剣」おもろかったよね。
190たぢから:02/05/04 23:02 ID:VPvrCNzb
>189さん
市井がやった名無し技は、「神谷活心流・柄の下段・膝坐」です。
本来は刀身の部分ではなく柄を用いて相手を制する珍しい技です。
神谷薫は木刀の柄だけで、十本刀の一人・鎌足(オカマ)を倒してますね。
まんまパクリですんません。
191たぢから:02/05/04 23:03 ID:VPvrCNzb
安倍と矢口は、堀城三の城忍び衆のリーダー新山千春に苦戦していた。
新山の特徴は、優香以上にガードが固いことである。
特殊な樹脂で作られた、薄くて丈夫な防具を装着しており、
生半可な攻撃は通用しないのだ。
「「旋風刃!!」」
二人は両サイドから一気に斬りかかったが、新山の腕に止められた。
「無駄よ。そんな技じゃこの防具は壊せない。」
二人は一旦新山から離れる。
「なっち、大砲やるよ!」
「分かったべ!!」
すると安倍はその場で仰向けになり、矢口がその上を飛び越える。
そして、安倍が矢口を蹴りだす。一気に加速をつけ、矢口は刀を構えた。
「くらえ!風突牙!!」
192たぢから:02/05/04 23:08 ID:VPvrCNzb
「考えたわね。でも、私には通用しない!」
新山は半歩横にずれて、矢口の刀の先を右腕の防具に当てた。
防具のは丁度亀の甲羅のように丸みを帯びており、その形状のせいで刀は横に弾かれた。
すぐさま新山は隙だらけの矢口の腹に蹴りを入れ、安倍のほうに吹っ飛ばした。
「えっ!?うわああああ!」
咄嗟の事に対応できず、安倍は矢口の直撃を受けた。
それでも勢いは止まらず、二人はそのまま後ろの壁に激突した。
「や、矢口ぃ・・・」
「あはは・・・オレもうだめだぁ・・・」
瓦礫に埋もれた二人は動けなくなってしまった。
193たぢから:02/05/04 23:09 ID:VPvrCNzb
「この防具は完璧・・・貫くことも砕くことも不可能よ!」
「くっ・・・このままじゃやられるべ。」
「うう・・・」
新山は二人の所へ近づくと、拳を高々と振りかざした。
「とどめよ!」
「そうはさせるか!ごっちんキィーック!!」
「うあっ!」
後藤のとび蹴りが、新山の顔面を直撃した。
「なっち!矢口!しっかりして!!」
市井が二人を介抱する。
194たぢから:02/05/04 23:10 ID:VPvrCNzb
「くっ・・・ガードの無い顔を蹴られるとは、不覚だったわ。でも、次はあたらないわよ!」
口の血を腕でぬぐいながら、新山は立ち上がった。
対峙するは、後藤真希。
「なっちとやぐっつぁんの痛みは、のしつけて返してやるよ!」
新山vs後藤の戦いが始まった。
「え?ごっちんが戦うの???」
「大丈夫だべか?」
「二人には今話すけど、今回の市井救出作戦が上忍昇格試験なんだよ。
あの子ああ見えて出世欲ありそうだから、それなりの戦いになるかもよ。」
市井は安倍・矢口の手当てをしつつ、戦況を見守る。
195たぢから:02/05/04 23:11 ID:VPvrCNzb
「くらえ!」
後藤の回し蹴りが新山の頭を狙う。
「何度も同じ攻撃なんて甘いわよ!」
新山は両腕でガードすると、身を沈めて回転し、後藤の軸足を払った。
そして倒れた後藤の脚を持ち上げ、その場で回転をし始めた。
「くらえ!超高速竜巻回転撃(トルネード・スピン)!!」
「うわぁー!!!」
物凄い回転力に、後藤は為す術が無い。
新山が手を離すと、それぞれ物凄い勢いで壁に激突した。
196たぢから:02/05/04 23:13 ID:VPvrCNzb
−195の訂正−
誤)新山が手を離すと、それぞれ物凄い勢いで壁に激突した。
正)新山が手を離すと、後藤は物凄い勢いで壁に激突した。

本当はこのコーナーは、愚弟ユ○キを登場させる予定でした。
197たぢから:02/05/04 23:14 ID:VPvrCNzb
「フッ、甘いわよ。さっきの二人のほうが・・・」
「さっきの二人が何だって?」
新山の言葉を遮るように、後藤は立ち上がった。
「一応、タフなんですけど。」
「驚いたわ・・・そこまで強靭な肉体を持った忍びは、恭子だけだと思ってたけど。」
新山は笑みを浮かべながら、ゆっくり後藤の方に歩み寄ってきた。
「でも・・・それだけでは私には勝てないわよ!」
再び笑みを浮かべると、新山は瞬時で後藤の顔面を殴り付けた。
「あっそ。」
市井達は後藤の変化に気づいた。後藤がいつになくクールになっている。
(まさか・・・後藤にはまだ隠された力が?)
市井の予感は、すぐに現実のものとなった。
198たぢから:02/05/04 23:15 ID:VPvrCNzb
「ぐっ・・・!」
次の瞬間、新山の頬に後藤の右拳が減り込んでいた。
突然の攻撃に、新山はよろけてしまった。
チャンスと見た後藤は、新山の腹部に連打を浴びせ始めた。
後藤が新山にぶつけるその拳は、何時にも増して速く、何時にも増して重かった。
これには安倍達も驚きの表情を隠しきれなかった。
朝組に加入した当初から只者ではないとは感じていたが、
目の前の後藤は、まるで別人のような強さを発揮している。
「チッ!」
パンチの雨に若干の間を見つけると、新山は後藤の腹部に蹴りをいれ、
その反動で充分な間合いを取った。
199たぢから:02/05/04 23:16 ID:VPvrCNzb
「驚いたわ。でもね、私の超強力薄型防具(スーパーガード・ウルトラスリム)は破られないわよ。」
「そんな事、まだ言ってんの?」
後藤の声はどこか冷めている。
「確かにその防具は硬い。でもね、それがアンタ自身の防御力だとでも思ってんの?」
「何っ・・・!?」
次の瞬間、新山の腹部の防具にヒビが入り、砕け散ってしまった。
「そんなっ・・・」
「ただガムシャラに連打してたわけじゃない。ほぼ一点に集中して拳を放ってたんだよ。」
「あ、ああ・・・」
新山はショックのあまり、その場にへたりこんでしまった。
200たぢから:02/05/04 23:16 ID:VPvrCNzb
「『相手が自分よりも強いときは、下手な攻撃は避け、相手の最も得意とする部分を狙え。』
そうだよね?市井ちゃん。」
「後藤・・・!」
後藤は先ほどの市井・深田戦で学んでいたのだった。
回転キックを主体とする深田には足を、防具を纏った新山にはその防具を集中的に
狙うことが、勝利の鍵であることを。
「私は、自分の創り出した防具に溺れていたのか・・・貴方の言うとおりだったわね。」
新山は、何かに吹っ切れたような顔をしていた。
「私の完全な負けだわ。さっさと脱出しなさい。」
「わかったわ。みんな、行こう。」
後藤は矢口を背負い(肩を貸すには身長に差があり、軽いから)、
市井は安倍に肩を貸して、出口のほうに向かった。
201たぢから:02/05/04 23:18 ID:VPvrCNzb
無事三の城を抜け出た一行は、まっすぐ里に戻った。
後藤には、今回の働きを称え上忍への昇格が言い渡された。
朝組始まって以来の、スピード出世である。
今回の任務に参加しなかった中澤達は、後藤の昇格が全く信じられなかったが、
市井達の話を聞いて、とりあえず納得はした。
一方、後藤の戦いぶりを見ていた安倍は、戦慄していた。
福田が抜けたあとは朝組一の腕前を自負していた自分の地位が、
揺らぎ始めていることを感じていたのだ。
やがてその不安が、安倍に隙を作らせ、人生最大の危機へと導くことになるのだが、
それはまた、別の話。
202そんな俺は応援者。:02/05/05 02:01 ID:uPBnXpyu
たぢからさん
正直、おもしろいです。
お体に気をつけて、私達を楽しませて下さい。
では・・・
最後に「たぢから」の由来を教えて!
203名無し募集中。。。:02/05/05 14:44 ID:abZ5dslp
タヂカラオって神様かな?
204たぢから:02/05/05 23:01 ID:fspushNX
-interlude4-
( ´ Д `)<そういや「たぢから」ってどういう意味?

ヽ^∀^ノ<「男」という字を分解(田・力)したんだよ。

( ´ Д `)<なるほどぉ。「女」→「くノ一」と同じだね。

(●´ー`●)<それはともかく、なっちの人生最大の危機って何だべさ!?

(〜^◇^)<さあね。オイラは平和みたいだけど。

(●´ー`;●)<もしかして・・・大飢饉で食糧難!?

( ´ Д `;)<そりゃ後藤にとっても危機だよぉ。

从#´∀`#从<忍者が食い意地はってどないすんねん!

( `.∀´)<ちょ、ちょっと・・・私たちの出番はどうなのよっ!

川゜皿 ゜)‖<ソーダ!デバンヨコセ!!

ヽ^∀^;ノ<カオリ・・・サイボーグチェンジしないでよ・・・

( ` ・ゝ´)<さぁ〜て、次回の「くノ一娘。物語」は?(アタシも出番ないね。)

(●´ー`;●)<サブタイトルが「敗北・・・そして挫折」!? なっちはどうなるべさぁぁぁ!!!

川゜皿 ゜)‖<ネェ、ダサセテ!!
205たぢから:02/05/05 23:02 ID:fspushNX
>202さん、203さん
上の通り、「たぢから」=「田」+「力」=「男」です。
十年くらい前のジャポニカ学習帳のなぞなぞコーナーに載ってました。

で、タヂカラオを調べてみました。

天手力男(あめのたぢからを) 。日本の剛力神。
アマテラスの天岩戸隠れの際、わずかに開いた岩戸からアマテラスを外に引きずり出した。
ただし一般に広まっているように岩戸を押し開けたとする説もある。
その後岩戸はタヂカラオによって地上に投げ落とされ、それが戸隠神社の縁起となったとされる。
206たぢから:02/05/05 23:03 ID:fspushNX
-appendix3-
朝忍戦隊モーニンジャーの設定を考えてみました。
「くノ一娘。物語」のネタ切れたらやろうかな。
元ネタ:忍風戦隊ハリケンジャー(テレ朝・毎週日曜7:30-8:00)

「モーニンジャー」
モーニンレッド:安倍なつみ
モーニンブルー:市井紗耶香
モーニンイエロー:矢口真里

主役三人の選考理由:
たぢからの好みと色のイメージ、それから本家キャラへのリンクも考慮してます。
安倍は、まあ主役っしょ。
ソロデビューを目指す(現状は市井inCC)市井→アイドルデビューを目指す七海
子どもに人気のあるミニモニ。リーダー矢口→介護士として子ども・年寄りの世話をする吼太

「モーライジャー」
カブトライジャー:後藤真希
クワガライジャー:加護亜衣

ライバル二人の選考理由:
本家ゴウライジャーは兄弟なので、最初は後藤姉弟を考えていました。
でも主役陣営にモーニング娘。以外のキャラを入れたくなかったのと、
例のスキャンダルもあり、後藤が教育係をやった加護を妹分としてクワガに採用しました。
207たぢから:02/05/05 23:04 ID:fspushNX
-appendix4-
朝忍戦隊モーニンジャー、主役以外のキャラ設定

「朝忍流の人々」
寺田つんく斎(館長・日向無限斎に対応):つんく♂
中澤裕子(館長の娘・日向おぼろに対応):中澤裕子
お手伝い黒子ロボ:飯田圭織

サポート二人組の選考理由:
やっぱ館長つんく♂は外せないでしょう。
おぼろさん的位置には、関西弁で姉御肌の中澤以外考えられませんでした。
黒子ロボは2体いましたが、川゜皿 ゜)‖以外いないでしょう。


「宇宙忍群ジャティマ」(宇宙忍群ジャカンジャに対応)
首領タウ・ザント:未定
一の槍フラビージョ:未定
二の槍チュウズーボ:未定
三の槍ノノマルバ(マンマルバに対応):辻希美/喋りに特徴があるから
四の槍ウェンディーヌ:未定
五の槍サーガイン:未定

どうですか、読者の皆さん。
208そんな俺は応援者:02/05/05 23:12 ID:TJji99uZ
エッ、「くの一」終了ですか?
残念ですが、仕方ありませんね。
たぢからさんんの新作に更なる期待を寄せております。
頑張って下さい。
209たぢから:02/05/05 23:17 ID:fspushNX
>208さん
何か打ち切りのように思われていますが・・・
とりあえず今のペースであとひと月分は溜めてます。
修正・追加しつつアップしていきますので、忘れないで〜!!

「モーニンジャー」はネタの一つなので、連載にはならないですね。
本家「ハリケンジャー」が放送中ですし。
210そんな俺は応援者:02/05/05 23:55 ID:tZ/FDkNN
スイマセン・・・
はやとちりもいいとこですよね
これが戦国時代なら切腹モンだ・・・
どうかお気を悪くなさらないようにお願い申し上げます
これからも応援しております。
211たぢから:02/05/06 00:43 ID:WNBkjfz7
とある場所での二つの影のやりとり。
「堀城三の城のくノ一が敗れたって?」
「はっ。こちらがその調査書です。」
「ふ〜ん。捨乱救の朝組ねぇ。」
「今は八人いるそうです。」
「どいつが一番強いの?」
「え〜と・・・この安倍なつみです。」
「近々任務とかはあるの?」
「明後日にありますが・・・」
「よし、早速その安倍なつみとやらのお手並みを拝見させてもらうわ。」
「えっ!?お館様に無断で単独行動ですか?いくらなんでも・・・」
「大丈夫よ。私はここの稼ぎ頭なんだから、あの人でも口出し出来ないって。」
「は、はあ・・・」
「楽しみだわ。安倍と戦えるのが。」
212名無し募集中。。。:02/05/06 02:32 ID:1BAnqEpt
ヤンジャン満を持して出陣か?
213たぢから:02/05/06 23:08 ID:hL/kqYJZ
その日の安倍の任務は、ある要人の護送だった。
雨の山道を、籠を担ぐ石黒と飯田、そして安倍と中澤が駆けていた。
突然、先頭を走る安倍が歩みを止めた。
「なっち、どない・・・」
最後尾の中澤が怪訝に思い、訊ねようとしたところ、
山道の脇の林から無数の手裏剣が飛んできた。
安倍はすぐさま剣を抜き、手裏剣の雨を断ち切る。
「裕ちゃん、ここは私に任せて。先へいくべさ!」
「分かった。彩っぺ、カオリ、早よ行くで。」
214たぢから:02/05/06 23:12 ID:hL/kqYJZ
姿の見えぬ敵と対峙する安倍。
(気配は感じるけど、はっきりしない。相当出来るヤツだべ・・・)
安倍はとりあえず、手裏剣が投げられてきた方向に苦無を投げてみた。
僅かな手ごたえがある。
「出てきな!こうしていても埒が飽かないべ。」
「そうね。あんたの前じゃ遁法も通用しないようだしね。」
215たぢから:02/05/06 23:13 ID:hL/kqYJZ
木々の間から姿を現したのは、安倍と同い年くらいのくノ一だった。
短髪に愛嬌のある顔立ちをしている少女・・・しかし目は笑っていない。
右頬には傷を負っている。安倍の苦無が当たっていたようだ。
「お前・・・本気でウチらの要人を狙ってはなかったべな? むしろ狙いは・・・」
「そうよ。私の目的は最初からアンタ・・・“捨乱救”朝組の安倍なつみよ。」
「!?」
安倍の表情が曇った。
任務の内容はおろか、担当の忍びまで確実に知られていたからだ。
216たぢから:02/05/06 23:13 ID:hL/kqYJZ
「私は小室忍軍の鈴木あみ。我が軍の情報網はそこらの忍軍とは比べ物にならないわ。」
(小室忍軍!?)
安倍には心当たりがあった。調べで分かったのだが、安倍の故郷を奪ったのが、小室忍軍だったのだ。
人里離れた平和な村が襲われたのも、情報力のある彼らの働きによるものだったのだ。
沸々と怒りがこみ上げてくる。
「うああああああああ!」
刀を抜き、安倍は仕掛けた。
あみも刀を抜き、安倍の攻撃を受け止める。
217たぢから:02/05/06 23:14 ID:hL/kqYJZ
「流石ね・・・ちょっと手が痺れたわ。でもお楽しみはこれからよ!」
そう言うと、あみは左手で脇差を抜いた。
「安倍なつみ、お前を殺す!!」
あみは瞬時にして、脇差で安倍の胴を貫いた。
・・・だが、次の瞬間あみが見たものは、脇差に捕らえられた黒マントだけであった。
「逃げたか・・・あっ!」

あみは上方から急降下してくる闘気を感じ取った。
そして上を見てみると・・・安倍は何時の間にか空中に繰り出していて、あみに攻撃を仕掛けていた。
「くらえ!降墜撃(こうついげき)!!」
刃を下に向け、重力を利用して急降下する安倍。
判断の遅れたあみの脳天を直撃し、一気に勝負をつける。
だがあみは、それを寸手で躱した。
218たぢから:02/05/06 23:15 ID:hL/kqYJZ
「変わり身の術との技コンボか・・・なかなかやるわね。」
「誰だべ・・・?」
安倍は突然、あみに問う。
「何が?」
「なっちを殺せとお前に命令したヤツのことだべ。それがお前の任務のはずだべさ。教えろ!」
安倍の形相は、鬼神の如く険しくなっていた。
ここまで安倍が怒りに溢れる事は、滅多に無い事である。
「フフフッ・・・仮にもくノ一である私がそんな事をお前に教えるとでも思った?」
そう言うとあみは突然安倍の目の前から姿を消した。そして次の瞬間・・・
219たぢから:02/05/06 23:16 ID:hL/kqYJZ
「それに、今ここで言ってしまえば、私のお楽しみが減ってしまうからね!!!」
あみは、瞬時にして安倍の懐に入り、目にも止まらぬ速度で安倍を刀で斬り付けた。
寺田剣術にもある乱撃“風乱刃(ふうらんじん)”そのものだが、その速さは、
安倍ですら捕らえる事が出来ない位のもので、あみの連続攻撃を避ける事すら出来なかった。
安倍の身体は、見る見るうちに傷だらけとなり、血があちこちに飛び散っていった。
「はあああああっっ!」
あみの渾身の一斬りで安倍の体は後方へと吹っ飛んだ。だが安倍は体勢を取り直して着地する。
220たぢから:02/05/06 23:17 ID:hL/kqYJZ
「まだまだ、こんなもんじゃないわよ!」
そう叫びながら、あみは棒手裏剣を飛ばした。
相当の数で、普通の人間なら蜂の巣にする事が出来る位のものである。
だが安倍はそれを紙一重の所で躱しながら、あみに急接近して行った。
そして安倍は刀を構え直し・・・
「疾風閃!」
今や安倍の十八番の抜刀術が繰り出された。
だが、安倍の高速攻撃も、見事に躱されてしまった。
「遅いわ!」
次の瞬間、あみは空中から安倍目掛けて急降下してきていた。
221たぢから:02/05/06 23:19 ID:hL/kqYJZ
>212さん
ヤンジャン=鈴木あみ、ですよね?
全盛期の鈴木あみは、「ヤングジャンプ」によく出ていたのでしょうか?
222名無し募集中。。。:02/05/06 23:50 ID:UfkzLf7W
>>221
212じゃないけど、たぢから氏はボブのヤンジャンをご存知ない?
223たぢから:02/05/06 23:54 ID:hL/kqYJZ
>222さん
・・・知りませんでした。
検索かけたら一発目にありましたね。
今から逝ってきますわ。
224たぢから:02/05/08 00:04 ID:R9aiLtIM
あみは降墜撃の真似をしていた。しかも安倍より数段速い!
だが太刀筋が読める安倍はこれも紙一重に所で何とか躱し、あみの刃は地面に突き刺さった。
今なら反撃は可能であったが、安倍の体勢は整っていない。
それを狙い、あみは瞬時で体勢を立て直し、再び安倍に向かって刃を突いて来た。
「くそっ!」
安倍は今度はそれを躱す為、空中へと跳んだ。
「馬鹿ね!隙だらけよ!!」
225たぢから:02/05/08 00:05 ID:R9aiLtIM
瞬間的に制動したあみは、今度は空中の安倍を目掛けて、足元の大きな石を飛ばした。
乱定剣(らんじょうけん;何でも投げる急場しのぎの手裏剣術)のようである。
あみの馬鹿力により、石は安倍に急接近する。
「ていっ!」
その石を蹴り、安倍は空中でもう一度跳んだ。そしてあみとの距離を十分に稼ぐと共に・・・
「墜円斬!」
刀を真ん中に構えた安倍は、空中で回転を始めた。
すぐさま苦無を放つあみだが、回転体と化した安倍には通用しない。
226たぢから:02/05/08 00:06 ID:R9aiLtIM
「ふ・・・流石は朝組一のくノ一ね。素晴らしい戦闘能力だわ。でもね・・・」
するとあみは刀を下に構え、安倍が迫ってくると急速に回転を始めた。
そして安倍に向かって飛び上がり、二つの回転体が空中で激しくぶつかり合った。
そして暫くすると、お互いにその回転力を削り、最終的には回転を止めた。
「しまった・・・!」
そう、墜円斬を止められた安倍は、空中で無防備の状態で佇んでいるのである。
その隙を見事に突いて、あみは安倍に急接近した。
「私は更にその上を行く、殺人鬼よ!!」
あみの連続攻撃は、安倍の体力を急速で削っていった。
余りの攻撃の速さと激しさに、安倍はもはや成す術が無かった。
・・・そして安倍は、力無く地面に落ちた。
227たぢから:02/05/08 00:07 ID:R9aiLtIM
安倍の身体はもはや傷だらけの血まみれだった。
だが、それでも安倍は又起き上がった。
「なっちは・・・ まだここでくたばる訳にはいかないべ・・・ お前如きに・・・」
もはや立っていられるのがやっとといった様子である。
刀は半分自分を支える杖代わりになっていた。

「ハハハッ!そうよ。そう来なくては面白くない。私はもっともっと楽しみたいわ・・・」
あみは相変わらず邪悪な笑みを浮かべていた。
そして、まるで挑発しているかの様に刀を鞘に収めた。
チャンスと悟った安倍は体勢を立て直し、こちらも刀を鞘に収めた。
スピードが劣るなら、逆に時間差で抜刀術を仕掛ければ勝ち目があるはず。
集中し、一気に刀を抜いた。
228たぢから:02/05/08 00:07 ID:R9aiLtIM

次の瞬間、鈍い音が森じゅうに響いた。

確かに安倍の刀はあみの首を捕らえていたはずだった。
しかし首の寸前で攻撃は遮られていた。
安倍の右腕には、鋼鉄の鞘が食い込んでいた。
「馬鹿ね。刀はおとりよ。」
229たぢから:02/05/08 00:08 ID:R9aiLtIM
双刀閃・・・鞘を使って、二刀流にする抜刀術だ。
あみの抜刀は安倍より速く、それを回避した安倍は間合いを詰めた。
しかしそれはあみの思うツボであり、安倍は“もう一本の刀”により利き腕を破壊されたのだ。
「あああああ!」
安倍は思わず悲鳴をあげた、そして徐々に力尽きていった。
右手に握られた刀は手から離れ、膝は地面に着き、そして安倍は倒れた。
もはや、安倍の身体からは、闘気の欠片も感じ取られなかった。
230たぢから:02/05/08 23:53 ID:H5XIAysP
「もう終わり?・・・いや、終わりにはしないよ。まだお前は生きているからね!」
さらに凶悪な笑みを浮かべると、あみは安倍を抱えた。
「さあ、鈴木あみ直伝で死の踊り“Be Together”を朝まで踊ってもらうよ!」
そういうと、呼吸するのがやっとの安倍を、二本の刀で痛めつけた。
先ほどの連続攻撃とは比べ物にならない痛みが、安倍の意識を途切れさせない。
逆刃にした刀と、鋼鉄の鞘で殴り、倒れこむことさえ許さない。
安倍はあみに翻弄され、死の踊りを踊り続けた。
231たぢから:02/05/08 23:54 ID:H5XIAysP
「アハハハ!あんた踊りのセンスがあるわ!それだけ雑魚でクズってことだけど!」
あみが吐き捨てるように言い放った。
(も、もう・・・だめ・・・)
消え行く意識の中で、安倍は死を感じた。
しかし、敵に為す術なく殺られたとあっては、朝組一のプライドに傷がつく。
安倍は決心した。これ以上の辱めを受けるなら舌を噛もうと。
232たぢから:02/05/08 23:55 ID:H5XIAysP
安倍が覚悟を決めたその時、遠くから声が聞こえた
「なっちぃぃぃぃ!」
中澤の声である。
いや、中澤だけではなく、任務を終えた石黒と飯田の声もする。
やがてあみと安倍の存在を確認した三人は、あみを取り囲んだ。
「おのれ・・・よくもなっちを・・・」
拳を強く握り締め、怒りを顕わにする飯田。
同時に、殺気を身体から漲らせる中澤と石黒。
その刺す様な闘気に、さすがのあみも動けなくなっていた。
233たぢから:02/05/08 23:56 ID:H5XIAysP
「仕方ないわね。コイツは返してやるよ。もう死んでると思うけどね。」
「チョイ待ち!アンタ、小室忍軍の鈴木あみやな。なぜなっちを?」
逃げようとするあみを、中澤が制す。
「単なる力試しよ。特別な任務でも何でもないから、この場で引くわ。」
そう言うと、あみは煙玉を爆発させ、その場から消えた。
「彩っぺ、カオリ、なっちを里まで運ぶよ!」
234たぢから:02/05/08 23:56 ID:H5XIAysP
安倍が目を覚ますとそこは里の自室であった。
(あれ・・・なんでここに居るんだろう・・・)
ふと横を見ると、飯田が目に涙を浮かべて覗き込んでいる。
「カオ・・・リ・・・」
安倍が声をだすと飯田は目を真ん丸くして里中に響くような大声をあげた。
「裕ちゃん!なっちが・・・なっちが目を覚ましたよ!」
235たぢから:02/05/08 23:57 ID:H5XIAysP
里に戻ってきた中澤は、太陽組の信田を呼び、安倍を介抱したのだった。
命には別状は無かったものの、内臓破裂と複雑骨折で重体だった。
中澤の判断で、安倍は体力回復までは絶対安静とされ、
安倍の任務は、しばらく保田が代わりに受け持つことになった。
・・・と、一連の報告を飯田から聞いた安倍は、表情一つ変えず、
「カオリ・・・しばらく一人にして・・・」
236たぢから:02/05/08 23:58 ID:H5XIAysP
安倍の表情に見え隠れする「何か」に、半ば追い出されるように
飯田が部屋から出た後、安倍は思い切り唇を噛んだ。
口の中に、血の味が充満する。
それでも涙は出なかった。いや出したくは無かった。
誰にも弱いところは見せたくなかった。一人になったとしても。
『アハハハ!あんた踊りのセンスがあるわ!それだけ雑魚でクズってことだけど!』
だが、その言葉がいつまでもグルグルと頭の中を回り続けた。
心に受けたダメージが体の痛みを凌駕し、安倍を蝕んでいった。
237たかじんアスターゼ:02/05/09 00:30 ID:HFqrSepE
お疲れ様です
これからも頑張ってください。
238 :02/05/09 13:08 ID:CSj1kkx2
っていうか内蔵破裂で命に別状が無いわけ無いだろ。
大有りだ!!
239たぢから:02/05/09 23:00 ID:WVaPuZHy
>238さん
ご指摘ありがとうございます。
やってしもうたぁ・・・いくら何でもなっちはゾンビじゃないですよね。
どれだけボロボロになったかを表現しようと思ったら、かなりやり過ぎてしまいました。

・・・というわけで読者の皆様、235-236は無かったことにして下さい。
( ´ Д `)<はい、あぼ〜ん。

(●´ー`●)<じゃあなっちは負けていなかったということで・・・

(〜^◇^;)<そこまでストーリー変えるわけねぇだろ!!

以下修正版をアップします。
今後とも熱いご声援、厳しいダメ出しをお願いします。m(_ _)m
240たぢから:02/05/09 23:01 ID:WVaPuZHy
里に戻ってきた中澤は、太陽組の信田を呼び、安倍を介抱したのだった。
命には別状は無かったものの、極度の打撲と複雑骨折で重体だった。
中澤の判断で、安倍は体力回復までは絶対安静とされ、
安倍の任務は、しばらく保田が代わりに受け持つことになった。
・・・と、一連の報告を飯田から聞いた安倍は、表情一つ変えず、
「カオリ・・・しばらく一人にして・・・」
241たぢから:02/05/09 23:02 ID:WVaPuZHy
安倍の表情に見え隠れする「何か」に、半ば追い出されるように
飯田が部屋から出た後、安倍は思い切り唇を噛んだ。
口の中に、血の味が充満する。
それでも涙は出なかった。いや出したくは無かった。
誰にも弱いところは見せたくなかった。一人になったとしても。

筋肉の痛み、骨の軋む音、血の臭いなど、微塵も感じなかった。だが・・・
『アハハハ!あんた踊りのセンスがあるわ!それだけ雑魚でクズってことだけど!』
その言葉がいつまでもグルグルと頭の中を回り続けた。
心に受けたダメージが体の痛みを凌駕し、安倍を蝕んでいった。
242たぢから:02/05/09 23:04 ID:WVaPuZHy
以下、本日アップ分です。

あの事件から二ヶ月位経ったある日、それは突然起こった。
「きゃああああ!」
飯田の悲鳴を聞き、かけつける朝組のくノ一達。
「カオリ、どうした・・・ええっ!?」
一番乗りの矢口の目の前には、肩を怪我し倒れている飯田と・・・
「な・・・なっち!?」
血のついた刀をもった安倍がいた。
だがそこにいるのは、いつもの安倍ではなかった。
獣のように唸り、何かに飢えた様な狂気の目をしている。
あまりの恐怖に矢口は硬直した。
それは後から駆けつけた市井、後藤も同様であった。
これは、只事ではない・・・!
243たぢから:02/05/09 23:04 ID:WVaPuZHy
「矢口・・・早くなっちを止めて・・・」
「カオリ・・・分かったよ。」
飯田の声を受け、矢口は刀を抜いて安倍と対峙する。
刀を鞘に収めた安倍からは異常なほどの殺気が感じられる。そして・・・
「あみ・・・コロス・・・」
小声ではあったが、矢口たちの耳にははっきり届いた。
244たぢから:02/05/09 23:05 ID:WVaPuZHy
「なっちぃ!」
矢口は一気に安倍に飛び掛った。
抜刀術では安倍の右に出る者はいない。
だが、肉体的な素早さなら、矢口に分がある。
安倍の後ろを取り、峰打ちにするつもりだ。
これですぐに安倍は倒れる…筈であった。
だが寸前で、矢口は安倍の異変に気が付いた。

一瞬、時が凍り付いた。

「う・・・くっ・・・」
矢口と安倍は互いに接近して止まっていた。
矢口は左手に握った脇差で安倍の刀を封じ、右手に持った刀で安倍の鞘を封じた。
・・・いや、封じるのがやっとだった。
何と安倍は双刀閃を繰り出していたのである。
245たぢから:02/05/09 23:06 ID:WVaPuZHy
安倍が矢口に攻撃を掛けるその寸前で、異常なまでに膨れ上がる殺気を感取った矢口は、
瞬時にして腰の脇差を抜き、神業の如く安倍の奇襲を防いだのである。
もし安倍の双刀閃が完璧な物だったら、確実に矢口の右腕は破壊されていただろう。
だが、今の矢口はこれが精一杯であった。これ以上の攻撃を仕掛けられない。
「おのれ・・・あみぃ・・・」
安倍の目には矢口ではなく鈴木あみが映っているようだ。
仕返しの双刀閃を防がれ、さらなる怒りの闘志が湧き上がっている。
246名無し募集中。。。:02/05/10 00:48 ID:1LQ6W6Bk
>たぢから氏
毎日寝る前にこの小説読むのが楽しみです。これからも頑張ってください。
247 :02/05/10 23:20 ID:rBWUaCsw
スゲエなあ、いつも楽しみに読ませて頂いております。
ところで、この物語には最終目的みたいなのはあるのでしょうか?
今はまだ言えませんか?ちょっと気になったもので・・・
248たぢから:02/05/10 23:47 ID:LPOENQje
今日は( ´ Д `)祭りでした。
・・・いや、別に何も無いですが。

>246さん
ありがとうございます。私も寝る前にアップしています。

>247さん
最終目的・・・言えませんね〜。

(〜^◇^;)<何にも考えてねぇだろ!!

・・・今はバトルメインなので、四期メン加入時くらいから、
様々な忍術を紹介していきたいとは思っています。

それでは本日のアップ参ります。

249たぢから:02/05/10 23:48 ID:LPOENQje
「やぐっつぁん、危ない!」
後藤が叫んだとき、矢口は安倍の蹴りをくらい、軽く30メートルは飛ばされていた。
「後藤、他のみんなはどうしたの?」
「駄目だよ。なっちの任務を肩代わりした圭ちゃんは勿論、お頭も裕ちゃん達も出かけてる。」
今安倍を抑えることが出来るのは、後藤と市井しかいないのだ。
これ以上被害を大きくするわけにはいかない。そう判断した市井が前に歩み出た。
「市井ちゃん・・・」
「後藤、アンタは二人の手当てをして。なっちのことは任せて。」
獲物を探すように頭を振る安倍の前に、市井は立ち塞がった。
250たぢから:02/05/10 23:49 ID:LPOENQje
「なっち・・・市井たちが分からないの・・・?」
安倍は答えない。ただ市井を睨みつけている。
物凄い殺気は依然霧のごとく辺りに漂い、市井を刺激する。
「・・・皮肉なものね・・・」
歯を軋ませる市井。
「正直、いつかは雌雄を決したいとは思っていたけど・・・こんな形で戦う事になるなんてね・・・」
刀を抜き、刃先を安倍に向ける。
「勝負よ・・・なっち・・・」
251たぢから:02/05/10 23:50 ID:LPOENQje
ガキィィィィィン!!

二つの刀がぶつかり合い、激しい火花が市井と安倍の間に散っていく。
「くくっ・・・!!」
次第に押されていく市井。
技の精度には定評があるが、残念ながら力では安倍にはまだまだ遠く及ばない。
『どうしたの? その程度の力しかないの?』
安倍の表情は、まるで市井を嘲笑っているかのようだ。

ズバッ!!

「ぐあっ!!」
安倍の刀が市井の左足を切り裂く。速さでも圧倒的に劣っていた。
バランスを失い、市井はその場に倒れこんだ。
252たぢから:02/05/10 23:51 ID:LPOENQje
『呆気ないけど・・・とどめよ!』
・・・と安倍が言ったかどうかは定かではない。
ただ、狂気に満ちた表情はそれ以上の何かを市井に向けていた。
そして安倍は刀を高々と上げた。一気に脳天を割るつもりか。
市井は斬られた左太ももを押さえたまま、動けない。
「やっぱ・・・敵わないか・・・」

そして、安倍の刀が振り下ろされた。
「市井ちゃんっ!!」
後藤の叫びも空しく、辺りに紅い滴が飛び散った。
253名無し募集中。。。:02/05/11 01:55 ID:1hXrsJ0m
ああぁあぁああ・・・いいところで・・・
早くも次の更新が待ち遠しい
254  :02/05/11 01:56 ID:RavUf7mf
更新お疲れ様です
いつもこれを見てから寝るのが日課になってしまったようです
ところで、
お節介かも知れませんが、一度ageてみたらいかがですか?かなり下まで来ているようですし・・・
その気がないのでしたら、どこぞの阿呆の戯言だと思って頂いて結構です
255たぢから@早起き?:02/05/11 07:26 ID:y5IsXj+0
>253さん
いいところでまた来週!・・・これはお約束です。
いろいろと想像を膨らませておいてください。

>254さん
たまに行われるスレッド圧縮では、何も下にあるスレがdat逝きになるわけではありません。
ageでもsageでも、ある程度の頻度で書き込みがあれば回避できます。
「小説総合スレッド5」(http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1013040825/l50)
で情報が出るので、私はそれを参考にしています。
現在のペースなら、まず大丈夫でしょう。
あと、やっぱageると多少なりともあらされる危険があるわけで・・・
このスレの147-148を見ていただければ、よく分かりますね。

では、また今夜。

256たぢから:02/05/11 23:02 ID:aZ8Un442
「紗耶香・・・一人だけでカッコつけないでよ。」
市井の目の前には、矢口が倒れていた。
市井を庇い、安倍に肩を斬られたのだった。
「矢口・・・どうして?」
前方に倒れ伏す矢口に向かって市井が言う。
「・・・何でって・・・そりゃ、ヤグチも仲間だからさ・・・」
そんな市井に向けて、矢口は必死に笑みを作りながら口を開いた。
「それに・・・腹を蹴られたぐらいで気絶するほどヤワじゃねぇよ・・・ヤグチは・・・」
だが、無理に動いて安倍の刀を受けた為、そのダメージは深い。
矢口は身を起こす事すら出来なくなってしまっていた。
257たぢから:02/05/11 23:12 ID:aZ8Un442
そんな二人に安倍はゆっくりと歩み寄る。
「・・・なっち・・・」
必死に立ち上がりながら市井が安倍を見つめる。
しかし狂気に支配され、修羅と成り果てた安倍は、ただ標的である市井を睨みつけるだけだった。
「あれからいろいろ考えたとは思うよ・・・」
市井は哀れみの表情を安倍に向けた。
「でもね、ここまで仲間を傷つけるとは思わなかったよ。本当のなっちは・・・」
『戯言はそこまでよ・・・』
刀を構える安倍。もはや彼女には誰の声も届かないのか・・・
258たぢから:02/05/11 23:13 ID:aZ8Un442
「さ・・・紗耶香・・・」
矢口も必死に立ち上がろうとするが、もはや動く事もままならず彼女は再びその場に倒れこんだ。
「矢口はそこでおとなしくしていて。後藤、早く手当てして!」
「で、でも・・・」
「いいから後は市井に任せて!・・・でもね・・・」
そこで市井は後藤の方を向いた。
「もし市井がなっちを止められなかったら・・・その時は後藤、力づくでなっちを止めて。」
それは後藤に安倍を殺せと命令しているようなものだった。理論上、後藤の力なら可能だろう。
そして、市井がこんな事を言った以上、次が彼女の最後の手だろう。
市井は再び安倍のほうを向き、刀を構えた。
259たぢから:02/05/11 23:14 ID:aZ8Un442
「くっ!!」
市井と安倍の刀がまたもぶつかり合う。
だが市井ののダメージはことの他重く、安倍とまともに打ち合う事すら出来なくなっていた。
市井の刀は呆気なく弾き飛ばされた。
「紗耶香っ・・・!!」
飯田も矢口も彼女を助けようとするが、市井以上にダメージを負っている二人にそんな事が出来る筈はない。
そして後藤も、動くことが出来なかった。

ドガァッ!!
260たぢから:02/05/11 23:15 ID:aZ8Un442
安倍の剣撃に屈し市井が背後に弾かれる。
「うっ・・・」
必死に立ち上がろうとする市井。
安倍はそんな彼女の首元をつかみ上げると、刀の先を市井の胸元に突き立てる。
「なっちやめて!市井ちゃんはなっちのために・・・」
だが安倍は少しも動じることなく、市井に殺気に満ちた瞳を向ける。
だが市井は何故か落ち着いていた。
「い・・・市井ちゃんっ!!」

ドシュッ!!

後藤の目の前で、無情にも安倍の刀が市井を貫いた。
261たぢから:02/05/12 23:01 ID:y7U3Mtdy
「くっ・・・いてぇな・・・」
「市井ちゃん・・・!」
後藤には、市井の胸が串刺しにされたように見えた。
だが、刀が刺さる寸前で市井は体を捻り、刀は右肩を貫いていた。
安倍はその場から一歩も動こうとせず、その場にずっと立ち尽くしている。
そして市井も倒れることなく安倍と向かい合うようにたたずんでいた。
唖然とする後藤の眼前で、市井が口元に笑みを浮かべる。
「ようやく近づく事ができた・・・もう逃がさないよ。」
だが次の瞬間に市井の表情は一変した。
「・・・というか現実から逃げないでよっ!!」
そう言うと、市井は安倍の頬を殴った。
262たぢから:02/05/12 23:02 ID:y7U3Mtdy
思いのほか、安倍は殴り飛ばされた。
市井は肩から刀を抜き、それを持って倒れたままの安倍に近づく。
「・・・さ・・・紗耶香・・・?」
目を覚ましたのだろうか、安倍は訳も分からず市井に怯えている。
そんな安倍を、市井の目は捉えて離さない。
「見損なったよ、なっち。鈴木あみの代わりに仲間を襲うなんて・・・
そんな卑怯で臆病な女だとは思わなかったよ!!」
安倍の胸倉を掴み、目の高さが合うまで持ち上げる。
263たぢから:02/05/12 23:03 ID:y7U3Mtdy
何がなんだか状況を掴めない安倍に、市井は続ける。
「なっちはあみに敗れた悔しさを仲間で晴らそうとしたんだ!
この血がたっぷりついたアンタの刀が、動かぬ証拠だよ!」
安倍は震え始めた。記憶が100%無かったと言えば嘘になる。
無意識のうちに、あみへの恨みを仲間に向けていたのだ。
「・・・そんな・・・取り返しのつかない・・・ことを・・・」

「・・・今更遅いよ。」
少し間をおいて市井は言葉を発した。
「私もバカだったわ。こんな女を目標にしていたなんて。」
264たぢから:02/05/12 23:03 ID:y7U3Mtdy
そう言うと、血だらけの刀を捨て、市井は腰から脇差を抜いた。
「さ、紗耶香・・・」
安倍は状況が飲み込めず、ただ狼狽するのみだ。
「取り返しのつかない・・・ね。じゃあ死をもって償ってもらうよ。」
「ちょっと市井ちゃん!」
後藤が止めようとしたが、市井の冷たく鋭い視線に動けなくなった。
「・・・じゃあね、なっち。」
市井は安倍の脳天めがけて脇差を振り下ろした。
265ファンやで!:02/05/12 23:11 ID:oVbKQhWi

展開が全然読めなーい!! でも、おもろーい!!
期待しておりやす。がんばって。
266たぢから:02/05/13 23:02 ID:pXgg2xXP
「・・・あ・・・ああ・・・」
脇差は安倍の目の前で止められていた。
「これでなっちは死んだよ。狂っていた安倍なつみはね。」
市井は少し微笑むと、脇差を納め、安倍を力一杯抱きしめた。
安倍の体は、氷のように冷え切っていた。
「バカなっち。 なんでこんなになるまで“苦しい、助けて”って言わなかったんだよっ!
なっちも市井も・・・みんな仲間じゃないか!! バカヤロウ・・・バカヤロウ・・・!」
「・・・紗耶香・・・ゴメン・・・本当に・・・」
安倍は項垂れ、滝のように涙を流した。最後のほうは言葉になっていなかった。
267たぢから:02/05/13 23:03 ID:pXgg2xXP
「でももういいんだよ。泣きたい時に泣けばいいし、笑いたい時に笑えばいいんだから。
仲間に遠慮なんていらないよ。」
紗耶香が新人の頃に安倍から言われた言葉だった。
安倍の冷え切っていた心が、少しずつではあるが解け始めた。
「う・・・ああ・・・うわああああああああああああああああ!!!」
安倍は本気で泣き叫んだ。涙と共に、悔しさを天に地にぶちまけた。
市井はその涙の一部を自分の衣でふき取った。苦しみを共有するかのように。
さらに飯田と矢口、そして後藤が駆け寄ってきて、二人を囲んだ。
268たぢから:02/05/13 23:03 ID:pXgg2xXP
やがて泣き止むと、仲間の暖かさに包まれて安倍は眠りについた。
かすかな寝息、心地よさそうな寝顔・・・
今夜は、久しぶりにいい夢を見るだろう。
安倍の悪夢の日々は、ようやく終焉を迎えようとしていた。



269たぢから:02/05/13 23:05 ID:pXgg2xXP
翌朝、出かけていた中澤達と、寺田が戻ってきた。
市井達からの報告を受け、寺田は安倍は呼び出した。
「安倍、どうして呼び出されたかは・・・わかってるな?」
「はい。覚悟は出来ています。」
「そうか・・・」
そこで寺田は言葉を区切り、一旦視線を逸らした。

「安倍・・・お前には二ヶ月の謹慎処分を課す。仲間を傷つけた罪は大きい。」
「はい・・・」
覚悟は出来ていたが、やはり“謹慎”という言葉に体も心も敏感に反応した。
「ま、そう落ち込むなや。二ヶ月間仕事が無いんや。ゆっくり休め。
その代わり、二ヶ月経ったら死ぬほど仕事してもらうからな。」
ニッと笑う寺田。彼なりの優しさだった。
270たぢから:02/05/13 23:06 ID:pXgg2xXP
安倍の変(寺田命名)により、五体満足な朝組くノ一は中澤、石黒、保田、後藤だけとなった。
寺田の指示により、市井達の仕事は、しばらく後藤が受け持つこととなった。
これは寺田の思い付きであったが、後藤はそれらの任務を全てこなした。
当然重要な任務も増え、事実上、後藤が朝組一の座に着くこととなる。
271たぢから:02/05/14 23:04 ID:jDfcX3pI
>265さん
どうもです。これから展開に乞うご期待!

(●´ー`●)<あんまり期待させないほうがいいべさ。
272たぢから:02/05/14 23:04 ID:jDfcX3pI
次の週、安倍と市井は旅に出た。
元々仕事がなかった市井が、安倍と自分の快気祝いにと、半ば強引に誘ったのだ。
勿論寺田からの許可を貰っている。
「紗耶香ぁ、そういや何処へ行くんだべ?」
「前にね、いいとこ見つけたんだよ。まあ、ついてきなって。」
「楽しみにしてるべ。」
市井は北北西に進路をとり、安倍は何も考えずついて行く。
273たぢから:02/05/14 23:06 ID:jDfcX3pI
雲ひとつ無い空
のどかな風景
涼しい風
汚れた自分を清めてくれそうな自然に、安倍は心を委ねていた。
そう言えば、こんな風に歩くのは、いつ以来だったか・・・
274たぢから:02/05/14 23:07 ID:jDfcX3pI
その晩はどこかの辻堂で泊まることとなった。
市井曰く、金が無くて宿に泊まれないとのこと。
しかし何も無いところで二人きりになったことで、安倍は話を切り出せたのかもしれない。
「紗耶香・・・正直なっちね、焦ってた。」
「何?」
「明日香が去って、朝組一って天狗になってたんだ。でも、やがて呑み込みの早い後藤が、
成長株の紗耶香が・・・ううん、なっち以外のみんなが強くなってた。気づくのが遅かった。
気づいたときには・・・ボロボロになってた。」
275たぢから:02/05/14 23:08 ID:jDfcX3pI
満天の星空を眺めながら、安倍は続けた。
「でも、何となくわかった気がするべ。」
「何が?」
「なっちのこれから。もう失うものはないんだから、日々精進あるのみってことだべさ。」
「なっちが精進ねぇ・・・似合わねぇー。」
「なにぃー!? 紗耶香のバカァ!」
その夜の星空は、いつもより少しだけ明るかった。
276名無〜〜し:02/05/14 23:25 ID:8giuCqzB

連日の更新お疲れ様です。
個人的には嬉しいのですが、作者さんはお体大丈夫でしょうか。
くれぐれも健康にはお気をつけて下さい。
277たぢから:02/05/15 23:04 ID:kTeXZ7Dn
次の日の朝、二人は深い森を彷徨っていた。
(あれぇ?方位磁針がきかないや。霧も濃いし・・・)
「紗耶香、まさか・・・迷ったりしてないよね?」
「ダイジョブダイジョブ!私にまっかせなさーい!」
思い切りうろたえている市井に、安倍の疑いの眼差しが刺さる。
「ねえ紗耶香、あっちの方が開けている気がするべさぁ。」
「そうそう!そっち行こうと思ってたんだよ!」
(・・・おいおい。)
しかし、安倍もあてずっぽだったその方向は、当たりだった。
「あっ・・・!なっち、こっちだよ!来てごらんよ!」
「紗耶香ぁ、ホントにここ・・・な・・・の・・・・・・!?」
278たぢから:02/05/15 23:04 ID:kTeXZ7Dn
安倍はその景色に言葉を失った。
その森を抜けたところは、なだらかな斜面になっていて、
一面蘭の花で埋め尽くされていた。
「ここは・・・!」
安倍はその景色に言葉を失った。
「なかなか綺麗なとこでしょう?・・・で、もう分かるよね?」
軽く頷くと、安倍は蘭の森へと踏み込んだ。
279たぢから:02/05/15 23:05 ID:kTeXZ7Dn
安倍はただひたすら歩き続けた。何かに引き寄せられるかのように。
やがて、蘭だらけだった地面に、人が作った道が見えてきた。
それだけではない。朽ちた水車小屋や倉など、
明らかに人の住んでいた形跡がある。
そして、安倍は一軒の民家の前に立ち止まった。
「ただいま・・・二年振りかな・・・すっかり忘れていたべ。やっと帰ってこれた。」
そう、この家は安倍の生家であった。
村のシンボルである蘭の花が、安倍の眠れる記憶を呼び覚まし、導いたのだ。
280たぢから:02/05/15 23:06 ID:kTeXZ7Dn
以前安倍が寺田との出会いを話したときにこの村のことを聞いていた市井は、
元気の無い安倍を、里帰りさせてやろうと考えていた。
寺田から村跡の位置を聞き、安倍を連れてきたのだ。
一方の安倍は蘭を見るまで全然気がつかなかった。
一泊二日で自分の家に帰ってこれるとは考えることが出来なかったからだ。
あのころは、五日ほどかかっていた為ではあるが、それだけ脚力が上がったことが証明されている。
281たぢから:02/05/15 23:08 ID:kTeXZ7Dn
家族や友人の供養を済ますと、安倍は里に戻ることにした。
「せっかくの里帰りなんだから、ゆっくりすればいいのに。」
と、市井は滞在をすすめたが、
「大丈夫。村に未練はないと言えば、嘘になるかもしれない。
でも今のなっちには大切な仲間がいるから。ちっとも淋しくないべ。」
と断った。
その後、安倍は一度も振り向くことなく、村を後にしたのだが、
「さよなら・・・私のふるさと・・・」
最後に呟いた一言は、涼風に消えてしまいそうなくらい、掠れていた。
282たぢから:02/05/15 23:11 ID:kTeXZ7Dn
>276さん
書き溜めしてますから、私の体は大丈夫ですよ!

さて、次回からは安倍なつみ再出発編です。
精進あるのみと宣言したなっちは、一体何をするのか!?

(●´ー`●)<「精神と時の部屋」が欲しいべさ。

これからもよろしくお願いします。
283名無し募集中。。。:02/05/16 01:50 ID:p+96awQz
たちがらさんは皆にレスしてくれるのがいい。
こういうファンサービス(?)してくれる作者さんは結構少ないと思うので。
小説の方も、毎日楽しく読ませてもらってます。がんばってください。
284名無し募集中。。。:02/05/16 22:52 ID:z92eVk5O
age
285たぢから:02/05/16 23:13 ID:KzTsqg1V
>283さん
読者様は神様です!・・・少しオーバーでしょうか?
でも読者の皆様からのカキコはうれしいものです。
だからこちらも全ての方にレスしますよ。

>284
書き込みが充分あるので、スレッド圧縮してもこのスレはdat逝きにはなりません。
荒らされる恐れがあるので、不要なageはご遠慮願います。

今日の「いいとも」に市井ちゃん出てましたね。
何か実況スレでは叩かれていましたが・・・
日曜の増刊号でしっかり見ようと思います。

(●´ー`●)<ではなっち再出発編だべさ!
286たぢから:02/05/16 23:15 ID:KzTsqg1V
「臨兵闘者皆陣列在前・・・臨兵闘者皆陣列在前・・・」
里の近くにある洞窟。そこに一心不乱に九字を切る安倍の姿があった。
謹慎期間は残りひと月半。そのひと月半の間に心身の鍛錬を行う為、
自らこの洞窟にこもるようになったのだ。
その修行は過酷だった。まず断食である。水以外は口にしない。
そして、半日座禅を組むと、残り半日は刀と格技のトレーニングを行う。
まさに死と紙一重の、地獄の訓練だった。
だが何度倒れようとも、安倍の眼の炎は消えることは無かった。
「絶対・・・強くなってやる・・・!!」
その意志だけが、彼女の命を保たせていた。
287たぢから:02/05/16 23:16 ID:KzTsqg1V
それでも外野は心配である。
多忙な仲間に代わり、二日に一回は、師範の夏がが様子見に来ていた。
尤も、鬼気迫る安倍の姿に、声をかけることが出来なかったのだが。
288たぢから:02/05/16 23:17 ID:KzTsqg1V
謹慎が解かれる三日前、頭の寺田は初めて安倍のもとを訪れた。
洞窟内に充満する、闘気・覇気・殺気・・・安倍から発せられるあらゆるものに、
入口で足が止まってしまったものの、意を決して中に踏み込んだ。
「臨兵闘者皆陣列在前・・・臨兵闘者皆陣列在前・・・」
「・・・安倍・・・!?」
座禅を組む安倍の姿は、一ヶ月前とは別人だった。
ずっと洞窟にこもっていたため、髪は乱れ衣服も汚れてはいるが、
それ以上に、極端に痩せ・・・いや、やつれていた。
夏の報告以上に、安倍は変わり果てていたのだ。
289たぢから:02/05/16 23:19 ID:KzTsqg1V
「安倍・・・もう十分やろ? いい加減出ようや。」
「・・・あと三日あります。それまでは・・・」
寺田の呼びかけに対し、安倍は簡単に返した。
だが、そんなことで引き下がる寺田ではない。
「アホなこと言うな! そのままでは今すぐにでも死ぬぞ!」
力づくでも洞窟から出そうと、寺田は安倍に手を伸ばした。
だが、安倍はそれを拒否する。しかし、その手は微妙に震えている。
「・・・お願いです・・・私は強くなりたいんです・・・だか・・・ら・・・」
そのまま安倍は崩れた。限界が訪れたのだった。
だが、気を失う寸前まで彼女の眼の炎が燃え盛っていたのを、
寺田は見逃さなかった。
「・・・アレを教えてやるか・・・でもその前にメシ食わせてやらな・・・」
ずいぶん軽くなった安倍を抱えると、寺田は洞窟を後にした。
290たぢから:02/05/16 23:20 ID:KzTsqg1V
「う・・・ん・・・」
ニ時間後、安倍はどこかの布団の上で目覚めた。
「安倍、眼が覚めた?」
その声の主は、安倍のそばに腰掛けていた。
「夏・・・師範・・・」
「一応アンタが寝てる間に、体を洗って、髪も揃えておいたわ。一応女の子だからね。
あと、ここに着替えと食事をを置いておくね。頭が待ってるみたいだから、早めに済ませてね。」
そういうと、夏は部屋から出ていった。
起き上がると、そこには出来立ての食事と、新しい忍び装束が置いてある。
(忍び装束を着て頭の所へ・・・どういうことだべ?)
修行の疲れもあって、頭がよく働かないが、言われたとおりに着替え、
久しぶりに腹を満たした。うまかった。
291たぢから:02/05/16 23:23 ID:KzTsqg1V
「お頭・・・安倍です。」
「・・・入れ。」
安倍が部屋に入ると、寺田は忍び装束を纏っていた。
「ご用件は何でしょう?」
「・・・簡単なことや。お前にとっておきの技教えたる。この木刀を持って外へ出ぇや。」
「は・・・はい・・・」
どうやら稽古を、しかも“とっておきの技”も伝授してくれるようだ。
安倍は言われるがまま木刀を受け取り、外に出た。
292たぢから:02/05/18 01:45 ID:SwxFWjGj
広い草原で、安倍と寺田は向かい合っていた。
真夏であったが、夕方ということもあって涼しい。
「安倍、どっからでもかかって来い。」
だが、安倍は動くことが出来なかった。
朝組のくノ一は、夏から寺田の刀技を学んでいる。
したがって、寺田と組み手をしたことは一度も無い。
すなわち、本家寺田の手の内・技の威力が読めないのである。
むやみに近づくことは出来ないと、安倍は判断したのだ。
293たぢから:02/05/18 01:46 ID:SwxFWjGj
「瞬時に相手の力量を判断し、出方を待つとは・・・悪くはない考えやな。
だが、オレはお前の想像以上に強いで!」
次の瞬間、安倍の体を一度に九つの斬撃が襲った。
「うっ・・・!」
安倍は動けなかった。いや、下手に回避すればそれこそ刀の餌食にあったであろう。
寺田は手を抜き、忍び装束を斬るにとどまったが、まさに回避不能の技だ。
「唐竹・袈裟斬り・左薙・左切上・逆風・右切上・右薙・逆袈裟・刺突・・・
九つの斬撃を同時に繰り出す、これが乱撃“風乱刃”の極みの型“風乱刃・九極殺”だ。
だが、お前に教える技はこれでは・・・ない。」
「えっ・・・!?」
大技に驚愕していた安倍は、さらに驚いた。一体何を伝授してくれるというのか?
294たぢから:02/05/18 01:48 ID:SwxFWjGj
「“風乱刃・九極殺”は、お前なら一度見ただけで出来るやろ。
せやけど、お前が九極殺を放ったところで、オレには少しも敵わない。
物理の話になるけど、突進術である九極殺は技を繰り出す者の体重や速さが鍵となる。
立派な体格とは縁遠いお前では、風乱刃に毛が生えた程度にしかならん。
・・・が、今のお前でもこの技を破ることができる奥義中の奥義があるんや。」
「奥義中の・・・奥義・・・!?」
「そや。いまお前が体験したように、九極殺は回避不能の高速剣術や。
ここで問題や。このような回避不能の技を破るには、どうすればええか?」
安倍は考えた。一撃一撃の威力があり、突進による速さも兼ね備えた九極殺は、
防御も回避も出来ない・・・ならそれより速く斬り込むしか、勝ち目はない。
“攻撃は最大の防御”と聞いたこともある。
安倍は、居合いの構えを取った。
295たぢから:02/05/18 01:49 ID:SwxFWjGj
(・・・九極殺より速く斬り込むには、疾風閃しかない!)
(疾風閃か・・・あいつの十八番やったな。ほな、見せてもらおうか。)
寺田は中段の構えをした。勿論九極殺を放つつもりだ。
「・・・来い。」
「はあああああああっ!!」
安倍は一気に加速し、木刀に手をかけた。
「疾風閃!!!」

次の瞬間・・・安倍のからだが宙を舞った。
296たぢから:02/05/18 01:50 ID:SwxFWjGj
「うあっ!!」
安倍は受身を取ることもままならず、地面に叩きつけられた。
「・・・そんな・・・疾風閃が・・・」
「残念やけどな、疾風閃では九つの斬撃の威力を弱めることすら出来へん。まだまだ速さが足りないんや。」
寺田の言葉に、安倍は衝撃を受けた。
自分の持てる速さ全開で挑んだのに、それでも遅いと言うのだ。
(じゃあ・・・どうすれば・・・)
「そこで登場するのが、奥義“疾風雷光閃”や。」
「疾風・・・雷光閃!?」
その技の名前は安倍は初耳だったが、それと思しき技には心当たりがあった。
それは二年前、安倍と寺田の出会いまで遡る。
297応援してまっせ!:02/05/18 02:24 ID:pEAJkzsY

いやあ…。
この場面は『るろ剣』のあのシーンですね。
思わず懐かしいって唸ってしまいました。
298名無し募集中。。。:02/05/18 02:34 ID:5EAGp8LQ
ついに天翔○閃クル━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!??
299たぢから:02/05/18 23:32 ID:h4A/TpTi
PJで市井inCCを見ました。
市井ちゃんには頑張って欲しいですな。
この小説では思う存分活躍させます。準主役なので。

>297さん、298さん
バレバレですね。・・・てか剣術は「るろ剣」をモロにパクってますからね。
バレないほうがどうかしてますね。

ではこの小説初期でもチラっと紹介したカッコイイつんくをどうぞ!
300たぢから:02/05/18 23:33 ID:h4A/TpTi
平和だった安倍の村が戦によって滅ぼされ、たまたま生き残った安倍も、
村を漁っていた野盗達に囚われてしまった。
「ヘヘヘ・・・なかなかの上物じゃねぇか。」
「人買いに売れば、いい金になるぜ。」
「バカ言え!こんな美味しそうな女をみすみす手放す気か?」
「それもそうだな。じゃオレが一番な!」
「何言ってんだよ!オレが先だ!」
そんな野盗の下劣な会話は、安倍の耳には入っていなかった。
村の惨状をみた彼女には、生きる気力など微塵も残されていなかったのだ。
もう、どうなってもいい。そんな悲観的な考えだけが、頭の中を占めていた。

やがて、野盗達の間で意見がまとまり、リーダー格の男が安倍に手をかけようとした。その時・・・
301たぢから:02/05/18 23:35 ID:h4A/TpTi
ザシャッ!!

