モームス最大トーナメント

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838紺野あさ美−安倍なつみ B
(私は完璧なんだ!誰にも負けないんだ!)
開始早々紺野が猛る。研ぎ澄まされた空手の技を駆使し、なっちを攻め立てる。
だがなっちはまったく焦ることなく、その一つ一つを冷静に観察し捌く。
「もう一度言う。十年早い」
絶妙のタイミングで繰り出されるなっちのカウンターに、紺野は反応すらできない。
あの紺野が、まったく成す術なく吹き飛ばされる。そして気付く。
(口だけじゃない、この人は本当に強い、強すぎる…)
無言で自分を見下ろす安倍に、紺野は畏怖の念すら抱き出していた。
(でも負けない、私にはこれが…これがある!)
紺野が再び構える。もはやおなじみとなったあの構え。出るか神の拳!?
「馬鹿の一つ覚えね」
「五月蝿い!私は絶対に負けないんだぁ!」
紺野の右手が光る。何よりも強く何よりも早い、武の究極地。
バシィィ!
その右手がなっちの左手に受け止められる。神の拳が止められた!?
「真希にできて、なっちにできない理由がどこにある?」
次の瞬間、なっちの右腕が紺野の顎をとらえた。紺野は地べたに崩れ落ちた。
839紺野あさ美−安倍なつみ C:02/11/11 12:06 ID:X5EYoKWj
(ようやくわかった。あの言葉の意味…今の私が去年の私より弱くなったという理由)
(私は頂点に立って勝利にこだわる様になってしまった。チャンピオンだからと…)
(あの頃の…吉澤さんと戦ったときの様な馬鹿さがなくなっていたんだ)
(勝利に捕らわれ過ぎて…闘いを楽しむ、そんな単純なことを忘れていたんだ)
(戻れるかな?私はまだあの頃に…戻れるかなぁ?)
ダウンを奪われた紺野がフラフラと立ち上がってきた。
勝利を確信しフェンス際に戻りかけていたなっちが、少し驚いて振り返る。
「へえ、まだ立てたの」
「立てますし、戦えます。まだ貴方と戦いたいんです!」
(目の色が変わった。澄んだキレイな目…)
「いいよ、やろう」
紺野のまっすぐな想いを安倍は正面から受ける。二人は再び打ち合う。
紺野は己の全てを安倍にぶつけた。それは神の力ではない、紺野あさ美の力。
(見直した、あんたは立派な闘士だ。もう十年早いなんて言わないよ、紺野あさ美)
だが全てをぶつけた上で安倍なつみはさらにその一歩上をいっていた。
『勝負ありいいいい!!勝者!安倍なつみ!!!』
文句のつけようがない、気持ちいいくらいの完全なる敗北だった。
仰向けに寝転がる紺野に、退場する勝者がハナムケの言葉を贈る。
「まだ、五年早い」
840矢口真里−浜崎あゆみ @:02/11/11 12:07 ID:X5EYoKWj
「相手は超特大級の怪物だよ、どんな気分?」
矢口真里の控え室扉を叩いたのは、たった今試合を終えたばかりのなっちだった。
なっちは先ほど自分がされたお返しとばかりに、同じ台詞で訪れたのだった。
「ちぇ、うるさいなー。自分は勝ったからって…」
矢口真里の体が小刻みに震えている様に見えた。知っているのだ、あの怪物の凄さを。
「なあに?ビビってるの?天下のグラップラー真里ともあろう人が」
カチンときた。そんなこと言われて黙っていられる娘ではない。
「誰がビビってるって!?上等だっつーの。やってやろうじゃん怪物退治!」
震えが消えた。火の玉娘はその勢いのまま控え室を飛び出した。
(おいらの名前を知ってっか、怖いものなし矢口真里だぜ!)
(浜崎なんか物真似してやるっつーの、あゆで〜す。)
大歓声とライトの明かりが近づいてきた。
そこで入り口手前に誰かいることに気付いた。藤本美貴であった。
その手に安物の位牌…松浦亜弥と手書きで書かれている。
ドクン!
表現し難い感情のうねりが矢口の全身に荒れ狂う。そうだ、これは只の試合ではない。
「死なないで下さい」
藤本の言葉も、もう矢口の耳には届いていなかった。
841矢口真里−浜崎あゆみ A:02/11/11 12:08 ID:X5EYoKWj
お面の女は観覧席の隅で眺めていた。あゆの眼にはそのお面しか写っていなかった。
『二回戦第二試合!はじめぃ!!』
「悪いけど、あんたなんて眼中にないの、秒殺でいい?……!?」
気が付くと、本当に浜崎の眼中に矢口真里の姿がなくなっていた。
辺りを見渡すあゆ。対戦相手がどこにもいない。
「いいぜ」
後ろから声がした。小さすぎて見逃した…なんていい訳にならない。
バゴオオッ!!!
強烈なオーバーヘッドキックがあゆの後頭部を蹴り落とす。
あゆが地面に落ちるよりも速く矢口は着地し、さらにあゆの顔面を蹴り上げる。
常識を超えた運動能力と反射神経…
止まらない。矢口真里が止まらない。あゆに反撃の芽を与えない。いける!
対松浦戦で右腕を奪われた浜崎、だがこの程度のレベルなら左腕一本で充分とふんでいた。
――――――その考えは今も変わっていない
この怪物に反撃の芽など必要ない、芽がなければそこに花を植えればよい。
常識を超えた運動能力と反射神経…その遥か上をゆく動き。左手のネイルが牙を剥く。
ザンッ!!
無情に響き渡る音。浜崎の左手が矢口の胸を貫いた。