モームス最大トーナメント

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780吉澤ひとみ−石川梨華 A
「めずらしいね、あんたがわざわざ他人の試合を見に来るなんてさ」
「んあ〜そんなことないよー。いちーちゃんのいじわる」
「さすがにこの試合だけは見逃せぬか。それはあちらさんも同じの様じゃ」
右サイドに陣取るプッチの面々、市井紗耶香、後藤真希、保田圭。
そして左サイドに陣取るTAP会館の顔ぶれ、矢口真里、加護亜依、飯田圭織。
「あーもう、おいらの方が緊張してきた。じっとしてらんねー!」
「矢口さん乱入したらあかんで、大事な試合なんやから」
「二人共おちけつ。ほら始まるぞ。」
(あんたがおちつけ)(飯田さんが一番緊張しとる)
矢口と加護が心の中でつっこむ中、いよいよ幕は上がる。
『受け継がれる伝説の称号、新プッチリーダー、吉澤ひとみ!!』
『蒲公英の未来は彼女の肩に託された、TAP新館長、石川梨華!!』
大歓声の中、吉澤ひとみと石川梨華は同時に入場してきた。
湧き起こるひとみコールとチャーミーコール。
応援歌である「ベビ恋」と「恋しちゃ」の大合唱。
壮観な景色、会場が真っ二つに別れた。
さぁ、プッチ対TAP。吉澤ひとみ対石川梨華の始まりだ。
781吉澤ひとみ−石川梨華 B:02/10/08 11:20 ID:IXiENGGZ
二人は中央に歩み寄り握手を組み交わす。そして誰にも聞こえない声でささやきあった。
「手加減したら怒るよ、よっすぃー」
「じゃあしよっかな、梨華ちゃん怒らせたいから」
「馬鹿、もう怒った、許さないからね」
「ニヒヒ、怖い怖い」
「エヘヘ〜」
「勝った方がごっちんとだ」
「うん、恨みっこなしね」
「当然」
手と手が離れる、この瞬間から二人はもう親友でもなんでもない。
倒さなければいけない敵と敵だ。
吉澤ひとみも石川梨華も、後藤真希を倒すことがずっと追い続けてきた夢だった。
そして後藤が引退を宣言したこの大会が、そのラストチャンスなのである。
そのチャンスを与えられるのはどちらか一人のみ。
「はじめぃ!!」
開始の合図、ゴングが鳴る。
後藤真希の前に立つのはどっちだ!?
782吉澤ひとみ−石川梨華 C:02/10/08 11:21 ID:IXiENGGZ
最初の攻防、積極的に前へ出るのは吉澤ひとみ。ジャブを中心に果敢に攻めたてる。
石川はそれを冷静に見極める。カウンターを狙っているのだ。
この状況がしばらく続くのかと思われたが、吉澤がそれを止めた。
腕をブランとさせて笑う。ノーガード。誘っている、明らかに誘っている。
その誘いに逃げる訳にはいかない。当然、石川は乗る。
光速のワンツーブローを吉澤のテンプルに打ち込む。
だが吉澤は倒れない、それどころかさらに前へと踏み込んで行く。
打ち込んだ拳ごと石川は後ろへと押され、体勢が崩される。そこに大鎌が振り下りる。
ジャイアントロシアンフック。物凄い打撃音がガードの上から石川を叩き潰す。
『ダウン!石川ダウーン!!』
驚異的タフネスとパワーを兼ね備える吉澤だからできる戦術。肉を切らせて肉を絶つ!