わざとらしく瓦礫を踏む音が、辺りに響いた。
不審に思った野盗達が振り向くと、そこには黒ずくめの男が立っていた。
「何だ貴様?」
「オレ達のお楽しみの邪魔に来たのか?」
しかし男は何も答えない。
「ケッ!目障りな野郎だ。お前ら、やってしまえ!!」
リーダー格の男の指示で、野盗達は一斉に飛び掛った。
彼らは格闘術に長けており、瞬時で男の懐を取り、拳を背繰り出そうとした。だが次の瞬間・・・!
302たぢから:02/05/18 23:38 ID:h4A/TpTi
「外道が・・・失せろや!」

野盗達の拳が男の顔を捉えると同時に、いやそれより数瞬早く、男は右腕を横に一振りした。
その瞬間、野盗達の身体を緑色の閃光が横切った。
なんと、この閃光により、野盗達の胴は真っ二つに切断されたのである。
「なっ・・・!?」
「何が起きたんだ!?」
「ヤツは一体・・・何を・・・!?」
突然の攻撃に野盗達は驚き、ある者は横振りされた男の右腕を見た。
だが、男の腕はいつも通りの、普通の状態であった。一体彼は、何をしたのであろうか・・・?
真っ二つにされた野盗達の身体は、先程のダッシュの慣性で、そのまま飛ばされた。
そして上半身と下半身のそれぞれが、地面に勢い良く着地した。
もはや生きてはいまい。
303たぢから:02/05/18 23:39 ID:h4A/TpTi
「なんて残忍な・・・」
これには残された野盗のリーダーも驚いた。
だが、次の言葉を発する前に、彼もまた緑の閃光によって首を刎ねられた。
まさしく一瞬の出来事だった。
目の前で、人が簡単に殺されたのを見た安倍は、震えていた。
だが彼女は恐怖を感じてはいなかった。何かへの興奮から来る震えだったのだ。
「待って・・・待って下さい!」
そのまま男は立ち去ろうとしたが、安倍は引き止めた。
「お願いです!私を連れて行って下さい! 力が・・・力が欲しい!!」
男は少し戸惑ったようだが、安倍としばらく目を合わせた後、静かに頷いた。
304たぢから:02/05/18 23:44 ID:h4A/TpTi
安倍は家族や村の人の墓を作ると、男について村を去った。
森の中で、男はようやく口を開いた。
「お前・・・名前は何と言うんや?」
「なつみ・・・安倍なつみです。貴方は・・・?」
「つんく・・・という忍び名はとうに捨てたな。今は寺田光男や。」
「これから、何処へ行くんですか?」
「オレの作った忍びの里や。そこでこの戦国の世を生き抜くための力と知恵を与えてやるわ。ついてこれるな?」
「はいっ!頑張ります!!」
305たぢから:02/05/18 23:44 ID:h4A/TpTi
「・・・あの時のあの技が、疾風雷光閃ですか?」
「そうや。あれこそがオレの奥義や。技の正体は大体分かるやろ?」
「はい・・・でも・・・」
そこで安倍は視線を落とした。
技の原理は理解している。一口で言えば神速の抜刀術。さらに寺田は納刀までもやっていた。
疾風閃の極み・・・まさに究極の“居合い抜き”である。
しかし今の安倍には、疾風閃から先が無かった。
どうすれば神速の域まで高めることが出来るのか、見当がつかなかった。
「ふむ・・・あと一歩の壁が越えられないんか・・・じゃあ、奥義は会得出来んな。」
そう言うと、寺田は踵を返した。
「残念やけど、これ以上は自分の力で見つけ出せ。オレの稽古はこれで終わりや。」
306たぢから:02/05/19 23:16 ID:XvKDT0wD
その夜、安倍は例の洞窟の前に立っていた。
右手には、木刀を持っている。
「一ヵ月半の修行は・・・無駄だったのかな・・・」
「さあね。」
「えっ!?」
後ろを振り向くと、市井が立っていた。
「久しぶりね、なっち。結構痩せたね〜。」
「・・・まあね。」
久しぶりの仲間との再会に、思わず笑みがこぼれる。
307たぢから:02/05/19 23:17 ID:XvKDT0wD
「よっぽど思いつめているようだけど・・・何かあったの?」
「するどいね紗耶香は。実は・・・」
安倍は寺田との稽古、そして疾風雷光閃のことを話した。
「なるほどね。で、行き詰っていると言うのね。」
「うん・・・」
安倍の落ち込み様から、余程の難題であると感じた市井は、
「じゃあさ、組み手しよっか。」
と、持ってきた木刀を安倍に向けた。
「え・・・でも・・・」
「ただ悩んでいるより、実戦で技のイメージを具体化しなきゃ駄目だって!」
「・・・分かったよ。」
市井の説得に、安倍はあっさり折れた。藁にもすがる思いもあったのだろう。
308たぢから:02/05/19 23:18 ID:XvKDT0wD
しかし、市井と組み手をしても、進展は無かった。
すぐに互いの木刀が粉々になってしまうのも大きな理由であったが、
市井には寺田ほどの圧倒的な力は無く、九極殺の練習台が精一杯であった。
「やっぱ市井じゃ駄目か・・・なっち、ごめんね。」
「紗耶香が謝ることは無いよ。なっちが・・・駄目なんだ・・・」
安倍はそのまま家に帰り、疲れもあって二日間寝込んだ。
309たぢから:02/05/19 23:19 ID:XvKDT0wD
謹慎期間が終わる日になった。
安倍は昼に眼が覚め、適当に食事を取り、忍び装束に着替えると表に出た。
(ようやく任務につけるかな・・・)
と、背伸びをしていたその時、

ドォォォォォォォォン!!

「なっ・・・なんだべ!?」
近くの山中で、爆発があったようだ。
310たぢから:02/05/19 23:20 ID:XvKDT0wD
「なっち!!」
「あ、紗耶香。今の何だろうね?」
「なっちも来て! 後藤が危ないかも!!」
呑気な安倍に対し、市井は何やら焦っている。
「後藤が・・・?」
「説明は後よ。とにかく来て!!」
「わ、わかったべさ。」
安倍は武器を取ると、市井の後を追いかけていった。
311  :02/05/20 02:21 ID:mYIycMeZ

おお、急展開!
作者さんのストーリーにはいつもいい意味で
ハラハラさせられます。
これからも頑張って下さい。
312たぢから:02/05/20 23:02 ID:AZKI5Kdv
>311さん
どうもです。
あと二週間ほどで、ひとまず区切りをつける予定です。
その間にどれだけハラハラさせられるでしょうか?

それでは本日のアップです。
サブタイトル「後藤狩り」いきます。
313たぢから:02/05/20 23:04 ID:AZKI5Kdv
その日の後藤の任務は、密書の配達であった。
それ自体は大したことではなかったのだが、その帰りに事件はおこった。
里近くの峠にさしかかったところ、突然後方から飛んできた鎖が、後藤を拘束した。
「動かないで貰えるかな?」
声の主は、四ヶ月前に安倍を倒した小室忍軍の鈴木あみだった。
314たぢから:02/05/20 23:05 ID:AZKI5Kdv
突然の出来事に、多少驚いた様子ではあったが、自慢の怪力で鎖を破ると、
後藤はあみと向き合った。
「噂どおりの馬鹿力ね。」
「それは、どうも。」
「安倍なつみ亡き今、“捨乱救”朝組一の使い手、後藤真希!この場で殺すわ。」
(いや、なっちは死んではいないんだけど・・・)
そう思いつつも、後藤は戦わずして逃げることは不可能と判断した。
双方刀を構え、戦闘体勢に入った。
315たぢから:02/05/20 23:06 ID:AZKI5Kdv
二人は同時に猛突進して、互いに己の刀を相手の首に翳した。
怪力同士の刀の衝突は、激しい振動を生じさせた。
「ぐっ・・・!!」
後藤の想像以上の力により、あみの腕に振動が走った。
「すごいわね。安倍以上よ。」
「それは、どうも。」

普段は何か頼りなさそうな後藤ではあるが、戦いにおいてはクールである。
しかし、あみはそのまま連続で後藤に斬りかかって来た。
あみの剣裁きは相当の速さで、安倍もこれに相当翻弄された。
だが後藤は、それすらも自然体で総て受け止めていた。
まさに互角の勝負である。
316たぢから:02/05/20 23:07 ID:AZKI5Kdv
だが、十分もしないうちに後藤は異変に気づいた。
(何だ・・・ この鈴木あみというくノ一・・・ 戦うにつれてどんどん強くなっている様な・・・)
だが、それは確信に変わりつつあった。
熾烈な戦闘が更に続くと、後藤が押されているのが深刻になっていく。
(間違いない。パワー、技のキレ、スピードが増している!)
317たぢから:02/05/20 23:08 ID:AZKI5Kdv
後に知られるようになるのだが、これが小室忍軍の忍びが得意とする、
“修忍の法”と呼ばれる術の正体である。
簡単に言えば、敵の技術をコピーし、自分の力に付加する術だ。
技真似くらいなら誰でも出来るが、小室忍軍の忍びは特別であった。
秘伝のトレーニングで、この能力向上に耐え得る強靭な肉体を造っている。
それ故、能力の上限がないのだ。さらに、あみはこの術を昇華させている。
相手の技を瞬時に見抜きそれを封じる最良の技を編み出せるのだ。
安倍の墜円斬が初見で封じられたのも、この能力によるものなのだ。
318たぢから:02/05/20 23:09 ID:AZKI5Kdv
「どうしたの?あんたの実力はそんなもの?大したことないわね。」
あみは防御で精一杯になりつつある後藤を嘲笑った。
そんなあみの言葉に後藤は壮絶なる怒りを覚えた。
(このアマァ!ちょっと押してるからって頭に乗るんじゃねえ!!)
後藤はムキになってあみに斬りかかったが、あみは総て受け止めつつ確実に攻撃を当てていった。
319たぢから:02/05/20 23:11 ID:AZKI5Kdv
(ヤバイ!このままじゃ、いつかは殺られる。でも策がない・・・!)
もはや後藤には余裕が無かった。
そしてあみがその隙を逃すはずは無かった。
「もらったぁ!」
「くっ・・・!」
強烈な突きが後藤の喉元を襲う。
辛うじて攻撃は防いだものの、後藤の刀は飛ばされ、森の中へ消えていった。
320たぢから:02/05/21 23:07 ID:SrSo+aNI
「勝負・・・あったわね。その首貰ったぁ!!!」
動けない後藤の頭上に、あみの刀が振り下ろされる。
(負けてたまるかっ!)
あみの目の前から後藤の姿が消えた。
そして次の瞬間にはあみの懐を後藤が取っていた。
後藤はありったけの力をあみの腹部にぶち込もうとした。
321たぢから:02/05/21 23:08 ID:SrSo+aNI
だがそれをあみは見極めて躱しつつ、後藤の腹部を蹴り上げた。
「ぐあっ!」
その勢いで後藤は山道の斜面を転がり落ちる。
「くそっ・・・!」
何とか体勢を立て直そうと後藤は四肢に力を入れて踏み込んだ。
しかし次の瞬間にはあみが後藤の後ろに回り込み、刀を高らかに上げていた。
今度こそ、後藤の脳天を斬るつもりだ。
322たぢから:02/05/21 23:09 ID:SrSo+aNI
背後のあみに気付いた後藤は、あらかじめ隠し持っていた炸裂弾を、
この不安定な体勢にも関わらずあみに向けて素早く投げ飛ばした。
この炸裂弾は、寺田が護身用として後藤に与えた最終兵器だ。
火種が無くても、着火用の栓を抜けば数秒足らずで爆発する。
言わば手榴弾である。
予想外の爆発の速さにあみは避ける事が出来ず、
炸裂弾の紅い閃光に飲み込まれ、その威力で丘の斜面を転がり落ちる羽目になった
323たぢから:02/05/21 23:12 ID:SrSo+aNI
(・・・これでは無事じゃないだろう。・・・!?)
次の瞬間、後藤は自分の身に起きたことがすぐには理解できなかった。
右脇腹を、後ろから刀で貫かれていたのだ。
「さすがね。でもそのくらいのことはお見通しよ。」
「・・・か、変わり身の術か・・・」
そう、後藤が炸裂弾を所持していることも知っていたあみは、
変わり身の術で回避したのである。

“彼を知り、己を知れば、百戦危うからず”
いつの時代も情報の有無が戦況を左右する。
その点で小室忍軍は、確実に捨乱救を凌駕していた。
そして今、後藤の敗北が決定的となった。
324たぢから:02/05/21 23:12 ID:SrSo+aNI
静寂・・・ 後藤は動かなかった。
手応えを確認したあみは、刀を後藤から抜いた。
あみが剣を抜くと、後藤はその場に倒れ伏した。
後藤の腹部から下半身にかけては血だらけで紅く染まっている。
刀を握ったあみの右手まで紅く染まる程だ。
無事でいられる筈は・・・無い。
「いいザマね。そのうち出血多量で死ぬわ。それまでじっくり苦しむといいわ。」
勝利を確信し、あみは動けぬ後藤を嘲笑した。
325たぢから:02/05/23 23:01 ID:+rs9YnwO
「あーっはっはっはっ!!」
勝利に陶酔し、大声で笑い続けるあみ。
彼女に、背後から迫ってくる気配など気付く余地も無かったであろう。
尤も、背後からの刺客もあみに気付かれぬ様に気配を限界まで消してはいたが…
「・・・!?」
自分自身の直ぐ後ろから殺気が急激に沸き上がってくる事をあみは感じ取った。
…だが、彼女が後ろを振り返った時には既に彼の胴体は何者かの腕によって締め付けられていた。
そして次の瞬間、あみは急激な上昇によるGの変化を体感した。
326たぢから:02/05/23 23:02 ID:+rs9YnwO
「・・・!!」
激しい轟音と共にあみの頭部は地面に減り込み、あみ自身は口から唾液を垂らして気絶していた。
安倍を、後藤を完膚なきまで叩きのめしたあみが、何者かによって気絶させられたのである。
気絶させた張本人は・・・黒のマントを羽織り、黒の忍び装束をまとった少女だった。
ジャーマンスープレックスであみを気絶させた為、その身体は上に反り上がっている。
暫くして黒尽くめの刺客が起き上がる。
あみの身体は力無く刺客とは反対の方向に倒れ、うつ伏せの状態になった。
327たぢから:02/05/23 23:03 ID:+rs9YnwO
後藤・・・
後藤・・・
「後藤っ!」
「う・・・」
漸く後藤は反応を示した。
この重体の身体からもはや手後れと思われたが、何とか呼び掛けに答える事が出来た。
呼び掛けの声の主は、市井紗耶香であった。
「・・・市井ちゃん!? ・・・どうしてここに?」
「炸裂弾の爆音が聞こえたからね。それより傷を見せて。手当てするから。」
「駄目だよ・・・鈴木あみが・・・」
後藤は立ち上がって市井を制しようとしたが、今の彼女には無理だった。
「大丈夫よ後藤。あみなら・・・」
市井と後藤の視線の先には、倒れたあみと、黒ずくめの刺客がいた。
328たぢから:02/05/23 23:06 ID:+rs9YnwO
「ぐ・・・ 何なんだ今のは・・・」
あみは重い身体を何とか起こし、立ち上がった。
だが、先程首に掛かった負荷が余りにも大きく、未だ鈍痛が彼女の頭部を廻っている。
それでも首を折っていなかったのは、強靭な肉体のお陰といったところか。
…と、彼女の目の前には後藤の代わりに、黒尽くめの刺客が立っている。
「さっきの不意打ちはお前か・・・何者だ?」
「何者だって?・・・この顔、忘れたとは言わせないべ!」
すると黒ずくめはマントを取り払った。
「!? ・・・お前は・・・安倍!」
そう、例の刺客の正体は安倍なつみだった。
「鈴木あみ!今度こそお前を倒すべさ!」
329たぢから:02/05/23 23:12 ID:+rs9YnwO
矢口のANNSを聞きながらのアップです。
一日空きましたが、書き溜めと修正をやってました。
第一部(のつもり)終了まであと二週間!
・・・もしかしたらもっと伸びるかもしれないです。

(●´ー`●)<今度こそ鈴木あみに勝つべさ!
330ファンやで!!:02/05/24 02:15 ID:sWNSBO8c

そうだったのですか…。
ちょっと心配しておりました。
これからもよろしくお願い致します。
331まり大好き:02/05/24 02:21 ID:qGul7v9m
いつも楽しく読ませてもらってます。
こうゆう小説大好きです。
これからも頑張ってください。
332名無し募集中。。。:02/05/24 09:55 ID:7uPznEdZ
なっちジャーマン(・∀・)イイ!!
333  :02/05/25 00:24 ID:Ue5nFHQK

作者さん、また書き溜めと修正ですか?
いや、文句は言いませんし、言える立場でもないですよね。
是非、自分でも納得した完成度の高い作品を私たちに読ませて下さい。
334たぢから:02/05/25 01:35 ID:m5eEO2+t
>各読者の皆様
申し訳ありません。
先ほどまで深夜のドライブを堪能してきました。
今からアップしまぁす!!
335たぢから:02/05/25 01:35 ID:m5eEO2+t
「お前、生きていたのか。しぶといわね。」
「それが玉にキズだべさ。」
「まあいいわ。見たところ、私に負けたショックでやつれたようじゃない。」
今更言うまでもないが、あみの指摘どおり、安倍の体は以前より痩せたというよりやつれている。
「・・・市井ちゃん、なっちでも無理だよ。あいつは・・・」
「後藤、黙ってて。そしてなっちの戦いを見ていなさい。」
336たぢから:02/05/25 01:36 ID:m5eEO2+t
先ほどあみと戦った後藤は、安倍が敵うとは微塵も感じられなかった。
一度あみに負けているし、その戦いのダメージが癒えてるとは言い難い。
さらに言えば、あみには“修忍の法”がある。
「それでもお前に勝つ!一度は壊れたなっちを救ってくれた仲間の為に!
そして、誰にも譲らないよ。朝組一は・・・この安倍なつみだべさ!!」
その気迫に、あみはおろか、後藤も少し怯んだ。
ただ市井だけは、黙々と後藤の止血処置をしている。
337たぢから:02/05/25 01:37 ID:m5eEO2+t
「戯言ね。そこまで死にたいなら、たっぷりと料理してあげるわ!」
「なっちは一度死んだべ! できるものならやってみろ!」
その次の瞬間、あみの頬に安倍の右拳が減り込んでいた。
しかもその重さは凄まじい様で、あみは軽く林の中へと吹き飛ばされた。
「ぐっ・・・! 迂闊だったわ・・・」
だがあみが無駄口を叩く暇も無く、安倍は信じられない程の激しい攻撃を繰り返した。
その攻撃を避けようとあみは必死になるが、何故かそのスピードに全くついていけない。
先程の後藤との闘いでは無傷だったあみの体に、ダメージが刻まれてゆく。
338たぢから:02/05/25 01:38 ID:m5eEO2+t
数分後、安倍は依然押していた。さすがのあみも、防御がやっとだ。
「右腕一本、貰うべさぁ!!」
安倍の渾身の拳が、あみの利き腕を襲う。
だが、その拳はあみの右手によって阻まれた。
「何だべ!?」
「漸く・・・見切れてきたわ。」
そう、“修忍の法”により、あみの戦闘能力が安倍に追いついたのである。
これには安倍も焦りの色を隠しきれない。
339たぢから:02/05/25 01:39 ID:m5eEO2+t
「地面に頭をこすりつけな!!」
そう言うと、あみは包み込んだ安倍の左拳を軸にして、安倍の体を回転させて地面に叩きつけた。
「市井ちゃん! やっぱ無理だよ。アイツは戦うにつれて強くなるんだっ!」
後藤は堪らず、安倍を助けに行こうとする。しかし腹部の傷が痛み、立ち上がれない。。
「まさか・・・傍から見ていてそうかとは思っていたけど・・・」
市井も驚きの色を隠しきれない。
「なっち!!」
「くっ・・・」
市井と後藤の呼びかけに、安倍は立ち上がる。
だが、先ほどの一撃が強烈で、立っているのが精一杯だ。
340たぢから:02/05/25 01:46 ID:m5eEO2+t
「フッ・・・仲間の声援に応える・・・か。そこまで仲間が大事なら、私が壊してあげる。」
「なっ・・・!?」
突如安倍は動けなくなった。
「なっちに何をしたっ!?」
安倍の異変を感じた後藤が叫んだ。
「金縛りだよ。眼力で威嚇して、安倍の全神経を麻痺させたわ。」
「なんだって!?」
「安倍、お前は大事な仲間が嬲り殺されるのをのんびり眺めているがいい!!」
あみは市井と後藤のほうを向いた。
「後藤は既に倒したも同然、市井はこの二人には及ばない雑魚・・・どう料理しようかしら?」
あみは獲物を前に、獅子・・・いやそれを超越した野獣の目をしている。
341たぢから:02/05/25 01:50 ID:m5eEO2+t
以上が5/24深夜〜5/25アップ分です。
あ゛〜眠い・・・

(●´ー`●)<それより、なっちピンチだべさ・・・

せっかく強そうな登場をしたのに、安倍はあみにまた敗れるのか!?
(↑俗に言う“ピッコロさん現象”)

そして市井と後藤の運命やいかに!?

それではおやすみなさい。
342名無し募集中。。。:02/05/25 02:45 ID:aBzfyGc0
深夜にお疲れ様。しかし ああ、続きが気になるなぁ・・・
343ファンやで!:02/05/25 10:02 ID:83bRM0DI

ヤンジャン恐るべし…。
ココまで強かったら神ですな!

今後、ヤンジャンを凌駕する猛者は登場するのでしょうか?
作者さん、期待しておりまっせ!
344たぢから:02/05/25 23:00 ID:vPrgbY6I
「市井を雑魚扱い・・・ね。半分当たっているだけにムカツクね。」
市井はゆっくりと立ち上がり、あみと向き合った。
(あれ? 市井ちゃんの武器が・・・)
どさくさに紛れて気付かなかったが、市井の帯には二本の鞘が差してある。
これはどういうことなのだろうか?
「でも・・・あくまで半分よ。市井にはなっちや後藤のように才能はないけど、それが全てじゃない!」
「フン。じゃあその残り半分とやらを見せてもらおうじゃない。」
あみは依然余裕だ。市井の言葉など、はったり同然と受け止めている。
「・・・後悔させてやる。市井の力全てを・・・お前にぶつけてやるよ!」
そう言うと、市井は二本の刀を抜いた。
345たぢから:02/05/25 23:01 ID:vPrgbY6I
二本の刀は短い。小太刀だ。
「まさか・・・小太刀二刀流!?」
寺田剣術には無い剣術に、安倍も後藤も驚いた。
「本当は秘密兵器だったんだけどね。でも二人を守る為に、あえて封印を解くよ!」
「確かに、小太刀なんて小室忍軍の情報にも無かったわね。尤も、アンタなんか軽視されてただけかもね。」
完全に市井を見下しているあみ。
もはや向かう所敵無しの状態である彼女にとっては、今更誰が何を持ってこようが関係ないのだ。
「まあいいわ。その小太刀ごと、お前を打ち砕いてやる!!」
あみは刀を抜いた。
346たぢから:02/05/25 23:02 ID:vPrgbY6I
「市井死ねぇ!!」
あみは一気に間合いを詰め、以前安倍と戦ったときに覚えた疾風閃を放った。
市井は片方の小太刀だけで受け止める。
さすがにあみの重量のほうが大きく、若干押されたが。
「甘い! 寺田剣術の太刀筋は全て知ってるわ。そんな真似事ごときで市井は倒せないよ!!」
「何っ!?」
「くらえ双烈斬!!」
「ぐあっ!」
市井は、二本の小太刀をあみの両肩に叩きつけた。
おそらく鎖骨くらいは破壊されたであろう。
「双円斬!」
あみに隙が出来たところで、間髪入れず回転剣舞技に入り、連続してダメージを与える。
市井の予想外の高速攻撃に、さすがのあみも為す術がない。
市井の渾身の技が、あみの体に次々と刻み込まれてゆく。
347たぢから:02/05/25 23:04 ID:vPrgbY6I
「ぐはっ・・・! こ・・・このぉぉぉぉぉ!!」
なんとか負けじと強引に市井に攻撃を掛けるあみ。
しかしそんなあみの攻撃ですら、市井は軽く受け流して小太刀を叩きつける。
ただ、この戦闘能力の上昇は修行だけで得られたものではない。
それ以上に、市井は限界以上の力を発揮していた。
その戦闘能力は彼女の身体に大きな負担をかけていた。
長時間全開で戦い続ければ、当然彼女の身体には絶大な負荷が掛かり、最後には崩壊する。
だが市井はそのことは承知の上で、あえて限界に挑んでいた。
そうでなければ、鈴木あみには勝てないと判断したからである。
348たぢから:02/05/25 23:05 ID:vPrgbY6I
市井が念頭に置いていたのは、言うまでもなく“修忍の法”によるあみのパワーアップだ。
“修忍の法”の名はともかく、その内容は安倍の戦いを通して理解している。
いくら自分が強くなっても、早めに片付けなければ、立場は逆転する。
自分の強さがあみのパワーアップにつながる・・・“諸刃の剣”の戦い方なのだ。
それでも市井は全身全霊の攻撃をあみにしかけた。
あみが自分の戦闘能力を上回る前に倒さなければならない。
349たぢから:02/05/25 23:09 ID:vPrgbY6I
以上が本日アップ分です。
何と市井ちゃんが小太刀二刀流で鬼神あみを圧倒しております!
いつの間に会得したかは後日談で明らかになりますが、果たしてこのままあみを倒せるのか!?
乞うご期待!!

ヽ^∀^ノ<♪じんせ〜いがぁ〜はぁじまあってるぅ〜
350たぢから:02/05/25 23:11 ID:vPrgbY6I
↑顔文字ソング間違ってますな・・・

ヽ^∀^ノ<♪じ〜んせぇ〜いがぁ〜もぅ〜はぁじぃまあってるぅ〜
351たぢから:02/05/26 23:00 ID:LfI2tA6w
「・・・!?」
一瞬、市井の中で時間が止まった・・・
あみが彼女の小太刀を素手で見事に受け止めたのである。
「フフフ・・・待たせたわね。」
もはやあみは瀕死の重傷を負っていた。
先程の市井の猛攻撃でさすがの強化肉体も傷だらけで、血が滴り落ちている。
・・・だがあみの眼は死んでいない。獅子の如き鋭さは衰えを知らない。
「・・・別に待ってたわけじゃないけど。」
構わず市井は廻し蹴りをあみに叩き込んだ。勢い余ってあみは大木に叩きつけられる。
市井はは尚もその勢いを止めずにあみに攻撃を繰り出した。
352たぢから:02/05/26 23:01 ID:LfI2tA6w
・・・が、あみは徐々に市井の猛攻撃を見切る様になってきた。
未だ完全ではないものの、小太刀の刃があみの肉体に通用しなくなってきた。
(・・・思ったより早く追いついている!)
市井は尚も攻撃の手を休めない。だがあみは信じ難い速度で彼女の攻撃に順応していった。
そして…
あみの拳が、遂に市井の身体にぶち込まれた。
「ぐはっ・・・!」
そのブロウの重さに、市井は初めて体勢を崩してしまった。
(・・・恐るべし成長能力。あんな状態でこれ程の力を出すなんて・・・)
隙を見たあみは市井に反撃の狼煙を上げた。
353たぢから:02/05/26 23:03 ID:LfI2tA6w
先程まで手も足も出せなかったあみが、今市井と互角に戦い、そして徐々に押してきている。
彼女の身体にも傷が刻まれていく。加えて過負荷の影響で彼女の身体は自由が効かなくなってきた。
「・・・どうしたの? 勢いが無くなってきたみたいだけど・・・やはり無茶をしていたのかしら?」
余裕が出てきたあみは、邪悪な笑みを浮かべてそう呟いた。
「・・・黙れ。お前はこの命に代えても、必ず・・・!!」
市井も負けじと攻撃を繰り出す。だが彼女の戦闘能力はもはや下降の一途を辿っていた。

ついに、二本の小太刀は手から離れ、膝は地面につき、そして市井は倒れた・・・
「この私にここまでの傷を負わせた褒美だ。お前は仲間の目の前で最高の生け贄として纏ってやるよ!」
354たぢから:02/05/26 23:04 ID:LfI2tA6w
「市井ちゃん!」
「さや・・・か・・・」
腹部の重傷で動けない後藤と、金縛りで動けない安倍の目の前で、
市井はあみに処刑されようとしていた。
あみは動かなくなった市井の首を左手で掴み、顔が二人と向き合うように高々と持ち上げた。
その市井は、両腕両足を力なく垂らし、顔は激しい苦痛に歪んで、口から血を流している。
「安倍・・・よく見ておけ。これが仲間という足枷にとらわれた弱者と、
孤高の強さを求めた者の、完全な、そして圧倒的な力の差だ!
お前は誰一人守れないし、そして誰もお前を守ることはできない!!」
あみの勝利宣言だった。
355たぢから:02/05/26 23:04 ID:LfI2tA6w
(違う!・・・そんなことは決して・・・)
だが安倍の体は動かなかった。
(動け! 紗耶香が殺される!!)
歯を食いしばる。拳を握り締める。
(まだなっちは戦えるはず・・・いや、戦わなければ・・・!)
体の震えが止まらない。

「じゃあね、市井・・・」
そしてあみは刀を振り下ろした。
「うああああああああっ!!」
356ファンやで!:02/05/27 01:45 ID:m7rwVGOD

ヤンジャン最強…!
357たぢから:02/05/27 23:12 ID:eFaQi6mo
壱・弐・参・肆・伍・陸・漆・捌・玖!!!

「ぐあっ!!」
唐竹・袈裟斬り・左薙・左切上・逆風・右切上・右薙・逆袈裟・刺突・・・
突如九つの斬撃が、同時にあみを貫いた。
言うまでもなく“風乱刃・九極殺”で、放ったのは他ならぬ安倍だ。
「安倍・・・お前何故!?」
「知るか! だけど・・・仲間をむざむざと殺させてたまるかぁ!!」
安倍は間合いを詰めあみを蹴り飛ばした。そしてそのまま疾風閃を叩き込んだ!
「がはっ!」
あみは為す術無く、吹っ飛ばされた。
だが、そんな絶好の機会を安倍が逃すはずは無い。
さらに、あみの腹部に旋風刃を連続で叩き込んだ。
358たぢから:02/05/27 23:13 ID:eFaQi6mo
「くそぉ・・・『仲間への思い』ってヤツか? 冗談じゃないねっ!!」
安倍の連続攻撃からあみは強引に上空へ脱出した。だが・・・
「逃すかぁっ!!」
すぐさま安倍も飛び上がり、瞬時にあみの後ろを取った。
「墜円斬!!」
空中で高速の縦回転を始め、あみの背中を連続的に斬りつける。
「うおおおおおおおおお!!」
対するあみは、空中で旋回、強烈な回し蹴りを安倍に喰らわせた。
墜円斬の体勢では真横からの攻撃に弱く、安倍は地面に落下した。
359たぢから:02/05/27 23:15 ID:eFaQi6mo
「くっ・・・!」
安倍は傷を負った腹部を左手で庇う。
一方あみは、空中で刀を下方に構えた。
「調子に乗るなよっ!」
「降墜撃? ・・・違うっ!」
あみは、降墜撃の構えに高速回転を加えて急降下してきた。

「うあっ!」
あみの高速攻撃をかわしきれず、安倍は左腕を負傷した。
それと同時に、回転により30メートル程撥ね飛ばれた。
「今のは結構きいたべ・・・」
刀を杖代わりにして立ち上がる安倍。
「でも・・・まだまだそんなんじゃなっちを殺せないよ!」
安倍は見るからに満身創痍のはずだ。だが闘志は衰えてはいない。
「いい根性してるわね。」
「言ったはずだべ。仲間の為に、負けられないって!」
360たぢから:02/05/27 23:16 ID:eFaQi6mo
「何が仲間だ! 群れなければ何も出来ない軟弱集団がっ!!」
「軟弱集団で結構だべ! 一人ぼっちのお前には、仲間のすばらしさなんて分からないべさ!!」
安倍は懐を一瞬で取り、あみの顔を殴り飛ばした。
「くっ・・・黙れっ!!」
口から血を流しながら、あみは安倍の顔面を同じ様に殴り付けた。
「見せてやる!仲間などにとらわれない孤高の強さを!!」
「こっちこそ見せてやるよ!仲間に支えられた強さを!!」
安倍とあみは熾烈な殴り合いを始めた。
もはや普通の人間にはその動きを捉える事が出来ない位の早さであった。
361たぢから:02/05/27 23:20 ID:eFaQi6mo
安倍とあみは全力・・・いやそれ以上の力で戦い続けた。
「らああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
互いに相手の瞳を睨み付ける二人。
その形相は、今までに見せた事の無い位激しく勝つ熾烈なもの・・・
漲る殺気と相成って、それは正しく“鬼”に限りなく近いものだった。
362たぢから:02/05/28 23:05 ID:RcftnBfp
安倍もあみも、一歩も退かなかった。
互いにその拳を相手にぶつけ、相手を破壊する事だけに集中していた。
究極の学習能力“修忍の法”をもつあみは、当然の事ながら自らの戦闘能力を飛躍的に上昇させていた。
・・・だが、安倍も負けてはいなかった。
拳法を駆使してあみを攻撃する彼女もまた、まるで追従するかの様に強くなっていった。
勿論“修忍の法”など体得した覚えは無いし、そこまで体に自信は無い。
そんな安倍に、あみは自信の揺らぎを感じ始めていた。
成長を遂げる限り、余程の強敵が現れなければ自分が負ける訳が無い。
余程の強敵が仮に現れたとしても、その戦闘能力は凄まじいものでなければ意味が無い。
363たぢから:02/05/28 23:06 ID:RcftnBfp
(なのに何故・・・何故この女は強くなっている!?何がこの女を・・・)
あみは困惑していた。だが、“修忍の法”への絶対的な信頼が消え失せていたわけではなかった。
(有り得ない・・・ この鈴木あみが・・・“修忍の法”が負ける事など・・・!!)
何かの間違いに決まっている。そのうち自らの限界にぶち当たって、安倍は自己崩壊するはずだ。
先ほどの市井がそのいい例ではないか。

・・・もしかすると、一撃で殺せる程安倍の肉体はボロボロかもかもしれない。
そう考えたあみは、安倍と距離を置き、抜刀の構えに入った。
(胴体をへし折ってやる!)
364たぢから:02/05/28 23:09 ID:RcftnBfp
(・・・来た!!)
対する安倍も抜刀術の構えに入った。
やることは唯一つ・・・疾風雷光閃に他ならない。
だが、一度も完成していない。
寺田の言う“壁”も、はっきり見えていない。
さらに肝心の肉体が限界だ。
しかし、安倍の中で何かが生まれようとしていた。
「次で決まるよ。よく見ておきな、後藤。」
「・・・」
正直なところ、次の展開が全く読めない後藤だが、
異常に張り詰めた空気が痛く感じる。
365たぢから:02/05/28 23:10 ID:RcftnBfp
「・・・いくべさ!」
「いくわよ!」
二人とも駆け出したのは同時だった。
相手との距離を一気に詰め、刀に手を賭ける。
「速いっ・・・!」
「見えな・・・い!?」
市井と後藤は目を凝らすが、安倍とあみの姿が速すぎて捉えられない。
「安倍ぇ!死ねぇーーーーー!!」
あみの刀が安倍の喉元を捉えた。
366たぢから:02/05/28 23:11 ID:RcftnBfp
『アハハハ!あんた踊りのセンスがあるわ!それだけ雑魚でクズってことだけど!』

『泣きたい時に泣けばいいし、笑いたい時に笑えばいいんだから。』

『残念やけど、これ以上は自分の力で見つけ出せ。オレの稽古はこれで終わりや。』

「死んでたまるかぁ! なっちは・・・なっちは・・・絶対生きる!!」

そして次の瞬間・・・何かを切り裂く音が響いた。
367ななぁーし!:02/05/29 13:59 ID:NfdUygKr

頑張ってね。
368たぢから:02/05/29 23:03 ID:XkrfLpOD
>367さん
は〜い!
第一部終了まであと少し・・・頑張りまっせ!!
369たぢから:02/05/29 23:04 ID:XkrfLpOD
市井と後藤が見たものは、高々と飛ばされているあみの姿だった。
「なっ・・・今のは一体・・・」
訳も分からず、あみは地面に落下した。
刀は真ん中あたりで砕け、鋼鉄の鞘も折れて曲がっている。
一方の安倍は、堂々と立ち、刀を鞘にしまっていた。
「なっち!」
駆け寄る市井と後藤。
「ついに疾風雷光閃が成功したんだね、なっち!」

市井のいう通り、安倍にとっては幻の奥義“疾風雷光閃”が成功した。
安倍の生きたい・勝ちたいと強く願う気持ちが、成功の鍵・・・
安倍が越えられなかった壁であった。
370たぢから:02/05/29 23:04 ID:XkrfLpOD
最初、前回の戦い同様、あみは双刀閃を仕掛けてきた。
だが、最初の刀が安倍の首筋を捕らえた刹那、
安倍は本能的に左足で踏み込んで抜刀、急速回転に入った。
そして遠心力で刀を折った後、勢いで鞘を弾き、
一回転してあみの右腕を斬りつけて、あみを上空へ弾き飛ばしたのだ。
その名のごとく、あみには緑色の閃光が横切ったように見えた。
まさに、一瞬の出来事だった。
371たぢから:02/05/29 23:05 ID:XkrfLpOD
「あみ・・・」
未だ意識がはっきりせずに倒れたままのあみに、安倍は近づいた。
「何故だ・・・何故・・・」
敗れたショックなのか、うわ言のように「何故」を繰り返している。
それでもあみは立ち上がった。安倍に対する執念だけで立ち上がった。
「・・・お前の奥義は私の体に染み込んだ。次は通用しない!」
あみはまだ戦う気である。脇差を抜き、右手に持ち替えようとした。
だが、脇差は握られること無く、地面に落ちた。
「無駄だべ。お前の右手はもう使い物にならない。」
372たぢから:02/05/29 23:06 ID:XkrfLpOD
先ほどの一撃で斬られた右腕は、完全な切断まで至らなかったものの、
全ての運動神経を断っていた。
もともと疾風雷光閃は、人間の胴体を真っ二つにするほどの大技である。
安倍の力不足が、このような形に表れた訳だが、
安倍にとってはそれだけで充分だった。
“修忍の法”でパワーアップしようとも、神経が切断されては意味が無い。
「なっちはむやみに命は奪わない。その代わり、確かにお前の右腕は貰ったべ。」
安倍の勝利宣言だった。
373たぢから:02/05/29 23:06 ID:XkrfLpOD
その後、半狂乱気味になりながら、あみは退散した。
一度は圧倒的な力の差で倒した安倍にやられたことがショックだったのだろう。
涙こそ出さなかったものの、悲壮感漂う表情だった。
安倍は、四ヶ月前の無念をようやく晴らすことが出来たのである。
満足げな表情で、安倍は市井と後藤のところに寄ってきた。
「後藤の傷は?」
「一応止血したけど、化膿の恐れもあるから、早く里に戻らないとね。」
「そんなことより、市井ちゃんとなっちの方が重症だと思うけど・・・」
結局、一番軽傷(それでも十分重傷)だった後藤が里に戻り、仲間を呼んで安倍と市井を搬送したのだった。
374たぢから:02/05/29 23:09 ID:XkrfLpOD
ようやくなっちがあみに勝ちました。めでたしめでたし。

市井ちゃんの小太刀二刀流の謎、後日談は明日以降アップします。
そして、第一部完結です。
375名無し募集中。。。:02/05/30 23:03 ID:am7eXaRc
>>374
お疲れ様。第2部も楽しみにしてます。
376たぢから:02/05/30 23:05 ID:WUzohkjD
「相変わらず無茶するね、二人とも・・・」
矢口は安倍と市井の包帯を替えながら呟いた。
「いやぁ、それほどでもないべさ。」
「なっち・・・誰も褒めてないって・・・」
「まあまあ。夕飯持ってくるから待っててよ。」

あみとの戦いで限界を突破した安倍と市井は、全身に包帯を巻かれていた。
出血がさほど多くなかったのが幸いし、大事には至らなかったものの、
一ヶ月近くの休養を余儀なくされた。
その間の二人の仕事は、後藤が全て受け持つことになり、
まだ完治していないにもかかわらず、既に里を出ている。
元々は後藤を助ける為にこうなったので、後藤は文句一つ言わなかった。
377たぢから:02/05/30 23:06 ID:WUzohkjD
矢口がいなくなったところで、安倍が切り出した。
「紗耶香さぁ、小太刀二刀流なんていつの間に身につけたの?」
「訓練を始めたのは後藤が上忍になった頃かな。」
「そんなに早く!?」
半年以上人知れず訓練していたことになる。
「ものに出来るようになったのは、丁度なっちの謹慎期間中だったんだよ。」
「どうして小太刀を?」
市井はすぐには答えなかった。だが、やはり自分の本心は伝えたいと思い、口にした。
「・・・負けたくなかったから・・・なっちと後藤に・・・」
「え・・・?」
378たぢから:02/05/30 23:07 ID:WUzohkjD
「小太刀二刀流は秘密兵器って言ったでしょ? 実は対なっち&後藤用の秘密兵器・・・だったんだ。」
「・・・」
さらに市井は続ける。
「朝組の刀技って、基本的には寺田流剣術だけでさ、どうしても優劣は出てくるよね。
市井にはなっちや後藤みたいな才能は無いからさ・・・背伸びしても敵わないところがあるんだよね。
元々なっちに対して憧れもあったけど、それ以上に才能という面でコンプレックスもあったの。
なっちと同じタイプの後藤が入ってきてから、それを心のどこかで強く意識するようになってた。
でも、それだけじゃただの妬み以外の何物でもないよね。」
「・・・」
「だから自分にあった武器や技を模索したの。任務の合間をぬってね。勿論お頭や師範にも相談したよ。
それであえて寺田流剣術には無い小太刀二刀流を選んだの。真似事じゃ、なっち達を越せないから・・・」
「あっ・・・!」
安倍は思い出した。市井があみと戦っている最中、あみに同じ事を言っていたことを。
あれはあみに対してと同時に、自分にも言い聞かせていたのだ。
379たぢから:02/05/30 23:08 ID:WUzohkjD
「紗耶香・・・すごいね。」
「ううん。なっちがいなかったら、市井は今の市井じゃなかったよ。
忍びとして今生きているのも、更なる強さを目指しているのも、なっちのお陰なんだよ。
今でも市井の目標はなっちだし、いつか自分の力で追いつき、追い越すつもりだよ。
最強奥義の疾風雷光閃だって、絶対破ってやるからね。」
市井の目は真剣だった。彼女にとって、安倍なつみの存在こそがある種の生き甲斐だったのだ。
安倍はその思いを全て受け止めようと決めた。そして・・・
「言ったなぁ・・・じゃあ、なっちが疾風雷光閃を完璧なものにするのが先か、
紗耶香が疾風雷光閃破りを編み出すのが先か、勝負しよう。」
市井に向かって手を差し出す安倍。
「OK。これからもよろしく、なっち!」
二人は固く握手を交わした。
380たぢから:02/05/30 23:09 ID:WUzohkjD
「あれ・・・? 二人とも箸がすすまないね。そんなに怪我が酷いの?」
せっかく持ってきた食事に、安倍も市井も箸をつけないので、矢口は不審に思った。
「い・・・いや・・・その・・・」
「・・・大丈夫だべさ・・・」
でも二人とも右手がちっとも動かない。
普通ならこの二人の間に何かあったのかと思うところだが、矢口は違った。
「遠慮することは無いって。ヤグチが食べさせてあげるよ。まずなっちからね。ほら、あ〜んして!」
「あ・・・あ〜ん・・・」
「次は紗耶香! ほれ!」
「あ〜ん・・・」
「もう二人とも甘え下手だなぁ。」
「・・・」

二人は何も言えなかった。固く握手をしたばかりに、手を余計に痛めてしまったとは・・・
381たぢから:02/05/30 23:10 ID:WUzohkjD
-interlude5-
ヽ^∀^ノ<ひっさびさの顔文字トーク、やるぞぉ〜!!

(●´ー`●)<今日もいちなちコンビ全開でいくべさ!!

( ´ Д `)<後藤も混ぜてよ! 娘。系小説初(?)の『いちなちごま』三角関係!!

(〜^◇^;)<この小説ってさ、そういう王道カップル系だっけ?

(●´ー`●)<う〜ん・・・とりあえずエロいシーンは今のところゼロだべさ。

( ´ Д `)<作者の力量によるよね。・・・ってか未来永劫ないでしょ?

从#~∀~#从<オイコラァ! んなことよりオレにも出番よこせぇ!! やぐちゅーは無いんかぁ!?

川゜皿 ゜)‖<ソーダ! デバンヨコセ!! ターゲット・ロックオン!!

( `.∀´;)<カオリの扱い・・・前回と変わってないよ。でもアタシもこの小説でキャラ立ちしたい!!

( ` ・ゝ´)<さぁ〜て、次回の「くノ一娘。物語」は?(アタシも前回と変わらないね・・・)

(〜^◇^)<サブタイトル(なんてあったかな・・・?)「センチメンタル矢口向き」!? わっかんねぇ!!

(●´ー`●)( ´ Д `)ヽ^∀^ノ<♪なちごまどぅ! いちごまどぅ! いちなちどぅ!

(〜^◇^;)<主役はヤグチじゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
382たぢから:02/05/30 23:16 ID:WUzohkjD
>375さん
どうもです。
次回は初の矢口メイン話です。いちなちごまに負けるなっ!
383ファンやで!!:02/05/31 01:33 ID:2YLFZqAM

作者さん、第一部どうもお疲れ様です。
次から矢口っスか…正直、メッチャ嬉しいっス!
どういう展開になるのか全然わかんないけど、期待しまくっていいですよね?
384たぢから:02/05/31 06:50 ID:eFnCdTTi
>383さん
実は・・・まだ第一部なんですよ。
今からアップする矢口メイン話と、最終話で第一部完結です。
385たぢから:02/05/31 06:50 ID:eFnCdTTi
ガッ! ドカッ! ・・・メキメキ・・・ ドーン!!
擬音語だけを並べただけでは、一体何が起こっているのか想像しかねるだろう。
場所は忍びの里の裏山の森。その音を起こしているのは朝組のくノ一矢口真里である。
「はぁ〜・・・何本も木を倒してもなぁ・・・これじゃ単なる自然破壊だよ。」
拳や蹴りで木を倒すという自主訓練なのだが、今ひとつ成果が出ない。
ただ単に木を倒すだけで、それ以上の進歩が無いのだ。

正直、矢口は焦っていた。
市井とは同期だし、かつて日の出の出城では安倍も含め三人一緒に戦っている。
上忍昇格後はこの三人で訓練をしていたこともあり、実力伯仲のつもりだったのだ。
だが、現実は違った。
386たぢから:02/05/31 06:51 ID:eFnCdTTi
一度は後藤にその座を明け渡していたとはいえ、安倍は朝組トップの実力を持っている。
市井も後藤とともにその次の地位はほぼ確定している。
実際矢口は見たわけではないが、鈴木あみとの戦いで立証されたことだ。
そこまでは百歩譲って認めよう。事実は事実だ。
しかし矢口には、受け入れ難い・・・いや、受け入れたくない事実があった。
実は、先日の安倍と市井の会話を立ち聞きしてしまったのだ。
その会話の中で、市井の口から出たのは安倍と後藤の名だけ・・・
もはや市井の眼中に矢口はいない。完全に水を空けられてしまったのだ。
別に市井に恨みがあるわけではないが、やはり同期である以上、プライドが許さない。
だから、矢口も任務の合間をぬって、山での訓練を行うことにしたのだ。
387たぢから:02/05/31 06:52 ID:eFnCdTTi
矢口にはどうしても克服しなければならない点があった
朝組一の小柄である為、どうしても力では他のメンバーに劣るのである。
一般に運動エネルギーは、『質量×速さの2乗』で表される。
いくら矢口にスピードがあっても安倍達とは僅差であり、体重が軽すぎるので力では劣る。
・・・かと言ってわざわざ太っては自慢の敏捷性が失われ、本末転倒だ。
「あ〜あ・・・カオリみたいな背が欲しかったなぁ・・・」
幼い頃から牛乳嫌いだったのが痛かった。“後悔先立たず”とはよく言ったものだ。
だが“たら・れば”だけでは進歩が無い。
市井が小太刀二刀流を身につけたように、自分を活かせる道を模索しなければならない。
「くそぉっ!!!」
苛立ちから矢口は刀を抜き、風乱刃で大木を破砕した。
388たぢから:02/05/31 06:57 ID:eFnCdTTi
「・・・ん?・・・」
矢口は刀を握ったまま、しばし立ち尽くした。
「無意識で放ったけど・・・乱撃・・・か。そうか・・・!」
ようやく矢口はヒントを見つけ出したようだ。
「これならいけるかも・・・!」
そう言うと、矢口は自分の家に戻り、そそくさと準備を始めた。
「なっちは今までのツケが回ってきて一ヶ月は戻ってこれない。
紗耶香と後藤もしばらく休みはないはずだから、今がチャンスだ!」
勤務表を眺めつつ、矢口は呟いた。矢口の欄に空きが多いのが一目瞭然だ。
三人より格下であることは否めないが、逆にそれだけ修行するチャンスがあるわけだ。
そう矢口は前向きに考えた。
389たぢから:02/05/31 06:58 ID:eFnCdTTi
矢口は寺田流格闘術の本と、私物である各種格闘技の本をひたすら読み始めた。
彼女は元々格闘技に興味があり、知識なら誰にも負けない。
でもその知識を持っているだけでは意味が無い。
自分にあった技を選び、昇華させなければ誰にも勝てない。
「絶対・・・絶対追いついてやる!!」
矢口の眼の炎はさらに燃え盛っていた。

矢口はそれから一ヶ月近くかかって、自分流の戦い方を見い出すことになるのだが、
その成果が披露されるのは、また別の話。
390たぢから:02/05/31 07:00 ID:eFnCdTTi
-interlude6-
(〜^◇^)<やっほ〜い! 祝! 矢口主役コーナー!! (短かったなぁ・・・でもいつか光が当たるはず。)

(●´ー`●)( ´ Д `)ヽ^∀^ノ<やっほ〜い!

从#~∀~#从<盛り上がってるところ悪いけどな、大事な話があんねん。

川゜皿 ゜)‖<ジカイ ノ 「クノイチムスメ。モノガタリ」 ハ イーダー ガ シュヤク!

( `.∀´)<えっ!? マジで!!

从#~∀~#从<んなことあるか(こりゃ問題発言かな・・・)! 彩っぺ、頼むで。

( ` ・ゝ´)<さぁ〜て、次回の「くノ一娘。物語」は?(というかアタシの出番は・・・)

(●´ー`●)<サブタイトル「第一部完結・新人加入と別れ」だべさ。

( ´ Д `;)<別れ・・・!? ま・・・まさか・・・

ヽ^∀^;ノ<・・・バレバレだとは思うけど・・・ね・・・

(〜^◇^;)<それより終わるのかよっ! 矢口メインは二度とないのかぁ!?
391たぢから:02/06/01 01:28 ID:o6UAg0bD
季節は秋から冬へ、そして春へと移り変わっていた。
忙しさを増した朝組には季節の変化など、いちいち気にかけてる暇は無かった。
いつのまにか、石黒が結婚の為退いていたが、誰も気づかなかった。
・・・さすがにそれは無いか。

ある日、七人のくノ一は召集をかけられた。
数日前から噂のあった、朝組の新人加入のようである。
今回はなんと四人だった。
妙な声の石川梨華、男っぽい吉澤ひとみ、小柄な加護亜衣と辻希美。
どういう人選なのか、未だに謎ではある。
が、寺田の見込んだ少女なら、それなりの素質はあるだろう。
「じゃあ、教育係を決めるよ。」
今回は夏師範により、教育係が決められた。
保田−石川、矢口−吉澤、後藤−加護、飯田−辻という組み合わせだ。
「じゃあ、あとよろしく。明日から訓練よ。」
392たぢから:02/06/01 01:29 ID:o6UAg0bD
夏の話が終わると、リーダー中澤が立ち上がった。
「皆聞いて。実はな、紗耶香から話があんねん。」
続いて立ち上がる市井。
「えっとですね・・・市井はしばらく修行の旅に出ることになりました!」
「「「「は?」」」」
新人・中澤・後藤以外の四人のくノ一は、状況が掴めず固まった。
「どういうことだべ?」
「だから、しばらくお別れになるってことだよ。」
393たぢから:02/06/01 01:30 ID:o6UAg0bD
後藤は数日前に、市井からその話を聞いていた。

「そ、それ本当なの?」
「ああ。」
「何で!? ずっと一緒に仕事しようよ! 市井ちゃんがいなくなると寂しくなるよ!」
「これは市井の決めたことだ。後藤が何と言おうと、変えるつもりは無いよ。」
市井の眼差しは見たこと無いほど真剣だった。だが、後藤は引かなかった。
「じゃあ、力づくでも止めてみせるよ・・・」
「・・・止められるものなら・・・止めてみな!!」
勝負は直ぐについた。
後藤は本気で、むしろ半分殺すつもりで勝負を挑んだが、あえなく返り討ちにされたのだ。
それも後藤の得意とする格闘戦でだ。
394たぢから:02/06/01 01:30 ID:o6UAg0bD
「そんなに強いのに・・・何で・・・何で?」
「今の後藤には私に対する甘えがあるからよ。本当なら」
「別に甘えん坊でもいいじゃない・・・市井ちゃんは後藤の教育係なんだから・・・」
「よくない!」
市井の語気が強まり、後藤は怯んだ。
「新人加入の噂は知ってるよね? これは本当で、後藤はその中の一人の教育係に任命される予定よ。」
「えっ!?」
「そのことは、さっきお頭から聞いたばかりなんだけどね。・・・でも分かったでしょう?
もう教育される立場じゃないんだよ。だから、あえて私は一旦去るの。アンタの為でもあるから。」
市井の決意は、教育係として最後の仕事だったのだ。
後藤はそれ以上何も言わず、止めようともしなかった。
誰よりも市井のことを慕い、理解しているつもりだったから。
395たぢから:02/06/01 01:32 ID:o6UAg0bD
「お頭の許可は貰っているよ。二年くらいしたら戻ってくるつもり。で・・・」
そこで市井は表情を変え、安倍のほうを向いた。
「修行の旅に出る前に・・・なっち、勝負して。」
「・・・それも、許可貰ってるだべか?」
安倍はわざと言ってみた。単なる私闘に寺田から許可がおりるはずは無い。
尤も、それでも本気で市井と戦ってみたい気持ちもあるのだが。
「ええで。今この場で許可したるわ。上忍の力を新人達に見せてやれ。」
突如入ってきた寺田。彼はちょっとしたお祭り好きだった。
396たぢから:02/06/01 01:32 ID:o6UAg0bD
というわけでくノ一と寺田・夏は外へ出た。
安倍と市井が向かいあい、辺りには微妙な空気が漂う。
新人達の反応は以下の通りだ。
石川・・・二人の強さが肌で感じることが出来ていない。
吉澤・・・どっちが勝つか真剣に考えている。
加護・・・生意気なことに、どっちなら自分が勝てそうか考えている。
辻・・・よく分からないが興奮している。

表情から新人の考えていることを読み取った教育係の心の内。
保田・・・素質あんのかな、この娘は。声も変だし。と思っている。
矢口・・・真面目なんだろうね。焦点ずれてそうだけど。と思っている
後藤・・・背伸びしすぎだよ。ま、あとでじっくり教育してあげるよ。と思っている。
飯田・・・世紀の対決に興奮していて、辻を気にかけていない。ダメじゃん。
397たぢから:02/06/01 01:33 ID:o6UAg0bD
市井は安倍と後藤以外の朝組メンバーには初披露となる二本の小太刀、対する安倍は普通の刀で勝負する。
「無制限一本勝負や。ま、怪我せぇへん程度にやってくれ。」
安倍と市井は静かに頷くと、相手だけを見つめた。
・・・風が止んだ。
「ほな、はじめ!!」
寺田が言い終わらないうちに、二人は刀を交えていた。
明らかなフライングではあるが、両者同意の下なので問題は無い。
398たぢから:02/06/01 01:36 ID:o6UAg0bD
「くノ一娘。物語」第一部完結編前半終了です。
さて安倍vs市井の行方は!?
割り込みで中澤が勝つ!というのが万馬券です。
399ファンやで!!:02/06/01 06:53 ID:AwMdvKrV

作者さん。申し訳ありません。
またフライングしてしまったようで…。
けっして荒らすのが目的ではないので、どうか勘弁して下さい。
400たぢから@早起き:02/06/01 07:17 ID:tUH1Ngxg
>339さん
いや、こちらの書き方にも問題があったわけで・・・
とりあえず今夜までに安倍vs市井の予想でもしていてください。

四期メン乱入で二人とも倒す・・・は四百万馬券(by東京シティ競馬)です。
401 :02/06/01 10:59 ID:mdjVvspO
初めて読んだけどハマッたよ
作者殿頑張ってくだされ
402名無し募集中。。。:02/06/01 12:29 ID:t12D/7SZ
忍者の里「名張」出身で尚且つ平家一族の血を引く最高実力者の
あの人の番外編を見たいと言ってみるテスト。。。
403たぢから:02/06/01 23:04 ID:8PKHhoLi
最初の一撃だけで、新人四人は固まってしまった。
自分達の想像をはるかに超えた力のぶつかり合いに、ただ驚くしかなかった。
一方、在来メンバーは静かに勝負の行方を見ている。
安倍と市井は序盤は力を抑え、相手の出方を伺っているようだ。
(紗耶香の小太刀二刀流・・・どれだけ進化したべ?)
(なっちは力があるから、迂闊に間合いを詰めることはできないな。)
何度も組み手をしてはいるが、今回ばかりは互いに手の内が見えない。
長期戦になるかと思われた、その時・・・
404たぢから:02/06/01 23:06 ID:8PKHhoLi
「(やっぱ仕掛けてみないと分からないか・・・)小太刀二刀流・・・十字撃!」
十字撃・・・小太刀を交差させて放つ二連撃。一撃目と二撃目の間隔を短くすることで威力を高める。
「くっ・・・!」
安倍は十字撃の軌道を読み、刀を横にして防いだ。
だが、その威力は大きく、安倍は数メートル押されてしまった。
「・・・やるね。二段構えの技とはね。」
それなら・・・と、安倍も一気に間合いを詰める。
体を沈め、市井の懐に潜り込む。
「くらえ飛翔閃!!」
飛翔閃・・・刃を上に向け、左拳で突き上げることにより、二段の衝撃を与える。
「双烈斬!」
市井も瞬間的に技を出し、威力を相殺させる。
技の応酬は互角だ。
405たぢから:02/06/01 23:09 ID:8PKHhoLi
「ホンマ凄いな・・・」
中澤が呻く。本気の二人を見たことが無かった分、衝撃は小さくはない。
それは頭の寺田も同様だった。思わず・・・
「なあ、後藤。あの二人の殺気が凄いんやけど・・・」
対する後藤は平然としている。
「でもまだ八分の力も出してませんよ、二人とも。
それに、“無制限一本勝負”って言ったのは、お頭ですよね?」
「う・・・」
「そう心配しないで下さい。いざとなったら、後藤が止めますから。」
「ヤグチも止めますよ。(あの二人と戦うチャンスが欲しいしね・・・)」
406たぢから:02/06/01 23:11 ID:8PKHhoLi
ギャラリーの反応を他所に、安倍と市井は徐々に力を出していった。
市井は小太刀の持ち方を変え、一気に勝負に出る。
「小太刀二刀流・・・双円斬!!」
市井は回転剣舞の技を仕掛けた。
「風乱刃!!」
安倍は乱撃で防御する。
(危ない危ない。オリジナル技が多彩で困るべ。早めに勝負をつけないと・・・)
407たぢから:02/06/01 23:13 ID:8PKHhoLi
安倍は数歩分後退し、市井に呼びかけた。
「紗耶香! とっておきの秘技があるだろ? 見せてみな!」
「そうね! そろそろ決着をつけよう!」
安倍は呼吸を整えると、刀を鞘に収めた。
それに応えるように、市井も小太刀を鞘に収める。
「後藤、そういや安倍は、疾風雷光閃を撃てるんだよな?」
「そうですよ。でも市井ちゃんも疾風雷光閃破りが多分ありますから。」
笑顔で答える後藤に対し、寺田は困惑した。
(コイツら・・・オレの思った以上に強くなってるわ。ホンマ恐ろしいで。)
408たぢから:02/06/01 23:13 ID:8PKHhoLi
「二人とも動きません・・・ね・・・」
新人吉澤は、先のことが予想できなかった。
「動けないんだよ。」
教育係矢口が答える。
「動けない・・・?」
「そう。あの二人はこれから互いの最大最強の奥義で勝負するんだ。
ヤグチにもどんなものか予想もつかないけど、攻撃のタイミングを間違えば、そりゃ大怪我さ。
だからギリギリのところで隙を狙う。あの立ち位置が、今の二人が詰められる間合いってことだよ。」
「はぁ・・・」
よく分からないが、矢口の額には汗の粒が見える。
“手に汗握る何とやら”とはこんなことをいうのだろう。と吉澤は納得した。
409たぢから:02/06/01 23:15 ID:8PKHhoLi
(なっちは疾風雷光閃。そして市井ちゃんは・・・何をするんだろ・・・?)
安倍と同じ抜刀の構え。それだけ威力を高めるつもりだろう。
(抜刀の構え・・・あの小太刀でどんな技が・・・)
疾風雷光閃破りの正体を知らない安倍は、市井の技がどんなものか思案していた。
そのため、どうしても攻めることが出来なかった。
一方の市井は・・・
(・・・実は思いつきなんだよね。抜刀でやるのは。)
疾風雷光閃破り自体は完成していた。だが安倍の抜刀術は速さも威力もある。
だから咄嗟に小太刀を鞘に収めたのだ。成功するかは分からない。
410たぢから:02/06/01 23:16 ID:8PKHhoLi
二人とも構えたまま、数時間が過ぎた。
・・・気がするくらい、長い時間二人は動かなかった。いや、動けなかった。
しかし、何かに操られるように手が震えつつも刀に伸びる。
そして足が少しずつ前に出る。
決着の時は近づきつつあった。
411たぢから:02/06/01 23:17 ID:8PKHhoLi
いつの間にか、互いに目で合図をしていた。
(い・・・いくべさ!)
(や・・・やるよ!)
「「いざ!!」」
次の瞬間、安倍と市井は駆け出した。
「疾風雷光閃!!」
「(名称秘密)!!」
轟音と共に、三本の閃光が交わった。




そして三本の刀が、宙を舞った。
412たぢから:02/06/01 23:19 ID:8PKHhoLi
市井の小太刀は安倍の後ろに、安倍の刀は市井の後ろにそれぞれ落ちた。
刃はボロボロに欠け、使い物にならなくなった。
そして安倍にも市井にもかすり傷一つない。
完全に引き分けだ。
「すごいね紗耶香! 何て技だべ?」
「“鎌鼬”って言うの。これが市井流疾風雷光閃破りだよ。」
市井は悪戯っぽく笑う。半分思いつきの技が成功して上機嫌だ。
そして、ようやく安倍に自力で追いついたことが嬉しかった。
「・・・絶対帰ってきてよ。次は必ず勝つから。」
「もちろん。それまで誰にも負けないでよ、なっち。」
笑顔で、固く握手を交わすライバル。
そんな二人を、後藤も他の仲間も暖かく見守っていた。
413たぢから:02/06/01 23:19 ID:8PKHhoLi
「とりあえず、餞別や。」
「ありがとうございます。」
替えの小太刀を寺田から貰い、市井は里を去った。
別れ際、やはり後藤は泣いていた。
「市井ちゃ〜ん・・・」
「こらこら・・・別れるタイミングを逃すだろ。すぐ帰ってくるから。強くなれよ、真希!」
正直、市井も言葉を選ぶのに苦労していたようだ。
後藤を支えながらも、市井も後藤に支えられていたのかもしれない。
姉妹のようなつながりが、この二人を結んでいるのだろう。
そしてこれからは、後藤が新人達の姉貴分として頑張る番である。

新人も加わり、この後も朝組の活躍はまだまだ続くのだが、それはまた別の話。

「くノ一娘。物語」 第一部・とりあえず完
414名無し募集中。。。:02/06/01 23:24 ID:Nkm0FJ0r
ご苦労様ですた
415たぢから:02/06/01 23:29 ID:8PKHhoLi
約二ヶ月間、ほぼ毎日更新でやってきましたが、ひとまず終了です。
第二部ですが・・・まだ全然書けておりません。アップするのは夏頃(遅っ!)になります。
ある程度の構想はありますが、402さんのようにリクエストしていただけると助かります。
第一部では、活躍したメンバーがかなり限定されていたので、二部ではまんべんなく登場させたいと思っています。

恐らく新スレを立ち上げることになりますが、このスレには週一、ニ回ペースで“つなぎ”の作品をアップする予定です。
あるアクションゲームを下地(というかキャラの名前変えただけ、に近い)にしたものです。お楽しみに〜。
416ファンやで!!:02/06/02 13:41 ID:E8VNoIu5

お疲れ様でした。
多々ご迷惑かけましたが、いつのまにか
寝る前にこの小説を読む事が日課となってしまいました。
第二部も期待しております。リクエストは……ヤグを活躍させて下さい。
『ヤグ』ファンですので、自分。
417たぢから(保全):02/06/03 06:57 ID:/x1F1V3N
>416さん
了解しました。
矢口は吉澤の教育係ですから、まず出番は確保してあります。
あとは誰と戦わせるか・・・なっち? 後藤? ゲスト? 悩むところです。
矢口短編が無駄にならないよう努力します。

一応、読者の皆様に忘れ去られないよう、そして私自身が投げださないよう、
第二部の構想を書いておきます。

四期メンの修行編
ゲスト登場編(複数予定)
完結編(ナイショ)

“つなぎ”の新作は、今週末にアップする予定です。
418 :02/06/03 13:41 ID:PdUoyRGr
乙刈れーおもろかったよ
419名無し募集中。。。:02/06/03 14:56 ID:gUXgX5vI
乙彼サマー、一気に読ませてもらいましたが、面白かったよ。
次回作以降ではヤスをもっと活躍させて下さいね。
420後藤(浩輝)もアイーン!:02/06/03 15:54 ID:FRvKEob/

ゲストのリクエストとかでも構わないでしょうか?
個人的には……BIG3が何かの形で登場してくれたら嬉しいです。
        (あくまで希望ですが)
421???:02/06/03 18:42 ID:2X+gAN2u
今読みましたが2部でも安倍さんは活躍さしてくださいね。
それと鈴木あみにも再登場お願いして良いですか。
422たぢから:02/06/04 00:10 ID:D+H+HU2h
読者の皆様、レスthanxです。

( `.∀´)<第二部の主役はアタシよっ!!

