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決勝戦:
本戦に臨みし者達。
紺野あさ美。高橋愛。飯田圭織。市井紗耶香。矢口真里。松浦亜弥。浜崎あゆみ。
後藤真希。ソニン。吉澤ひとみ。石川梨華。福田明日香。加護亜依。鈴木あみ。
惜しくも本戦出場を逃した者達。
小川真琴。保田圭。りんね。藤本美貴。あさみ。アヤカ。中澤裕子。
柴田あゆみ。ミカ。ダニエル。石井リカ。里田舞。新垣里沙。石黒彩。
リザーバーとして挑みし者達。
宇多田ヒカル。MIYU。MIZUHO。TAKAYO。MAIKO。上戸彩。AKINA。BOA。
その他この何十倍もの数の格闘士達の屍を越えて
今二人の娘がこの遥かなる頂きへと手を掛けた。
安倍なつみ。辻希美。
さぁ決勝戦だ!
捨てられた子犬みたいな眼をして、どこまでも私の後を追っかけてきた。
「悪いけどなっち、弟子とかとる気ないから」
冷たく突き放しても、あんたは首を横に振り続けた。
走って逃げても、あんたは一緒に走って追いかけてきた。
躓いても、泣くのを堪えて、どこまでもどこまでも…
「強くなりたいのなら他にいくらでも方法はあるでしょ?」
ある日、私は言ったよね。そしたらあんたはこう答えた。
「なっちさんらなきゃ駄目なのれす」
私じゃなきゃ?アハハ、あいつは何か勘違いしている。神様でも見る様な眼で私を見てる。
なっちはそんなもんじゃない。自分のことしか考えてない汚い人間だよ。
どうやって後藤真希に借りを返すか?どうやってチャンピオンに戻るか?
考えてるのは、そんなことばっかりだ。
なのにあいつは諦めなかった。私の元を離れようとしなかった。
そして強くなった。後藤真希に勝ってしまう程に。私を脅かす程に。
邪魔だ。邪魔だよ。辻希美。
なんにもなかったののに、勇気と夢をくれたのは貴方れした。
『安倍なつみダウーーーン!!立ち上がった!!また立ち上がったぁーーー!!!』
あのときの映像は、今もまだ鮮明に瞼に焼き付いているよ。
金色の髪をなびかせ、天使の様に圧倒的な存在感の後藤さんに、立ち向かってゆく姿。
貴方が教えてくれました。力は暴力じゃない。時にそれは人を勇気付ける。
なっちさんの強さは、国境を越える歌みたいに、みんなに響き渡る。
ののもそうなりたかった。
強くなって、ののを見ている子供達に勇気をあげたかった。
だからののは貴方の元へ行った。あなたの様になりたかったから。
でも今は違う。
(今のなっちさんはののが好きだったなっちさんらない)
今の貴方が人に与えているものは恐怖。力は暴力でしかない。
ののがあなたを止めます。
それが、あなたに勇気と強さをもらった者としての義務れす。
ののがなっちさんを倒します。
決勝の舞台へと向かおうと腰を上げたなっちの前に、一人の女が立ちはだかる。
その女は全身を包帯で覆われていた。たった今医務室を抜け出てきた様な雰囲気だ。
「…」
なっちはその女を無言で睨み付けた。
「ごめん。負けた」
「…」
「でも悔いはない。私じゃ多分あんたを止められないから」
「…」
「辻は強いよ。あの子ならできるかもしれな…」
「…どけ、負け犬」
なっちは入り口に立つ真希を強引に押し倒した。そのまま無言で去って行く。
安倍と後藤。二人はすでに勝敗を決していた。前回の大会の後、人知れず闘っていたのだ。
そのときの結果、そして今日の結果が、なっちの言葉にそのまま反映されている。
(辻。なっちは私より強いぞ)
真希は、暗い廊下を一人歩くなっちの背中をいつまでも見続けていた。
ずいぶん距離があるにも関わらず響く、殺気で胸が詰まりそうになりながら…
伸びた髪を上部で一つに束ねる。ポニーテルが小刻みに揺れた。
(ついこないだまで、まだまだお子ちゃまだと思ってたんだけどな)
ここの所めっきり大人っぽくなってきている辻を、複雑な面持ちで見下ろす飯田。
辻はそれ以上のスピードで、どんどんどんどん強さに磨きを掛けている。
福田戦、加護戦、後藤戦。それこそ一試合ごとにである。
TAPの道場に殴り込みに来たあの頃が懐かしく感じる。
辻がどこか遠くの世界へいってしまうようで、寂しくなった。
「ほえ?ろうしたの?」
そういって顔を覗き込むおチビちゃんは、まだあどけないいつもの辻だった。
「何でもない。勝ってこい!」
「うん!」
飯田は辻の背中を押して送り出した。その手が離れたとき、なぜか胸がチクリと痛んだ。
もう今の辻希美が帰ってこない様な…そんな気がしたのだ。
辻希美は駆け出していた。あの人の待つ場所へと、まっすぐに。