モームス最大トーナメント

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595辻っ子のお豆さん
 泣き叫ぶ石川の上に無造作に腰を下ろし完全に相手の自由を奪う。マウントポジション、
藤本ほどの実力者にこの体勢を奪われたとき、逆転の可能性は皆無と言って良い。両手で
首を握り締める。石川も抵抗するがパワーも圧倒的に相手が上、外す事ができない。
「クスクス…」
(目の前が真っ暗、このまま殺されちゃうの…そんなの悲しすぎる。)
(タスケテ、誰か、助けて)
(よっすぃー!)
「梨華ちゃん!!!!」
けたたましく扉を叩く音、吉澤ひとみの声、来てくれた。
「どうしたのー!梨華ちゃん!!開けてよ!!」
だが無情にも唯一の入り口、その鉄製の扉には10cm程の厚さの閂が敷いてある。
「大丈夫だよ梨華君、ここには来れない、邪魔は入らないから。」
ドゴォォォォォンッ!!!!
扉をぶっ叩く轟音。まさか、まさかこの扉を拳で破壊する気か!?
「アハハハ、無理に決まってる。馬鹿じゃないの?」
ミシッ…
扉にヒビ、さらにもう一発、今度は閂に割れ目が生じる。
ドゴォォォォォンッ!!!!
真っ暗な部屋に一筋の明かりが差した。
596辻っ子のお豆さん:02/07/06 12:10 ID:RLd+7L9Q
 ついにその部屋に入ることができた吉澤ひとみの眼に入ったもの。泣きじゃくる石川梨
華の上に乗り、その細い首を絞めるあげる見た事もない女。吉澤のスイッチを入れるには
十分すぎる光景だった。扉を破壊する為にボロボロになった拳を振り上げ突進する。咄嗟
に立ち上がり迎え撃つ藤本。
「バーカ、一回戦敗退のお前ごときにやられるボクじゃ……」
 その科白が最後まで言葉になることはなかった。吉澤の拳が藤本の頬をまともに打ち抜
いたからだ。藤本が一回転しながら壁際まで吹き飛ばされる。
(なんだこいつ…なんてスピード、なんてパワー。)
(どうしてこんな奴が一回戦で消えたんだ?)
止まらない吉澤、ボディ目掛けて空を斬り裂くアッパーを発射させる。
(かかった!さぁ来い、お前も高圧電流の餌食だ!)
ズドォォォォォォンッッ!!!
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
声にならない悲鳴。防弾ベストにポッカリ空いた拳大の穴。常識外の破壊力。
バチバチバチ…行き場を失った電流がショートする。藤本の体を青白い火花が包んだ。
「うわあああああああああああああ!!!!」
自らの護身防具により自滅する形となった藤本、完全なる敗北を知った。
あれは一回戦だけど一回戦じゃないんだよ。
597辻っ子のお豆さん:02/07/06 12:11 ID:RLd+7L9Q
「梨華ちゃん大丈夫?」
心配そうに石川に駆け寄る吉澤。
「うん。へっちゃら。」
本当はすごくつらかったんだけど、石川は嬉しくて嬉しくて嘘ついた。
「そっか。」
一安心した吉澤も、笑顔をみせた。
(バカ、ウソだよよっすぃー。ほんとは怖くて怖くて仕方なかったんだから。)
(でも来てくれてほんとに嬉しい、チャーミーハッピー!)
「ね、よっす…」
顔をあげた石川の前には、すでに人影はなかった。
「あれ?」

決勝戦、後藤真希対紺野あさ美。
「ハァハァ、良かった。間に合った。」
大急ぎで試合会場へと駆け戻って来た吉澤は、まだ決着がついていない所を見て安堵した。
この闘いだけは見逃す訳にはいかない。吉澤にとって因縁深い二人。
この手で振り向かせたかったあいつと、その夢を打ち砕き託したあいつの闘い。
「勝てよ!」
それは両者に贈る言葉。
598辻っ子のお豆さん:02/07/06 12:12 ID:RLd+7L9Q
 もう10分以上になるだろうか、未だ二人は一歩も動いていない。あれからずっと膠着
状態が続いている。動かないのではない、動けないのだ。それぞれ辻、松浦との闘いによ
り、すでに満身創痍の状態にある。一挙手一投足が勝敗を左右することに成りかねない。
「ゴクッ…」
 誰かが息を飲んだ。誰もがこの闘いの結末を、片時も目を離さずに待っている。たった
一人の栄光が決まる瞬間を待ち望んでいる。
(もう…もう…)
傍目には対等に見える二人、だがその内面には大きな差が生まれていた。
プレッシャー。
 大舞台を幾度も経験する後藤真希とは異なり、紺野あさ美にとってこの重圧は想像を絶
するものであった。最強の王者を前にして一歩も引けないという状況に、もはや紺野の精
神は限界に近づいていた。
(もう…待てない)
紺野が動く。全身全霊を込めた一撃。
(届け…届け!)
その瞬間、紺野の脳裏に過去の映像がフラッシュバックしてきた。
それは3年前、後藤真希との出会いの日のこと。

To be continued