( ´ Д `)<んぁ〜・・・「BIG3」って何?

ヽ^∀^ノ<さんまさん、タモリさん、たけしさんのことだよ。

(〜^◇^)<三人とも共演したことあるね。あとは作者の力量次第だな。

(●´ー`●)<なっちは主役!・・・でも鈴木あみは復活するべか!?
423  :02/06/04 22:53 ID:1mQoTIR4
ほぜほぜ〜〜
424  :02/06/05 18:37 ID:YrwlpLec
保全するのだ!
425たぢから:02/06/05 23:59 ID:EnaOxYSY
保全ありがとうございます。
新作が一応完成しました。土曜くらいからアップし、夏までつなぎます。
「くノ一娘。」とは全く異なり、元ネタがアクションゲームとして存在しています。
登場する娘。は初期の9人で、今時にしては珍しく、なち福メインです。

どこかのサイトで見たんですけど、なっちや初期メンメインの小説って少ないそうですね。
“いちごま”などのカップリングが目立っているからかもしれませんが・・・
それでも私はなっち推し! 勿論いちごまやぐ福も。
426名無し募集中。。。:02/06/06 03:18 ID:CZtX1izc
おっと、保全
427たぢから:02/06/06 23:23 ID:wUcu4wN3
やっぱ今から新作アップします。単なる気まぐれです。
元ネタが元ネタなので、好みが分かれると思いますが、夏までお付き合いください。
428たぢから:02/06/06 23:24 ID:wUcu4wN3
NOM ENGINEER WORK SYSTEM
Model CPS-9204

Copyright (c) 2105,2109,2114
NOM Corporation
All Rights Reserved

real mem = 8192 TB
avail mem = 32768 TB

primary data cache : 512KB
primary inst.cache : 768KB
secondary cache : 32768KB

login : Dr.TSUNKU
code : ******

>device -dvl -a

reading “N.N.S.”
reading “BD-E”
reading “WARNING”
429たぢから:02/06/06 23:24 ID:wUcu4wN3
−NEW TYPE ROBOT “NATSUMI” SPECIFICATION−

“HEAD” IS EQUIPPED WITH:

Broad-range
Eye Camera

Ultra-sensitive
Voice Recognition System

Voice Generation System made by Zetima Inc.


“CHEST” IS EQUIPPED WITH:

Accumulative Energy Generator

Micro-fusion Fuel Tank

Central Joint-controlling System


“ARMS” ARE EQUIPPED WITH:

N-Buster

Energy Amplifier

Variable Wepon System


“LEGS” ARE EQUIPPED WITH:

Gyroscopic Stabilization System

Emergency Acceleration System (Optional)


INTERIOR SKELETON:

Reactive armor skeleton which reduces damage by 93 percent.


BODY SKIN:

Lightweught “Titanium-M” alloy.
430たぢから:02/06/06 23:25 ID:wUcu4wN3
−WARNING−
“NATSUMI” IS THE FIRST OF A NEW GENERATION OF ROBOTS WHICHI CONTAIN AN INNOVATIVE NEW FUTURE
- THE ABILITY TO THINK,FEEL AND MAKE THEIR OWN DECISIONS.
HOWEVER THIS ABILITY COULD BE VERY DANGEROUS.
IF “NATSUMI” WERE TO BREAK THE FIRST RULE OF ROBOTS,“A ROBOT MUST NEVER HARM A HUMAN BEING”,
THE RESULTS WOULD BE DISASTROUS AND I FEAR THAT NO FORCE ON EARTH COLUD STOP HER.

APPROXIMATELY 30 YEARS WILL BE REQUIRED BEFORE WE CAN SAFETY CONFIRM HIS RELIABILITY.
UNFORTUNATELY I WILL NOT LIVE TO SEE THAT DAY,NOR DO I HAVE ANYONE TO CARRY ON MY WORK.
THEREFORE,I HAVE DECUDED TO SEAL HER IN THIS CAPSULE,WHICH WILL TEST HER INTERNAL SYSTEMS
UNTILL HER RELIABILITY HAS BEEN CONFIRMED. PLEASE DO NOT DISTARB THE CAPSULE UNTIL THAT TIME.

“NATSUMI” POSESSES GREAT RISKS AS WELL AS GREAT POSSIBILITIES.
I CAN ONLY HOPE FOR THE BEST.

AUGUST 10,20XX
MITSUO.TERADA
431たぢから:02/06/06 23:26 ID:wUcu4wN3
“ナツミ”は、より複雑な人間的思考能力を持つ、新しいタイプのロボットである。
しかしこの能力は、非常に危険なものでもある。
もし“ナツミ”が、“ロボットは人間を傷付けてはいけない”というロボット工学の原則を
自らの意志で破ったならば、恐らく何者も彼女を止める事は出来ず、結果は恐ろしいものとなるだろう。
30年もあれば、彼女の安全性を確かめる事は可能である。
しかし、私の命もそう長くはなく、私の研究を託せる者もいない。
それ故私は、このカプセルに彼女を封印する。
このカプセルは、彼女の安全性を確かめるまで、彼女の内部構造を検査してくれるものである。
その時まで、どうかカプセルを開けないで貰いたい。
“ナツミ”は、無限の可能性と共に、無限の危険性をも孕んでいる。
私は只、最良の結果を望むのみである。

AD20XX.8.10.
ミツオ・テラダ
432たぢから:02/06/06 23:27 ID:wUcu4wN3
[IRREGULAR HUNTER NATSUMI]

PROLOGUE.NIGHT OF TOKYO CITY
夜のスラム街、その一角で死闘が繰り広げられていた。

ドガァッ!!

金網を突き破り一体のロボットらしき者が背後へと吹き飛ばされていく。
「あのアマ・・・どこへ行きやがった!?」
巨大な体躯を持つ一体のロボットがゆっくりと上体を起こし周囲を見回す。
「あのクソハンターがぁぁっっ!!」
巨漢は凄まじい声で咆哮すると両腕にエネルギーを漲らせていく。
その巨体に秘められたパワーは恐らく相当なものだと推察される。
とりわけその巨大な腕に捕まったら人間であれば難なく四肢を引き千切られてしまうだろう。
その瞬間、蒼いボディを持つもう一人のロボットの姿が目に映る。
433たぢから:02/06/06 23:28 ID:wUcu4wN3
「そこかぁ!!」
獲物を見つけた野獣のように凶悪な笑みを浮かべると、
巨体のロボットは全身にエネルギーを漲らせ、その蒼いロボットと襲い掛かっていく。
だが・・・
「遅いよ・・・」
蒼いボディのロボットが漆黒の空へと飛翔する。
イレギュラーハンター精鋭部隊・隊員・・・それが彼女、ナツミという名の女の肩書きだった。
彼女はそのまま巨漢の背後に降り立つと、エネルギーを蓄積しておいた左腕の銃口を、
巨漢にに向け、バスターを素早く発射した。
「ぐぁっ!!」
うめき声を上げ巨漢が後方へと倒れ伏す。
「ここまでだね・・・」
「なめるなぁっ!!」
434たぢから:02/06/06 23:29 ID:wUcu4wN3
巨漢のロボットがその拳にエネルギーを収束させ、ナツミに向かって振り下ろす。
だがそれをナツミは見極めて交しつつ、巨漢の胸部に右腕でバスターを放った。
「ぐあっ・・・バカな・・・」
胴体に穴をあけられ、為す術も無く倒れ込む巨漢のロボット。
ナツミはそんな彼を左腕の銃口を構えたまま冷ややかに見詰めていた。
「処分させてもらうよ・・・イレギュラー・・・」
「ひぃっ!!」
その余りに冷たい視線に思わず身をすくませる“イレギュラー”。
「ま、待ってくれ!助けてくれ!命は・・・命だけはぁっ!!」
迫り来るナツミに哀願するように叫ぶ巨漢のイレギュラー。
そんな彼に向かってナツミは冷ややかに言い放つ。
「その子・・・アンタが殺したんでしょ?」
「え・・・」
彼女らの視線の先には一人の少年の骸があった。
四肢をバラバラに引き裂かれた無残な姿で放置されたまだ幼い子供の遺骸・・・
それを見詰めるナツミの瞳に悲しそうな光が宿る。
435たぢから:02/06/06 23:30 ID:wUcu4wN3
「なぜ殺したの?」
「な、なぜって・・・それはその・・・」
「多分、必至に命乞いしたと思うよ。今のアンタのようにね・・・」
巨漢を見据えるその瞳が静かに彼に死を告げる。
ナツミは銃口を向けたまま、ゆっくりとイレギュラーの方へ歩み寄っていった。
「あ・・・ああ。そうだ・・・オレが殺したんだ・・・」
掠れた声で搾り出すように巨漢がうめく。
「その子だけじゃないよね。先週からの一連の事件でアンタは既に数百人の罪なき命を無残に奪った。
一体その人たちはお前にどんな恨みを買っていたって言うの?」
「ぐっ・・・」
ナツミの言葉に言葉を詰らせるイレギュラー。
436たぢから:02/06/06 23:31 ID:wUcu4wN3
正直、殺した人間達に遺恨があったわけではない。
ただ“人間”という生き物の存在、そのものが彼にとっては許しがたい事だった。
「・・・だ・・・だがよぉ・・・。だったらてめーらはなんだって言うんだよ・・・」
巨漢が怯えながらも口を開く。
「人間がオレ達を処分しても犯罪にならねーのに、オレ達が人間を殺したらイレギュラーとして処分される。
てめーらハンターは、オレ達と同類なのに人間の都合で生み出された奴らの手先じゃねーか!!」
その言葉に一瞬、ナツミの目に動揺の色が走った。
「人間どもは自分たちの作った法律とハンターに身を守られながら、オレ達を都合良く利用してやがる!
オレにしてみればそんなクズ共に肩入れし、同朋のはずのオレ達を無心に始末できる、
てめーらハンターの方が気が知れねえぜ!!」
「・・・アンタの言い分にも一理ある・・・でもね・・・」
437たぢから:02/06/06 23:32 ID:wUcu4wN3
銃口が鈍い光を放ちながら巨漢の喉下に向けられる。
「少なくともアンタらのような・・・喜々として人の命を平気で奪うイレギュラーがいる限り、
私達が存在し続けねばならないんだよ!“イレギュラーハンター”なんて連中がね!!」
そう叫ぶと、ナツミは巨漢に向かってバスターを放った。
蒼い閃光に飲み込まれ、その巨漢は塵一つ残さず消えてゆく。

「・・・クソハンターが・・・。所詮・・・オレ達の存在価値は…人間どもの物差しでのみ計られる・・・。
そうさ!てめーらもいずれ使い捨てられるんだ!イレギュラーとして・・・このオレ様みてーになぁっ!」
巨漢の最後の言葉だった。
438たぢから:02/06/06 23:33 ID:wUcu4wN3
「・・・外道と・・・一緒にしないで。」
それをしっかり聞いたナツミは、短く彼・・・のいた場所・・・に向かって呟いた。
その時・・・

「ナツミ!」
ナツミと似た感じの紅いロボットが、駆け寄ってきた。
「また感情的になっちゃって。ま、コイツは捕獲じゃなくて処分だったから良かったけどね。」
ナツミは彼女の姿を見止めると静かに口を開いた。
「ゴメンねアスカ。でも、やっぱり許せなかったんだよ。残虐非道なアイツがね。」
ナツミの右腕は、まだ何かに震えていた。
「そう・・・ま、他の連中は私が総て始末しておいたから、本部に報告して帰還しよ。」
「そうね。」
ナツミはメットに内蔵された無線機のダイタルを、基地にダイヤルを合わせた。
「こちらナツミ。スラム街“カブキ”でイレギュラー・タカアキ一味を処分。帰還する。」
439たぢから:02/06/06 23:34 ID:wUcu4wN3
時は22世紀・・・人類は完全人間性思考ロボット“レプリロイド”を生み出し、
それまでのロボットに代わる新たな生活のパートナーとして彼らとの共存社会を構成していた。
今や人間と全く変わらない思考能力を持つレプリロイドは、あらゆる分野で人間をサポートし、
人と機械の理想的な世界を築いているかに見えた。
だが人間が不完全な存在である以上、人間に似せて作られたレプリロイドにもまた不完全であり、
電子頭脳に異常をきたし、人間に危害を加えるようになったレプリロイド、“イレギュラー”が生まれた。
イレギュラーは人間の伝染病のごとく増加し、一時は深刻な社会現象になるに至った。
その事態を収拾すべく発足したのが、対イレギュラー用警察組織“イレギュラーハンター”だった。
だが相手は人間同様の頭脳と人間以上の身体能力を備えたレプリロイド。
当然人間をどんなに訓練しようと彼らに対抗出来るはずもない。
故にイレギュラーハンターは優秀な戦闘能力を持つレプリロイドで構成、運営されているのだ。
蒼いレプロイド・ナツミと、その相棒アスカの所属する精鋭部隊も、
そのイレギュラーハンターの一部であり、何故か女性型のみで構成されることから、
彼女らは、通称“ハンターガールズ”と呼ばれる。
440たぢから:02/06/06 23:35 ID:wUcu4wN3
「お疲れ、ナツミ! アスカ!」
その日の任務を終え、ガレージにエアバイクを停める二人に向かって、
一人の黄色いボディのレプリロイドが明るく声をかけてくる。
そのレプリロイド・ユウコは、精鋭部隊の隊長である。
戦闘レベルはさほど高くないが、個性豊かな者だらけのハンターガールズにおいて、
唯一統率力を持ったレプリロイドだ。
前線に立つことは今は無く、この基地でナツミ達のサポートをする。
隊員からの信頼は非常に厚く、いわゆる頼れる姉御なのだ。
「ユウコ、出迎えごくろうさん。」
「あとで報告書書いておくね。」
軽く挨拶を交わすと、二人は足早にメディカルルームに向かった。
441たぢから:02/06/06 23:36 ID:wUcu4wN3
多くのカプセルが並ぶメディカルルーム。
ここでは任務を終えたハンターが、次なる任務に備えて休みをとる場所だ。
ナツミもアスカも、空いているカプセルを探し、外のモニターでID等を入力する。
これは戦闘前後のデータ収集を兼ねているからだ。
「えっとUser;NATSUMI、ID-No.19810810・・・っと。」
そうしてナツミはカプセルに入った。あとはマシンに全てを任せる。
稼動が開始すると共に、カプセル内は特殊溶媒液で満たされた。
それに身を任せながら、ナツミは眠りに就いた。
442たぢから:02/06/06 23:37 ID:wUcu4wN3
真っ暗だった。辺り一面、光すら射さない暗闇だった。
「ここは・・・?」
無限に続く暗闇の中で、ナツミは独り立ち尽くしていた。
「私は・・・誰・・・?」
自分の名前すら忘れてしまった。自分は何者なのか・・・
その時、前の方から光が射してきた。余りの眩しさに、ナツミは思わず目を凝らした。
「なっち・・・」
前方から、人の声がしてきた。何となく聞き覚えのある女性の声であった。
目が慣れてきたナツミは声のした方を向いた。
するとそこには、同じような衣装に身を包んだ人物・・・恐らく皆女性だろう・・・が十数人。
「誰・・・誰なの?」
ナツミはその人達の顔まで確認する事は出来なかったが、何処かで見た事がある容姿だった。
遠い昔に・・・
443たぢから:02/06/06 23:38 ID:wUcu4wN3
「さあ、行こう。」
その人達は、ナツミの数メートル前で足を止め、手を伸ばし、ナツミを招いている。
「行く・・・って何処へ?」
その人達はそれ以上は何も言わず、姿を消した。
「ま・・・待って! うわっ!」
ナツミが追いかけようとすると、突然前方の光が明るさを増してきた。
余りもの眩しさに、ナツミは再び目を凝らした。そして数々の絵が、再びナツミの頭を過ぎった。

廃墟と化した大都市・・・
傷つき、動かなくなった見覚えのある少女達の体・・・
NEW TYPE ROBOT “NATSUMI”と書き記された自分の設計図・・・
自分を製作しているあの男・・・
レプリロイドらしき残骸・・・
残骸・・・
残骸・・・
444たぢから:02/06/06 23:39 ID:wUcu4wN3
「はっ!!」
ナツミは何かの音に気づき、目が覚めた。それは緊急事態を知らせるサイレンだった。
『緊急事態発生! 緊急事態発生! 待機中のハンターは直ちに出動せよ!!』
けたたましく放送が流れる。
先の闘いでのダメージは皆無に近かったので、ナツミはすぐにカプセルを出る。
「しかし・・・またあの夢か・・・これで一週間連続だわ・・・」
ナツミはそうつぶやくと司令室へと走っていった。
夜はまだ長い。
445たぢから:02/06/06 23:41 ID:wUcu4wN3
いきなり訂正(438)

<誤>ナツミはメットに内蔵された無線機のダイタルを、基地にダイヤルを合わせた。
<正>ナツミはメットに内蔵された無線機のダイヤルを、基地に合わせた。
446たぢから:02/06/06 23:43 ID:wUcu4wN3
-CHARACTER FILE-

1.ナツミ
イレギュラーハンター精鋭部隊(通称ハンターガールズ)所属。
実力はAクラスなのだが、少女らしい優しさと、イレギュラーに対する闘争心の反発が激しく、
戦いの場において感情が不安定になることがある。
その為、イレギュラーに対して極端な残虐行為をしたり、逆に本来の能力を発揮しないことがある。

彼女を含め、その他のハンターについては謎が多く、
身体構造や制御システム、更には彼女の心について等が未だ不明である。
また彼女の開発者及び目的については一切不明で、彼女自身も誰によって創られたのか全く記憶が無い。

2.アスカ
イレギュラーハンター精鋭部隊(通称ハンターガールズ)所属。
悪を憎む心は人一倍強く、イレギュラーを冷静かつ迅速に処分する。
Aクラスハンターという位置づけだが、戦闘能力が極めて高く、特Aとも言われている。
どちらかといえば人付き合いは苦手な方で、ナツミと行動するとき以外は、常に単独行動をとる。
任務を通し、不安定な心を持つナツミをフォローする。

3.ユウコ
イレギュラーハンター精鋭部隊(通称ハンターガールズ)隊長。
Aクラスのハンター。だが前線に立つことは無く、基地でハンター達のサポートに徹する。
頼れる姉御肌で、ハンター達からの信頼は厚い。
447たぢから:02/06/06 23:50 ID:wUcu4wN3
・・・以上、新作【IRREGULAR HUNTER NATSUMI】の初回スペシャルです。
元ネタはお分かりですか? カ○コンのSFCアクションゲーム「ロッ○マンX」です。
「チョット待て、ユウコはともかく他のメンバーはどう扱うんだ!?」と思われそうですが、
きちんと登場させますよ。みんな味方として。
448     :02/06/07 03:08 ID:TFGQKHRu
ロッ○マンですか……。
初期FC版の第一作目しかやったことないですねえ(古ッ!?)
確か、博士みたいなヤツがボスでした。名前は……ドクター・ゲロ(それはDBか)
ごめんなさい、忘れました。
それからロッ○マンはかなり進化したんですよね、多分。
でも、いきなり引き込まれました。さすがは『たぢから』さん。
これからも期待しております。頑張って下さい。
449たぢから:02/06/08 23:09 ID:tZpI3ux+
>448さん
補足しますね。
ロッ○マン(伏字の意味がねぇ!)は、カ○コンが1987年12月17日に発売したファミコン用ゲームソフトです。
ストーリーは、Dr.ライトが開発した家庭用ロボット「ロック」が、悪の天才科学者Dr.ワイリーから平和を守るため、
自ら戦闘用ロボット「ロックマン」に志願し、改造してもらいました。
Dr.ワイリーの野望を阻止するため、ロックマンが立ち向かいます。
ロックマンのゲーム概要は、自分でステージを選択し、そのステージにいるボスを倒していきます。
ボスを倒すとそのボスの特殊武器が獲得でき、それが他のボスの弱点になっていて、攻略が楽になります。
本家ロックマンはFC6作、SFC1作、PS1作、GB5作、その他番外編もあります。
で、今回【IRREGULAR HUNTER NATSUMI】の元ネタとなった「ロッ○マンX」ですが、
本家から100年後の世界が舞台です。
ロッ○マンの後継機エックスが、相棒のゼロ(実はDr.ワイリーの最終傑作)とともに活躍します。
SFC3作、PS3作、GBC2作が発売されています。
一度やってみてはいかがでしょうか?
450たぢから:02/06/09 00:17 ID:MyxvD5yl
【IRREGULAR HUNTER NATSUMI】

『緊急事態発生! 緊急事態発生! 待機中のハンターは直ちに出動せよ!!』

ナツミ司令室のユウコから、大規模なクーデターが発生したことを知らされる。
仲間とともに現場へ急行するが、そこには・・・

「馬鹿め! 私に勝てるとでも思ったの、ナツミ! 命は一つしかないんだ。
大事に使うべきだったね・・・ ハハハハハハハハ!」

NEXT−ACT1.SORTIE/2002.6.12up


451    :02/06/09 00:45 ID:IywIF5TJ
『たぢから』さん。
ご丁寧な補足説明ありがとうございます。
いやあ・・こうしてみると、ロッ○マンって奥深いっスねえ・・・。
452名無し募集中。。。:02/06/09 02:52 ID:EXgPLRNX
新作もおもしろそう。夏までのつなぎで終わらすには惜しい名作となる予感・・・
453たぢから:02/06/09 23:46 ID:lCHqSrzt
>452さん
果たして名作・・・になればいいですが。
ご期待に添えられるよう、校正に力を注ぎたいと思います。

>読者の皆様
【IRREGULAR HUNTER NATSUMI】も「くノ一娘。」同様、楽しんで頂けると有難いです。
また、まだまだ「くノ一娘。」第二部へのリクエストは募集中です。どんどんカキコしてください。
・・・私、もんの凄く寂しがり屋さんなので、レスが欲しいです!
わがままですんまへん。
454 ◆KOSINeo. :02/06/09 23:58 ID:VMeJcb/c
もう新作が始まっていたんですね。それにしてもロック○ンとは懐かしいです。

また、小説総合スレッドで紹介しても良いですか?
455たぢから:02/06/10 00:02 ID:AibGit7q
>454,◆KOSINeo.さん

どうもです。今回もよろしくお願いします。
456たぢから:02/06/11 23:05 ID:z2pINhHX
レスないっスね・・・
「くノ一娘。物語」が毎日更新だったからでしょうか?
(●´ー`●)<テコ入れするべさ!

というわけで、現在「くノ一娘。物語・第二部」と並行して、
【IRREGULAR HUNTER NATSUMI 2】も書いています。
どちらも、頭の中にあるいろんな設定を、一つにつなげる作業なのですが、
筆力が語彙力が足りない・・・。

そして、【IRREGULAR HUNTER NATSUMI】緊急(?)アップでごわっす!
457たぢから:02/06/11 23:06 ID:z2pINhHX
【IRREGULAR HUNTER NATSUMI】

ACT1.SORTIE
悪夢から覚めたナツミは、急いで司令室へと向かっていった。
そして慌しいハンター達の波をかわし、司令室へと入った彼女は、
司令室の中心にいたユウコを見つけるとそばに駆け寄っていった。
「ユウコ!一体何があったの?」
「落ち着いて聞いてくれるか。」
いつもとは違う様子なので、この事態が尋常でないものをナツミは感じ取った。
「トーキョーシティの中枢部、セントラル・シンジュクでイレギュラーが大量発生や。しかも・・・」
「しかも・・・?」
「イレギュラーはな、Dr.TKのレプリロイドなんや。」
「えっ!?」
458たぢから:02/06/11 23:07 ID:z2pINhHX
Dr.TK・・・天才科学者レプリロイドである彼の名を知らない者はいない。
数年前、イレギュラーの原因の一つである、あるウイルスプログラムを発見し、
それを抹消するワクチンプログラムを開発し、全世界に広めた。
その結果、世界中からイレギュラーを一時的にではあるが、一掃するという多大な成果を挙げたのである。
この偉業によりDr.TKはレプリロイド学会のみならず、情報工学会や電子工学会等からも注目されていった。
更に彼は人類とレプリロイドが共存する平和都市“TKタウン”の建設を宣言し、
その準備の為に世界中から優秀なレプリロイド達を招待したのである。
それから数ヵ月後、TOKYO CITY北部にTKタウンは無事完成し、都市の運営も滞りなく行われていた。
また彼の作ったレポリロイドも、世界各地で活躍している。
その為、彼はレプリロイドだけでなく人類からも多くの支持を得ていたのだ。
そのDr.TKが、イレギュラー化したというのだ。
459たぢから:02/06/11 23:08 ID:z2pINhHX
「Dr.TKは既に宣戦布告している。イレギュラーハンター出動や!」
「わかったわ!ナツミ、出動します!!」
丁度駆けつけたアスカらと共に、ナツミはガレージに向かった。
颯爽とエアバイク“ライドチェイサー”にまたがり、ハンターガールズは夜の街へと出動する。
摩天楼の間をすり抜けると、やがてシンジュクが見えてきた。
「酷い・・・ね・・・」
シンジュクの変わり様に、ナツミは呻いた。
シンボルでもある高層ビル群は無惨にも瓦礫の山とかし、周りに人々の死体が散らばっていた。
虫の息の人々の呻き声が熱風の起こす爆音と共に響き、血と焼けた人の臭いが充満していた。
そしてナツミの前には幼い少女の手だけが・・・
ナツミはそれを見るとすさまじい殺気を放ち始めた。
「・・・イレギュラーめ・・・許さない!!」
460たぢから:02/06/11 23:10 ID:z2pINhHX
「私達は生きている人々の救助を優先するから、ナツミとアスカはイレギュラーの処理を。」
背の高いハンター・カオリの指示で、ハンター達は動く。
「いくよ、ナツミ!」
「OK!」
ナツミとアスカはライドチェイサーを最高出力で噴かせると、勢い良くシンジュクの真っ只中へと突っ込んだ。
街中を疾駆するライドチェイサーは当然のように即座に発見され、二人の行く手を阻むが如く、
無数のイレギュラー達が武器を手に二人の前に立ち塞がる。
「急な飛び出しは自殺行為だよ。」
そう言い放つとアスカはライドチェイサーから飛び降り、その車体を群がるイレギュラー達に向けて叩き込んだ。
十数人のイレギュラー達を巻き込み、ライドチェイサーは激しい爆炎、派手な轟音と共に無残に四散していった。
「ナツミは奥へ進んで!」
「わかった!」
461たぢから:02/06/11 23:11 ID:z2pINhHX
次々と現れるイレギュラー達に対し、ナツミはライドチェイサーにまたがったまま、バスターを放つ。
ナツミはライドチェイサーの機動力を生かしながら、着実に街の中心部へと歩を進めていた。
・・・というのも、中心部のほうからイレギュラーが向かってくるのだ。
逆に言えば、中心部の方にイレギュラー達の、Dr.TKの前線基地などがあるはずだ。
(結構大規模なクーデターだな・・・早めに潰さないと・・・)

暫くして、ナツミは大広場に出た。シンジュクの中心部“セントラル・パーク”だ。
尤も、こちらも瓦礫の山で、美しかった公園の姿は微塵も無い。
ライドチェイサーがその山を走っている時であった。
ナツミは、瞬時にして横から何者かが自分の方向に来る事を感じ取った。
そしてナツミがその方向を向いたその瞬間・・・
謎の物体が、横からナツミの乗っていたライドチェイサーを、体当たりで見事に撃破してしまったのである。
大爆発を起こし、金属屑へと化していくライドチェイサー。
ナツミは辛うじて離脱し、ライドチェイサーを撃破した物体を見ていた。
462たぢから:02/06/11 23:12 ID:z2pINhHX
ナツミから離れる事数メートル先に、先程の物体は止まった。
よく見ると、それは戦闘用のライドアーマーだった。
暫くすると、そのライドアーマーは向きを変え、乗り手のレプリロイドが判断できた。
そのレプリロイドはナツミ同様の女性型で、漆黒のアーマーを纏い、肩にはランチャーを装備している。
紛れも無く戦闘用レプリロイドだ。
「お前は・・・?」
「Dr.TK軍団特攻隊長アミーゴ! お前こそ何者だ?」
「イレギュラーハンター精鋭部隊のナツミよ!」
「あの“ハンターガールズ”のナツミか・・・相手にとって不足は無いね。でも・・・」
そういうと、アミーゴは不気味な笑みを浮かべた。
「一瞬で終わらせてやるよ!」
463たぢから:02/06/11 23:15 ID:z2pINhHX
そして次の瞬間にはナツミの懐をライドアーマーが取っていた。
一流のアーマー乗りであるアミーゴはアリドアーマー持ち前の驚異的なスピードで、
ナツミの腹部にライドアーマーの拳をぶち込もうとした。
だがそれをナツミはかわしつつ、ライドアーマーにバスターを放った。
「むっ!」
ナツミのバスターからは閃光が絶え間なく放たれていた。
その連射速度も然る事ながら、威力はライドアーマーの動きを封じている。
これがイレギュラーハンター・ナツミの武器“Nバスター”の実力である。
だがライドアーマーは負けじとバスターの雨に立ち向かい、ナツミを突き飛ばした。
その勢いで瓦礫の山の斜面を転がり落ちる。
「くっ・・・!」
何とか体勢を立て直そうとナツミは四肢に力を入れて踏み込んだ。
しかし背後をとられ、ライドアーマー右手にナツミの頭がに掴まれてしまった。
「しまっ・・・!」
「捕まえた!!」
464たぢから:02/06/11 23:16 ID:z2pINhHX
ナツミの頭を鷲掴みにしたアミーゴは、ライドアーマーを巧みに操り、廃墟ビルへ突進した。
アミーゴはその勢いでナツミの頭を盾にして、次々と壁を貫いていった。
頭部を鷲掴みにされたナツミには成す術が無い。
まるで壁を破壊する為の道具かの様に壁に何度もぶつけられては砕かれた。
「おらああああああああああああああああ!!」
激しい轟音、そして砂埃と共に二人の姿がビルの外に現れた。
ナツミの蒼いボディはあっという間に傷だらけになってしまった。
特に壁を何度も強打したメットは酷い。それでも尚アミーゴの勢いは止まらない。
更に止めとして、彼女は先に佇んでいたもう一つのビルの瓦礫にナツミの頭を強く押し込んだ。

激しい轟音と共に、紅い血(オイル)がライドアーマーに飛び散った。
465たぢから:02/06/11 23:20 ID:z2pINhHX
以上が今回アップ分です。
やっぱ(?)、あの女が出てきました。しかもヴァヴァのポジションで。
ナツミを叩きのめすに、これほど使い勝手がいいキャラはいないっス。

・・・次回アップは週末くらいになりそうです。
466    :02/06/12 00:47 ID:U5D2Hb2Z
がんがれがんがれ、おもろいっス!!
467たぢから:02/06/12 23:55 ID:J/nj7y1G
>466さん
がんばりまっす!!

今頃になって気付きました。
元ネタのない「くノ一娘。」は比較的スラスラと書けましたが、
【IRREGULAR HUNTER NATSUMI】って話が半分決まっているので書きにくいですね。
でも、完結させたい。完結しなきゃ前置きの意味がぁ・・・
468たぢから:02/06/14 23:28 ID:8XTFJXDD
静寂…
ナツミは動かなかった。手応えを確認したアミーゴは、ライドアーマーの右手をナツミから離した。
ナツミの顔は血だらけで紅く染まっている。もはや無事でいられる筈が無い。
「馬鹿め! 私に勝てるとでも思ったの、ナツミ!命は一つしかないんだ。
 大事に使うべきだったね… ハハハハハハハハ!」
…だが、暫くするとナツミは再び動いた。
「うぅ…」
動けたはいいが、もはやそのダメージは計り知れない程だった。
起き上がろうにも腕に力が入らない。眼を開けるのが今の彼女には精一杯である。
「…未だ動けるの?じゃあ、さっさと息の根を止めてやるよ!」
ナツミの予想以上の打たれ強さにアミーゴは少なからず感心した…が、
次の瞬間、ライドアーマーの腕を高々と上げ、ナツミ目掛けて一気に振り下ろした!
469たぢから:02/06/14 23:29 ID:8XTFJXDD
だが、ライドアーマーの腕はナツミに届く前に、何かによって吹っ飛ばされた。
「何っ!?」
「今…のは…」
その何かが来た方向を見ると、両手を前にかざしたアスカが立っていた。
アスカ必殺のA−ツイン・ブラスターが、ライドアーマーの腕を消し去ったのだ。
アスカは間髪いれずエネルギーをチャージ。手の周りが輝きだす。
「大人しくナツミから離れて。次はライドアーマーごとアンタを破壊するよ!」
「チッ…」
アスカの力を見せつけられたアミーゴは、ライドアーマーから狼煙を上げた。
すると、轟音と共にDr.TKの戦艦コムログマーが飛来、ライドアーマーごとアミーゴを回収した。
アスカは手出しできなかった。アミーゴに攻撃すれば、自分が戦艦に撃たれることは必至だったからだ。
戦艦を見送ると、アスカはナツミの元へ駆け寄った。
470たぢから:02/06/14 23:32 ID:8XTFJXDD
「ナツミ!」
「う…」
この我楽多同然の身体から手遅れと思われたが、何とかナツミはアスカの呼び掛けに答える事が出来た。
「…私は… アミーゴは…?」
「私が一応撃退したけど、それ以上は…」
「悔しい…私の力ではアイツらを倒すことが出来ない…」
悔しさのあまり、僅かではあるが拳を握り締めるナツミ。
「ナツミ。確かに今の状態では貴方はアミーゴやDr.TKの軍団には絶対に勝てないわ。
 それは私だって例外じゃない。でも忘れないで。私達には無限の可能性があるのよ。」
 “無限の可能性”…それはハンターガールズ顧問博士Dr.ツンクが以前話していたことだ。
ナツミやアスカだけではなく、ハンターガールズの隊員は皆ポテンシャルが高いという。
機械は設定された能力値を超えることは不可能のはずなのだが…
「…だから、私はそれに賭けるよ。」
471たぢから:02/06/14 23:33 ID:8XTFJXDD
基地に戻ると、ナツミは直ぐ修理にかけられた。
メットの破損が酷かったものの、ブレイン部は無傷であり、ある程度のパーツ交換で済む。
数時間後、完全回復したナツミはユウコのいる司令部へと向かった。
「おおナツミ! 大丈夫か?」
「まあね。それより事態はどうなってるの?」
「それがな…結構厄介なんや。」
「どういうこと?」
ユウコの話によると、TK軍団の数は物凄く、各地の目ぼしい都市はほぼ制圧されたという。
破壊と混乱だけしか存在しない、暗黒の世になりつつあった。
「他の部隊と協同しての都市奪回作戦は既に始まってるけど…なかなか進まなくてな。」
「じゃあ、急がなきゃ!」
472たぢから:02/06/14 23:37 ID:8XTFJXDD
「ナツミ、待った!」
急ぐナツミをユウコは制す。
「アンタには別任務がある。今からウチが言う八つのポイントを攻めるんや。
 どこもTK軍団の重要拠点で、屈強のレプリロイドがおるはずや。
 そいつらを全部ぶっ潰すこと…それがアンタの任務や。」

−八大拠点−
・極北の寒冷基地−ソウヤベース
・大型空軍基地−エアポート・ミサワ
・海洋開発最前線−ワカサ・ベイ
・謎の森林−フジジャングル
・新時代の象徴−ロッコウタワー
・機械製造工場地帯−ファクトリーエリア・ヒノ
・閉鎖された鉱山−マイン・カミオカ
・超大型発電所−パワープラント・オナハマ
473たぢから:02/06/14 23:38 ID:8XTFJXDD
「さっきの修理でバスターもパワーアップさせといたから、頑張ってや!」
「分かったわ。ナツミ出動します!!」
ナツミはハンター専用機に乗り込み、すぐさま飛び立った。
474たぢから:02/06/14 23:39 ID:8XTFJXDD
-CHARACTER FILE-

4.カオリ
イレギュラーハンター精鋭部隊(通称ハンターガールズ)所属。
長身で動きが機敏なAクラスのハンター。
人間で言えば第六感のようなものを持っており、それを活かし、集団行動においては指揮をとる。

5.アミーゴ
TK軍団の特攻隊長で、特Aクラスの戦闘用レプリロイド。
さらに、世界屈指のライドアーマー使いで、自分のマシンを手間をかけてチューンアップしている。
雑魚に対しては、自分の手を一切汚さずにライドアーマーで甚振るという残忍極まりない性格である。
右肩に装着されたランチャーからは、様々なエネルギー弾が発射される。
475たぢから:02/06/15 05:40 ID:2jTK/hVY
【IRREGULAR HUNTER NATSUMI】

「ケッ!熱いヤツって嫌やな。まあ、すぐに氷のベッドでおねんねさせてやるでっ!!!」

北の大地へと赴いたナツミ。そこでは人間達がレプリロイドの元で強制労働されていた。
氷のイレギュラーとの死闘が今、始まる。

「罪も無い人を何人も殺して…それでもまだ飽き足らないのかぁ!!」

NEXT−ACT2.SNOW GRAVE/2002.6.19up
476たぢから:02/06/16 23:02 ID:ZL1DzADd
予定変更。「くノ一娘。」みたいに、こまめにアップします。
477たぢから:02/06/16 23:04 ID:ZL1DzADd
ACT2.SNOW GRAVE
それから数時間後、ナルミはソウヤベースに近い町ホロノベタウンに来ていた。
この町は情報によるとこの地域では一番大きな町で町は明るく、にぎやかであるはずだった。
しかし、町の雰囲気は情報とは違い、暗く、まるでゴーストタウンのような静けさだった。
「情報が得られる…かな…」
とりあえずナツミは目についた酒場らしき店に入っていった。
しかし、そこは若者はおらず、変わりに老人達だけがひそひそと酒をあおっていた。
そして、しばらくすると入ってきたナツミに気づき、その周りを囲むように集まってきた。
そして、一人の老人がナツミの前に立った。
「アンタ…イレギュラーハンターか?」
「はっ…そ、そうですけど…」
突然の質問にナツミは戸惑った。そして、前にいた老人は突如ナツミに頭を下げた。
「お願いですじゃ!ワシらの町を助けてくだされ!!」
478たぢから:02/06/16 23:05 ID:ZL1DzADd
その老人の話によると、数日前にDr.TKの軍勢が突如この町に侵攻し、
20〜40代の男性を捕まえて、基地に連れ去っていったということだった。
そして数時間前、その基地から重い傷を負って逃げてきた若者の話によると、
基地にいる人々は兵器開発の人手として三日三晩寝ずに働いているということだった。
「もしかすると、女や子どもにまで手を出されるかもしれませんし、
 このままでは町が全滅してしまう。お願いです!どうか助けて下さい!」
「…分かりました。」
ナツミの返答は即答だった。それを聞いた町の人々は喜びに溢れ帰った。
(しかし、わざわざ人間にしなくても、レプリロイドの労力を使えばいいのに…)
ナツミはそれが不思議でならなかった。
479たぢから:02/06/16 23:07 ID:ZL1DzADd
そのころ、ソウヤベースの中では激しい労働で今にも倒れそうな人々のうめき声と、
レプリロイド兵士達の怒鳴り声が響きわたっていた。
なぜならば彼らはいっさい機械を使わずに作業をしていたからであった。
重い物もフォークリフトで運ばす、何人かの人で持ち上げ、溶接作業に関しても人の手でされていた。
その為、いつもとは違う重労働に耐えられなくなり、死者がもうすでに5人を越えていた。
「ケケケ…人間とオレ達の立場が逆転しているってのは気持ちええわ!」
指揮官のレプリロイド、“雪原の皇帝”ハマダー・ペンギーゴは奥の部屋でくつろいでいた。
彼は寒冷型のレポリロイドなので、部下と共に人間では行えない極地での労働に従事していた。
そのことに不満を持ち続け、今回の反乱にいち早く加わったのだ。
そして今、新兵器開発の遅れを分かっていながらも、人間だけに労働させているのだ。
480たぢから:02/06/16 23:08 ID:ZL1DzADd
突然、部屋にあるモニターがDr.TKの姿を映しだした。
「ハマダー・ペンギーゴ…新兵器の開発に時間がかかりすぎだ。早くしてくれ。」
そういわれたペンギーゴは少し表情を険しく変えた。
「ええやないですか。愚かな人間を従事させるのは、気分がええですよ。」
「フン…まあいい。でも早く完成させてくれ。ハンターどもも動いているからな。」
Dr.TKは念を押すと通信を切った。
「ケケケ…ハンターなんざオレ一人で充分やで。」
そのとき、基地周辺を守っていた兵士から緊急連絡が入った。
「イレギュラーハンターがこちらへ一人でやってきます!!」
するとペンギーゴはにやにやした顔に戻った。
「早速やってきたか…少しは楽しめるかいな?ケケケケ…」
481松夫:02/06/17 18:14 ID:C2lPATNg
おもしろいですね♪
ところで、Dr.TKの配下はもっと他にもでてくるんでしょうか?
例えば・・・って、ここで書いたら反則ですよね。
あと、ハマダー・ペンギーゴは、浜ちゃんのことですか?
482たぢから:02/06/17 23:03 ID:3Jfnc+p8
>481/松夫さん
ありがとうございます。

とりあえず、元ネタ「ロッ○マンX」をご存じない方に補足させていただきます。
これをよめば【IRREGULAR HUNTER NATSUMI】を百倍楽しめるはずです。
あ… 0×100=0…
483たぢから:02/06/17 23:05 ID:3Jfnc+p8
「ロッ○マンX」ストーリー

西暦21XX年…
進化したロボットと人類が共存する世界。
完全に人間的思考を持った“レプリロイド”と呼ばれる新世代ロボットがそこにいた。
電子頭脳に異常を来たしたロボットは“イレギュラー”と呼ばれ、
それらを取り締まる為の特殊警察的組織“イレギュラーハンター”が存在していた。
ハンターの任務は、人間やレプリロイドに危害を加える全てのイレギュラーを発見し、抹殺する事にあった。
その中で最強といわれていたレプリロイド「シグマ」が突如反乱を起こした。

「人間は我々の敵だ! 人間など不完全で弱いイレギュラーに過ぎん! 真のイレギュラー“人間”を抹殺しろ!」
…このシグマのの呼びかけに、数多くのレプリロイドたちが反乱に加わり,
そうしなかったレプリロイドはその力の前に破壊され、もしくは屈服させられてしまったのだ。
484たぢから:02/06/17 23:06 ID:3Jfnc+p8
そして、シグマの軍団に立ち向かう者はたったの二人のみとなってしまった…
一人はエックス。第17部隊所属のハンターでシグマの部下に当たるレプリロイド。
彼はシグマの突如の反乱、そして共鳴した他のハンターの言動に困惑し、戦場と化した街に悲観した。
そしてエックスは悩んだ。
シグマ側についてレプリロイドの世界を築くべきか… 人類を守る為にシグマに立ち向かうか…
悩んだ結果エックスが出した答えは…
「強い力を持っているからこそ、命ある人間を守っていかなければならない!」

もう一人はゼロ。同じく第17部隊に所属するハンターで、エックスの先輩に当たる。
彼にとってシグマはもはや反乱を起こした只のイレギュラーに過ぎず、
あくまでハンターとして彼を破壊・処理する為に、共にシグマの軍団と戦おうとエックスに呼び掛ける。
破壊された平和を取り戻す事が出来るのは、もはやたった二人のイレギュラーハンターだけとなってしまった。
エックスとゼロは、この反乱を止める事が出来るのであろうか…?
485たぢから:02/06/17 23:12 ID:3Jfnc+p8
「ロッ○マンX」の8大ボス

“雪原の皇帝”アイシー・ペンギーゴ
“天空の貴公子”ストーム・イーグリード
“豪速拳の雷王”スパーク・マンドリラー
“鋼鉄の鋼弾闘士”アーマー・アルマージ
“深海の武装将軍”ランチャー・オクトパルド
“時空の斬鉄鬼”ブーメル・クワンガー
“幽林の妖撃手”スティング・カメリーオ
“灼熱のオイルタンク”バーニン・ナウマンダー
486たぢから:02/06/17 23:19 ID:3Jfnc+p8
…というわけで、本来は同士討ちのゲームなんです。

エックス→ナツミ、ゼロ→アスカは最初から決まっていて、
8大ボスをどうしようか、悩んでいました。
ストーム・イーダリードとかアイボン・ペンギーゴなんてのも思いついてはいましたが、
あくまで娘。系小説なので、同士討ちはいかがなものか、と思い、
シグマ→Dr.TK=小室○哉氏を起用しました。
必然的に、
スペシャルボス的位置のヴァヴァ→アミーゴ=鈴○あみ
8大ボス→小室プロデュースor関係者
という図式が成り立ちます。
そして、ハマダー・ペンギーゴ=浜○雅功(浜ちゃん)です。
この辺りの細かい補足は、キャラ紹介のところでさせていただきます。
では、本日アップ分をどうぞ。
487たぢから:02/06/17 23:20 ID:3Jfnc+p8
「これでだいたいの施設は破壊したはずだ。」
そう言っているナツミの傍らには、たくさんのイレギュラー兵の残骸が散らばっていた。
囚われていたいた人々も逃がすこともできたし、あとはここを守るレプリロイドを探すだけだ。
そのとき、ナツミに向かって何かの固まりが飛んできた。
「あっ!」
ナツミはその固まりを寸前で避けた。そしてその固まりを見た瞬間、彼女の背筋は凍った。
「…これは…!!」
その固まりとは、氷付けになっている青年だった。
体のところどころ傷つき、まるで何かを叫ぶような感じで凍り付いていた。
恐らく奥の方で労働させられていた人だろう。
488たぢから:02/06/17 23:22 ID:3Jfnc+p8
「い、一体誰が…」
「お前が、命知らずのイレギュラーハンターか?」
奥からペンギーゴが現れた。
「オレはハマダー・ペンギーゴ。ここの守護者や。残念やったな、全員逃がすことが出来なくて。」
ペンギーゴは片手に持っていた氷の固まりを地面にたてた。
その氷の固まりの中には、無惨な姿をさらけ出した一人の中年男性が入っていた。
「ま、弱っちぃ人間なんや、何人氷漬けにしても飽き足らへんがな。」
「何だって…!?」
そのとき、ナツミの体から凄まじい闘気が発せられ始めた。
「よくも…よくも罪の無い人々をっ!!」
ナツミはすばやくバスターを構えた。
「ケッ!熱いヤツって嫌やな。まあ、すぐに氷のベッドでおねんねさせてやるでっ!!!」
ペンギーゴの突進と共に戦いが始まった。
489たぢから:02/06/17 23:23 ID:3Jfnc+p8
それから数分後、戦いはペンギーゴがナツミを押していた。
ナツミも決して弱いはずではなかったが、ここは地の利というのだろうか、
寒冷地で一番パワーを発揮するペンギーゴの速さと多彩な氷の攻撃によって苦しめられていた。
「これでどうだっ!」
ナツミはチャージバスターを放った。しかし、
「オラアアアアア!」
バシッ!!
冷気を纏いタックルしてくるペンギーゴには通用しない。
「くっ!!」
やむなくナツミが壁を蹴ってタックルを避けようとしたその時、
「ローカルブリザード!」
「うわっ!」
ペンギーゴの創り出した吹雪によって、ナツミはバランスを崩し、地面に落下した。
490たぢから:02/06/17 23:25 ID:3Jfnc+p8
「アホか!隙だらけやでっ!!」
ドガッ!!
「うああっ!」
ペンギーゴの突進が見事ナツミに命中してしまった。
更にペンギーゴは吹っ飛ばされたナツミに向かって、追い打ちをかけた。
「くらえ!ショットガン・アイス!!」
「うああああっ!!」
ペンギーゴの口から連続して放たれる氷塊が、ナツミを痛めつける。
(こ、このままでは負けてしまう!あの氷さえ何とかすることが出来れば…)
しかし、壁際に追い詰められてしまった。万事休すだ。
「とどめや!フロストコフィン!!」
「ああああああああっ!!」
ペンギーゴの口から強烈な冷気が放たれ、瞬く間にナツミの体を取り囲んだ。
そしてナツミは為す術なく氷のオブジェと化した。
491たぢから:02/06/17 23:26 ID:3Jfnc+p8
「その氷の棺桶の中なら、いくらレプリロイドでも数分と持たずに全機能が停止する。
 お前はもう終わりや。ケケケ…」
苦悶の表情のまま氷漬けになったナツミを、ペンギーゴは嘲笑った。
「そういや名前を聞いていなかったな。ま、いいか。こんな雑魚じゃ自慢にならねぇし。」
そう言うと、ペンギーゴは逃げた労働者達を追うべく、その場を後にした。
492たぢから:02/06/18 23:01 ID:wlfvaxrC
意識が消え行く中、ナツミは自問自答していた。
(やはり私一人の力じゃ駄目なのか…もう死ぬの?)
(いや、まだ死ねない。私が死んだらあの町の人が…)
(でも、ペンギーゴには敵わない。)
(まだ勝つ見込みはあるよ。“無限の可能性”を信じるんだよ。)
(信じる…?)
(そう。あの町の人々だって私を信じてくれているのだから…それに報いないと。)
(信じれば、隠された力が目覚めるの?)
(そうさ。最初から諦めていたら、何も始まらないよ。)
(そうね…)
(さ、早くこの氷から脱出しようよ!)
493たぢから:02/06/18 23:03 ID:wlfvaxrC
「チッ!何やねんな…弱いヤツらが群れやがって…」
ホロノベの町に侵攻したペンギーゴは、即席の自衛団によって行く手を阻まれていた。
ペンギーゴが熱に弱いことくらい、町の人々は承知の上だったので、
町中にある火器を集め、戻ってきた若者達がバリケードを築いたのだ。
しかし、燃料が限られており、ペンギーゴに反撃されるのも時間の問題であった。
「無駄な抵抗は止めんかい!もうあのハンターはおらんねんで!」
高らかに降伏勧告をするペンギーゴ。だが…
「無駄でもやるさ!あのハンターが助けてくれた以上、それに少しでも報いたい!」
「そうだ!オレ達は負けない!!」
町の人々の意見は一緒だった。
494たぢから:02/06/18 23:04 ID:wlfvaxrC
「ケッ!熱い情なんてのは鬱陶しいわ。なら、オレも容赦せえへん。全員氷漬けにしてやる!」
そういうと、ペンギーゴは口を大きく開き、冷気を放とうとした。
が、その時…

ガカアッ!