流れを掴んだのは完全に吉澤であった。息も付かせず吉澤はさらに石川に迫る。
試合は決まっていただろう。一年前の石川梨華だったならば…
「―――――?」
倒れ込んでいたはずの石川が、突然吉澤の視界から消えた。
この一年で石川は「打たれ弱さ」という弱点を克服してきた。
あの矢口等を相手に散々突っ込まれ、「打たれ強い石川」を作り上げてきたのだ。
吉澤の懐に石川はいた。気が付いた時にはもう遅い。超スピード。
チャーミー流拳法第一奥義「ハッピー」発動
783吉澤ひとみ−石川梨華 D:02/10/08 11:22 ID:IXiENGGZ
みぞおちに完全に入った。吉澤の体が宙を舞う。その勢いのままフェンスに激突する。
『ダウン!吉澤ダウーン!!』
この圧倒的スピードと多彩な技が石川の持ち味である。
だが砂煙の中、吉澤は普通にムクリと立ち上がった。平然とした表情。
逆に顔をしかめていたのは石川だった。攻撃した手が痺れている。
(重い…予想以上に…)
この一年で成長したのは石川だけではない。吉澤は横に成長していた(泣)
共にダウン一つずつ。再び向かい合う二人、吉澤のパンチとキックの応酬。
これだけ動いているのに、吉澤はまだ息も切らしていない。
生まれ持った驚異的体力と身体能力。石川はそれを自慢のスピードとテクニックで躱す。
(くそっ、追いつかない)
だが平然とした顔の裏で吉澤も焦っていた。動きのキレで完全に負けているからだ。
まともに当ったのは最初の一発だけ、それも身を犠牲にして放ったもの。
石川のことだ。もうあんな挑発には乗ってこないだろう。
(どうすれば…どうすれば?)
「――!」
考え事をしていたせいか、再び石川を見失ってしまった。
慌てて辺りを見渡す。そのとき、後ろから今まで以上の闘気を感じる。
(しまった!)
784吉澤ひとみ−石川梨華 E:02/10/08 11:28 ID:IXiENGGZ
恐怖のチャーミー流拳法最終奥義ふたたび。
「はぁーぼいんっぼいんっぼいんっ!!」
背中に後頭部に、打ち込まれる何十発という猛チャージ。
いかに吉澤といえどこれには耐え切れない。なんとか振り返って回避したい。
だができない。石川の乱舞が動く自由を与えてくれない。
これだけは、これだけはもらってはいけなかった。しかも後ろをとられるとは…
「りっかでっす!りっかっですう!うっひょー!うっひょー!」
全身に渡るダメージ、吉澤の意識は徐々に遠のいてゆく。もう駄目か…
吉澤は倒れる。先程のダウンとは明らかに異なる。立ち上がれない倒れ方。
その途中、視線の先に観客席が見えた。あの三人がいた。
(私が負けるってことは、プッチが負けるってこと?)
(プッチが負けるってことは、あの三人が負けるってこと?)
(かっこわりーひとみ、こんなんで終ったらかっこ悪すぎる!)
ダンッ!足を地面に打ち付けふんばった。吉澤ひとみの眼が変わった。
(思い出した。本物の、かっけーよっすぃー、てやつ)
ゾクッ。石川の背筋に冷たいものが走った。獰猛な肉食獣に睨まれた感覚。
昨年、紺野あさ美が解き放った鎖を、今石川梨華も断ち切ったのだ。
吉澤がこちらを見た。それはもう石川の知る吉澤の眼ではなかった。
785吉澤ひとみ−石川梨華 F:02/10/08 11:29 ID:IXiENGGZ
破壊力、技のキレ、スピード、全てが規格外。人間の領域の限界レベル。
(これが、これがよっすぃー!?)
石川は倒された。強すぎた。立ち上がっても倒された。理解を超えた強さだった。
(もう力が入らない。)
(私じゃどうあがいても勝てっこないよ)
(ギブアップて言おう。負けましたって言おう。そうすれば楽になるよね)
ドスン。猛獣のとどめの一撃が石川の胸を打ちぬいた。為す術なく崩れ落ちる。
たった一本残された蒲公英の、最後のハナビラが散った…?
「立てっ!」
その声はどこから聞こえた。
飯田が振り返る。矢口が振り返る。加護も振り返る。石川の眼にも写った。
その声の主はボロボロの体で立っていた。飯田がその名を呼ぶ。
「彩…」
そこに現れたのは絶対安静のはず、「早咲きの蒲公英」石黒彩であった。
「最後まで咲き続ける。それがTAPだろ」
気が付くと、観客席は黄色いライトで包まれていた。まるで花畑の様に…。
「タンポポがいっぱい」
TAPの娘達の眼に、涙が零れる。
トクン…。石川の心臓にそれまでとは異なる鼓動が芽生えた。