吉澤消防

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102ブラドック
数ヵ月後
 ヨーロッパのリヒテンシュタイン大公国。
小さな山間の王国であり、観光だけで成り立っている国だ。
そこの貸し別荘に、三人の男女の姿があった。

「わかるのかよ。ドイツ語なんて」

矢口は新聞を広げている中澤に言った。
中澤は苦笑しながら矢口を見上げる。

「けど、日本語新聞が来るんは一週間遅れやで・・・・・・目だってきたな」

中澤が嬉しそうに言うと、矢口は恥ずかしそうに自分の腹を撫でた。
妊娠五ヶ月。矢口は柊の子供を宿している。

 柊の虎の子だった最終手段。それは戸籍の抹消だった。
警察上層部とUFAの癒着の証拠を得ていた柊は、
警視庁監察局の人間と親しくなっていたのである。
それで、今回の最終手段では、彼等の力を借りたのだった。
スラッグ弾とはいえ、胸を撃たれた柊は重傷だったし、
矢口と中澤は肩甲骨にヒビが入っていたのである。
人形を使っての葬儀を終えると、三人は自由の身となった。
今後、捜査が進められて行くと、UFAが殺人でも告発され、
遺族に損害賠償と慰謝料の示談交渉が始まるだろう。
これで中澤と矢口の遺族は困らない。

「おーい、英国からの旅行者から新聞をもらったぞ」

柊は仕事着である野戦服のまま帰ってくると、持って来た新聞をテーブルに広げた。
『元モー娘。全面勝訴』『新ユニットに、飯田・安倍・保田・市井・福田』
『UFA、脱税疑惑で強制捜査か!疑惑のつんく♂氏』こんな見出しが目につく。

「すげえな。一人当たり八千九百万の支払い命令だってよ」
「傭兵隊の給料の何倍なの?」
「別にええやんか。こうして三人が暮らせるんやから」
「三人じゃないよ。もうじき四人だもんねー」

矢口はまだ見ぬ我が子に話しかけた。
103ブラドック:02/04/25 17:42 ID:GyYZkzSD
     ◇       ◇        ◇


・・・・・・・・・あの男は?
  
 ドイツ=ハンブルグ発ロイター通信ベルリン支局によると、
日本時間、今日未明、極右翼派ネオ・ナチと警官隊が衝突。多数の重軽傷者が出た。
逮捕されたネオ・ナチメンバーの中には、小太りの日本人も含まれており、
警視庁はドイツ大使館を通じて、日本人の身柄の引渡しを要求。
これに対し、駐日ドイツ大使館のハイネケン特別報道官補代理は記者団の質問に対し、
「身柄の引渡しは困難。関税引き下げに応じれば、交渉の余地はある」
と語り、事実上の引渡し拒否を発表した。
                 
     ・・・・・・・・・おわり・・・・・・・・・・・・