ペンギーゴの視界は一瞬真白になった。
何が起きたのか判らぬまま彼は横に吹き飛ばされた。
「く…! 何や!? 一体何が…?」
そう言って額を抑えながらペンギーゴが眼を開けると、そこには信じ難い光景があった。
目の前にに、瀕死状態の筈であるナツミがバスターの銃口を自分に向けていたのである。
(馬鹿な… ヤツはどうやって氷の棺桶から… いや、仮に脱出できたとしても動ける筈は…)
ペンギーゴは面食らった表情でナツミを見ていた。
「許さない… 貴様だけは許さないよ…このイレギュラーハンター・ナツミがね!」
ナツミがペンギーゴに喋りかけた。
その声のトーンも、先程までの穏やかな雰囲気とは一線を画す鋭さを発していた。
495たぢから:02/06/18 23:05 ID:wlfvaxrC
「罪も無い人を何人も殺して…それでもまだ飽き足らないのかぁ!!」
ナツミは力強い叫びと共にバスターをペンギーゴに放った。
それを彼は間一髪で避けたが、バスターは出力・速射性・飛速度のいずれもが大幅な上昇を見せていた。
そして彼は見た。その時のナツミの顔が、先程とは打って変わった鬼の如くの形相を見せていた事を…
そして次の瞬間、ペンギーゴは後ろにナツミの殺気を感じ取り振り返った…が、
それよりも早くナツミはバスターから蒼色の閃光を放った。
その閃光と威力…明らかにフルチャージブラスターのそれだった。
チャージ時間までもが大幅に短縮された様だ。
真正面から食らったペンギーゴは、数十メートルは吹っ飛ばされた。
(し、信じられへん! 奴にあんな力が残っていたいうんか!? そんな、そんなアホな!)
496たぢから:02/06/19 23:01 ID:/3MNNPkn
「調子に乗んなや!この小娘がぁ!!」
今度こそ息の根を止めるとばかり、ペンギーゴは冷気を集中させた。
だが、思うようにエネルギーが出力されない。
「はっ!ま…まさか…」
何かに気づいたペンギーゴは、自分の背中をチェックした。
すると、彼の背中に装着された、赤いタンクの一部が破損していることが分かった。
恐らく先程の不意打ちでダメージを受けたのだろう。
「し、しもうた…!」
ペンギーゴは全身から血の気(血はなくてオイルなのだが)が引いてゆくのを感じた。
それもそのはずで、小柄なペンギーゴには多くのエネルギーを体内に保存することが出来ない為、
高圧縮タンクを背中に装備することで、多彩な氷の技を創り出していたのだから。
497たぢから:02/06/19 23:02 ID:/3MNNPkn
ペンギーゴの異変に、ナツミも町の人々も気づいた。
「ハンターさん!コイツを使って下さい!」
チャンスとみた町の人々は、今までの恨みを晴らすごとく、次々に燃料タンクをペンギーゴに投げつけた。
「や…やめろや…!!」
油まみれになりながら叫ぶペンギーゴ。だが、もう遅かった。
次の瞬間、ナツミのバスターがそれらのタンクを貫通、爆発…炎上した。
「ぐあああああああああああ!!」
498たぢから:02/06/19 23:05 ID:/3MNNPkn
数分後、火は消えた。残されたのは、黒コゲのペンギーゴの外骨格のみだった。
ナツミは駆け寄って、ペンギーゴの武器チップを回収した。
ナツミは汎用性の高いレプリロイドで、武器チップを装着することにより、
制限つきではあるが、他のレプリロイドの武器を使うことが出来るのだ。
なお、特殊武器は任務が終了するとハンター本部に返還することになっている。
武器チップの再利用の為だ。本来ハンターの武器は登録制で、他人の武器は使えない。
ナツミが無断で使えるのは、特例によるものなのだ。

やがて、極寒の地の冷気が壊れたペンギーゴを包み、一つの氷の塊に仕上げた。
それはまるで氷で出来た墓のようだった。
499たぢから:02/06/19 23:06 ID:/3MNNPkn
-CHARACTER FILE-

6.ハマダー・ペンギーゴ
“雪原の皇帝”の異名を持つ寒冷地用レプリロイド。
能力的に劣る人間の下で働くことに疑問を持ち続けていた。
氷や雪の技を多用する一方、熱に弱い。

(キャラ元)ダ○ンタ○ンの浜○雅功
500 The Happiest Man:02/06/20 00:14 ID:JNMZITeC


幸運の連続

 
501たぢから:02/06/20 23:01 ID:zO3TpH9g
ACT3.SKY HIGH BATTLE
北の大地を後にしたナツミは、ハンター専用機で南に向かっていた。
目的地は超大型発電所“パワープラント・オナハマ”である。
ユウコからの情報によると、ここの守護を務めるスパーク・ウツノミヤーは寒さに弱いという。
ペンギーコから奪った武器“ショットガン・アイス”なら楽勝だと考えたのだ。

だが、世の中そう思い通りには行かない。
突如ナツミの戦闘機は砲撃にさらされ、エンジンを損傷した。
「このままじゃ、墜落してしまう!」
やむを得ず、緊急用パラシュートで脱出する。
幸い、それ以上の砲撃を受けることはなく、近くの山に無事に着地した。
502たぢから:02/06/20 23:05 ID:zO3TpH9g
「ここは…どこ…?」
電波障害なのか、基地との連絡が取れず、山林をさ迷い歩くこと一時間、
ナツミは見晴らしのよい場所に辿り着いた。
すると、前方には広大な飛行場が現れた。
「これは…エアポート・ミサワ!間違いない!!」
そこはTK軍団に乗っ取られた空軍基地エアポート・ミサワだった。
さっきの攻撃は恐らくここからだったのだろう。
思いのほか、TK軍団の制空権は広いようだ。
「仕方ない。他への移動手段もないし、あそこを撃破しないと基地とも連絡が取れそうにないし。」
ナツミはエアポート・ミサワへの突入を決意した。
503たぢから:02/06/20 23:05 ID:zO3TpH9g
(どこも警備兵だらけだ…)
ナツミはエアポート近くの茂みに身を潜めていた。やはり空軍基地だけあって、警備が厳しい。
特攻も含め、侵入の手段を思案していたところ、後ろに何者かの気配を感じた。
「誰っ!!」
慌ててその気配のする方向にバスターをむけた。
「ちょ…ちょっと待ってよ!」
「あ! マリ…」
ナツミの目の前には、小柄な仲間のハンター、マリがいた。
「アンタ、何でここに…?」
当然のごとく質問するナツミ。もしかすると偽者の可能性もある。
504たぢから:02/06/20 23:07 ID:zO3TpH9g
「何でって…手助けに来たんだよ。」
「助け?」
「うん。私はこの近くのハチノヘシティで仕事してたんだけど、
ナツミの戦闘機がこの辺りで行方不明になったという連絡をユウコから貰ったんだ。
運良くアンタのパラシュートを見つけてね、追いかけてきたの。」
どうやら嘘は言っていないようだ。ナツミは出撃時に仲間の任務を一応聞いている。
「分かったわ。じゃあ、陽動に協力してくれる?」
「もちろん。このマリ様のロッド捌きに任せなさい!」
マリはバスターロッドYという伸縮自在の棒を武器としている。
これで多人数を相手にすることが多いのだ。
「じゃあ、私が入り口付近の警備兵を撃破するから、ナツミはその隙に。」
「OK!」
「じゃ、行くよ!」
505たぢから:02/06/20 23:07 ID:zO3TpH9g
まずは囮のマリが基地の入口に突っ込む。
勿論警備兵が見逃すわけはなく、マリ目掛けて銃を発射する。
「シールドスピン!」
マリはロッドを高速回転させて、全ての銃弾をはじく。
そして警備兵達がそれに怯んだところで、一気に間合いを詰める。
「スパイラルタイフーン!!」
マリはロッドを横に一閃し、警備兵達を切り裂いた。
「今よ!」
「ありがとう!」
入口が手薄になったところで、ナツミは突入した。
506たぢから:02/06/21 23:02 ID:PCN/Bq3v
空港内部の警備も厳しかった。警備の網をくぐれというのが無茶なくらいだ。
無尽蔵に警備兵レプリロイドが現れ、絶え間なく撃ってくる。
だがナツミは警備兵がやってくる方向にだけバスターを放ち、
他の連中には目もくれず、駆け抜けていった。
ここを制圧したレプリロイドを叩く。これが最短の攻略だからだ。
雑魚を相手にするだけの余計な時間など無い!
507たぢから:02/06/21 23:04 ID:PCN/Bq3v
空港内を駆け回るうちに、ナツミはある場所に辿り着いた。管制塔だ。
(もしかしたら…)
この付近で通信回線が遮断されている原因が管制塔だと睨んだ安倍は、そのまま突入した。
中は変わっていた。通路には必要以上にケーブルが見られ、敵の密度も高い。
やはりここに何かあるのだろう。ナツミは一気に塔の内部を上がる。
(さっきから気になるケーブルの束…管制室までつながってそうだ。)
管制室の扉が見えるや否や、ナツミはチャージバスターを放った。
轟音と共に崩れる扉…
そしてその向こうには…
508たぢから:02/06/21 23:06 ID:PCN/Bq3v
そこには大きな翼を持つレプリロイドが一体。
「お前は…!」
「私はTK軍団空挺部隊長“天空の貴公子”ストーム・キーネリード!」
「ここで通信回線を遮断しているわね?」
「そうだ。だが、見つかっては意味が無い。ここはひとまず退散する。」
そう言うと、キーネリードは窓を突き破って外へと逃げた。
「まてっ!…くっ!」
ナツミは慌てて追いかけようとしたが、まず遮断機を破壊することと、
拘束されている管制官達を保護するのが優先であることを思い起こした。
まずはバスターで機械を破壊し、通信回線が回復したところでマリと連絡を取った。
509たぢから:02/06/21 23:07 ID:PCN/Bq3v
「マリ!聞こえる?」
『ナツミか?感度良好だよ。』
「そっちは片付いた?」
『まあね。』
「じゃあ、今すぐ管制塔に来て、職員の人達を保護して。」
『ナツミはどうするの?』
「任務続行。ここの守護者ストーム・キーネリードを追うわ!」
『分かった。直ぐ行くよ!』
510たぢから:02/06/21 23:08 ID:PCN/Bq3v
マリが到着すると、ナツミは管制塔を駆け下りた。まっすぐ滑走路へと向かう。
「あ!あれは…!!」
滑走路の奥には見覚えのある飛行戦艦が離陸体勢に入っていた。
戦艦コムログマー…アミーゴが退散する時に使ったあの戦艦だ。
「逃がさないっ!!」
全速力でダッシュし、間一髪で飛び乗りに成功した。
「キーネリード!出て来い!!」
休む間もなくナツミは艦内を駆け回る。勿論レプリロイド兵を破壊しながら。
『女ハンターよ、これ以上暴れられても困るから、今すぐ甲板に出て来い。そこで勝負だ!』
艦内放送でキーネリードが応答する。そして、上への階段が現れた。
511たぢから:02/06/22 23:24 ID:MBgJvzMq
コムログマーの甲板は、丁度平たい屋根のようになっており、柵などはない。
その中央で、ナツミとストーム・キネ・キーネリードが対峙する。
「何故Dr.TKの命令を聞いたの?」
「製作者の命令は絶対だ。他に理由は無い。」
「アンタは誰も殺していないはず。今降伏すれば…」
「黙れ!イレギュラー認定された以上、死罪(破壊)は免れないこと。ならばここでお前を殺す!」
「落ち着いて!無益な争いは…」
「問答無用だ!!」
ペンギーゴと違い、聞き分けのあるレプリロイドかと思ったが、やはり相容れることは無いようだ。
彼から見れば、ナツミが甘すぎるだけなのだろうが。
512たぢから:02/06/22 23:25 ID:MBgJvzMq
「目標捕捉!五分以内に撃破する!!」
キーネリードは高らかに宣言すると、羽ばたき始めた。
「くっ…!」
羽ばたきによって生じる強烈な風が吹き付けて、ナツミは徐々に後退する。
いくら抵抗しても、前に進むことはおろか、持ちこたえることもままならない。
「くらえっ!」
バスターを放っても、風圧でエネルギーが拡散し、効果が無い。
そして、バスターを撃つときの体重移動の反動で、ますます下がってしまう。
このままでは甲板から落下、数百メートル下での死は免れられない。
513たぢから:02/06/22 23:26 ID:MBgJvzMq
「風を止めなきゃ…武器チェンジ!」
ナツミの頭脳チップから信号が送られ、バスターに組み込まれた武器チップを作用させる。
そしてナツミの体が、黄色と水色に変化する。
「くらえ!ショットガン・アイス!!」
エネルギー波であるバスターと違い、固形物であるこの武器なら風に負けないだろう。
「ぐおっ…!」
ナツミの読みは当たった。見事キーネリードの胸部に氷塊が直撃し、動きを封じた。
「今だっ!」
風が止んだので、一気に間合いを詰め、バスターを連射する。
ペンギーゴとの戦いを経て速射性の上がったバスターの雨は、キーネリードに羽ばたかせる隙を与えない。
「こ、小癪なぁ!」
突如キーネリードはナツミの攻撃から強引に上空へと抜け出し、一気に上昇した。
514たぢから:02/06/22 23:26 ID:MBgJvzMq
ナツミはキーネリードにバスターを放ったが、あっという間に射程圏外まで逃げられてしまった。
さすがは天空の貴公子だけあって、並外れた飛行能力である。
「このキーネリードをなめるなあっ!!」
ある程度上昇すると、キーネリードは向きを変え、ナツミ目掛けて急降下してきた。
「くらえ!ダイビングウィンド!!」
「ああっ!」
防御する暇なく、ナツミは弾き飛ばされた。
(速すぎる…全然かわせない…どうすれば…)
「よそ見している暇はないぞ!!」
ナツミが思案するまもなく、キーネリードは連続してアタックしてくる。
ナツミはピンボールのごとく、何度も宙を舞い、甲板の上を這った。
515たぢから:02/06/23 23:02 ID:W58HR0yy
「…さて、そろそろ五分だな。」
とどめをさしにキーネリードが降りてきた。
すでにナツミの鎧は、かなりダメージを受けてあちこちがひび割れていた。
そして彼女自身もあちこちから血(オイル)を流していた。
「やはり身の程知らずとでも言うか。無駄な抵抗だったな。」
「…まだ抵抗するよ…この命ある限り…!」
ナツミは震える体を奮い立たせ、キーネリードと向かい合う。
闘志は少しも衰えてはいない。
「そうか。では決定的な死を与えてやろう。ストームトルネード!!」
そう叫んだキーネリードの身体から、水平方向の竜巻が発せられた。
コムログマーの外板がいともた易く削り取られている。相当の破壊力の様である。
だが、ナツミは立っているのが精一杯で、そのまま竜巻に押されていった。
そして、甲板に追い詰められ…
516たぢから:02/06/23 23:03 ID:W58HR0yy
「天空の塵と化した…か…」
キーネリードは甲板の端にきて、下を眺めた。
…その時!
「くらえっ!Nチャージブラスター!!」
「ぐおっ!?」
突然の攻撃にキーネリードは避ける事が出来ず、その威力で数十メートル程飛ばされる羽目になった。
ナツミは、落下寸前に辛うじて甲板の端に捕まり、エネルギーをチャージしていたのだ。
「…五分過ぎたよ。残念ながら、撃破出来なかったね。」
「お、おのれっ!!」
ナツミの言葉にプライドを傷つけられ、キーネリードは怒りを顕にした。
そして、再び飛び上がった。
517たぢから:02/06/23 23:04 ID:W58HR0yy
「完膚なきまで破壊してくれる!ダイビングウィンド!!」
先程の強烈なアタックが、再びナツミを襲う。
だが、ナツミはそれを紙一重でかわすと、キーネリードの背後にバスターを放った。
「うおっ…!私の動きを見切ったというのか!?そ、そんなはずは…」
ナツミの変化が信じられないまま、キーネリードは別の角度から仕掛ける。
だが、結果は同じだった。
それでもキーネリードは何度もそれを繰り返した。
やはり絶対的な制空権から成るプライドが、そうさせるのだろう。
しかし、それが命取りとなることに気づくのは、少しばかり遅すぎたようだ。
518たぢから:02/06/23 23:06 ID:W58HR0yy
「死ねぇ〜〜〜〜〜!!」
「残念だけど、その言葉そのまま返すよ!」
ナツミはキーネリードの真正面に立ち、フルチャージバスターを放った。
「くっ…くそおおおおおおおお!!」
キーネリードは、蒼い閃光に飲み込まれて消えていった。断末魔の様な雄叫びだけが空間に響いていた。
後に残ったのは、小さな武器チップが一つ。ナツミは“ストームトルネード”を獲得した。

だが、勝利の余韻に浸る暇はなかった。
突如、戦艦コムログマーのバランスが崩れ、急降下を始めたのだ。
「まさか…キーネリードが死んだから!?」
そう。これはキーネリードが仕掛けた最後の罠だったのだ。
彼の死と共に、コムログマーの推進装置が停止、落下のカウントダウンが始まった。
519たぢから:02/06/23 23:07 ID:W58HR0yy
「このままでは地上に激突してしまう。」
だが、今更戦艦の飛行機能を回復することは不可能だ。
地上における多少の被害は免れられない。
止むを得ない…ナツミは自分の脱出を優先することにした。
艦内を駆け回り、脱出用の乗り物か、パラシュートを探す。
だが、どこにもそれらしき物は見当たらない。
「こ…これも計算済みだったというの!?」
ナツミは愕然とした。もう彼女逃げ場は無い。戦艦と運命を共にするのか…

ドガゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!
すさまじい爆音を響かせてコムログマーは地上に激突、大爆発を起こした。
520tadikara:02/06/23 23:09 ID:W58HR0yy
-CHARACTER FILE-

7.マリ
イレギュラーハンター精鋭部隊(通称ハンターガールズ)所属。
小柄なAクラスのハンター。
バスターロッドY(いわゆる如意棒)を駆使し、対複数でも戦える。
調子のいい性格をしている。

8.ストーム・キーネリード
TK軍団空挺部隊長で、“天空の貴公子”の異名を持つ飛行型レプリロイド。
忠誠心厚く、彼にとって製作者Dr.TKの命令は絶対である。
その一方、他者の言には耳を貸さない頑固な面も少しある。
風を自由に操り、ナツミを苦しめた。

(キャラ元)T○Nの木根○登
521たぢから:02/06/23 23:09 ID:W58HR0yy
↑コテハンが…
522名無し募集中。。。:02/06/24 00:44 ID:zNR5RDq+
>>520-521
ワラタ
523たぢから:02/06/24 23:01 ID:nm5fvr2I
ACT4.SPARK AND DARK
「…危なかった…」
ナツミは炎上しているコムログマーの残骸を見ながら呟いた。
ナツミは地上まで100mというところで、イチかバチか空中へ脱出、
慣れないストームトルネードを使って気流をコントロール、無事着陸したのだった。
(武器も使い方次第ね…運もあるようだし。)
そんなことを思いつつも、現在位置の把握が重要である。
本部のユウコに連絡をとる。
『ナツミか!マリから話は聞いてるで。で、どうしたん?』
「エアポート・ミサワのストーム・キネ・キーネリードを戦艦ごと撃破したんだけど、
今どこだか分からなくて。私の位置調べてくれる?」
『分かった。ちょっと待ってな…おっ!アンタついてるで!!』
「ついてる…って?」
『そこは、超大型発電所−パワープラント・オナハマや!』
「えっ!?」
524たぢから:02/06/24 23:02 ID:nm5fvr2I
よく見ると、残骸コムログマーの向こうには、半壊した巨大建造物が…
「あ、あれ…か…」
『そのまま任務続行やな。あとで誰かに迎えに行かせるから、それまでにカタつけといてや。』
「チョット待って。発電所に戦艦が突っ込んだ状態なんだけど…いいのかな?」
『…ええやろ。パワープラント・オナハマは全部機械制御やから人間はおらんて。
 人的被害がなければ何でも破壊して構わんて。ハンターの特権や!』
「…わかったわ。ナツミ、任務を続行します。」
何か後ろ髪引かれる(一応ナツミに髪の毛はある。戦闘時はメットに隠れるが。)思いがしたが、
任務優先なので、そのままパワープラント・オナハマへ潜入した。
525たぢから:02/06/24 23:03 ID:nm5fvr2I
パワープラント・オナハマの中は暗かった。
コムログマー墜落のお陰で内部の回線という回線が破壊され、発電所なのに停電しているのだ。
レプリロイドであるナツミの視力は人間の数十倍はあるのだが、それでも暗い場所は苦手である。
(セキュリティーシステムが作動しなくなったのはありがたいけど…見えないのは困るわ…)
仕方なく、手探りで進む。壁伝いに行けば、そのうち奥へ辿り着けるはずだ。
やがて目も慣れてきたのか、うっすらと見えるようになってきた。
ナツミの目の前には、何やらシャッターのものがある。
(防災シャッターかな?)
と思いつつも、ここまで一本道であったので、そのまま進むことにした。
ナツミが触れるとシャッターは上下に開いた。
扉の向こうも、暗かった。
(何も…なにのかな…?)
すると、後方でガッシャーンという金属音が響いた
526たぢから:02/06/24 23:04 ID:nm5fvr2I
「えっ!?」
シャッターが閉じたことにナツミは驚いた。
だがよく考えてみれば、電力供給のストップした所でシャッターが動くはずはない。
ということは、逆にこの辺りは電力供給されているということだ。
次の瞬間、ナツミの周りが明るくなった。
「こ…これは…!!」
ナツミがいるのは両側を例のシャッターで遮られた小部屋だった。
そしてその天井に浮かぶ球体のようなもの…
ナツミは事態が飲み込めず、ただ呆然と立ち尽くすのみだった。
527たぢから:02/06/25 23:00 ID:jNjG2s7u
『ハハハ!ようこそパワープラント・オナハマへ!』
突如小部屋に響く野太い声。
「誰っ!?」
『オレはここの主、スパーク・ウツノミヤーだ!』
「私をどうする気?」
『フン!オレの城を無茶苦茶にした貴様には、ちょっとした罰ゲームを課してやるのさ。』
「罰ゲーム?」
『貴様の真上にいる球体は“サンダースライマー”といってな。ここの実験で生まれたものだ。
 そいつを倒せたら、その部屋から出ることが出来る。だが、そいつは強いぞ。』
そういうと、ウツノミヤーの声は聞こえなくなった。館内放送だったのだろう。
528たぢから:02/06/25 23:01 ID:jNjG2s7u
ウツノミヤーの放送が終わると同時に、バトルが始まった。
サンダースライマーは天井に静止したままだったが、本体メカを覆う液体のような物の一部が降ってきた。
「うっ!」
ナツミは反応が遅れ、そのうちの一つを浴びてしまった。だが、ダメージはない。
しかし、その液体は粘性が高く、ナツミの動きを封じてしまった。
するとサンダースライマーはナツミの真上に移動し、雷撃を放った。
「あああああっ!!」
粘液の電気伝導率が高いのか、ナツミの全身に強烈な電撃と苦痛が走った。
ただ、そのエネルギーで粘液は蒸発、ナツミは動けるようになった。
529たぢから:02/06/25 23:02 ID:jNjG2s7u
(あの粘液で私の動きを封じて、本体が電撃を放つ二段構えの攻撃か…なら勝機はある!)
ナツミはサンダースライマーから離れると、壁に向かってジャンプ、最高点で壁を蹴った。
そして振り向きざまにチャージバスターを放った。
だが、本体メカを覆う粘液によってバスターのエネルギーが減少し、大したダメージが与えられなかった。
(チャージバスターが通じない!?…それなら…)
数撃てば当たるというわけではないが、今度は一点集中連射でバスターを放った。
だが、結果は変わらなかった。
手をこまねいているうちに、ナツミはまた粘液に捕えられ、電撃を喰らった。
(何て怪物なの…あの粘液さえ無ければ…)
その時、ナツミはあることに気がついた。
粘液を吹き飛ばすくらい広範囲にダメージを与えられる武器を使えばいい
530たぢから:02/06/25 23:03 ID:jNjG2s7u
(武器チェンジ!!)
ナツミの体が紫色に変化した。
「くらえ!ストームトルネード!!」
横方向の竜巻は見事粘液を粉砕し、本体にダメージを与えた。
だが、本体に電撃が走ると、再び粘液が周りを覆った。
そして、殆ど動かなかったサンダースライマーは、今度はナツミめがけて突進してきた。
「今更動いても遅いよ!」
ナツミはダッシュで楽々かわすと、再びストームトルネードを放った。
さらに、粘液を復元する暇を与えることなく、竜巻を連射した。

ドガアアアアアアアアアアン!!

本体メカで大爆発が起こり、それと同時に周りの粘液が飛散、蒸発していった。
跡形も無く消え去ると、目の前のシャッターが開き、先に進めるようになった。
531たぢから:02/06/25 23:04 ID:jNjG2s7u
小部屋を出ると、多くのレプリロイドが待ち構えていた。
幸い電力供給されていて明るかったので、ナツミいつも通りに戦うことが出来た。
次々と現れるイレギュラー達を粉砕し、ウツノミヤーがいるであろう最奥の部屋へ向かう。
広い発電所内を突っ走ること約30分、ナツミは先程と似たシャッターを見つけた。
(ここにウツノミヤーが…?)
すると、ナツミが触れるまでも無く、シャッターが開いた。その先は暗い。
「イレギュラーハンター! オレはこの奥にいる。来るがいい。」
間違いなくウツノミヤーの声だ。しかも肉声である。奥にいるのは確実だろう。
ナツミは意を決して、闇に飛び込んだ。
532たぢから:02/06/26 23:02 ID:IqLbt/Hu
ガッシャーン!

ナツミが通り過ぎると、シャッターは閉じた。
「ウツノミヤー!姿を見せて!」
「安心しな。オレは影から襲うような卑怯な真似はしない。」
ナツミの呼びかけに対し、前方からウツノミヤーが応えた。
「尤も、オレは闇に隠れることが出来ない性分でね。」
すると、目の前でイルミネーションのように光る点が複数現れた。
そしてその周りも明るくなっていき、やがてウツノミヤーの姿が明らかとなった。
ナツミとウツノミヤーが最奥の部屋で対峙する
533たぢから:02/06/26 23:03 ID:IqLbt/Hu
「何故ここを占拠したの?発電所一つくらいで、TK軍団には何の特にもならないと思うけど。」
ナツミの疑問に対し、ウツノミヤーの答えは意外なものだった。
「フハハ…何も分かっていないようだな。オレはDr.TKの為に働いているわけではない。」
「え…?」
「表向きはエネルギーの確保と、都市の機能を無力化するため発電所を襲ったことにでもなるだろうが、
オレは好物の電気を貪りつつごろ寝を決め込んでいただけだ。TK軍団の暴動に紛れてな。」
何と、ウツノミヤーは直接TK軍団と関りはなかったのである。
「ま、お前の目的はTK軍団の壊滅だろ?オレは関係ない。とっとと失せな。」
「TK軍団に関係ないとはいえ、都市機能を麻痺させたことに変わりないわ。イレギュラー認定間違いなしよ。
それに、シャッターを閉めた以上、私をそのまま帰すつもりは毛頭無いでしょう?」
ナツミの指摘に、ウツノミヤーの眉間がピクリと動いた。
「単なる小娘だと思ったが、やはりハンターだな。そうさ。ここを知られた以上、帰すわけにはいかない!」
ウツノミヤーの巨体から、強烈な闘気が立ちのぼる。
「そうはいかない。イレギュラーハンターとして、貴方を破壊する!」
ナツミもバスターを向けた。
534たぢから:02/06/26 23:05 ID:IqLbt/Hu
二人が戦いを始めてから、十分程経過した。
ウツノミヤーの攻撃は余りに激しく、かつ速すぎる為、ナツミは回避が精一杯という感じであった。
「エレクトリックスパーク!」
ウツノミヤーが右拳を力強く床に叩き付けると、そこから無数の電気の玉が発せられ、ナツミに襲い掛かった。
「くっ!」
まともに食らえば、かなりのダメージを負う事は必至であると感じたナツミは上方に回避した。
だが、それはウツノミヤーの計算でもあった。
「くらえパワーナックル!!」
ジャンプしたところを狙ってウツノミヤーが急速にナツミに近付き、彼女の顔面に拳をぶち込んだ。
「あああっ!!」
“豪速拳の雷王”の異名を持つウツノミヤーの拳は凄まじく、ナツミは壁にめり込んだ。
535たぢから:02/06/26 23:05 ID:IqLbt/Hu
「フハハハ…!どうした? もうオレの攻撃を避けることも出来ないのか!」
ウツノミヤーは動けないナツミに高速パンチを繰り出しながら叫んだ。
ナツミは何も出来ず、ただウツノミヤーの攻撃を受け続けた。
彼女の蒼い鎧は、かなりダメージを受けてあちこちがひび割れていた。
そして彼女自身もあちこちから血(オイル)を流している。
「フィニッシュだ!ライトニングスパーク!!」
雷電を纏った拳が、とどめの一撃としてナツミに炸裂した。
全身に強烈な電流を浴び、ナツミは声をあげることも無く崩れ落ちた。
「クックックッ…」
ウツノミヤーは低く笑った。
「お前の実力はそんなものか。あの程度の戦闘しか出来ない小娘がハンターなどとは片腹痛いわ!」
そしてウツノミヤーの笑みは、大きくなっていった。
「ハッハッハッハッハ! 力こそ全てなのだぁ! ハ――――ッハッハッハッハ…」
ウツノミヤーの勇ましい笑い声は、その部屋の中に響き渡った。
536たぢから:02/06/26 23:31 ID:IqLbt/Hu
読者の皆様のレスないっすね〜…
ネタがネタだけに誰もついてこれないかもしれないですが、
8月には「くノ一娘。物語」第二部始めますので、今しばしのご猶予を…

このままだと打ち切りやなぁ…
537たぢから:02/06/27 23:02 ID:4GLcBCI0
「…さて、いつまでもこんな所に置くわけにもいくまい。スクラップにしてやるか。」
ナツミの前に屈み込んだウツノミヤーは、メットが壊れむき出しになった彼女の髪を左手で無造作に掴んで、
顔を無理に引っ張り上げた。激しい苦痛に歪む彼女の顔は口から血をを流している。
「実にいい顔だ。だが、それも直ぐに壊してやるぜ。」
不敵な笑みを浮かべると、ウツノミヤーは右腕に力を込めた。
強烈な拳でナツミの頭を砕くつもりだろう。だが当のナツミは、少しも動かなかった。
「とどめだ!!パワーナックル!!」

その瞬間、部屋には静寂が漂った。
「な…っ…!?」
ウツノミヤーの拳は、確実にナツミの顔面を捉えていた…筈であった。
だが、その拳はナツミの顔面まであと数センチというところで止まっていた。
…いや、止められていたのだ。
538たぢから:02/06/27 23:03 ID:4GLcBCI0
「こ…これは…!!!」
見ればウツノミヤーの全身は凍りついていた。
「…ショットガン・アイスの味はいかが?」
ナツミは寸前のところで意識を回復し、がら空きとなっていたウツノミヤーの腹部に、
ショットガン・アイスをぶち込んだのだ。
そして、寒さに弱いウツノミヤーは全身が凍結してしまったのだ。
「なかなか隙が無くて攻撃が出来なかったけど…これで形勢逆転ね。」
ナツミは命がけでウツノミヤーの隙を作り出したのだった。
速さでも力でも劣る以上、頭で勝負したのだ。
もはやウツノミヤーに為す術はない。
539たぢから:02/06/27 23:04 ID:4GLcBCI0
「“力こそ全て”なんて間違ってるよ。力を生かす頭がなきゃ…」
「だ…黙っ…」
だが、ウツノミヤーは反論する間もなく動かなくなった。
極度の低温により、全ての機能が停止…死んだのだ。
ナツミの首を絞めていた手の力も無くなり、彼女は解放された。
ただ、ナツミにも力は残ってなく、そのまま床に倒れた。
「…でも…私も…もっと…強くなら…な…きゃ……」
ナツミの視界はどんどん暗くなっていった。
540たぢから:02/06/27 23:06 ID:4GLcBCI0
-CHARACTER FILE-

9.スパーク・ウツノミヤー
マンドリル型、電気タイプのレプリロイド。
製作者はDr.TKであるが、ウツノミヤーは彼の言うことは聞かず、
クーデターに乗じて制圧した巨大発電所で、好物の電気を貪り食っていた。
“豪速拳の雷王”といわれるだけあって、その拳の威力は凄まじいが、
寒さに非常に弱く、ショットガン・アイスで氷漬けにされた。

(キャラ元)T○Nの宇○宮隆
541たぢから:02/06/29 02:53 ID:MRg+XFU9
ACT5. CLOSED MINE
ぼやけていた視界が、徐々にクリアになってきた。
体に伝わる振動と、甲高いエンジン音が、そこが飛行機の中であることをナツミ教えてくれていた。
「…ここは…」
「ナツミ!気がついたか!!」
ナツミはぼやけた意識の中で、その声の持ち主に、必死に焦点を合わせようとしていた。
「あ…アヤ…」
ナツミの目の前にはメカニック担当のハンター、アヤがいた。
「アヤ! ナツミが気がついたの?」
コックピットから聞こえるのは、仲間のハンター、ケイの声だ。
「ケイ! アンタはちゃんと操縦しててよ。」
「ハイハイ…」
542たぢから:02/06/29 02:54 ID:MRg+XFU9
「ど、どういうことなの?よく分からないんだけど。」
ナツミはまだ自分の置かれている状況が分かっていないようだ。
アヤの説明によると、
ユウコからの連絡を受け、アヤとケイがナツミ救援に向かったのだが、
パワープラント・オナハマに着いたときには、既に決着がついていた。
ケイが凍りついたウツノミヤーを破壊した後、ナツミを回収したのだという。
「で、これがウツノミヤーの武器チップよ。」
「ありがとう…」
ナツミはバスターに武器チップをセット、“エレクトリクスパーク”を獲得した。
543たぢから:02/06/29 02:55 ID:MRg+XFU9
やがて、ケイの操縦するそのハンター専用機はどこかの山中に着陸した。
「さ、ナツミ、任務だよ。」
「ここは何処なの?」
「マイン・カミオカ近くの山の中。さ、これに乗っていって。」
アヤの指す方向には、見慣れないエアバイクが置いてあった。
「あれは?」
「私が開発した戦闘用ライドチェイサー“ディオ”よ。
従来のライドチェイサーに比べて性能を数倍上昇させてあるわ。
どこでも走れて環境にも優しいけど、一台しかないから大事に使ってね。
あと、これは基地から持ってきた予備の鎧とメットよ。」
連戦のせいで、ナツミの鎧は使い物にならなくなっていた。
アヤが持ってきてくれた予備は、ナツミにとってありがたい。
544たぢから:02/06/29 02:59 ID:MRg+XFU9
「至れり尽くせりで助かったわ。ありがとう。」
「私たちは他のメンバーの助けに向かうわ。くれぐれも無理しないでね。」
「大丈夫だよ。充分回復したからね。」
専用機を見送ると、ナツミは“ディオ”に跨った。
「よし、処女ドライブに出発よ!」
IDを入力してエンジンを始動。ディオ独特のジェットエンジン音が快く響き始めた。
エンジン始動と同時に起動したコックピットモニターは、マシンが異常無しである事を表示していた。
「現在地表示!」
ナツミの声に反応して、モニターに地図が表示される。
「マイン・カミオカは…北西1kmか。よし、いこう!」
ナツミはスロットルを思いっきり捻った。ディオは勢いよく発進し、マイン・カミオカへと向かった。
545たぢから:02/06/29 23:48 ID:yRU/J05k
マイン・カミオカ…
数世紀前から存在している巨大な鉱山である。
一時は鉱脈が涸れ、閉山されかけたのだが、ある素粒子の研究施設が建造された。
何かの成果が出たのだろうか、その研究施設も数十年前には無くなっている。
現在は、新鉱物“エネルゲン水晶”の鉱脈が見つかったこともあり、活気を取り戻している。

…と、モニターの資料には記されていた。
TK軍団はこのエネルゲン水晶を兵器利用するつもりなのだろう。
エネルゲン水晶は新時代のエネルギー原としての開発が期待されており、
試験的にレプリロイドにも利用されているくらいだからだ。
546たぢから:02/06/29 23:50 ID:yRU/J05k
ナツミは作業用レプリロイドがひしめく鉱山の中へと踏み込んでいった。
「どいてもらうよ!!」
そう絶叫するとナツミはディオのスロットルを最大まで捻り、疾風の如く坑道を駆け抜けていく。
轟音で疾駆するディオは即座に発見され、無数の作業員達が道具を武器に変えナツミの前に立ち塞がる。
だが、それらのレプリロイドは皆、ディオ搭載のバスターによって破壊された。
勿論セキュリティ完備なので、迎撃システムが作動。ナツミに向かって砲撃を仕掛けてくる。
だがナツミは巧みなテクニックでそれをかわしていった。
やがて、作業用レプリロイドや迎撃装置が見えなくなると、広い空洞に辿り着いた。
そこには、粗方崩壊した建物があった。恐らく素粒子の研究施設跡だろう。
施設跡には人のいる気配は全くなかったが、ナツミはその中に入っていった。
建物の中は長い年月がたっているせいか、あちこちに鉄骨がむき出しになっていた。
そしてしばらく進むとナツミは大きな扉の前でディオを止めた。
547たぢから:02/06/29 23:52 ID:yRU/J05k
「この扉は…」
古い施設に似合わず近代的で頑丈そうな扉は、明らかに怪しい。
「“虎穴に入らずんば、虎子を得ず”…かな。」
扉の前で立っていても何もならないので、扉を開けて中に入ることにした。
見た目と違って、扉は簡単に開いた。一寸先は闇だが、そのまま歩を進める。
しかし、ある程度進んでも、何も起こらない。
(ここを支配しているレプリロイドはいないのか…?)
とナツミが思い始めたその時…

ドドドドドドドドド…
548たぢから:02/06/29 23:53 ID:yRU/J05k
突如床が大きく揺れ始めた。そして、同時にナツミは不覚にもその揺れでよろけてしまった。
「じ、地震!?」
だが、その揺れを起こした張本人が天井を突き破って現れた。
それは赤紫がかった球状の回転体だった。
床で数回バウンドすると、それは回転を止め、人型となって着地した。
それは全身が鎧のような物で覆われているレプリロイドだった。
「来たなイレギュラーハンター…オレは“鋼鉄の鋼弾闘士”アーマー・アルマークだ!」
549たぢから:02/06/29 23:54 ID:yRU/J05k
ゴングはすぐに鳴った。
アルマークは再び回転体となると、ナツミめがけて突進していた。
「くらえ!ローリングシールドアタック!!」
「くっ!速いっ!!」
ナツミは一撃目をジャンプでかわした。だが…
「オラオラ遅ぇーよ!」
「ああっ!!」
後方の壁で反射したアルマーク回転体が、ナツミの背中を直撃したのだ。
そのまま床に落下する。
550たぢから:02/06/30 23:03 ID:aUV3NFG4
「オラオラァ!!少しは攻撃してみろよ!!」
ピンボールのごとく、アルマーク回転体は部屋の中を縦横無尽に動いている。
ナツミは何度か立ち上がりバスターを放ったものの、呆気なく弾かれ、
アルマークの体当たりを喰らって倒れる…の繰り返しだった。
「カカカ!オレの体は剛性に優れたアルマ合金製だ!そんなチャチな攻撃は効かねぇよ!」
(アルマ合金…確かこの金属の特徴は…)
アルマークの言葉に、ナツミは記憶を辿った。
そして何かに気づくと、ゆっくりと立ち上がり、回転体に銃口を向けた。
「くらえっ!!」
551たぢから:02/06/30 23:04 ID:aUV3NFG4
「ぐあああああああ!!」
ナツミのバスターから放たれた紫色の球は、見事アルマークを捕えた。
ナツミの体の色は橙色に変わっている。
ウツノミヤーから手に入れた“エレクトリックスパーク”であった。
「ぐおっ!」
電撃を浴びたアルマークはそのまま床に落下した。
全身を覆っていた装甲も、殆どが剥げ落ちている。
「ボロを出したね。アルマ合金製の特徴は剛性と電気伝導率の高さ。この武器が有効よね。」
「くっ…しまった…」
552たぢから:02/06/30 23:04 ID:aUV3NFG4
なんとか立ち上がるアルマーク。
だが、ダメージが大きいのと、装甲を失ったことで攻撃手段を失ってしまったので、
もはやナツミに対抗することは出来なかった。
だが、そんなことで逃げ腰になるようなアルマークではなかった。
「…TK軍団の誇りにかけて…貴様を倒す!うおおおおおおおお!!」
受けたダメージの一部をエネルギーとして集束させ、その体が輝く。
「リフレクションフラーッシュ!!」
掛け声と共にエネルギーを発散させる。
部屋は白い閃光に包まれた。
553たぢから:02/07/01 23:01 ID:hB+zPBLL
エネルギーの放出は数十秒位続いたのだろうか。アルマークはようやく攻撃を止めた。
辺りは、見るに無残なものであった。部屋の壁は無くなり、煙があちこちから昇っていた。
アルマークは辺りを見回した。人影は一切見当たらない。気配すら感じられなかった。
周辺には自分以外誰もいない事を悟ったアルマークは、大声で高笑いをし始めた。
「ククク…ファーッハッハッ!どうやら光の中に消し飛んだようだな! ざまぁみろ!!」
アルマークは誇らしげにそう言いながら笑い続けた。
「ハーッハッハッハッハッハ…ハ?」
アルマークの笑いは止まり、身体は震え始めていった。背後に突然殺気を感じたからである。
554たぢから:02/07/01 23:01 ID:hB+zPBLL
「ま、まさか…」
そう言いながら振り返ると、蒼いバスターが射出口をアルマークの頭部ギリギリまで近付いていた。
何と、ナツミは先程の攻撃を全て防ぎきっていた上、彼の後ろをとっていたのである。
「…終わりよ。」
「くそおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
防御も出来ず、アルマークはナツミの発射したエレクトリックスパークのプラズマに飲み込まれていった。
悔しさを十分含んだ断末魔の様な雄叫びだけが空間に響いていた。
555たぢから:02/07/01 23:02 ID:hB+zPBLL
残ったアルマークの武器チップを手に入れると、ナツミはディオに戻ろうとした。
その時だった…

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

「この揺れは…今度こそ地震!?危ない!!」
先の戦闘でアルマークもナツミも地下で強大なエネルギーを放ったため、
もともと老朽化の激しかった鉱山の崩壊を早めてしまったのである。
ナツミは急いでディオに乗ると、スロットル全開で来た道を戻った。
「お願いだから急いでよ!!」

暫くして、マイン・カミオカは崩れ落ちた。跡形も無く…
崩れた鉱山を背に、ナツミはディオに乗ったまま、西へと向かった。
次の目的地は、海洋開発最前線−ワカサ・ベイである。
556たぢから:02/07/01 23:02 ID:hB+zPBLL
-CHARACTER FILE-

10.アヤ
イレギュラーハンター精鋭部隊(通称ハンターガールズ)所属。
Aクラスのハンターではあるが、前線に立つことはめったに無く、
ハンターガールズのメカニックを担当する。
日頃から、武器やアーマーの開発に余念が無い。

11.ケイ
イレギュラーハンター精鋭部隊(通称ハンターガールズ)所属。
Aクラスのハンター。
ロケット砲やランチャーなど、大型の火器を使い、
対複数の戦闘においては欠かせない存在である。
今回はアヤと行動し、各地のハンターの援助をしている。

12.アーマー・アルマーク
アルマジロ型のレプリロイド。
“鋼鉄の鋼弾闘士”の名に相応しく、特殊合金“アルマ合金”の鎧で全身を覆い、
高速での体当たり攻撃を得意とする。
しかし、この合金は電撃に非常に弱く、鎧が剥がれた後は、
ナツミに呆気なく滅ぼされてしまった。

(キャラ元)gl○beのマーク○ンサーこと酒井○一
557名無しでござる:02/07/01 23:29 ID:AntQ3/Kr
相変わらず面白いですね♪
それよりも、マーク○ンサーが日本人だったことにビックリ!(w
期待しております、頑張って下さい!
558たぢから:02/07/02 00:10 ID:0UNwyEln
うわ〜! 久々に読者様からのレスがっ!!

そうです。詳しいことは知りませんが、マーク○ンサーは日本人です。
なお、www.d4.dion.ne.jp/~warapon/ で芸能人の本名が調べられます。
意外に知られてない名前も多いです。

次回からは後半4ボス戦に突入です。
559たぢから:02/07/02 23:04 ID:NLxhy40p
ACT6.DEEP OCEAN BASE
ワカサ・ベイ…
リアス式海岸を持つ馬蹄形の湾。
古くから海洋開発が行われており、現在は多くのプラントが立ち並ぶ。

マイン・カミオカから数時間でナツミはワカサ・ベイに着いた。
外から見る限り、特に変わった様子が無いので、ナツミは基地に連絡を取った。
『こちらハンターガールズ本部。』
「こちらナツミ。現在ワカサ・ベイに到着。特に変わった様子は無いけど…」
『実はな、新しい情報が入ってきてるわ。』
「何?」
『当初はそのプラント群を制圧して、何かの実験をしてるかと思うたねんけどな、
 どうやら何者かが海中用のメカを使って海路を寸断しているらしい。
 逆に言えば、TK軍団の輸送路だけは確保してるっちゅうことやな。』
「…ということは、海に潜ってそのメカ達を破壊すればいいってこと?」
『そういうことや。頼んだで。』
「了解。」
560たぢから:02/07/02 23:05 ID:NLxhy40p
ナツミは茂みにディオを隠し、砂浜に歩み出た。
海路を切断しているということは、潜水艦とかがいるのは自明である。
だが、それには海面での見張りが必用なはずだ。
ナツミは目を凝らし、海を見渡す。
すると数キロ先の海上に、いっそうの船が浮かんでいる。
一見すると漁船のようだが、海路が切断されている海上に一般の船がいるはずが無い。
とすると、その船が見張りの役目をしているはず。
(しかし…あそこまでどうやって行くか…)
ディオはどこでも走れるとはいうが、何があるか分からない海へ持ち出すのは抵抗がある。
まして一台きりの限定マシンだ。仮に失ったら、また足が無くなる。
(仕方ない。どこかのプラントからライドチェイサーでも借りるか。)
561たぢから:02/07/02 23:06 ID:NLxhy40p
ナツミは目の前にあったプラントに入った。
「ごめんください。どなたか…」
といい終わらないうちに、ナツミは砲撃にさらされた。
「…やっぱここも制圧されているの…ね…」
ナツミは仕方なく応戦。そのプラントを守っていたレプリロイド兵士を全て破壊した。
そして、奥の部屋に囚われていた従業員を介抱した。
「ありがとう。イレギュラーハンター。」
「あの、海洋に調査に出たいので、ライドチェイサーか何か貸して頂けますか?」
「どうぞどうぞ。好きなように使ってください。」
というわけで、ライドチェイサーに乗ってナツミは不審船目指した。
562たぢから:02/07/02 23:07 ID:NLxhy40p
例の不審船に近づくと、船は案の定砲撃を仕掛けてきた。
ナツミは巧くライドチェイサーを操り、攻撃をかわす。
しかしこのライドチェイサーは中古で作業・運搬用なので戦闘装備が外されている。
攻撃できないので迂闊に近づくこともままならない。
(…でも、好きなように使っていいって言ってたよね。アスカの真似をしてみようか。)
ナツミは急速に不審船から離れると、Uターンして不審船目掛けて突っ込んだ。
「くらえっ!!」
そう言い放つとナツミはライドチェイサーから飛び降り、その車体を不審船の砲台に向けて叩き込んだ。
作戦は成功し、その船の攻撃能力は無くなった。
563たぢから:02/07/02 23:08 ID:NLxhy40p
「さて、調べますか。」
不審船に乗り込んだナツミは、調査を開始した。
コックピットらしき部屋の、メインコンピューターを立ち上げる。
「ええと…“巡視船・クルージラー”か。…ふむふむ…なるほど…」
そのコンピューターにあったデータを全てディスクに記録すると、
それをナツミは体内に収納。海中の詳細を記憶した。
「じゃ、コイツを沈めて海中に乗り込むか。」
ナツミは動力部にバスターを放ち、爆発させた。
バランスをうしなったクルージラーは、海中へと沈んだ。
564たぢから:02/07/03 23:04 ID:JA/tLTOY
海底100m…
クルージラーにつかまってナツミは降り立った。
クルージラーのコンピューターから得たデータを頼りに、海中を進む。
(あと200mで潜水艦地帯…)
ほどなくして、ナツミの目の前にアンコウ型潜水艦アングラーゲが数機現れた。
提灯の部分は動体センサーになっていて、すぐさまナツミを捕える。
(いちいち構ってる暇は無い。)
ナツミはストームトルネードを放った。
この技は海中では巨大な渦となり、その圧力でアングラーゲを次々に破壊する。
全て破壊し終わったところで、ナツミは更に深いところへと向かった。
565たぢから:02/07/03 23:06 ID:JA/tLTOY
海底200m…
ここまでは大陸棚と呼ばれ、日の光もよく届くので、多くの生物が繁殖する。
ただ、底は砂地になっており、何かの罠が仕掛けられているかもしれない。
ナツミは前もって調べてあったので、そこに何があるかは分かっていた。
足元の砂が揺れ、海底探査用メカニロイド、ウツボロスが姿を現した。
長く柔らかい体の構造を生かし、狭い溝に入ったり、砂の中に潜ったりする。
今も、ナツミを襲おうと待機していたのである。だが、彼女アはジャンプしてかわした。
なお、メカニロイドとは純粋なメカのことで、レプリロイドのように人間に近いわけではない。
先程のアングラーゲではないが、一体見つければ数体はいる。
ウツボロスも例外ではなく、砂地からさらに二体現れた。
水中では動きが鈍くなるナツミに、一気に襲い掛かる。
しかし、ナツミは冷静に対処。ストームトルネードで粉砕した。
566たぢから:02/07/03 23:08 ID:JA/tLTOY
海底500m…
もはや敵は存在しない。ここの支配者を除いて。
海底の崖にある不審な扉。そこがその支配者の居城だ。
ナツミが近づくと、扉は自動的に開いた。

扉の向こうには、大きな部屋と、一体の蛸型レプリロイド。
「よくもオレの艦隊を襲ってくれたな。」
「そっちこそ、よくも海路を封鎖してくれたわね。イレギュラーとして処罰する!」
「生意気な小娘が…“深海の武装将軍”ランチャー・コークトパルドが相手だ。海の藻屑と消えるがいい!!」
567たぢから:02/07/04 23:00 ID:SswxJIa5
先に仕掛けたのはコークトパルドだった。
人で言えば手にあたる三対の触手からミサイルが次々に発射される。
海中での動きが鈍いナツミは、バスターで破壊するのが精一杯だ。
(駄目だ…防戦一方でコークトパルドには一撃も与えられない。)
それに対し、コークトパルドには随分余裕がある。
海中での動きと攻撃力は、明らかに相手のほうが上である。
ナツミがミサイル群に気を取られている隙に、コークトパルドはナツミの真上に近づいていた。
568たぢから:02/07/04 23:02 ID:SswxJIa5
「なっ…しまっ…」
「ヴァーティカルエディ。」
ナツミが気づいたときには既に遅く、コークトパルドは回転して渦を発生させた。
「ううっ…なんて力だ…!」
四肢に力をいれ、何とか踏ん張ろうとするのだが、無駄な努力である。
ナツミは見る見るうちに吸い込まれてゆく。
そして、コークトパルドに捕えられてしまった。
「エナジー・ドレイン。」
すると、ナツミの体に絡みついた触手が、ナツミのエネルギーを奪ってゆく。
「ううっ…ああっ…!」
ナツミはもがいて脱出を図るが、力が入らない。
569たぢから:02/07/04 23:28 ID:SswxJIa5
「なかなか活きのいい娘だな。見た目の割にはエネルギーが豊富だ。」
おいしい獲物を得られ、コークトパルドは満足気である。
一方のナツミはエネルギーを大量に吸われ、意識もぼやけていた。
(何とかしなきゃ…何とか…)
「あともう少しで完食だ…なかなかのご馳走だったぜ。」
「…」
「もうおねんねか?呆気なかったな。」
「…リン…ルド…」
「うおっ!!」
コークトパルドは突如何かの壁に弾かれた。
「一体何が……!?」
570たぢから:02/07/05 23:04 ID:xKlvNZRr
コークトパルドの呪縛から解かれたナツミの体は朱色だった。
そして何か薄いエネルギー幕のようなものが球となってナツミを覆っている。
意識が消え去る寸前、ナツミは渾身の力を振り絞り、武器チェンジ。
アルマークから奪った“ローリングシールド”のバリアを内から放ち、脱出したのだった。
「バリアか…小癪なぁ!!」
コークトパルドは三対の触手から先程同様ミサイルの雨を放った。
だが、ローリングシールドは見た目以上に強固で、一切通じない。
「そんなバカなぁっ!!」
なおもミサイルを打ち続けるコークトパルド。だが結果は変わらない。
571たぢから:02/07/05 23:04 ID:xKlvNZRr
「こ、こうなったら!!」
このままでは埒が明かないと、コークトパルドはナツミに体当たりを仕掛けた。

バチバチッ!!

「ぐおおおおおお!!」
ローリングシールドに触れた途端、電流のような衝撃がコークトパルドの体を駆け巡った。
だが、ナツミから奪ったエネルギーがあるので、ダメージは大して受けていない。
そのままバリアを突き破ろうとする。
572たぢから:02/07/05 23:05 ID:xKlvNZRr
だが次の瞬間、バリアのエネルギーが増加した。
「…負けない…よ…」
ナツミが残り僅かなエネルギーをバリアに注いでいるのだ。
「おのれ小娘!まだそんな力が…うおおおおっ!!」
コークトパルドも負けじとバリアにプレッシャーを与える。
「おおおおおおおお!!」
「くうううう…!」
お互いの意地と意地がぶつかり合う。
573たぢから:02/07/05 23:06 ID:xKlvNZRr
「このおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
この状況を解決する為に、コークトパルドは力強く叫びながらミサイルを放った。
至近距離で放ったミサイルは見事バリアに小さな穴を開けた。…が、

ジュウッ…

何とエネルギーのぶつかり合いに耐え切れず、コークトパルドの三対の触手が溶けてしまったのだ。
「…なっ…!?」
突然のことに、コークトパルドは理解が追いつかなかった。
だが、しばらくするとそれは恐怖に変わった。
574たぢから:02/07/05 23:07 ID:xKlvNZRr
触手を失った今、足と胴と頭だけという不格好なコークトパルドには攻撃手段が無いのだ。
ミサイルを放つこと自体は可能である。だが、雨のような攻撃には程遠い。
また、ナツミのエネルギーを吸収することも出来ない。
さらに言えば、ナツミの強靭さに圧倒されてしまったのだ。
「…私は…勝つよ!!」
形勢逆転して、何故か力が戻ってきたナツミは、コークトパルドを睨みつけた。
コークトパルドは、余りもの恐怖に狂ったのか、それとも誇りがそうさせたのか、
一念発起してナツミに襲い掛かってきた。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「…ローリングシールド…」
ナツミはエネルギーを球状に集束させて、コークトパルドにぶつけた。
「ぐおおおおおおおおおおお!!!」
ローリングシールドの球に為す術なく、コークトパルドは海の藻屑と化した。
575たぢから:02/07/05 23:08 ID:xKlvNZRr
-CHARACTER FILE-

13.“深海の武装将軍”ランチャー・コークトパルド
蛸型のレプリロイド。
“深海の武装将軍”の名のごとく、体中に武器を装備しているがが、
蛸足である触手を使って、相手のエネルギーを吸い取ることも出来る。
しかし、ローリングシールドの前には、その武装も触手も無力だった。

(キャラ元)T○FのDJ.○ooこと高○浩一
576たぢから:02/07/06 23:07 ID:8kXADF/Z
ACT7.TRAPFULL TOWER
コークトパルドを倒し、プラントでエネルギーを回復したナツミは、
次なる任務先、新時代の象徴−ロッコウタワーを目指していた。
貿易都市コウベシティを見下ろす高さ300mのその塔は、一見貿易ビル兼シンボルタワーだが、
内外のセキュリティーが世界でも屈指の強さを誇り、テロすら起こったことはない。
そんな強固なロウッコウタワーがTK軍団に制圧されたのである。
そのことがTK軍団の恐るべき力を充分見せつけている。
(確かコウベシティにはサヤカとマキが行ってたはずだけど…)
と、仲間の動向を思いつつコウベシティを疾走していたその時、
ナツミの前方に誰かが倒れているのが確認できた。
(あっ!あれは…!!)
577たぢから:02/07/06 23:07 ID:8kXADF/Z
「サヤカ!マキ!」
何とその人影は、仲間のハンター、サヤカとマキだった。
ディオを降りて、ナツミは二人に駆け寄った。
「サヤカ!マキ!しっかりして!!」
「ん…ナツミ…」
二人はすぐに意識を回復した。だが見るからにダメージは酷く、動ける状態ではない。
ナツミはワカサ・ベイのプラントで貰ったエネルギータンクを分け与えた。
とりあえず、二人は多少動けるまでに回復した。
578たぢから:02/07/06 23:08 ID:8kXADF/Z
「ナツミ、ありがとう。」
「礼はいいよ。それよりさ、二人ともどうしたのさ?」
「実は…」
話によると、二人は他の部隊と共にコウベシティを解放した後、
ナツミが行く予定であったロッコウタワーに潜入した。
ナツミが一人で多くの任務を抱えていると聞いた二人が、
少しでも負担を軽減させようと、自主的に動いたのだ。
が、タワーのセキュリティは厳しく、撤退を余儀なくされたのだという。
「面目ないねぇ…」
サヤカは苦笑した。
「そんなことないよ。私のためにやってくれたことなんだし。
でさ、タワー内部で見たことを全て教えてくれる?」
579たぢから:02/07/07 23:00 ID:zB6GbuEK
十分後、ナツミ、サヤカ、マキはロッコウタワーの前に立っていた。
「ナツミ、本当に一人でいいの?」
「大丈夫。サヤカの話だと、あの武器で何とかなりそうだから。」
「じゃあ、入口付近の雑魚は私とマキが片付けるから、その隙に。」
見れば、先程のサヤカとマキの侵入のせいか、警備兵が多い。
「OK。頼むよ。」
「マキ、いくよ!」
「はいっ!」
サヤカとマキは駆け出し、警備兵の中に突っ込んだ
580たぢから:02/07/07 23:02 ID:zB6GbuEK
「ツインサーベル!!」
サヤカは二本のビームサーベルを駆使して、警備兵レプリロイドを切り刻む。
「チャージナックル!!」
格闘系のマキは拳や蹴りで、敵を破壊する。
警備兵は湯水のように出てくるが、サヤカとマキの働きのお陰で、
タワー入口までの道が開けた。
「今だ!」
ナツミはロッコウタワーに突入した。
581たぢから:02/07/07 23:03 ID:zB6GbuEK
『侵入者発見!迎撃システム作動!!』
案の定センサーに引っ掛かり、タワー内部に警報が鳴り響く。
レーザー砲がナツミの方を向き、紅い光線が一気にナツミを貫く。
「ローリングシールド!!」
ナツミは瞬時に球状バリアを張り、攻撃を防いだ。
「よし!サヤカの話だとこんな罠ばかりだから、このまま上がろう!」
網の目のようなレーザー地帯をナツミは容易く通過する。
最初にここに来ていれば、間違いなく死んでいただろうが。
582たぢから:02/07/07 23:03 ID:zB6GbuEK
(さて、ここから先はサヤカ達は行ってないんだよね。)
レーザー地帯を抜けたナツミは、ある部屋の前に辿り着いていた。
(この部屋には…ここの守護者がいるのかな?)
ナツミはそんなことを考えながら、部屋に足を踏み入れた。
すると、後方でシャッターが閉まる音がした。
その部屋…部屋と呼べるのだろうか、天井は無く、吹き抜けになっている。
壁にはワイヤーの束ような物が見られる。
(なんだろう…?)
583たぢから:02/07/08 23:01 ID:oWWwIBkX
突如床が振動し、壁が沈み始めた。いや、床が上昇を始めたのだ。
どうやらエレベーターらしい。広さからして荷物運搬用なのだろう。
かなりのスピードがあり、みるみるうちに天井らしきものも見えてくる。
…と思ったが、どうもやけに速く大きくなっている。
(…何か落ちてくる!?)
そう感じたナツミは回避行動をとった。

ドカッ!!

