モームス最大トーナメント

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904辻希美−加護亜依 H
遠い世界で光り輝いていたヒーロー。ののにとっては憧れの存在でしかなかった。
いつからだろう、それが手に届く様になったのは?
泣き虫で臆病で怖がりだけど…でも、ののはそんなヒーローになりたい。
NON STOP!

加護は目を疑った。確かに切った。確かに破壊したはずなのだ。
けれど血が止まっている。傷がふさがろうとしている。そんなのありえない。
頚動脈を切り、左足を破壊し、胸を切裂いた。しかし目の前の娘は生きている。
それどころか再び立ち上がろうとしている。超肉体が傷を塞ぎ込んでいる。
辻希美が再び立ち上がる。加護亜依の眼前に並び立つ。
真の怪物が真の怪物を呼び覚ましてしまったのだ。
(せやった…)
加護亜依の目の前で辻希美が微笑んだ。
(せやったから、うちはののが…)
辻の拳が加護の頬を叩く。破壊の神をも唸らせるであろう破壊力。完璧な一撃。
(…ののが好っきゃねん)
加護は意識を失う。音を立てて崩れ落ちた。
905辻希美−加護亜依 I:02/12/18 01:35 ID:A8j+MSzg
それは辻にとって最後の力だった。もう動くこともできなかった。
少しでも動けば塞ぎ込んだ傷がずれ、再び大出血が吹き荒れることとなるだろう。
(立つな!立つな!立つな!)
(立って!あいぼん!)
矛盾しているのは理解っている。しかし辻の脳裏にそんな二つの想いが巡るのだ。
あいぼんに勝ちたい!でももっとあいぼんと闘いたい!二つの気持ちはどちらも嘘でない。
常識で考えれば、辻のパンチを二回もまともに受けて、立ち上がれるはずがないのだ。
しかし今辻が相手にしているのは他の誰でもない。加護亜依なのだ。
最高の友で、最高の相棒で、最高の敵である加護亜依なのだ。彼女は立つ。
もう意識はないはずであった。ピクリ、指が動く。手が動く。足が動く。体が動く。
その顔に意識は見て取れない。それでも加護亜依は立ち上がった。
足を引き摺り、ゆっくりとゆっくりと辻希美に近づいて行く。
もっとののと闘いたい!その気持ちがだけが彼女を動かしたのだ。
(ごめんね、ののにはもう動く力はないよ…)
加護が辻の前に戻って来た。しかしその後の攻撃はなかった。彼女は静かに崩れ落ちた。
自らの胸に頭を預ける少女を、辻はそっと抱き留めた。紅い血が舞う。
(あいぼんの勝ちれす)
906ベスト4決定:02/12/18 01:37 ID:A8j+MSzg
「勝負ありぃぃぃぃぃ!!!勝者!!辻希美!!!」
突然血が止まる。不思議に思った辻が、抱きしめた加護の顔を覗き込む。
彼女は意識を失い眠ったままであった。しかし偶然にも彼女の手が辻の傷口を塞いでいた。
遠くから見る人々には、二人が抱き合っている様に見えたという。
辻は加護を抱きしめたまま退場していった。
辻が動けるのは加護のお陰だった。そのことは誰も気付かない。
試合の結果だけが皆の記憶に残るのである。本当の勝者を知るのはたった一人だけ。
(もう絶対に負けないよ)
小さなヒーローはその腕の中で眠るヒーローに微笑みかけた。

死闘が終わりを告げる。そして、あの三人が再び動き出す。
退場していく弟子の背を、安倍なつみは冷ややかな眼で見送っていた。
やがてかぶりを振ってその場を離れる。その表情に特に変化はない。
矢口真里は走っていた。体中が熱く熱く燃え上がっていた。もう抑え切れない。
自然と笑みがこぼれてくる。安倍!後藤!辻!みんな強え!最高!全員ぶっ倒す!
静寂に包まれた控え室にて、横になり眠っていた後藤真希がその眼を開く。
遠くから聞こえる歓声にて敵の名を確かめると、孤高の王者は再び眠りについた。