小説 『K.M.D 〜加護パシリ日記〜』

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89L.O.D
朝の光が漏れる電車に乗って、会いに行く。
今は何もしゃべらない貴方に。
貴方しかいないから。
貴方にしか話せないから。
貴方の側にいたいから。

色褪せた緑色のシート。
加護は人の少ない車両を選んで、座る。
学校はさぼった。
行きたくなかったから。
静かな教室で繰り返される公式より
今は貴方に会いたい。

鞄から携帯を取り出す。
あの子にはこの事をしゃべろう。
『おはよう』
短く打ったメールを送信する。
『おはよ、かごちゃん』
『今からりかちゃんとこ行ってくる』
『もう一ヶ月だね』
『うん』
『りかちゃんに会いたい?』
『会いたいよ』
『きっと会えるから』
『ありがとぅー。』
『授業始まるや、またメールちょうだい』
『うん、ごめんなぁー。愛してるよ、あやや』

無表情で交わされる言葉。
抑揚のない文字だけの会話。
なのに、松浦から返ってきた返事は
どれも加護にとって力強く感じる。
ギュッと携帯を握り締める。
石川の病院へはもうちょっと。






90L.O.D:02/04/22 01:47 ID:xUrUn+fN
ツンと鼻を付く雌臭で目を覚ました吉澤ひとみは
隣に眠る後藤や革のソファに横たわる保田を起こさぬよう
ベッドから抜け出して、リビングに行く。
安倍が寝てるところに辻が潜り込んだらしく
2人は一緒に寝ている。
「矢口さん?」
矢口の姿がない。
トイレや台所を覗くが、どこにもいない。
テーブルに書き置きを見つけ、手にする。
「用事があるので、、実家に戻る。
 その後、仕事に行くから
 みんなで朝ご飯食べて、、、、か
 おはようのキスしたかったのに」
残念そうにつぶやくと
吉澤は台所に行き、冷蔵庫を覗く。
100%のオレンジジュースを見つけ
グラスに注ぐと、一気にそれを飲み干す。
少し目が覚めた。
何度、この場所でこうして朝を迎えただろう。
少しずつ仲間が増えた。
厭らしい声を上げ、鳴いてみせる飯田や
物を入れてと喘ぐ保田
小さな身体を震わせ感じる辻
美しい太股の内側を濡らす後藤に
時に優しく、時に厳しく苛める安倍
快楽という鎖でつながれた関係。
その時、床に何かが落ちてるのを見つけて、拾った。
「あ・・・・・・」
石川に目隠しをした時につかったもの。
言われるまま、石川の乱れる姿を写真に納めた。
そして、石川は飛び下りた。
それを聞いた時、矢口の事が怖かったが
だけど、もう離れる事は出来なかった。
目をつぶっても、眠っていても
頭の中には矢口の事だけ
「矢口さん・・・・・・」
会えるのは、あと5時間後の事。
5時間後会ったら、何をしてもらおう。
そんな事の繰り返し・・・・・・