それは下面に針のついた巨大ブロックだった。
(ここの罠か…)
次々と落ちてくるブロックを、ナツミは無駄なくかわす。
まるでナツミの反射神経、運動神経、判断力を試されているようだ。
584たぢから:02/07/08 23:02 ID:oWWwIBkX
やがてエレベーターは最上階で停止した。
目の前には長い通路があり、その奥には何度も見たような重厚な扉がある。
(あそこがボスの部屋ね…)
そう確信したナツミは、躊躇することなく扉に手をかけた。
そしてナツミが踏み込むと扉が閉まる。
だが、その部屋には誰もいなかった。
それでも、閉じ込められたことと、何者かの気配を感じることが、ナツミの緊張を解除させない。
585たぢから:02/07/08 23:03 ID:oWWwIBkX
「よくここまで辿り着いたな。」
その何者かの声が聞こえた。だが、位置までは特定できない。
すると、ナツミの前方で映像のようなものが複数浮かび上がり、
左右に振動しながら、やがて一つに集束した。
クワガタを模した顔を持つレプリロイド…
「我が名は“時空の斬鉄鬼”ブーメル・サムワンガー。」
「サムワンガー…イレギュラーとして成敗するよ!」
「フッ…この攻撃…かわせるか?」
586たぢから:02/07/09 23:01 ID:wtNomRhQ
次の瞬間、サムワンガーは複数に分裂した。
残像の動きで、ナツミの視覚を惑わす。
さながら、ストリートダンスを踊っているような機敏さだ。
「こいつかっ!!」
たまらずバスターを放つナツミ。
しかしどのサムワンガーもすり抜けてゆく。
連射にしても同じだ。本物が見極められない。
「遅いぞ…」
その声がナツミの真後ろから聞こえた。
587たぢから:02/07/09 23:02 ID:wtNomRhQ
ガシッ!
ナツミに振り向く暇を与えることなく、サムワンガーは頭の牙(クワガタの顎)でナツミの腹部を捕えた。
「こ、これは!?」
「デッド・リフト!!」
サムワンガーは上半身を振り上げ、ナツミを上空へ放った。
あまりの威力に、受身を取ることもままならない。
そのまま天井に叩きつけられ、ナツミは力なく床に落ちた。
「もう一度味わうか…?」
サムワンガーは動かないナツミを再び持ち上げようとした。が…
「結構よ!」
ナツミは突如起き上がり、サムワンガーの腹部にバスターを連射した。
588たぢから:02/07/09 23:03 ID:wtNomRhQ
「…甘いな…」
なんと、至近距離からの攻撃も通用しなかった。
圧倒的なスピードの差が、ここに現れた。
サムワンガーは、唖然とするナツミの後ろを余裕で取ると、
再び“デッド・リフト”をお見舞いした。
度重なる激戦で防御力を上昇させたナツミは、まだ動けた。
だが、このまま立ち上がっても同じことの繰り返しだ。
掠り傷一つ与えることも出来ずに殺されるに決まっている。
(…速すぎる…どうすれば後ろを…)
589たぢから:02/07/10 23:06 ID:IFLljFwi
(一つだけ…一つだけ方法が…!)
打開策を思いついたナツミは、また立ち上がった。
「ほう…なかなかタフな娘だな。」
サムワンガーはニヒルな笑顔で、余裕を感じさせている。
だが、ナツミはそんなことを気にすることなく、部屋の隅に移動した。
「…何の真似だ…?」
「ここなら後ろを取られずにすむし、前から牙攻撃を仕掛けてきても、ギリギリで対処できる!」
ナツミはバスターを前に構えた。
「なるほどな。…だが、小娘の浅知恵だな。」
「…!?」
590たぢから:02/07/10 23:08 ID:IFLljFwi
次の瞬間、ナツミの胴体を何かが切り裂いた。
鎧に亀裂が入り、腹部のスキンも一部破られている。
ナツミは後ろの壁に支えられるような格好になった。
「…うぅ…」
「我には飛び道具もあるのでな。」
そういうサムワンガーの右手には、頭についていた牙が握られている。
先程ナツミの胴を斬ったのは、分離したこの牙だったのだ。
「“ブーメラン・カッター”…このように、我の牙は分離可能なのだよ。
敵の攻撃方法を見た目だけで判断するとは、まだまだ青いな。」
591たぢから:02/07/10 23:10 ID:IFLljFwi
「…くっ…」
ナツミは腹部を押さえながら、必死に立っていた。
先程の傷からは血(オイル)が止め処なく流れ、もはや戦闘どころではない。
「…とどめだ小娘…」
視界が暗くなりつつあるナツミの目の前で、サムワンガーは残像の動きを始めた。
それで“ブーメラン・カッター”を放つのだろう。
(…何とかしないと…)
ナツミは真正面にバスターを放った。
だが、サムワンガーには当たらなかった。
「足掻きにもならなかったな。最後だ!」
ナツミの左前方で、本物のサムワンガーが牙を構えていた。
592たぢから:02/07/11 23:02 ID:LZKvcW5O
「くら…ぐあっ!!」
だが、突如サムワンガーが倒れた。後ろから衝撃を喰らったようだ。
「ぐっ…今のは……むっ!?」
顔を上げたサムワンガーの目に飛び込んできたのは、体が灰色とベージュになったナツミの姿だった。
そう、ナツミが先程放ったのは、Nバスターではなかったのだ。
“ホーミング・トーピード”…コークトパルドから奪ったこの武器は、誘導ミサイルである。
初速は遅いが、どんな素早い敵にも確実に命中する。
だからナツミが適当に放っても、サムワンガーの背中に命中したのである。
「これなら…勝てる…!」
593たぢから:02/07/11 23:03 ID:LZKvcW5O
「くっ…一発当てたくらいで…!」
サムワンガーは立ち上がると、高速移動を始めた。
それに対し、ナツミはホーミング・トーピードを連射した。
「ぐあっ…!!」
勿論全弾命中し、サムワンガーの動きを封じた。
「…そんな馬鹿なことが…」
狼狽するサムワンガーに対し、ナツミには余裕が戻っていた。
エネルギーを右拳に集中させる。
594たぢから:02/07/11 23:10 ID:LZKvcW5O
「とどめよ!」
ナツミの銃口から放たれた“ホーミング・トーピード”は四つの魚型ミサイルとなり、
放物線を描いて、サムワンガーに命中した。
だがサムワンガーは、片腕を失いつつも、まだ立っていた。
スキンが破れ、内部機構も破損している。もはや我楽多同然だが…
「…我の方こそ、敵の攻撃方法を見た目だけで判断していたのだな…青いな。」
「サムワンガー…」
「…冥土の土産に…名前を聞かせてくれ…」
「イレギュラーハンター・ナツミよ…」
「ナツミか…これからの活躍を…期待して…いる…ぞ…」
それがサムワンガーの最後の言葉だった。
595たぢから:02/07/11 23:11 ID:LZKvcW5O
守護者サムワンガーの死によって、要塞と化していたロッコウタワーは解放された。
駆けつけたサヤカとマキによってナツミは救助され、鎧は修復された。
回復したところで、ナツミは次なる任務先へと向かう。
「ナツミ、あといくつ残ってるの?」
「ええと、二箇所だね。フジジャングルとファクトリーエリア・ヒノ。」
「じゃあ、気をつけてね。私とマキには別の任務が入ったから手伝えないけど。」
「多分大丈夫だよ。二人のほうこそ、頑張ってね。」
ナツミはディオのスロットルを思い切り捻った。
596たぢから:02/07/11 23:13 ID:LZKvcW5O
-CHARACTER FILE-

14.サヤカ
15.マキ
イレギュラーハンター精鋭部隊(通称ハンターガールズ)所属。
サヤカは攻撃力がさほど高くないが、二本のビームサーベルを駆使することで補っている。
マキは力ではハンターガールズ位置を誇り格闘に優れている。
この二人でコンビを組むことが多く、“技のサヤカ、力のマキ”と言われている。

16.“時空の斬鉄鬼”ブーメル・サムワンガー
クワガタ虫型のレプリロイド。
驚異的な素早さとパワーを誇り、ナツミを翻弄した。
しかし、命中率100%のホーミング・トーピードに敗れた。

(キャラ元)T○Fのサ○こと丸○正温
597たぢから:02/07/13 01:56 ID:Dkyh1Vdx
ACT8.THE MYSTERIOUS JUNGLE
マウント・フジ。世界有数の火山の一つである。
長らく休火山であったが、ここ数年間は、活発な活動を繰り返していた。
度々小規模な噴火を起こす為、周辺は立入禁止となっていた。
その麓にある謎多き密林がフジジャングルである。
だが、このジャングルには生きた“樹”などというもの存在しない。
全て紛い物で、ただの代用品… 
大昔の人間達の自然破壊の産物…
ただ酸素を精製するだけの機械に過ぎないのである。
598たぢから:02/07/13 01:57 ID:Dkyh1Vdx
そんな人工の森の中を、一台のエアバイクが疾走していた。ナツミのディオである。
数世紀前には、方位磁石が通用しない“死の樹海”と恐れられたこの森も、
ディオ搭載の最新型GPS機能を使えば、ごく普通の森だ。
そんなディオのモニターには、ナツミにぴったり併走する何かがいくつか表示されている。
(少なくとも10…ほんの僅かな気配すら感じさせないとは、ただの兵士ではないね。)
敵の正体がTK軍団のレプリロイドである事など問われるまでも無かったが、
身のこなしといい完璧な気配立ちといい、相手は尋常の訓練を積んだ者達ではなかった。
忍者のごとく、ゲリラ戦に長けた者達…
599たぢから:02/07/13 01:58 ID:Dkyh1Vdx
「…!!」
咄嗟にナツミはは身をかわす。
林の奥から一筋の光線がナツミに向けて放たれた。
(焦ってはいけない…既に囲まれているから、下手に動けば狙い撃ちにされる…)
高速で移動しながらも、必死に神経を尖らせ周囲を窺うナツミ。
やがて併走する影達の姿が明らかになってきた。
ゲリラ用のライドアーマー、“ラビット”である。
足場の悪い所でもディオ同様のスピードが出せるマシンだ。
ビーム砲は操縦している兵士のものだろう。
だが姿が見えたことで、ナツミは動いた。
エネルギーを集中させていた右手を、上空に翳す。
「ホーミング・トーピード!!」
600たぢから:02/07/13 02:00 ID:Dkyh1Vdx
ライドアーマー軍団は、魚型ミサイルの雨によって、塵と化した。
ナツミはそのまま、森の奥へと向かう。
このジャングルに関する情報は乏しい。
守護者が何処で何をしているかがはっきり分かっていないので、
手当たり次第にイレギュラーを破壊するしかないのだ。
こちらが目立った動きを見せれば、必ず相手も応じてくるはずだ。
(何処…何処にいるの?)
次の瞬間、あたりに轟音が響いた。
601名無し:02/07/13 03:17 ID:ofb170Pg
おおっ、600までいきましたね♪
毎日の更新、どうもご苦労様です。これからも気張って下さい
602たぢから:02/07/13 23:01 ID:WCK6GlV9
>601さん
ありがとうございます。

今月末まで【IRREGULAR HUNTER NATSUMI】を掲載した後、
「くノ一娘。物語」第二部を始めます。
そして今、それの製作に追われています…
603たぢから:02/07/13 23:02 ID:WCK6GlV9
「くっ…今のは!?」
ナツミの目の前に何かが落下したのだ。
寸前に避けたナツミは近くの茂みにディオを置くと、その地点に向かった。
そこには、緑色で全体的に丸みを帯びた巨体のメカニロイドがいた。
RT−55J…かつてロボット大相撲で横綱として人気があったメカニロイドだ。
(何故ここにこんなものが…?)
だが、そんなことを考えている暇はなかった。
RT−55Jは見た目より身のこなしが軽く、飛び上がったと思ったら、
次の瞬間にはナツミの目の前に着地していた。
604たぢから:02/07/13 23:04 ID:WCK6GlV9
「あっ!しまった!!」
ナツミはRT−55Jの腕の先にある鉤爪に捕まってしまった。
RT−55Jはナツミ軽々と持ち上げると、近くの木に叩きつけた。
さらに、鉤爪は腕に内蔵された鎖とつながっており、それが伸びることで、
ナツミは何本もの木に叩きつけられた。
「うぅ…油断してしまった。見た目で判断しちゃいけないって、サムワンガーに言われたのに。」
ナツミは気持ちを切り替え、攻撃に回った。
相撲ロボだけに胴体は頑丈だが、目玉に関してはガードが薄いはずだ。
ナツミは持ち前の敏捷性を活かし、目玉を集中的に攻撃した。
605たぢから:02/07/13 23:05 ID:WCK6GlV9
(おかしい…全然効いてないみたい…)
RT−55Jは相撲ロボだけにスタミナもあったのだ。
相当な数のバスターを放ち、100%命中させたのだが、全然倒れない。
このままではナツミの方が自滅するかもしれない。
(もっとうまくダメージを与える方法があれば………あ!!)
ナツミは一つの案を思いついた。
RT−55Jの前に回りこむと、その場で静止した。
606たぢから:02/07/13 23:07 ID:WCK6GlV9
RT−55Jのアイカメラはこれを察知、頭脳チップにデータを送った。
そして頭脳チップは、腕に次の命令を発した。
攻撃の意志が感じられないナツミに向かって、鉤爪鎖が伸びたのだ。
「今だ!!」
飛び道具同然の鉤爪を紙一重でかわすと、ナツミは一気に間合いを詰めた。
そして、銃口を鎖が伸びているRT−55Jの腕にセットした。
「これなら内部から崩壊するはずよ!くらえっ!!」
ナツミは右腕に溜めていたエネルギーを一気に解放した
果たして、Nチャージブラスターのエネルギーは、RT−55Jの体内を駆け巡り、
胴体に罅割れを生じさせた。
そして次の瞬間、呆気なく爆発してしまったのだった。
607たぢから:02/07/13 23:08 ID:WCK6GlV9
『なかなかの腕前だな。』
「誰っ!?」
その声の主は、今破壊したRT−55Jの上にホログラフとして現れた。
全身緑で、カメレオンを模したレプリロイド…
『オレの名は“幽林の妖撃手”スティング・カイリーオだ。』
「何処にいるの?出てきなさい!」
『ケケケ…そう焦んなよ。目の前の前線基地にオレはいる。いつでも来な、小娘ちゃん。』
そう言うと、そのホログラフは消えた。
よく見ると、カイリーオの言うとおり、ナツミの前方数百m先に、建物が見える。
先程はRT−55Jに気を取られて気づかなかったが。
ナツミは言われるがまま、その建物に潜入した。
608AYAYA:02/07/14 19:03 ID:R5I/J6Tv
保全
609たぢから:02/07/14 23:04 ID:TSpw93eM
>608さん
保全サンクスです。
610たぢから:02/07/14 23:05 ID:TSpw93eM
その前線基地はまだ建設中らしく、何のセキュリティも存在していなかった。
道なりに進み、一番奥の部屋に辿り着いた。
もうパターン化されているが、扉が閉まり、ナツミは部屋に閉じ込められた。
その部屋は壁という壁に草木が繁茂し、天井には棘がびっしりと埋まっている。
室内でありながら、さながらゲリラ戦場のようである。
「カイリーオ!出てきなさい!」
「ケケケ…さっきからお前の目の前にいるよ!」
「えっ!?」
すると、ナツミのそばの木が陽炎のように揺らぎ、そこに張り付いたカイリーオの姿が明らかになった。
611たぢから:02/07/14 23:06 ID:TSpw93eM
「アイアンタングを喰らえ!!」
「うあっ!!」
次の瞬間、カイリーオの細長い舌が伸び、ナツミの鎧を貫いた。
スキンも突き抜け、内部機構にも若干のダメージを喰らった。
ナツミはその一撃だけで、その場に膝を着いてしまった。
「くっ!」
それでもバスターを放つナツミだったが、カイリーオは既に姿を隠していた。
「ケケケ!どこ撃ってんだよ!!」
カイリーオは天井に張り付いていた。
612たぢから:02/07/14 23:07 ID:TSpw93eM
「ホーミング・トーピード!!」
追尾ミサイルなら、いくら姿を隠しても当たるはずだ。
だが、カイリーオは余裕の笑みを浮かべた。
「そんなチャチなミサイルじゃ、オレ様を倒せやしねぇよ!!」
するとカイリーオは天井にぶら下がり、天井を揺さぶり始めた。
その振動で、天井の棘が雨のように降りかかってきた。
その棘はホーミング・トーピードを相殺し、さらに無防備なナツミに襲い掛かる。
「くっ!ローリングシールド!!」
バリアを展開し、なんとか直撃は免れた。だが、これでは攻撃に転ずることが出来ない。
613たぢから:02/07/14 23:08 ID:TSpw93eM
「どうした?かかって来ないのか?」
ナツミが防御で手一杯であることに気づいたカイリーオは、また姿を消して間合いを詰めた。
そしてナツミの目の前に姿を現すと同時に、舌を伸ばした。
「アイアンタングにそんなバリアは効かねぇ!」
「あうっ!!」
カイリーオの言うとおり、アイアンタングは紙でも貫くがごとく、
あっさりとナツミまで貫通し、鎧に二つ目の穴を開けた。
二箇所の穴からは、血(オイル)が流れ出している。
614たぢから:02/07/14 23:10 ID:TSpw93eM
棘の雨に対してはバリアを展開し、その隙を攻撃される…の繰り返し。
ナツミにとっては悪循環であった。
百発百中のはずのホーミング・トーピードすら通用しないのである。
(どうしよう…アイツには私の持つ攻撃が通用しない…どうすれば…)
そう思いながらも、事態を好転させる為、我武者羅にバスターを放つ。
だが、そんな直線的な攻撃は、カイリーオに完全に見切られていた。
直線的な攻撃は…
615たぢから:02/07/15 23:01 ID:yHRY84Hm
「ハハハ!どうした小娘?お前の力はそんなものか!!」
カイリーオは反対側の壁でナツミを挑発していた。
「くらえっ!!」
ナツミの腕から何か放たれたが、カイリーオは楽々とかわした…はずだった。
「ぐおっ!?」
突如それは向きを変え、カイリーオに直撃したのだった。
何がなんだかよく分からず、カイリーオはその場に落下した。
616たぢから:02/07/15 23:02 ID:yHRY84Hm
ナツミの体は濃い灰色になっていた。
そして、その手には鋏のようなものが握られていた。
サムワンガーから入手した“ブーメランカッター”であった。
直線的な攻撃が通用しないなら、楕円の動きをするブーメランを使えばいい。
ナツミの予想は的中した。
「ブーメランとは…小癪なぁっ!!」
カイリーオはアイアンタングを放った。
だが…

ズバッ!!

「…何っ!?」
自慢の舌はブーメランカッターによっていとも簡単に切り裂かれた。
617たぢから:02/07/15 23:02 ID:yHRY84Hm
人間じゃないので、舌が切れたところで死ぬわけではないが、
これはカイリーオに精神的ダメージを与えた。
「おのれ…舌だけがオレ様の攻撃じゃないぞ!!」
そう言うと、カイリーオは壁に捕まり、尻尾をナツミの方に振った。
「カメレオンスティング!!」
緑色のエネルギー刃が三本、ナツミに迫ってきた。
「ローリングシールド!!」
すぐさまバリアを展開し、エネルギーを相殺させる。
618たぢから:02/07/15 23:04 ID:yHRY84Hm
「こっ…このっ!!」
するとカイリーオは天井にぶら下がり、天井を揺さぶり始めた。
天井の棘を雨のように降らすつもりだ。
だが、それはナツミの思うツボであった。
「とどめよ…ブーメランカッター!!」
溜めていたエネルギーは四つのエネルギー波となって、
回転しながらカイリーオを襲った。
「ぐあああああああああ!!!」
溜めブーメランカッターによって、カイリーオの体は粉砕されたのだった。
619たぢから:02/07/15 23:04 ID:yHRY84Hm
-CHARACTER FILE-

17.“幽林の妖撃手”スティング・カイリーオ
カメレオン型のレプリロイド。
モチーフとなったカメレオンの擬態能力をフルに活用し、ゲリラ戦を得意とする。
その上動きが素早く、百発百中のホーミングトーピードすら余裕で破壊されるが、
刃物で楕円攻撃をするブーメランカッターに弱かった。

(キャラ元)甲○バンドの甲○よし○ろ
620たぢから:02/07/16 23:02 ID:Y5I8mPw+
ACT9.BARNING FACTORY
ファクトリーエリア・ヒノは、トーキョーシティーの西にある工場地帯である。
車に始まり、各種電器・電機メーカーの工場が軒を連ねている。
が、情報によると、そこを制圧したTK軍団は兵器工場に変えようとしているようだ。
大都市に近い工場地帯で、大胆なことをするものだ。
だがハンター達は既に多くの施設を奪還している。
ナツミがここを取り戻せば、TK軍団の士気は下がるはずである。
621たぢから:02/07/16 23:03 ID:Y5I8mPw+
ナツミはそのエリアの中でも尤も大きな工場に侵入した。
高床のベルトコンベアが多く配置され、その下の床は溶鉱炉になっている。
ベルトコンベアに乗っているのが、メカニロイドの残骸であることから、
スクラップの再生処理場のようである。
要所要所に作業用レプリロイド(勿論戦闘体勢)がいることから、
ここがエリアの中でも重要拠点であることが伺える。
「ショットガン・アイス!!」
氷のエネルギーを溜め、溶鉱炉に一気に叩きつけた。
温度が一気に-20℃位まで下がり、溶鉱炉は完全に一つの床と化した。
障害がなくなったところで、ナツミは氷の床を一気に突き進む。
622たぢから:02/07/16 23:04 ID:Y5I8mPw+
ナツミに数百体ものレプリロイドが襲い掛かる。
基本装備がバスターのみなので、対複数の戦いは苦手にしていたが、
この度の戦いで得た数々の武器と経験により、ナツミは冷静に対処していた。
ローリングシールドで敵の攻撃を防いだら、ホーミング・トーピードで死角にいる敵を撃破。
正面に壁を作る敵は、溜めエレクトリックスパークで粉砕した。
装甲が頑丈な敵には、カイリーオから奪った“カメレオンスティング”の刃を放った。
この技の貫通力は第一級品で、大抵のものなら貫けるのだ。
さらに、エネルギーを溜めれば、カメレオンのごとく自分の姿を隠すことも出来るのだ。
これで敵を撹乱させ、ナツミは楽々と攻略していった。
623たぢから:02/07/17 23:15 ID:F06nqrDu
(…さて、お約束…)
ナツミは再生工場の奥に辿り着いていた。
もう何度も見た重厚な扉…
躊躇することなくナツミは開けた。
扉の向こうには、床がベルトコンベアになっている奥行きのある部屋があった。
そしてその奥には、巨体のレプリロドが待ち構えていた。
「よくもオレの縄張りを荒らしてくれたな、小娘。」
「小娘ではなく、イレギュラーハンターとしての務めよ。」
「フン、偉そうに。 “灼熱のオイルタンク”バーニン・カバマンダー様がぶっ潰してやるぜ!」
624たぢから:02/07/17 23:21 ID:F06nqrDu
「オラァ!!」
カバマンダーは、派手なジャンピング・プレスを仕掛けてきた。
ナツミはダッシュでその下をくぐった。だが…

ドッスゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!
「うわっ!!」
カバマンダーの着地によって発生した揺れで、ナツミはバランスを崩してしまった。
勿論その隙をカバマンダーが逃すはずはない。

「くらえ!フンッ!」
「なっ…何!?」
カバマンダーの長い鼻から、黒い液体が放たれ、ナツミを覆った。
やけに粘性があり、いくらもがいても彼女の体に絡みついたままだ。
すると、カバマンダーのバスターから炎の塊が発射された。
「死ね!ファイヤーウェーブ!!」
「うああああああああああっ!!」
炎の塊が黒い液体に触れると、すぐさま着火、ナツミは炎に包まれた。
その黒い粘液はオイルだったのだ。
625たぢから:02/07/17 23:22 ID:F06nqrDu
「…うぅ…」
数分のた打ち回った後、オイルはなくなり火も消えた。
だが、相当の火傷をおったナツミ焼死体のように動かなくなった。
ベルトコンベアの上に倒れたまま、部屋の隅まで運ばれる。
「ケッ!オレはチビで弱いヤツが嫌いでな。特にお前のような生意気な小娘には容赦しないぜ!!」
そう叫ぶと、カバマンダーはナツミ目掛けて大ジャンプ、プレスを仕掛けた。
「ぐあああっ!!」
ナツミは避けることが出来ず、カバマンダーの巨体に潰されてしまった。
鎧には多くのひびが入り、内部機構もかなりのダメージを負ったようだ。
626たぢから:02/07/17 23:24 ID:F06nqrDu
ナツミ一歩も動けなかった。スクラップ同然の体は只の重石にしか感じられない。
(…動けない…どうしても…)
激しい虚脱感がナツミの全身を覆い尽くす。
「手加減はしない…殺すぜ!!」
身動きが取れなくなったナツミに対して、巨漢のレプリロイドは容赦の無い攻撃を浴びせかける。
(でも…私は死ねない…こんなところで…!)
体は動かないが、最後の力を振り絞って拳に力をこめる。
「オレ様との実力差は歴然だな。もう動けない身体なのだ…諦めて安らかに眠りな!」
カバマンダーはナツミにとどめを刺す為、また跳び上がった。
「死ね小娘! ジャンピングプレス!!」
627たぢから:02/07/17 23:25 ID:F06nqrDu
その時…反射的に体が動いた。この体では奇跡に近い。
しかしそんなことに構っている暇はない。敵は既に眼前に迫っているのだ。
同時にカバマンダーもナツミの異変に気付いた。
ゆっくりとゾンビのように立ち上がるナツミ、そして鎧の色は蒼から…紫へ!
刹那ナツミは床に拳を突き立てた。
「ストームトルネード!!」
「ぐおおおおおおおおっ!!」
ナツミを中心に強力な竜巻が発生、落下の体勢にいたカバマンダーを、天井まで弾き飛ばした。
628たぢから:02/07/17 23:27 ID:F06nqrDu
そのまま床に落下したカバマンダーは、何が起きたのか分からなかった。
が、やがて攻撃を受けたことを思い出すと起き上がり、ナツミを睨みつけた。
「小娘…まだ動けたのか!?」
だが、当のナツミは下を向いたままで、息もあがっている。
鎧は殆ど崩壊し、血(オイル)が足元を赤黒く染めている。
「…さっきの一撃が精一杯か。なら遠慮はしねぇ!!」
確実な死を与えるために、カバマンダーは鼻を思い切り振り上げた。
先程のオイルをナツミに浴びせ、火達磨にする気なのだ。

だが次の瞬間、オイルは放たれなかった。
「…なっ…どうした…!?」

ドサッ…

そして何かが落ちた。
カバマンダー自慢の長い鼻だった。
見ると、ナツミの体は灰色で、右手にはブーメランカッターが握られている。
カバマンダーの鼻を根こそぎ断ったのは、これだったのだ。
629たぢから:02/07/17 23:29 ID:F06nqrDu
鼻を切り落とされたカバマンダーは不細工であった。
鼻の根元、切り口には二つの穴があり、象というより豚だ。
しかも、そのブタ鼻からは鼻血のごとくオイルが流れ出している。
(そんなバカな…あんな…あんな小娘ごときに…)
カバマンダーはその時恐怖した。それは彼が初めて感じる感情だった。
そしてその恐怖の対象であるナツミははゆっくりと両手を前にかざした。
「…ストームトルネード…」
「ぬああああああああ!!!」
カバマンダーの体は竜巻によって引き裂かれてゆく。
「敵を見かけで判断すると…痛い目にあうよ…」
その言葉は、カバマンダーの耳に届くことはかなった。
630たぢから:02/07/17 23:29 ID:F06nqrDu
-CHARACTER FILE-

18.“灼熱のオイルタンク”バーニン・カバマンダー
ナウマンゾウ型のレプリロイド。
モチーフとなったゾウの巨体を生かした格闘戦は勿論のこと、
体内のオイルを併用した火炎攻撃を得意とする。
自分より弱く小柄な者を見下す性格で、最初からナツミなど相手にしてはいなかった。
が、数々の闘いを経て成長したナツミの逆転劇で、呆気なく人生に幕を閉じた。

(キャラ元)d○sのka○a
631たぢから:02/07/18 22:59 ID:z4nZs+Wu
ACT10.FORESEEING DREAM
全ての任務を終えたナツミは、何とか基地に帰還した。
ユウコへの報告も簡潔に済まし、足早にメディカルルームへと向かう。
空いているカプセルに入ると、ナツミはすぐさま眠りに就いた。

真っ暗だった。辺り一面、光すら射さない暗闇だった。
「ここは…?」
無限に続く暗闇の中で、ナツミは独り立ち尽くしていた。
「私は…誰…?」
自分の名前すら忘れてしまった。自分は何者なのか…
その時、前の方から光が射してきた。余りの眩しさに、ナツミは思わず目を凝らした。
「なっち…」
前方から、人の声がしてきた。何となく聞き覚えのある女性の声であった。
自分と同じくらいの背丈の少女。見覚えがあるのに思い出せない。
632たぢから:02/07/18 23:01 ID:z4nZs+Wu
「ごめんね。もう…行かなきゃ…」
その少女は、ナツミの数メートル前で足を止め、踵を返す。
「行く…って何処へ…?」
その少女はそれ以上は何も言わず、姿を消した。
「ま…待って! うわっ!」
ナツミが追いかけようとすると、突然前方の光が明るさを増してきた。
そしてナツミはその光に飲み込まれた。
633たぢから:02/07/18 23:04 ID:z4nZs+Wu
「…またあの夢か…でも今までとは何か違ったな…」
カプセルの中で一時間ほど眠り、充分回復したナツミは、
自分の部屋で先程の夢の分析をしていた。
しかし、夢の中身を探れば探るほど、何かが引っ掛かる。
まるで迷路のように…
夢にはいろいろな種類があるという。
願望などをシミュレーションする夢。未来を予知する夢。
そして遠い昔の出来事を思い出させてくれる夢…

「くっ…!」
ナツミは右手を伸ばし、拳をグッと握った。
捕えられない夢の正体を掴もうとするかのごとく。
634たぢから:02/07/18 23:06 ID:z4nZs+Wu
「ナツミ…何やってんの?」
その声はアスカだった。
彼女もまた任務を終え、ナツミの隣のカプセルで休養をとっていたのだ。
「えっと…あれ…何でだろ?」
アスカの顔を見た途端、先程の記憶が吹っ飛んでしまった。
右拳を掲げたまま固まるナツミ…
「…まだ休んでたほうがいいんじゃない?」
「…うん。もう一眠りするよ。」
ナツミは再び眠りに就いた。
だが、その夢の続きを見ることはなかった。
ナツミは気づかなかった。その夢がそう遠くない未来を暗示していたことを。
635たぢから:02/07/18 23:07 ID:z4nZs+Wu
ACT11.INVADE TK-FORTRESS
数時間後、ハンターガールズ全員に招集がかけられた。
「アスカの調べで、TK軍団のアジトを割り出すことが出来た。
トーキョーシティ沖に、未確認の人工島がある。おそらくそこや。
何故か濃霧に包まれていて、要塞の規模は把握でけへんけど、
既に幾つかの部隊がそこで壊滅したという報告もある。
心して任務に当たってや。」
「了解。アスカ出撃します!」
「ナツミ、出撃します!」
「ケイ、出撃します!」
「カオリ、出撃します!」
「マリ、出撃します!」
「サヤカ、出撃します!」
「マキ、出撃します!」
ユウコからの説明を受けたハンター七名は、すぐさま出撃した。
636たぢから:02/07/18 23:08 ID:z4nZs+Wu
七台のライドチェイサーは、ハイウェイを一気に通り抜け、
湾岸の人工島“ダイバ・アイランド”に辿り着いた。
「ユウコの情報によると、例の地点は3km先よ。私についてきて。」
ディオのモニターを見ながら、仲間に指示を与えるナツミ。
彼女を先頭に、七台のエバイクは一列縦隊で進む。

2km… 1.5km… 1km… 500m…
目的地に近づくにつれて、霧が濃くなってきた。
「こんな所をライドチェイサーで突っ込むのは危険ね。ここからは歩いて近づこう。」
アスカの判断で、皆エアバイクから降りた。
637たぢから:02/07/18 23:10 ID:z4nZs+Wu
その時だった。
「みんな動かないで!敵に囲まれた!!」
「えっ!?」
感覚が敏感なカオリの声に、皆固まる。
すると彼女の言うとおり、霧の向こうに複数の影が確認できた。
そしてそこからミサイルやらビームやらがランダムに飛んできた。
「みんな固まって!」
ナツミの指示で六人のハンターは一箇所に集まる。
そしてナツミ一人がが前に出た。
「くらえ!ファイヤーウェーブ!!」
鎧が赤くなったナツミのバスターから、炎の柱が立ち上り、周囲の敵を一気に焼き滅ぼした。
638たぢから:02/07/18 23:12 ID:z4nZs+Wu
「ナツミすごい!…って感心している場合じゃないわ。まだまだ向こうから来るよ。」
カオリの指すほうには、同じような影がどんどん現れている。
「これじゃキリがないわね…攻めるしかないかもね。」
マリはバスターロッドを構えた。
「そうね。攻撃は最大の防御って言うし。」
サヤカも二本のビームサーベルを抜いた。
「アスカ!ナツミ!私たちが突破口を作るから、アンタ達は先に行きな!」
ケイは大型のキャノン砲を構えた。
「確かに。こんなとこで足踏みしてる訳にはいかないわね。いくよナツミ!」
「分かったわ。みんな頼むよ!!」
639たぢから:02/07/18 23:13 ID:z4nZs+Wu
「じゃあいくよ!!」

ドォォォォォォォン!!!

ケイの砲撃を合図に、ナツミとアスカは駆け出した。
少し霧の晴れた道を、まっすぐ突き進む。
「私達もあの二人に遅れないよう、さっさと片付けよう!!」
「OK!!」
マキの言葉に、他の四人の士気が上がる。
次々と現れる敵に対し、彼女達は果敢に立ち向かっていった。
640たぢから:02/07/18 23:15 ID:z4nZs+Wu
タッタッタッタ…

ナツミとアスカは言葉を交わすことなく、ただ走り続けていた。
このような大規模かつ危険な任務は、過去に無かった訳ではない。
しかし、今までのどの任務とも違う“何か”が二人の頭をよぎるのだ。
その“何か”が不安となって二人の心を支配し、緊張させているのだ。

突如、霧が晴れ視界が広くなった。
二人の目の前には要塞のある人工島と、そこにつながる橋が現れた。
「あれがTK軍団のアジト…」
「何があるか分からないけど、突っ込む以外ないね。いくよナツミ!」
「うん。」
641たぢから:02/07/18 23:16 ID:z4nZs+Wu
ドドドドドドドドド…

二人が橋の中間あたりにさしかかったとき、突如橋が揺れはじめた。
そして、後方から橋が崩れているのが確認できた。
「…私達を海に沈める気ね…」
「アスカ、これに乗って!」
ナツミの足元には、厚い氷の板があった。
ショットガンアイスのエネルギーを溜めて作り出した物だ。
摩擦抵抗が限りなく0に近づき、高速で移動できるソリになる。
アスカとナツミはその氷の板に乗って、橋の崩壊に巻き込まれずに済んだ。
642たぢから:02/07/18 23:18 ID:z4nZs+Wu
…だが、安心する間もなく、二人は敵に囲まれる。
既に厳戒態勢が敷かれており、次々と兵士達が現れる。
「そう簡単には行かせてくれないわね、ここも。」
「うん。で、アスカどうする?」
「二手に分かれて要塞の入口を探そう。ここで固まっていても意味が無いと思うわ。
行く手を塞ぐ者がいるなら、全て破壊すればいいだけのことよ。」
「分かったわ。気をつけてね。入口を見つけたら連絡よ。」
アスカは高出力のバスターを、ナツミはストームトルネードを放ち、突破口を開いた。
そして、それぞれ別の方向に駆け出した。

これが運命の分かれ道だとは、その時の二人には気付く由も無かった。
そして、そのベクトルは再び一つに重なる。残酷な形で…

「フフフ…やはり、あいつらが来たわね。」
モニターに映し出されるナツミとアスカを見詰めながら、誰にともなく呟く影…
彼…いや彼女の後方には鈍い光を放つメカが待機している。
「じゃあ、あの紅い…確かアスカだっけ? アイツを始末しよう。」

黒い鎧、短い髪も顔も十分収まるメット、そして肩には象徴とも言えるランチャー…
女は、そのメカに乗り込むと、速やかにその場を後にした。
643たぢから:02/07/19 23:08 ID:FlADWJ4A
ACT12.DEATH AND FUSION
先に侵入口を見つけたのはアスカだった。
多方向から兵士が絶え間なくやってくるので、下手に見極めることは止め、
全ての兵士を滅ぼした後、半分手探りで入口を見つけ出したのだ。
「ナツミ…悪いけど一人で行かせてもらうよ。優しすぎる貴方は戦いには向かないからね。」
ナツミが向かったであろう方向を眺め、アスカは呟いた。
そしてナツミに連絡をとることなく、中へ踏み込んだ。
案の定、迎撃システムが作動し、奥からライドアーマーにのった兵士が多数現れた。
「中のほうがやっぱり強固…か。遠慮なくやらせてもらうよ!!」
644たぢから:02/07/19 23:10 ID:FlADWJ4A
アスカはたった一人であることを感じさせぬ凄まじい勢いで兵士達を圧倒していた。
ナツミと合わせ、たった二人と言う人数が却って敵の油断を誘ったこともあるが、
彼女は敵地でありながら一対一で確実に戦える場所を巧みに選んで戦い、戦力で勝る敵を一切寄せ付けない。
「いくらライドアーマーで攻めてこようと、騎乗者のレベルが低すぎるよ!」
強力なAバスターが激しい閃光と共に、一騎のライドアーマーを粉砕する。
一対一の戦いならばCクラスの兵士相手に遅れなど取らない。
だがそれは余りに非効率な戦い方だった。
A−ツイン・ブラスターで一掃と言う手もあるが、Dr.TKが現れていない以上、
凄まじいエネルギーと、チャージする為の長い時間を必要とするあの必殺技を使ってしまうのは得策ではない。
645たぢから:02/07/19 23:12 ID:FlADWJ4A
アスカは持ち前の機動力を生かしながら巧みに相手と舞台を選びつつ、
徐々にしかし着実に基地の中枢部へと歩を進めていた。
そんな彼女を影から見据えながら冷淡に笑みを浮かべる一体のレプリロイド…
「フフフ…一目見たときから何か似たような物を感じていたけど、お前は間違いなく修羅だよ。」
戦場を疾駆しながらレプリロイド兵士達を破壊していくアスカ。
そんな彼女を見据え、そのレプリロイドは一人誰にともなく呟いていた。
「それだけに全く私には理解しかねるわ。“ハンターガールズ”なんていう偽善集団にこだわることがね。
所詮イレギュラーとハンターは紙一重。レプリロイドを破壊するという共通項を持っているのにね。」
全ての兵士が破壊されるのを見届けると、彼女は姿を現した。
646たぢから:02/07/19 23:14 ID:FlADWJ4A
「そこまでよ、ハンターガールズのアスカ!」
「…お前は…!?」
アスカには勿論見覚えがあった。
それに今立っている場所はDr.TKの基地の真っ只中…
TK軍団特攻隊長のあの女がいるのはごく自然なことだ。
「アミーゴ…早くもTKの秘蔵っ子がお出ましか。」
「秘蔵っ子…ね。私は別にあの人の従順な子どもじゃないわよ。ただ強いヤツと戦いたいだけ。
相手の格が上であればあるほど、こらえようの無い興奮が…歓喜が私の中を駆け巡っていく。
それはアンタだって同じはずよ。さっきの戦いで見たアンタの顔…十分“鬼”だったわ。」
「つまり私たちは似た者同士だって言いたいの? 外道と一緒にしないで。」
「強がらなくていいわよ。所詮この世は弱肉強食。ハンターガールズの正義だって虚構にしかならないわ。
それでもその仮の“正義”とやらにこだわり、イレギュラーを処分するの?」
647たぢから:02/07/19 23:15 ID:FlADWJ4A
アミーゴの指摘に、アスカはしばし沈黙した。
正直なところ、彼女は戦いの中でしか自分を見出せない。
戦いがあるからこそ、生きていけると言っても過言ではなかった。
だが、彼女の脳裏に浮かぶ一人の蒼きレプリロイドが、もう一つの生き甲斐であった。
自分には恐らく無いであろう“悩み”を持つ彼女が、何かに悩めることが羨ましく思うときもあった。
「…例え虚構の正義であったとしても、イレギュラーと紙一重でも、私はハンターとして生きるわ。
掛け替えの無い友もいるから…ね。」
アスカの眼には一点の曇りも、少しの迷いも無い。
対するアミーゴの表情は、若干曇った。
「結局アンタもあのナツミと一緒の甘々チャンってわけか。全くもって期待はずれだったわ。
コンビでも組めたら面白かっただろうに。」
648たぢから:02/07/19 23:17 ID:FlADWJ4A
「冗談はよして。私は昔も今も独りよ。ハンターガールズでも一匹狼やってるし。コンビなんて疲れるわ。」
半分本気、半分嘘だった。
だがアスカの本意はともかく、その言葉はアミーゴに火をつけた。
「フン、まあいいわ。少しお喋りが過ぎたみたいね。さっさと決着つけましょ。」
アミーゴは後ろに隠してあった自前のライドアーマーに乗り込んだ。
「言っとくけど、この前のようにはいかないわよ。ラードアーマーはパワーアップしてるからね。」
「別に構わないよ。そんなモンに頼ってる以上、私には勝てないわ。」
「戯言を…死ねっ!」
ライドアーマーの轟拳が炸裂し、壁にクレーターを作り上げる。
だが、アスカの姿は無い。
「…一応スピードには自身があるの。」
アスカは後ろに回りこみ、両手を前に翳した。
649たぢから:02/07/19 23:19 ID:FlADWJ4A
「…フッ。この前のあの技ね。撃てるものなら撃ってみな!!」
ライドアーマーごと背中を晒したままのアミーゴは、余裕の笑みを浮かべていた。
その態度にアスカは少し苛立ちを覚えた。
「後悔させてやる…くらえっ!!」
アスカ必殺の、A−ツイン・ブラスターが放たれた。
瞬時に、アミーゴはライドアーマーごとその閃光に飲まれた。
だが…

「“痛くも痒くもない”とか、“蚊に刺された程も感じない”ってのはこんなことを言うのかしら?」
「何っ!?」
突如白煙の向こうからライドアーマーの腕が現れ、隙だらけのアスカを掴んだ。
「コイツはね、アンタのバスターの威力を基に強化したの。だから無傷なわけ。」
「くっ…」
悔しさに奥歯をきつく噛みしめるアスカ。
そして、アミーゴの狂気に満ちた瞳はさらに怪しい光を放ち始めた。
650たぢから:02/07/19 23:20 ID:FlADWJ4A
「この侵入口…アスカのバスターで開けたに違いない!」
アスカに遅れること数分、ナツミは入口を見つけることが出来ず、
結局アスカの後を追う形で侵入することになった。
「何で…何で知らせなかったの? 敵の数が尋常じゃないわ。」
アスカが破壊した敵の残骸を見て、ナツミは呟いた。
それと同時に、言い知れぬ不安が彼女の心を支配した。
いやな予感がする…
とにかく奥へと駆けてゆく。
その時…

ギュイーン! ガガッ! ズシャアッ!!

(百メートル奥! まさか…!!)
651たぢから:02/07/19 23:21 ID:FlADWJ4A
「アスカ!!」
ナツミが辿り着いたときには、既に決着がついていた。
掠り傷一つ無いアミーゴとそのライドアーマーの足元に倒れ伏したアスカは、満身創痍だった。
紅い鎧は既に原型を留めておらず、メットも砕け髪も乱れている。
さらに、内部機構もむき出しで、火花が飛び散っている。
「フッ…口ほどにも無かったわ。」
バスターが封じられ、攻撃手段を失ったアスカは、アミーゴに玩具のごとく弄ばれた。
単純に言うと、シンジュクでのナツミと同じような扱いを受けたのだ。
ライドアーマーの腕に捕まれたまま、床や壁、兵士の残骸などにアスカは何度も何度も叩きつけられた。
勿論抵抗したが、強化されたライドアーマーの力には全く手も足も出なかったのだ。
652たぢから:02/07/19 23:23 ID:FlADWJ4A
「フフフ…コイツを助けたい? 助けたいのなら、私の命令に従いな!
そうすれば、命だけは助けてやってもいいわよ。」
「…ナツミ…私に構わないで。コイツを…倒すのよ!」
アスカは今まで見たこと無いほど、必死の形相だ。それほどダメージが酷いのだろう。
「アスカ…」
「死に損ないが…随分と威勢のいい事ね、アスカ。お前がその気なら、それでもいいわ。
ナツミ、少しは強くなったつもりだろうけど、私のライドアーマーは大幅にパワーアップしてるわ。
この私に刃向かうとは…身の程知らずね。いくわよっ!!」
アミーゴのライドアーマーは瞬時に間合いを詰めた。
「くっ!」
すかさずNチャージブラスターを放つナツミ。
パワーアップしたバスターの威力は、ライドアーマーを数メートル後退させた。
653たぢから:02/07/19 23:25 ID:FlADWJ4A
「ほぅ…なかなか強くなった方じゃない。」
しかし、ライドアーマーにはやはり傷一つついていない。
(ここは特殊武器をうまく使わないと!!)
ライドアーマーに満遍なくダメージを与えられる武器をナツミは選択した。
彼女の鎧が赤く染まる。
「くらえ! ファイヤーウェーブ!!」
ナツミが右拳を床に叩きつけると、そこから炎の柱が立ち上り、波となってライドアーマーに襲い掛かった。
すかさずナツミは武器チェンジ。青と黄色が入り混じった鎧に変化した。
「ショットガンアイス!!」
そう、並みの攻撃が通じないのなら、極端に温度差のある武器を間断なく放ち、
強固なライドアーマーに多大なダメージを与えることにしたのだ。
654たぢから:02/07/19 23:26 ID:FlADWJ4A
「フッ…そこのおバカさんとは違い、頭をちゃんと使ってるわね。でも、肝心の武器の威力がねぇ。」
何と、温度差数百度はある合体攻撃でも、ライドアーマーには罅一つ入らなかったのだ。
これにはナツミも驚きを隠せない。
「なら…ストームトルネード!!」
「フン! 無駄よ!」

ガガガッ!

竜巻はライドアーマーの腕の中で消失した。
「エレクトリックスパーク!!」

キィィィンッ!!

電撃は呆気なく弾かれた。
ブーメランカッターは刃が欠け、ホーミングトーピードは無駄に散った。
ローリングシールドも水風船のごとく弾け、第一級の貫通力をもつカメレオンスティングも通じなかった。
ナツミの武器も、全て封じられた…
655たぢから:02/07/19 23:26 ID:FlADWJ4A
「そ…そんな…」
ついに勝機は無くなった。万事休す…
「無駄な足掻きだったわね。」
そう言うと、アミーゴは右肩のランチャーからエネルギー弾を放った。
「うっ…!」
光の弾が呆然としているナツミに命中、ナツミは動けなくなった。
「圧縮プラズマ弾“パラライズ・ショット”の味はいかが?」
この打撃を食らった敵は電気ショックにより神経回路が麻痺し、動く事が出来なくなる。
「いいザマね。さぁて、どう料理しようかしら?」
「くぅぅ…」
一歩一歩近づいてくるライドアーマー。
全ての武器、機能を封じられたナツミに、死が近づく。

だが、突如ライドアーマーの動きが止まった。
「…お前の相手は、ナツミではなくこの私よ!!」
656たぢから:02/07/19 23:28 ID:FlADWJ4A
なんと満身創痍なはずのアスカが、ライドアーマーの後部にしがみついていたのだ。
「アスカ…!!」
「フン。そんな体で何する気?」
「知れたこと…うおおおおおおおおおお!!!」
するとアスカは残り僅かなエネルギーを集束させはじめた。
アスカの全身が炎のように赤く…紅く輝いた。そして…

ドォォォォォォォォォォォォォン!!!

「あ…アスカぁ!!!」

その時、今まで何も出来なかったナツミが突如その隠れた力を一気に解放した。
自分を拘束していたエネルギー弾を内からぶち破り、アスカの方へ駆け出した。
657たぢから:02/07/19 23:29 ID:FlADWJ4A
アスカ…
アスカ…

「アスカ! しっかりしてアスカ!!」

必死に呼びかけるナツミの声で、彼女は目を覚ました。気が付くとナツミの膝の上で抱えられていた。
「ナツミ…何だ…自力で拘束を断ち切ってるじゃないの…私の自爆の意味無いじゃん…」
フッっと微笑むアスカ。だが、もはや彼女は虫の息だった。
もはやスクラップ場の我楽多と何ら差は無い位徹底的にダメージを受けていた。
装甲は大半が剥がれ、残りの部分も溶解と損傷が見苦しい位激しかった。
ヘルメットと両の肩パッドはほとんど消失していた。
剥き出しの内部機構もケーブル系統の切断、骨格の罅割れ、その他諸々…
身体からは大量の血(オイル)と煙、そして電撃(スパーク)が… 見るに無残な姿だった。

「ごめんアスカ…私が弱いばかりに…」
「違うよ。実力も弁えずに独りで全てを片付けようとした私に…天から罰が下っただけさ…
謝るのはこの私の方なんだよ。ナツミ…貴方は強いんだから…だから…涙なんか見せないで…」
そこでアスカは瞳を閉じた。
ナツミは、アスカの身体から生気が無くなっていくのを感じ取っていた。
658たぢから:02/07/19 23:31 ID:FlADWJ4A
「なっち…ごめんね…もう…行かなきゃ…」
そう言うと、アスカは力尽きた。

「アスカ!? アスカ!!」
ナツミは急いで彼女の胸に耳を当てた。しかし動力炉は完全に停止していた。
その余りに安らかな死に顔は、彼女の死をまるで覆い隠すかの如くであった。
だが彼女は死んだ。もう二度と目を開けて、微笑む事は無かった…
「アスカ… そんな… そんな事って…!!」
ナツミは、アスカの死に顔を見詰めながら何度も否定した。
彼女の死を… 何度も… だが彼女はもう動かなかった。
そしてナツミの頭は、彼女を助けることが出来なかった事に対する無力感で満たされた。
659たぢから:02/07/19 23:33 ID:FlADWJ4A
「フフフ…犬死なんて可哀相に…」
泣き崩れるナツミの後ろには、あれだけの爆発をまともにくらったはずなのに無傷のアミーゴが立っていた。
勿論、これまた無傷のライドアーマーに騎乗したままで…
「馬鹿ね! そんな事でこの私が倒せるとでも思ったの!? さあナツミ、次はお前の番よ! 覚悟はいい!?」

「…」
言いようの無い、やり場の無い気持ちで一杯になったナツミは、
アミーゴの方を向き、アスカの屍を抱え静かにゆっくりと立ち上がった。
涙が止め処なく溢れ、その表情は悲しみや怒り…あらゆる負の感情が混在している。
「…うああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
ナツミは顔を上げ、腹の底から叫び上げた。
660たぢから:02/07/19 23:34 ID:FlADWJ4A
その時、奇蹟が起きた。

ナツミの体から蒼い光が立ち上ったかと思うと、アスカの屍からも紅い光が放たれ始めた。
「…なっ…!?」
予想外の出来事に、アミーゴは言葉を失った。

天高く昇る二つの光はやがて一つに重なり、さらに輝きを増した。
そしてある程度の高さまで昇りつめると、今度はナツミ目掛けて急降下してきた。
まるで天からの使者が降臨してきた、とでもいうのだろうか、見たことも無い位、神々しい光景である。
そして、ナツミとアスカは光に溶け込んだ。

恐れからなのか、体が勝手に動いた。
次の瞬間、アミーゴは肩のランチャーからブラスターをぶち込んだ。
謎の光は、一瞬にして紺色に輝くブラスターに飲まれてしまった。
661たぢから:02/07/19 23:35 ID:FlADWJ4A
アミーゴは、その一撃のみで攻撃を終えた。
だが、その鬼の眼は白い煙に向けられていた。先程ナツミが佇んでいた所に…

暫くすると、その白い煙の中から、人影らしき物と同時に、言い様の無い位の絶大な殺気が溢れ出してきた。
しかも、ただの…アミーゴの様な猟奇的な殺気ではない。例えようの無い位悲しさが漂う殺気…
煙の人影がはっきりと姿を現すに従い、アミーゴの鬼の形相も険しくなっていった。
そう、目の前に殺気の正体現れたからである。
その人影は、紛れも無くナツミだった。だが、アスカを抱えてはいない。
先ほどのアミーゴの攻撃で、総て消滅したのだろうか…?
いや、その代わりナツミの体が、先ほどと異なっていた。
全身が蒼で統一されていた鎧に、所々紅が混じっていた。
662たぢから:02/07/19 23:36 ID:FlADWJ4A
「まさか…ボディの融合(フュージョン)!?」
「そう…アスカは無駄死になんかしない。私に総てを託してくれたわ。」
ナツミの表情は以前悲しさに満たされたままだったが、瞳の蒼い炎は燃え盛っていた。
「アスカの為にも…アミーゴ、お前を倒す!!」
そう言うと、ナツミは両拳を前に突き出した。
拳の周りは、先ほどと同じような光に包まれ、眩しく輝いている。
ナツミは拳を重ね、光を集束させると、両足を肩幅位に広げ、腰を落とし、両手を腰の右側に据えた。
一連の動作は、ナツミが頭で考えたことではなく、体が勝手に動いたに等しかった。
だが、それは伝説の技そのものだった。
663たぢから:02/07/19 23:38 ID:FlADWJ4A
「…こんなバカなことが…」
今更言うまでもないが、アミーゴはライドアーマー操縦の第一人者である。
だがそんな彼女だからこそ判っていたのだ。
真の強者を目の前にした瞬間、ライドアーマーなど単なるガラクタ以下に成り下がってしまう事を…

「波動拳っ!!!」

アミーゴの予感は見事的中してしまった。
ナツミとアスカ…凝縮された二人分の膨大なエネルギーが、ナツミの掌から放たれた。
と同時に、激しい閃光と振動、そして爆発が周囲に走って行った。
アミーゴはライドアーマーに乗ったまま、動かなかった。
崩壊してゆく自分の周りを遠い目で見詰めながら… そして彼女も爆発に飲み込まれて行った。
その様はある意味、奇妙な爽快感を消え逝くアミーゴの胸中に与えていた。それでも…
「くそおおおおおお!!!」
アミーゴは悔しさに、力一杯叫んだ。だがその声は、激しい爆音によって掻き消された。
664たぢから:02/07/20 23:08 ID:NKiRXGaA
ACT13.FIGHT TO THE DEATH
Dr.TKの要塞の最深部…
只ひたすら続く回廊… そこにはもはや、誰もいなかった。
先ほどの波動拳でTK軍団の兵士は全滅、そして数々の防衛網も壊滅…
あるのは、奥の方から漂ってくる黒い邪悪な気のみであった。
ナツミは、足音を空間に響かせながら歩いていた。
蒼く透き通る彼女の瞳は、鋭い輝きを発していた。
そう、彼女の先にはDr.TKが… この悲しい戦いの首謀者であるDr.TKがいるのである。
ナツミは自分を生かしてくれたアスカの為に… Dr.TKがいるであろう場所へと足を進めていた。
そんなナツミの前方に、一人の人影ともう一つの影が現れてきた。
665たぢから:02/07/20 23:10 ID:NKiRXGaA
「フフフ… 素晴らしいよ、ナツミ。一人でここまで辿り着くとは、実に素晴らしい。
さてと、直ぐにでも私とお手合わせ願いたいのだが、生憎私のペットがそれを許してくれなくてね。
何しろ、私に刃向かう者の始末は全てこれに任せているのでね…」
Dr.TKの足元には、番犬型レプリロイド“トモガーダー”が、殺気を漂わせている。
「それではナツミ、君と戦える事を心より願っているよ。ハハハハハ…」
すると、Dr.TKは霧のごとく闇に溶けこみ、その場から消え去った。
そして…

「ウォウォ〜〜〜〜ン!!」

番犬トモガーダーがナツミに飛び掛ってきた。
666たぢから:02/07/20 23:12 ID:NKiRXGaA
「お前の相手など…してる暇はないわ!!」
瞬時にナツミの殺気が増したかと思うと、彼女は拳をトモガーダー叩きつけた。
「キャオ〜ン!!」
呆気なく吹っ飛ばされる犬。だがそれだけでは済まない。
トモガーダーは全身が凍りついていたのだ。
そう、先ほどの拳はただの拳ではない。
アスカのパーツを得たことで、威力が上昇したショットガンアイスだったのだ。

やがてトモガーダーは氷の塊のまま、バラバラに砕け散った。
「Dr.TK… さっさと出てきなさい!」
667たぢから:02/07/20 23:16 ID:NKiRXGaA
ナツミがそういい終わらないうちに、闇からDr.TKが姿を現した。
「見事だ、ナツミ。それでこそ、あのアミーゴをが倒した女だ。」
するとDr.TKは羽織っていた黒いマントを脱ぎ去った。そしてその下は…
「…そのボディは…!」
「フッ…私は一科学者だ。自分に相応しい戦闘用ボディを作り出すことなど朝飯前なのだよ。」
重厚で、かつ工学的に優れたデザインのボディ… 一目見ただけでその能力を判断するのは難しい。
しかし経験豊富なナツミは、その力を肌で感じ取っていた。強い…
「でも…負けるわけにはいかないわ! 倒れていった友の為にも…ね!」
ナツミは銃口をDr.TKに向けた。
「…では望み通り私が相手をしてやろう。この私にたてついた事を、あの世で後悔するが良い!!」
Dr.TKは懐から緑に光るビームサーベルを取り出した。
「いくぞっ!!」
668たぢから:02/07/20 23:18 ID:NKiRXGaA
二人は同時に猛突進して、互いに己の武器を相手の首に翳した。
高出力のバスターとビームサーベルの衝突は、激しい電撃を生じさせた。
「くっ…!」
「ぐっ…!!」
互いに想像以上の高出力により、双方の腕に振動が走った。
「うおおおおおおおおおおお!!」
しかし、Dr.Tkはそのまま連続でナツミに斬りかかって来た。
戦闘用ボディの力なのか、Dr.TKの剣裁きは相当の速さである。
しかしナツミのバスターの速射性も、比べ物にならないほどに進化した。
衝突の度に空間に激しい電撃が走る。
互いの武器が一回力強く衝突してから、二人は一旦間合いを置いた。
669たぢから:02/07/20 23:20 ID:NKiRXGaA
(あのサーベルの出力も凄いけど… 科学者レプリロイドが操っているなんて信じられないわ。)
(ナツミは進化するレプリロイドだと聞いたことがあったが… 本当らしいな。)
Dr.TKの右腕は、衝突の時に生じた衝撃で痺れていた。
だが、すぐさま彼は腕に力を入れ、ビームサーベルを強く握った。
そして次の瞬間、Dr.TKはサーベルからカッター状のエネルギー波をで撃ち出してきた。
しかしナツミには掠りもしなかった。
「ムッ! どこへ消えた!?」
ナツミは瞬時に、溜めカメレオンスティングで全身をカモフラージュしていたのだ。
Dr.TKの視界から消え去ると、すぐさま後ろに回りこみ、貫通力の高い刃を放った。
見事カメレオンスティングの刃は、Dr.TKの背中に幾つかの筋を刻み込んだ。
670たぢから:02/07/20 23:21 ID:NKiRXGaA
「後ろかっ!」
Dr.TKは後ろを振り返った。
すると溜めカメレオンスティングの効果がきれ、姿が丸見えになったナツミがいた。
だが、ナツミの鎧の色は、緑から紫に変化していた。
「ストームトルネード!!」
ナツミの掌から放たれた竜巻が、Dr.TKに襲い掛かり、彼のボディを削ってゆく。
「ぐおおおお…小娘が、調子に乗るのもそこまでだ!!」
再びDr.TKはナツミに猛突進し、高速で彼女に斬りかかって行った。
「ローリングシールド!!」
ナツミはバリアを展開してDr.TKの攻撃を総てで受け止めた。
…だが高出力のエネルギーを抑えきれず、すぐにバリアは消滅してしまった。
その隙をつかれ、ナツミは顔をDr.TKに蹴られ、その衝撃により後方へ勢い良く飛んだ。
671たぢから:02/07/20 23:23 ID:NKiRXGaA
「とどめだ!」
Dr.TKはビームサーベルを両手で宙に翳し、エネルギーをチャージし始めた。
それに対しナツミは、空中で姿勢を立て直して着地し、素早く彼に接近して行った。
「攻撃はさせないわ!」
「遅いわああああ!!」
そう叫ぶとDr.TKは、ナツミの接近よりも速く、彼女に向かって大技を繰り出した。
「うるああああああああ!!」
Dr.TKがビームサーベルを思いっきり振り下ろすと、地面に巨大な衝撃波が発生した。
特に技名はついていないが、これがDr.TKの戦闘用ボディから繰り出される最強必殺技だ。
ボディの身体剛性ギリギリの戦闘能力を瞬時に引き出し、サーベルを通して敵にぶつけるのだ。
その威力は山一つくらい軽く消し去ることが出来るという。
だがナツミは何と衝撃波を避けようとはしなかったのだ! そして…
672たぢから:02/07/20 23:24 ID:NKiRXGaA
「…波動拳…!」
ナツミの両手が激しく発光した次の瞬間、閃光が衝撃波を突き破り、瞬時にしてDr.TKに襲い掛かった。
「うおおおおっ!!」
伝説の波動拳により、Dr.TKは大きく後方へと吹き飛ばされていった。
波動拳が発動した次の瞬間、そのエネルギー総てが衝撃波を相殺したのである。
Dr.TKにとって不幸中の幸いはそこで、波動拳のエネルギーが総て衝撃波と相殺された為、
彼にぶつかった時にはそのエネルギーは殆ど無く、その結果死だけは免れたのである。
だが、最強必殺技もナツミの前には無力であった。さすがのDr.TKも遂に焦り始めた。
「バカな… 私の計算ではこの技は完璧だったはず… なのに… アイツには敵わないというのか!?」
Dr.TKは何とか立ち上がった…が、もはや成す術は無かった。
もう手は尽くしたのである。目の前には、ナツミが自分を鋭く捕らえていた。
(…だが、この女は… 天才科学者の私を侮辱した張本人のこの女は… 絶対にこの手で倒す!!)
673たぢから:02/07/20 23:26 ID:NKiRXGaA
Dr.TKは諦めなかった。強い執念を持って、ビームサーベルを構え直して再びナツミに立ち向かっていった。
「うおおおおおおっ!!」
それに対し、ナツミも構えに入っていた。どうやらこれでDr.TKに止めを刺す様だ。
ナツミの鎧の色は… 橙!!
「とどめよ! エレクトリックスパーク!!」
「うおっ!?」
Dr.TKがサーベルを振り下ろすよりも数瞬早く…
紫色の電撃の壁が、彼のボディを貫いた。

「バ…バカ…な…」

Dr.TKのボディに亀裂が入ったと思うと、全身が一気に罅割れ、爆発、四散した。
674たぢから:02/07/21 23:07 ID:eAMMgNIz
空間には静寂の時が流れ始めた。
ナツミは只一人そこに立ち尽くしていた。
そして彼女はDr.TKを撃ったバスターを解除し、その腕を下ろした。
「倒した…Dr.TKを…」
ナツミは、まるで力が抜けたかの様にその場に腰を下ろした。
「戦いは終わった… “正義”が勝ち… “平和”が来るのに…」
その時、ナツミの眼からは再び涙が流れていた。
その涙が流れ落ちる眼も、先程までの殺気に満ちた眼から、少女型レプリロイド・ナツミの瞳に変わっていた。
「アスカ…」
自分の体に付着したアスカの紅いパーツを眺めながら、ナツミは呟いた。
実は今ナツミの頭には、アスカとの記憶が駆け巡っていたのである。
自分独りでDr.TKを倒したわけじゃない。彼女の力が無ければ成し遂げられるはずはなかった。
…でもアスカはもうこの世には…
「何で… 何で… アスカ…」
675たぢから:02/07/21 23:09 ID:eAMMgNIz
「フハハハハハハ…!!」

突如静寂を打ち破る笑い声…
ナツミはその声に聞き覚えがあった。いや、あって当然だった。
ついさっき倒した筈の… あの男の声なのだから…
「Dr.TK…!?」
ナツミの目の前には、Dr.TKの頭部のみが不気味に微笑みながら浮遊している。
「君が倒したのはあくまで戦闘用のボディだ。私自身ではない。」
「そんな…」
「これは君に対する褒美だ。Dr.TKの最終兵器をとくと味わうがいい。」
すると、Dr.TKの頭部は後方の闇に消え去った。
だが、すぐさま周囲が明るくなり、“最終兵器”が姿を現した。
676たぢから:02/07/21 23:11 ID:eAMMgNIz
後ろの壁と一体化したような、巨大な狼の面を模したボディ…
両側には残忍さの象徴とも言える鋭い爪を備えた手…
先ほどとは比べ物にならない程の強さが、ひと目見ただけで感じられる。

Dr.TKの頭部は、狼の脳天に収まり、一体化した。
それと同時に、強烈な殺気が漲りはじめた。
「うっ…」
“蛇に睨まれた蛙”とはこのようなことを言うのだろうか、
“狼に睨まれた少女”ナツミは、完全に萎縮してしまった。
残念ながら、先ほどの戦いで、かなりのエネルギーを消耗している為、伝説の波動拳を放つ余裕はない。
無理に放てば、過負荷(オーヴァーロード)による自己崩壊を招くことぐらい、ナツミは承知していた。
だが、果たしてその他の武器で太刀打ちできるのか…?
677たぢから:02/07/21 23:13 ID:eAMMgNIz
突如狼の手が襲ってきた。紙一重の所でナツミはそれをダッシュで躱した。が…
「! しまっ…」
狼の口から複数のエネルギー弾が高速で放たれたのだ。
「うあっ!」
その一つを物の見事に喰らった彼女は、その場に倒れた。
たった一撃であったが、装甲はおろか、内部機構も一部破壊されてしまった。
「もう終わったか… 呆気なかったな…」
Dr.TKは地面に倒れたナツミに手を近づけようとした。だが…

パシッ!

「私に触るな… イレギュラーが…!」
678たぢから:02/07/21 23:14 ID:eAMMgNIz
自分を触ろうとした狼の手を引っ叩き、何とナツミは起き上がった。
幾ら彼女の心が強靭でも、その大損傷を負った身体を動かせるというのはもはや奇跡に近かった。
彼女の鋭い眼が、Dr.TKを睨み付けた。
「フッ… イレギュラーとハンターは紙一重だというのに…」
そう言いながら今度は狼の口から滝のような炎を発した。
「あああああああああっ!!」
ファイヤーウェーブとは比べ物にならない猛攻に、ナツミの身体は更に傷付いていった。
ローリングシールドを展開し、それらを総て弾き消そうとした…が、精々半分がやっとだった。
「私との実力差は歴然… しかも君はもう動けない身体なのだよ… もう諦めて安らかに眠ったらどうかね?」
ナツミの視界はどんどん暗くなっていった。もはや限界である。だがナツミは諦めなかった。
「…カメレオンスティング…!」
679たぢから:02/07/21 23:17 ID:eAMMgNIz
ナツミは姿を消し去ると、バスターの照準をを狼の額…Dr.TKに合わせた。
(あそこを潰せば… 勝てる!!)
ナツミを見失ってDr.TKが攻撃できずにいる隙に、彼女は緑の刃を放った。

キィィィン!

