モームス最大トーナメント一回戦もいよいよ残り一試合を残すのみとなった。
熱戦が続く中、闘技場の裏ではつんくを始めとした大会運営委員達が頭を抱えていた。
その問題とは「リザーバー不在」である。
先の石川吉澤戦が引き分けとなり、後藤の二回戦の相手が不在となったのだ。
「どないする、もう時間もないで」
「今から募集してみましょうか、我こそはという猛者を飛び入りで」
「相手はあの後藤真希やで。その辺のしょぼい奴が来てつまらん闘いなんか見とうない」
「ですが他に当てはないですし…」
「どうする…?」
いくら言い合っても答えは見つからない。誰もが頭を抱え込んだそのとき。
コンコンコン。
突然のノックに頭を上げる一同。
扉を開けるとそこに、フードで顔を隠した一人の娘が立っていた。
「誰やお前?」
つんくが尋ねると、娘はフードをまくり上げ名乗った。
「あや…うえとあや。」
長かった一回戦、いよいよ最後の二人が登場する。
辻が退場してからずっと、会場は「あいぼんコール」で埋め尽くされていた。
誰もが期待しているのだ。この試合で加護が勝てば、夢の辻加護決戦が実現すること。
「あーあ、こりゃあ完全にヒールだな。」
首を捻りながらあみは苦笑いを浮かべた。
「まあ俺らしいか…」
アミーゴはゆっくりとその敵地へと歩を進めた。
一方、加護の前にはあの娘がいた。
「まけちゃダメれすよ」
「誰に口聞いとんのや、のの」
「ののがいちばんたたかいたいあいてに…れす」
「人の心配する暇あったら自分の心配しとれボケ!次に当るのはこの加護亜依やで」
そう言い放って加護は歩み出す。永遠のライバルの前に立つ為に。
「はじめぃ!」
幕は下ろされた。天才物真似士と未知の闘士のバトル。
加護は、目の前に立つヤン…鈴木あみという女を値踏みした。
あみは空手っぽい構えをとっている。だがどこかに違和感を感じる。
(けっこういいガタイしとんなぁ…どんな技使うんやろ?)
(まあ、どんな技でもうちがもろたるけどな)
と加護が思考を巡らせている中、先手をとったのはあみの方だった。
右の正拳突き。
加護はそれを余裕で躱し、そのまま後ろへ回り込んだ。
(遅っ!)
足を絡めて前のめりに倒す。器用な加護にとっては寝技もお手の物。
(やりたい放題やん、こいつもしかして…)
マウントポジション。加護は完全にあみの上に乗った
下からの反撃は不可能とも言われるこの状況、加護の圧倒的優位。
(もしかして…めっちゃ弱いんとちゃう?)
殴る。殴る。加護は上からあみを殴り続ける。あみにはガードしかできない。
「もうええやろ、ギブアップせいや。こっから反撃できんことくらい分かるやろ」
ところが、あみからの返事は加護の予想とは逆のものだった。
「わかんねえ」
するとあみはガードを解き、二本の腕を加護の腰に回した。
次の瞬間加護の体が浮いた。あみは腕の力だけで加護を持ち上げたのだ。
さらに持ち上げたまま、あみは立ち上がった。
「軽いな」
あみは加護をフェンスにぶん投げた。フェンスに叩き付けられた衝撃で一瞬息がむせる。
顔を上げるとあみの拳が物凄い勢いで迫っていた。
ドゴオオオオオオオオオオン!!!
加護は前に転がりかろうしてその一撃を避ける。
さっきまで加護のいた場所。フェンスに穴が開いていた。
技術も無い。戦術も知らない。パワー、純粋なる圧倒的パワー。
それがこの鈴木あみという女の全てだったのだ。
(…ったくなんやこのデタラメな力は。胸くそ悪いでほんま)
(こいつ闘い方、まるでののやんか)