91L.O.D:02/04/22 01:49 ID:xUrUn+fN
薄手のピンクのパジャマに身を包んだ石川は
言葉を失った人形のように今日もまた
天井をずっと見つめていた。
「・・・・・・」
朝早く開いていた花屋で自分が買えるだけの花束を
買ってきた加護はしばらく立ち尽くし
そんな石川をジッと見ていた。
「綺麗やなぁ」
つぶやいてから、その同じ一言を
いつかどこかで石川に言った事があるような気がして
それがいつだったか思い出す。
確か、それは、石川が加護の家に遊びに来た時。
もうお風呂にも入って、寝ようという時の事。
互いに寝巻に着替えてたのだが
加護はチラッと石川の方を見たら
なんとも形容しがたい
どう見ても、こっちを挑発してるとしか
思えないような、シースルーのピンクのネグリジェ。
「エロッ!」
「えぇ〜?そう?」
「あかんて、それは」
「可愛くない?」
「可愛いちゅーか、エロいわ」
「エッチかなぁ?」
頬を染めて、照れる石川。
薄桃色の布から透けてみえるその身体。
滑らかなボディラインに加護は
目を奪われて、つぶやいた。
「綺麗やなぁ」
「?」
「ん」
「寝ようか」
「いや、そんなん着てるのとは寝れない」
「なんでよぅー」
「襲いたくなるもんーーー」
布団に入ろうとしてた石川の上に飛び乗る。
キャッキャッとはしゃぎながら
夜が更けていく。
92L.O.D:02/04/22 01:50 ID:xUrUn+fN
加護は石川には甘えれた。
喧嘩もしたけど、モーニング娘。の中で石川だけは
加護を対等に見てくれた。
家族が一緒じゃなくて寂しい時
仕事に失敗した時
いい子でいるのが疲れた時
石川は側にいた。
石川がいたから救われた。
「水、変えな・・・・・・っ!」
ベッドの脇に置かれた花瓶を手に歩き出そうとしたその時
手が滑って、花瓶が床に落ち、粉々にくだける。
「あぁっ!、、、痛っ」
あわてて、拾い集めようとして
欠片で人さし指の先を切る。
溢れ出す真っ赤な血。
紙で切り裂かれた刺すような痛みではなく
じんわりとした鈍痛が指の感覚を奪う。
「手、見せて?」
「!!?」
背後からかけられた声に驚き
加護は振り向く。
「り、梨華ちゃん!!?」
「ほら、絆創膏張ってあげるから」
「梨華ちゃん!梨華ちゃん!!」
傷を見ようと加護の手を取った石川の手を
さらに上から握りしめてブンブンと振る。
目からは涙が流れ出す。
「もー、あいぼん、騒いじゃだめだよ」
「どうして!騙してたの!?」
「ううん、、、たまに意識はあったんだけど
 そういう時に限って、1人だったから、、、」
「そっか、、、大丈夫!?痛くないん?」
石川の表情が少し翳る。
「あいぼん、今から言う事をよく聞いて・・・・・・」
「う、うん・・・・・・」
「全部ね、矢口さんのせいなの・・・・」
「矢口さんの、、、?」
93L.O.D:02/04/22 01:51 ID:xUrUn+fN
二ヶ月前、あるオフの日。
突然、吉澤に呼び出されて
2人がよく行くカフェで待ち合わせした。
帽子を目深にかぶっても
すぐに吉澤を見つけ
向いの席に座る。
メニューを手にしようとする手を止められ
サングラスの向うに見える
吉澤の目がいつになく真剣な事に気付く。
石川は、吉澤の真剣な目が好きだった。
まっすぐに見つめる。
「梨華ちゃん、私ね」
「ん?」
「梨華ちゃんが欲しいんだ」
「へ、、、?」
「いつも側にいたいんだ」
「え、どうし、、、」
ナチュラルウッドのテーブルを乗り越え
薄くグロスを塗った唇を塞ぐ口。
甘ったるい苺みるくの味。
「付き合ってくれるよね?」
「・・・・・うん」
断る理由なんてなかった。
合宿の時から何度もその類い稀なる美しさを持つ
吉澤が気になっていたんだから。

その後は、その時の苺みるくのキスのように
甘い甘い日々だった。
仕事が終わって、互いに時間が空いてる時は
食事も共にして、夜は抱き合いながら眠る。
学校がある時は、石川が食事を作って
吉澤はそれを食べて、学校に行く。
一通の封筒と一本の電話がそれを壊した。
94L.O.D:02/04/22 01:52 ID:xUrUn+fN
吉澤の影が散らつくこの部屋を消したかった。
ソファを切り刻んでも
テレビを叩き壊しても
そこに吉澤の匂いが染み付いてる
なんでだろう
消えない
消してしまいたいのに。
なんでだろう
消えない
消えてしまいたい
床に座り込み、泣きながら
うずくまり、もうどれぐらいの時間が経っただろう。
そこへかかってきた矢口からの電話。
「やぐ、、、ちさん、、、」
『あぁ、梨華ちゃん、届いた?』
「え、、、」
『私からのプレゼント』
「やぐち、、さ、、んから?」
『ごめんねぇ、よっすぃはさ
 あんたなんかこれっぽちも好きじゃないよ』
「そ、、んなぁ、、、、、」
『あぁあ、、、、』
電話の向こうに聞こえるのは、何度も聞いた
吉澤ひとみの喘ぎ声。
頭が真っ白になっていくのが分かった。
『矢口さんがぁ、、、、好きですぅ』
『分かった?』
「いやぁあああああああああああああ!」

  ガシャァアアン!

