あいつはやにわにメグスリを引っ張り出してきた。
それを膝の上にのせ。
「よぉ〜っし、準備OK!」
ふたりでビデオを見ようとした。
キャンペーン価格で買ったDVD『ユー・ガッタ・メール』
暗く照明を落とした部屋にラヴソファ。
お手軽映画鑑賞を洒落込もうとしたわけだ。
あいつは缶チューハイにアタリメ、チーカマと、
そしてメグスリを用意し、さっきのセリフをのたまわったわけだ。
ポカンと口を開けてあいつを見た。
「いやだなぁ、こんな感動もの恋愛映画を見てナミダする女のほうがかわいいでしょう?」
あいつは照れくさそうに言う。
「こいつを使えば、いつでも涙もろい女になれるのさ!」
自慢気に言うあいつに、俺は黙って微笑んだ。
俺は知っている。
あいつは泣いている女を演出するためにメグスリを使うんじゃなくて、
泣いている自分を隠すためにメグスリを使うことを。
それが保田。