煙草の煙で、ふとあいつのことを思い出した。
異様なくらい煙草の煙に拒否反応を示すような女だった。
いつもは明るく闊達なあいつが
「やめて、煙草はのどに悪いから…」
気怠い厭世の表情を浮かべながらつぶやいた。
なにかギャグで応対するのもはばかられる雰囲気。
「どうせ出番少ないんだろう」
……そんなこと言えやしなかった。
煙草の煙が空気そのものを重くしてしまったみたいだった。
大人っぽいの表情の中から垣間見えるイノセンス。
それがあいつの魅力の一端だった。
少なくとも俺にとっては100%の無邪気さよりも何倍も魅力的。
しかし、あの煙草が絡んだ時の表情。
あれは、あの表情の何処を解析しても大人にしか見えなかった。
むしろ、人生をあきらめかけた老年のものと言えたかもしれない。
とは言え、そこには改めてあいつの魅力を再確認した。
いかにも悩んでいる風なあいつの表情に、大人100%なあいつに、
不覚にも見とれてしまったものだ。
そして二人が別れたあの日。
あいつは煙草を吸って俺を待っていた。
その日会話は一つもなかった。
だが、それ以上の言葉をあいつの煙草が語っていた。
あいつはすべてを捨ててしまった。
すべてをあきらめてしまったいたのだ。
そんなあいつの横顔。
すごくきれいだった。
それが保田
No.19