窓ガラスが砕け散り、床に散乱した。
液晶も壊れた携帯電話。
薄れそうになる意識で石川は手を伸ばす。
後藤ならこんな嘘、否定してくれそうだから。
最後の望みへと、手を伸ばす。
「っ・・・・・・」
携帯を手にすると、ガラスの欠片も一緒に握ってしまって
手からドクドクと血が流れていく。
鮮やかな紅色の血は真っ白なカーペットを汚す。
『どうし・・・・・・』
「ごっちん・・・・・」
『梨華ちゃん?』
「助けて・・・・」
『ど、どうしたの?』
『よっすぃが・・・・・・』
95L.O.D:02/04/22 01:53 ID:xUrUn+fN

「そうなんか、、、、」
「きっとね、、矢口さんがこんな事するにはわけがあるの」
加護の顔を見る石川の目に涙はない。
「わけ?」
「矢口さんはモーニング娘。をどうにかするつもりじゃ」
「どうにかって・・・・・・」
「きっと私だけじゃない、よっすぃだけじゃない
 みんな、矢口さんに何かされてるんだよ」
加護は思い出す。
後藤と飯田が楽屋で性行為をしてた事
そして、矢口の言葉。
「うち、どないしたらええ?
 まだなんにもされてへん!」
「中澤さんのとこに行くの・・・・・
 中澤さんならきっと・・・・・・」
「梨華ちゃんは大丈夫?」
「私は、ほら病院の中にいるから、ね
 あいぼん、早く行って!」
「うんっ!」
病室から駆け出していく加護の後ろ姿。
遠ざかる足音を聞いて
石川は枕の中から携帯を取り出して
誰かにメールを打つ。
『終刻』
96L.O.D:02/04/22 01:55 ID:xUrUn+fN
「ま、、、松浦」
「ふっ、、、、んぅ、、、ふあ」
制服姿の松浦亜弥はレコーディングスタジオのトイレで
つんくを立たせたまま、舌奉仕していた。
「あかん、、、」
腰を引こうとするも、なお強くストロークする。
口の中に放出される熱い精液。
くちゃくちゃと噛んでから、飲み込んでしまう。
「中澤さんの事はうまくいった?」
「あぁ、、、松浦の言う通りに、、、」
「これで失敗したら、もう知らないから」
「そんなん言うなや、俺、プロデューサーやで」
「雇われじゃないですかぁ」
個室から出てきた松浦は振り向いて、そう言う。
どこでつけたのか、中学生とは思えぬ性戯で
事務所社長を織り成し、業界の人間に取り込み
作り上げられていく松浦亜弥の世界。
つんくでさえも彼女にとっては駒の1つ。
鞄で携帯が鳴っている事に気付く。
「あ、梨華ちゃんからだぁ」
浮かべる笑みはあどけない少女の笑み。
だけど、その本性は、えげつない悪魔。
97L.O.D:02/04/22 01:56 ID:xUrUn+fN
背伸びして、呼び鈴を鳴らす。
中澤の家は比較的近くて、すぐに着いた。
『・・・・・・かご?』
ものすごい寝起きっぽい声が聞こえる。
「あのっ、、、開けてください」
『待ってな』
ドアの向こうからこちらに近付いてくる音が漏れる。
そっと開けられたドアから覗く中澤の顔
「中澤さぁあんっ」
「ちょ、、加護、どないして、、、、
 とりあえず中入りなさいっ」

