浜崎は多彩な技の数々で、息付く暇なく松浦を攻め立ててゆく。
もう何発、何十発受けた?百万クラスの技をどれだけ受けた?
ケタ違いすぎる浜崎あゆみという女の実力。あの松浦亜弥が、まるで手出しできない。
それでもまだあややの眼は死んでいない。ボロボロにながらそれでも引かない。
「まだレベルの違い、わかんないの?物分かりの悪いガキね〜」
「ハアハア…負けない。死んでも負けない…」
「じゃあ死ね」
浜崎あゆみ最大の奥義「A」が放たれる。四方向からの同時攻撃。
あややはそれを避けようとはしなかった。狙っていたのはたった一つ。
三方向からの打撃をまともに受ける。だが最後の力を振り絞り浜崎の腕を一本掴み取った。
「道連れ♪」
真っ紅に染まったあややの顔に最期の笑み。このとき浜崎は生まれて初めて恐怖を知る。
あゆの右腕が逆方向に折れた。会場に甲高い悲鳴が鳴り響く。
その声を確認したあややは、そのまま静かに目を閉じた。蝋燭の灯が落ちる。
最期の最期まで引かない。
あややの美学。
桃色の死神、松浦亜弥散る。生き残ったのは片腕を奪い去られた浜崎あゆみであった。
すぐさま担架にて医務室へ運ばれて行く松浦亜弥。
だが、もう遅い。誰の目から見ても手後れ。
あの浜崎の殺人メニューをどれだけもらったと思う。
その鼓動は永遠に戻らない。
「ウソだろ。どうせいつもみたいに演技でしたって起きるんだろ。なぁ起きろよ!」
松浦亜弥の盟友、藤本美貴が取り乱しながら叫ぶ。
それでも返事は返ってこない。死んだんだ。あややは殺されたんだ。
試合中の死は事故として扱われる。浜崎が直接その罪を問われることはない。
(まあ待っていて下さい。今年はちゃんと普通に殺してあげますから。)
矢口の脳裏には、最期に松浦と交わした会話が浮かんでいた。
「おいらを殺すんじゃなかったのかよ、勝手に死ぬんじゃねえよ」
矢口真里は泣いていた。大嫌いで、死ぬ程ムカツいてた奴の死を嘆いた。
(許せない、あいつ、絶対に許さない!浜崎あゆみ!)
藤本美貴は見た。
怒りに打ち震える矢口の背に、ミニモちゃんの顔が浮かび上がったこと。
二回戦第二試合は矢口真里vs浜崎あゆみに決まった。
一回戦も半分の試合が終った。
全ての試合が熱く、全ての試合が名勝負であった。
そして一回戦後半四試合が始まる。衝撃的な幕開けと共に…
ソニンが意識を取り戻したとき、目の前には相手の靴があった。
(何これ?倒れている?私が?どうして?)
記憶が抜けていた。ソニンは試合開始のゴングすら覚えていなかった。
(冗談じゃないわよ、ここに来る為に私がどれだけの努力をしたと思う)
(立たなきゃ、終ってたまるもんか、立つんだ!)
だが足腰に力が入らない。どれだけ力を込めても起き上がることができない。
泣き出したくなる気持ちを抑え、ソニンは上を見上げた。
見下ろしていた。後藤真希という女が自分を見下ろしていた。
どれほどの屈辱。何もできない自分にソニンはいつしか涙していた。
それでも立ち上がることができなかった。
「勝者!!!後藤真希いいいぃぃぃぃ!!!」
試合開始一秒と経たぬ間のダウン、そしてそれでおしまい。
ソニンの闘いは脆くも終幕を迎える。
強すぎる女はここにもいた。後藤真希、二回戦進出。
「やっぱ、ごっちんは凄えや」
吉澤ひとみは控え室のモニターでその秒殺劇を観戦していた。そして次は自分の出番。
「ファイト!」
「必勝っすよ吉澤先輩!」
新門下生のアヤカと小川が吉澤の背中を押す。嫌が追うにも気合が入る。
(こりゃあ何がなんでも負けられなんないなぁ)
新プッチの旗の下、吉澤ひとみ出陣す!
「ほら、梨華ちゃん。リラックスリラックス」
柴田あゆみに肩を揉まれ、石川の緊張が少しだけほぐれた。
「TAPの名に賭けて、プッチにだけは絶対負けねえで下さいよ」
しかし新垣の激により、再びプレッシャーが石川を襲う。
(もし負けたら、飯田さんや矢口さんに合わす顔がないよ〜)
時間が来た。もう闘技場へ向かわなければいけない。
扉を開けると、廊下には紺野が待っていた。現役王者の紺野あさ美だ。
「吉澤さんは強いです。でも、石川さんも強いです。完璧です。」
不器用な紺野なりの励まし。それが石川の口元に笑みが浮かばせる。緊張が取れた。
新TAPは負けない。石川梨華、いざ決戦の舞台へ!