何とカメレオンスティングの刃が見事に弾かれていたのである。
Dr.TKの頭部は貫通力No.1の刃をも通さなかったのだ。
「そ… そんな…」
ナツミは自分の目を疑った。どうやって彼を倒せというのか…

そしてカメレオンスティングの効果が切れ、ナツミの姿が晒された。

「そこか… もう同じ手はくわないぞ。さらばだ… イレギュラーハンター・ナツミ!」
狼の口から、エネルギー弾が次々と発射された。もはやナツミには避ける気力も残されてはいなかった。
光に飲まれ、その中でナツミは気を失ってゆく。
(私は… Dr.TKを倒せなかった。私の力なんて、所詮こんなものだったの…か…な…)
ナツミの視界は段々暗くなっていった。
680たぢから:02/07/21 23:18 ID:eAMMgNIz
真っ暗だった。辺り一面、光すら射さない暗闇だった。
「ここは…?」
無限に続く暗闇の中で、ナツミは独り立ち尽くしていた。
「私は…誰…?」
自分の名前すら忘れてしまった。自分は何者なのか…
その時、前の方から光が射してきた。余りの眩しさに、ナツミは思わず目を凝らした。
「なっち…」
前方から、人の声がしてきた。何となく聞き覚えのある女性の声であった。
目が慣れてきたナツミは声のした方を向いた。
するとそこには、同じような衣装に身を包んだ人物…恐らく皆女性だろう…が十数人。
「誰…誰なの?」
逆光の為、ナツミはその人達の顔まで確認する事は出来なかったが、何処かで見た事がある容姿だった。
遠い昔に…
681たぢから:02/07/21 23:21 ID:eAMMgNIz
「さあ、行こう。」
その人達は、ナツミの数メートル前で足を止め、手を伸ばし、ナツミを招いている。
「行く…って何処へ?」
その人達はそれ以上は何も言わず、姿を消した。
「ま…待って! うわっ!」
ナツミが追いかけようとすると、突然前方の光が明るさを増してきた。
余りもの眩しさに、ナツミは再び目を凝らした。そして数々の絵が、再びナツミの頭を過ぎった。

廃墟と化した大都市…
傷つき、動かなくなった見覚えのある少女達の体…
NEW TYPE ROBOT “NATSUMI”と書き記された自分の設計図…
自分を製作しているあの男…
レプリロイドらしき残骸…
残骸…
残骸…

何度も見た夢…
何度も途中で途切れた夢…
何を意味するのか分からない夢…
682たぢから:02/07/21 23:22 ID:eAMMgNIz
「私は… 誰なの? たった一人で…」
ナツミは暗闇の中で、独り悩んでいた。苦しんでいた。
こんなことは初めてではなかったが。今回はいつもと何か違っていた。
そんな彼女に、足音を響かせながら近付いてくる者がいた。
「誰…?」
見覚えのある、透き通るような紅い鎧…
その顔は、自分の目の前に来てやっと見えてきた。
「アス…カ…!」
友の顔を見て、ナツミは何か重要な事を思い出した様である。
「そうよ… 私は一人じゃない。アスカと一緒なんだ! 負けてはいられない!」
683たぢから:02/07/21 23:24 ID:eAMMgNIz
「ムッ…!?」
Dr.TKは、ナツミの奇妙な変化に気付いた。
何と傷だらけだった彼の蒼と紅の鎧は、見る見る内に完全に治癒し、新品同様の鈍い輝きを発し始めたのだ。

「ど…どういうことなの…だ?」
Dr.TKは死んだ筈のナツミの変化に戸惑い始めた。彼女に一体何が…?
そして次の瞬間、ナツミは何と奇跡的に動き始めたのだ!
「嘘…だろ…!?」
余りもの衝撃でDr.TKもショックの色を隠せなかった。
ナツミはゆっくりと立ち上がった。
「お前はゾンビか!? く…くらえ!!」
狼の口からエネルギー弾が発射された。しかも、今までに無い位の数で。
だが…

シュウウウウウウウウウ……

ナツミは右手をかざし、何と総ての光の弾をかき消したのである!
先程はかわすことも困難だった筈なのに…
明らかにナツミのポテンシャルは上昇している。
しかも今までに無い位の強さを発揮しているのである!
684たぢから:02/07/21 23:25 ID:eAMMgNIz
ナツミは両手を前に翳した。
右腕は蒼、左腕は紅…
「Dr.TK…今こそ私たち二人の力を受けてみろ!」
「こ…これは…!?」
Dr.TKは自分の目を疑った。
ナツミの横に、亡霊のように佇む紅いレプリロイドの存在が確認できたからだ。
『いくよ、ナツミ!!』
「くらえ! N&A−ツイン・ブラスター!!」

蒼と紅…二つの光が交わり、一つの閃光…彗星となって、Dr.TKの頭部を貫いた。
まさに電光石火…一瞬の出来事だった。

「ば、馬鹿な… お前如きに、この私がやられるとは…
何故だ… 何故お前は私に刃向かった・・
我等レプリロイドの時代が…始まろうと…いう…の…に……」

Dr.TKがその言葉を言い終わると、激しい閃光と振動、そして爆発が周囲に走って行った。
ナツミは…動かなかった。
崩壊してゆく要塞内部をを遠い目で見詰めながら…
そして彼女も爆発に飲み込まれて行った。
685たぢから:02/07/21 23:28 ID:eAMMgNIz
戦いは終わった。
明日になれば再び平和な朝が訪れることだろう。
しかし、傷つき倒れ、夜の闇へと消えていった者たちが、
その朝を迎えることは決してない…

一人立ち尽くすナツミの姿は、
爆発の光に照らされて今にも消えてしまいそうに見えた。

なぜ、戦わなくてはならないのか。
誰もナツミに、その事を教えてはくれない。
休む間もなくどこかでイレギュラー達が発生し、
再び彼女は戦いの渦へと巻き込まれていくのだろう…

優しさを捨てきれぬ、イレギュラーハンターナツミ。
彼女の戦いは、どこまで続くのであろうか。
彼女の苦しみは、いつまで続くのであろうか。
彼女の腕に冷たく光る、Nバスターの輝きとともに…
686たぢから:02/07/21 23:29 ID:eAMMgNIz
-CHARACTER FILE-

19.番犬トモガーダー
その名の通り、Dr.TKが飼っている番犬型レプリロイド。ちなみにメスである。
番犬というよりも猟犬に近く、特A級のハンターとも互角以上に戦えるのだが、
著しい成長を遂げたナツミの足元にも及ばなかった。

(キャラ元)華○朋美

20.Dr.TK
権威ある博士レプリロイドだったが、イレギュラー化し世界に反旗を翻した。
博士型でありながら、独自の技術により戦闘用ボディ、そして狼型の究極ボディを開発。
圧倒的な力でナツミを追い詰めたが、ナツミとアスカの友情の力の前に散っていった。

(キャラ元)小○哲哉




NEXT−EPILOGUE.IRREGULAR HUNTER NATSUMI
687たぢから:02/07/21 23:41 ID:eAMMgNIz
どうも作者っす。
次回で【IRREGULAR HUNTER NATSUMI】最終回です。
先日、某検索エンジンで“くノ一娘。物語”を検索してみたところ、
羊版のスレッド一覧の他に、ファンサイトが2つ引っ掛かりました。

そのうちの一つは日記メインサイトで、羊や飼育の小説を日替わりで紹介されています。
管理人様は“くノ一娘。物語”を毎日読まれていたようです。この場を借りて感謝申し上げます。
で、【IRREGULAR HUNTER NATSUMI】は元ネタがゲームの同人小説はとっつきにくいとのこと。
私も連載しながら、そのことを薄々感じていました。
下手糞な文章でもそれなりに反応があった前作と、
読者様からのレス数が、四捨五入すれば0になる今作との差…
完全なる元ネタがあるが故の抵抗感が大きかったようですね。

私自身、ほぼオリジナルの“くノ一娘。”の方がアイデアが出し易いし、
書いていて非常に楽しいのは事実です。
でも一度連載を始めた以上、放棄するのは絶対嫌でした。
そしてここまで来ました。明日で完結させます!
688たぢから:02/07/22 23:00 ID:LJzcH35z
EPILOGUE.IRREGULAR HUNTER NATSUMI
トーキョーシティに聳え立つ高層ビル群。
その一つの屋上に、一人の少女が佇んでいた。
流行の服にサラサラの髪… だが彼女は人間ではない。
人に創られし、限りなく人に近い者… レプリロイド。
彼女はこのビルから眺める夜景が好きだった。
人々が交錯、光と闇、喜怒哀楽が入り混じるこの都会で、
このビルの屋上が唯一落ち着ける場所なのだ。
689たぢから:02/07/22 23:03 ID:LJzcH35z
Dr.TKの事件から一週間、ナツミは行方不明になっていた。
仲間のハンター達が、要塞のあった付近の海を懸命に捜索したが、
見つかったのはナツミが纏っていたアスカのパーツだけだった。
それにより、ハンターガールズはアスカの死を知るのだが、
ナツミの方は行方不明扱いにとどまったのだった。
やがて事後処理の関係でナツミ捜索に人員を割くことが出来なくなり、
ハンターガールズは、やむを得ず捜索を打ち切った。
あれ以来、誰もナツミの姿を見ていない。
690たぢから:02/07/22 23:04 ID:LJzcH35z
「…平和だね… でも… その平和を手に入れるために…」
そう言ってナツミは自分の手を見つめた。
何も異常が見られないことを確認すると、心のそこからホッとした。
なぜなら最近、彼女は自分の手を見つめる度にその手が鮮血に染まっている様に見えるのだ。
別に彼女の手に多くの血が付き、そのシミが残っているわけではない。
人間で言う“精神的外傷”による幻覚に近いものだった。
それは、従来からある優しすぎる心と、イレギュラーに対する憎悪・闘争心との反発もあるが、
先の戦いで失ったかけがえのない友、アスカへの悲しみが原因だった。
レプリロイドは外傷を治すことは容易かったが、精神の傷を治すことは事の他人間より難しかった。
691たぢから:02/07/22 23:06 ID:LJzcH35z
「ねぇアスカ… 私はどうすれば…」
彼女のもう一方の手には、アスカの頭脳チップが握られている。
アスカの鎧と融合した際に、自然と手の中に入っていたものだ。
幸い傷一つ無く、新しいボディに組み込めば、アスカは甦るだろう。
だが、ナツミにはそれが出来なかった。したくなかった。
アスカが復活すれば、彼女は勿論、自分もまたハンターとしての生活を送ることになるだろう。
そして再び、慈悲と憎悪の心の葛藤、そして予期せぬ別れに苦しむことになるだろう。
それだけは避けたかった。
692たぢから:02/07/22 23:07 ID:LJzcH35z
『なに情けない顔してるの?』
「…!?」
聞き覚えのある声に、ナツミは我に返った。
振り向くと、死んだはずのアスカが立っていた。
「ア…スカ…?」
『何幽霊でも見たような顔つきになってるの? ま、私は死んだんだけどね。』
ナツミは暫く動けなかった。が、やがて口が開いた。
夢でもいい… 幻でもいいから、自分の心の内を聞いて欲しいと思ったのだ。
「アスカ… どうしてハンターなんかやってるんだろう?」
『…』
「それだけじゃない。どうして私は生きてるんだろ? 私は一体誰なの? 何の為に生まれたの?」
693たぢから:02/07/22 23:09 ID:LJzcH35z
アスカは何も言わず、ナツミの方へ歩み寄ってきた。
やがてナツミと肩を並べると、アスカは柵に身を乗り出した。
「アスカ… 何する気!?」
慌ててナツミは駆け寄ったが、アスカは下方を指差していた。
『あそこ… 見えるよね?』
レプリロイドの視力は人間の数倍である。
ナツミの目には、地上の光景がはっきりと映った。
そこには、一体のイレギュラーが暴れていて、多くの子供達が危険にさらされていた。
「くっ…!」
ナツミは柵を越え、一気に飛び降りようとした。
だが、アスカに止められた。
694たぢから:02/07/22 23:10 ID:LJzcH35z
「何するの!? 早くしないとあの子達が!」
あせるナツミに対し、アスカはフッっと微笑んだ。

『…それが貴方がハンターやってる理由じゃない?』

「あっ…」
アスカの指摘にナツミは、しばし呆然となった。
だが、微笑むアスカから自分の右腕に視線を落とすと、右拳を強く握った。
そうだ、過去や本性に悩んでいる暇など無い。
イレギュラーハンターとして、弱き者を助けること…それだけが自分の存在意義。
真実は自分の中にあったのだ。もう迷う必要はどこにも無い。
「アスカ… ありがと……!?」
視線を上げたとき、既にアスカの姿は無かった。
ただ左手にある彼女の頭脳チップは、不思議なほどに輝いていた。

「…行ってくるよ、アスカ。」
そう言うと、ナツミは一気に飛び降りた。
695たぢから:02/07/22 23:10 ID:LJzcH35z
「オラオラァ!人間なんてがっぺムカツクんじゃい!!」
イレギュラー・エガシラは、付近の建造物を破壊しながら暴れていた。
その目の前には、恐怖に怯え動けなっている子どもが数人。
幼い子ども達は、ただ体を寄せ合い、泣き叫ぶことしか出来ないでいる。
「オラオラチビ共!そこをどけよ!どかなかったらアタックするぞ!!」
それは無抵抗な子ども達への死の宣告だった。
建物でも人間でも手当たり次第、衝動のままに破壊する…それが彼の全てだった。
「ぶち殺すぞ、ゴルァー!!」
全身凶器かつ全身狂気のイレギュラーが、子ども達に飛び掛った。

次の瞬間、そこに蒼い閃光が割って入った。

「ぐはあっ!!」
突如割り込んできた蒼い閃光に、エガシラは勢いよく突き飛ばされた。
数十メートルは吹っ飛ばされ、白目をむいて気絶している。
「もう大丈夫だよ。あとはお姉ちゃんにまかせて。早く逃げなさい。」
蒼い閃光の正体は子ども達の方に振り向き、微笑んだ。
「…あ、ありがと…」
子ども達もまた、彼女に笑顔を返し、その場から立ち去った。
696たぢから:02/07/22 23:12 ID:LJzcH35z
「ぐ… くそったれが…!」
エガシラは重い身体を何とか起こし、立ち上がった。
だが、先程首に掛かった負荷が余りにも大きく、未だ鈍痛が彼の頭部を廻っている。
…と、彼の目の前には子ども達の代わりに、見た目普通の少女が立っている。
外見年齢は18〜19歳…と言ったところか。
「…何だお前? こんな所で小娘がひとり何をしている?」
そう言いながらも、エガシラは居なくなった子どもの気配を探っていた。
結構しつこい性格のようだ。だが…
「誰も殺させはしないよ。」
「…小娘のクセに何だぁ? 全く… 冗談は考えてから言えよな。がっぺムカツク!!」
697たぢから:02/07/22 23:24 ID:LJzcH35z
右中指だけを立て、挑発のポーズを見せるエガシラ。
だが彼女は… ナツミは全く怯まなかった。
そればかりか彼女の身体からは、凄まじい殺気が漲り始めた。
「…この気配…は…!?」
次の瞬間、彼女の身体が激しく発光し、周辺は蒼い閃光に呑み込まれた。
その眩しさにエガシラは眼を凝らした。
「ぐっ… この圧力は…!」
閃光が薄くなり、エガシラは再び眼を開けた。
すると…そこには変わり果てた姿のナツミが立ち尽くしていた。
蒼い鎧とメットを纏う、少女だったはずのナツミが…

その身体から漲る蒼色のオーラ…
その雰囲気から彼女が只者では無い事は、エガシラにも感じ取る事が出来た。
698たぢから:02/07/22 23:24 ID:LJzcH35z
「何だ何だぁ? さっきこのオレに不意打ちを食らわしたのはお前かぁ!?」
ナツミを捕らえるエガシラの狂気混じりの眼は、更に鋭くなっていった。
だが、ナツミは構わずバスターを放った。
一瞬のことにエガシラは対応できず、また吹っ飛ばされた。
圧倒的な力の差に、さすがのエガシラも恐怖を感じた。
「なっ…何なんだぁ!? お…お前は誰なんだぁ!?」
腰が抜けたまま狼狽するエガシラに、ナツミは銃口を向けた。
「私はナツミ…イレギュラーハンター・ナツミよ!!」


………………………………
699たぢから:02/07/22 23:26 ID:LJzcH35z
丁度その頃、ハンターガールズのナツミのコンピュータに一通のメールが届いていた。
差出人は不明で、件名の記載はない。便箋のアイコンをクリックする者もいない。
だが、誰もいない部屋に、青白い光がぼうっと輝いた。
ディスプレイに映される、あの科学者レプリロイドの顔…

『お前が倒した者は、私自身ではない。
バラバラになった機械は、私の分身のようなもの。
私は再び、実態となって甦る…
ナツミよ、また会える日を楽しみにしているぞ。
ハハハハハ・・・』

Fin−
700たぢから:02/07/22 23:37 ID:LJzcH35z
終わった… いろんな意味で…

【重要告知】
「くノ一娘。物語」第二部は、只今鋭意製作中でございます。
活躍するキャラを増やしたことで、話もかなり増えます。
リクエストにも可能な限り応えるつもりです。
お楽しみに〜。
701たぢから:02/07/24 23:02 ID:YmWpV5wn
つなぎ第2弾。
命続く限り挑戦しまっす!!
702たぢから:02/07/24 23:06 ID:YmWpV5wn
【怪傑! Mr.Moonright】

ミュージカルもシャッフルユニットも終わり、コンサートツアーと24時間テレビの夏がやってきた。
吉澤ひとみ、頑張っていきますよ! 皆さんよろしくぅ!!

そんなある日、私とごっちん、そして安倍さんが“ハ○モニ”スタッフに呼び出された。
圭ちゃんじゃなくて安倍さんが一緒、ってことはプッチ関係じゃないみたい。
そもそも“ハ○モニ”なのだから、ユニットで呼ばれることは考えられないや。
新コントかなんかの原案発表に決まってる。
となると“ゴマキペンギン”に安倍さんを投入かな? どこに使うんだ?
…って、“新コーナー”じゃないや。
じゃ、一体…???

あれやこれやと思いを巡らしつつ、私とごっちんと安倍さんは、指定された部屋に向かった。
703たぢから:02/07/24 23:08 ID:YmWpV5wn
『怪傑! Mr.Moonright』

企画書の表紙に書かれていたのは、その題名だけだった。

「「「これ… 何ですか?」」」
思わず声が揃う私たち。“怪傑”って何?

※怪傑(かいけつ);不思議な力を持っているようだが、正体不明の人物のこと。

「特撮って分かるか?」
「ああ、はい。“○○戦隊”とか“仮面ライダー△△”とかのことですよね。」
プロデューサーの質問に答えたのは安倍さん。
それにごっちんが続く。
「そういうのを私たちがやるんですか?」
「うん、そう。」
マジ… ですか?
704たぢから:02/07/24 23:09 ID:YmWpV5wn
娘。的特撮コーナー『怪傑! Mr.Moonright』のコンセプトはこうだ。

犯罪都市トーキョーに突如現れた三人のヒーロー。
月光を背に浴びて参上し、瞬く間に悪を倒す。
タキシードに大きなマント、素顔を仮面で隠す謎の三人組の正体は、
Mr.Moonright(ミスター・ムーンライト);私
Mr.Harfmoon(ミスター・ハーフムーン);ごっちん
Mr.Crescent(ミスター・クレセント);安倍さん

…って私主役っすか!?

プロデューサー曰く、“バットマン”や“怪傑ズバット”みたいなコーナーにしたらしい。
後者分かりません。それに前者のパクリなのがよく分かりますよ。バットシ○ナルないだけじゃん。
それに、今更“Mr.moonright”持ってこられても…
やっぱアレが主題歌だろうね、多分。
705たぢから:02/07/24 23:10 ID:YmWpV5wn
「面白そうですね! ごっちん、やろうよ!!」
「うん!!」

マジで? (…デジマ? マジでジマ…)
私と対照的に、ごっちんと安倍さんは物凄い乗り気だ。

「あとは吉澤、主役のお前が承諾すれば、全てうまくいく手はずになってるぞ。」

ああ…
もう私の返事に関らず、そこまで話が進んでるってことですよね。
私に選択の余地は無かった。
ええい! どうにでもなれ!!

「分かりました。やりましょう…」
「ようし! じゃあ早速台本とか持ってくるぞ。ああそれから、スポンサーにはあの“バン○イ”だ!」

台本ですか… やっぱり用意のよろしいことで。
あれ? スポンサーつけたら『怪傑! Mr.Moonright』って番組になる気が…
706たぢから:02/07/24 23:13 ID:YmWpV5wn
何の前触れも無く始まった、『怪傑! Mr.Moonright』プロジェクト!
主役・吉澤の運命はいかに!?

(0^〜^;)<いや… まだよくわかんないっす。 
707半自動保全エージェント ◆HOzENDAE :02/07/26 14:16 ID:7+Hr8z6Y
保全書き込みを行います. 1027660565
708たぢから:02/07/26 23:04 ID:NPcYgi1E
>707さん
保全ありがうございます。

気になるのが、“半自動”と“1027660565”なんですけど…
709たぢから:02/07/26 23:05 ID:NPcYgi1E
『怪傑! Mr.Moonright』プロジェクトはトントン拍子で進んだ。
…というより、プロデューサの準備が非っ常によろしくて、
衣装もシナリオも製作スタッフも何もかもが出来上がっていた。
あとは役者だけ。

「これ本格的だべ!」
「いいんじゃない。」
あのあと、私たちは控え室で台本を読んでいた。
最初っから乗り気のごっちんと安倍さんは、『Mr.Moonright』の世界にのめり込んでいる。
でも私は… 正直馴染めなかった。

こんなことをやりたいが為に“モーニング娘。”になったわけじゃない。
710たぢから:02/07/26 23:08 ID:NPcYgi1E
確かに私は、お世辞にも歌が上手いわけじゃない。

歌手になりたいが為に娘。となった者…
“モーニング娘。”になりたいが為に娘。となった者…

自分の歌のレベルと、娘。入った時期を考えれば、
私は後者と言われても仕方が無い。

でも、プッチモニでの初ソロは、嬉しかった。
生放送ではずしても、自分の歌を歌えることの喜びを知った。

だけど…
今の“モーニング娘。”はどうだろう?
吉澤ひとみは何だろう?
711たぢから:02/07/26 23:10 ID:NPcYgi1E
当初からメインでありながら、何度と無くソロ計画が白紙になった安倍さん。
早くからソロで活動するも、本人とはかけ離れたイメージの歌しか歌わせてもらえないごっちん。

今の娘。の現状を見ると、私なんかよりこの二人の方が嫌なはずなのに…

何で乗り気なの?
何で笑顔なの?

何で… 何でおかしいと思わないの?

「よっすぃー、どうしたの?」
「そんな怖い顔してないで、早くセリフ合わせしようよ!」
712たぢから:02/07/26 23:12 ID:NPcYgi1E
ああ、もうこの二人は慣れ切ってしまったんだ。今の娘。に。
これはある種の中毒だ。

「分かったよ。」
とっさにウソの笑顔を作り、私は台本を持って二人に近づいた。

「じゃあ、名乗りのシーンやろう。」
「ヒーローの定番だね。でも、結構長いね。」

定番故に、そのセリフは非常に馬鹿げていた。
713たぢから:02/07/26 23:14 ID:NPcYgi1E
※ムーンライト(吉澤)=M、ハーフムーン(後藤)=H、クレセント(安倍)=C、悪党=悪

C「そこまでだ! 悪党ども!!」
H「ボク達が来たからには…」
M「好き勝手にはさせないよ!!」
悪「なっ… 何だおまえらは!?」
C「友情の光! ミスター・クレセント!」
H「勇気の光! ミスター・ハーフムーン!」
M「正義の光! ミスター・ムーンライト! お月様にかわってお仕置きだぜ、ベイベー!!」

友情・勇気・正義… これはいいんだけどさ、
私の締めの言葉って、某・愛と正義のセーラー服美少女戦士の名乗りのパクリじゃないですか!?
まあ、ミスター・ムーンライトの設定からこう来るとは想像ついたけどね。

それでも私はミスター・ムーンライトを演じなければならなかった。
…というか、ごっちんと安倍さんがあんまりにも演じきっている(さすが女優経験あり)ので、
迷惑をかけるわけにはいかなかった。

はぁ…
714たぢから:02/07/26 23:15 ID:NPcYgi1E
吉澤は全然乗り気じゃない『怪傑! Mr.Moonright』プロジェクト!
次回からはアクションの練習と、ドラマ部分撮影だ!
大丈夫か?

(0−〜−;)<それよりこの話続くんですかぁ? 
715たぢから:02/07/28 23:05 ID:Yi7jSF33
『怪傑! Mr.Moonright』は二部構成だ。
本編であるパートAと、私達主役三人がアクションを練習するパートB。
つまり、“Musix”の『Angel Heart』に近い構成らしい。
娘。がアクションに挑戦! ということなので、わざわざ練習風景を流して視聴率を獲得するつもりらしい。

…ってか、アクションの練習って何ですか!?
もしかして、スーツアクターとかいないの!?

「うん、そう。変身後も吉澤達がやったほうがウケるし、経費浮くし。」

絶対後者が本音ですね!
716たぢから:02/07/28 23:06 ID:Yi7jSF33
あとで聞いた話だけど、アクションとはいっても、殺陣をちょっとやる位で、
CG技術を多用して誤魔化す部分も多いらしい。

また、『怪傑! Mr.Moonright』の代わりにボツになった企画があるんだって。
そのタイトルは『くノ一娘。物語』で、娘が女忍者くノ一になって活躍する話だとか。
こっちの方がアクションが多い上、キャストが多くなるのでボツになったらしい。

低コストと高視聴率…
基本的に相反する二つの条件を満たすことを考えた結果、『怪傑! Mr.Moonright』に決まったようだ。
え〜と、何かに似てるなぁ… 確か社会の公民で…
そうそう、“需給曲線”だ!

別にどうでもいいか…
717たぢから:02/07/28 23:07 ID:Yi7jSF33
アクション練習初日。
私たちは愛用のジャージを着て、あるスタジオに集合した。
スタジオにはマットが敷き詰められている他、平均台や跳び箱が置いてある。
体育の時間を思い出すなぁ。

勿論見覚えのあるスタッフがいて、もうカメラが回っていたりする。
既に安倍さんとごっちんは、真剣な表情だ。
私も遅れまいとTVモードに変身する。

やがて、某アクションクラブの先生が登場し、アクションの練習が始まる。

『怪傑! Mr.Moonright』のクランクインだ。
718名無し:02/07/31 01:06 ID:udPvqiGd
今後の展開にも期待しております。
・・・ということで保全、と♪
719たぢから:02/08/01 23:46 ID:Ns+EEpGT
どうも作者です。
最近多忙なので全然創作出来ていないんですけど、
後藤・保田の娘。脱退は、さらに追い討ちをかけました。
精神的ショックがぁ〜…

で、今後の展開なんですけど、
「くノ一娘。」第二部は、遅くとも九月までにはアップしたいと思っています。
勿論、毎日更新で。

「怪傑! Mr.Moonright」の方は、忘れてください。
早ければ来週後半から創り直したものをアップする予定です。
720名無し募集中。。。:02/08/03 00:35 ID:3LOVEuBb
LOVE保全
721たぢから:02/08/03 23:56 ID:agqOx9Qd
保全を兼ねて書き込み。

今頃になって重大なミスに気付きました。
MoonrightじゃなくてMoonlightなんですよね。
馬鹿だ…
722名無し募集中。。。:02/08/04 21:56 ID:Vchwns0b
面白そう。期待sage
723たぢから:02/08/04 23:02 ID:eqtpuTtm
>722さん
ありがとうございます。
次作まで、今しばらくお待ちください。
724 :02/08/05 17:28 ID:4uxab0+4
>>作者様
723(なつみ)ゲットおめでとうございます。
いいつつ保全
725名無し:02/08/05 18:16 ID:5AVn30pA
はい、待ってまぁ〜〜〜す!!!!!
・・・という事で保全・保全っと♪
726たぢから:02/08/06 23:51 ID:yyqnggYO
おお! 723GETとは、全く気付きませんでした。
なっちマンセー!!

…というわけで、本日の創作状況です。
「怪傑! Mr.Moonright」の再創作版のオープニング作ってます。
それなのに、中盤は出来上がっているという罠…

ネタバレ
主役はミスムン三人娘(よっすぃー、ごっちん、なっち)です。
脇役として四期までの現役メンバー+中澤姐さん+平家のみっちゃん。
五期メンはチョイ役。他にもあんな人やこんな人が出ます。
その代わり、娘関係者以外の芸能人は出ません。鈴木あみすら出ません。
727 :02/08/08 20:36 ID:iGa7A8KV
728名無し:02/08/09 15:34 ID:rtRuPlRs
たぢからさんの作品、好きです!!
保全しといちゃいます♪
729たぢから:02/08/10 05:15 ID:mQ3SVhB8
大変長らくお待たせいたしました。
【怪傑! Mr.Moonlight】改訂版のアップをはじめます。

p.s.なっち誕生日おめでとう!!
730たぢから:02/08/10 05:17 ID:mQ3SVhB8
「はぁ… なんて大きな街なんや。」
マイク片手に街の中を歩く女性。そして…
「ちょと待って下さいよぉ、平家さん。」
その後をテレビカメラを担いで、付いて回る女性。
「松浦、私について来れないようじゃ、一人前のカメラマンとは言えないよ。」
平家と呼ばれた女性は、松浦というカメラマンに振り向くことなく、どんどん街中へと踏み込んでゆく。

(この猪突猛進リポーターめ… あとで担当替えてもらいたいわ。)
リポーター平家の専属カメラマンになったばかりの松浦は、既に諦めていた。
731たぢから:02/08/10 05:18 ID:mQ3SVhB8
「よし、あの人達にインタビューしてみようか。」
と、平家が指差す先には、髪を染めたり立てたりして、体の至る所にタトゥーのある男達がいる。
「平家さん… あれどう見ても荒くれ者って感じじゃ…」
だが、松浦がその言葉を発し終わらないうちに、平家は彼らにマイクを向けていた。
「あのぅ、ハローテレビなんですけど、インタビューよろしいですか?」
(おいおい… 人の話聞いてよぉ…!!)
そう思いながらも、仕事なので仕方なくカメラを回す松浦であった。

「テレビのリポーターか? オレらに何の用や?」
一人の男が前に出て、みちよと向かい合う。
「一つお尋ねしたいことがあるんです。“月光三紳士”ってご存知ですか?」
732たぢから:02/08/10 05:22 ID:mQ3SVhB8
「月光… 三紳士…」
その言葉を反復した瞬間、男達の目つきが変わったのを平家は見逃さなかった。
「ご存知のようですね。」
すると、正面の男が何かを企んでいる目つきで、
「ああ、知ってるぜ。アンタ、アイツらに会いに来たのか?」
「ええ。一リポーターとしてね。どうやったら会えるかしら?」
「へぇ〜。いいぜ、教えてやるよ。」

すると、男達が平家と松浦の周りを囲み始めた。
「ちょ、ちょっと平家さん…」
男達の不審な動きに、カメラマン松浦は怯える。
平家も事態に気付いたのか、表情を緊張させている。
733たぢから:02/08/10 05:24 ID:mQ3SVhB8
「アイツらを呼ぶには…こうすればいいんだよっ!!」
すると男達は平家と松浦に襲い掛かってきた。

「なっ… なにすんねん、お前らっ!」
インタビューどころではなくなり、つい地が出る平家。
「きゃーっ! 嫁入り前の桃色娘になんてことをするのぉ!!」
錯乱状態からか、まだ何もされていないのに、無茶苦茶な悲鳴をあげる松浦。

だが、二人の身には何も起きなかった。

「あれ?」
「おや?」

気がつくと、二人の目に前にはさっきの男達が全員倒れていた。
そして、その向こう側には、ショルダーバッグを背負った一人の女性が立っていた。
734たぢから:02/08/10 05:25 ID:mQ3SVhB8
「この街じゃ、無用心に人に声をかけちゃいけないよ。“ハローテレビ”の平家みちよさん。」
少し大きめなショルダーバッグを抱え直しながら、その女性は平家に声を掛けた。
「あ、あんたは?」
「私は“モーニングタイムズ”専属カメラマン・保田圭よ。」
「あのモーニングタイムズの!?」
目を大きく見開きながら、何故かマイクをむける平家みちよ。
圭はちょっと迷惑そうに、マイクを払いのける。
「“あの”とか言われても、あなたの方が有名じゃない。知る人ぞ知るハローテレビのリポーター・平家みちよ。
銃弾さえも恐れずに突き進む猪突猛進リポーター! という肩書きがついてるくらいだしね。」
「それ… 褒めてんの?」
「まあね。」
軽く受け流す圭。彼女にとってみちよ本人に興味があるわけではない。
「それより、あなたがこの“ゼティマシティ”に来た目的は何?」
735たぢから:02/08/10 05:26 ID:mQ3SVhB8
「これよ。」
すると、みちよは懐から一枚の新聞記事のコピーを取り出した。
そこには、『“月光三紳士”また大活躍!!』との大きな見出しがあり、
中央には空中を飛ぶ三人の紳士の姿が写った写真が掲載されている。
それを見て、圭はやはりと言った感じで軽く頷いた。
「これ、ウチの記事だね。やっぱり、あの三人組を求めてきたわけか。」
「そう。ねえ、いつも彼らを追っているアンタなら、彼らに会う方法分からないかしら?」
またもマイクを向けるみちよ。全然懲りていない。
「会う方法なんてのは特に無いわ。だけど、もうすぐ会えるわよ。」
「どういうこと…?」
「あっち見て。」
圭が指差す方向には、制服姿の女子が6人歩いていた。
736たぢから:02/08/10 05:27 ID:mQ3SVhB8
「あの六人組が何なの?」
「先頭のあの子ね、小川麻琴って言うんだけど、紳士の大ファンなの。」
「え? ファンだと彼らに会えるの?」
「いやいや、そういうわけじゃないんだ。」
常に無駄に先読みするみちよに苦笑する圭。
「あの子達が歩く先には、何故か事件が起きるのよ。そうしたら、彼らが現れるさ。」
「歩けば事件に当たる子達なの?」
「そんな感じかしらね。後を追えば分かるよ。」
すると、圭はさっさと言ってしまった。

「平家さん、どうします?」
カメラマンの松浦亜弥が訊ねる。だが、それは愚問だった。
「よっしゃ行くでぇ!!」
737たぢから:02/08/10 05:29 ID:mQ3SVhB8
六人組は、【UFA銀行】と書かれた銀行の支店に入っていった。
「遊ぶ金でも下ろすつもりなんかなぁ…」
「銀行の中に彼らに会う為の窓口でもあるんでしょうかね?」
「でも保田圭さんは“事件”が起こる言うてたからな。」
向かいのビルの陰に隠れて様子を見守るみちよと亜弥。

だが、十分くらい経っても六人組は出てこない。

「そんなに銀行って混んでます?」
「いや。融資の相談でもしとるんちゃう?」
「あの子達の歳を考えてくださいよ…」
738たぢから:02/08/10 05:31 ID:mQ3SVhB8
「なあ、ウチら騙されたんとちゃう?」
「…かも、しれないですね。」
と二人が諦めて別の場所に移動しようとしたその時、

「もうそろそろだね。彼らに会えるよ。」
その声は圭だった。
いつの間にかみちよと亜弥の後ろに立っていて、黒光りする一眼レフを構えている。

「ちょっと、どういうことや?」
何が何だかさっぱりわからないみちよ。

だがその時…
739たぢから:02/08/10 05:34 ID:mQ3SVhB8
ダダダダダダダダッ!!

「この音って、マシンガン!?」

突如銀行の中から響く銃声。
窓ガラスが次々と粉々になってゆく。

「お、はじまったみたいね。」
何事か分からない二人に対し、圭だけは呑気にカメラを構え続けている。

「平家さん、とりあえず警察呼びましょうよ。銀行強盗みたいですし。」
「そ、そやな。」
携帯電話を取り出し、警察に連絡するみちよ。
一分も経たないうちに警察が駆けつけ、銀行を包囲した。
740たぢから:02/08/10 05:35 ID:mQ3SVhB8
『警察だ! 武器を捨てて大人しくしろっ!!』
とメガホンで叫ぶのは、なんとも小柄な婦人警官である。

「あんな小さい人でで大丈夫なんでしょうか?」
「ホンマ… こっちが心配してまうわ。」

「大丈夫。」
とシャッターを切りながら言う圭。
「アレはね、ゼティマ市警機動隊副長の矢口真里だよ。ああ見えて、ミサイルの雨にでも果敢に突っ込むヤツよ。」
「アンタ、知り合いなん?」
「まあね。こういう商売ですから。」
741たぢから:02/08/10 05:37 ID:mQ3SVhB8
一方、警官隊の前には銀行強盗と思しき覆面の男が三人。
そして、先ほどの六人組が現れた。

「あ、さっきの子達ですよ!」
「どう見ても、人質やなぁ。」

「おい、お前らぁ! このガキどもと逃走用の車を交換だ! 早くしろぉ!!」
覆面男の一人が大声で叫ぶ。
「キャー! 怖い〜!!」
怯える六人組。だが、何かおかしい。

「平家さん、あの子達マジに怖がっているようには見えないんですけど。」
「確かに…」
742たぢから:02/08/10 05:38 ID:mQ3SVhB8
『その子達を放せ! 代わりに私が人質になるっ!!』
と、今度は大柄な婦人警官が前に出た。

「なんかカッコイイですね。」
「保田さん、あの人も知ってんの?」
「勿論。アレは機動隊長の飯田圭織。ああやって犯人に近づき、一網打尽にするんだよ。」

だが…
「うっせぇ、ババァ!! てめぇみたいなんは人質になんねぇんだよっ!!」

それを聞いて、圭織の表情が一変した。
『んだとゴルァ!! ゼティマ市警一の美人警官であるオレをババァ呼ばわりだとぉ!?
てめぇら、血ぃ見たいんかぁ!!!!』
743たぢから:02/08/10 05:41 ID:mQ3SVhB8
「ちょっとカオリ、落ち着いて!!」
メガホンを振り回し犯人グループに殴りこもうとする圭織は、真里達によって押さえつけられた。

「交渉ごと下手糞ですね…」
「あれじゃマズイで。」

確かに状況は悪くなった。
覆面男達はマシンガンをぶっ放し始め、街路樹や向かいのビルなどを破壊し始めた。
このままでは機動隊はおろか、野次馬や通りすがりの一般人にも被害が及ぶ可能性がある。

…と、その時!
744たぢから:02/08/10 05:42 ID:mQ3SVhB8
「そこまでだ! 悪党どもっ!!」
と、誰かの声が響くと同時に、無軌道な動きをする黄色い光が、マシンガンを切り裂いた。
そしてその光が戻った先には… 三つの影が!

「平家さん、お待ちかねの三人組だよ。」
「あ… あれが…!!」

すると、その影が何故かライトアップされ、三人組の姿が晒される。
真っ白なタキシードに仮面舞踏会で用いるアイマスク型の仮面。
各々、満月、半月、三日月のエンブレムが付いたステッキを手にしている。

皆、その気高き姿にしばし目を奪われる。
745たぢから:02/08/10 05:44 ID:mQ3SVhB8
「キャー! ムーンライト様ぁ!!」
六人組の一人、小川麻琴が叫ぶ。
すると、Mr.ムーンライトなる紳士の口元が少し緩む。
「待っててよベイベー。すぐに終わらせるからね。」
「はぁ〜い!」

「平家さん、私このアホくさい展開についていけないんですけど…」
彼らのやりとりに唖然とする亜弥。だがみちよは…
「松浦ぁ! 早よカメラ構えんかいっ!! スクープいただきやで!!」
すでに“戦闘モード”に入っていた。

カシャッ! カシャッ!
圭だけは淡々とシャッターを切っていた。
746名無し毒社:02/08/10 19:17 ID:ZmS4WMGG
始まりましたね。待ってましたよ♪
でだしからそそられる部分大なので期待しています
747たぢから:02/08/11 23:00 ID:jNMYTGGq
−修正(744と745の間に挿入してください)−

「お、お前ら何者だ!?」
勿論、こんな有名人を知らない強盗ではない。
だが、つい決まり文句を口にしてしまったのは、お約束だろうか。

すると、三人組は順番に一歩前に歩み出た。
まずは三日月のエンブレムが輝く、髪のたった紳士。
「友情の光! Mr.クレセント!!」

次は半月のエンブレムが輝く、少し髪の長い紳士。
「勇気の光! Mr.ハーフムーン!!」

最後に、満月のエンブレムが輝く、中心の紳士。
「正義の光! Mr.ムーンライト! お月様にかわってお仕置きだぜ、ベイベー!!」
748たぢから:02/08/12 23:02 ID:bpq+nmr2
「はぁ〜…」
「ほぉ〜…」

みちよと亜弥は、完全に目を奪われていた。
Mr.ムーンライト達の戦いぶりが、まるでミュージカルのショーの様に華麗なものだったからだ。
気がついたら、事件は解決してしまっていた。

「なあ、松浦… 撮れた?」
「わ… 分かりません…」

二人はとりあえずテレビ局に戻り、確認することにした。

「…そう簡単には撮れてないさ。“素人”にはね。」
去り行く二人を眺めながら、圭はそう呟いていた。
749たぢから:02/08/12 23:04 ID:bpq+nmr2
株式会社ハローテレビジョン・ゼティマシティ支局。
ここがみちよと亜弥の職場である。

会社に戻ってくるなり、二人は編集室に飛び込み、テープをセットした。
生では見逃した月光三紳士の活躍を、じっくり鑑賞する。

「やっぱうまく撮れてないね。」
「すいません…」
「仕方ないよ。彼らの動きが速すぎるし、見惚れるほど優雅だったんだ。
ウチら以前にいろんなテレビ局が手を引いたわけだよ。」

みちよの言うとおり、この数ヶ月の間に数々のテレビ局が月光三紳士の活躍を収めようとしたが、
どうもうまくいかなかったのだ。
750たぢから:02/08/12 23:05 ID:bpq+nmr2
「やっぱおかしいで…」
翌日、みちよはモーニングタイムズの朝刊を見ながら呻いた。

一面は勿論月光三紳士の活躍について多くの紙面が割かれており、圭の写真が多く飾られている。
多くのマスコミがあれど、彼らの事をスクープ出来ているのは、このモーニングタイムズだけだ。
だが、みちよはある不審な点に気付いた。

あれだけ的確に月光三紳士の姿を捉えながらも、顔の辺りに微妙に影がかかっている気がするのだ。
何らかの画像処理が施されているのだろうか?
月光三紳士の顔を覆う物はアイマスクだけなので、正体を探るのも不可能ではないはずなのに、
モーニングタイムズは敢えて、それを避けているような気さえする。
751たぢから:02/08/12 23:06 ID:bpq+nmr2
「保田圭だけやない。あの会社に何かあるで…」
“思い立ったらすぐ行動”… これがリポーター平家みちよの座右の銘である。
彼女はバッグに必要な荷物をまとめると、席を立った。

「あ、平家さん! どこへ行くんですか?」
声を掛けるのはパートナーの亜弥だ。

「モーニングタイムズ社や。」
それだけを声に出すと、みちよは足早に会社を出て行く。

「まぁた一人で動くんだから… 部長に叱られても知りませんよ。」
小さくなるみちよの背中に向かって、亜弥はそう呟いた。
忠告するだけ無駄だといういことは、とっくに分かっていた。
752たぢから:02/08/12 23:13 ID:bpq+nmr2
>746/名無し毒社 さん

ありがとうございます。
実はまだ出だしだったりします。なはは…

今回の話は特撮番組の劇場版みたいな感じで、核となる中盤は出来ています。
…が、そこまでの導入部が未創作だったりします…(汗)
主役の三人はまだ素顔で登場していませんが、それは次回で。
753たぢから:02/08/13 23:29 ID:DfpLGAFG
一方その頃、例のモーニングタイムズ社では…

「よっすぃー、今回も大活躍やったな!」
「カッコよかったですよ!」
一人の記者に駆け寄るのは、アルバイト記者の高校生・加護亜依と辻希美だ。
で、その記者はデスクに頭を埋めている。

「あのさ… 何でいつもいつもアンタ達は事件現場にいるのかなぁ…」
頭を掻きながら起き上がるこの女記者こそ、Mr.ムーンライトこと、吉澤ひとみだ。
入社してニ年。正社員の後輩がいないので、未だ新人扱いである。

「仕方ないやん。ウチらかて、好きで事件に巻き込まれとるわけやないんや。」
「そうですよ。のの達のせいじゃないです。」
ちなみに亜依と希美は例の六人組のうちの二人である。
モーニングタイムズ社で中高生向け冊子を担当しているのだが、
やたらと事件に巻き込まれるので、本職がどれだか分からない。
754たぢから:02/08/13 23:30 ID:DfpLGAFG
「まあ、いいじゃない。この二人をマークしてれば、現場に到着するのが早くなるし。」
と、ひとみをなだめるのは同僚の後藤真希だ。
彼女はひとみと同い年ながら一年早く入社しており、Mr.ハーフムーンでもある。
モーニングタイムズの中心記者の一人だ。

「でもさ、あの小川麻琴ちゃんだっけ? いっつもムーンライトにメロメロだね〜。」
と言いながら資料を運んできたのは安倍なつみだ。
モーニングタイムズの中では中堅的存在であり、Mr.クレセントの正体は彼女だ。

「どうやらあの子も、他の子も、辻加護と一緒なら月光三紳士に遭遇できる確率が高いことを知ってるみたいね。
アンタ達、最近ず〜っと一緒でしょ?」
といいながら、専属カメラマンの圭はネガ整理をしている。

「そうみたいですね。でもよっすぃーは男前だから紹介しようかな?」
「辻ぃ… いい加減にしないと怒るよ。」
755たぢから:02/08/13 23:31 ID:DfpLGAFG
「よっすぃ〜… ちょっとは手伝ってよぉ。」
と半泣きで資料の山を押さえてるのは、ひとみと同期の石川梨華だ。
なつみと二人で資料整理をやっていたのだが、人手が足りないらしい。

「梨華ちゃんごめん。今行くよ。」
ひとみは駆け寄ると、資料の山を片手でひょいと持ち上げる。
男にも負けない力が彼女の自慢である。

「辻・加護! 早よ原稿出さんかい!! よっさん! 漢字間違い多すぎるで!!
それから圭坊! こないだの流星群の写真ある?」
まとめて指示を出すのは編集長の中澤裕子、モーニングタイムズの姉御的存在だ。
756たぢから:02/08/13 23:32 ID:DfpLGAFG
「あ、ちょっと待って。確かこの辺りにネガが…」
と圭がネガの山に頭を突っ込もうとしたその時…

プルルルルルル!!

「もしもし! こちらモーニングタイムズ編集局です。…え? 平家さん!? 来るの!? ちょ、ちょっと!!」
一方的に電話は切れた。

「圭ちゃん、どしたの? 平家って誰?」
妙な会話(にすらなっていなかったが)に不信感を抱いたなつみが寄ってきた。
「ああ、そういやなっち達にはまだ話して無かったっけ。
実はハローテレビの平家みちよが、月光三紳士のことを嗅ぎまわってるのよ。
どうやらウチが怪しいと睨んだらしくてさ、今から来るらしいのよ。」
「平家みちよと言えば、有名なリポーターさんだね。どうする裕ちゃん?」
757たぢから:02/08/13 23:34 ID:DfpLGAFG
「なっち、いい加減“中澤編集長”って呼んでくれへんかなぁ…」
なつみと裕子は、歳は離れているが、付き合いは長い。

「ま、それはともかく、何とか撒くしかないやろ。」
「じゃあ、矢口とカオリにも協力してもらう?」
「せやな。すぐに呼んでや。」

厄介な来客を丁重に迎える為、モーニングタイムズ編集部は慌しく動く。

「ここか…」
その頃、これから先自分の身に降りかかる災難など露知らず、
みちよはモーニングタイムズ社に足を踏み入れた。
758たぢから:02/08/15 23:10 ID:cxs3tLCe
あ… 757中途半端に終わってますね。全然気付かなかったです。

【追加訂正】
「ここか…」
その頃、これから先自分の身に降りかかる災難など露知らず、
みちよはモーニングタイムズ社に足を踏み入れた。
759たぢから:02/08/15 23:11 ID:cxs3tLCe
パパァ〜ン!!
「ようこそ! モーニングタイムズへ!!」
「…へ???」

突如襲ってきたパーティ用クラッカーの雨に、みちよはしばし呆然とした。
そんなみちよの目の前には、派手な三角帽子をかぶり、明らかにパーティ態勢の女性が数人…

「あ、あの… 今日何かのパーティでも…」
「ん? 平家さんの歓迎パーティだよ。」
あっさり答える圭。勿論みちよの呆然とした顔は撮影済みである。

「私の…???」
760たぢから:02/08/15 23:12 ID:cxs3tLCe
「そや。ハローテレビの有名リポーターさんが来る言うから、大急ぎで準備したんやで。石川っ!」
「はぁ〜い!」
編集長の裕子に呼ばれた梨華は、直径15cm程のチーズケーキを持ってきた。
「はい、ど〜ぞ。」

(ど〜ぞって言われても… 取材が…)
しかし、ついついケーキに手が伸びてしまう甘い物好きな女性の悲し性か。

「うまいわ… これ作ったの石川さん?」
「梨華でいいですよ。レシピ差し上げましょうか?」
「是非っ!」
761たぢから:02/08/15 23:13 ID:cxs3tLCe
(あれ… あの二人確か…)
ケーキ片手に抱えるみちよの目に入ったのは、亜依と希美。

「ああ、辻と加護ね。先日の事件に関して取材してるんですよ。あ、はじめまして。安倍なつみです。」
みちよの視線に気付き、すかさずフォローと自己紹介をするするなつみ。
「でも、いっつも事件に巻き込まれてるもんだから、中高生向け記者のバイトとして採用したんですよ。
私、後藤真希と申します。」
続く真希。別に嘘は言っていない。

「ふぅ〜ん。面白い子達や。私にも取材…」
「平家さん! インタビューさせてや!!」
「リポーターの心得って何ですか?」
ゼロコンマ1秒早く、亜依と希美が競り勝った。
762たぢから:02/08/15 23:14 ID:cxs3tLCe
「そ… そやなぁ… ウチの座右の銘は“思い立ったらすぐ行動”で、
とにかく事件に対する探究心と、それ以上に行動力が要ると思うで。」
インタビューされるのには慣れていないみちよ。
かなり、しどろもどろである。

「…ってかウチがここに来たのはぁ…」
「はじめまして。吉澤ひとみです。これモーニングタイムズのノベルティグッズです。どうぞ!」
みちよの言葉を遮るように、携帯用ストラップなど過去の読者プレゼントの余りを手渡すひとみ。
ここまでは見事な連係プレーである。

(ここの連中何やねん! 早よ、ウチにも取材させてや…)
だが、そんなみちよに構うことなく、モーニングタイムズ主催の歓迎パーティは強引に続く。
みちよの動きを封じることが目的なのだから。
763たぢから:02/08/16 23:05 ID:fUIsM4IL
訂正!!
758が間違ってました。
ブラウザの表示エラーだったようで、757のラストが削られていたように見えてました。
764たぢから:02/08/16 23:08 ID:fUIsM4IL
「ほらみんな、そろそろ仕事に戻ってや! 平家さんはウチに任せて、な。」
「は〜い。」
編集長裕子の一言で、歓迎パーティは終了する。
皆、各自のデスクに戻り、何事も無かったかのように仕事を再開する。
あまりの素早さに、みちよは驚き、声が出なくなった。

「さ、平家さん。モーンニグタイムズを案内しまっせ。ウチは編集長の中澤裕子や。」
「あ、どうも…」
とりあえず名刺交換をする。
裕子の自己紹介より先にパーティをされたためか、どうも感覚がおかしい。
765たぢから:02/08/16 23:12 ID:fUIsM4IL
(アカン。完全に相手のペースにはまっとるわ。)
半ば諦め状態で、みちよは裕子にモーニングタイムズ社内を案内されていた。
リポーターだけに口撃には自信があったのだが、この会社の面々はスピードと組織力でみちよに勝っている。
そう、スピードと組織力…
(手馴れてる… ウチみたいな人間の対処法を知ってるって事や。)

「で、次が圭坊専用の現像ルーム… って平家さん、どこ見とるんや?」
「えっ!? …ごめんなさい。ちょっと考え事を…」
「仕事で疲れとるんやな。ま、あとでいい気分にさせたるで。」
「いい気分…?」
766たぢから:02/08/16 23:15 ID:fUIsM4IL
その日の夕方…

「こんばんわ〜!」
「裕ちゃんいる?」
「お! カオリに矢口、来たなぁ。」
モーニングタイムズ編集部にやってきたのは、
ゼティマ市警機動隊の隊長・飯田圭織と、副長・矢口真里。
そして…
「久しぶり。みんな元気にしてる?」
背が圭織並みに高く、鼻ピアスをしている茶髪の婦人警官。
彼女はみちよの前に立つと、一枚の名刺を差し出した。

『ゼティマ市警察 署長;石黒彩』
767たぢから:02/08/16 23:16 ID:fUIsM4IL
「え!? こんな若い人が署長さん!? ウチと大して歳違わないと思うけど…」
「ある事件があってね、出世したんですよ。」

元々彩はキャリア組である。
試験をパスした後すぐに警部補としてゼティマ市警に配属、研修という名目で仕事をしていたのだが、
当時の署長が何者かに殺された為、急遽署長に抜擢されている。
彼女自身の実績もさることながら、圭織や真里達現場の警官からの信頼が厚かったためだ。

「思い出したで。二年前のあの事件… あっ!」
みちよはそこで言葉を止めた。
なぜなら、ゼティマ市警にも、モーニングタイムズにとっても忌まわしき事件なのだから…
768たぢから:02/08/18 00:12 ID:SN6bCSQ7
24時間の石川のドラマ。渡辺謙が死ぬ寸前から見てました。
えなりかずき浮いてるぞ。娘。小説には使えなませんね。多分。
結論。去年のなっちドラマに比べると…(略)

24時間テレビ自体はなっち目当てに見たいんですけど、家族が…
え〜いヤケクソでMr.Moolightアップじゃい!(謎)
769たぢから:02/08/18 00:14 ID:SN6bCSQ7
二年前…
ゼティマシティ郊外のある料亭で、三人の男性が殺された。

ゼティマ市警署長・和田薫
モーニングタイムズ社長・寺田光男
UFA銀行頭取・山崎直樹

三人とも、ゼティマシティでは知らぬ者はいないほどの有名人である。
表向きは、仲良し三人組の忘年会での惨事ということにされたが、
この三人は普通の友人関係とは異なる、もう一つの結びつきがあったのだ。
770たぢから:02/08/18 00:15 ID:SN6bCSQ7
“月光紳士計画”

犯罪都市ゼティマシティの汚名を返上すべく、ゼティマ市警が極秘に開発をすすめていたプロジェクトだ。
市警はUFA銀行の資金バックアップの元、戦闘用特殊スーツの開発を進め、
ゼティマシティ一のメディアであるモーニングタイムズは、スーツ装着員の供出と、
メディアでの立場を活かした擬似的な報道抑制の役割を担うことになった。

そう、計画は極秘のうちに進められていたはずだった…

その日、料亭に三人が集まったのは、計画の成功を祈願しての祝会だった。
スーツは既に完成。装着員も決まっていた。あとは実行するだけ…

だが、和田・寺田・山崎の三名は、月光紳士の活躍を目にすることなく、この世を去った。
771たぢから:02/08/18 00:16 ID:SN6bCSQ7
月光紳士計画の情報が何者かに漏れている。

新署長・石黒彩の出した結論だ。
物取りの形跡がない以上、犯人は三人に共通する敵を考える以外ない。
すると自ずと導かれる結論がこれだ。
計画発動寸前という、牽制という意味であれば絶好のタイミングである。
だが、それ以上鮮明な犯人像が浮かび上がってこなかった。

そこで彩と裕子は相談の上、計画の続行を決意した。
目的は二つ。
当初の予定どおり、犯罪撲滅の為。
そして、闇に潜む犯人をおびき出す為だ。

こうして、“月光紳士計画”は発動。
Mr.ムーンライト、Mr.ハーフムーン、Mr.クレセントが姿を現すこととなったのだ。
772たぢから:02/08/18 00:17 ID:SN6bCSQ7
「ゴメン… 何かいらんことを思い出させてしもうて…」
頭を何回も下げるみちよ。
何にでも首を突っ込む迷惑極まりないリポーターではあるが、彼女に良心がないわけではない。

「ええんや。ウチらがジャーナリズムを突き通すこと…」
「私たちが正義を守り抜くことが、彼らの意思だから。彼らの死を乗り越えて、今の私たちがあるのよ。」
まっすぐな瞳の裕子と彩。
(この人たちは強いな…)
というのがみちよの率直な感想だった。

「ま、辛気臭い話はやめや。せっかく彩っぺ達を呼んだんやから、パーッと騒ごうや!」
「え?」
「平家みちよ歓迎会の二次会や。みんなで晩飯→居酒屋→カラオケとハシゴするで!
石川とよっさんと辻加護は編集よろしく!」
「わかりました!」
773たぢから:02/08/18 00:19 ID:SN6bCSQ7
というわけで、みちよは近くのレストランに連れられた。
「おーっす! ミカちゃん&アヤカ!」
「ナカザワさん、ひさぶりデーッス!」
「イラッシャイマセー!」
「今日は特別ゲストやから、スペシャル頼むで!」

日系アメリカ人、ミカとアヤカが経営する南国レストラン“ココナッツ”は、
小規模ながらゼティマシティ一の味を誇る有名料理店だ。
夜ともなれば、数々のカップルや会社帰りのサラリーマン・OL達で店は満杯になる。

「ウチらのオゴリやから、存分に召し上がってや。」
「どうも、ご馳走になります。」
みちよもその数々の料理に舌鼓を打ったのであった。
774たぢから:02/08/18 00:20 ID:SN6bCSQ7
「それでは、平家のみっちゃんのモーニングタイムズ訪問を記念して、乾杯っ!」
「カンパァ〜イ!!」

一行の歓迎会は三次会、居酒屋“そにん”へと移行していた。
既に日付が変わろうとしていた。
ちなみにこの店を一人で切り盛りする女将(といっても矢口と同い年)ソニンは、
故・前署長和田薫と知り合いで、情報屋としての裏の顔を持っている。
裕子がこの店の常連であるのは、酒好きであること以上に、様々な情報を仕入れるという目的があるからだ。
775たぢから:02/08/18 00:21 ID:SN6bCSQ7
「はぁ〜い、生ビール大ジョッキですよ。」
「ソニンちゃん、さんきゅー! みっちゃん、勝負や!」
「ウチを舐めたらアカンで、裕ちゃん!」
すっかり打ち解けて、愛称で呼び合う裕子とみちよ。
なみなみとビールが注がれたジョッキを手に持ち、向かい合う。

「それじゃ、よーい… スタ〜トっ!!」
真里の合図でビール一気飲み勝負が始まった。

「一気っ! 一気っ!」
学生のコンパではご法度とされる掛け声だが、ここにいるのは皆成人である。
二人の飲みっぷりに、ギャラリーは盛り上がる。
776たぢから:02/08/18 00:23 ID:SN6bCSQ7
そんな中、彩の携帯が振動を始めた。そっと席を外し、店の外に出る。
「もしもし。こちら石黒… なんだって!?」

彩はすぐさま店の中に戻り、圭織と真里、そしてなつみと真希と圭に目で合図する。
(事件だよ。すぐに来て!)

都合のいいことに、みちよはたった一回の一気飲み勝負で酔いつぶれていた。
堂々と退席の上、現場に駆けつけることが出来る。
ちなみに、裕子とみちよ以外は酒を一滴も飲んでいない。
ソニンが用意した模擬飲料(日本酒に見せかけた水etc)で誤魔化している。
後処理を裕子に任せ、彩達六人は眠らない街に飛び出した。
777たぢから:02/08/18 00:24 ID:SN6bCSQ7
「二人とも酒臭いよ…」
先に現場近くに到着していたひとみは、なつみと真希のアルコール臭に耐えられず、鼻をつまんで手を扇ぐ。
「裕ちゃんとみっちゃんが飲んでたビールとかの移り香だよ。それよりいくよ。」
「OK!」

三人は懐からそれぞれの変身アイテムを取り出した。
ひとみは満月型の“ムーンライトコンパクト”
真希は半月型の“ハーフムーンコンパクト”
なつみは三日月形の“クレセントコンパクト”だ。
音声認識による変身機能は勿論のこと、通信機にもなっている。

「「「変身っ!!!」」」
778たぢから:02/08/18 00:26 ID:SN6bCSQ7
事件とは繁華街の暴動であった。
ちょっとした喧嘩が飛び火し、大暴動となっている。
原因は些細なことなのだろうが、ひどく酔っているためか、自制できていない。

「酒が絡むとどうして人間はこんなにも変わるのかねぇ…」
呆れながら酔っ払い共を検挙する真里。
深夜なので機動隊の召集が遅れ、なかなか暴動は沈静化出来そうに無い。
「早く止めてやってよ… 三人組!」

「矢口達苦戦してるね。」
「とりあえず水でもぶっ掛けて目覚まさせたほうが早そうですね。」
「この辺りにある消火栓と消火槽の位置調べよう。サーチモード!!」
月光紳士の仮面は特殊スコープになっていて、様々な物をサーチできるのだ。
「あそことあそことあそこか… じゃあ、早速作戦にとりかかるよ。」
779たぢから:02/08/18 00:27 ID:SN6bCSQ7
「う゛〜〜〜〜…」
翌朝、みちよは居酒屋“そにん”近くの公園で目が覚めた。
「みっちゃん、案外酒に弱いんやな。」
傍には裕子が座っている。
「ウチ、記憶がないんやけど…」
「一気飲み勝負で酔いつぶれて、ず〜っとおねんね。あの店は早朝五時に閉店だから、追い出されたってわけ。」
「アチャ〜… 随分迷惑かけたね。…で、他の連中は?」
二日酔い状態でも、周りの状況を瞬時に判断できるのは、さすがである。

「ああ、そのことなんやけどな…」
と裕子が話し始めたその時、

ブルルルルルルルルルル…
780たぢから:02/08/18 00:28 ID:SN6bCSQ7
「はい、もしもし。平家です…」
『ちょっと平家さん! 夜中どこほっつき歩いてたんですかっ!?』
電話の声は、みちよの相方・カメラマンの松浦亜弥だ。

「な、何かあったんか!?」
『昨日深夜、繁華街で暴動があってMr.ムーンライト達が現れたんですよっ!』
「何やて!?」
『せっかくのスクープを逃したって事で、部長が怒ってますよ。早く戻ってきてください!』
「わ、わかった! 裕ちゃん、昨日はありがとなっ!」

電話を切ると、みちよは一目散にハローテレビに戻った。
781たぢから:02/08/18 00:29 ID:SN6bCSQ7
『水でもかぶって反省しなさい! 繁華街の暴動を、月光三紳士が鎮める!!』

これは今朝配られた“モーニングタイムズ”の号外だ。
「こんなことがあったんや… だから皆いなくなってたんか… しもうたぁ…」
溜息しか出ないみちよ。二日酔いも手伝って、デスクに倒れ伏す。

「一体どうなっとるんや… 月光紳士もモーニングタイムズも…」

月光紳士とモーニングタイムズとの接点が見出せないまま、みちよは一時退く事にした。
これ以上モーニングタイムズに関ると、体力気力がもたず、仕事に支障があるのは言うまでも無い。
不本意ではあるが、しばらくは本業に専念することにした。
782たぢから:02/08/18 00:30 ID:SN6bCSQ7
一方その頃、ある街のある廃工場で同じ記事を読む一つの影があった。
黒いTシャツに、短パンという軽装の短髪の… 女性だ。

「相変わらず生ぬるい連中だね。そんなことじゃ、ゼティマシティの平和なんか訪れやしない…」

ビリビリッ!