薫り高いコーヒーの匂い。
テーブルの下にはビールの缶が
何本も転がっている。
「で、こんな時間にどうしたん」
「あのですね・・・・・・」
加護の口から語られるのは
中澤にとっては残酷な真実。
話が進めば進むほど
中澤はゆっくりと全ての中心を掴み出す。
セーラムの火が終わりまで灰に変えた頃
ポツリとつぶやく。
「全部、うちの責任や」
「中澤さん・・・・・・」
「矢口を変えたのはきっと、うちや」
木製のグラス棚の中に置かれた写真立てを取り出す指。
中に入ってるのは、矢口と中澤の写真。
矢口の字でいたずら書きがしてあって
『ダイスキユウコ』とパールイエローの文字。
中澤はそれを抱き締め、振り向く。
「加護」
「はい」
「石川のところに行こう、あいつにも謝ってからや」
98L.O.D:02/04/22 01:57 ID:xUrUn+fN
2人を乗せたタクシーは
朝のラッシュを過ぎた道を走る。
加護の小さな手を握る中澤の指は
鮮やかに彩られていて
沈みゆく気持ちを少しだけ引き上げてくれる。
「いつから付き合ってたんかなぁ」
「・・・・・・」
「でもな、ほんまにほんまに好きだった」
「・・・・・・」
「もっと、、、ちゃんとしたったらよかったんかな」
「・・・・・・」
加護は無言で、手を握り返す。
中澤の不安な気持ちがそこから伝わってくる。
「あぁ、ごめんな、うちの方がしっかりせなあかんよな」
首を横に振る。
その後、2人は黙ったまま、病院へ向かった。
99L.O.D:02/04/22 01:58 ID:xUrUn+fN
矢口真里は、真っ赤な薔薇の花束を抱えて
無機質な廊下を歩いていく。
最も奥の個室。
ドアにかけられた石川梨華という名札を確認する。
ドアを開けると、そこには天井を見つめたままの少女。
「石川・・・・・・」
手を取り、花束を渡す。
「うちね、もう終わりにしようと思うんだ」
返事は返ってこない。
わざと大きな声で話す。
「みんなを手に入れたはずなのに空しかった。
 ぽっかり空いた穴は埋めれなかった。
 石川をこんなにしてまで
 私はなにをしたかったんだろうね」
「矢口、あんた・・・・・」
「裕ちゃん、、、いたんだ」
振り返らない。
「加護から全部聞いた、、、あんた、なにを、、、」
「裕ちゃんが悪いんだよ?矢口を置いていくから」
「なんで、メンバーに手を出したんや、正々堂々と、、、、」

100L.O.D:02/04/22 01:59 ID:xUrUn+fN

  バッ!!

矢口の手には拳銃が握られてる。
さすがにそれを見て、中澤も怯んだらしく
言葉がぷつりと切れた。
「正々堂々としたよ。」
「・・・・・・」
「一緒に死のうよ、もうやだよ・・・・・・」
「矢口・・・・・・」
「最後に真里って呼んでよぉお!!」
有らん限りの声で叫んだ。
感情が爆発した。
だけど、中澤の腕はそれすらも抱き締め、包み込む。
「ごめんな・・・・・」
「ゆ、、う、、、ちゃ、、、、」
「ごめんな、真里。あんな事して。
 真里が殺したいんなら殺せばええ。
 好きにしてええよ、、、ほら」
矢口の手を取り、冷たい銃口を自らの胸へ押し付ける中澤。
矢口の奥歯がガチガチと音を立てる。
見るからに手が震えているのが分かる。
中澤はそれでも優しく微笑んでいた。
あの、2人の日々と同じ笑顔だった。
「うわぁあああああああんんんっ!!」
「真里っ!!」
力なく崩れ落ちた矢口の身体を
中澤は受け止めて、強く強く抱く。
「はい、かっとぉ〜」
まるでそんな緊張感を打ち砕くように
声をあげたのは、松浦亜弥。
病室のドアのところに加護の肩を抱いて、立っていた。
「松浦、、、?」
「はぁ〜い、中澤さん、矢口さん、臭いお芝居御苦労さん。
 とっても感動しましたよぉ〜」
101L.O.D:02/04/22 02:00 ID:xUrUn+fN
「な、、、なんやねん、お前、、、、」
「分かってないんだねー、可哀想ーーー」
松浦の腕の中の加護は不思議そうに松浦を見ている。
「全部ねー、私とぉ、梨華ちゃんが仕組んだ事だったんです」
「どういう、、、、意味や?」
「ルビンの盃って分かります?」
「見方を変えると、別な絵が見える・・・・・・」
「そうですねー、中澤さん、心理学の本、誰からもらいました?」
「つんくさん、、、」
「それも松浦があげたものなんですよぉ」
「松浦、、、あんた、なにをしたんや・・・・・」
少しずつ、彼女のほほえみの裏に見える真実が露になる。
「私がトップアイドルになるのに、娘。が邪魔だったんで
 ちょこちょこっと心を操らせてもらいましたー」
「操るって、、、そんな事」
「現に今、中澤さんはそれがいつ行われたかも知らない」
大きく見開かれる目。
「中澤さんは、LOVEマシーンの後、娘。の脱退を考え始める。
 私はもうその少し後にはつんくさんに会ってるんですねぇ。
 そして、私はまずつんくさんを操った。
 次に、つんくさんを使って、中澤さんをやめさせた。
 中澤さんはつんくさんの言う通りにせざるをえない。
 矢口さんとも別れさせた。
 そこで、私は、矢口さんに接触して、洗脳したんですよ」
まるで彼氏との甘いデートの思い出話でもするように
浮き浮きと語る松浦に向けられたのは
中澤の憎しみの視線。
「でもね、バレたらやだから、梨華ちゃんを洗脳したんです」
松浦の手は石川の頬を撫でる。
その手が目の上にかざされて上下に振られると、
石川はうっとりとした表情で松浦を見る。
102L.O.D:02/04/22 02:02 ID:xUrUn+fN
「私の手ほどきを受けた梨華ちゃんが
 矢口さんに施した洗脳は『娘。を壊せ』
 中澤さんへの思いを娘。を壊す事に向けたんです。
 いやぁー、よっぽど憎んでたんでしょうね。
 保田さんなんて普通のセックス出来ない身体になっちゃいましたよ」
石川がベッドから降り、床に転がった拳銃を手にする。
「石川、、、、お前、、、や、、、め」
なんのためらいもなく引かれた引き金。
「あ、、、あぁ、、、、、」
「矢口、、、、?」
背中から腹部に向けて、一瞬の事だった。
乾いた銃声。
真っ白なブラウスがみるみるうちに赤く染まる。
好んで履いていたデニムのミニスカートにも血が滲んでいく。
タイルの床にも流れ出す、鮮血。
真っ赤な血が零れていく。
「これで、モーニング娘。は使い物にならなくなったですね〜」
吐き捨てるようにつぶやく松浦。
ドアへと向かって、歩いていくその背中に
中澤が問いかける。
「お前、こんな事して何がしたかったんや、、、、」
「だから、言ったじゃないですかぁー
 ちゃんと聞いてくださいよぉ。」
震える矢口の身体を抱きかかえる中澤の顔を見て
松浦はこれほどないくらいの笑顔を見せる。
「私がトップアイドルになるんですよー
 それで、やっぱり1人ってのも寂しいんでー
 梨華ちゃんとぉ加護ちゃんと一緒にやろうかなって」
「え・・・・・・」
何も知らない加護は石川と松浦の顔、それに中澤の顔を見る。
隣に立つ石川が膝を折り、抱き締めてきて、耳元で囁く。
「一緒になろ・・・・・・?」
103L.O.D:02/04/22 02:03 ID:xUrUn+fN

