【伝説】保田圭がそばにいる生活【再び】

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347 ◆CtFairyOo.
あいつはいつでも突然現れる。
そうあの日もそうだった。

冬の冷たい雨が降っていた夜。
あいつは俺の部屋へやってきた。
ショートケーキ2つをオミヤゲにしてやってきた。
きょうはあいつの誕生日。
本来なら、いっしょに過ごすべき相手が違う。
「コンバンワァ、いっしょにケーキ食べようぜぇ」
あいつがやってくるとこの部屋は一気に明るくなるようだ。
けど、あいつが俺のとこへやってくる理由なんてわかりきっている。
どうせ彼氏とケンカでもしたんだろう?
よりによってこんな日に…
俺はいつでもあいつの慰安に使われているのだ。
でも、それで悪い気はしない。
むしろあいつが俺を慕ってくれていることがうれしい。
誰か他の男と付き合っていても
俺のことだけは忘れないでいてくれる。
ピアス、大酒、いろいろ変わってきたあいつだけど、
それだけは昔から全く変わらない。
もしかしたら、俺にも可能性があるんじゃないか?
そう思わせてくれるのだから…
348 ◆CtFairyOo. :02/12/06 22:27 ID:T25aMukA
いや、そんなことがありえないことぐらい知っている。
あいつは俺の気持ちなんかとっくにお見通し。
言いたくても言い出せないことを十分知っている。
あいつは、俺が言い出せないことも知っている。
もしも、俺がそのことを切り出そうとしても、
あいつは指と唇をクロスさせて『言わなくていいよ』
そう伝えてくるのだろう。

あいつはあの男のことにはまったく触れず、
TVのこと、仕事のことを俺にまくし立てながらケーキを食べている。
目の前には、いつもより腫れぼったい目。
ついさっきまで泣いていたことを示している。
俺はそのことを問いただせない。
そんなことをしたら、手の中にいる小鳥が逃げてしまいそうで、
俺にかけられたとびっきりの魔法が解けてしまいそうで、
俺は黙って彼女を見ているしかなかった。
349 ◆CtFairyOo. :02/12/06 22:28 ID:T25aMukA
「ありがとう」突然、あいつは今までとは違う調子で切り出した。
あっけにとられる俺にかまわずあいつは続ける。
「何も聴かないでくれるのがうれしいよ」
「あなたとはいつまでも、この信頼関係でいたいから」
…残酷な宣告だ。
俺にはこれ以上の関係にはなりたくないと断定しているのだから。
ある種、死刑判決と変わらないだろう。
だが、それを納得させる力があいつにはある。
俺はあの男に劣っているとは思わないが、あいつにだけはかなわない。
あいつとケンカもさせてもらえない関係だと言うことに、
不満がないわけではないが、
そういうわけであいつと誕生日を一緒に過ごせたのだとすると、
それもよしとしなければならないのかもしれないのだろう。
他のヤツにこんなことをされたら
トラウマの傷になってしまうかもしれない。
だけど、あいつとの関係の中でそれは、
心地よい痛みとして存在していた。
そんなことをできるのはあいつだけだ。
そう、だからこそ、あいつのことを好きになったのだから。
350 ◆CtFairyOo.
「もう行くね」
あいつは出て行く。
12月6日があと1時間で終わろうとする頃、
あいつは出て行く。
何も聴かなくてもわかっている。
あいつは残り少ない誕生日の残り時間を
あの男とを過ごすために出て行く。
止めることなんかできやしない。
12月6日の幸運を分けてくれた天使に向かって、
そんなことはできやしない。
あいつは誰も傷つけてはいないのだから。
俺は残酷な幸せを味わいながらあいつを見送る。
一言も声をかけられないまま。

保田圭
誕生日おめでとう



No.21