号外を破り捨てると、その女性は姿を変える。
黒いタキシードに黒いアイマスク…
Mr.ムーンライトと瓜二つの、黒い紳士に。

何かが動き出そうとしていた。
783たぢから:02/08/18 00:40 ID:1/ZwA6g9
クイズです。この“黒い紳士”って誰でしょう?
当たっても賞品は出ませんが、大体想像はつくかと思われます。
784nanashi:02/08/20 12:38 ID:2ezXIkY0
タキシード○面ですか?(嘘
785名無し:02/08/21 23:39 ID:xG2WsRwD
保全しときます
786たぢから:02/08/22 23:00 ID:fr4P2O9m
事件は突如起こった。
『大通りに暴走族が集結している。数が多すぎて手に負えない!』
「わかったわ。いますぐ行くよ! ごっちん! よっすぃー!」
「「OK!」」

真里からの連絡を受け、月光三紳士が出撃する。

「圭坊、ウチらも行くで。石川・辻加護は待機な。」
「「「わかりました。」」」

編集長裕子とカメラマン圭も現場に急行する。
787たぢから:02/08/22 23:02 ID:fr4P2O9m
「何て数なの!」
「これじゃ、暴走族のお祭りだよ!」
「ネットで捕獲しかないかなぁ…」
高層ビルの屋上から大通りに集結したバイクや車の群を見て、月光三紳士は頭を抱えた。
ところがその時…!

ブォォォォォォォォン!!!

暴走族達の騒音すらかき消すような轟音が辺りに響いた。

「何? 新手!?」
屋上のフェンスからそっと身を乗り出す三人。
だが次の瞬間、彼女達は信じられない光景を目にする。
788たぢから:02/08/22 23:03 ID:fr4P2O9m
街はずれから物凄いスピードで突っ込んでくる黒い物体。
どうやら改造バイクで、轟音の主のようだ。

何者かは分からないが、こんな派手な登場をされては、他の暴走族が黙ってはいない。
「オラァ! 後から来たクセに目立ってんじゃねぇ!」
「何様のつもりだぁ? うるせぇんだよっ!!」

次々とバイクに跨り、その黒いバイクに向かってゆく暴走族達。
だがその黒いバイクは減速するどころか、更にスピードを上げた。
これは暴走族達を更に過熱させる結果となった。

「愚か者…」
789たぢから:02/08/22 23:05 ID:fr4P2O9m
黒いバイクのライダーはそう呟くと、スロットルを強く捻り、
「ブレイクモード・アクティブ!」

刹那、黒いバイクは黒い炎と化し、集団の中に突っ込んだ。
…ようにひとみ達には見えた。

ドォォォォォォォォン!!

直撃を受けたバイク群は粉砕され、暴走族たちは次々と宙に放られてゆく。
また、黒いバイクから発生した強風によって、半径十メートル程度にいた者も、四方八方に吹っ飛ばされた。

まさに鎧袖一触…
謎の黒い影は、一瞬のうちに光景を様変わりさせてしまった。
そしてそのまま、ゼチィマシティの大通りを抜けてゆく。
790たぢから:02/08/22 23:07 ID:fr4P2O9m
「待てっ!」
ムーンライトひとみは移動用グライダー・ムーンライトウィンガーを出すと、
すぐさま屋上から飛び立ち、黒いバイクを追跡し始めた。

「ちょっとムーンライト!」
「よっすぃー!」
止めようとするなつみと真希。だが既に遅かった。

『なっち! ごっつぁん! 早くよっすぃーを追うんだ! あの黒いのがアイツなら、よっすぃーが危ない!!
後処理はウチらに任せて、早くっ!!』
無線から聞こえてくるのは、機動隊を指揮している真里の声だ。

「真里もそう思うのね… わかった。行くよ、ごっちん!」
「うん…!」
791たぢから:02/08/22 23:09 ID:fr4P2O9m
「そこの黒いの、止まれっ!」
黒いバイクに追いついたひとみは、何とか足止めをしようと呼びかける。
「スモークボール発射!」

ボンッ! ボンッ!

バイクの前方に煙玉を発射し、相手の視界を防ぐ。

「ちっ…! セルフコントロールモード・アクティブ!」
謎の影はそう言うと、バイクから手を離し、ひとみ目掛けて飛び上がってきた。
「えっ!?」

空中で数回体を捻り、ひとみの腹部にきりもみキックをくらわす。
「うわっ!」
完全に予想外の攻撃にひとみは為す術もなく、ムーンライトウィンガーから落下してしまった。
792たぢから:02/08/22 23:10 ID:fr4P2O9m
「ムーンライト!!」
地面に落下する直前、間一髪で真希のハーフムーンウィンガーがひとみをキャッチした。
一方、なつみのクレセントウィンガーは謎の黒い影に回りこみ、足止めをする。

「はっ!」
「たあっ!」

着地し、黒い影と向き合う月光三紳士。
丁度雲が晴れ、月の光が辺りを照らす。
そして、相手の姿が三人に晒された。

「その姿は…!?」
793たぢから:02/08/22 23:11 ID:fr4P2O9m
月光三紳士と同型のコスチュームながら、対照的に黒一色。
そして仮面の奥から、刃物のように突き刺さってくる鋭い殺気。

「お前がMr.ムーンライトか…」
声は低いが、ひとみ達と同じく女性のようだ。

「そうだ。そう言うアンタは何者?」
ひとみは思ったことをそのまま言葉にした。

するとその謎の紳士は、左手に持っていたロッドを前に翳した。
ひとみが持っているムーンライトロッドそのものだが、
先端についている飾りは、真っ黒な円…
794たぢから:02/08/22 23:13 ID:fr4P2O9m
「私は終末の闇… Mr.ムーンシャドウ。全ての悪を闇に葬る為に生まれた者だ。」
「ムーン… シャドウ…!?」

「そんな…!」
「何で…!?」
ひとみとは少し違った反応を見せる真希となつみ。
どうやらムーンシャドウの事を何か知っているようだ。

だがひとみはそんなことに構ってはいられなった。
今はこの謎の人物のことを知る必要がある。
「何故あいつらを殺した!? 何の為に!!」

「あいつらは悪だ。悪は闇に葬るものだ。違うか?」
「…!」
795たぢから:02/08/22 23:15 ID:fr4P2O9m
無感情な言葉を発するムーンシャドウ。
そのあまりに不気味な気配に、ひとみは動けなくなった。

「またお前とは会うことになるかもね。それから、なっちに真希! 私を止められるものなら、止めてみな!!」
「なっ…!」
「あっ…!」
意味深な台詞を残し、ムーンシャドウは消え去った。
夜の闇に溶け込むように…

突如現れたMr.ムーンシャドウ。
ひとみは謎の黒紳士の登場に、何かを感じずにはいられなかった。
796たぢから:02/08/22 23:19 ID:fr4P2O9m
都合によりネットに接続できなかったので、更新が遅れました。

>784/nanashi さん
まだ黒紳士−Mr.ムーンシャドウ−の正体は謎です。
さすがにタキシード○面は出せませんよ。お団子頭が主人公になりますからね。…辻加護!?

>785/名無し さん
保全ありがとうございます。ついでに感想・ダメ出しいただけるとありがたいです。
レスくれくれ野郎ですみません。
797たぢから:02/08/24 07:14 ID:LQUj5JSP
「二人とも教えて! あのムーンシャドウって誰なの? 一体何なの!?」
会社に帰ってくるなり、ひとみはなつみと真希を問いただした
肩を激しく揺さぶられるなつみと真希。
だが二人とも固く口を閉じ、ひとみと視線を合わそうとしない。

「…仕方ないな。」
「言うしか、ないみたいね。」
編集長の裕子、カメラマンの圭が重い腰を上げる。
彼女達もまた、表情が暗い。

「この中でアイツのことを知らんのは、よっさんと石川と、辻加護か…」
その声につられて、梨華と希美と亜依も集まる。
798たぢから:02/08/24 07:15 ID:LQUj5JSP
「実はな、この“月光紳士計画”はよっさんがココに入る前に発動する予定やったんや。」
「え?」
「つまり、ムーンライトは吉澤じゃなかったの…」
「…!」

驚きのあまり声のでないひとみ。
すると黙秘を続けていた真希が、口を開いた。
「ここから先は… 私が話したほうが良さそうだね…」
「ごっちん…!」
「いいんだよ、なっち。いつかこの時が来る気がしてたんだ。」
なつみに力無く微笑むと、真希はひとみの方を向いた。
799たぢから:02/08/24 07:17 ID:LQUj5JSP
「ムーンシャドウと名乗ったのは市井紗耶香。かつて“モーニングタイムズ”の記者だった人…」
真希はデスクの引き出しから一枚の写真を取り出すと、それをひとみに見せた。
そこに写っているのは、真希と頬をくっつけた笑顔の女性。
髪が短くて、ひとみとは違った意味で男性的な印象を受ける。
「市井… 紗耶香…」

「市井ちゃんは… って私はそう呼んでたんだけど… 正義感が強くて、しっかりした人だったんだ。
駆け出しの頃はよく世話になったし、姉のように慕っていたわ… だけど…」
そこで真希は言葉を詰まらせた。
やはり黙秘を続けていた大きな理由がそこにあるのだろう。

そこでなつみが口を開く。
「続きは私が話すね。紗耶香は正義感が本当に強くて、その記事はどんな武器より強かった。
“ペンは剣より強し”ってヤツね。…でもいつからか、人が変わってしまったの。」
800たぢから:02/08/24 07:18 ID:LQUj5JSP
犯罪者は絶対悪!
一人も生かしてはおけない!
即抹殺すべし!

これはその頃の紗耶香の記事に使用されていた見出しの一部だ。
勿論こんな見出しで“モーニングタイムズ”を発行できるはずも無く、
記事ごと編集長裕子に削除・校正されている。

「そしてある日、紗耶香は忽然と姿を消し… 今Mr.ムーンシャドウとして、再び姿を現した。」
801たぢから:02/08/24 07:22 ID:LQUj5JSP
「チョット待って! じゃあ、あの市井って人は何で私たちと同じスーツを纏ってるの!?」
「紗耶香が持ち出したんだよ。プロトタイプの“月影モデル”を…」
「プロトタイプ!?」

「そこからは私が話すわ。」
現れたのは、白衣に身を包んだゼティマ市警の科学研究班長・福田明日香だ。
彼女はIQ180以上を誇る天才で、月光紳士スーツの開発の中心となった人物である。
また、医者の免許をはじめ、ありとあらゆる資格を持っている。

「月光紳士スーツの量産型が出来上がったあと、月影は私が後の研究の為に保管していたんだけど…」
802たぢから:02/08/24 07:23 ID:LQUj5JSP
月影は明日香特製のカプセルに封印されていた。
外部は特殊合金で覆われ、どんな刃物でも切れなければ、どんなバーナーでも溶かすことも出来ないものだった。
だが…

「紗耶香のヤツは私の目を盗んで、カプセルを開けてしまったの。」
「どうやって… ですか?」
「電子ロックをハッキングして解除したの。アイツにとっては簡単なことだったみたいよ。」

電子ロックのパスワードは複雑で、明日香はそのセキュリティに自信があったのだが、
紗耶香のハッキングはそれを見事に打ち崩してしまった。
803たぢから:02/08/24 07:25 ID:LQUj5JSP
「じゃあ、あのバイクも…?」
「そう。“ムーンチェイサー(仮)”って言ってね、本当は月光紳士用移動アイテムのはずだったんだけど、
紗耶香が月影と一緒に持ち出し、戦闘用に改造したのよ。」
その為、ひとみ達月光三紳士の移動アイテムはグライダーになっている。

だがひとみの疑問はまだあった。
「どうして今になって現れたの…?」

「さあ… それは本人に訊いてみないと分からないけど、どこにいるのか分からないからね。」
なつみの言うことは至極当然のことであった。
804たぢから:02/08/24 07:27 ID:LQUj5JSP
結局、それ以上Mr.ムーンシャドウ・市井紗耶香の事に関して話されることは無かった。
なぜなら、翌日のモーニングタイムズの編集作業が残っていたからだ。
Mr.ムーンシャドウの登場で、紙面の大幅な手直しが要求されたのは言うまでもない。
正直ひとみは気が進まなかったが、あくまでモーニングタイムズの一員である。
とりあえず原稿を書くことに専念した。

一方そのころ、なつみは明日香と話をしていた。
「明日香、私は紗耶香を止めようと思う。」
「止めるって… アイツが動きを見せなければ、こっちも何も出来ないわ。」
「一つだけ方法があるわ。それには明日香の力が必要なの。お願い。」
「…分かったわ。でも本当に一人でやるの?」
「勿論。よっすぃーには関係ないし、ごっちんには重荷だからね。」
805たぢから:02/08/24 07:28 ID:LQUj5JSP
翌日、モーニングタイムズの一面はMr.ムーンシャドウ一色だった。
勿論、“謎の黒紳士出現!”との見出しで、ムーンシャドウの名は出していない。

「『集まっていた暴走族のうち、半分死亡。彼女の目的は一体何なのか!?』か…
さすがにあの人数を一度に“処分”することは出来なかったみたいだね。」
自分の古巣から情報を得る市井紗耶香。
あれ程のパフォーマンスを見せながら、まだ物足りないようである。

ピピーッ! ピピーッ!

「えっ!? これは通信を知らせる音… 一体誰が!?」
紗耶香恐る恐るアイテムを取り出し、通信回線をオンにする。

『紗耶香、私よ。』
「…!?」
806名無し:02/08/24 12:05 ID:C5axQ4bw
市井ちゃんvsなっちですか
う〜ん楽しみですな
807名無し募集中。。。:02/08/25 02:42 ID:Lhc+03mL
「穴埋め企画」なんてdでもにゃーぜよ!
前作、前々作共々秀逸ですぜ、たぢからの旦那。
レスの少なさを気になすっておるようじゃが、確かに少ねーな…。
しかし、邪魔しないようROMっとる御仁が相当数いると思われ。
808たぢから:02/08/25 04:57 ID:SJGm/lzZ
最近生活が非常に不規則になり、朝にしか更新出来なくなりました。
夜10時になると、急に睡魔が襲ってくる罠。
今週の矢口ANNSも聴けるのかどうか…

>806/名無し さん
まぁた市井かよっ! と突っ込まれそうですが、今でも好きなんで。
今作は娘。総登場でお送りします。

>807/名無し募集中。。。 さん
ありがとうございます。ROMされてる方が多いことを祈りつつ、更新します。

【訂正】805に重大なミスがありました。
(誤)『集まっていた暴走族のうち、半分死亡。彼女の目的は一体何なのか!?』
ムーンシャドウが“彼女”って… モーニングタイムズがボロ出してます…
809たぢから:02/08/25 05:00 ID:SJGm/lzZ
翌日、モーニングタイムズの一面はMr.ムーンシャドウ一色だった。
勿論、“謎の黒紳士出現!”との見出しで、ムーンシャドウの名は出していない。

「『集まっていた暴走族のうち、半分死亡。彼の目的は一体何なのか!?』か…
さすがにあの人数を一度に“処分”することは出来なかったみたいだね。」
自分の古巣から情報を得る市井紗耶香。
あれ程のパフォーマンスを見せながら、まだ物足りないようである。

ピピーッ! ピピーッ!

「えっ!? これは通信を知らせる音… 一体誰が!?」
紗耶香恐る恐るアイテムを取り出し、通信回線をオンにする。

『紗耶香、私よ。』
「…!?」
810たぢから:02/08/25 05:01 ID:SJGm/lzZ
ゼティマシティのはずれにある崖。
そこに佇む一つの影があった。
黒いTシャツに、短パンという軽装の女性…
Mr.ムーンシャドウ・市井紗耶香だ。

そこにある人物が訪れていた。
「この姿で会うのは久しぶりね、紗耶香…」
「なっち… 何で私のとこに通信が出来たの?」
「明日香にちょっと手伝ってもらったわ。」
「なるほど… ちょっとアノ事を恨まれてるみたいね。」
紗耶香は自嘲気味に呟いた。
811たぢから:02/08/25 05:02 ID:SJGm/lzZ
なつみはしばしの沈黙の後静かに口を開いた。
「元モーニングタイムズの記者にして、Mr.ムーンライトの候補者… そして今はMr.ムーンシャドウ…
どうしてアンタはそう、私たちと袂を分つのかしら…」
「以前言ったはずよ。私の求める“正義”は月光紳士ではないってね。
私は私の意志で、私の“正義”を貫くことにしただけよ。」
「自分の妹分であるごっちんを敵に回してまで…?」

しばらく沈黙する紗耶香。さすがにそれには返す言葉が無いようだ。
だが…
「でもなっちさぁ、平和なゼティマシティ… それこそが私達の共通の目標だったよね。
いつまでも生ぬるいことしかできないアンタ達に代わって、私が現実のものにしてあげるよ。」
「鬼畜の行為を犯しながら理想を掲げるつもり? アンタのした事は、単なる殺戮でしかないわ!」
812たぢから:02/08/25 05:04 ID:SJGm/lzZ
激しくなつみの非難にあう紗耶香。だが、少しも動じてはいない。
「相変わらず甘いよ、なっち。私は先の平和の為を思って動いているのよ。
重要なのは行いではなくて、それによってもたらされる結果なんだよ。分かる?」
「未来の為に今汚名を被ると言うわけなの? 思い止まる事は出来なかったの?」
「今更何を… 退く事はないわ。所詮、アンタ達は臆病な平和主義者でしか無かった様ね。」
「臆病…?」
「そう。自分の手を汚さずに、少しの犠牲も生み出さずに、平和を作り出そうとなんて、臆病者の妄想さ。」
「紗耶香…!」
「平和と言う共通の理想を掲げる者同士、袂を分つ必要も無いけど無理に歩を共にする必要も無いわ。
それでも私を止めたければ、今すぐにでも挑んできな! 尤も、その為に一人で来たんでしょ?」
「ええ…」
「ならこれ以上は問答無用よ! なっち、勝負よ!!」
「…!」
813たぢから:02/08/25 05:06 ID:SJGm/lzZ
紗耶香は懐から円状の物体を取り出した。
掌サイズで、真っ黒に染まっている。
ひとみの変身アイテム・ムーンライトコンパクトに似て非なるもの…
漆黒の月をイメージした、“シャドウコンパクト”だ。
紗耶香はそれを両手で前に突き出した。

「変身! ムーンシャドウ!!」

シャドウコンパクトから闇のエネルギーが黒いオーラとなって、紗耶香を覆う。
次の瞬間にそれは物質化。漆黒のタキシード・シャドウスーツとなる。

「終末の闇… Mr.ムーンシャドウ! 全てを闇に葬る為、月の影より見参!」
814たぢから:02/08/25 05:12 ID:SJGm/lzZ
「紗耶香… 絶対止めてみせる!!」

なつみも懐から三日月形の変身アイテム“クレセントコンパクト”を取り出す。
そして三日月の弧を描くように、コンパクトを持った右手を左方向に曲げてすかさず前に突き出す。

「変身! クレセント!!」

眩い光に包まれて、白いタキシードに身を包んだ三日月の紳士が姿を現す。

「友情の光… Mr.クレセント参上っ!!」
815たぢから:02/08/25 05:13 ID:SJGm/lzZ
変身が完了すると、Mr.クレセントは素早く“クレセントロッド”を取り出した。
「チェンジ! スピアモード!」
と叫び、槍型のクレセントスピアに変形させる。

一方、Mr.ムーンシャドウも自分の“シャドウロッド”を取り出し、
「サーベルモード・アクティブ!」
こちらはレイピア型のシャドウサーベルに変形させた。

「この姿になった以上容赦はしないよ、なっち… いやMr.クレセント!!」
しなやかな剣先をなつみに向ける紗耶香。
「分かってる。私も私の事をするだけよ。」
なつみも槍を握り締め、その先を紗耶香に向けた。
816たぢから:02/08/26 23:00 ID:rZaTzGrk
夕日を浴びながら二人の紳士は対峙し、互いに相手の出方を窺う。
殺気が走る。
紗耶香の髪が苛立ったように風になびき、なつみの額には汗がにじみ出ている。
どちらも迂闊に仕掛けられない状態にあった。

かつては会社の同僚であり、“月光紳士計画”のメンバーとして、互いに腕を磨きあった仲−ライバルである。
だが全く正反対の姿に変身した今の二人の間には、かつて親しい仲間であったことなど微塵も感じさせない程、
緊迫した空気が流れていた。
まるで、二人の周辺だけが殺気に包まれた異空間と化してしまったかのようだ。
ほんの僅かでも隙を見せれば、またたく間に相手の攻撃が炸裂する。
攻撃の間合いに一歩でも踏み込むのは自殺行為だ。下手に動けば即撃たれる。
互いがそれを熟知していた。
817たぢから:02/08/26 23:07 ID:rZaTzGrk
(ムーンシャドウ… 紗耶香は確実に心臓をぶち抜いてくる。)
なつみは息をつめて紗耶香の動きを凝視する。

(なっちは何をしてくるか読めない…)
紗耶香も相手に対する畏怖の念は同じだ。
だが…

(動いても死、動かなくても死… ならば動いたほうがいい。)
紗耶香は間合いを計り、ジリッと詰め寄った。
刹那、なつみが動いた!
818たぢから:02/08/26 23:12 ID:rZaTzGrk
ズバッ!

なつみの槍が鋭く紗耶香に襲い掛かる。
紗耶香は咄嗟にジャンプして避けた。

標的に向かってなつみは素早く移動し、何度と無く槍を放つ。
紗耶香はなつみが繰り出す攻撃を必死にかわす。

ビュッ! ビュッ! ビュッ! ビュッ!

クレセントスピアの連続技が、唸りを上げて襲い掛かってくる。
それ故、紗耶香は迂闊になつみの懐に飛び込むことは出来ない。
なつみの腕を熟知しているからこそ、防戦一方なのだ。
819たぢから:02/08/26 23:14 ID:rZaTzGrk
だが、槍をかわしている間に、わずかではあるがチャンスが訪れた。
一瞬、なつみがバランスを崩したのだ。
紗耶香はシャドウサーベルを突き出した。

ガッ!!

槍の切っ先と剣の切っ先がぶつかり、激しいスパークが起きた。

なつみと紗耶香は幾度と無く攻防戦を繰り広げた。
だが、互いに相手を倒すだけの決定的なダメージを与えられない。
820たぢから:02/08/26 23:17 ID:rZaTzGrk
「さすが紗耶香ね。相変わらず腕は確かだわ。」
「そっちこそ。」
吐く息が荒い。

「でも… 私は今のアンタに負けるわけにはいかないの。正義を守る月光の紳士、Mr.クレセントとして…
いや、一人の人間安倍なつみとしてね!」
するとなつみはクレセントスピアを上に翳し、三つに折り曲げた。
「チェンジ! トリプルロッドモード!!」
三連つなぎのヌンチャク、“クレセントトリプルロッド”に変形させのだ。

そして変形が完了すると、なつみの目つきが変わった。
「…!?」
821たぢから:02/08/26 23:21 ID:rZaTzGrk
「はああっ!」
次の瞬間、なつみは紗耶香目掛けて、トリプルロッドを突き出した。
先程よりも数段速い。
クレセントトリプルロッドは予想以上に伸びて、紗耶香の胸元を襲ってきた。

「うあっ!」
不意をくらった紗耶香は、攻撃を避けきれずに吹っ飛ばされ、そして地面に叩きつけられた。
だが、衝撃は少ない。宙で回転しながら受身を取ったからだ。

「さすがね。でもこれで終わりじゃないっ!!」
そう言うと、なつみはトリプルロッドを振り回し始めた。
822たぢから:02/08/26 23:22 ID:rZaTzGrk
(これでは軌道が読めない…!)
「くらえっ!」

一撃、二撃、三撃…
多方向からランダムに襲い掛かってくるトリプルロッドを、紗耶香は辛うじてかわす。
だが時間が経つにつれ、なつみの攻撃が徐々に掠るようになってきた。
シャドウサーベルである程度は防御できるが、それも時間の問題だった。

そして…
「はあああああっ!!」

バキッ!!
823たぢから:02/08/26 23:23 ID:rZaTzGrk
なつみの渾身の一撃は、紗耶香の頭部を捉えていた。
紗耶香は反射的にシャドウサーベルで阻もうとしたが、
力敵わず、サーベルは弾き飛ばされてしまったのだ。
さらに、それでもなつみの攻撃の威力を相殺することは出来ず、
紗耶香はそのまま仰向けに倒れてしまった。

「勝負… あったね…」
なつみはクレセントスピアを紗耶香の喉元に突きつけた。
さすがのMr.ムーンシャドウも、これでは動きが取れない。
「くっ…」
悔しさから奥歯をきつくかみ締める紗耶香。

雌雄を決する時が、近づきつつあった。
824たぢから:02/08/27 23:34 ID:u5VvOeof
【ちょっと一息】
NHK-BSの娘。特番ご覧になった方はおりますでしょうか?
ウチは地上波オンリーなので、加護の少ない毛の一本すら見れませんでした。
ただ、2chやNHKのページの情報で気になることがひとつ…

紺野あさ美の「忍者」!!

勿論なっちとか矢口とかごっちんとかが気になりますが…
詳細を教えていただければ幸いでございます。
825たぢから:02/08/28 23:01 ID:rwBLR8V8
(なっち… 一体どこにいるの…)

Mr.ハーフムーン・後藤真希は、ゼティマシティ中を飛び回っていた。
なつみがいなくなったことにいち早く気付き、捜索していたのだ。
だが、なつみらしき影は少しも見当たらなかった。

(あとは海のほうだけか… ん!?)

方向転換をしたところで、ハーフムーンウィンガーのフロントパネルに微弱な反応が表示された。
これは月光三紳士の誰かの所在を示すものだ。
だが、この弱々しさは… まさか…!
826たぢから:02/08/28 23:02 ID:rwBLR8V8
真希はその反応の方へ向かって飛んだ。
彼女であるはずが無い…
彼女であるはずが無い…!
真希はそうそう自分に言い聞かせた。だが…

「あれは…!?」

真希がその時目にしたのは、何と無残にも全身に無数の傷を負い、
仮面も破壊されボロボロになっているMr.クレセント・安倍なつみの姿であった。
彼女はクレセントのまま、ボロ雑巾の様に放置されていたのだった。
827たぢから:02/08/28 23:03 ID:rwBLR8V8
「なっちぃ!!!」

高度数十メートルから一気に飛び降りる真希。
着地時の衝撃などものともせず、彼女は一目散になつみのもとに駆け寄る。

「なっち! しっかりして!!」

胸に耳を当て、心臓の鼓動を確認すると、真希は全身を揺さぶり、なつみに呼びかけた。
だが、彼女からは何の反応も無い。

(そうだ… とにかく病院に運ばないと!)
真希はハーフムーンコンパクトに内蔵されている専用無線機で、裕子に連絡をとった。
「裕ちゃん、早く来て! なっちが… なっちがっ…!!!」
828たぢから:02/08/28 23:05 ID:rwBLR8V8
「ごっつぁーん!!」
数分後、裕子の連絡を受けた真里と圭織が現場に到着した。

どうして真希が直接救急車を呼ばなかったかというと、
月光紳士はゼティマ市警とモーニングタイムズ社の極秘プロジェクト故、
公的機関の病院であっても、一般の手にゆだねるわけにはいかないのだ。
事実、なつみの怪我のことに関しては不審な点が多いのは言うまでも無く、
関係者以外の目に触れさすわけにはいかないのだ。

そしてなつみは真里と圭織が用意した特殊救急車によって搬送された。
行き先は、ゼティマ市警管轄の秘密の地下病院である。
829たぢから:02/08/28 23:07 ID:rwBLR8V8
なつみの搬送は圭織だけが担当し、真里は真希と共に現場に残った。

なつみのことで動揺している真希をよそに、真里は一警察官として、冷静に現場検証を行っている。
すると、なつみが倒れていた所から数十メートル離れたところに、タイヤ痕が残されていた。

「これはまさか…!」

何かに感づいた真里は懐から一枚の写真を取り出した。
それには、あるタイヤ痕が写されている。
そして… 二つのタイヤ痕はものの見事に一致した。

「…これは紗耶香のバイクに間違いない!」
830たぢから:02/08/28 23:09 ID:rwBLR8V8
ここで話は少しさかのぼる。

「勝負… あったね…」
「…ああ。」

暫く固まるなつみと紗耶香。
沈黙を破ったのは、紗耶香だった。

「どうしたの? はやく殺りなよ。」
「…出来ないよ。」
「何で?」
「私は“友情の光”Mr.クレセントだよ。友をこれ以上傷つけること、まして殺すことなんて…」
「…そういう甘い考えは捨てた方がいい!」
必死に説得するなつみに対して、紗耶香は冷酷な表情でなつみを睨み付けた。
831たぢから:02/08/28 23:11 ID:rwBLR8V8
「私は正義を守るためひたすら戦う! そして戦う事… 悪を葬る事… それが私の存在理由であり、総てだ!
もしアンタが私を傷つけたくない、殺したくないと言うのなら、それで結構よ。
だが、私の定義からすればアンタも悪の片棒を担いでいるに過ぎない。
それなら一瞬にしてアンタを葬りさるまでだ!」
「さ… 紗耶香…!!」
紗耶香の余りに明確な、そして余りに残酷な返答に、なつみは怖じ気付かずにはいられなかった。
そして市井紗耶香という女の絶大なまでの凶悪さに、震えずにはいられなかった。

「…でも、その状態のアンタに何が出来るの?」
それでもなつみは今自分が優勢であることを思い出し、紗耶香の喉元に槍先を近づける。
だが、当の紗耶香は依然として不敵な笑みを浮かべている。
832たぢから:02/08/28 23:12 ID:rwBLR8V8
「確かにシャドウサーベルが離れた今、私の手元には武器は無いわね… 手元には…ね。」
そこで紗耶香は一旦言葉を区切った。そして数秒置いて…

「シャドウランチャー・アクティブ!!」
「えっ… まさか…!?」

その時なつみは思い出した。
紗耶香には片腕と呼ぶには強力すぎる“相棒”がいたということに。
そして慌てて、その“相棒”の方を振り向いたが…
遅すぎた。

ドォォォォォォォォン!!!
833たぢから:02/08/28 23:14 ID:rwBLR8V8
「ああああああああああっ!!!」

Mr.ムーンシャドウの相棒、ムーンチェイサー改め“シャドウブレイカー”から発射された誘導ミサイル、
“シャドウランチャー”の爆撃にあい、なつみは全身を焼かれるような衝撃を受けた。

「ウィップモード・アクティブ!」
被弾直前になつみから離れた紗耶香は、地面に突き刺さっていたシャドウサーベルを抜き、
鞭型のシャドウウィップに変形させた。
そして、全身にダメージを受け、痛みでのた打ち回っているなつみを拘束した。
「これで形勢逆転だな。」
「うぅ…」
834たぢから:02/08/28 23:16 ID:rwBLR8V8
「なっち、最後に一つ訊くわ。」
「な… 何…?」
「こんなに酷い仕打ちにあっても、それでも私の事を友だと言える?」
酷な問いだった。もはや紗耶香はなつみのことを単なる邪魔者以下扱いしているに過ぎないのに。
だが、それでもなつみは微笑んで…
「言うよ。紗耶香は紗耶香だから…」

「…!?」
ほんの一瞬ではあったが、なつみの言葉が紗耶香の心を貫いた。
そしてわずかではあったが、紗耶香の顔に動揺が見られた。

だが、紗耶香は首を横に振り、迷いを振り払った。
835たぢから:02/08/28 23:19 ID:rwBLR8V8
「悪いけど、雑談はこれまでよ。じゃあね、なっち! シャドウサンダー!!」
「うあああああああぁぁぁぁぁぁぁ…!!」

なつみの全身に、強烈な電撃が走る。
なつみは口を大きく開け、天を仰ぎ…
力尽きた。

「甘い… 甘過ぎるんだよっ…!」
紗耶香はそう吐き捨てると、シャドウブレイカーに跨り、何処かへ去ってしまった。

真希が到着する、ほんの数分前の出来事だった。
836たぢから:02/08/29 23:01 ID:dx1gJdwK
『手術中』

赤いランプが怪しく光る手術室前。
なつみを搬送した圭織、真希から連絡を受けた裕子、
そしてその裕子から連絡を受けたモーニングタイムズ社の面々、
そしてひとみは、沈痛な面持ちで立ち尽くしていた。

「みんな!」
現場検証を済ませた真里、そして真希が到着した。
すぐさま真里は圭織を引き連れて、市警本部へと向かった。
署長の彩とともに、緊急対策会議を開くことになったからだ。
837たぢから:02/08/29 23:05 ID:dx1gJdwK
「なっちは…?」
真希の問いに対し、首を横に振る裕子。
「…まだや。所々火傷してるから、手術が長引いているらしいんや。」
「そんな… 市井ちゃんがそこまでするなんて…」
膝を落とし、項垂れる真希。
誰もかける言葉を持ってはいない。

(市井さん… 一体アンタは何を考えているんだ…?)
廊下の壁にもたれかかり、腕を組むひとみ。
彼女の頭の中には、まだ疑問が渦巻いていた。
838たぢから:02/08/29 23:06 ID:dx1gJdwK
バンッ!

『手術中』表示灯が消えた。
皆、慌てて手術室の分厚い扉の前に並ぶ。

ガラガラガラ…

扉が開き、中からなつみが運び出される。
そして、手術を担当した明日香が姿を現す。

「明日香っ! なっちの容態はどない…」
「大丈夫! この福田明日香の腕を信じなさいって。ただ…」
「ただ…?」
「体よりも精神のダメージが大きいらしく、昏睡状態はしばらく続きそうね。
やるべき処置は全て施したから、あとはなっち次第… ってことになるわね。」
839たぢから:02/08/29 23:07 ID:dx1gJdwK
窓が無く、ただ蛍光灯の明かりだけがコンクリートの壁を照らす無機質な部屋。
そんな病室の大きなベッドに、なつみは置かれていた。
意識が回復しない為、数々の機器が取り付けられ、二十四時間彼女の容態をチェックする。
また、腕には点滴が数本差し込まれている。
痛々しい…

放心状態のひとみと真希は、なつみを看病する…
というよりは、ただなつみを眺めているだけだった。

だが、やがて高ぶった感情が凍った体を内側から溶かし、涙の栓を緩めた。
「どうして… どうしてだよ…」
840たぢから:02/08/29 23:09 ID:dx1gJdwK
ベッドの壁にうずめ、泣きじゃくる真希。
無理もない。姉のように慕っていた人によって、仲間が傷つけられたのだから。

市井と後藤の関係について詳しいことを知らないひとみは、ただうつむくだけ。
後藤にもなつみにも、かける言葉が無かった。


ブルルルル…

そんな中、ひとみの携帯電話が振動した。
(ヤバッ! ここ病院なのに電源を切るの忘れてた!!)
だが、携帯の液晶画面を見た途端、ひとみの表情が変わった。
841たぢから:02/08/30 23:00 ID:itpCM9DX
「それでは、只今よりMr.ムーンシャドウ(市井紗耶香)対策会議を開始する。」

ゼティマ市警の地下会議室では、今回の事件に関する会議が行われようとしていた。
議長を真里が担当し、彩、圭織、裕子、圭、明日香、そして真希が参加している。
尚、ひとみは一人でなつみの看病を担当し、
梨華、亜依、希美の三人は会社での編集作業に追われていた。

「まずは、ムーンシャドウが現れてからの“被害”報告を。圭織。」
「分かった。」
圭織がゆっくり立ち上がり、資料を読み上げる。
だが、誰も気が気でないのか、半分も聞いていない。
暴走族が壊滅したことよりも、紗耶香がなつみを倒した事のほうが気になっていた。
842たぢから:02/08/30 23:02 ID:itpCM9DX
「たっ… 大変ですぅ!!」
突然、甲高い声を響かせながら、梨華が飛び込んできた。
「石川、どないしたんや!?」
その様子が尋常じゃないと判断した裕子は、即座に訊ねる。
「よっすぃーが… よっすぃーがいなくなったんですっ!!」

「何ぃ!?」
と誰かが言うや否や、真希は立ち上がり、なつみの病室に一目散に向かった。
「ウチらも行くで。会議は中止や!!」
少し遅れて、裕子達も真希を追った。
843たぢから:02/08/30 23:06 ID:itpCM9DX
なつみの病室には、亜依と希美が待機していた。
「あっ! 後藤さんっ!」
「辻っ! 加護っ! 何があったの!?」
病室だというのに、激しく叫ぶ真希。

真希の剣幕に怯える希美に代わって、亜依が説明をする
「編集作業が一段落したから、安倍さんのお見舞いに来たんです。
でも丁度入れ違いに吉澤さんが出て行って…」
すると亜依はひとみの携帯を取り出した。
「これだけが… 残ってたんです…」
844たぢから:02/08/30 23:09 ID:itpCM9DX
『題名:勝負』

最初に目についたのは、誰かからひとみ宛に届いたメールの件名。
真希はおそるおそるスクロールボタンを押し、本文を読み始めた。

『吉澤ひとみへ。
 なっちは倒した。
 次はお前の番だ。
 この前と同じ場所で待つ!』

「『…市井紗耶香』!! まさか、よっすぃーは…!?」

真希の脳裏に嫌な予感がよぎる。
会議の前、ここに残ると言い出したのは他でもないひとみだった。
もしかしたら、その時既にこのメールを受け取り、抜け出す機会を伺っていたのでは…!

あわてて着信時間をチェックする真希。そして予感は確信に変わった。
「やっぱり…」
845たぢから:02/08/30 23:11 ID:itpCM9DX
「後藤っ!」
遅れて裕子達が病室に入ってきた。
だが、突然真希は入れ違いに病室を飛び出した。
「裕ちゃん、なっちを頼む!」
そう言い残して。

後藤は階段を一気に駆け上がり、市警庁舎の屋上に出た。
そして懐から半円状の変身アイテム・ハーフムーンコンパクトを取り出すと、素早く変身。
専用移動アイテム・ハーフムーンウィンガーに乗って、夜の闇に飛び出した。
846たぢから:02/08/30 23:11 ID:itpCM9DX
丁度その頃、街外れの崖の上――紗耶香となつみが戦ったところ――で対峙する二つの影があった。
市井紗耶香と吉澤ひとみだ。

「…どうして、私の携帯アドレスを知ってるんですか?」
「モーニングタイムズ社のコンピュータにアクセスして、個人情報を頂いただけさ。
有名な新聞社のクセに、あそこのセキュリティは甘すぎるね。」
ひとみも会社も見下したように言葉を発する紗耶香。
だがひとみは冷静に返す。
「余計なお世話です。それに、今重要な事は…」
「分かってる。何で私がお前を呼び出だしたか… だろ?」
「ええ。」
847たぢから:02/08/30 23:17 ID:itpCM9DX
「単純な話さ。お前みたいな甘チャンが、正義を名乗るのが馬鹿馬鹿しいと思ったからさ。」
「何だって?」
「お前もなっちも真希も、悪人退治はしても、悪人処分はしていない。
それがいかに愚かなことか、分かってるのか?」
「…」
紗耶香の気迫に押され、何も返せないひとみ。
「いくら刑務所に入れられても、どんなに刑期が長くても、いつか罪人どもは“罪を償って”出所する。
だが、そいつらはまた罪を犯す! 全く罪も無い人が被害を受ける! そんな馬鹿げた話があるか!?」
市井の剣幕はさらに酷くなる。
848たぢから:02/08/30 23:18 ID:itpCM9DX
「だからと言って、殺しては身も蓋も無いじゃないですか!」
ようやくひとみは紗耶香に向かって言い返した。
「そうかね?」
「ええ。仮に殺人犯を処分したところで、殺された人が蘇るわけではないじゃないですか!」
「“過ぎたるは及ばざるがごとし”か… 確かに、済んだことを蒸し返しても意味が無いね。
でも、その殺人犯を葬らねば、また誰かが犠牲になるに決まっている! それを見過ごせるか?」
「えっ!?」
「所詮警察も、お前たちも… 私だって同じだ。事件が起こらなければ動けない、後手後手の商売さ。
だから、可能な限り犯罪の拡大を防ぐことに努力する。そして私は、犯罪者どもを始末するんだ!!」
紗耶香の主張には、絶対的な自信が感じられる。
だが、ひとみとて引き下がれない理由がある。
849たぢから:02/08/30 23:18 ID:itpCM9DX
「じゃあ、安倍さんを傷つけたアンタも犯罪者ですね。私たちは同じ立場なんでしょ?」
ひとみは紗耶香の矛盾点を突いた。…はずだった。

「いや、違うね。」
「何だと?」
紗耶香の毅然とした態度に驚くひとみ。
「なっちは“正義”である私の邪魔をしようとした。なら当然立場は“悪”だ。だから倒した。
そしてお前も… 倒す!」

紗耶香はゆっくりとひとみに向かって足を進めた。
だが紗耶香は、ひとみの異変に気付いた。先程と場の雰囲気が全く違うのである。
「許さない…」
変わったのは雰囲気だけではない。その声色も…
850たぢから:02/08/30 23:21 ID:itpCM9DX
「そんな理不尽な理由で安倍さんまで… しかも“悪”だと…?」
ひとみはゆっくりと顔を上げた。
「アンタだけは許さない… 許す事は出来ない… 例え神が許そうと、この私は絶対に許さない…!」
ひとみの形相は、今までに見た事も無い程の険しいものだった。
して彼女の身体の奥から漲る闘気も、凄まじい程激しく、そして大きくなっていた。

「怒りがどこまで力になるかしら? さあ、どちらが本当の月光の紳士に相応しいか、勝負よ、吉澤!!」
「言われるまでもない!」
ひとみはムーンコンパクトを取り出し、天高く掲げた。
同時に紗耶香もシャドウコンパクトを両手で前に突き出した。

「変身! ムーンライト!!」
「変身! ムーンシャドウ!!」
851たぢから:02/08/31 23:01 ID:8gPU0YVj
その熱い戦いは十分近くに及んだ。
「でやああああああああああああ!!」
ひとみが振るうムーンライトソードは、何時にも増して速く、何時にも増して鋭かった。
どこにそんな力が隠されていたのかと言う程の凄まじさである。

「それがお前の全力か…」
だがムーンシャドウ紗耶香の方は眉一つ動かぬ冷静な表情で、ひとみの攻撃を全て受け止めていた。
そして、彼女には今尚もって余裕があった。
「…ならばこのMr.ムーンシャドウも全力を持って、お前を闇に葬り去ってやる。」
紗耶香の顔に邪悪な笑みが浮かび上がった。その表情にひとみは一瞬怖じ気付いた。
そして次の瞬間…
852たぢから:02/08/31 23:03 ID:8gPU0YVj
グサァッ!!

「あうっ…!」
紗耶香の繰り出したシャドウサーベルの一撃は、見事にひとみの腹部を貫いた。
ムーンライトのコスチュームである白いタキシードが紅く染まってゆく。
「はああああああああああああ!!」
紗耶香は強烈な攻撃を連続で繰り出してきた。
シャドウサーベルの刃がひとみの身体に刻み込まれていった。
腕が、肩が、脚が… 次々に傷つけられてゆく。
それに対しひとみは何をする事も出来なかった。
先程の一突きが相当応えた事もあるが、それ以前に両者の間には完全なるポテンシャルの差があった。
853たぢから:02/08/31 23:05 ID:8gPU0YVj
如何に強化スーツを纏っているとはいえ、ひとみは多少スポーツをやっていただけであり、
当初月光紳士に選ばれ、なんでも出来る紗耶香に比べて、肉体的ポテンシャルが圧倒的に低いのだ。
その差を根性で埋めるのは容易ではなく、限界を超えた能力で戦うことは身体の崩壊は進めるだけであった。

余りにも大きな力の差… それは時としてこの上なく無慈悲なものだ。
力ある者が何をしても許されるとは紗耶香でさえ思ってはいない。
だが信念や理想を語るにはそれ相応の力が求められるのも紛れも無い事実であった。
そして今、ひとみにはそれだけの力が無かった。

(信じられないよ… 一矢も報えないなんて…)
854たぢから:02/08/31 23:06 ID:8gPU0YVj
「うるあああああっ!!」
紗耶香の強烈な蹴りにより、ひとみは地面に強く叩き付けられた。
彼女の身体はもはや限界どころではなかった。
タキシードは殆ど紅で染まり、所々切り裂かれている。
仮面に至っては完全に粉砕されてしまった。

「他愛も無い。よくこんなのがムーンライトに選ばれたものね。」
「…うるさい…」
吐き捨てるように呟き、何とか自分を奮い立たせるひとみ。
まだ目だけは死んでいない。
855たぢから:02/08/31 23:09 ID:8gPU0YVj
「…うっとうしいね。そこまで死にたいんなら、とっとと葬ってやるよ。来い! シャドウブレイカー!!」

ブォォォォォォォン!!

「とうっ!」
紗耶香は相棒・シャドウブレイカーを呼び寄せると、飛び乗った。
「ブレイクモード・アクティブ!!」

黒い炎を纏い、全身凶器と化すシャドウブレイカー。
立つのがやっとのひとみに、一気に迫る!
そして…

ドォォォォォォン!!
856たぢから:02/08/31 23:12 ID:8gPU0YVj
「今の音は!?」
現場に向かって飛び続けていた真希の耳に入ったのは、大きな衝撃音だった。
「まさかよっすぃーが…!?」

あまりにも前回と似すぎたシチュエーションに、真希は胸騒ぎを抑えることが出来なかった。
フラッシュバックするボロボロのなつみの姿…
そして想像してしまうひとみの…

(ダメだ! 悪いことを考えてはいけない!!)
首を横に振り、ただ現場に早く着くことに専念する。
857たぢから:02/08/31 23:14 ID:8gPU0YVj
だが、ひとみと紗耶香が戦っていた地点には、誰もいなかった。
シャドウブレイカーのタイヤ痕以外、手がかりになる物は無かった。
いや、そのタイヤ痕こそが、勝負の結果とひとみの居場所を知る手がかりとなった。

崖の先まで一直線に伸びているタイヤ痕…
(あそこのタイヤ痕… まさか!)
真希は何かに気付いたのか、すぐさま崖の先に向かった。

だが、崖の高さは百メートルはあり、下は波が強く打ち付けていてよく分からない。
(とにかく下りるしかない。)
真希は一旦引き返すと、ハーフムーンウィンガーに乗って、崖を飛び立った。
858たぢから:02/08/31 23:15 ID:8gPU0YVj
一方その頃、崖下では…
「よっすぃー! よっすぃーっ! しっかりしろっ!」
誰かがひとみの身体を揺り動かす。
「…?」
そんな誰かの声に反応するかのように、ひとみは薄っすらとその目を開いた。
やがて焦点が合い、声の主の像が浮かび上がってくる。

「へ… 平家さん…?」
「そうや。しっかりするんや!」

それと同時に、ひとみは重大なことに気付いた。
格好がMr.ムーンライトのままだったのだ。
859たぢから:02/08/31 23:20 ID:8gPU0YVj
「へへ… バレちゃいましたね…」
「ごめんな。ちょっとつけさせてもろうたら、アンタがあの黒いヤツにやられるところやったんよ。
ほんで崖の下へ降りて、アンタを見つけたんや。ムーンライトが女やったなんて、ホンマ驚いたで。」

何故平家みちよがいたか。理由はこうだ。
ゼティマシティに来てから、彼女の月光紳士関連の情報収集はうまくいっていなかった。
それもそのはずで、市警とモーニングタイムズ社が裏で手を回していたからなのだが。
で、僅かでも情報を得ようと市警庁舎に入ろうとしたところ、裏から飛び出してくるひとみに気付いたのだ。

「一記者のアンタが、警察署の裏から出てくるなんておかしいと思うたんよ。だから…」

リポーターとしての勘が、彼女を動かし、ここまで導いたのだった。
860たぢから:02/08/31 23:23 ID:8gPU0YVj
「それより、早よ病院に連れて行かな。」
とみちよが携帯を取り出そうとしたそのとき、

「お〜い!!」
Mr.ハーフムーン真希が、飛び降りてきた。

「あれ? 何で平家さんが… って正体バレたの?」
「ハーフムーンはごっちんか… それより早よこの娘を病院に運ばんと!」

みちよにせかされて、真希は裕子達に連絡をとった。
861たぢから:02/09/01 23:04 ID:tiFDoTGZ
市警地下の病院に辿り着くと、ひとみはすぐさま治療を施された。

明日香が診たところ、全身の至る所を打撲していたが、スーツのお陰でここまで軽減されたと言う。
本来ならば、シャドウブレイカーに突き飛ばされた時点で、ほぼ即死であったはずだ。

「ま、この天才・明日香様の技術の賜物だね。それより…」
「それより…?」
「後藤、アンタこれからどうするつもり?」

明日香は真希に対し釘を刺した。
真希の性格を考えれば、今にでも紗耶香の元へ向かうことが容易に想像できた。
だが、月光紳士の二人が既に返り討ちにあっているのだ。
これ以上の痛手は避けたい。月光紳士の役割は紗耶香を倒すことだけではないのだから。
862たぢから:02/09/01 23:06 ID:tiFDoTGZ
「とりあえず今は仕事に戻ります。Mr.ハーフムーンである前に、記者・後藤真希ですから。」
「そうね。あの二人のことは私に任せておきなさい。すぐに蘇らせてあげるから。」
「お願いします、福田さん。」
笑顔でお辞儀をすると、真希は速やかにその場をあとにした。

明日香は病室に戻った。
目の前にはベッドが二つ。なつみとひとみだ。
共に、昏睡状態が続いている。

「早く目覚めてよ。アンタ達三人揃ってなんぼなんだからね…」
863たぢから:02/09/01 23:06 ID:tiFDoTGZ
「ふぅ〜…」
真希は市警庁舎屋上のフェンスにもたれかかっていた。
涼風に身をゆだね、高ぶる気持ちを落ち着かせる。

だが、彼女に感傷に浸る時間は与えられなかった。

『ごっつぁん、大変だ! センター街で暴動発生! 銃器をぶっ放して危険な状態だ!!』
真里からの通信が入った。

「やれやれ。一人しかいないのにね… やってやろうじゃないっ!!」

真剣な目つきに変わると、真希はMr.ハーフムーンに変身。
夜の街に飛び込んでいった。
864たぢから:02/09/01 23:09 ID:tiFDoTGZ
ハーフムーンウィンガーで一気にセンター街に近づく真希。
目の前には、銃器をぶっ放し、火炎瓶を投げ、殴り合っている群衆がいる。

「本当だ。人数も結構いるね。」
『アイツが来る前に全員確保したい。一気にカタをつけてちょうだい。』
「勿論、そのつもりだよ。」

真里との通信を切ると、真希は群衆の上空で旋回した。

「スライムボール発射!」

ベチャッ! ベチャッ! ベチャッ! ベチャッ!…

頭上というポジションは例えどんな達人だろうと絶対の死角である。
真上から間断なく降り注ぐ粘着物質によって、辺りは混乱した。

「今だ! 全員確保しろっ!!」
865たぢから:02/09/01 23:11 ID:tiFDoTGZ
その光景を影で眺める者がいた。
重厚な黒いバイクに跨り、黒いタキシードに身を包んでいる。
Mr.ムーンシャドウ・市井紗耶香だ。

「相変わらず生ぬるいな。やはりここは私の出番…」

ボンッ!!

だが、彼女がそう言い終わらないうちに、彼女の周りが煙に包まれた。
「くっ… これは…!! まさか真希っ!?」

空を見上げると、ハーフムーンウィンガーが旋回していた。
「市井ちゃん… これ以上アンタの好きにはさせないよ!!」

「ここはひとまず引くしかないようだね。だが次こそは…!」
真希が紗耶香を牽制しているうちに、機動隊は速やかに確保し終えた。
紗耶香は諦めざるを得なかった。
866たぢから:02/09/01 23:13 ID:tiFDoTGZ
一仕事を終え、モーニングタイムズ社に戻った真希にはもう一仕事残されていた。

「なあ、ごっちんさぁ、どうやって変身するの? 見せて見せて!!」

月光三紳士の正体を知ってしまった、好奇心旺盛女・平家みちよをどうするか、だ。
別に彼女の口が軽いとは思っていない。
ただ、外部の人間が自分達の正体を知っているとなると、いつか敵の標的にされる恐れがある。
部外者を巻き込みたくは無いのだ。

だが、目の前のみちよは、真希の心配など露知らず浮かれている。

「何かアイテム使ったりすんの? ベルトとか、メガネとか…」
867たぢから:02/09/01 23:15 ID:tiFDoTGZ
「ああもう、うるさぁい!!」
モーニングタイムズ社では比較的冷静な圭が怒鳴り声を上げた。
鶴の一声と言うか、何と言うか… 水を打ったように静かになった。

「あのさぁ、みっちゃんの好奇心はわかるよ。同業者としてね。
だけど、同業者ならば仕事を妨害していることにも気付いてよ!
只でさえ人手が足りないからって、カメラマンの私が校正やってんのよ!!
その上、締め切りまであと一時間ないんだからねっ!! 邪魔しないでっっ!!!」
半分正論、半分グチをぶつける圭。これには真希さえも閉口してしまった。

その時、終始静観を決め込んでいた(いちいち相手している暇が無かった)、編集長の裕子が口を開いた。
「よし、こうしよう。みっちゃんにはテレビ局のリポーター辞めてもろて、ウチに入ってもらう。どうや?」
「あ、それいいですね。人手は多いほうがいいですよね。」
編集長裕子の意見に、原稿を沢山抱えた梨華がすぐさま賛同の意を示す。
868たぢから:02/09/01 23:17 ID:tiFDoTGZ
当のみちよは…
「それは嬉しいけど… ハローテレビが許してくれるかな…?」

そのとき、平家みちよの携帯の着信メロディ(♪ムラサキシキブ)が鳴り響いた。

「もしもし平家です。あ、部長! え? クビぃ!? …はい、分かりました。」
どうやら月光三紳士を追う余り、本業を疎かにしてしまったツケが回ってきたらしい。
だが、それはそれで都合が良かった。

「ほな、これで決まりやな。」
かくして、平家みちよのモーニングタイムズ社入りがあっさりと決定した。
869たぢから:02/09/01 23:19 ID:tiFDoTGZ
「じゃあ、みっちゃん。早速やけど明日の記事の編集をやって欲しいんやけど。一時間以内にな。」
「OK。元リポーターやから文章をまとめるのは得意やで! 任せといてや!!」
晴れてモーニングタイムズの一員となったみちよは、
さっそく渡された原稿を物凄い勢いでまとめてゆく。
これには正社員である石川も、バイトの亜依&希美も拍手を贈った。

だが、彼女に任された“仕事”とは、これの他にもあったのだ。

「どうも… ガクトどぇす!」
「コーケコッコー!!」
(あ゛〜、うっさいわ!!)
870たぢから:02/09/01 23:21 ID:tiFDoTGZ
“仕事”のウェイトは、原稿の編集よりも、ものまね大好きコンビ・亜依&希美のお守りの方が高かった。

「平家さん、初日からこんなんですみません。」
「梨華ちゃん、気にせんでええよ。ウチ、うるさいのは慣れとるから。」
「いいえ。大して似てないものまねを見せてしまって、すみません…」
「は…?」

しばし目が点になるみちよ。
彼女はこの後、梨華の猪木のものまねを聞かされる羽目になる。
「なんだコノヤロー!」
(うっさいわ、このアゴン!!)
871たぢから:02/09/02 23:03 ID:X5Q4U3eZ
ゼティマシティの隣町、ピッコロタウン。
この町のとある廃工場が、市井紗耶香のアジトであった。
中はハイテク機器で埋め尽くされており、外からは想像も付かない別世界となっている。
これらの機器は衛星やネット回線に繋がっており、常にあらゆる情報を得ることが出来る。
彼女はこれらの機器から得た情報を基にすることで、月光三紳士とほぼ同時に行動できたのだ。

そして今、彼女はモーニンングタイムズが配信しているネットニュースを読んでいた。
勿論トップニュースは昨日のMr.ハーフムーンの活躍についてである。
872たぢから:02/09/02 23:04 ID:X5Q4U3eZ
――黒紳士に挑戦状か? Mr.ハーフムーン・たった一人で活躍!!――

『先日の暴走族の集会と同規模の暴動でありながら、Mr.ハーフムーンはたった一人で沈黙させた。
あまりの手際のよさに、先日月光三紳士の登場を阻止した黒紳士も出番がなかったようだ。』

この記事を書いたのは、他でもない真希自身であり、終わりに名前が記してある。
見出しといい、内容といい、明らかにMr.ムーンシャドウに対するあてつけである。

「おのれ… 真希…!」
マウスを強く握り締め、歯軋りする紗耶香。

「やはり、邪魔者は排除しなければならないようね…!」
873たぢから:02/09/02 23:06 ID:X5Q4U3eZ
「ごっちん、おかわり!」
「あ、私も!」
「はいはい…」
半分呆れ顔で飯を盛る真希。
なつみもひとみも、既に意識を回復。表面上は元気になっていた。
まだ安静にしていなければならないが、この二人なら今にでもベッドから飛び出しそうだ。

「…ったく、二人とも目覚めたと思ったら御飯よこせって言うんだから」
この二人、既におかわりを四回している。

「仕方ないさ。何食も口にしていないんだから。」
「そうそう。寝てたってお腹はすくんだよ。」
874たぢから:02/09/02 23:08 ID:X5Q4U3eZ
「…で、紗耶香の動きは?」
「昨日の夜に牽制しておいたから、あとは市井ちゃんの出方次第ってところ。
ま、私はどこかの誰かさん達みたいに無闇に戦いを挑んだりはしないよ。」
「すっごい皮肉だね。」
苦笑するなつみ。

「でも、私の時みたいに向こうから勝負をしかけてきたら?」
ひとみの疑問は当然のことだ。出方次第というからには、真希に何らかの考えがあるはずだ。

「その時は、勿論受けるさ。でも、無益な戦いにはさせない。」
875たぢから:02/09/02 23:13 ID:X5Q4U3eZ
「そこで、この私の腕が必要な訳さ。」
病室に入ってきたのは、ゼティマ市警科学研究班長・福田明日香だ。

「ごっちん、明日香に何頼んだの?」
なつみが訊ねると、真希は少しニヤリとして、
「市井ちゃんを倒す為の準備だよ。」
「紗耶香を倒す準備…?」
「作戦は深く静かに進行中です。ね、福田さん?」

「ああ。この福田明日香様に任せなさい。」
876たぢから:02/09/02 23:14 ID:X5Q4U3eZ
ゼティマ市警庁舎の地下には、一般警官が知らない施設がある。
なつみとひとみが療養している地下病院。
月光三紳士用のトレーニングルーム。
そして、紳士スーツ開発者・福田明日香のラボラトリーである。

明日香は病室から戻ると、自分のパソコンを立ち上げる。
「さて… 続きをやりますか。」

カタカタカタカタカタ…

エディタを起動させ、何かのプログラムを打ち込んでゆく。
「紗耶香… 覚悟しなよ。」
877たぢから:02/09/03 23:01 ID:Q7/2PeVC
それから一週間が経った。
なつみとひとみも復帰まであと少しというところまで回復。
トレーニングルームでリハビリを兼ねた体力づくりに励んでいた。

そして真希の携帯には…

『真希、一対一で勝負だ。』

「一時間後、ピッコロタウンの廃工場で… だそうです。福田さん。」
「フッ。わざわざ場所を教えてくれなくても、とっくに紗耶香のアジトくらい突き止めてるさ。」
「ということは、作戦実行ですか?」
「そうよ。ただもう少し時間が要るから、それまでくれぐれも気をつけてね。」
878たぢから:02/09/03 23:02 ID:Q7/2PeVC
カツーン… カツーン…

「約束どおり、来たよ。市井ちゃん…」
「真希…」

廃工場で対峙する紗耶香と真希。

「この前はよくも邪魔してくれたね。妹分のお前でも、容赦しないよ。」
「それはこっちのセリフだよ。昔の仲間を傷つけて楽しいの?」
「昔に囚われる方が愚かなんだ。今私は私の正義を行う。お前達と相容れることは無い。」
879たぢから:02/09/03 23:03 ID:Q7/2PeVC
「やはり問答無用… か。仕方ないね。」
真希は半月型変身アイテム・ハーフムーンコンパクトを左手で取り出すと、
左手を右に突き出して、腕を伸ばしたまま半月の弧を描くように左方向に回し、そして正面に突き出した。
「変身! ハーフムーン!!」

同時に紗耶香もシャドウコンパクトを前に突き出す。
「変身! ムーンシャドウ!!」

「勇気の光! Mr.ハーフムーン参上!!」
「終末の闇… Mr.ムーンシャドウ見参!!」
880たぢから:02/09/03 23:04 ID:Q7/2PeVC
「チェンジ! サーベルモード!!」
「サーベルモード・アクティブ!!」

ロッドを同じレイピアに変形させる真希と紗耶香。

「やはりそう来たか。でも、お前に剣を教えたのは他でもない、この私だ。
お前の実力ではこのMr.ムーンシャドウを倒すことなど出来やしない。」
「それはどうかしら? 私も市井ちゃんの技や癖は全て知ってるわ。
市井ちゃんこそ、このMr.ハーフムーンを倒すことは出来ない!」

ブゥン!!