加護亜依にとって
モーニング娘。とはなんだったのだろうか。

加護亜依にとって
仲間とはなんだったのだろうか。

カゴアイニトッテ アイトハ・・・・・・・・・・・・

ダレニアイサレテタ?

加護は、小さくうなづいた。
石川が加護の手を引いて、病室を出る。
松浦はドアの手前で振り返り
深々と頭を下げる。
「じゃ、中澤さん、矢口さん、さようならでした」
「てめぇええええええええええええ!!!」
「・・・・・・」
閉まるドア。
中澤の手には溢れ出す矢口の赤い、赤い、真っ赤な血・・・・・・

104L.O.D:02/04/22 02:04 ID:xUrUn+fN
epilogue

カーステレオから流れるAMラジオ

『それではお聞きください、デビューシングルです
 衝撃!乙女のサンバカーニバル!』
軽快なラテンのリズムにシンセサイザーの音と
派手な打ち込みが重なり、ハッピートランスな世界を
これでもかというくらいに響かせる。
さらに、そこに加護のロリータキッチュな声と
石川のハイトーンアイドルボイス
松浦の表情のはっきりとした唄が重なっていく。
「・・・・・・」
運転席を倒して、それを聞いていた中澤は身体を起こし
セーラムに火をつけた。
紫色の煙は少しだけ開けられた窓から流れ出す。
「次は、どこ行こうか」
答えはない。
助手席に座る彼女は全ての罪と共に
言葉と記憶を失ったから。
「・・・・・・真里」
窓にもたれかかって眠る顔。
中澤は席を戻し、エンジンをかける。
仕事はやめた。
矢口と一緒にいる事を選んだ。
失った物を取り戻し
失った時間を取り戻すために。
ゆっくりとアクセルを踏めば、
車は動き出す。
そう、まるで深い闇から逃れるように・・・・・・

「かごちゃん、苺、食べる?」
松浦が差し出した手の平には赤く熟した苺。
1つ手にして、口にすると
甘酸っぱい味がした。
「美味しいでしょ?」
「うん」


END