その次の瞬間、紗耶香はシャドウサーベルを真希の鼻先ギリギリに突きつけた。
真希は避けようともせず、じっと剣先を見つめる。
881たぢから:02/09/03 23:06 ID:Q7/2PeVC
「うぬぼれるな真希! …といいたかったが、今のが本気じゃないと見抜いていたとはね。
さっきの言葉も本気か… 迷いも何も無いようね。」
「私は私の役目を果たしたいだけだよ。これ以上、市井ちゃんに罪を重ねないようにね。
今は市井ちゃんを止めること… 只それだけが私の使命なんだよ!!」
鋭い視線が紗耶香を貫く。

「(その熱い視線が… 癪に障るんだよ!)勝負だ! 真希っ!!」
「望むところだ!!」
真希と紗耶香は同時にお互いに向かって飛びかかった。
882たぢから:02/09/04 23:14 ID:OK0EfK/u
十分が過ぎた…
戦いは壮絶を極めていた。

「はああああっ!!」
ブゥンッ!!
真希が紗耶香を斬りつけた瞬間、紗耶香その場には既におらず…

「でやあああああっ!!」
ブゥンッ!!
紗耶香が真希の隙を狙って斬りつけようとしても、真希は紙一重の所で避けていた。
まさに同レベルの戦いだ。

「はあっ… はあっ… はあっ…」
「ぜえっ… ぜえっ… ぜえっ…」
また、お互いが距離を離すと一時攻撃は止んだ。お互いが相手の隙を鋭い目で伺っているからだ。
883たぢから:02/09/04 23:15 ID:OK0EfK/u
「腕をあげたな… 真希…」
「別に。市井ちゃんの技・癖を見切ってるからさ。」
肩で息をしながらも、表情は自然体を崩さず、余裕の笑みを見せる真希。
(…前言撤回。うぬぼれるなよ。お前が知っているのは昔の市井紗耶香でしかない!)

「はああああああああっ!!」
「らああああああああっ!!」
攻めるタイミングも全く同時、これでは決着もつかないはずだった。
しかし、紗耶香が突然動きを止め、サーベルを上に向かって突き出した。
見慣れない構えに真希は一瞬躊躇したが、どうみてもその姿は隙だらけだった。

(もらったぁ!!)

真希はそのチャンスを逃さずに紗耶香に飛びかかった。
しかし、それは紗耶香にとって計算のうちだった。
884たぢから:02/09/04 23:17 ID:OK0EfK/u
ガカァッ!!

「うっ!!」
突然、紗耶香のシャドウサーベルに雷が落ち、その光で真希は一瞬目がくらんだ。

「くらえ真希! シャドウサンダーフィールド!!」
紗耶香は落雷で帯電しているシャドウサーベルを地面に思い切り突き立てた。
次の瞬間!!

バチバチィィィィィッ!!

「うああああああああっ!!」
地面から数本の強烈な電気の柱が突き出て、そのうちの一本が真希の体に直撃した。

真希の全身を強烈な電流が駆け巡り、真希はその場に倒れてしまった。
885たぢから:02/09/04 23:20 ID:OK0EfK/u
「技や癖を知っている程度で勝てると思うなど、この私をそんなに見くびるとは愚かだ。
今ここに立っているのはMr.ムーンシャドウであって、お前の知っている昔の市井紗耶香ではない。」
そういうと紗耶香はシャドウサーベルに雷エネルギーを集中し始めた。

「お前はこの技を見切ることはない… 悪いがこれで終わらせてもらうよ真希!」
そう言うと、紗耶香は帯電したシャドウサーベルを力一杯振り下ろした
「さらばだ真希! シャドウサンダーストライク!!」

ヴオオオオオオオオオッ!!

紗耶香がシャドウサーベルを地面に叩きつけた同時に生じた電撃の波は、
徐々に強大になりながら、立っているだけの真希に襲いかかった!!

「あああああああああああああああああああっ!!!」
その電撃は真希の全身を貫き、その衝撃によって真希の体は空中を舞った。

ドサッ!!
真希はそのまま廃工場の壁の隅に叩きつけられ、動かなくなった。
886たぢから:02/09/05 23:33 ID:/FnrbaJb
「…終わった。これで全て…」
紗耶香は倒れている真希に近づいた。
シャドウサーベルを真希の首元に突きつける。
「かつて妹分であったお前の首くらいは、この市井紗耶香直々に…」

「…お断りだよ!」
「!?」

突如真希が起き上がり、隙だらけの紗耶香を蹴り飛ばした。

「ぐあっ!」
突然のことに受身をとることも出来ず、紗耶香は廃工場の床に叩きつけられた。
887たぢから:02/09/05 23:34 ID:/FnrbaJb
「そんなバカな! シャドウサンダーストライクをまともに受けたはずなのに…」
驚愕する紗耶香に対し、真希は余裕の笑みを浮かべる。

「さっきの言葉、のしつけて返すよ。そっちこそ、月光紳士を見くびってない?」
「なんだと!?」
「残念だけど、なっちの件で紳士スーツは耐電能力がアップしたんだよ。
スーツそのものがアースの役割を果たして、体には一切電撃は流れないのさ。」
「じゃあさっきのは演技だというの?」
「そ。アカデミー賞もんだね。女優に転向しようかな?」
「ふざけるなっ!!」
888たぢから:02/09/05 23:35 ID:/FnrbaJb
ガシィィィィィン!!

二本のサーベルが交わり、激しく火花が散る。
だが、紗耶香が二本の腕でサーベルを操っているのに対し、真希は右手一本で支えている。

「ふざけてるのは… そっちじゃないかっ!!」

ドカッ!!

真希は空いている左拳で紗耶香の頬を殴った。
その衝撃で衝撃でムーンシャドウの仮面がはずれ、紗耶香の顔が晒された…
889たぢから:02/09/05 23:37 ID:/FnrbaJb
「真希…」
真希の迫力に、市井は返す言葉が無い。
呆然としたまま、真希に襟元を掴まれる。

「多くの人を殺して、かつての仲間さえ傷つけてまで求める正義なんて認められない。
こんなのが正義なんて… こんなのが正義であってたまるかぁ!!!」

そして、真希もまた、自分の仮面を捨てた。

「…真希っ…!?」

襟元をつかみ、紗耶香にせまる真希は… 泣いていた。
890たぢから:02/09/05 23:38 ID:/FnrbaJb
「市井ちゃん… もうやめようよ…! 昔の市井紗耶香に戻ってよ…! 私苦しいよ… 苦しすぎるよ…!」
「や… やめろぉ!!」
真希の顔を真正面から見ることが出来なくなった紗耶香は、
真希の腕を強引に解き、彼女を突き飛ばした。

「あうっ!!」
尻餅をつく真希。
だがそのすぐ目の前には、シャドウサーベルを掲げたムーンシャドウがたっていた。
激しい呼吸で、目も血走っている。

「市井ちゃん…!?」
「真希ぃ… うおおおおおおおおっ!!」
そして、黒い刃が振り下ろされた。
891たぢから:02/09/05 23:40 ID:/FnrbaJb
【お知らせ】
完結まであと1週間です。
892807:02/09/06 03:23 ID:3KPvTB6Y
出かけてたもので一気に読みました。
更新おつです。
感想は・・・、完結してからにすっぺか!
893たぢから:02/09/06 23:09 ID:+AMsJPWa
>892=807 さん
完結後の感想、楽しみに待っております。
894たぢから:02/09/06 23:11 ID:+AMsJPWa
ガキィィィィィィンン!!

「え?」
「ギリギリセーフ!」
「お前は…!!」

真希の目の前で止められたシャドウサーベル。
そしてそれを止めたのは白い刃… ムーンライトソード。

「正義の光・Mr.ムーンライト参上! Mr.ムーンシャドウ、いや市井紗耶香! 月に代わってお仕置きだぜ!!」
間一髪、ひとみが駆けつけたのだった。
895たぢから:02/09/06 23:12 ID:+AMsJPWa
「ちょっと待ってよ。私達もいるのよ!」
「…ったく一人で突っ走るなよ。」
と呆れ顔のMr.クレセントなつみと明日香。

「アンタ達… どうして!?」
驚きを隠せない紗耶香。
それもそのはずで、あの怪我でひとみもなつみも動けるはずはないと思っていたのだから。

「紗耶香、悪いけど私達は死なない限り、何度でも立ち上がるわ。アンタを止める為にね。」
「何っ!?」
なつみがそう言うと同時に、ひとみが紗耶香の前に立ち塞がる。
「今からアンタの相手はこの私が… 吉澤ひとみがする!!」
ひとみは自分の仮面を投げ捨てた。
896たぢから:02/09/06 23:13 ID:+AMsJPWa
「何を今更… お前との勝負は既についているわ。」
「二度、同じことが起こるかしら?」
「一度あることは二度ある。…いや、二度起こしてやるよ!!」

その次の瞬間、シャドウサーベルの切っ先が、ひとみの左胸を襲った。
だが、剣はひとみを貫くことなく、空を斬った。
シャドウサーベルが貫いたのは、白いマントのみだった。

「変わり身の術。このくらいの芸当は私にも出来るよ。」
「黙れっ!!」

我武者羅にサーベルを振るう紗耶香。だが少しもひとみに当たらない。
897たぢから:02/09/06 23:14 ID:+AMsJPWa
「やっぱり違う。」
「何が!?」
「別にアンタの事を知ってるわけじゃない。でも、今のアンタはごっちんの知ってる市井紗耶香じゃないね。」
「なっ…!?」

思わず動きが止まる紗耶香。
ひとみはある程度間合いを取ると、ムーンライトソードをその場に捨てた。

「何の真似?」
「今のアンタには私すら殺せる力もないよ。嘘だと思うなら、来いよ。」
「ふ… ふざけるなぁ!!」
898たぢから:02/09/06 23:15 ID:+AMsJPWa
ムキになってひとみに飛びかかる紗耶香。だが…

ガシィィィン!!

シャドウサーベルはひとみの左手一本で押さえられた。

「こんなアンタじゃ、正義を語ることは出来ないっ!」
「何だと? “棚からぼた餅”でムーンライトになったお前に何がわかる!?」
「確かに私はタナボタでムーンライトになったも同然だ。だけどっ…!」

ひとみが紗耶香を押し返す。

「だけど、今の私には守るべきものがある! 何が正しいか、常に自分の頭で考えてる!
戦う理由がある! それが今のアンタにはない! だから私は負けない!!」
ひとみはすぐさまムーンライトソードを抜き、シャドウサーベルを弾き飛ばした。
899たぢから:02/09/06 23:16 ID:+AMsJPWa
ガッ!!

シャドウサーベルは勢い良く地面に突き刺さった。

「この前とは逆になったね、市井さん。」
ムーンライトソードの先を紗耶香に向け、追い詰めるひとみ。
勝利宣言も同然だった。

「市井ちゃん、大人しく降伏して。もう戦うのは… 苦しいのは嫌だよ。」
「紗耶香、私もごっちんと同意見だよ。これ以上…」
真希となつみが紗耶香の説得にあたる。だが…

「黙れ黙れ黙れっ! まだだ… まだ負けるわけにはいかないんだっ!!」
900900:02/09/07 18:52 ID:7sMZgv7f
900
901たぢから:02/09/07 23:07 ID:iz4YyKTh
さぁてこのスレも900突破!
ラストスパート!!
902たぢから:02/09/07 23:08 ID:iz4YyKTh
この期に及んでもまだ戦おうとする紗耶香。
だが…

「いい加減にやめるんや、紗耶香っ!!」

その良く通る懐かしい声に、紗耶香の動きが止まる。

「…裕ちゃん!?」

編集長の裕子だけではない。カメラマンの圭、市警の彩、圭織、真里も駆けつけている。
そう、月光紳士計画のメンバーが全員集結したのである。
903tadikara:02/09/07 23:08 ID:iz4YyKTh
「よっさん、剣を収めてや。」
「は、はい…」
裕子に言われ、サーベルモードを解除するひとみ。
視線で紗耶香を威嚇しつつ、一歩下がる。

「紗耶香…」
裕子はゆっくり近づくと、紗耶香の傍でしゃがみ込んだ。
喜怒哀楽… どの感情にも当てはまらないような、表現のしようがない表情だ。
その表情から紗耶香は目を逸らすことが出来ない。
904たぢから:02/09/07 23:09 ID:iz4YyKTh
「ごめんな、紗耶香。」
「…!?」

突如詫びの言葉を発する裕子。
これには紗耶香ならず、その場に居合わせた全ての者が驚いた。

「な… 何言ってんだよ、裕ちゃん…」
「紗耶香がこうなったのも、元を辿ればウチの責任なんや…
丁度メンバーも揃ってることやし、2年前の過ちを懺悔するわ。」
「懺悔…?」
905たぢから:02/09/07 23:11 ID:iz4YyKTh
「みんな知っての通り、2年前に“月光紳士計画”を立ち上げた3人の人が何者かに殺された。
せやけど、被害者は寺田、和田、山崎だけや無かったんや。」
「裕ちゃん…!」
裕子の話に、真希が反応する。

「事件現場の料亭には、一人の見習い板前がアルバイトをしとった。名は後藤ユウキ。
彼はソニンの相棒であり、後藤の… 弟やった。」
「…」
その続きを話す前に、紗耶香の表情が凍った。

「そしてもう一人。料亭“さやか”の女将… 紗耶香の母親や。」
906たぢから:02/09/07 23:12 ID:iz4YyKTh
2年前、紗耶香の母親は殺人現場に遭遇してしまった。
丁度料理を運び入れ、女将として寺田達に挨拶していたところを、何者かに襲われたのだ。
一方、真希の弟ユウキもその部屋の傍を通りかかり、殺人現場を目撃してしまった為に、
犯人によって口封じに殺されてしまったのだ。

「肉親を失った紗耶香と後藤は、互いに慰めあってた。ウチはそれで何とかなると思うてた。
というより、姉妹のような二人の間には、何か神聖なものがあって、立ち入れない気がしてた。
でも、それは間違いやった。」

その後、紗耶香は悪を完全否定するような原稿を書くようになり、そしてモーニングタイムズを去る。

「後藤の方は紗耶香によって慰められていたかも知れへん。…けど、紗耶香はそうやなかった。
悪に対する憎しみをどんどん募らせておったんや。ウチが近づけなかったのも、その殺気のせいやったんや。」
907たぢから:02/09/08 23:00 ID:pSKDg412
静まり返った廃工場の中、裕子は良く通る声で話を続ける。
「紗耶香はモーニングタイムズの一員であり、ウチの妹も同然やった。
本当なら、ウチが全身全霊を込めてケアするべきやったんや。でもウチは逃げていた。
一ジャーナリストとして仕事に専念することで、あの事件を乗り越えようとしてた。」

「…違う…」
「…紗耶香?」
「…違う。裕ちゃんは… 裕ちゃんは関係ないっ! これは私の意志でやっていることだ。
あの事件なんか… あの事件はどうだっていいっ!!」

すると紗耶香は急に立ち上がる。
908たぢから:02/09/08 23:02 ID:pSKDg412
「やめるんや紗耶香! もう分かってるはずやろ? こんな無駄なことは…」
「うるさいっ! これ以上邪魔をするなっ!」
「うあっ!」
必死に説得する裕子を突き飛ばし、頭を必死に振る紗耶香。
雑念を振り払い、敵意に満ちた視線を周りにぶつける。

「紗耶香っ!」
「市井ちゃんっ!」
今まで話に気を取られていたひとみ達が紗耶香を囲む。
だが…

「みんな滅びろ! シャドウランチャー・アクティブ!!」

ドォォォォォォォォン!!!
909たぢから:02/09/08 23:04 ID:pSKDg412
ムーンシャドウの最終兵器、シャドウランチャーが火を噴いた。
…はずだった。

「なっ…!?」
目の前の光景に絶句する紗耶香。
そう、彼女の相棒・シャドウブレイカーが爆音と共に四散してしまったのだ。

後に残ったのは、天高く赤々と燃える炎と、粉々になったバイクの残骸のみ。

「そんなバカな… 音声認識装置がエラーを起こすなんて…」
910たぢから:02/09/08 23:08 ID:pSKDg412
「エラーじゃないわ。アンタの言うことを聞かなくなっただけよ。」
その声と共に前に出るのは明日香だ。
「悪いけど、天才メカニックはアンタだけじゃないわ。この福田明日香をなめないで。」
「…どういうこと?」
「ハッキングさ。」
「ハッキング!?」

ムーンシャドウの音声認識システムは、基本的には月光紳士のものと同型である。
製作者の明日香にとって、ランチャー発射プログラムを自滅プログラムに書き換えることなど朝飯前だった。
「モーニングタイムズのコンピュータをハッキングして、吉澤のメールアドレスを知ったくせに、
自分の事に関してはセキュリティが甘かったようね。」
911たぢから:02/09/08 23:10 ID:pSKDg412
「…いい加減負けを認めなよ。今度こそアンタに為す術は無いよ。」
ストレートに言い放つ明日香。
紗耶香はうつむいたまま、何も発しない。

「市井ちゃん…」
そんな紗耶香に真希はやさしく手を回し、抱きしめた。
「…真希…」
「泣いていいよ。あれから泣いてないんでしょ?」



「…ぁぁ…」
言葉にならなかった。
912たぢから:02/09/08 23:12 ID:pSKDg412
廃工場内に流れる沈黙…
唯一聞こえる音は、微かにすすり泣く紗耶香の声だけ…



やがて泣き止むと、紗耶香は静かに立ち上がった。
目の周りが若干赤く染まった顔は、何かを決意した表情になっている。

「真希… なっち… 吉澤… ごめん。」
「市井ちゃん?」
「紗耶香…!?」
「市井… さん…?」
913たぢから:02/09/08 23:14 ID:pSKDg412
一瞬、月光紳士達に隙が出来た。
その隙をついて、紗耶香はひとみに弾かれていたシャドウサーベルを拾う。
唖然とするギャラリーの中を飛び越えると、電子機器が並ぶ自分のデスクの前に着地した。

「さや…」
「来るなっ! 死ぬぞ!!」
「市井ちゃん! 何する気!?」



「シャドウサンダーフィールド!!」
914たぢから:02/09/08 23:19 ID:pSKDg412
紗耶香は足元にシャドウサーベルを突き刺した。

バチバチィィィィィッ!!

「うおあああああああっ!!」
地面から数本の強烈な電気の柱が突き出て、そのうちの数本が紗耶香自身に直撃した。

そして、他の電撃が背後の電子機器を貫き、爆発と火災を誘った。

「紗耶香っ! 何考えてんねんっ!!」
必死に紗耶香を止めようとする裕子。
だが、紗耶香の周囲を覆う電撃に阻まれ、奥へ進むことは出来ない。
915たぢから:02/09/08 23:20 ID:pSKDg412
「市井さんっ! バカな真似は止めて下さい!アンタだって正義を貫きたいはずだろ!!
こんなところで死んでどうするんですか! 罪を償ってからでも… 遅くは無いっ!!!」
ひとみは紗耶香に自首を求める。彼女が今考え得る最良の道だ。だが…

「吉澤、以前お前に言っただろ?『罪を償うことなど出来やしない。犯罪者は滅ぶべき』って。
だから私はここで死を選ぶ。これ以上自分の手で犯罪を広げたくは無い!」
紗耶香は最期の最期まで自分の信念を貫こうとする。

「バカヤロウ! それが正しいかどうかも分からないクセに、勝手に死ぬなよ!」
ひとみはありったけの思いを紗耶香にぶつける。

「…そうだよ。私はバカだったんだ。」
紗耶香の瞳からは、透明なものがあふれ出していた。

「それにな… もう考える力も… 残っちゃいないんだよ…」
シャドウサンダーをふんだんに浴びた為、全身の力が抜け、紗耶香はその場に倒れ伏した。
916たぢから:02/09/08 23:22 ID:pSKDg412
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!

紗耶香が倒れると同時に、シャドウサンダーのエネルギーが暴走し、周囲に広がった。
紗耶香の電子機器はおろか、廃工場内の機器なども巻き込んで、爆発してゆく。
激しい振動が起こり、工場の天井を支える鉄骨や、割れた窓ガラスが落ちてくる。

「このままではこの工場が崩れて生き埋めになってしまう! 圭織、矢口、みんなを避難させて!!」
「「了解!」」
彩の指示で、圭織と真里は裕子達を外に逃がそうとする。

だが…

「市井ちゃん!」
「紗耶香っ!」
「市井さんっ!」
917たぢから:02/09/08 23:23 ID:pSKDg412
エネルギー伝播が続けられている中を、無理をして三人の紳士は入り込んでいった。
シャドウサンダーの高圧のエネルギーが、彼女達のスーツを、体を透過していく。
「なっち! 後藤! よっさん!」

「く… この位の事… 市井ちゃんが受けた心の傷に比べたら… かゆいくらいだよ!」
「そうだね。今こそ紗耶香を救うんだ!」
「はいっ!!」

「みんな… ごめんな…」
裕子はまた何も出来ない自分を恥じ、唇をかみ締めた。
そして、圭達と共に崩れゆく廃工場から脱出した。


しばらくして、すさまじい閃光が工場内を照らしたと同時に…
激しい振動、そして爆発が周囲に走って行った。
918名無し募集中。。。:02/09/09 03:16 ID:ZprRLe0B
たぢからサン すごく面白いですね。
一気に読んでしまいました。
よけいなお世話かもしれませんが、このスレも450k近くになってる
みたいですし、中途になってしまっても新スレにした方が良いのでは?
919たぢから:02/09/09 23:02 ID:mwVZhpwU
>918 名無し募集中。。。さん
どうもありがとうございます。ご心配には及びません。
【怪傑! Mr.Moonlight】は今日を含めあと3回で終了します。
スレ容量も、レス容量も問題ないと思います。
920たぢから:02/09/09 23:05 ID:mwVZhpwU
数時間後…

「…ここは…?」
「残念だけど、地獄でも天国でもないよ。」
「…明日香か…」
紗耶香のベッドの脇には、白衣に身を包んだ明日香が腰をかけていた。
見ると、所々火傷を負っているようだ。

「私を… 助けたのか?」
「これは工場の火災による火傷さ。アンタを助けたのは…」
と明日香が指差すほうには、全身に包帯を巻かれたひとみ、真希、なつみがベッドで眠っている。
921たぢから:02/09/09 23:07 ID:mwVZhpwU
「あの三人はね、体を張ってアンタを取り囲み、高圧電流や火災から守ったんだ。
その代わり、自分達の体の保護まで手は回らず、全治一ヶ月の怪我を負ったの。
紳士スーツも、完全修復には少し時間がかかるわ。」
紗耶香が助かった経緯を説明する明日香。
それを聞いて、紗耶香は顔を背ける。

「…なんで、死なせてくれなかったんだよ…」

だがそんな紗耶香に対し、明日香は短く訊ねた。
「逃げるのか?」
「!」
922たぢから:02/09/09 23:08 ID:mwVZhpwU
「アンタのセオリーは、『罪は償えやしない』『悪は滅ぼすべき』だったね。
でもさ、それは本当に正しいことなのかしら?」
「どういうこと…?」
「あの時、自分の過ちに気付いたアンタは自害しようとした。何で?」
「それは… 悪は滅ぶべき…」
だがそれを明日香は遮る。
「言い訳だね。ホントは死んで楽になりたかったからじゃないの?」
「…!!」

言い返せないのは、核心を突かれたから。
そう判断した明日香は続ける。
「死ねば楽になるなんて、医者として言わせてもらえば非常にナンセンスね。
死んだってね、何にも起こりゃしない。人は死ねば灰になるだけ。」
923たぢから:02/09/09 23:10 ID:mwVZhpwU
明日香の一言一言が紗耶香の心に突き刺さる。

「逃げたかったんでしょ? 後藤たちから… 昔の自分から… 現実から…」
「…違っ…!」

――言い切れなかった。
――言い返す言葉も思いつかなかった。

紗耶香は完全なる敗北を悟った。

「ねえ明日香… これから… 私はどうすればいい…?」
924たぢから:02/09/09 23:12 ID:mwVZhpwU
「そうねぇ… この場で死刑に代わる極刑を言い渡すわ。」
と言って病室に入ってきたのは、彩、圭織、真里の市警トリオだ。

「死刑に変わる… 極刑…?」
矛盾した表現に、首をかしげる紗耶香。
しかしそんな紗耶香に構わず、彩は一枚の紙を取り出した。
そこには…

『−辞令− 市井紗耶香をゼティマ市警秘密捜査官に任命する  ゼティマ市警署長 石黒彩』

「彩っペ… これは…?」
「これがアンタに課される極刑さ。」
925たぢから:02/09/09 23:13 ID:mwVZhpwU
「全然分からないよ…」
「まだ分からないの?」
困り顔の紗耶香に対し、何故か笑顔の市警トリオ。

「紗耶香、アンタは死に逃げようとしたよね?」
「死が楽だと思ったからだよね?」
と圭織と真里に訊かれ、ゆっくり頷く紗耶香。

「だったら、私達はその死を奪い、『罪を背負って、一捜査官として生き続ける事』を刑罰とするわ。」
「えっ…!?」
926たぢから:02/09/09 23:15 ID:mwVZhpwU
勿論このことに関して、関係者内でも賛否両論であった。
あれだけ人を殺した紗耶香を捜査官として迎えるのは、抵抗があって当然ではある。
だが、意外な人物のひとことで、全てが決まった。

「私が以前市井さんと戦ったときに言われたんだ。『法律という尺度で罪を計るのが間違っている』って。
それに、刑務所で服役したからって、本当に罪を償えるのかどうか、はっきりとは言えないし。
正しいかどうかも、断言できるわかじゃないけど、市井さんが罪を償うには、私たちと共に悪と戦って、
多くの人の為に尽くすことだとと思うんだ。今大事なことは、多くの人の幸せを守ることだしね。」

今は眠っているひとみのこの言葉に、皆心動かされ、紗耶香の処遇が決まったのだ。
927たぢから:02/09/09 23:16 ID:mwVZhpwU
「あの吉澤が…」
「この一連の事でアイツもいろいろ考えていたんだよ。これがアイツなりの正義の貫き方なんだよね。」
と真里が言うと、紗耶香の頭の中にあの時のひとみの言葉が蘇った。

『確かに私はタナボタでムーンライトになったも同然だ。
 だけど、今の私には守るべきものがある!
 何が正しいか、常に自分の頭で考えてる!
 戦う理由がある! それが今のアンタにはない!
 だから私は負けない!!』

「私は忘れていたんだね。確かに2年前に母さんは失ったけど、他にも守るべき者はいたんだよね。
真希だって私と同じだったはずなのに、Mr.ハーフムーンとしてなっち達と多くの人を守ってきた。
それに比べて私は… 悲しみ一つ乗り越えることが出来ずに逃げてきた… 情けないよね…」

それから紗耶香はまた泣いた。
人目もはばからず、2年前の自分に戻って、悲しみと悔しさを表に出した。

黒く染まった空白の2年は、彼女自身の涙によって、少しずつ洗い流されていった。
928 :02/09/09 23:19 ID:iIgKCF5v
改心キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!
929たぢから:02/09/10 23:13 ID:AeiGcMLu
>928 さん
あ、そういや中澤姐さんの本のタイトルが「改心」でしたね。
絡ませりゃよかったかなぁ…

今頃訂正です。
884と885の間が抜けていました。
まあ、抜けていても自然につながっていますが…

《挿入文》
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「うううっ…」
その一撃によるダメージは真希にとって強烈な一撃だった。
紳士スーツも所々焼け焦げ、体のコントロールも鈍くなった。
しかし、それでも真希は気力でその場に立ち上がった。

「ほう… あの一撃を受けて立ち上がれるとは思わなかったよ、真希。
尤も、もう一撃受ければなっちみたいに死の淵を彷徨うことは必至だけどね。」
「まだそんな技を隠していたのか…」
「なっちからはシャドウウィップを通して感電させるシャドウサンダーしか聞いてないだろ。
だけどね、このシャドウロッドは雷エネルギーを自由自在に操れるのさ。
半径10mくらいは私の領域(テリトリー)、少しぐらい離れていても意味は無い。」

明日香の話だと、月影にはこのような機能は搭載されていない。勿論量産型にも、だ。
戦闘に特化させる為、紗耶香が追加したのだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
930たぢから:02/09/10 23:14 ID:AeiGcMLu
それでは、本日アップ分をどうぞ。
これをいれてあと2回!!
931たぢから:02/09/10 23:15 ID:AeiGcMLu
あれから3日経った。
ひとみ達も目覚め、4人入りの病室は賑やかになった。
2年の空白を埋める為、紗耶香と真希となつみは思い出話に花を咲かせる。

だが… 紗耶香は吉澤とだけは特に話すはなかった。
仕方ないと言えば仕方なかったのだが、互いに話すきっかけを逸していた。

そんな中、4人はあるテレビ中継に釘付けになる。
夜の繁華街で、いつかと同じような暴走族の集会が行われていた。
廃工場の後処理に追われていた圭織達機動隊は、その対応にてこずっていた。

その光景を見て、紗耶香は後悔した。
「私があんなことをしなければ…」
932たぢから:02/09/10 23:16 ID:AeiGcMLu
「じゃあ紗耶香、今こそ罪滅ぼししてみるか?」
と病室に入ってきたのは、明日香だ。
そしてその右手には…
「それは… ムーンライトコンパクト!」
ひとみ専用の変身アイテムだ。

「福田さん、修理が完了したんですか?」
「残念だけど、変身機能などの回復にとどまってるわ。
変身しても、通常の五割程度の力しか出ないよ。
あと一日あれば完全に直るんだけどね…」
「でもいいですよ! 早く出動しないと…!!」
「待ってよ吉澤。これを使うのはアンタじゃないんだよ。」
と逸るひとみを制する明日香。
そして彼女は、コンパクトを意外な人物に手渡した。
933たぢから:02/09/10 23:17 ID:AeiGcMLu
「さあ出番だよ。元・ムーンライトの候補さん。」
「えっ…!?」
驚いたのは他ならぬ紗耶香本人だ。

明日香は皆に説明する。
「どうせ五割の力しか出ないんだ。満身創痍の吉澤じゃ、使いこなせない。
この中で一番怪我が軽い紗耶香、アンタが臨時装着員に相応しいんだよ。」
「ちょっと福田さんっ!」
「あ、ゴメン。でもね、せっかくだから紗耶香の戦いぶりを見るといいよ。勉強になるさ。」
と福田に言われては、吉澤も反論できない。市井の実力は彼女も身をもって知っている。

「そうだね。今の私たちじゃ足手纏いだよね。」
「市井ちゃん、がんばって!」
素直に応援するなつみと真希。
934たぢから:02/09/10 23:19 ID:AeiGcMLu
意外な時に、意外な形で、Mr.ムーンライトに選ばれた紗耶香。
内心嬉しかったし、それでいて不安もある。
だが、今優先すべきことは街を救うことだ。
その為には例え紳士スーツが纏えなくても飛び込んでゆく覚悟はある。
再び得た仲間も、応援してくれている。
これで変身しなければ、今まで以上に後悔することは必至だ。

紗耶香は決めた。代打ではあるが、Mr.ムーンライトになることを。

金色に輝く円… ムーンライトコンパクトを暫く見つめると、
紗耶香はそれを高々と掲げた!
「変身っ! ムーンライトっ!!」
935たぢから:02/09/10 23:20 ID:AeiGcMLu
瞬時にMr.ムーンライトに変身し終えた紗耶香は、正規のムーンライト・ひとみの方を向いた。
「吉澤…」
「な、何ですか…?」
ムーンライトに変身した紗耶香が目の前にいるので、ちょっと複雑な気分である。

「私は以前お前に言ったよね。『“棚からぼた餅”で月光紳士にえらばれた』って。」
「はい。」
「正直、今でもその考えは変わってはいないんだよ。」
「…」
「だけどね、今だから思うけど、お前には『“ぼた餅”を受ける資格があった』と思うんだ。
だから、そのテレビを通して、もっと沢山の“ぼた餅”を手に入れて欲しいと思ってる。
それが、この市井紗耶香が先輩として、Mr.ムーンライトとしてお前に出来ることだよ。」
「市井さん…!」
「じゃ、行って来るよ!」
936たぢから:02/09/10 23:22 ID:AeiGcMLu
数分後、現場にはMr.ムーンライトとなった紗耶香の姿があった。
テレビを通して、ひとみ達はその戦いを見る。

「圭織、矢口、三分で片付けるから、一人も逃がさないように包囲して。」
「分かった!」

紗耶香は圭織たちを通して警官たちに壁を作らせると、暴走族たちと対峙する。

「おい! 月光紳士がたった一人で勝てると思ってるのか!?」
リーダーらしき男が挑発してくる。
しかし紗耶香は完全にムーンライトになっていた。
「勿論。このボクの目の前で勝手な真似はさせないぜ、ベイビー!」
937たぢから:02/09/10 23:24 ID:AeiGcMLu
「ケッ! キザなヤツめ! 野郎ども、殺っちまおうぜ!」
「オーッ!!」

しかし、暴走族たちが動き出す前に、紗耶香の方が動いていた。
(ムーンライトロッドの変形機能は使えないみたいだね。じゃあ…)

紗耶香はステッキモードのまま、ムーンライトロッドを振り回す。
そして男達の懐に入ると、ロッドで鳩尾を突き、次々と崩してゆく。
そのあまりの素早さに、暴走族達は大混乱に陥った。
そしてその隙を突いて、紗耶香はどんどん撃沈させてゆく。

そして三分後…
Mr.ムーンライトは総ての暴走族を叩き伏せた。勿論、誰も殺してはいない。

「よっすぃー、これが紗耶香の強さだよ。」
「す… すごい…」
としか言いようが無かった。
ひとみは改めて、市井紗耶香の強さ、ムーンライトであることの重みを理解したのだった。
938たぢから:02/09/10 23:25 ID:AeiGcMLu
深夜、市警庁舎の屋上で、紗耶香は一人佇んでいた。
右手にはムーンライトロッドの感覚、全身には紳士スーツの装着感の余韻がまだ残っている。

(戦うことがこんなに気持ちよかったなんて… ムーンシャドウの頃には感じなかったな…)
決して好戦的云々ということではない。
初めて正義の紳士として戦うことができた紗耶香の中は、満足感で満たされていたのだ。

それと同時に、彼女は虚無感にも満たされつつあった。
明日になればムーンライトの修復は完了する。
そうなれば自分が月光紳士に変身する機会はない。
正規の装着員・吉澤ひとみが復帰する。
本当はそれでいいのだが…

(なっちや真希… 吉澤と一緒に戦いたかったな…)

一夜限りの月光紳士の活躍は、こうして幕を閉じた。
939たぢから:02/09/11 23:09 ID:dZLRtuFy
翌日、ひとみ達三人は退院した。
尤も、完治には程遠く、未だに湿布や包帯が目立つのだが、
日々ゼティマシティで起こる事件は彼女達を待ってはくれない。
それに、彼女達は月光紳士以前にモーニングタイムズの記者である。
ここしばらく梨華達に負担させていた分をカバーしなければならなかった。

「どうも! 安倍なつみ、復帰させられました!」
「後藤真希、まだ寝足りないです!」
「吉澤ひとみ、これからも精進し続けます!」
940たぢから:02/09/11 23:11 ID:dZLRtuFy
「三人とも、改めてよろしくな!」
新たに仲間に加わった平家みちよ。
今回彼女には月光紳士としても、モーニングタイムズ社としても大いに助かった。

「さぁて仕事や仕事! 後藤となっちは圭坊と取材! よっさんは石川達と資料の整理!」
素早く指示を出す編集長・中澤裕子。

「よっすぃー、早く来て! 資料の山が崩れそうなの!」
いつも通り大変な作業をやらされている石川梨華。

「かっごちゃんです!」
「つっじちゃんです!」
仕事そっちのけで遊んでいるバイトの加護亜衣&辻希美。

「なっち! 後藤! 行くよっ!!」
行動力ナンバー1のカメラマン・保田圭。

今日もモーニングタイムズ社は活気に満ち溢れている。
941たぢから:02/09/11 23:13 ID:dZLRtuFy
その頃、ゼティマ市警地下では…

「市井紗耶香、貴方を秘密捜査官として任命する。」
署長の彩より警察手帳を手渡される紗耶香。複雑な気分だ。
これから彼女は表に出ることは一切無く、再び“影”として動くことになる。
この“秘密捜査官”はその名のごとく、ゼティマ市警内でも存在が秘密にされていることなのだ。

そして…
「紗耶香、再就職祝いよ。」
と、明日香が紗耶香に見せたのは…

「これは… シャドウコンパクト!?」
942たぢから:02/09/11 23:15 ID:dZLRtuFy
「そ。“月影”を改良して、隠密行動に適したスーツにしたわ。ま、変身してみな。」

明日香からコンパクトを受け取ると、紗耶香はそれを前に突き出す。
「変身っ!」
すると、紗耶香の全身が黒いスーツに覆われる。

「そうそう、もうアンタは終末の闇・Mr.ムーンシャドウじゃないよ。」
「え?」
「新しい肩書きはね、再生の闇・Mr.ムーンシャドウさ。」
「再生…?」
「そう。地球からは見えることの無い月の影じゃなくて、やがて光を放つ新月を意味する紳士さ。
まあ、新月は英語で“ニュームーン”なんだけど、言いにくいからシャドウのままにしたわ。」

再生の闇…
一度は道を踏み外したものの、心を入れ替え正義の為に戦う彼女に相応しい二つ名ではないだろうか。
943たぢから:02/09/11 23:16 ID:dZLRtuFy
「アンタの任務は2つ。秘密捜査官として人目につかないよう行動すること。
そして、Mr.ムーンシャドウとして月光三紳士を、文字通り“影”からサポートすることよ。」
「真希たちの… サポート…!」
願ってもない任務内容に、紗耶香は驚き、素直に喜んだ。

「あいつらと… 一緒に戦えるのか…」
「まあ、終末の闇・Mr.ムーンシャドウって前科があるから、表立って一緒に行動は出来ないけどね。」
それでも良かった。
なつみと真希と… そしてひとみと共に戦えるのだから。
こうして市井紗耶香は、空白の2年にようやく終止符を打てるようになる。

そして、一生かけて正義に尽くすことを肝に銘じたのであった。
944たぢから:02/09/11 23:18 ID:dZLRtuFy
犯罪都市ゼティマシティ。

今日もどこかで事件がおきている。

そんな闇の街を照らす三つの光…
Mr.ムーンライト、Mr.ハーフムーン、Mr.クレセント…

そして闇に生き、影から光を支える存在…
Mr.ムーンシャドウ…

彼女達の物語は、ようやく始まろうとしていた。

『こちら矢口。海岸通りで暴走族大量発生! 応援頼む!!』
「よぉし… ごっちん! 安倍さん! 行くよっ!!」
「「「変身っ!!」」」
945たぢから:02/09/11 23:21 ID:dZLRtuFy
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「…と、月光三紳士プラス1が出揃ったらしいわ。」

「潰し合いにはならなかったのね。残念だわ。」

「望みどおり、私たちが相手をしてやるネ。」

「まあ待て。時はいずれ来る。その時こそ、ゼティマシティは地獄と化す…」

…何かが動き出そうとしていた。

To Be Continued――


【怪傑! Mr.Moonlight】第一部 完
946たぢから:02/09/11 23:27 ID:dZLRtuFy
−“あとがき”っぽいもの1−

…というわけで【怪傑! Mr.Moonlight】第一部・完結でございます。

(〜^◇^;)<“第一部”って… まだ続ける気かよっ!
(0^〜^;)<あの… 主役私でしたよね? 
ヽ^∀^ノ<うんにゃ。この私だね。
(●´ー`●)<作者の一推しのなっちだべ。
( ´ Д `)<んぁ。ゴトーだよっ。

配役上は…
主人公(0^〜^)
準主役(●´ー`●)( ´ Д `)
裏主役ヽ^∀^ノ

ですた。
でも、私たぢからの思い入れによって、吉澤の位置が中途半端でしたね。
確かにラブマ三銃士(安倍・後藤・矢口)&市井・福田スキーな男なので、
この5人の出番が、他メンが主役であっても多くなっちゃいます。

ex.
・機動隊長飯田より副長矢口の方が月光三紳士と現場で連絡を取り合ってる
・科学班長福田が医者も兼任している
947AYAYA ◆AYAYA/l6 :02/09/11 23:28 ID:+wqTY1cU
え…1部って
とにかくお疲れさまさま
948たぢから:02/09/11 23:30 ID:dZLRtuFy
−“あとがき”っぽいもの2−

『くノ一娘。物語』に続いて、また中途半端に終わらせてすみません。
いや、本当はこれだけ(市井編)で終わらせるつもりだったんですけど、
書いてる途中で、続編の構想が…

从#~∀~#从<ほう。じゃ、次回はウチ活躍させて。敏腕編集長裕子編っ!!
( `.∀´)<いや。私で。スーパーカメラマン圭編!!
川゜皿 ゜)‖<シュヤク ハ イーダー!
( ` ・ゝ´)<『くノ一娘。物語』で一番出番の無かったこの私で!
(0°−°0)<ここは冷静に考えて、初代娘。の顔であるこの…
@ノハ@
( ‘д‘)<いや、ウチや!
∋oノハヽヽo∈
  ( ´D`) <ののれす!
\( ^▽^;)/ <は… ハッピィ〜↑!!

川o・-・)<あ、そうそう。辻さん・加護さん・麻琴ちゃんしか名前出なかったですけど…
川 ’ー’川 <“歩けば事件に当たる六人組”に私たちもいますよ。
( ・e・)<ニィ。

…これで新旧全員の顔文字出ましたね。
949たぢから:02/09/11 23:31 ID:dZLRtuFy
お知らせがあります。
私たぢからは、私情でしばらくの間ネットが出来なくなります。
次にココに現れるのは、16日(月)の夜になります。
その間に、3作品の感想・意見・ダメ出し等、何でも書き込んでいただければと思います。
このスレが持つ限り、きちんとレスさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
正式なあとがき(言い訳・今後の妄想etc)はその後で。

最大5ヶ月のお付き合い、どうもありがとうございました。
950たぢから:02/09/11 23:41 ID:dZLRtuFy
>948
∬´◇`;∬ <あ、私がわすれられてる〜…

あ、マジで忘れてた。
ごめん、琴美。

∬ T◇T ∬ <小川真琴ですって…
951名無し募集中。。。:02/09/12 23:00 ID:QW2fy6Zs
完結乙です。
「中途で放置」が横行する中、前作・前々作に続き
最後(?)まで書ききったことは素晴らしいです!

では、完結まで待ってた感想を少々。
「スピード感あるなぁ」というか、
「展開早いなぁ」と思ってたのですが、
格闘シーン&セリフ以外の情景・心理模写が
もっとほすぃーかなー、と思いますた。
あんまりやりすぎるのもアレですが…。
個人的には、キャプつばくらい引っ張るのもアリかと。
いや、でも、これがたぢからさんの特徴でもアリ…。
あと第二部(あるのか?)では6人組&ちゃーみーの出番を増(略
952 :02/09/13 14:27 ID:i7Iw5GUV
>∬ T◇T∬ <小川真琴ですって…

∬ ´◇`∬.。oO( ∬ `▽´∬ <小川麻琴だ、コノヤロー!!!)

          |     |/ _t__ \|
          |     |  (( ) )  |
          |      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      ∬´◇` ∬ ・・・ト、ツッコムゲンキスラナイ、キョウコノゴロ・・・
        (∩∩)───────────────
      /
    /

          |     |/ _t__ \|
          |     |  (( ) )  |
          |      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      ∬´◇` ∬ イチニチハンタッテモダレモツッコンデクレナカッタ・・・
        (∩∩)───────────────
      /
    /




953名無し:02/09/14 13:05 ID:M1yJCcuo
作品読ませていただきました。
更新の早さや、勢いの良さ、流れはすごいとおもいます。
ただ昔の熱血漫画並に無理やり押しまくりの展開は微妙です。
後はこれは良いところなのかもしれませんが、戦闘シーンで
入り込むというより眺めるような感じになるのは激しい戦い
であるほど何か足りない気が、続編待ってます。
954 :02/09/15 18:08 ID:A7+Qq+HC
hozem
955 :02/09/16 12:23 ID:5CJU7DJF
ちと「毎回暴走族が暴れる」ってワンパで安易じゃとか思ったけど、そんだけ。
世界観がマッドマックスか北斗の拳なんだろうか。

と保全カキコ
956たぢから:02/09/16 23:02 ID:mZyp3DAF
お久しぶりです。
それでは個別にレスを…

>951 名無し募集中。。。さん

――格闘シーン&セリフ以外の情景・心理模写
「くノ一娘。」からずっと抱えている課題です。
頭で考えていることを、まだまだうまく文章に出来ません。
語彙力・表現力が乏しいのは最大の弱点だと思います。勉強します。

――キャプつばくらい引っ張るのもアリ
アニメの「キャプテン翼」の異常な引っ張りは覚えています。ジャンプ黄金期世代ですから。
確かに、読者の方をじらすくらい展開を引っ張れたらな、とは常々思ってます。

――あと第二部(あるのか?)では6人組&ちゃーみーの出番を増(略
メイン組の割には結構中途半端にしちゃいましたからね。
みんなそれなりに活躍できるよう、考えます。
957たぢから:02/09/16 23:03 ID:mZyp3DAF
>952 さん
――∬ ´◇`∬.。oO( ∬ `▽´∬ <小川麻琴だ、コノヤロー!!!)
やった! ツッコミレスがあった!!
…というのはウソで、素で間違えました。すんません!!
辞書登録しておいたのですが、一発で“麻琴”と出なかったようです。完全なミスでした。
いや、小川は嫌いじゃないですよ。ただ、もうちょっと前に出て欲しいかも。

>953 名無し さん
――ただ昔の熱血漫画並に無理やり押しまくりの展開は微妙です。
ジャンプ黄金期世代なもんで、「聖○士星矢」や「ドラ○ンボール」が体に染み付いているせいかもしれません。
無理に繋げないと先に進めないのは、まだまだヘタレ作家の動かぬ証拠。それを払拭できるよう、精進します。

――戦闘シーンで入り込むというより眺めるような感じになるのは
これは“頭で戦闘シーンを思い浮かべる”→“そのまま文章にしてみる”というシステムのせいですね。
「聖○士星矢」の同人小説や、最近発売された続編小説なんかも参考にしていますが、うまく書けないです。
私の作品から戦闘シーンを抜いてしまうと骨も皮も残らないので、まだまだ頑張らないといけないです。

――続編待ってます
ありがとうございます。
958たぢから:02/09/16 23:05 ID:mZyp3DAF
>955 さん
――ちと「毎回暴走族が暴れる」ってワンパで安易じゃとか思ったけど
犯罪都市ゼティマの設定を活かしきれなかった証拠ですね。
ひったくり程度の軽犯罪(罪に大小はありませんが…)では月光三紳士の出番がなさそうなので、
警察も手に負えないような大規模な暴動ばかり出してしまいました。

――世界観がマッドマックスか北斗の拳なんだろうか
前者は知りませんし、後者はジャンプ黄金期ながら全然覚えていないので答えようが無いのですが、
「バットマン」とか、日本の特撮ヒーローものとかが基になっています。

皆様、貴重なご意見ご感想ありがとうございました。
959たぢから:02/09/16 23:06 ID:mZyp3DAF
そもそも羊板で小説を書こうと思ったのは、月並みですが娘小説に出会ったからです。
最初読んだのはどれだか覚えていませんが、名作と呼ばれるものは一通り読みました。
あとは小説総合スレなどで過去に遡り、様々な作品に出会いました。
同性愛モノが多いことに多少抵抗を感じつつも、次々とこの世界引き込まれ、
そしていつのまにか、ここで小説を書いてみようかな、と思うようになりました。
かなり前に、私は別の板で別コテハンで、娘とは全く関係のない小説を書いていたのですが、
娘小説と出会ったことで、その頃の熱が再び戻ってきました。
960たぢから:02/09/16 23:08 ID:mZyp3DAF
『くノ一娘。物語』
リレー小説「くノ一物語」シリーズに影響を受け、書きました。
超能力忍法に頼らず、実際にあった忍術を紹介するのを前面に押し出していたはずですが、
結果的に「るろうに○心」の剣術を多用してしまったことは、残念です。
パクリの域を出ていないと言われても仕方ありません。
続編はJHの高速道路工事みたいに部分的には出来ていますが、完成までは…

【IRREGULAR HUNTER NATSUMI】
『くノ一娘。物語』創作中に、ふと思いつきで書いてしまいました。
小説は面白くないですが、元ネタ「ロッ○マンX」は名作アクションゲームです。

【怪傑! Mr.Moonright】
タイトルが誤字だった、このスレ唯一のボツ作。
格闘シーン&セリフ以外の情景・心理模写が弱点なので、途中放棄してしまいました。

【怪傑! Mr.Moonlight】
結局戦いだらけになってしまった、【怪傑! Mr.Moonright】の改訂版。
今、これは続編を書けそうなのですが…
961たぢから:02/09/16 23:10 ID:mZyp3DAF
娘小説ビギナーの分際で、独自スレを立ち上げて5ヶ月…
とりあえずここまでやってこれて良かったと思います。
決して名作には程遠い稚拙なものばかりでしたが、
読者の方々のレスがつき、書いていて非常に楽しかったです。
ひとまず私たぢからは創作活動から離れ、一2ちゃんねらー兼娘ファンに戻ります。
また小説を書くかどうかは分かりませんが、書きたいという気持ちは消えません。
羊でも狩でも飼育でも、書ける場所があれば戻ってこようと思っています。
最後も稚拙な文章になってしまいましたが、これをあとがきとさせていただきます。
いままでどうもありがとうございました。
962名無し募集中。。。:02/09/18 01:57 ID:lTHZBfwp
>たぢからさん
お疲れ様、次回作までゆっくり休んで下さい。
こちらもじっくり待たせてもらいます。
963951:02/09/18 20:19 ID:od4H+JnS
長い間お疲れ様でした。
丁寧なレスありがとうごじゃいます。
語彙力・表現力を鍛えるにはやはり
フツーの小説もたくさん読むとよいですよ!
娘。小説には?な表現が多過ぎですから。

いつになるかわかりませんが、またどこかで
たぢからさんの小説が読めれば幸いです。

>>960 JHワラタ
964あみたん:02/10/01 22:14 ID:41NVJjnW
お疲れ様でした。
965名無し募集中。。。:02/10/01 23:18 ID:fRkVVIuX
966名無し募集中。。。:02/10/02 19:27 ID:3t8MqKCv
 
967蝶野☆ ◆OpWVFY1s :02/10/02 19:39 ID:axvl/qFw
test
968na :02/10/05 04:04 ID:ZrA+LTt1
tesr
969 :02/10/06 02:02 ID:88Ryxj7T
   ∧_∧ψ
   (≠ゝ゚)|<ロリカリカリカリ

  _(ι‡ ⊃___
|       ノ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
970 :02/10/07 00:32 ID:2pNkDeUX
test
971 :02/10/21 22:32 ID:2RYeKrWu
保全
972 :02/10/25 21:42 ID:nIWcSGqF
hozen
973加護編作者:02/10/29 17:36 ID:TyVCAcl6
これは懐かしいですね・・・
あの落書きに読者が居て、きちんとした「作品」にしてくれたことを素直に嬉しく思いました。
有難う。
974__:02/10/30 07:39 ID:Up/FXCZp
>973
このスレのもとネタがあるんですか?
スーパーシンザンで、昨日初めて読んだので何がもとになったのかも
サパーリわかりません。
教えて君で、悪いんですがリンク先が生きてたら教えてもらえないでしょうか?

たぢからさんロッ○マン編はまだ読んでないですがくの一、ムーンライト
楽しめました。
アッシ的には、くの一の第二部が読んでみたいです。
いつか公開されることを願ってます。
975974:02/11/01 17:52 ID:5/499Jgj
>>255のリンク見ました
逝ってきます
976 :02/11/04 09:27 ID:p3CwR0ho

          ≡ノノヾヾヽ.┌ O.─┐
         ≡(●´ー`).|  保 ..|
           ≡( 二つ|  全  |
          ≡ ノ ヽノ |___|
    (⌒(⌒)≡ し (_)

977_:02/11/04 17:30 ID:RIKu2w9s
976がsageようとしようが俺はageる。
978 :02/11/08 23:53 ID:85J9dZs+

  ノノノハヽ
  川‘ハ‘)||<謹んで保全させて頂きます。
  ノlヽ▼ノlヽ 
  /lllllヽノlllll]つ
⊂[ノlllll : lllllハ
 ノlllllll人lllllllllゝ
   |  | | ̄
  (_);__)
時は戦国時代…
一つの影が、とある森の奥へと向かっていた。
忍び… 男の忍者ようだ。
やがて彼は森の奥にたたずむ小さな小屋の前に辿り着いた。
そしてそこには、一人の隻腕のくノ一が…
「ようやく見つけたぞ。」
しかし、そのくノ一は動じることも無く、彼を横目で睨みつけている。
「アンタは…」
「言うまでも無いだろう?」
「まぁた小室忍軍か…」
くノ一… 鈴木あみは、やれやれといった感じで男と向き合った。
「アンタも、百人力を誇る私の台頭で、用済みとなってたクチか?」
「そうだ。朝組の安倍とやらに敗れ、小室はお前を追放した。
だが、主軸を失ってしまたことで、再びオレを必要とせざるを得なかった。」
「アンタも復帰初任務が私の抹殺ってわけか。あの人も何が怖いんだか。」
「この戦国の世で勝ち残るには、少しでも不安の芽を摘み取らねばならん。それだけのことだ。」
「まあいいわ。アンタなんて片手でも十分よ。早く済ませたいから、さっさとかかってきな!」
あみは不敵な表情を浮かべ、余裕をアピールする。
「フン! そう言ってられるのも今のうちだぞ!!」
男はそう言うと、五人に分かれて素早くあみを囲んだ。
高速の動きによる残像分身だ。その動きは第一級である。
しかし、それでもあみは構え一つとらない。
「どうしたの? 私は隙だらけなのに、かかってこないの?」
さらに挑発するあみ。
「余裕なのも今のうちだ。いくぞっ!!」
「うっ!」
突如凄まじい風圧があみを襲い、彼女は避ける間も無く背後の大木に激しく叩きつけられた。
「他愛もない。」
そんな彼の目の前で、あみは墓場から甦る死霊のように瓦礫の中から姿を現し、
残虐な笑みを浮かべて立ち上がった。
「フフフ… たった一人を相手に大層な大技ね。結構きいたわ…」
そう言い放つとあみは無数の苦無を男に向けて撃ち放つ。
「オレ相手にそんなメジャーな武器は通用しない!」

カンッ! キンッ!

まるで見えない壁があるがごとく、次々と襲い来る苦無が彼の数メートル手前で落とされてゆく。
(一見動いてないように見えるけど、高速で苦無を叩き落しているみたいね。)
「どうやらその顔は、速さでの格の違いを理解したようだな。」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる男。
「思ったより強いね。 私を越える強さを追い求める執念かしら?」
「フッ… 底辺から光を掴むことなど、最近になってどん底を味わったばかりのお前にはまだ真似出来まい。
まあ、その体でオレの攻撃に耐えられるとは、賛辞に値するといっても過言ではなかろう。」
男は、あくまであみを見下した言い方をする。
「まだその光に到達していないのに、そういう余裕めいた言い方は少々不愉快ね。
でも、なんだったら私への最大の賛辞ってヤツをアンタに教えてあげようか?」
左腕で刀を構えながら男に向かってあみが言い放つ。
「恐れ… 怒り… 怨み… それこそがこの“鬼”鈴木あみ対する最高最大の賛辞よ!!」
「とりあえず憶えておこう。だが、その念をオレに抱かせるには、余りにお前は未熟すぎる!!」
分身の統率の取れた動きから放たれた剣技が、尚もあみの全身を切り刻む。
「まだまだぁっ!!」
だがあみは刀を手に、激しい雨のような攻撃の真っ只中を遮二無二突き進んでくる。
「なるほど… 自他共に“鬼”と認めるわけか。自らの命さえ己の勝利のためには顧みないとは…」
狂気のみで動いてるようなあみに対し、男は素直に感心した。
だが、あくまで任務であり戦いの最中。相手を褒めても意味がない。
「見せてもらうぜ。片腕を失った“鬼”がオレを相手に如何なる戦いぶりを見せてくれるかをな!」
冷笑を浮かべる男に向かい、刀を振り続けるあみだが、素早いガードに封じ込められる。
「切れ目を読んでどうにか一矢を報いようとでも言うのか? 常識的にその作戦は間違ってはいないが、
それが出来るのはオレと同じスピードを持つ忍びのみだ。お前の力ではそんな策は通用せんぞ!!」
刹那、あみの眼前から男の姿が忽然と消える。

ズガッ! ドガッ!

彼女はなすすべも無くその場に倒れこんだ。
「…どうしたの? 今のは手を抜いていたね… なぜ殺さない…」
息も絶え絶えに男に問いかけるあみ。
「今のは確実に私を殺すことは出来たはずだ。何しろ心臓も脳もガラ空きだったのだから。
私が命を助けられたからって感謝するような女じゃない事は判りきっていると思ってたけど…」
「オレの悪い癖だ。弱き者を見るとそれが例え元・鬼であれ、つい惜しみを感じてしまう。
本当はもう少し遊びたいところだが… 一応仕事なのでな、そろそろ往生してもらうぞ。」
あみの傍らに歩み寄り、見た目より大きく感じる無骨な拳を彼女に向ける男。
そんな彼に向かい冷笑を浮かべると、あみは恐ろしく冷たい声で静かに言い放った。
「馬鹿ね。戦いを楽しむってことは、完全なる勝利を約束された者だけにしか許されない物なのに。
せっかく私を殺す数少ない機会を得ていたはずなのに、フイにしちゃうなんてさ。」
「言っている意味がよく判らんな。貴様の命など文字通り風前の灯に等しいのに、少しは抗ったらどうだ?
尤も、もはやいくら足掻いても無駄なことではあるがな。」
「ならばはっきり言ってやるよ。アンタじゃ役不足だと言ってるんだ。
この数多くの修羅場を目の当たりにしてきた真の“鬼”の前ではね。
アンタにこの私を倒す資格など、少しもありはしないのさ!!」
そう言って嘲り笑うあみに対し、怪訝な表情を浮かべる男。
「フ… どうやらこの前の敗北にすっかり正気をなくしてしまってるようだな。
まあオレにとっては関係ない。どんな状態であろうとお前を倒し、最強の勲章を得るまでだ!!」
全身の力を漲らせた豪腕を、あみの頭上に向け放とうとしたその瞬間だった。

ズバッ!!

まさに電光石火の抜刀…
左腕から放たれた神速の一撃が、一度に男の胴を真っ二つに切り裂き、
彼は何が起こったのかも判らずただ呆然とした表情のままその場に崩れ落ちた。
「この鈴木あみともあろう者が、ただ負けてばかりいただけと思ったの?
私には究極の“修忍の法”があることを忘れたの? 戦いの中で成長するんだよ!
そして、“敗北”ってのは単に勝負に敗れることを指すわけじゃないんだよ。
つまりアンタのように、戦いに敗れる事で何も得るものを持たない愚者に与えられるものこそが、
真の意味での“敗北”と言う烙印なのさ! 分ったか!?」
「ぐう… そ… そんな馬鹿な… 左腕しか動かぬ貴様にこのオレが…」
己の敗北がよほど信じられないのか、屈辱と怒りに身を震わせ血走った眼であみを凝視する男。
そんな彼を見据え、愉快そうにあみは言い放った。
「そうだ… 恨め… 憎め… そしてあの世に行っても恐怖するんだ!!
この私を… 世界で唯一無二の“鬼”であるこの鈴木あみをねっ!!」
あみは笑っていた。
こらえようの無い興奮が… 歓喜が彼女の中を駆け巡っていく。
かつてあみが住んでいた世界の中では余りに強過ぎた。
強過ぎたが故に自分より強い者達と戦える機会に恵まれなかったのだ。
だが今自分が立っている場所は別だ。目の前にはここには自分より強き者達が存在する。
安倍を… 自分をどん底まで叩き落したくノ一倒すには、ここから這い上がらなくてはならないのだ。
(喰らってやるよ。アンタらだけではない… 私の頭上に存在する全ての者をね!!)
「待ってろぉ… 待ってろよ安倍ぇ! アハハハハハハハハ……!!!」
988たぢから:02/11/10 00:05 ID:x2Hp1EGK
皆様、お久しぶりです。長らくの保全ありがとうございます。
感謝の気持ちとして、現在チンタラ創作中の「くノ一娘。」続編より、
最強くノ一・鈴木あみの番外編をアップしました。
尚、ゲストの男忍者は誰でもいいので、適当に当てはめちゃって下さい。

しばらくこのスレから離れているうちに、現実世界の娘。はどんどん変わってますね。
「ごまっとう」って…
989たぢから
>加護編作者さん
まさか、あの「くノ一物語」の作者さんが来られるとは!
あなたの加護のキャラ好きでした。結構影響されてます。

>974さん
続編は気長〜に待っていてください。

参考までに…
リレー小説「くノ一物語」シリーズ
http://www.interq.or.jp/yellow/hiuga/novel/9no1.html
http://www.interq.or.jp/yellow/hiuga/novel/9no1_2.html
http://www.interq.or.jp/yellow/hiuga/novel/9no1_3.html
http://teri.2ch.net/mor2/kako/988/988972375.html
http://teri.2ch.net/mor2/kako/989/989728648.html

「紗耶香伝」
http://mentai.2ch.net/morning/kako/960/960632887.html
http://saki.2ch.net/morning/kako/963/963928040.html